著者
堀田 龍也 清水 康敬 中山 実
出版者
独立行政法人メディア教育開発センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,教員それぞれのICT活用指導力に応じた研修を実現するために,学校現場の教員のICT活用指導力の現実性に着目し,特にICT活用初心者に対するコンサルテーションを開発し検証することを目的とした.いくつかの調査結果をもとに,ICT活用実践に対するコンサルテーションシステムを検討した.学校現場へのICT活用の普及の現状から考え,Web上のシステムとして公開することよりも,出版物として世にアピールする方が所与の目的に寄与すると判断し,研究成果を出版物にまとめた.また,研究の経緯や成果については,国内外の学会で積極的に報告した.
著者
堀田 龍也
出版者
玉川大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究では,初等中等教育の学校の情報化を先進諸国並に推進するために,国が示した教育の情報化の目標を都道府県や市区町村の地方自治体が達成するために必要な「組織的コンサルティング機能」を運用する体制の開発を目指した。英国のBECTA,韓国のKERISでは,(1) 政策解説支援機能:国が示した目標等の政策をわかりやすく解説する機能,(2) 要因調査支援機能:阻害要因を調査し,目標達成のための重点を明らかにする機能,(3) 実施手順支援機能:下位目標に分解し,目標達成のための手順として提示する機能,(4) 研修啓発支援機能:リーダーとなる者への研修・啓発を行う機能,(5) 年次運用支援機能:年次進行を意識した予算策定や人事配置等の運用モデルを開発する機能,(6) 中間評価支援機能:目標の中間的達成度を評価する機能を備えており,政権交代等によって再編を繰り返しながらも,教育の情報化の主導権を担う地方自治体を支援する安定的な基盤組織となっていた。上記の6つの機能が明らかになったことから,研究代表者および分担者の所属する独立行政法人メディア教育開発センター内に,日本版の組織的コンサルティング機能を持たせる体制を検討したが,同センターが独立行政法人として廃止されることとなり,この体制は実現させることができなかった。また,関連財団等も法人改革の最中であり,新機能を担うことは容易ではない状況であった。今後の我が国の体制としては,(1) 政策解説支援機能は国の広報機能として持つこと,(2) 要因調査支援機能は学会等の役割として持つこと,(3) 実施手順支援機能/(4) 研修啓発支援機能は研究者等が強くこれを意識して実践研究を進めること,(5) 年次運用支援機能/(6) 中間評価支援機能は各自治体が自律的に備えていくことが期待される。しかし根本的には,BECTAやKERISのような組織を持たない我が国の教育の情報化の推進は極めて困難であることが指摘された。
著者
吉田 英生 幸地 克憲 田川 雅敏 松永 正訓
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

小児悪性腫瘍に対しても極めて積極的な治療が行なわれるようになり、その治療成績は向上してきている。しかし、進行神経芽腫に代表される予後不良癌の治癒率はいまだ低く、新たな治療法の導入が不可欠である。今回、われわれは遺伝子治療の有効性につき基礎的検討を行なった。1)免疫遺伝子治療の検討:レトロウイルスベクターLXSNにサイトカイン遺伝子を組み込み、マウス神経芽腫細胞C1300に感染させ遺伝子導入を行いサイトカイン産生C1300細胞を得た。IL-2,GM-CSF産生C1300腫瘍細胞の接種は腫瘍の生着・増殖を認めなかった。腫瘍の生着を拒絶したマウスに親株を接種しても増殖を認めなかった。肝転移モデルにおいてもIL-2,GM-CSF産生腫瘍細胞は転移を抑制した。さらにIL-2,GM-CSF産生腫瘍細胞は先行接種増殖した親株細胞の増殖を抑制した。以上、腫瘍原性の抑制、腫瘍免疫の誘導、癌治療効果を確認した。2)自殺遺伝子治療の検討:進行神経芽腫に高発現するMidkine遺伝子をプロモーターとし、HSV-TK(ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)とGCV(ガンシクロビール)の組み合わせによる自殺遺伝子治療の検討を行った。MidkineをプロモーターとすることによりMidkineを高発現しているヒト神経芽腫細胞に特異的にHSV-TKを発現させGCVに対する感受性を高めることが確認された。以上、神経芽腫に対する免疫遺伝子治療、ならびに自殺遺伝子治療の抗腫瘍効果が明らかとなり臨床応用へ向け有用な基礎的結果が得られた。
