著者
豊泉 清浩
出版者
文教大学
雑誌
教育学部紀要 = Annual Report of The Faculty of Education (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.27-38, 2015-12-20

「特別の教科道徳」に対する期待とともに批判もある現状を踏まえ、改めてわが国の道徳教育の歴史について考察し、学校における道徳教育の意義について検討するのが、本稿の目的である。本稿では、明治期の修身科の成立から、第二次世界大戦が終結するまでの期間の道徳教育の歴史を、教科書の歴史と関連づけて考察する。戦前の修身教科書は、翻訳教科書の時代から、検定教科書の時代を経て、国定教科書の時代へと変遷していった。国定修身書にも、近代的社会倫理、基本的な自由の権利、市民的連帯、近代的職業倫理、国際協調、国際平和など、戦後の民主主義や平和主義につながる内容が見られる時期もあったが、一貫してその根底にあったのは、国体重視を基調とする国家主義であった。明治期を経て、大正デモクラシーの時代が過ぎ、やがて軍国主義・超国家主義の時期を迎える歴史の流れを、修身科に焦点を当てて概観する。
著者
田原 範子
出版者
四天王寺大学大学院
雑誌
四天王寺大学大学院研究論集 (ISSN:18836364)
巻号頁・発行日
no.12, pp.49-66, 2018-03-20

国立ハンセン病療養所「松丘保養園」に暮らす滝田十和男さんのライフヒストリーである。滝田十和男さんは、1925(大正14)年、福島県で生まれた。10 歳の頃にハンセン病を発症し、1937(昭和12)年9月21 日、12 歳の時、同じくハンセン病を発症した父親と一緒に警察に付き添われて強制的に北部保養院に入所した。その後、療養所内の小学校を卒業し、患者の介護や療養所内のさまざまな仕事に従事した。療養所を飛び出し外で行商をしたり、精密機械工組み立ての仕事をしたりした後、手足の麻痺が進んだこともあり、東北新生園へと再入所し、戦争中の厳しい時を生き抜き、知り合いを頼って再び松丘保養園に戻った。若い頃に「生きた証として形に遺せるものは短歌くらいしかない」と始めた短歌は、その才能を認められて、北部保養院で初めて1956 年に歌集を出版することになった。歌人であり、俳人でもあった。松丘ではプロミン獲得運動の委員、盲人会の書記、カトリック教会信徒会の世話役なども務めた。 滝田さんは私たちの来訪を快く受け入れ、体調を気にする看護師や職員の心配をよそに、自身の経験や療養所のできごとを語った。その記憶の鮮明さ、語る言葉の芳醇なことに私たち聞き手は驚いた。聞き取り時間は、2015 年9 月2 日に1 時間30 分、9 月3 日に52 分であった。聞き手は、平田勝政1)、和田謙一郎2)、田原範子3)である。聞き取り時点で滝田十和男さんは90 歳であった。その後、2016 年2 月2 日に1 時間10 分、2 月3 日に4 時間15 分の聞き取りを行った。聞き手は平田勝政、田原範子であり、いずれも病棟の待合室で行った。滝田さんの語りからは常に、今、生きていることへの感謝、人間が生きることへの敬意が感じられた。それは、「療養所にいて、ほんとにかわいそうな人生送ったっていう風に思われるかもしれないけども、療養所は療養所なりに、やっぱり人間の生きる社会ですから、生きた社会ですから、それなりにね。やっぱり人間として生かしてもらってありがたいなー」という言葉に凝縮されている。聞き取りはIC レコーダーで録音し、後日、松下かおり(四天王寺大学卒業生)が音声を文字データとし、田原が最終チェックを行った。 滝田十和男さんは2016 年8 月17 日、91 歳で永眠された。松丘保養園の川西園長によれば、8 月19 日に園内の松丘カトリック教会で告別ミサが執り行われた。福島から数名の親族が来て、交流のあった人びとや入所者、職員が多数参列して滝田さんに相応しいとてもよい告別式だったという。2016 年2 月2 日、平田と田原は、納骨堂のなかの滝田さんの骨壺を拝むことができた。本稿では、2015 年9 月の聞き取り調査にもとづいてライフヒストリーを記す4)。
著者
林 政喜 隅田 康明 合志 和晃 松永 勝也
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.459-469, 2014-01-15

