著者
柳澤 幸夫 竹田 絵理 松尾 善美 山村 篤司郎 堀内 宣昭
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.276-278, 2015-08-31 (Released:2015-10-06)
参考文献数
8

【はじめに】携帯型酸素ボンベからの酸素投与は呼吸同調器を使用することが一般的である。今回,呼吸同調器の使用有無により酸素化が異なった症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.【対象と方法】対象は85歳,女性で6ヶ月前より,間質性肺炎にてHOT施行中であった.本症例の安静時および運動時の呼吸による圧変動から呼気,吸気時間,IE比および呼吸数を算出し,酸素投与の連続式,同調式による各項目の比較を実施した.【結果】安静時,運動負荷時ともに連続式と比べ,同調式ではIE比で呼気比率が短縮し,呼吸数が増加した.また,呼気・吸気時間において吸気時間には有意差を認めなかったが,呼気時間には有意差を認めた.運動負荷では同調式でSpO2 の顕著な低下を認めた.【結語】本症例と同様のケースでは,同調器の使用有無での酸素化変動を確認し,呼吸法の指導や酸素の投与方法の検討などが必要である.また,精神的要因による影響も今後,検討すべき課題と考えられた.
著者
川上 幹男 楠田 浩二
出版者
公益社団法人 日本オペレーションズ・リサーチ学会
雑誌
日本オペレーションズ・リサーチ学会和文論文誌 (ISSN:13498940)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.175-203, 2021 (Released:2021-09-28)
参考文献数
23

宿泊・飲食サービス業の就業者数の重回帰予測モデルを,予測高精度,速報性,説得力,政策決定支援力のEBPMに資する4要件を満たすモデルとして構築する.四半期毎に2四半期先までの就業者数を予測する平常時モデルに加え,今般の緊急事態宣言のような不測の事態の影響を織り込める非常時モデルを重回帰モデルの説明変数予測にVARモデルのインパルス応答分析を利用して構築する.非常時モデルは就業者数が世界金融危機時以来の低水準にまで低下することを予測しており,当該業界向けの支援策が喫緊の課題であることを示している.
著者
呉 丹
出版者
Association for the Advancement of Education in Japanese-Chinese Language and Culture
雑誌
日中言語文化 (ISSN:2435273X)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25, 2020 (Released:2021-06-30)
参考文献数
17

1894 年、 日清戦争が始まった。日本は初めての対外戦争に挙国一致で臨み、勝利を収めた。国木田独歩は『国民新聞』の特派員として従軍し、『愛弟通信』という従軍記を残した。その中で、国木田独歩は戦死者を見つめ、「戦」は人間を破壊し尽くす「魔物」だという事実を認めた。この視座を獲得した従軍記者は日清戦争を通じて国木田独歩くらいのものだ。この点からすると『愛弟通信』は評価されるべき作品だ。しかし、この従軍記は当時昂揚した国家が個人を優越するナショナリズムから決して自由ではなかった。日本国民とキリスト教徒との立場から、日清戦争を「文明の義戦」として受け入れ、隣国侮蔑の忠君愛国主義から逃れることはできていなかった。
著者
副島 美由紀
出版者
小樽商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

ヴァイマール文化を準備した揺藍ともなったドイツ19世糸昧における生活改革運動に関する研究は、まずドイツ産業革命以降に始まった社会改革運動の様々な形態を把握することから始まった。つまり、住宅改革、土地改革、田園都市運動、菜食主義運動、禁酒運動、裸体運動、芸術教育運動など個別の改革運動の性質や背景、また各運動間の関連等についてまず概括を行い、その後「あらゆる生活改善思想が結実する場」と言われた田園都市運動に特に着目してその歴史に関する研究を行った。その結果として明らかになったのは、住宅改革の一種である田園都市構想はそもそもヨーロッパにおいて長い歴史を持つユートピア構想の一形態であり、イギリス、フランス、イタリアなど個々の国にはそれぞれのユートピア的社会改革構想の系譜が存在するという事実である。ドイツにおけるその系譜は、宗教的ユートピアや労働者コロニーの建設、またアフリカ植民コロニー構想等を経由しながら緑の党などの革新的政治運動にまで連なっている。13年度までの研究成果発表においては、それらユートピア構想の背景を概説しながらドイツ最初の田園都市であると同時に芸術家コロニーでもあったヘレラウ建設の歴史までをたどり、紹介することができた。これらの実績を踏まえ、今後はさらにヘレラウ以外の田園都市構想や芸術家コロニー運動を始め、その他の文化現象と生活改革運動との関連について研究を続け、成果を発表していくつもりである。
著者
北川 泰久
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.1003-1008, 2014 (Released:2014-08-20)
参考文献数
18
被引用文献数
3

