著者
中川 宣子
出版者
京都教育大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は、自閉症児における自己思考の表現を支援するためのデジタルテキストを開発することであった。そこでまず、特別支援教育に携わる現場教師3名により、対象生徒5名の興味・関心について、日々の授業を通してアセスメントした。次に、ここで得られた情報に基づいて、デジタルテキストで使用するテーマを協議した。協議の結果、生徒が実際に活動を行った単元・題材(宿泊学習、運動会、学校祭…など)10項目を本デジタルテキストのテーマとして選択した。続いてこれらのテーマに関連する写真やイラストを収集し、その中から各テーマ毎に5種類の素材を選択した。各素材を、Micro-soft社:power-pointによって編集し、1テーマにつき写真(イラスト)5枚、計10テーマ、計50種類の教材によって、「視覚デジタルテキスト」とした。「視覚デジタルテキスト」の実施は、週1回70分間の「国語」の授業の中で行った。生徒はまず、本時のテーマを聞き、デジタルテキストを活用して自己の思考をパソコン上に打ち込むという学習設定と、同テーマのもとで手書き(或いは口頭)表現するという学習を設定し、それぞれの学習設定における表現語彙数の比較によって、「視覚デジタルテキスト」の学習効果を評価した。結果、5名中4名の生徒に「視覚デジタルテキスト」を活用した場合の方が表現語彙数が増加するという結果が得られた。中でもA児は、1テーマにつき、手書き・口頭による表現語彙数が、最小1語〜最大5語であったのに対し、デジタルテキスト活用の場合には、最小5語〜最大15語という増加が見られた。他の生徒も同様に、1語〜7語の増加が見られた。また彼らに共通した学習態度として、「視覚デジタルテキスト」活用時の方が、学習に取り組む時間が長く、教材に向かう集中度も高いという姿が見られた。生徒にとって「視覚デジタルテキスト」は、興味・関心の高い教材であるといえ、思考表現の成果のみならず、学習意欲の継続、向上にも効果があると考えられる。今後も、自己表現支援教材の一つとしての「デジタルテキスト」を開発していきたいが、本研究で取り上げた視覚素材と併用して、聴覚素材を取り入れたデジタルテキストの開発に着手する必要があると考えられた。これは、彼らの生活を見直したとき、彼らの触れる情報は、視覚素材のみならず、聴覚素材である機会が多い。自閉症児の特性にあげられる視覚優位を活用した視覚素材と、これに対する聴覚素材との両面をデジタルテキストに取り入れることによって、彼らの生活全般における自己思考表現を支援するための学習教材の充実が考えられる。
著者
田嶋 淳子 鄭 暎慧 高 鮮徽
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、日本国内および中国東北地方における移住者調査を通じ、以下の点が明らかとなった。1)中国系移住者の日本への流入は1980年代以来就学生、留学生が中心だが、日本人配偶者、研修生およびIT技術者としての来日が増加傾向にある。また、在日中国人の2割はすでに永住権をもつ。このことから定住化傾向が指摘できる。定住化は中国系移住者が送り出し地域への再投資を可能とする資力を持ち始めていることを示す。2)遼寧省大連および藩陽における調査から、研修生の来日が主には日系企業の工場設置と不可分に進んでいることが示された。また、IT関連では日本への派遣労働者としての導入も同時に進んでおり、日本語と技術を併せ持つ人材への需要とそれに応じた中間組織(派遣業者および付随するシステム)の形成が進んでいる。3)吉林省延辺朝鮮族自治州における海外出稼ぎ経験者調査からは、彼らの出国が親族関係(8割が韓国内に親族関係をもつ)により、可能となっており、比較的容易と考えられている。ただし、彼らの出国は地域経済に一定の影響を与えており、残された子どもの教育問題など今後の影響が懸念される。4)黒竜江省では、残留日本人孤児および残留婦人らの出身地域の一つであるF県を対象とする聞き取り調査をおこなった。彼らは帰国したが、地域にはその関係が埋め込まれている。このことから、周囲の人々と日本への移住者とが独自の社会空間を作り上げていることが明らかとなった。以上の結果から、中国系移住者の移動と定着が地域レベルで周囲の人々の目を日本社会へと向ける要囲となっており、さらなる日本への流入が継続していく社会的基盤ができあがってきていることが示された。
著者
青江 誠一郎