自動車運行における衝突事故は,当該車両の停止距離よりも進行方向の障害物までの距離(進行方向空間距離,または車間距離)が短い場合に発生する.衝突事故防止のためには,それぞれの車両の運転者は停止距離よりも長い車間距離を保持して走行することが必要である.ところが,現実には多くの運転者が停止距離よりも短い車間距離で走行している.多くの運転者が短い車間距離で走行している要因の1つとして,運転者が無意識的あるいは意識的にできる限り早く目的地に到着するようにできるだけ高い速度走行しようとするような先急ぎ運転をしていることが考えられる.これは,運転者が先急ぎ運転による旅行時間の短縮という利益を優先し,不安全な先急ぎ運転を選択した結果とも考えられる.先急ぎ運転による事故防止のためには,運転者に先急ぎ運転による利益よりも不利益の方が大であることを理解させ,平素の運転において十分な車間距離を保持した運転を繰り返し訓練していくことが有効であると考えられる.そこで,運転時の移動効率(旅行時間)とその運転における安全度(危険度)を記録・分析できるシステムの開発を行った.また,公道上のコースを走行する実験を行い,運転行動の記録,評価,詳細分析を行った.その結果,先急ぎ運転で得られる時間的利益は平均6.6%であったが統計的に有意な差ではなかった.これに対して,先急ぎ運転による運転時の不安全度は平均37.1ポイント増加し,また,主観調査によって先急ぎ運転の方が大きな危険感,疲労感,緊張感を感じていたことを明らかにした.本システムによって,平素の運転の危険度を提示することで,日々の運転を通して自然に安全運転習慣の形成が可能であると考えられる.
著者
河野 博 植原 望
出版者
東京海洋大学
雑誌
東京海洋大学研究報告 = Journal of the Tokyo University of Marine Science and Technology (ISSN:21890951)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.16-35, 2017-02-28

The fish transparent specimens were applied to a study of the evolution through the observation of jaw arches of the cartilaginous and bony fishes, and its effectiveness was investigated by the pre- and post- intervention questionnaire. The research examined 48 participants in the four learning interventions, the age ranging from 13 to 76 with a mean of 29.9 years old( n=47, because one articipant did not describe the age)and the sex ratio being 27 females and 21 males. The program was composed of the followings: how to use the microscope; the basic knowledge of bones such as the kinds of bone, how to make specimens for bone observation, history and methods to make transparent specimens; main observation 1, jaw arches of cartilaginous and bony fi shes; and main observation 2, relationships between fi sh jaws and our auditory ossicles, known as the Theory of Reichert. The participants were significantly more concerned about the evolution of fish jaws to our auditory ossicles after the intervention, indicating that the transparent specimens and observation objects related to the Theory of Reichert would be suitable for the study of evolution. The picturesque transparent specimens attracting the participants would be a good resource of science education.透明骨格二重染色標本が、理科教育、とくに進化の理解を深めるための教材として有効かどうかを、事前と事後のアンケートにもとづいて調査した。対象としたのは、4 つのイベントに参加した13歳から76歳の男性21名、女性27名、計48名である。プログラムは、顕微鏡の使い方と透明標本の基礎知識(骨の種類、骨格を観察するための方法、透明標本の作製方法と歴史)、および二つからなる主題の観察(サメの顎と魚の顎、および私たちとの関係[ライヘルト説])の順に進めた。アンケートによって、ほぼ全員が、透明標本を観察することによって魚類の顎の骨格と私たちの中耳骨との関係であるライヘルト説を理解したことが判明した。さらに自由記述では、進化自体の驚きや魚と私たちの系統関係、さらには透明標本の美しさに興味津々であることがうかがえた。
著者
大浦圭一郎 南角吉彦 徳田恵一
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2013-MUS-99, no.52, pp.1-3, 2013-05-04

近年,音声合成関連の研究分野では,統計的パラメトリック音声合成と呼ばれる統計モデルに基づいた手法が広く研究されている.この中でも,統計モデルとして隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model; HMM)を用いるHMM音声合成方式は,理論的に整理されたアルゴリズムと利用しやすいソフトウェアツールが公開されており,広く普及してきている.従来の波形接続方式と比較するとHMM音声合成方式は,発話の癖の再現や感情音声合成などの多様性,さらにそのフットプリントの小ささや言語依存性の低さなど,多くの優位性を持っている.一方,歌声合成関連の研究分野では従来の波形接続方式が広く用いられているものの,HMM音声合成方式も徐々に使われてきている.このような流れの中,我々はSinsyと名付けたHMM歌声合成システムを構築し,そのオンラインデモを公開した.本稿ではHMM歌声合成方式を紹介し,現状のSinsyのサービスや,今後の展望等を述べる.
著者
高澤 亮平 坂本 一憲 鷲崎 弘宜 深澤 良彰
雑誌
第77回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, no.1, pp.307-308, 2015-03-17

「プログラミングには性格が表れる」と言われるが、実証された例や科学的な根拠は見つかっていない。そこで我々は、競技プログラミングに興味のある人々を対象とした大規模なアンケートを行い、エゴグラム診断を用いて性格の分析を行った。この結果をもとに、プログラミングへの興味と性格の間の相関を分析した。その結果、一部の質問や性格に関して相関が現れることが明らかとなった。また、ソースコードと性格に関しても分析を行うことで、プログラミングと心理的な側面の関係についても考察した。
著者
辻 麻美 飯倉 麻子 小舘 亮之 石井 大祐 下村 道夫
雑誌
研究報告オーディオビジュアル複合情報処理(AVM)
巻号頁・発行日
vol.2013-AVM-80, no.2, pp.1-5, 2013-02-15

