著者
鍛代 敏雄
出版者
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館
雑誌
東北福祉大学芹沢銈介美術工芸館年報 (ISSN:21862699)
巻号頁・発行日
no.13, pp.59-73, 2022-06-23

現在、国指定重要文化財「石清水八幡宮文書」の基幹史料となっている「田中家文書」は、戦国時代、石清水八幡宮社務検校の 田中奏清によって修理されていた。その修理記録の調査・研究に基づいて、修理・校訂・編修の方法や目的、その意識や思想について、はじめて考察した論考である。 本稿の成果を基盤にして、中世文書のアーカイブズ学(記録情報史料学および古文書保存管理学)の観点から、文化財学・古文書学・博物館資料論などを再構築しながら、学芸員資格課程の講義に活用していきたいと考えている。
著者
井原 久光 東田 晋三
出版者
長野大学
雑誌
長野大学紀要 = BULLETIN OF NAGANO UNIVERSITY (ISSN:02875438)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.45-60, 2001-12-30

福武書店(現・ベネッセコーポレーション)の進研模試が、旺文社模試を追撃していった過程を競争戦略の理論に基づいて分析した。福武は、競合製品(旺文社模試)の特性をしっかりとらえ、限られた経営資源を最も効率的な顧客(有力高校)や地域(旺文社模試の手薄な地域)やセグメント(低学年)に集中し、独自の製品差異化(試験内容、データ提供、充実した母集団、独自情報の提供)をはかり、環境変化(学園紛争、入試改革、新カリキュラム)を有利に活用して、最終的には旺文社をこの市場から撤退させた。
著者
石原 知洋 北口 善明 阿部 博 金子 直矢
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2022-IOT-56, no.19, pp.1-7, 2022-02-28

近年の大学授業において,対面およびオンラインの両方のタイプの授業が混在して実施される状況が増加している.そのような場合,学生が大学でオンライン講義を受講する状況も生まれるため,大学の無線 LAN インフラは多人数でのオンライン講義の受講が可能であることが求められている.安定的な無線 LAN の提供のためには無線 LAN 環境の測定・監視が不可欠であるが,従来のような帯域測定や機器監視では中程度の帯域が連続的に発生する配信講義の品質を評価することが困難である.そこで本報告では,オンライン講義の受講品質に特化した無線 LAN 環境の測定について述べる.オンライン配信に採用されることが多い WebRTC を用いて,大規模かつ断続的に送受信試験を実施しつつ,クライアント側でアプリケーションレイヤでの品質測定をおこなうことで,従来の測定では追いきれなかった無線 LAN 環境におけるオンライン配信品質の評価および監視を実施した.
著者
前川 美行
出版者
リトン
雑誌
死生学年報
巻号頁・発行日
vol.12, pp.107-126, 2016-03-31

The Japanese folklore tale “Hebimukoiri” has various versions that have been classified into different types of tales such as “Odamaki-gata,” ”Mizukoi-gata,” and so on. It is a story that has undergone much symbolic transformation as it has been handed down orally over a long period of time. The story is alive and continues to develop because of people’s changing social, cultural, and psychological lives. At the same time, it includes a significant psychological theme for not only people of old, but also for people living nowadays. In this article, the author analyzes how the initiation of the “inner woman” occurs in this folklore tale from the perspective of the mother, the father, and the daughter who are its main characters. In addition, the author suggests a new, contemporary version of the tale that contains both the symbolic significance of the action of pulling out needles and the rebirth of the snake.
著者
市川 誠一
雑誌
名古屋市立大学看護学部紀要 = Bulletin of Nagoya City University School of Nursing (ISSN:13464132)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.49-51, 2016-03