日本は超高齢化社会を迎え、がん、認知症患者が増え、疾患を有する高齢者の栄養をいかに管理するかが社会的に大きな問題となってきている。特に、高度の認知症に対する胃瘻(PEG)の適応に関しては、延命治療の是非にも議論が及び混乱を招いている。 1980年初期に導入された PEGの新規造設件数は現在、20万件を越し、これからも高齢者の増加とともにますます重要となってくる。本稿では適応からみたPEGという内容で、その現状と今後の課題について述べてみる。
著者
野本 宣夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.102-107, 1956-12-31 (Released:2017-04-07)
被引用文献数
1

The deciduous broadleaved forests dominated by beech (Fagus crenata) and oak (Quercus crispula) are found widely in the cool temperate mountains of Japan. The oak forest has been regarded as a seral forest succeded by the beech climax forest. 1) Three stands in the beech-oak forests of Okutama near Tokyo were researched comparatively by the author, and the process of ruin and rise between the oak and beech is illustrated in Fig. 2. The typical beech forest (C) might be regarded as stable for a long time, because there grew a great number of young beeches, while the oak forest (A) is regarded as unstable because it had none of its own inheritors, but beech ones. This fact shows clearly that the oak forest would be gradually succeeded by the beech forest with the progress of time. 2) In order to analyse such a process of succession mentioned above, the author applied the analytical method of MONSI and OSHIMA (1955). On the basis of the mutual action between the main physiological action of plants (production of matter-photosynthesis) and the main environmental condition in a forest (light intensity), the height-growth curves of young trees of oak and beech in the forest communities of various densities were calculated and drawn as shown Figs. 6 and 7. The fact of young trees under the Sasa-layer in the forest was also discussed.
著者
入江 康仁 中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.272-283, 2020 (Released:2021-09-28)
参考文献数
56
被引用文献数
1 3

世界的な流行を呈している新型コロナウイルスに対して,世界中でその対策が進められている。人工呼吸器や体外式膜型人工肺の導入が行われ,また抗ウイルス薬の投与なども試みられている。しかし,現在のような情勢の中で,エビデンスのある有効な治療を待つわけにもいかず,日々対応していかなくてはならないのもまた事実である。 抗ウイルス薬はもちろん,抗菌薬や人工呼吸器などの医療器具のなかったスペインかぜ流行当時,本邦の先人たちがどのような診療をしたのかを顧みることは大変参考になる。本稿はスペインかぜに対して漢方薬を駆使して患者を治療した事実と,現在明らかとなったスペインかぜの高病原性,抗ウイルス薬の作用機序と臨床エビデンスを示しながら,ウイルス感染症のパンデミックに対する対策の一つとして臨床上も比較的安全であり,副作用も少なく,自己免疫賦活作用による抗ウイルス作用を期待できる漢方薬の役割を提言するものである。
著者
南 賢太郎 今城 健太郎 中川 慧 今長谷 拓
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第36回 (2022)
巻号頁・発行日
pp.2J4GS1002, 2022 (Released:2022-07-11)

フルスケール最適化 (FSO) はポートフォリオ選択の枠組みで,ヒストリカルリターンの上で効用関数を直接最適化する手法である.FSOの既存の定式化は経験分布に基づいているため,リターン分布が時間変化する場合にはout-of-sampleでのパフォーマンスが悪くなりうる.本論文では,予測型フルスケール最適化 (PFSO) というFSOと分布予測を組み合わせた新しいポートフォリオ構築の枠組みを提案する.PFSOは柔軟な枠組みであるため,投資家のリスク選好や将来のリターン分布に関する見通しを取り入れることができる.また,FSOのための新しい連続最適化アルゴリズムも提案する.提案法は階層的な予算制約のもとで素早く最適解に収束する.現実のポートフォリオのデータにおいて数値実験を行い,提案手法の有効性を示す.
著者
井上 史雄 半沢 康
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.162, pp.63-89, 2022 (Released:2022-10-25)
参考文献数
62