新たに読み始めようとする書籍を選ぶ際の手がかりとする情報は多様である.例えば,ジャンルや作家名などの情報以外に,表紙のデザイン,とりわけ絵を楽しむ漫画の場合は,登場人物の顔などの画像的特徴を手がかりとして選ぶ方法もある.本研究では,漫画ならではの特徴が表れると想定される顔要素の特徴量をベースとする漫画作品推奨システムを提案し,そのための基礎検討として,顔パーツ特徴量の算出方法について検討する.
著者
加藤 直人 池辺 将之 本久 順一 下山 荘介
雑誌
研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM)
巻号頁・発行日
vol.2012-CVIM-182, no.18, pp.1-6, 2012-05-16

本稿では局所ヒストグラム平坦化を基にしたダイナミックレンジ圧縮技術の自動制御手法を提案する.局所ヒストグラム平坦化ではフィルタカーネル毎のヒストグラムを用いて補正関数を生成する.フィルタカーネル内の輝度値に偏りが大きい場合,補正関数の勾配が急になり不自然なコントラスト強調を招く.我々は今までに,補正関数の変動域に対して上限値と下限値を設定し,変動域を制限する手法を提案してきた.本研究は,画像の情報を利用して上限値と下限値を自動的に決定することを目的とする.特に今回の報告では,夜景画像を対象とし,その補正において影響が大きい上限値を決定した.夜景画像の補正指針として,主に,暗い領域を良好に認識できるように補正すること,光源等の比較的明るい領域を適切な明るさに補正することを考慮した.指針を基に上限値を手動で決定したところ,画像のヒストグラムとエッジ量が上限値の決定に寄与しているという知見を得た.提案手法では,この知見に基づいて上限値の自動化を行なった.主観評価を行ったところ,提案手法は既存手法に比べ,画像補正が適切であるいう結果が得られた.
著者
小寺 敦之
雑誌
社会情報学研究 = Journal of socio-information studies (ISSN:13429604)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-14, 2012

Internet video sharing websites such as YouTube have some possibilities to change the way of choosing or using traditional media. This study investigates uses and gratifica-tions of YouTube and its impact on media preference, especially television.The questionnaire survey was conducted on 447 undergraduates. Factor analysis iden-tified four gratifications (convenience, information, reproducibility, communication) and three content types (home video, entertainment program, social information).All users were divided into three groups (high-gratifications, partial-gratifications, low-gratifications) by cluster analysis. Partial-gratifications users watched entertain-ment program limitedly with convenience and reproducibility gratifications, and they were less interactive online.But this study found no evidence that YouTube generated negative impact on watching television and other media preference. YouTube users spent more time on television or other media than non-users. High-gratifications and partial-gratifications users spent more time on television and had higher television affinity than low-gratifications users. YouTube may play complementary role in Japanese youth at present.
著者
岡部 康成 木島 恒一 佐藤 徳 山下 雅子 丹治 哲雄
出版者
文教大学
雑誌
人間科学研究 = Bulletin of Human Science (ISSN:03882152)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.145-151, 2004-12-01

Until recently, the measurement of attitudes and beliefs has been limited to self-report questionnaires. The use of such measure unrealistically assumes that all the participants have both the ability and the motivation to report their attitudes and beliefs accurately. Recently, Greenwald, McGhee, and Schwartz (1998) developed the implicit association test (IAT) to overcome such limits inherent in self-report measures by examining attitudes and beliefs that lie outside conscious awareness and control. In the present study, we assessed implicit attitudes towards the supernatural power using two versions of IAT; the commonly used personal computer (PC) version and the recently developed paper and pencil version. Thirty-six undergraduates participated. Participants equally demonstrated negative attitudes towards supernatural power in either version. Moreover, the implicit attitudes indexes in the paper and pencil version were highly correlated with those in the PC version. These results suggest that the paper and pencil version of IAT can stand up to the use as more convenient method.\n本研究は、青少年の持つ非合理現象信奉の一つである超能力信奉傾向について測定する潜在連合テスト(IAT)の開発を主な目的としている。IATとは、近年、グリンワルドらによって提唱された質問紙法とは異なる方法によって認知構造を測定する技法である。一般的にはパーソナル・コンピュータを用いて測定が行われるが、紙筆版による測定も可能である。紙筆版IATは一度に大量のデータを収集する場合などにには有効な方法と考えられる。我々は青少年の超能力信奉について測定するIATの開発過程で、一般的なPC版IATと紙筆版IATを作成し、紙筆版IATの妥当性についても併せて検討してみた。今回の報告では、PC版及び紙筆版IATの結果からみた大学生の超能力信奉傾向について、また、今回作成した紙筆版IATの妥当性について報告する。