著者
秦 茂則
出版者
特定非営利活動法人 産学連携学会
雑誌
産学連携学 (ISSN:13496913)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.2_55-2_65, 2022-06-30 (Released:2022-08-02)
参考文献数
20

産学連携による企業資金が大学の教員・研究員の論文生産に与える影響について欧米の大学を対象とした先行研究では,企業資金と論文生産に正の関係を観察している.一方,わが国では,教員・研究員毎に科研費などの公的な研究資金や企業からの研究資金,奨学寄付金を含む研究資金全体を把握したデータセットの入手が困難であるため,研究が少ないのが現状である.本研究では大阪大学大学院工学研究科所属の教員・研究員を対象に,科研費,公的研究資金,企業との共同研究資金等の外部研究資金及び論文数に関する2011年から2020年までの10年間のパネルデータを構築し,企業からの研究資金の論文生産への影響について分析した.その結果,企業資金が年間1千万円超1億円以下の階層において企業からの研究資金は3年のラグを持って論文生産に正の影響を与えていることを示す結果が得られた.これは企業からの大型の研究資金が学術的成果に対し寄与していることを示唆するものである.
著者
文野 峯子
出版者
人間環境大学
雑誌
(ISSN:1348124X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.35-51, 2003-03-20

近年社会言語学,教育学,心理学などの分野において,「学習」に関する新しい観方が注目されている.新しい学習観は,従来の「学習=情報処理の過程」という観方を批判し,教室における教授-学習過程を,教師と学習者がお互いの意図を伝え合い解釈し合うことによって協慟でつくりあげる動的なプロセスであるととらえる.本稿は,日本語教育の教室談話研究においても,学習観の見なおしとそれに伴う新たな研究方法が必要であることを指摘する.従来のカテゴリー分析に代わる新たな方法論導入の提案である.本稿は,まず62秒間の授業を分析することにより,日本語の授業が動的なプロセスであること,すなわち予め決められたカテゴリーに当てはめる分析方法ではその実態の把握が困難であることを確認する.分析の結果,明らかにされたのは以下の3点である.1)授業は教師からの一方向的な伝達過程ではなく,きわめて複雑なコミュニケーションであること 2)授業の複雑な構造は,参加者全員が協働でつくりあげ維持していること 3)教師・学習者という役割分担やその場が教室であるということは,やりとりを通して可視化されてくること 本稿はこれらの結果を踏まえ,日本語教室の談話の解明には,教室におけるやりとりを動的なプロセスとしてとらえる視点が重要であること,そして変化するプロセスそのものに焦点を当てその意味を詳細に解釈・記述していく研究方法が必要であることを主張する.
著者
東泉 裕子 金田 恭江 下村 千史 黒谷 佳代 西平 順 瀧本 秀美
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.229-237, 2022 (Released:2022-10-19)
参考文献数
27

日本食品標準成分表2010 (六訂) と日本食品標準成分表2015年版 (七訂) 追補2018年を用いて算出した栄養素等摂取量推定値とを比較し, 食品成分表改訂が栄養素等摂取量推定に与える影響を分析した。北海道在住の地域住民および東京都に勤務する者625名の食物摂取量について, 食事記録法により食事調査を行い, 栄養素等摂取量を算出した。炭水化物以外のすべての栄養素等で成分表の違いにより摂取量に有意な差が認められ, とくに分析方法が更新された総食物繊維摂取量への影響が大きく, 七訂値では六訂値より平均で3.0 g (23.2%) 高値であった。また, 日本人の食事摂取基準 (2020年版) を適用した場合の集団の総食物繊維摂取量の評価にも, 成分表の違いによる影響が認められた。以上より, 食事調査から食物繊維摂取状況を評価する際は, 計算に用いられた食品成分表の正式名称および分析方法を考慮した検討が必要であることが示唆された。
著者
檜垣 俊介 稲井 玲子 松尾 達博
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.223-227, 2022 (Released:2022-10-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

希少糖とは, 自然界に存在量が少ない単糖である。その一つであるᴅ-アルロースは, これまでの研究から, 抗肥満・抗糖尿病など種々の有益な効果を発揮することが明らかにされている。一方, 落葉性潅木の一つであるズイナは, 希少糖ᴅ-アルロースとアリトールを大量に含むが, ズイナそのものの摂取による機能性を検討した報告はない。そこで本研究では, ズイナ乾燥粉末5%添加食をラットに摂取させ, ᴅ-アルロースと同様に体脂肪蓄積抑制作用があるか否かを検討した。3週齢のWistar系雄性ラット16匹を2群に分け, それぞれ対照食およびズイナ食を自由摂食させて8週間飼育した。体重増加量, 摂食量, および食餌効率には, 2群間に差は見られなかったが, 屠体脂肪量および総体脂肪量は, 対照群に比べてズイナ食群で有意に小さかった。これらのことから, ラットにおいてズイナ乾燥粉末には体脂肪蓄積抑制作用があることが示唆された。
著者
渡邉 恵一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

