著者
山本 政幸
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.B21, 2004 (Released:2005-06-15)

本考察は、ニュー・タイポグラフィ運動の中心的人物とされるヤン・チヒョルト(Jan Tschichold, 1902-74)が試みた実験的書体デザインについて、『タイポグラフィ通信』誌の1930年3月号に掲載された論文「もうひとつの新しい書体?書体の経済性の問題への提案」を参照しながら、その実態を把握することを目的としている。新書体は方眼紙の上に極細のペンで製図され、直線と円による幾何学的でシンプルな構造をもっている。小文字の「シングル・アルファベット」と、これを発音記号ともいえる「フォネティック・アルファベット」に変換した二種類の書体が提案されている。ゴシックではなくローマンのかたちを採用し、二つのアルファベットの混植を禁止、小文字の形態を基本とし、不要な文字を削除、表記できなかった音のために新しい文字を追加、母音の長短を補助記号で補い、ピリオドを肩つきで大きく示す、といった独特の改良を経て完成している。計画案は実用化を果たしていないが、アルファベット体系の根本的な改変をうながすという重要な使命を負い、機能主義の効果を書体デザインの領域で実証しようとする、果敢な試みであった。
著者
大村 雅章 江藤 望
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.113-120, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
38

本研究は,イタリア・ルネサンス期に活躍した,カルロ・クリヴェッリのテンペラ画に多用された石膏地盛り上げ技法について,実証実験を通して明らかにするものである。これまで,フラ・アンジェリコが描いたフィレンツェのサン・マルコ修道院のフレスコ壁画,『受胎告知』と『磔と聖人たち』の円光について,チェンニーノ・チェンニーニの技法書「絵画術の書」に則って実証実験を行ったところ,板絵テンペラ画の円光技法を転用したことが解明できた。次に,調査をルネサンス期前後におけるテンペラ画の工芸的装飾技法に拡大したところ,カルロ・クリヴェッリの傑作である『マグラダのマリア』(アムステルダム国立美術館所蔵)の石膏地盛り上げ技法に特異性が見られた。あえてルネサンス盛期に伝統的な板絵テンペラ画にこだわり,採用された彼の石膏地盛り上げ技法の再現と検証を行う。
著者
岡野 八代
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.39-54, 2015-05-20 (Released:2019-10-10)
参考文献数
23

本稿は,女性たちが歴史的に担ってきた営みと,その社会のなかでの位 置づけゆえに引き起こされる葛藤から見いだされた「ケアの倫理」を出発 点としながら,ケアの倫理と福祉社会学との架橋のための一歩を踏み出し てみたい. とはいえ,福祉社会学を専門とするわけではない筆者は福 祉(広義には「より良い暮らし」という理想概念)」に対して社会学的に アプローチするという福祉社会学の定義に即しつつ, 〈単に生きることで はなく,善く生きることとはなにか〉という問いに単を発する政治思想史 の分野から「ケアの倫理」を読み解くことで,福祉社会学との接点を見 出したいと考えている. ケアの倫理は,ホモ・エコノミクスや合理的存在として期待される市 民像,そして契約や交換によって織り成されていると考えられる社会像に 対していかなる代替案を提供しうるのか.まずは,中絶の議論から始まっ たケアの倫理が示す相互依存的な人間存在のあり様の政治的インプリケー ションと暴力の問題から論じ,契約社会を超えた社会をケアの倫理が目指 していることを明らかにする.ケア関係が要請する公的な倫理こそがケア の倫理であると論じることで, 〈善く生きる〉ことを理念とする社会にお ける福祉の実現にとって,ケアの倫理が果たす役割もまた示されるであろ う.
著者
坂本 正元
出版者
日経BP社
雑誌
日経情報ストラテジ- (ISSN:09175342)
巻号頁・発行日
vol.8, no.6, pp.16-19, 1999-07

●—経営方針の中核にナレッジ・マネジメントを掲げていらっしゃいますが、その狙いは。坂本—今や「情報」が企業競争における最大の武器であることに異論を唱える人はいないでしょう。製造業であれサービス業であれ、いかに貴重な情報をお客様に届け、価値の高いサービスに生かすかが、カギを握る。
著者
梶原 洋生
出版者
新潟医療福祉学会
雑誌
新潟医療福祉学会誌 (ISSN:13468774)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.44-50, 2019-03