著者
西 義郎 シャルマ スハヌ・ラム シュリクリシャン 武内 紹人 SUHANU Ram Sharma KRISHAN Shree
出版者
神戸市外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

まず本共同研究が、調査担当言語・方言に多少の変更はあったが、ほぼ予定通りに遂行され、予想を上回る成果を上げたことを強調しておきたい。このことは、なによりも、調査については、インド側研究分担者を主とし、Anthoropological Survey of India出身の臨地調査のベテランをその任に当てたことに負うものである。本共同研究は、1.ヒマチャル州(HP)のチベット語方言【武内(1方言)担当】及びウッタル州(UP)のチベット・ビルマ語系言語(TB)【シャルマ、シュリクリシャン(各1言語)担当】の調査と分析、2.当該地域のTB系言語の分布と社会言語学的調査(主に複数言語併用状況の調査)、3.UPのTB系言語の比較研究及び調査の総括(西担当)の3つの部分からなり、3の比較研究と総括以外は総て本年度中に完了し、3については、各調査担当者の報告及び論文が出揃った時点で西が行う計画であった。1については、武内・シャルマは予定より多くの言語・方言の資料を収集できた。武内はTot(Stod)とKhoksarの2方言を、シャルマはRongpo(Rangpa)語とByans語の2言語の調査を行った。当初、シャルマはRongpo語のみを、シュリクリシャンはByans語をそれぞれ調査する予定であったが、現地の実情に即して計画を変更し、シャルマがこの2言語を、シュリクリシャンはDarma語の調査を行い、各言語の音韻と年法構造の予備的調査・分析を終え、1000項目以上の語彙し200以上の文例を収録した。武内も、上記の2方言について、同様の分析と語彙の収録を終えている。このような質・量共に信頼度の高い資料が入手できたことで今後この地域のTB系言語の研究が大きく進展することになると言えよう。興味深い成果として、UPのTB系言語のいずれにも、一部の語彙に声調対立(高/低)が発見されたこと、逆に、HPのチベット語方言については、いずれも分節音素は、中央チベット語方言的変化を示しているにも拘らず、Khoksar方言には全く声調対立が認められず、Tot方言でも極めて限られた語彙にしか声調対立が認められないこと等を挙げることができる。ただし、この状況が声調喪属の結果なのか、声調発生の萌芽期を示唆するものかは今後の検討が必要である。2については、TB系言語・方言の分布状況は、西[1986、1990]が諸文献の記述から推定したものを確認する結度となったが、調査言語・方言はその分布の詳細が明らかにされた点が重要である。また、1909年刊のLinguistic Survey of Indiaに言及されたRangkas語が予想通りに既に死滅している事実が確認されたが、これ以外のUPのTB系言語はいずれは同じ運命を辿ることが予測され、早急に調査する必要がある。その意味で、今回のプロジェクトが単年度の予算しか認められなかったことは大変残念である。この地域は、TB系言語と並び、インド系のGarhwal語(UttakashiとChamoli)とKumaun語(Pithoragarh)が話されており、TB系言語を母語とする者は、いずれも母語とこのいずれかの言語の2言語使用者である。また、学齢期以降は、Hindi語を習得するので、これが高位言語として彼らの使用言語レパトリ-に加えられる。従って、TB系言語共同体には、基本的に3言語併用状況が認められることになることが明らかになった。今回の調査対象地域の言語は、ランカス語と同様に、いずれも近い将来死滅する可能性の高い言語である。その意味で今回の調査は時宜を得たものであった。この他にも、ヒマラヤ地域には、同じ様な状況に置かれたチベット・ビルマ系言語が数多くあり、早急に調査を行う必要がある。また、そのような調査を効果的に行うためには、チベット・ビルマ系言語を専門とし、臨地調査のベテランであるインド人学者と共同で行うことが肝要である。なお、以上の諸成果及び3つの総括と比較研究は、1992年度中に東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所刊Monumenta Serindicaシリ-ズ(英文)のモノグラフとしてまとめて発表する予定である。