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.C57BL/6Jマウス(ワイルド型;+/+マウス)の食餌応答性:ob/+マウスのバックグランドデータを把握する目的で+/+型マウスの食事応答性を検討した。その結果,ワイルド型(+/+)マウスにおいて、高脂肪食負荷は内臓脂肪蓄積を増加させるが、脂肪細胞の機能への影響は弱いと考えられた。2.レプチンノックアウトマウスのヘテロ型(ob/+)とワイルド型(+/+)マウスの食餌応答性の比較:ob/+および+/+雄マウスを評価した結果、いずれのマウスも感度良く飼料の影響が評価できた。本マウスでは遺伝子の因子よりも高脂肪食の影響が強いことが示された。3.ヘテロ型(ob/+)とワイルド型(+/+)マウスを用いた食品素材の評価:大豆リン脂質、卵黄リン脂質を評価した結果,両リン脂質は脂肪細胞の肥大化を抑制した。4.レプチン受容体ノックアウトマウスのヘテロ型(db/+)とワイルド型(+/+)マウスの食餌応答の比較:C57BL/6Jのバックグランドを持つdb/+マウスを作成し、食餌応答性を比較した。その結果、db/+マウスの方がヘテロ型とワイルド型との差が大きく、高脂肪食においてその差が大きかった。5.新規な肥満モデルマウスとしてのSTR/Ortマウスの評価:自然発症変形性膝関節症モデルであるSTR/Ortマウスを評価した結果、通常食においても太りやすく、高脂肪食に対する感度も良かった。6.C57BL/6JマウスとKK/Taマウスを用いた機能性食品素材の評価:C57BL/6JマウスとKK/Taマウスを用いて,機能性食品素材の評価を行った。C57BL/6JマウスとKK/Taマウスが効果の感度がそれぞれ違うため,目的に応じて系統の違うマウスを選定するべきであると考えられた。
著者
池田 潤 乾 秀行 竹内 茂夫 IZRE'EL Shlomo
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

紀元前2-1千年紀の北西セム語文書がXML でマークアップされ、個々の言語データが位置情報を有する言語データベースを検索し、検索結果を地理情報システムに送って地図化するプログラムのパイロット版を作成し、それを用いて事例研究を行った。一例として、動詞語尾-(n)naや定形動詞として用いられる不定詞の地理的分布を可視化し、それらがフェニキア以北から南へ伝播した言語的改新であったという新たな知見を得た。
著者
牧 泰史
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

バクテリアが増殖停止から増殖再開に至るメカニズムを解明することを目的として、様々な生育状態にある細胞を使ったmicroarray解析を進めた。研究には大腸菌をモデル生物として使用した。本研究の結果、増殖再開の初期に多くの遺伝子が発現していること、栄養環境の違いによって増殖停止期の適応状態が異なり、増殖再開期の遺伝子発現プロファイルも互いに違っていること、などが明らかとなった。
著者
畠山 英之
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ミトコンドリア病の一次的病因となりうるミトコンドリア機能傷害を患者組織由来の培養細胞レベルで検出しうる新規な生化学診断技術の創出を目指した。本研究にて確立された網羅的かつ体系的な機能診断技術は、多様なミトコンドリア機能(エネルギー代謝系、酸化ストレス、各種シグナル伝達、アポトーシスの制御)の全体像を分子・タンパク・オルガネラ・細胞レベルで解析可能とし、未知の変異に対する病原性の同定やミトコンドリア病の病態発生機構の解明などにおいて極めて有用であることが示唆された。
著者
大泉 英次 大井 達雄 豊福 裕二
出版者
和歌山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

今日の先進諸国の住宅市場は、持家市場と住宅ストック流通の高度な発達によって特徴づけられる。この成熟した住宅市場は、他方で不安定ならびに格差という性格が顕著である。本研究は、その理由を説明する住宅市場不安定仮説を提起し、これにもとづきイギリス、アメリカ、ドイツ、日本の住宅市場のパフォーマンスを比較した。住宅政策は不安定な住宅市場の管理という困難な課題に直面している。この認識に立って、本研究は日本の住宅市場ガバナンスに求められる政策課題を検討した。
著者
坂田 清美 小野田 敏行 大澤 正樹 丹野 高三
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