1980年代初めにエイズが登場して30年を過ぎた。世界には3690万の人々がHIV/ADSと共に生きている。日本では、HIVが混入した非加熱性の血液凝固因子製剤の使用により多くの血友病の方たちが感染した「薬害エイズ」が大きな問題となった。また、エイズは男性同性愛者にみられた病気として発表されたために男性同性愛者に特有の病気であるとの誤解を招き、死に至る感染症として怖れられ、感染者・患者への偏見・差別が広がるなど、多くの課題をもたらした。しかし、この新たな感染症に取り組む中で、感染者・患者やその周囲の人たちの人権や生活権を尊重することの大切さが強調されるようになった。そして、長年にわたって続いた届出・隔離を軸とする伝染病予防法等の法律は廃止され、代わって「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)が1999年に施行された。この法律では、感染症患者の人権に配慮し、治療を中心とした対応を行うことが示されている。人々の感染症や感染者・患者に対する偏見や差別を無くすことは容易なことではない。そのため看護教育においては、対象となる人々の人権と生活権を軸にした保健医療を提供する人材の育成が大切なことと考える。
著者
杉浦 晋
出版者
埼玉大学教養学部
雑誌
埼玉大学紀要. 教養学部 = Saitama University Review. Faculty of Liberal Arts (ISSN:1349824X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.187-197, 2022

偽書は、事実(ファクト)もしくは現実(リアル)と虚構(フィクション)とのあいだに位置づけられる、もう一つの虚構(フェイク)であり、独特の事実=現実らしさ(リアリティ)を虚構(フィクション)に与える。芥川龍之介「奉教人の死」、谷崎潤一郎「春琴抄」、石川淳「喜寿童女」といった偽書の趣向に基づく近代以降の小説は、現実を拒絶して虚構に向かう指向とあわせて、近代以前の諸テクストによって自らを根拠づけようとする、いわばインターテクスチュアリティへの指向を有する。森鷗外の歴史小説や史伝はその先例とみなされ、たとえば「喜寿童女」は「渋江抽斎」にならった可能性がある。偽書をめぐる考察は、文学の想像力の本質にかかわる。
著者
山田 太雅 棟方 渚 小野 哲雄
雑誌
エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2015論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, pp.574-579, 2015-09-18

絵の制作支援を行う研究は盛んに行われている.一方,ユーザが描いた絵がどの程度「上手」であるかという,評価 に関する研究は数が少ない.そこで,ユーザが模写した絵に対して点数を算出するシステムを提案する.対象とする 絵は人物キャラクタの顔とし,システムは顔を構成する目などのパーツの特徴量を抽出する.そして,模写の対象と なる絵と,ユーザが描いた絵がそれぞれ持つ特徴量を比較することで絵の評価を行う.
著者
根津 直也 山田 浩史
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2022-OS-155, no.3, pp.1-12, 2022-05-19

メモリ容量の増大や,電圧の微細化などの原因によるメモリエラーの増加に伴い,ソフトウェアにメモリエラー耐性を持たせるための手法が多く提案されている.フォールトインジェクタは擬似的にメモリエラーを発生させる事ツールであり,これらの対策手法の評価・検証に有効である.既存のフォールトインジェクタの多くはメモリ上のランダムな位置にエラーを挿入するという特徴がある.たとえば,LLFI では中間コード内のランダムに選ばれた動的命令の結果に対してエラーを挿入するため,どのデータに対してエラーが挿入されるかはランダムである.このようなランダムにエラーを挿入する手法では,特定のエラーケースを意図的に再現することが難しいと言った問題点がある.本研究では,指定したメモリオブジェクトに対して直接エラーを挿入でき,特定のエラーケースを容易に再現できるフォールトインジェクタを提案する.本フォールトインジェクタは memcached を対象として,メモリオブジェクト情報の表示,指定したメモリオブジェクトへの 2 種類のエラー挿入,エラー挿入後に検証したい処理への遷移などの機能を持つ.また,既存の耐メモリエラー機構である software-based ECC に対して,作成したフォールトインジェクタを適用する事でその有効性の検証も行った.
著者
江頭 満正
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.17-29, 2018-10