本稿では山形県庄内地方で行われた方言調査データに多重対応分析を適用した結果を報告する。江戸時代の方言集『浜荻』掲載406語の残存率について1950年に3世代,2018年に4世代の調査が行われ,長期の言語変化が分かった。「年齢柱方言地図」と「単純化グロットグラム」を作図して考察した。140年にわたる世代差を踏まえ,20世紀の地域差の大きい時期から,21世紀の世代差の大きい時期に移行したことを論じる。多重対応分析によって方言の分布と変化の複雑なパターンを要約し,全体傾向を把握できた。第1軸には140年という長さの年齢差が表れ,第2軸以下には庄内方言南北80 kmの地域差が示された。南北差が大きいので,鶴岡からの徒歩距離を計測して「単純化グロットグラム」を作成し,代表的な8語のうち3語を例示した。地方的周圏分布が見られるとともに,現在の若い世代の急速な方言衰退が見られ,他方中学生による方言使用も観察された。
著者
山野上 祐介 馬渕 浩司 澤井 悦郎 坂井 陽一 橋本 博明 西田 睦
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.27-34, 2010 (Released:2014-03-05)
参考文献数
22

Morphological identification of two ocean sunfish species (genus Mola) is not an easy task due to the giant body size and poor understanding of their intraspecific variation. A rapid, reliable method of identifying mitochondrial DNA from two Mola species in Japanese waters was designed for PCR-based genotyping of the mitochondrial control region. Two allele-specific primers were developed for the mitochondrial control region of each species: CRMolaAL and CRMolaBL for Mola spp. A and B, respectively. Using the same reverse primer (H884-12S), specific primers for Mola spp. A and B were designed to amplify ca. 400- and 500-bp fragments, respectively. A pair of fish universal primers (L1969- 16S and H2582-16S) amplifying ca. 700 bp was used as an internal control. Multiplex PCR reactions including these five primers produced a species-specific fragment for either Mola sp. A or B with an internal control. This approach has major advantages over other molecular species-identification methods in speed and costefficiency, and greatly helps in determining Mola species.
著者
米田 翼
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

(1)自然的システム論とその生物学的背景:①ル・ダンテクの老化理論への反論を通して練り上げられるシステムの「構成」に関する理論、②ジェニングスの微生物の行動学を参照しつつ、『物質と記憶』の感覚運動システムと『創造的進化』の自然的システムを接続することで提示される、システムの「行動」に関する理論、これらからベルクソンの自然的システム論=生物個体論を再構成した。本研究の意義は、これまで不明瞭であった生物個体という存在者に関するベルクソンの理論を理解するためのモデルを提示したことである。(2)シモンドンとの比較研究:①ベルクソンとシモンドンは、個体化を連続的進展として記述するためにヴァイスマン遺伝に依拠しつつも、前者は個体に内在する遺伝的エネルギーに関する自説を通して、後者はフレンチ・ネオ・ラマルキズムの群体論に由来する個体-環境の理論を通して、これに修正を加える。②これに相関して、刺激-反応連合のデカップリングを、前者は刺激=入力と反応=出力との間の「遅延」の効果として説明し、後者は個体-環境のトポロジカルな関係の変容として説明する。本研究の意義は、シモンドンとのこうした相違点を明らかにすることで、ベルクソンの個体化論の内在主義的性格と、その射程および限界を明らかにしたことである。(3)創発主義との関係:先行研究ではモーガンの哲学・心理学のうちにベルクソン主義的側面が看取されてきたが、①モーガンこそがベルクソンの心の哲学(特に表象の理論)の最大の批判者であること、②アレクサンダーの時空の形而上学の鍵となる「継起」や「神性」概念の練り上げにベルクソンからの本質的影響が見られることを明らかにした。本研究の意義は、これまで不透明であった20世紀初頭の英仏の哲学の交流の一端を明らかにしたこと、また、アレクサンダーを介してベルクソンを創発主義的に再読しうる可能性を示したことである。