著者
黒澤 美枝子
出版者
国際医療福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

体表への触刺激は心地よさ、リラックス効果、不安・抑うつ感の軽減作用などを有することから、薬物療法を補助する療法として臨床的にも注目されている。その効果には脳内のドーパミンやセロトニンが関与する可能性が示唆されているが、これまでそれを直接証明した研究はなかった。我々は、皮膚に加えた触刺激によって、快感や動機付けの発生に密接に関わる「側坐核のドーパミンの放出」が増加すること、一方、嫌悪感や不安の発生に重要な「扁桃体のセロトニン放出」が逆に減少することを、ラットにおいて明らかにした。
著者
片平 正人
出版者
横浜市立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

Musashiタンパク質のタンデムな2つのRNA結合ドメインと標的RNAの複合体に関して、構造解析を行った。まずRNAとの結合状態にあるMusashiの2つのドメインの構造を、NOE等に基づいて決定できた。次に2つのドメインの相対配向を、残余双極子結合に基づいてイ決定した。さらに長さを変えた様々なRNAを利用する事でMusashiとRNAの間の分子間NOEの同定に成功し、それに基づいた複合体の構造決定を進行させた。常磁性緩和効果による惣ングレンジの構造情報の取得も試みた。テロメア配列のDNA/RNA結合タンパク質hnRNPA1のタンデムな2つの核酸結合ドメインが、テロメアDNA及びテロメレースRNAとどのような様式で相互作用するのかを明らかにした。これにより同タンパク質によるテロメレースのテロメアDNAへのリクルート機構に関する構造学的な基盤が得られた。またRNAi法を用いてhnRNPA1タンパク質及びhnRNPDタンパク質をノックダウンした細胞におけるテロメア長を測定する事で、両タンパク質の機能に直接迫った。ヒトのテロメアDNAが生理的なイオン条件下(カリウムイオンに富んだイオン条件下)において形成する特異な4重鎖構造の決定に成功した。これまで考えられていたものとは異なる新規構造が見出され、分子内の構造体でありながら、3本の鎖が平行に配置され、残り1本のみが反平行に配置されていた。
著者
三田 肇
出版者
福岡工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

立体構造が制御された核酸中の特定の部位に、機能発現を誘起させるための分子を配置することにより、高度に設計された新規機能性材料を合成することを目指した研究を進めた。本研究期間では、テロメア部位のモチーフ配列d(TTAG3)がK^+存在下で形成するパラレル四重らせん構造に補欠分子族であるヘムを組み込んだヘム-核酸複合体を合成し、外部配位子の配位や酸化還元特性とその制御機構の解析を行った。さらに、四重鎖DNAのダイマー化反応などを利用し、2つのヘムを組み込み、ヘム間距離を変えたヘム-核酸複合体の形成について検証した。四重鎖DNA中にヘムを組み込んだヘム-核酸複合体を構築可能なことを明らかにした。ヘム-核酸複合体は、分光学的性質がヘムタンパク質・ミオグロビンに類似しており、様々な化合物を軸配位子として結合し、酸化還元応答も得られることが明らかとなった。また、Mg^<2+>イオンなどの存在により安定なダイマー構造をとることや、塩基配列を選択することによりモノマー中に2つのヘムを組み込むことが可能なことも明らかとなった。さらに、2つの異なるダイマーを形成する四重鎖DNAを組み合わせることにより、ヘテロダイマーを構築することも可能であることが明らかとなった。以上のことより、異なる軸配位子をもったヘムを特定の距離に配置することが、このヘム-核酸複合体では可能になることを示した。
著者
河本 浩明
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,下肢の歩行障害をもつ方を対象に,人間と機械を一体化させ人間の身体機能を強化・拡張・補助するロボットスーツHALの受動的動作(ロボット的自律制御)と能動的動作(随意制御)を活用し,脳の運動学習過程に立脚した歩行機能再建支援システムの開発を行った.実証試験の結果,歩行能力,及びバランス能力の改善が認められ,本システムによる歩行機能再建の可能性が示唆された.
著者
河本 晴雄 坂 志朗
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