先ず、BMIを基本とした小児期の新しい肥満指標を開発し、使用マニュアルを作成した。次に、新しい肥満度評価指標(以下標準BMI法とする)を用いて、岩手県において、児童・生徒の肥満度調査を実施した。その結果岩手県では、全国同様小中高と学年が進むにつれて肥満者の割合が高くなる傾向が認められたと同時に、統計学的には有意ではなかったが市街地よりも山間部、沿岸部において肥満者の割合が高い傾向が認められた。使用の感想たついてまとめると、学年に関係なく利用できること、評価が安定していること、大人と連続して利用可能なことがメリットとして挙げられた。デメリットとしては、慣れていないこと、文部科学省のお墨付きがないことによる不安、パソコンが必要なこと等が挙げられた。また、文部科学省の指標では、学年が一つ上がることにより、身長、体重が変化していないにもかかわらず肥満度が突然上下してしまうことが上げられる。この点については、標準BMI法による方法では、安定して評価するころが可能である。和歌山地区における標準BMI法の活用状況調査結果では、和歌山市の小中養護学校の3分の2の学校において使用しており、使用校の8割ではとても使いやすいと答えている。使っている理由としては、パソコンに入力するたけなので簡単だから、使い方が簡単だから、時間がかからないからが上位を占めた。使っていない理由として多かったのは別の方法を利用しているからで、4分の1を占めた。別の方法としては、ローレル指、日比式、保健室用ソフトなどを使用していた。
著者
笠原 清志 白石 典義 木下 康仁 田中 重好 唐 燕霞 門奈 直樹 中村 良二
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今まで、中国に進出した日系企業では、比較的安定した労使関係が維持されていたが、反日デモ以降当局が厳しい締め付けをしているにもかかわらず、広州、大連といった地域では、大規模な労働紛争やストライキが発生している。2005年10月から翌月にかけて、中国に進出した日系企業の労使関係に関する調査を実施した。調査対象は従業員二百人以上、日本側の出資比率51%以上の日系企業829社(住所変更その他による返送23社を含む)で、有効回答は213社であった。これによると、日系企業の22.1%がストを経験し、主に「賃金や賞与問題」(74.5%)、「雇用問題」(17%)が原因だった。ストの長さは半日以内が34%、一日が38%と比較的短期間で解決している。この間、ストの際に、工会は問題解決に「大変協力的であった」(12.8%)、「協力的であった」(27.7%)と、日系企業の責任者は、工会活動を一般的には高く評価していることがうかがえる。中国では、工会とは関係ないところで突発的にサボタージュやストが発生するという特徴があり、その解決に工会が経営側と一緒に対処しようとする傾向にある。今回の調査でも、工会主席の83%は上・中級の管理者が兼務しており、そもそも一般の労働者の利害が十分に反映されるメカニズムにはなっていない。一定数の党員がいる組織では、外資系企業でも党支部や委員会の設立が党や政府の方針になっている。党支部や委員会は経営には全く関与しないのが建前だが、行政との交渉や企業内でトラブルが生じれば、党書記は公式、非公式を問わず何らかの形で関与する。今後、社会主義市場経済の下で独自の中国的労使関係を確立していくには、欧米型の対決型労使関係モデルよりも、日本的な協調型労使関係モデルが参考になるであろう。すなわち、日本の労使関係で確立してきた「事前協議の徹底」、「雇用維持の努力」、そして「成果の公正な配分」といった慣行やシステムが、工会の労組化に大きく貢献すると思われる。
著者
陳 光輝 加藤 弘之 中兼 和津次 丸川 知雄 唐 成 加藤 弘之 梶谷 懐 大島 一二 陳 光輝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

個票データの利用や収集が容易ではない中国,かつその内陸部農村地域の調査を,四川省社会科学院農業経済研究所の協力を得て行い,同省江油市農村地域206戸×3年,同小金県農村158戸×3年のパネルデータ(3年間継続調査できたのは前者が142戸,後者は127戸)を構築した.中国内陸農村地域の成長・発展は沿海や都市部に比べて伸び悩み,利子補填融資,財政支援,雇用創出等の貧困支援策のほか,現在は「新農村建設」政策が打ち出されている.そうした環境下の住民行動を「開発のミクロ経済学」を理論ベースとして分析し,以下の知見が得られた.1.山間部にある小金県は貧困世帯が多いが,政府からの移転所得は必ずしも貧困家庭のほうが多くを受けとっておらず,貧困支援策がうまく機能していない可能性を示唆している.2.所得水準の低い小金県のほうが道路,電気,水道・水利,医療施設といったインフラの現状に対する満足度は低く,整備を望む度合いが高かった.3.小金県の農業は,より恵まれた江油市のそれに比べて土地生産性が低く,得られる所得も低いが,それ以上に小金県は出稼ぎを含む非農業所得がめだって小さい.4.小金県の出稼ぎが少ない理由として,土地利用権の保障や農家間で土地を貸し借りする制度が十分でなく,出稼ぎのリスクが大きくなっていることが考えられた.5.天候不順などの収入低下ショックに直面した場合,江油市農家は貯蓄の取り崩し,小金県農民は親戚・友人からの借り入れに頼る度合いが大きかった.6.教育の収益率は有意であった.