ヒルベルト空間の原点を中心とする開球は,A.A.Ungarによって定義されたメビウスの和,メビウスのスカラー倍,ポアンカレの距離によって,メビウスジャイロベクトル空間をなし,関数解析学的に空間としてよく分かってきている。メビウスジャイロベクトル空間の間の写像で,ヒルベルト空間の間の有界線形作用素に相当するものの法則を解明することが補助事業期間全体の研究計画の概要である。
著者
坂田 敢海 岡村 遼 横山 拓 勝本 雄一朗
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2022論文集
巻号頁・発行日
vol.2022, pp.31-33, 2022-08-25

本研究は、腱駆動によって髪が逆立つフィギュア・超変シーンを制作した。アニメや漫画などの架空作品では、しばしば変身という表現が登場する。この変身を再現した玩具として、人型のものは少ない。そこで私たちは、漫画「ドラゴンボール」の孫悟空の変身をモチーフに、頭髪が逆立つ瞬間を機械機構をもちいて胸像化した。実現にあたっては、ロボットハンド研究における腱駆動を参照した。本発表では、超変シーンのデザインプロセスについて説明する。
著者
西村 俊哉
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、異種母体を利用した個体作出システムの構築を目的とし、胚盤胞補完法を用いて子宮欠損ラット体内にマウス幹細胞由来子宮を作製し、そこにマウス胚を移植し、ラット母体内でのマウス胎子の発生を試みる。異種母体内で移植胚と同種の子宮を作製することができれば、異種母体を利用した個体作出システムの構築に大きく近づくと考えられる。また、本研究が進めば、産子作出に同種母体が必要なくなることから、個体の確保が困難な絶滅危惧種やすでに絶滅した種の近縁種を用いることによる“代理異種母出産”が可能となる。本年度は、前年度に開発した飛躍的なドナーキメリズムを上昇させる新規手法(細胞競合ニッチ法)をさらに改良することで、子宮特異的に成長因子受容体欠損を誘導する遺伝子改変マウスを作製した。具体的には、Wnta7遺伝子のプロモーター下でCREタンパク質を発現するマウスとIgf1遺伝子にloxp配列が挿入されたマウスを掛け合わせることで、両方の組み換え遺伝子を有したマウスを作製した。今後、本マウス胚にドナー細胞を移植することで、①ドナー細胞のキメリズムが子宮内で上昇するか、②ドナーキメリズムが上昇した場場、ドナー細胞由来子宮を誘導することが出来るかを検討する。また、これまで得られたデータをまとめ、論文発表(Nishimura et al., Cell Stem Cell. 2021)、学会発表(第20回再生医療学会総会 口頭発表)を行い、研究成果を社会に発信するとともに、得られた研究結果の米国特許申請を行うことで産業に結び付ける足掛かりを作った。
著者
橋爪 伸子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集 平成18年度日本調理科学会大会
巻号頁・発行日
pp.4, 2006 (Released:2006-09-07)

[目的] 牛蒡餅は今日和菓子として一般的なものではないが、江戸時代には寛永20年(1643)の『料理物語』を初め諸料理書に散見される。それによれば牛蒡餅は、糯米粉、粳米粉と煮熟した牛蒡を混ぜて作った生地を、揚げた後蜜または煎じ砂糖に浸けるという菓子である。この揚げて蜜に浸けるという特徴的な調理法は、日本古来の菓子には一般的ではなく、異国の菓子にみられることから、牛蒡餅の起源も伝来菓子の可能性がある。しかしながら、その由来についてはこれまで追求されてこなかった。そこで本報では、牛蒡餅の起源や実態について検討することを目的とする。[方法] 牛蒡餅の記述がみられる料理書、諸記録等による文献調査に加え、唯一牛蒡餅が現存する長崎県平戸で、製造業者へ聞き取り調査を行った。[結果] 牛蒡餅の起源と考えられる菓子は二つあり、いずれも江戸時代以前に伝来した異国の菓子で、揚げて蜜に浸けるものである。一つは南蛮菓子ひりょうずの根源とされる「フィリョス」、もう一つは朝鮮菓子「薬果」である。後者は日本では「くわすり」等と記され、安土桃山から江戸時代初頭にかけて饗応や茶会等で用いられた。 牛蒡餅の製法が収録されている主な料理書は、上記『料理物語』のほか、元禄2年(1689)の『合類日用料理指南抄』等比較的初期のもので、その後享保3年(1718)以降に刊行された『御前菓子秘伝抄』を初めとする菓子製法書にはみられないことより、この頃には次第に衰退の途にあったと考えられる。一方、元禄16年(1703)の『筑前国続風土記』では、牛蒡餅が筑前博多の土産にあげられていることから、牛蒡餅の消長には地域差があったことが考えられる。