日本では、1946年1月21日に総司令部覚書「日本に於ける公娼制度廃止に関する件」が発せられ、1946年11月26日には、厚生省社会局長通知の「婦人保護要綱」が発出された。しかし、のちに「売春防止法」が成立したのは1956年5 月21日のことだったので、この立法過程は概ね11年間にも及んだことになる。そこで、国政の難航を横目に各自治体は国とは別に対処を講じたものと考え、「売いん」等に係る条例の制定はどのような動向であったかを明らかにする。とりわけ、1946年から1957年までの期間に着目し整理を図ることとした。「売いん」等に係る条例は一定の時期に集中しており、戦後の悲哀を背負った条例制定論争が各地で広がった。女性の救済は社会的課題とされ、国法による生活保障が不可欠となり、その法整備の一環として各地的な条例の制定という議論の機運も全国に生まれた。これらの側面が合わさって、日本の一つの時代が形作られた。
著者
小俣 良介
出版者
関東東山病害虫研究会
雑誌
関東東山病害虫研究会報 (ISSN:13471899)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.56, pp.123-124, 2009 (Released:2010-12-28)
参考文献数
5

On August, 2006, at a tea field in Saitama Prefecture, some larvae of ground beetle were observed in the colonies of tea tussock moth Euproctis pseudoconspersa caterpillars. The beetle larvae were collected and reared on the caterpillars in the laboratory. After the adults emerged, they were identified as Parena cavipennis. In the field, a significant positive correlation was observed between the density of caterpillar colonies of tea tussock moth and that of P. cavipennis (r=0.7171, p<0.01). In the area of 100m2, 20 caterpillar colonies occurred on average, and about 3 individuals of the ground beetle were observed. The coloration of the beetle larvae is yellow and white with black spots on the dorsal abdomen, which resembles the tea tussock moth caterpillar. In addition, it was observed in a tea field that the caterpillars did not flee from the beetle larvae, even if the beetle larvae existed in the caterpillar colonies. Thus, I speculate that the coloration of the beetle larvae is a mimic coloring and camouflage to avoid the escape of the moth larvae.
著者
小野 竜志 小野 景子
雑誌
第77回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2015, no.1, pp.271-272, 2015-03-17

近年、実世界を忠実に再現した3次元モデルに対する需要が高まっている。構造物の3次元モデルを再現する場合、複数の視点から計測を行い、3次元点群データを統合するレジストレーションが必要である。しかしながら、すべてのデータ点を用いたレジストレーションには膨大な計算時間がかかり、またこの問題は局所解が多く存在することが知られている。そこで、本研究では、効率よい特徴点の抽出と、プレレジストレーションが不要な3次元点群データ統合手法を提案する。
著者
三橋 哲雄
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会誌 (ISSN:13426907)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.1195-1198, 1999-09-20 (Released:2011-08-17)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2
著者
楊 小平
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

本発表は、広島市における原爆遺構の観光化を検討することで、戦争の記憶の表象と越境の関連性を考察することを目的としている。
著者
福岡 安則 黒坂 愛衣
出版者
埼玉大学大学院文化科学研究科
雑誌
日本アジア研究 : 埼玉大学大学院文化科学研究科博士後期課程紀要 = Journal of Japanese & Asian Studies (ISSN:13490028)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.135-152, 2012