著者
土屋 由香 戸澤 健次 貴志 俊彦 谷川 建司 栗田 英幸 三澤 真美恵
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

冷戦初期(1950年代を中心に、1970年代初めまで視野に入れて)に、米国の政府諸機関-国務省、陸軍省、広報文化交流庁(USIA)、中央情報局(CIA)など-およびそれらに協力した民間部門-一般企業、ハリウッド映画業界、財団、民間人など-が行った対外広報宣伝政策について国際共同研究を行った。米国側の政策のみならず、韓国、台湾、フィリピン、ラオスにおける受容の問題も取り上げ、共著書『文化冷戦の時代-アメリカとアジア』(国際書院、2009年)にまとめた。
著者
斎藤 晃 宇賀 直樹 宇賀 直樹
出版者
鶴見大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

新生児期アテンションの指標であるNBAS敏活性が18ヶ月における認知課題解決と有意な関連性を示した。そして情動調節機能の指標であるアタッチメント行動が18ヶ月における認知課題解決と有意な関連性を示した。アタッチメント行動と認知課題解決との関連性は,B群児が認知課題を効果的に解決するという欧米の先行研究と一致する。また,脳波前頭部非対称性がアタッチメント行動と有意な関連性があることを示した。
著者
斉藤 晃 多田 裕
出版者
鶴見大学女子短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成6〜9年の3年間で316名の母親(満期産,経膣分娩)にブラゼルトン尺度(NBAS)を依頼し,105名の協力者を得た。この中の48名から家庭訪問の許可が得られ,1,3,6,9,12ヶ月まで家庭訪問を行ったところ,A群5名,B群35名,C群6名,啼泣強く実験中止した児1名であった。A群児はNBASの自律性においてB,C群児と顕著な差を示した。B,C群児の自律性は生後1ヶ月で上昇するが,A群児は生後8日目に一度低下し,その後1ヶ月目に上昇する。自律性は驚愕反射,振戦等から構成されており,A群児は生後1ヶ月間の成熟過程における何らかの一時的停滞を示唆した。アタッチメント形成には母親の敏感性が重要だといわれている(Ainsworth)。本研究では母親の敏感性の一側面であるの啼泣に対する応答性(随伴性)を測定した。その結果,A群児の母親は1年間を通じて他群よりも一貫して応答性が高く,そして児の啼泣時間も短い。Sroufe(1985)は安全性(B群・非B群)は母親の応答性に左右され,A・C群の違いは気質に影響を受ける,と述べた。そしてEgeland and Sroufe(1981)によれば,安全性に影響を与える要因として,肉体的虐待・敵意,無視・養育不足よりも心理的利用不能性(psycological unavailability)の方が大きな影響があったという。しかし我々のA群の母親は他群と比較して明らかに応答的であり,心理的利用性は高い。本研究の被験者は316名中の46名であり,かなり等質な集団,しかも「開放的,肯定的で受容的な母親」にぞくする。従って,アタッチメントパターンは,母親よりも児自身の気質に大きな影響を受けている可能性大である。そうであれば,彼らが見せたアタッチメントパターンは,ある狭い幅の,すなわち児にとって良好な環境において成長した児が見せる気質的特徴を反映したものだと考えられる。
著者
河田 興 伊藤 進 磯部 健一 日下 隆 大久保 賢介 安田 真之
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