著者
関口 恭毅
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

(1)数理モデル作成の前段階である実際問題の整理とその記述を支援するために、汎実体一関連モデル(GERM)なる新しい情報モデルと、これに基づく問題記述法を提案し、かつ、これをデータベース化する方式を確立した。新方式をインプリメントした事例データベースのプロトタイプシステムを開発してその有効性を検証した。また、GERMによる問題記述によれば、最適化問題ばかりでなくシミュレーションの対象となる問題の記述も可能なことを明かにした。(2)教理モデルを純粋に数学的なオブジェクトとして定義し、これと対応する問題定義を「結合条件」と呼ぶ情報によって結びつける、多対多の対応付けを可能にする技術を確立した。これにより数埋モデルの再利用が容易になり、かつ、問題定義に対応する数理モデルの作成を支援する事例データベースの開発が可能になった。これらを検証する事例データベースのプロトタイプシステムを開発した。本方式では、モデル/データ独立が実現している。(3)ユーザが作成する数理モデルである「ユーザ定義モデル」とソルバーが前提とする数埋モデルである「標準モデル」およびソルバーオプションを「結合情報」によって対応づけてソルバーを起動する方式を開発するとともに、問題の数値例を上記のプロトタイプシステムに組み込む方式を開発した。これによってモデル/ソルバー独立が実現され、既存ソルバーの再利用が容易になるので、無駄な開発努力を省くことができる。(4)事例データベースのプロトタイプシステムを開発した経験から、オブジェクト型を記述の基本要素とするGERMは、ユーザにとって、その記述内容を直感的に理解することは必ずしも容易ではないことが分かった。そこで、オブジェクト・インスタンスを記述することでオブジェクト型を定義できるユーザインターフェースを提案し、その実現方法を構成した。
著者
林田 伸一
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、フランス絶対王政の地方行政の末端を担った地方長官補佐(subdelegues des intendants)について検討することによって、近世フランスの権力構造の特質を明らかにすることにあった。フランス西部地方のアンジェの地方長官補佐をケース・スタディとしてとり上げ、従来制度的研究に傾いていたため検討がなされてこなかった地方長官補佐の実際の機能について、主として考察した。国王政府から広範な権限を委ねられながらも任地の事情に不案内であり、きわめて小さな下部組織しか備えていなかった地方長官は、任地の行政において在地の有力者である地方長官補佐の活動に依存するところが大きかった。その地方長官補佐の活動を網羅的に検討してみると、地方長官補佐は、王権の要求の実現のために動くと同時に、地方の必要を王権に伝えていることが明らかになった。すなわち、王権と地方的諸権力の間に立って、両者の利害を媒介する機能を担っていたとみられる。権力というものを近代国家的に、中央政府から発して地方に伝わっていくと考えるならば、地方長官補佐が在地の名望家であることは、マイナス要因として評価される。しかし、王権が地方にかなりの程度浸透して来ているとはいえ、まだ公権力が一元化されていない状況の中では、そして、中世的な代表制度も近代的な代表制度も欠如しているこの時代にあっては、地方長官補佐が名望家として二つの顔を持っていることは、王権の地方行政が動いていくうえで、逆に有効性をもっていたと考えられるのではないだろうか。
著者
藤井 眞理子 大塚 一路 高岡 慎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、短期から長期までを含む金利の期間構造全体の時間変動、すなわち、ある特定の時点における満期方向へのクロスセクションの動きとそれらの時間を通じたダイナミックな変動を3次元空間における一体的変動として把握し、記述するモデルを構築した。特に、近年のマクロ・ファイナンスのアプローチをも参考としてマクロ経済状況と期間構造の3次元的変動の関連を考慮したモデル構築を行った。準備として利付国債のデータからゼロイールドの時系列を求め、はじめにレジームの変化を想定したモデルによる分析を進めた。