木質バイオマスからCOとH_2(合成ガス)を製造することができれば、従来天然ガスベースで行われている触媒での変換を組み合わせることで、現在石油より製造されている燃料、ケミカルスを木質バイオマスより製造することが可能になる。本研究課題は、一番のネックとなっているクリーンガス化(特にCO生産)に着目したものである。平成22年度の研究では、以下の成果が得られた。木材多糖より生成する代表的な揮発性熱分解物であるレボグルコサン、グリコールアルデヒド、ヒドロキシアセトン、蟻酸などはコーク(気相での炭化物)を生成することなく、CO、H_2、CH_4へと変換されることが昨年度の研究で示された。本年度は、これらのガスへの変換機構について検討した結果、水素の引き抜きにより生成するラジカル種の崩壊(β-開裂、α-開裂)による経路が重要な機構であることが示唆された。また、これらの熱分解物をガス状物質として気相に保つことで、脱水反応やグリコシル化反応などの酸性条件で進行する反応が抑制されたが、これについては、これらの反応を触媒する水酸基間の水素結合が気相では抑制されることによる機構が提案された。さらに、気相で効率的にCOとH_2へと変換するためには、本研究で使用してきたPyrexガラス管製の反応器の最高温度である600℃よりも高温での反応、あるいはラジカル生成を目的とした触媒の利用が有効であることが示された。これらの研究成果を基に、2台の管状炉を用いることで熱分解物を与える一次熱分解過程とこれら一次熱分解物の二次分解過程を異なった温度で加熱でき、なおかつ二次分解過程を触媒を作用させながら1000℃までの高温域で検討可能な二段階加熱装置を設計・試作するに至った。
著者
福本 義憲 園田 みどり 中居 実 古屋 裕一 黒子 康弘
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ドイツ語圏における第一次大戦期から第二次大戦後にいたる社会文化的なディスクルスの形成と再生産のプロセスを解明するために、研究実施計画に示された枠組みにしたがって、福本、古屋、黒子は社会文化的ディスクルスの形成における「認知的・道具的合理性」および「道徳的・実践的合理性」レベルについての理論的・個別的研究に従事し、中居、園田は「美的・実践的合理性」レベルでの諸現象の研究を行った。研究素材は、1910年から1960年までのほぼ50年間の、ドイツ語圏の各種メディア(新聞・雑誌・文学を含む文字メディア、さらに演劇・歌謡・美術などの芸術メディア、映画・ラジオ・TVなどの技術メディア)に広く渉猟し、その中で上記の理論的枠組みに照らして重要でありかつ時代と地域的特徴をよく表していると思われるものを取り上げて、各人が詳しく分析を試みた。福本は、社会文化的事象のディスクルス分析の理論的考察(「テクスト・ディスクルス・ディスクルス分析」)を行うとともに、第一次大戦前後の権力(Macht)をめぐるディスクルスの形成と再生産の過程を解明するため、特にチューリッヒ・ダダの反市民的ディスクルスの特徴を体現しているヴァルター・ゼルナーを取り上げ具体的かつ詳しく論じた。中居はウィーンのリートの特徴分析を行い、民衆歌謡における社会文化的ディスクルスの形成とその再生産の事情を明らかにした。園田は劇作家カール・ツックマイアーの『ケーペニクの大尉』を取り上げ、「制服」のディスクルス装置を第二帝政期ヴィルヘルム二世統治下のベルリンの時代と地域性と照らし合わせて詳しく論じた。黒子は、メディア現象のエコノミー、自然科学の文化主義的理解、技術的装置と言語の関係などについて、ハーバーマス=スローターダイク論争に即して論じた。その際、黒子は、20世紀の科学技術およびそれをめぐるディスクルスを、ローマ時代に淵源を持つフマニスムスにつながる問題として問い直すとともに、このフマニスムスの問いを発展させ、ゲーテに始まる「世界文学」ディスクルスのもつ社会・経済・文化史的な射程を、マルクス、ブレヒトにおける再編成を通して究明した。古屋は、ベンヤミンのメディア概念の現代的射程をめぐって考察するとともに、マルクス・バウアー『伝達のただ中-ヴァルター・ベンヤミンのメディア概念-』翻訳と注解を行うことで、ベンヤミン研究に貢献を果たした
著者
泰松 齊
出版者
秋田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