2004年10-12月に香川大学医学部附属病院で出産した新生児33名およびその母親32名について、カフェイン及びメチルキサンチン血中濃度測定を行った。分娩時の母体血、娩出時の臍帯から得られた臍帯静脈、日齢2、日齢5に新生児血を採取し高速液体クロマトグラフィーで測定した。臍帯静脈血中カフェイン濃度が4mg/L以上の12名、臍帯静脈血中カフェイン濃度が4mg/L未満の21名の2群について日齢2、日齢5に行ったブラゼルトン新生児行動評価法について比較検討した。母体血と臍帯静脈血のカフェイン濃度の比較はWilcoxon順位検定で行った。母体血と膀帯静脈血のカフェイン/カフェイン及びその代謝物の和の比を比較した。その比較はpaired t検定で行った。母体血と臍帯静脈血のカフェイン及び代謝物濃度比(カフェイン/総メチルキサンチン)はそれぞれ0.68±0.13、0.69±0.14(平均±標準偏差)で差を認めなかった(p=0.469)。母体血カフェイン濃度と臍帯静脈血カフェイン濃度は対数変換後の換算値の平均値及び標準偏差値で1.47±1.87mg/L、1.73±1.76mg/Lであった(P=0.078)。更に、臍帯血濃度、日齢2血中濃度、日齢5血中濃度を測定し、新生児カフェイン消失半減期を求めた。新生児カフェイン消失半減期が14日以上は10名とで14日未満は23名であった。分娩前に母体に摂取されたカフェインを臍帯血カフェイン濃度の高低で検討すると、そのカフェイン濃度が日齢2と5の新生児行動の方位反応に影響することが示された(p=0.076)。
著者
大城 昌平 藤本 栄子 小島 千枝子 中路 純子 池田 泰子 水池 千尋 飯嶋 重雄 福永 博文
出版者
聖隷クリストファー大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、ハイリスク児の出生早期からの発達と育児支援の方法を開発し、フォローアップシステムを構築することを目的とした。その結果、出生早期からの親子の関係性を視点とした"family centered care"によるディベロップメンタルケアの取り組みが、児の行動発達、両親の心理的安定、育児の自信につながることが示された。また、そのような取り組みには、関係専門職者に対する、ディベロップメンタルケアの理論的実践的な教育の機会を提供し、低出生体重児・早産児のケアの質を改善することが急務の課題であると考えられた。
著者
平岡 義和
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、聞き取り調査とその分析を中心にして、水俣病が生起した時期において、人々が水俣病をどのようなものととらえていたのか、当時の生活の変容とともに考察する試みである。その中で、多くの人々が、危険なのは弱った魚であるといった日常知に基づく解釈のもと、魚介類を食べ続けたことが明らかになった。また、この時代は、水俣においても、都市的生活様式の普及が急速に進み、地縁、血縁が希薄化し、家族の独立性が高まったことが示唆された。
著者
佐藤 徹
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

体育授業において、生徒に教材の運動を習得させる際には、動きのメカニズムや生理的機能の説明をするのではなく、自分の身体で動きのコツをつかませることが必要である。本研究の目的は、動きのコツをつかむことの内実を明らかにし、コツの獲得が効果的に実現される体育授業の方法を開発するための理論的基礎を探求することにある。従来、運動の研究は動きを外から見た特徴を分析するいわゆる科学的手法が主流であったが、それだけでは生命ある人間の運動の研究として不十分であることから、本研究では、フッサールの意味での発生現象学の方法を土台として、運動を実施している人間の内的過程を重点的に考察した。動きのコツをつかませるための方策を考えるにあたり、コツがうまくつかめない生徒は運動習得の過程においてどのような特徴があるのかを重点的に考察した。また、運動実施者がコツをつかむということは、新たな動きを発生させることであることから、動きを覚えさせるために効果的な言語指示のあり方などを研究した。上記の観点から、体育授業で行われるさまざまなスポーツ運動に関して事例的に考察を進めた結果、コツを指導するためには,他者の動きを外部から観察した情報に基づくだけでは不十分であり,指導者自身の運動経験や指導経験,なかでも運動感覚意識を形成していく努力が不可欠であることが分かった。具体的な研究事例に関しては、学会発表ならびに論文として公開された。