すなわち、アフィン期間構造モデルにレジームのマルコフスイッチングを考慮したモデルおよびより柔軟なランダム・レベルシフトのモデルを期間構造の時系列に適用した結果、一定の局面転換が統計的に検出され、それらがマクロ経済状況の変化ないし金融政策の転換等に対応していることが観察された。このため、マクロ経済変数との関係を明示的に考慮する期間構造の変動モデルを仮定して実証分析を進めた。まず、イールドカーブをNelson-Siegelモデルと呼ばれる関数で近似し、カーブを特徴付けるレベル、傾き、曲率という3要素の時間変化に影響を与えるマクロ変数について検証した。次に、この分析により適切と考えられるマクロ変数を用いてカーブの3要素と期間構造を状態空間モデルの枠組みを用いて同時にモデル化し、カルマンフィルタによる推定を行ってモデルを特定した。このモデルは、全体としてはイールドの3次元変動をよく近似できるが、過去の個別の局面を分析すると具体的なマクロ変数の選択には改善の余地もあることも分かった。なお、本研究では、仮想ポートフォリオを用いたカリブレーションなどについては十分に研究を進めるに至らず、今後の課題となった。
著者
釜江 廣志 皆木 健男
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

近年の国債先物の取引市場の効率性については、ボラティリティの非対称性の検証をすることも併せて、頻度の高いデータによって分析を行うと、取引に関する新たな情報として取引量とスプレッドが国債先物価格に影響を与えている。またボラティリティが高い状況や低い状況がそれぞれしばらく持続する。これらのことから市場の非効率性が存在していると判定することができた。
著者
中江 次郎
出版者
奥羽大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

研究目的:通常支配神経が絶たれる大胸筋皮弁や広背筋皮弁に神経移植を行った場合にも、従来行われてきた神経縫合や神経移植術と同様に、筋機能が回復するか否かを組織学的、組織化学的に検索する事を目的に研究を行った。実験方法:実験動物には日本白色ウサギを用い、大胸筋皮弁と広背筋皮弁を形成した後、その皮弁内に残存する神経支配をおよび筋線維の分化や萎縮、筋線維のタイプ変化を検索した。検索方法:大胸筋皮弁、広背筋皮弁部および皮弁周囲組織をそれぞれ摘出し、皮弁の外側部、中央部、血管側部の3つに分け、神経支配がどのようになっているかどうかH-E染色、Gomoriトリクローム染色、ATPase染色およびアセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色を行い検鏡し、大胸筋皮弁、広背筋皮弁の筋線維タイプ構成比率について検索した。また、移植部周囲の筋組織についても同様に検索を行った。結果:実験において、大胸筋皮弁、広背筋皮弁ともに、中央部、血管側部については筋肉の萎縮や異常な所見はなく、外側部には筋線維の萎縮が確認できた。また、移植部周囲の筋組織については、筋線維の萎縮が確認できた。ATPase染色においてタイプ2C線維の出現と筋線維の萎縮が確認できた。術後4週頃よりタイプ2C線維の減少とともにタイプ1線維や2線維が増加し、さらにAChE染色では神経筋接合部の活性が確認できた。
著者
小田垣 孝 松井 淳
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究の目的は、ガラス形成過程で見られる動的性質を統一的に理解し、ガラス化過程の本質を解明することにある。トラッピング拡散模型を発展させ、動的性質の総合的な理解、またそのモデルの基礎付けを行うこと、分子動力学シミュレーションによって、ガラス化過程における動的性質の変化を調べて、ガラス化過程の物理的理解を行うことを目指した。まずトラップされた運動およびジャンプ運動を考慮したトラッピング拡散模型の解析を行い、動的構造因子、一般化された感受率の温度依存性を求めた。主緩和時間が、Vogel-Fulcher則に従うことを示した。また、ノンガウシアニティーの温度依存性を求め、実験と定性的に一致する結果を得た。また、感受率の実部の対数に対してその虚部の対数をプロットするlog-コール・コールプロット法を開発した。二成分のソフトコア系の分子動力学シミュレーションを行い、動的構造因子、感受率の振動数依存性が、トラッピング拡散模型でよく再現されることを示すとともに、α-緩和の緩和時間がVogel-Fulcher則に従うこと、β-ピークはボソンピークと考えられること、速い過程が存在することを示した。格子点sを中心にした調和振動子を考え、さらに平衡位置sが二種類のストキャスティックな運動を行う理想3モードモデルを提案し、これらの運動が過冷却状態で見られる動的性質の特徴を再現することを示した。トラッピング拡散モデルの基礎付けを行い、活性化エネルギーが分布した活性化過程による緩和が、一般にトラッピングモデルで表されることを示し、持ち時間分布の各モーメントの発散から様々な特異温度を統一的に理解できることを示した。また、温度とエクセスエントロピーの積のガラス転移点における値からのずれが、適切なパラメーターであることを示した。