WCに2.5 vol%以上SiCを添加することでWCの焼結性が改善された。WC-4.85 mol% SiCセラミックスは1900℃の無加圧焼結で十分緻密化するが, WC粒径が7μm以上となり, 硬さが低下した。VC 添加は粒成長の抑制には効果的であるが, 焼結を阻害し, 常圧焼結には適さなかった。Cr_3C_2の添加は粒成長を抑制するとともに, 少量添加で, 焼結性を向上させ, 緻密な焼結体の1800℃での作製を可能とした。
著者
高山 洋一郎 藤田 孝之 前中 一介
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ワイヤレス通信システムの普及・高度化に伴い,広ダイナミックレンジの高効率,低ひずみ特性の可能性を持つ送信用マイクロ波電力増幅器としてドハティ増幅器が注目されている.ドハティ増幅器は,B級動作のキャリア増幅器およびC級動作のピーク増幅器を直接結合して,低RF電力レベルでキャリア増幅器(CA)の特性を,高RF電力レベルでピーク増幅器(PA)の特性を取り出して,低RFレベルから高RFレベルにわたって優れた特性を実現しようとする増幅器である,しかしながら,2台の増幅器の一般的な直接合成特性の解析・設計理論は確立していなかった.本研究者らは,マイクロ波域での電力増幅器の解析・設計に適応できる理論を提案し,Si MOSFET電力増幅器を設計製作してその有効性を示した.まず,ドハティ増幅器を構成するCAおよびPAへのRF入力信号が等分配の場合について詳細な検討を行った後,本研究者らが提案したより一般的な出力合成回路構成法およびその設計法を拡張して,CAおよびPAへのRF入力信号の配分が等分配でない場合の一般的なマイクロ波ドハティ増幅器回路の設計法を検討提示した.この設計法によりRF入力電力分配比率を変えた場合のドハティ増幅特性を検討し,より高性能のドハティ増幅器構成法の可能性を示した.入力不等分配回路は直接分配型およびウイルキンソン型を試作検討した.アイソレーションがない直接分配型は安定性に課題があるため,ウィルキンソン分配回路により1GHz帯2WクラスのSiMOSFET電力増幅器を製作評価して詳細な検討を行った.その結果,不等分配によりさらに低レベルでの効率の向上を期待できる広ダイナミック特性入出力を確認した.
著者
郭 伸
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)脊髄運動ニューロンに見出された疾患特異的分子異常を再現する動物モデルであるコンディショナルADAR2ノックアウトマウスを用いて、運動ニューロンの脳神経核におけるADAR2ノックアウトによるCa^<2+>透過性AMPA受容体の発現と神経細胞死との関連を調べた。コリン作動性ニューロンが局在する脳神経核では、対照群では100%に保たれていたGluR2 Q/R部位のRNA編集率が90%以下に低下していた。細胞数算定により統計的に有意な神経細胞脱落が明らかになったが、外眼筋神経核では細胞脱落、グリオーシスが見られなかったことから、運動ニューロンはADAR2鉄損により細胞死に陥るが、外眼筋神経核の運動ニューロンはこのメカニズムによる細胞死に抵抗性であることが明らかになった。ADAR2のノックアウトによる運動ニューロン死は、未編集型GluR2をサブユニットに含むCa^<2+>透過性AMPA受容体の増加による細胞内Ca^<2+>濃度の上昇によると考えられる。外眼筋運動ニューロンではCa^<2+>結合蛋白であるParvalbuminの発現量が多く、Ca^<2+>流入によるCa^<2+>濃度の上昇が抑制されることが細胞死に抵抗性である一因であると考えられた。ADAR2ノックアウトマウスの脊髄のWestern blotting解析により、運動ニューロン死には、アポトーシス、それもミトコンドリア障害を介するintrinsic apoptosis経路よりextrinsic apoptosis経路の活性化、オートファジー経路の活性化の関与もあると考えられる。ADAR2ノックアウトマウスは、孤発性ALS様の神経細胞死を呈するので、細胞死カスケードを更に詳しく調べることでALSの病因解析のためのツールになると考えられる。
著者
松永 昭一 山内 勝也 小栗 清
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では統計的手法に基づき正常肺音と異常肺音を識別する手法の研究を行った.本手法の特徴は異常肺音を正確に検出するために,音響特徴を扱うための統計モデルと,呼気/吸気に含まれる音響的特徴セグメントの生起順序に関する統計モデルを用いる.また,韻律情報を用いて乳児の情動クラスを推定する手法の研究を行った.本手法の特徴は泣き声のセグメントと無音セグメントの継続時間の割合を韻律情報として用いることであり,従来のスペクトル情報を用いた手法より識別性能が大きく向上した.
著者
中嶋 康文 上野 博司 溝部 俊樹 橋本 悟
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