本稿では、FUJI ROCK FESTIVAL 2015の経済的影響について考察した。現在、日本の音楽業界は大きな変化を遂げている。CDの販売量は減少しているが、音楽祭は250カ所以上で開催されている。音楽祭は盛んになり、音楽業界だけでなく地域の発展のためにも重要な位置を占めるようになった。フジロック2015の会場で、来訪者の居住地域と来訪者の購買行動について調査アンケート調査を実施し、221の有効回答を得た。経済波及効果金額は、主催者消費および、交通費、宿泊費などの来訪者消費から算出し、フジロック2015の経済波及効果は約150億円であった。これらの結果から、フジロック投資利益率は高く投資効率の良いイベントであること、来訪者消費行動に関しては初心者の訪問者よりも多額の消費傾向があることが明らかになった。また、ロックフェスティバルの構成要素を分析し、フジロックの優れた部分を明らかにした。今後、観光学の枠組みで、ロックフェスティバルを研究する必要があり、さらなる成長の為には地方自治体の関与が重要となるだろう。
著者
大津 尚志 Takashi OTSU
雑誌
学校教育センター紀要 = Bulletin of School Education Center (ISSN:24353396)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.48-58, 2022-02-28

「校則裁判」は1980 年代にはじまるが,最近になって髪色を黒染するべき,という指導をめぐって大阪地裁判決が下された(令和3 年2 月16 日)。判決では,校則に関する生徒側の主張は退けられた。校則の法的性質,頭髪の規制と人権の関係,頭髪規制の目的などを論点としてとりあげて,本判例の示す見解を分析する。原告にとって実質的敗訴である内容を検討する。本件は本稿執筆時(2021 年10 月)では控訴審が係争中である。判例についてのこれまでの「校則裁判」の判例史に載せることも含めた評釈を行い,問題性を指摘する。さらに加えて,訴訟提起後に文部科学省や教育委員会が「校則の見直し」を呼びかけるなどの動きが生じていて,大阪府のみならず全国に「訴訟外効果」が生じていることの実態を明らかにすることを研究目的とする。
著者
小林 正史 徳澤 啓一 長友 朋子 北野 博司
出版者
北陸学院短期大学
雑誌
北陸学院短期大学紀要 = Bulletin of Hokuriku Gakuin Junior College (ISSN:02882795)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.277-328, 2007-04-20

前稿では東北タイと北部タイの土器作り技術の違いを生み出した要因を検討し、自然環境の違いが強く影響していることを明らかにした。本稿ではこの結果を踏まえ、比較対象を東南アジア全体に広げて、5地域間の土器作り技術の違いを生み出した要因を検討した。その結果、稲作農耕民の土器作り技術の特徴であるタタキ成形と覆い型野焼きについて、以下の点が明らかとなった。第一に、成形手法は「円筒形の一次原形を叩きにより膨らませる」点で共通するが、円筒形の一次原形の作り方には中空円筒手法、紐積み、手びねり(+紐積み)などのバリエーションがあり、この順に上半部の形を完成品に近づけ、また器壁を締める効果が高まる。よって、その後の二次成形叩きはこの順に「叩きによる変形度」と「成形全体に占める叩き時間の比率」が小さくなる。叩き技法の重要性(形の変形度、サイクル数、成形作業に占める叩き時間の比率)に影響する要因として、(1)1日当り生産個数(叩き技法を多用する方が多め)、(2)乾燥時間(乾季のみ土器を作る場合は、叩きの重要性が高い成形手法により多数の土器を作ることができる)、(3)土器の大きさ(大きめの土器ほど叩きの重要性が高まる)、の3つがあげられた。第二に、覆い型野焼きでは「覆いの密閉度」と「薪燃料の多さ」が最も重要な要素となるが、覆いの密閉度は、(1)薪燃料の多さ(薪多用型ほど薪に着火しやすい工夫が必要)、(2)雨季にも野焼きを行うかどうか、(3)素地の砂含有量(砂が少ない素地では密閉度が高いほうが適する。密閉度の低い覆い型では急激な昇温に耐えるため、砂を多く含むか多孔質の素地が必要)、(4)樹脂コーティングや黒色化などのために熱い状態で取り出すかどうか、(5)硬質に焼き上げる必要性(窯焼き土器と競合する仏器が主体の曼斗村では高密閉の覆い型を用いる)などの多様な要因に影響されることがあきらかとなった。また、薪燃料多用型が可能になるか否か「薪の得やすさ」が大きく影響するが、薪の得やすさは「土器作りに対する男性の関与程度」と自然環境(都市近郊型か農村立地型か)という2要因に強く影響されることが示された。