著者
釜江 廣志 秋森 弘 皆木 健男
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

明治から昭和戦前期までの国債・地方債・社債の各市場を取り上げ、とりわけ引受シ団(引受シンジケート)との関わりを中心にこれらの市場がどのように変遷してきたか、また、特に国債のうち戦前の甲号 5 分利債などの主要銘柄と戦後の国債の取引において市場の効率性が実現していたかを検証し、効率性が認められないことを示した。併せて、マクロ経済の動向と国債現存額がイールド・カーブの形状に与える影響を分析し、最近のイールド・カーブのスティープ化を引き起こした要因を考察するとともに、東京証券取引所の長期国債先物市場における流動性と取引コスト,取引リスクの関係について分析した。
著者
目黒 紀夫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本年度はケニアにおいて約3ヶ月の現地調査を行い、それと前後して3件の学会発表と2本の研究成果を発表した。現地調査では、利害関係者間の合意形成のあり方を集中的に調査した。第一に、新たに野生動物保護区を建設しようとする国際NGOと地域住民が結成する土地所有者グループのあいだの集会の様子を参与観察した。国際NGOは保護区がもたらす便益について曖昧さを残した説明を続けながら住民とのあいだに建設の契約を取り交わすことに成功したが、その後に契約内容を正確に理解していない住民とのあいだに軋轢を持つようになった。住民は土地所有権が契約によってどのように制限されるかを理解しておらず、相互に不信感を持つ住民と外部者のあいだでいかに協働体制を構築するかは大きな課題であることが判明した。また、共有地上に建設された野生動物サンクチュアリを経営する観光会社の契約更改が近づき、新しく契約する会社をどこにするかをめぐり地域コミュニティのリーダー間で対立が生じた。結果として、好条件を提示していた会社との契約が不可能となっていた。これまでリーダー表立って相互に敵対することはなく、土地の私有化にともないコミュニティ内の紐帯に変化が生じており、それがコミュニティ全体の利益を阻害する可能性があることが確認できた。地域コミュニティを主体とした野生生物保全の可能性を、これまで外部者が持ち込むプロジェクトの成果から検討してきたが、本年度の調査からはプロジェクトが一定の成果を上げたとしてもコミュニティ内および地域内外の人間関係が良好でない時には、保全に向けたイニシアチブが地域において生まれにくいことが明らかとなった。
著者
樋渡 保秋 高須 昌子
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.ガラス転移点近傍のダイナミックスの異常性 液体の密度の揺らぎの緩和時間はガラス転移点に近づくにつれて非常に長くなる。このような緩和時間の異常性(dynamical slowing down)にともなって、転移点近傍で動的な物性に異常が現れる。我々は簡単な二元合金モデルを用いて長時間分子動力学シミュレ-ションを行う事から過冷液体のslow dynamicsや動的構造およびガラス転移のミクロな機構について考察した。主な結果は、(1)高過冷液体では密度緩和(自己相関関数)がいわゆる引き延ばされた指数関数となる。(2)原子の自己拡散は主としてジャンプ運動による。これらは主に、単原子のジャンプ運動によるものではなく数個ないしは数十個の近傍の原子が連なって協力的に起こる。(3)ノンガウシアンパラメ-タの極大値が通常の液体のそれに比して異常に大きく大きくなる。このことからも原子拡散が単純なブラン運動から予測されるものと大きく異なることが分かる。(4)ノンガウシアンパラメ-タの極大値とその時の時間の値の積とからガラス転移点を見積もる事が出来る。