血液単球系細胞からのTissue Factor(組織因子)の放出にRaf-MEK-ERK1/2pathway 及びその下流の転写因子Egr-1の関与がRNA 干渉法による遺伝子ノックダウン手技を用いて示唆された。クロドロネート前処理することで、血液中の単球系細胞を抑制したマウスにこれらの遺伝子ノックダウン単球系細胞を注入後、肺梗塞モデルマウスを用いて、肺梗塞の重症度及び生存率を検討したところ、Tissue Factorの発現、炎症系が抑制されることで重症度と生存率が改善した。
著者
石井 勝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

1.夏季に下向きリーダが先行する複数の落雷が期待できる鉄塔の近傍での電磁界観測を、栃木県鹿沼市において平成16年度、17年度の夏季に実施した。電磁界観測装置は、電流測定・カメラ観測のため計装されている100m級UHV送電鉄塔から100m程度の場所に設営し、無人で24時間運転された。しかしこの鉄塔での雷電流観測記録は得られず、至近距離の雷撃の電磁界データの取得も叶わなかった。この観測は世界のどこでも試みられておらず、きわめて意義深く重要なので、科学研究費による研究期間終了後も、鉄塔での電流観測が続けられる限り継続する計画である。2.大地に直接落雷した場合と高構造物に落雷した場合の、放電路の等価性において矛盾がないと考えられる帰還雷撃の電磁界モデルを新たに提案し、それを用いて高鉄塔に落雷があった際の近傍の電磁界の発生様相を解析した。鉄塔近傍の数百mの範囲では、鉄塔の影響は電界、磁界で全く異なった様相を示すことが計算上予測される。電流、近傍の電界、磁界の同時計測が1度でも実現すれば、このモデルの妥当性が明らかになり、応用面で重要な、高構造物の遠方電磁界への影響についての議論にも終止符が打たれる。3.公表されたロケット誘雷近傍の電磁界の観測結果を用いて、観測結果をかなりよく再現できる工学モデルを得た。後続雷撃の帰還雷撃電流波は、地上数mの上向き・下向きリーダの結合点から大地と上方に向けて進行を開始し、その速度は光速の数分の1で、大地面で電流波の反射が生じていることが推測される。4.新たに提案した帰還雷撃の工学モデルと、第1帰還雷撃の特徴の、やや長い電流波頭長を組み合わせると、遠方の電磁界波高値と電流波高値の関係が、電流波頭長の短い後続雷撃とは異なってくることを見出した。これが電磁界観測により確認されれば、第1帰還雷撃電流の直接測定と電磁界による推定の相違点が解消される。
著者
小林 孝一
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では,ハイブリッドシステムの制御における計算の効率化に取り組んだ.成果として,有限オートマトンの安定化に基づくモデル予測制御手法,およびオフライン計算とオンライン計算の両方を用いた精度保証付き近似解法を提案した.また,数値実験により計算の効率化が実現されたことを確認した.さらに応用として,ブーリアンネットワークモデルで表現される遺伝子ネットワークの解析と制御にも取り組んだ.
著者
山田 晃
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、鉄橋等の交通路上の監視領域内の渦状の突風風速場を非侵襲、遠隔的に測定できる音波トモグラフィ計測法の実現に向けた検討を行った。そのために、交通路の両サイドに数mおきの荒い間隔で設置した音波センサ間の送受信伝搬時間データから、領域内に回転対称な渦が一つだけ存在するという仮定のもとに、領域水平断面内の渦の風速ベクトル場を再現するトモグラフィアルゴリズムを考案した。最初に、提案法に基づいたシミュレーション評価試験を行い、種々の前提条件(風速場の2 次元近似、音波の直線経路伝搬モデルなど)の妥当性や、監視可能な渦の風速場の範囲、センサの設置間隔と風速場の再現精度の関係、などの最適構成条件を明らかにした。さらに、監視領域の両サイドに10 対の音波送受信センサを配置した構成の1/250モデルの模擬試験装置(路幅50cm, 路長40cm)を構築した。本装置では多チャンネル経路間の伝搬時間をリアルタイム測定するために、多チャンネルデジタル信号処理ハードウェア回路を実装した。本試験装置を用いて、伝搬時間の取得精度や時空間的に変動する渦の風速場の再現性能を検証した。特に、実際の場合を想定して、監視領域上を通過する渦の風速場の再現試験を行った結果、想定される突風の通過時間内(1[s]~2[s]程度)に渦の風速場を準リアルタイムで精度よく再現できる性能を確認した。
著者
岡本 祥浩
出版者
中京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