著者
山口 かおる
出版者
福井大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

○研究目的:幼児の体力や運動技能を高めるために、どのような遊具や体操が効果的であるか考え、教育課程の中に取り入れて実践してみた。○研究方法:遊具は、オリジナルの遊具を考案した。この遊具は、目的に応じて、ブランコや登り棒、ハンモック・はしご・吊り輪などのパーツを組み替えて使うことができる。この遊具を好きな遊びの時間に取り入れて遊んだ。オリジナル体操は、五十嵐淳子先生を講師に招き、各学年に応じた動きを取り入れて作成し、運動会の開会式に行った。この他にも、定期的に淳子先生を招き、学年ごとのみんなの時間に体を動かす活動を行った。遠足にも一緒に来ていただき、親子で踊ったり、ゲームをしたりして過ごした。○研究成果:オリジナルの遊具ができたことで、ブランコ遊びや登り棒など新しい遊びに挑戦する幼児が多くなった。特に、竹の登り棒で、腕や足で登っていく力をつけたり、吊り輪にぶらさがり、一回転する力をつけたりできた。また、揺れるはしごを自分の力で登ろうと挑戦する幼児も出てきた。この遊具を用いながら、忍者の修行ごっこを楽しむ幼児も出てきて、楽しみながら体を動かして遊ぶことができた。運動技能も高まったものと思われる。また、オリジナル体操をしたり、淳子先生から様々な動きを教えてもらったりすることで、体を動かすことは楽しいと感じる幼児が増えてきた。体操は、腕を伸ばす・回す・ジャンプするなど様々な動きを取り入れており、幼児が普段はしないような身のこなし方を教えてもらうことができた。
著者
佐々木 衞 聶 莉莉 園田 茂人 伊藤 亜人
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1,研究の目的中国朝鮮族家族の移住と定住、そして民族的アイデンティティの自覚とエスニシティの形成を、大都市に移住した家族と個人を対象に研究調査した。調査実施地は、北京、青島、上海、深〓および韓国ソウルであった。2,調査概要主な調査内容は次のものであった。(1)都市に居住する中国朝鮮族の移動と就業状況について、政府機関や報道機関および大学に勤務するもの、私営企業家、都市に出稼ぎに出てきている家族を訪問し、インタビュー記録を整理した。(2)韓国ソウルでの海外出稼ぎ者に対する訪問調査とその支援組織の活動を調査した。(3)延辺朝鮮族自治州創立50周年記念事業、青島における中国朝鮮族の運動会、朝鮮族学校など大都市における民族的な文化活動を調査した。3,調査から得られた暫定的な知見(1)都市への移動者(1)都市への移動は学歴・職歴が鍵になっている。大学卒業者もしくは軍隊経験者は、新しく企業を始めるにも文化的な資原を経済的な資源に転換している。これに対して、一般の地方出身者の多くは雑業層に就く。(2)「運動会」の挙行は、移住地にあらたな絆と凝集を構成する機会を提供している。(3)出稼ぎ者が集住する地域は、アメリカ社会学のシカゴ学派がtransition zone(推移地帯)と見なす地域である。(2)家族・親族の絆の再構成(1)同郷・親族ネットワークが相互支援のために不可欠の役割を果たしている。(2)誕生日や還暦の祝いが活発になっているが、家族における儒教的構成原理を状況主義的に再構成している。(3)エスニシティの構造(1)朝鮮族が「故郷」としての北朝鮮から自立的な立場を確立し、また、中国で生きる手段として中国語の習得を選択しているが、これらは「脱朝鮮族」の傾向を生んでいる。(2)他方では、朝鮮族であることが、韓国チャンネルとの接点を作り経済的な新たなチャンスとなっている。韓国にたいして「同胞」としての優遇を期待することも強くなっている。(3)中国朝鮮族としての自覚が高まっているとすれば、一種の「再朝鮮族」を見ることもできよう。4,これからの展開以上の研究成果をふまえて、論文集の刊行を計画している。