この方法の最大の長所は転移点が中間時間領域の情報から求められることにある。従って、従来の拡散係数などの温度依存性から求める方法では避けられない困難な問題(拡散係数を求めるには長時間の情報を必要とする)が回避できる。(5)(1)で述べた指数の値は温度(密度)の値によって単調に変化する。従って、これはモ-ド結合理論の結果と異なる。2.ガラス転移点近傍のslow dynamicsの理論 トラッピング拡散モデルを用いて過冷液体中の原子拡散の理論的考察を行った。3.過冷液体の2体分布関数の理論 2体分布関数の積分方程式の近似精度をあげることから、液体はもとより過冷液体、ガラス状態の熱力学的諸性質が従来の近似理供よりもはるかに高い精度での計算が可能となった。これを用いて近距離相互作用(斥力)の型と二成分系の相分離傾向の関係について興味ある結果を得た。
著者
西沢 理 菅谷 公男 能登 宏光
出版者
秋田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

脊髄損傷群での膀胱重量と体重の変動についてみると,24頭の対象として,生後10週に胸腰椎移行部での脊髄損傷を作成し,その後1週毎に,4週間の生後14週までの11,12,13,14週で,各々,5,6,9,4頭において測定した膀胱重量と体重は,それぞれ153.7±51.7,241.2±112.7,176.6±136.6,544.0±213.3mgと133.3±7.5,140.0±8.2,158.9±16.6,125.0±16.6gであり,膀胱重量の増加は著明であった。コントロ-ル群での膀胱重量と体重の変動についてみると,50頭を対象として,10週から,1週毎に,4週間の14週まで各10頭において測定した膀胱重量と体重はそれぞれ,60.6±5.6,43.9±6.2,42.2±6.0,41.5±6.5,40.5±5.9mgと160.0±4.5,162.0±7.5,166.0±8.0,161.0±9.4,171.0±7.0gであり,膀胱重量には変化がなかった。膀胱NGFの変動についてみると,コントロ-ル群では生後11,12,13,14週で,それぞれ,326.9,478.5,85.5,65.7ng/g組織重量であり,脊髄損傷群では脊髄損傷作成後1,2,3,4週で,それぞれ,292.5,392.4,280.3,708.2ng/g組織重量であった。脊損後には脊髄ショックに続発した尿閉となるが,排尿が自立する1週間後以降から膀胱からのNGFが増加することを予期したが,コントロ-ル群と比較して,脊損群のNGF値に変化が生じたと断定することはできなかった。膀胱重量は尿道閉塞ラットと同様に脊損後に増加したが,膀胱NGFには変化がないことから,脊損と尿道閉塞とでは異なる機序で,膀胱重量の増加が起こるものと思われた。脊損時には,損傷部位のレベルにより,仙髄排尿反射中枢の活動が亢進する場合と低下する場合があり,胸腰椎移行部での脊髄横断では仙髄排尿中枢自体が損傷を受け,その活動性が低下していた可能性も高い。
著者
中江 次郎
出版者
奥羽大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究目的:通常支配神経が絶たれる大胸筋皮弁や広背筋皮弁に神経移植を行った場合にも、従来行われてきた神経縫合や神経移植術と同様に、筋機能が回復するか否かを組織学的、組織化学的に検索する事を目的に研究を行った。実験方法:実験動物には日本白色ウサギを用い、大胸筋皮弁と広背筋皮弁を形成した後、その皮弁内に残存する神経支配をおよび筋線維の分化や萎縮、筋線維のタイプ変化を検索した。検索方法:大胸筋皮弁、広背筋皮弁部および皮弁周囲組織をそれぞれ摘出し、皮弁の外側部、中央部、血管側部の3つに分け、神経支配がどのようになっているかどうかH-E染色、Gomoriトリクローム染色、ATPase染色およびアセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色を行い検鏡し、大胸筋皮弁、広背筋皮弁の筋線維タイプ構成比率について検索した。また、移植部周囲の筋組織についても同様に検索した。結果:実験において、大胸筋皮弁、広背筋皮弁ともに、中央部、血管側部については筋肉の萎縮や異常な所見はなく、外側部には筋線維の萎縮が確認できた。また、移植部周囲の筋組織については、筋線維の萎縮が確認できた。今後の展望:大胸筋皮弁・広背筋皮弁を形成した後、皮弁内に残存している神経支配、筋線維等を観察を行った。今後、これらの検索を継続するとともに、アセチルコリン活性や免疫組織学的(NGP、PGP、Brdu)な検索と電気性理学的(筋電図)な検索を加え、筋線維の分化や萎縮、筋線維のタイプ変化を観察していく予定である。