1998年度に入り全国的にホームレスの数が倍増した。名古屋市においても夜回り支援グループが把握している人数が500〜600人から800〜900人と1.5倍以上に増大している。ホームレスの増大要因としてバブル経済崩壊以降のいわゆる平成大不況が考えられる。第一に通常建設日雇い労働などに就いていた日雇労働者の就労率が極端に下がっていることが指摘できる。この原因は、建設不況による件数の減少、コスト削減による低労働賃金を求めることによる外国人労働者やアルバイト労働の増加、従来の日雇い建設労働者の高齢化などが考えられる。第二に従来の寄せ場を経由していた日雇い労働者以外の労働者などのホームレス化が指摘できる。この原因は、住宅ローンをはじめ多くの債務を抱えている者が、不況によって労働賃金の上昇がみられないため債務を履行できずホームレス化する場合、雇用形態が終身雇用から派遣労働など短期間の雇用に変化しているが、そうした人々が不況期の労働力の調整に充当され、就労の場を奪われる場合が考えられる。発展途上国ではホームレス状態の人々が一般化できる数を占めている。欧米ではホームレスの多くを発展途上国からの労働者が占めている。日本のホームレスは、比較的均一な集団におけるマイノリティに位置付けられ、そのことによる差別化が行われている。しかし、前述しているようにホームレスの属性は多様であり、単一視することはできない。名古屋市のホームレスに関するヒアリング調査によって地区による属性の違いが明確である。すなわち当該地域に長く居住している者と他地域から流入した者、自炊できる者と支援団体の炊き出しでしか食事を摂れない者、ホームレス歴の長い者と短い者などである。いずれにしてもホームレスは看過できない状態であることに変わりはない。
著者
松島 良
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

半数体細胞である花粉におけるオルガネラ可視化形質転換体を作出した。この植物体を用いて、従来の方法では遺伝学的に単離不可能であったホモ接合体だと致死になる突然変異体の単離方法を構築した。また、花粉の精細胞のミトコンドリアを可視化できる植物体を作出し、受精時におけるライブイメージング解析を行った。その結果、精細胞と卵細胞ならびに中央細胞とが融合する瞬間におけるミトコンドリアのダイナミックな挙動を世界で初めて捕らえることに成功した。
著者
山本 雅之 勝岡 史城 峯岸 直子 本橋 ほづみ 黒河 博文 鈴木 教郎 森口 尚 鈴木 隆史 田口 恵子
出版者
東北大学
雑誌
学術創成研究費
巻号頁・発行日
2007