鹿児島県にある国立ハンセン病療養所「星塚敬愛園」で暮らす、70代男性のライフストーリー。 語り手のKKさんは、1934(昭和9)年、宮崎県生まれ。1955(昭和30)年12月、21歳のとき、敬愛園に収容される。「ここへは治療しに来たんだ」と、園内での患者作業を一貫して拒否。園内での結婚もしなかった。1998年に提訴された「らい予防法」違憲国賠訴訟では、早い時点で原告になって闘った。2010年7月の聞き取り時点で76歳。聞き手は、福岡安則、黒坂愛衣、金沙織(キムサジク)、北田有希。2010年10月と2011年6月には、補充聞き取りをおこなった。 KKさんがハンセン病の症状に気付いたのは、14、5歳のとき、右手の小指が曲がるなどの、ごく軽い症状だった。ある時期から、保健所職員が療養所入所を勧めに、KKさんの自宅へ来るようになる。21歳のとき、同じ村のYTさんが、ハンセン病の症状が重くなり、敬愛園に入所することになった。KKさんも「家族に迷惑がかかる」と入所を決意。YTさんと一緒の収容バスに乗った。 KKさんは、敬愛園に入所してまもなく、すでに自然治癒し、無菌であることが判明。「無菌なら、なぜ収容したのか。家へ帰せ!」と医者に訴えたが、「予防法があるから」と退所を認められなかった。KKさんは入所後、ハンセン病治療を受けたことは一度もない。手の指に傷ができると、医局では「落としたほうが治りが早い」と切断された。さらに、若いインターンの医者の「実験台」にされて、神経が切られ、顔が歪んでしまった。 KKさんは、国賠裁判の原告に立った思いを「カネじゃない。人間がほしかった」と語る。熊本地裁勝訴後の控訴阻止の闘いの局面では、ひとり、ハンガーストライキをして頑張りぬいた。
著者
秋山 勝宏
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.499-502, 2011 (Released:2019-09-06)
参考文献数
5

「パラジウム触媒によるクロスカップリングの発展への寄与」の功績により根岸英一,鈴木 章,R. E. Heck先生らが2010年にノーベル化学賞を受賞した。クロスカップリングは1970年代から盛んに研究され,有機合成ではこの分野は日本のお家芸といえるほど,日本人の貢献が大きい。今回はクロスカップリングについて,その基本的な知識や考え方を解説する。まず総論としてクロスカップリングの反応形式や反応機構について説明し,医薬品やエレクトロニクス材料への用途について述べる。各論として代表的な反応である熊田―玉尾カップリング,根岸カップリング,鈴木―宮浦カップリングと溝呂木―Heck反応について反応の特徴や問題点について解説する。最後に,最近の研究として固定化触媒の開発や安価な鉄触媒を使用する研究を紹介する。
著者
岩村 もと子 三宅 紀子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2015

【目的】タケノコは和食の特徴である旬を感じさせる食材のひとつである。海外からの安価なタケノコの輸入の増加などにより、水煮タケノコの利用はあるものの、家庭での生鮮タケノコからの調理が少なくなってきている。各地で放置竹林も問題となっている。多くの調理書などではタケノコのあく抜きは米ぬかを用いた方法が示されているが、本研究ではタケノコの簡便なあく抜きの方法について検討した。<br>【方法】日本におけるこれまでのタケノコのあく抜き法について文献調査を行い、アジアの国々についても、在留外国人に聞き取り調査を行った。次にあく抜き方法について検討を行った。タケノコは2015年4月、鎌倉市内の竹林で採取し、収穫3日後のものを用いた。10%米ぬか、0.3%重曹、50%牛乳、アルカリイオン水、1.75%そば粉(そば湯)を用いてゆで、ゆで汁に浸漬して冷却し、水洗い後15時間水に浸漬したものを試料とした。20歳代のパネル(女性31名)により、えぐ味の強さ、硬さ、色・香り・食感の好みなどの評価項目について5段階の評点法を用いて官能評価を実施した。<br>【結果】文献調査の結果、日本でのあく抜き法として、何も添加せずにゆでる「湯煮」が長く行われてきたが、明治末期には婦人総合誌に米ぬかを用いた方法が記載されていた。また、アジアの国々においても「水でゆでる」「塩水でゆでる」が多かった。収穫後時間の経過したものはあく抜きが必要となるが、官能評価の結果、いずれの方法においてもえぐ味の強さに差は認められなかったが、色の好みおよび硬さについて有意差が認められ、重曹を用いた試料での褐色化および組織の軟化によるものと考えられた。米ぬかを含めていずれの方法によってもあく抜きが可能であることが示唆された。