著者
角陸 順香
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、サステナブルビルディングの現状を踏まえた上で、特にサステナブル改修について焦点を絞り、既存建築物のサステナブル化を受け入れる社会システムについて明らかにすることを目的としている。そのため、はじめに新築工事、改修工事の両方の現状について調査を行った。現在使用されている構造補強、熱や空気などの建築環境性能向上、エコマテリアル使用、環境共生の仕組みの設置などのサステナブル技術や、その背景となる経済的、社会的要求などについて整理するために、先進事例の多い公共施設などを中心に文献調査を行った。さらに、意思決定プロセスの観点から、具体的なサステナブル改修の事例について関係者へのインタビューや現地調査を行った。本年度の成果は、具体的には以下の通りである。1. 現在、日本国内及び海外においてサステナブルビルディングと評価されているものに関して、新築、改修を問わず、建物概要や採用されている技術等について、既往研究論文、書籍、雑誌などの文献を通して情報収集し整理する。用途を限定せず出来るだけ多くの事例収集を行うが、特に先進事例の多い公共施設について重点的に調査を行う。検索する雑誌は「新建築」「a+u」「日経アーキテクチュア」「Re」「月刊リフォーム」とした。2. 1の調査結果をまとめて分類しデータベースを作成して、サステナブルビルディングの現状に関する情報を整理した。3. 文献調査をもとに、この分野における有識者にインタビュー調査を行い、広い見識を得た。4. 国内の事例に関して、現地調査と関係者へのインタビュー調査を行った。
著者
祖父江 元 満間 照典 木全 弘治 寺尾 心一 熊澤 和彦
出版者
愛知医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

平成2,3年度に引き続き末梢神経障害の変性再生過程における神経栄養因子およびその関連分子の発現動態を検討した。本研究により以下のような知見が明らかとなった。1)培養シュワン細胞にCAMPを作用させるとNGFmRNAは増加、LNGFRmRNA,BDNFmRNAは減少の方向に変化した。さらにlaminin B_1、B_2mRNAは増加に、typeI,IIIcollagenmRNAは減少する方向に変動した。これらはシュワン細胞のこれらの分子の産生調節にCAMPが重要であることを示している。2)ヒトの剖検例についてLNGFR,trk,trkBの末梢神経系における発現分布を検討したところ、LNGFRmRNAは広範な発現がみられたがtrkは交感神経、感覚神経細胞体に限局して発現されていた。trkBについては脊髄、末梢神経にも発現がみられた。3)ヒトおよびラットの末梢神経についてLNGERとtrKの発現の加齢変化を検討したが、高齢に至ってもこれらの発現はよく維持されていた。4)培養交感神経感覚神経に対するNGPの作用を検討したがこの両者でneuriteの分岐に対する反応性およびその加齢変化が異なることが明らかとなった。以上の所見は末梢神経障害におけるこれらの分子の発現動態を明らかにするものと考えられるが、今後更にこれらの分子の発現調節に係わる因子の解明や実際のヒト末梢神経障害における役割などについて明らかにして行く必要があると考える。
著者
中山 英美
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染初期過程に関わる宿主因子の解析を行い、TRIM5・に加えてサイクロフィリンAもサル細胞内でHIVの増殖を阻害すること、TRIM5・の抗ウイルス作用にはプロテアソーム依存性経路と非依存性経路とが混在し、サルとウイルスの種の組み合わせによって使用される経路が決まること、広範な抗ウイルス作用を示すアカゲザルTRIM5・はウイルスカプシドの広範な領域を認識していることが明らかになった。
著者
菊地 直樹
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