生体は、環境ストレスに適切に応答して恒常性を維持している。本研究は、酸化ストレス・異物に対するセンサーであるKeap1-Nrf2システムを検証し、ストレス感知の新たな分子機構、疾患との関連を明らかにした。また、低酸素ストレスについては、エリスロポエチン遺伝子の発現制御を通じて、組織ごとに異なる多様な低酸素応答に対する遺伝子発現制御機構について新たな知見を得た。
著者
中里 直
出版者
板橋区立中台中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

植物は光合成で光エネルギーを利用して二酸化炭素を吸収し、蒸散で大気中の熱エネルギーを吸収する。この優れた働きに注目し、ポトス(Epipremnum aureum)を用いて閉鎖空間内で植物有無によるバイオエアコン機能を調べた。厚さ25mmの断熱材で覆ったガラス容器(425×272×285mm)を恒温器(600×477×1000mm)に2つ入れ、両方に土壌が入ったプランターを入れ、片方でポトスを栽培した。白色発光ダイオードで12時間(6~18時)照射し、熱電対で10分毎2日間の温度と湿度を計測した。恒温器内温度を10,16,23,30,35℃に保ち、2日間2つの容器の温度差を比べてポトス有無による冷房効果を調べた。23℃の温度差が約1℃で最も大きく安定した結果であり、23℃より高温や低温になるほど冷房効果が低かった。10,35℃は不安定な結果であり、特に高温になるほど冷房効果が低かった。冷房効果における光合成の影響を調べるため、恒温器内温度を23℃に保ち、白色発光ダイオードで12時間(6~18時)照射、24時間照射、照射なしの3つの条件の実験を2日間行い、容器内のポトス有無による二酸化炭素濃度の変化を調べた。3つの条件で違いが現れたが、加えて酸素濃度を測定することでより正確な結果が得られるので今後実施したい。野外における植物のバイオエアコン機能を調べるため、2つの大型プランター(イネ有無)の上部(地上1.3m)温湿度を計測した。7,8,9月の温度の結果を比較すると、8月の昼間にイネの冷房効果が高く、8月の夜間に最も低いことがわかった。今後水温、地温、光強度を同時に測定して詳しく解析したい。これらの研究を応用して、植物のはたらきと環境問題というテーマで、光合成と蒸散と熱エネルギーの関係を理解できる中学校3年理科授業を実践した。また、ポトスの葉の表裏・葉柄・茎の表皮、葉の断面を顕微鏡で観察し、気孔を撮影できたので教材化する試みを推進したい。
著者
伊香賀 俊治 堀 進悟 鈴木 昌
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

被験者実験を行い、入浴時の高齢者に対応した体温予測モデルを開発した。そして本モデルが高齢者の入浴時の体温が精度良く再現されていることを検証した。またインターネットアンケート調査と入浴事故に関する症例データを基に、体温と熱中症リスクの関係の定量化を行った。さらに住宅仕様の改善による熱中症リスク低減効果を明確にすることを目的とし、"住宅仕様"、"入浴方法"、"体温上昇"、"熱中症リスク"の各関係を定量的に把握し、高齢者の入浴時の熱中症リスクを評価した。
著者
大鹿 健一 宮地 秀樹 相馬 輝彦 和田 昌昭 遠藤 久顕 河澄 響矢
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

まずKlein群について,Thurstonが1980年代に提示した問題群を中心にして基本的な理論の構成の仕事を行った.その中で,Thurstonの未解決問題のうち2つを完全に解決することができた.そこで得た結果をもとに,Klein群の変形空間の器楽的研究を行った.変形空間の境界の位相構造について新しい知見をえるとともに,指標多様体の中での変形空間の力学系的性質の研究を進め,原始安定性の必要十分条件を得ることに成功した.Klein群の成果をTeichmuller空間の研究に応用し,様々なコンパクト化の共通の地盤としての,簡約化されたコンパクト化の研究を進めた.