コウノトリの野生復帰事業が進展する兵庫県但馬地方で、コウノトリの「語り」を聞き取る調査を実施してきた。「語り方」を解析して、自然再生のシンボル種であるコウノトリを語ることによって人と自然の日常的な関係性の多元的な諸相が析出された。これは(1)地域性によるのか、(2)コウノトリという種の特徴によるのか、という問題関心に基づき、愛媛県西予市のコウノトリ、新潟県佐渡市のトキ、北海道釧路市のタンチョウの聞き取り調査を実施した。2006年にコウノトリが飛来した西予市では、人とコウノトリの行動圏が交差しており、コウノトリを通して地域を見直す活動が見られた。昨年度の調査と同様、「地域の鳥」として語られているが、多元的に語られなかった。コウノトリと暮らしてきた歴史性に欠ける地域では、「語り方」が異なっている。給餌人を中心に聞き取りを実施した釧路市では、昨年度と同様に「家の鳥」としてタンチョウが語られる特徴が見られた。作物を荒らす、人や物に危害を加えるという語りもあり、給餌しているタンチョウが畑を荒らすと「ウチのツルがすいません」といった語りも出てくる。釧路湿原に生息地が移動する繁殖期には、人とタンチョウのかかわりは一端切れてしまい、この時期のタンチョウは家族化されることはない。かかわりが冬期に集中するためか、タンチョウを通して人と自然の関係性が語られることや地域を見直す語りもほとんどなかった。このように、給餌活動というかかわりの有無、物理的・精神的距離によって、意味づけが変容する。コウノトリは「地域の鳥」、タンチョウは「家の鳥」という「語り方」に違いは、(1)人間の働きかけ(給餌活動など)と空間の意味という社会学的側面と、(2)鳥の生態から考えることができる。コウノトリは通年、人の日常空間を行動圏とするが、タンチョウは越冬期は給餌され、私有地を行動圏とする。繁殖期は釧路湿原という「公」の空間を行動圏とし、コウノトリに見られた私と公の間にある曖昧な空間をあまり行動圏としない。私と公に分断されたタンチョウと比較すると、コウノトリを「語る」ことは、相対的に人の日常生活と重なる自然を語ることにつながる。自然の象徴という同じ価値が付与された生物でも、生息域や行動の違い、かかわりの歴史性などによって、「語り方」が異なり、表象される自然も異なる。再生すべき自然は、多くの場合、生物によって象徴される。本研究に従えば、どの生物を取り上げるかによって、自然のイメージも異なってくる。自然の再生イメージ像の構築に向けて、どの生物をどのように語るのか、その「語り方」が問われるが、人と生物の行動圏が交差する空間とそこに生息する生物の意味を分析的に論じることが、今後の課題である。環境社会学と生態学を融合した視点が求められる。
著者
北里 洋 豊福 高志 山本 啓之 土屋 正史
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本研究は,硫化水素存在環境に生存する有孔虫類を例として,真核単細胞生物への微生物の共生について理解するとともに,「硫化水素が飛躍的な生物進化を誘引する」仮説を検証する道筋を作ることを目的とする。研究は,(1)嫌気的な環境に生息する有孔虫にはどのような微生物が共存するのか?(2)微生物は何をきっかけとして,どのように取り込まれるのか?(3)微生物は細胞内で何をしているのか?(4)微生物が細胞内にいることは有孔虫の殻にどのような影響を与えるのか?について形態、分子両面から検討する。また、微生物生態学的なアプローチも試みる。研究材料は,夏季に硫化水素に充満した環境が出現する非調和型汽水湖である鹿児島県甑島なまこ池,京都府阿蘇海,静岡県浜名湖に生息する有孔虫Virgulinella fragilisを用いた。遺伝子および細胞のTEM観察の結果、この種には、細胞膜近傍にγ-プロテオバクテリア(硫黄酸化細菌)が分布し、細胞の中心には、浮遊珪藻スケルトネマに由来する葉緑体が多量に取り込まれていた。一方、模式地であるニュージーランド・ウェリントン港に生息するVirgulinella fragilisは、酸化的な環境であるにもかかわらず、γ-プロテオバクテリアと葉緑体が細胞内に分布していた。ただし、葉緑体は珪藻コシノディスカスに由来するものであった。これらのデータは、有孔虫が共生微生物をまわりの環境から取り込むことを示した。共生体の機能は、硫黄酸化細菌が硫化水素の無毒化、葉緑体が窒素固定と推定されているが、現在検討中である。有孔虫への細胞内共生は、Virgulinellaだけでなく、貧栄養の超深海に生息するステルコマータを持つ軟質殻有孔虫や近縁グループのグロミア属の細胞にも見られる。しかし、これらの共生微生物が何をしているのかという機能の解明は今後の問題として残った。