著者
矢野 昌充 生駒 吉識 杉浦 実
出版者
農業技術研究機構果樹研究所
巻号頁・発行日
no.4, pp.13-28, 2005 (Released:2016-05-13)

ヒトの血液中に存在する6種類の主要カロテノイドのひとつであるβ-クリプトキサンチン(β-cry)の主要供給源はウンシュウミカンである。ウンシュウミカンは我が国で最も多く消費される果実であるためβ-cryの血中高濃度者が多い。ウンシュウミカン生理機能研究の強化は国民の健康増進,カンキツ産業の発展の観点からも重要であり,果樹研究所を中心として取り組まれ多くの成果をあげてきた。β-cryの生理機能については諸外国の疫学研究からも多くの知見が集積し始めている。本稿では我が国で成果が上がっている試験管・動物実験レベルにおける発がん抑制,骨代謝改善,β-cryの血液中濃度を指標としたみかん産地における栄養疫学研究,β-cry供給源としての果実の重要性,カンキツにおけるβ-cry蓄積メカニズム解明,食品産業での利用また諸外国での疫学研究におけるβ-cryの疾病罹病リスク低減作用を中心に,β-cry研究最近の進歩の全貌を概説した。また,今後の研究についての課題を論じた。
著者
野村 晴夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.355-366, 2002-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本研究では, 高齢者が自らの過去を回想して述べる自己語りの構造的特質と, 自我同一性の様態との関連を明らかにすることを目的とした。65歳以上の健常高齢者30人を対象に, エリクソン心理社会的段階目録の日本版 (中西・佐方, 1993) の一部を施行して, 自我同一性達成度を測定した。また, 性格特性語の自己への帰属を過去の経験から例証する課題により, 自己語りを得た。そして, 構造的な整合. 一貫性の観点から, 根拠として語られた経験の信憑性を表す特定性, 情報量の多寡を表す情報性, 主題である性格特性に則していることを表す関連性の3次元に基づき, 語りを分析した。その結果, 情報性, 関連性の2次元において, 語りの構造的特質が自我同一性達成度により異なることを見出し, 自己語りの構造的特質が自我同一性の様態に関連することが示唆された。なかでも, 自我同一性達成度が低い一群の高齢者は, 自己の否定的な性格特性について語るに際して, 情緒的な明細化が顕著になり, 主題との関連性が低い自己語りを構成することが明らかとなつた。しかし, 自我同一性達成度と, 語りの特定性とは関連を見出さず, また, 情報性・関連性との間に見出した関連も直線的ではなかった。
著者
野末 俊比古
出版者
国公私立大学図書館協力委員会
雑誌
大学図書館研究 (ISSN:03860507)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.1-8, 2017-03-15 (Released:2017-09-22)

情報リテラシー教育を中心に,大学図書館における教育・学修支援について,概念・動向の整理を試みつつ,「新しい学び」に向けて検討を要すると思われる論点のなかからいくつかを取り上げ,考察を行った。具体的には,カリキュラムに基づく教育・学修支援として図書館サービスを位置づけたうえで,情報リテラシー教育について二つの側面を提示し,デザインにおける枠組みを指摘した。また,体系的なプログラムの構築にあたって必要な三つの観点を提案した。最後に,アクティブラーニングとの関わりに言及した。
著者
松本 和也
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.91-122, 2019-10

本稿では、昭和10年代(1935~1944)の国民文学論を再検証した。先行研究の検証によれば、従来、昭和10年代の国民文学論は、不毛なものだとみなされてきた。昭和10年代の国民文学論は、すぐれた実作や厳密な定義を生みだすことがなかった、と捉えられてきたからだ。それに対して、同時代の視座から国民文学論を捉え直すことを目指し、広範な言説(主には新聞・雑誌上の記事)の調査と分析によって、その歴史的な意義を考察した。1章で示した問題関心につづき、2章で、1937年の国民文学論(昭和10年代における国民文学論第一のピーク)を検証した。そこでは、国民という概念をめぐって、さまざまな立場からの議論が交錯していた構図を整理しながら、国民文学論についての言説を分析した。3章では、数年間のブランクを経て後に、再び盛んになった1940~1941年の国民文学論(昭和10年代における国民文学論第2のピーク)を検証した。この時期の国民文学論に、政治の影響力が大きく関わっていることを重視した。その上で、政治と文学との関係に注目しながら、国民文学論の多様な論点について、整理と分析を行った。これらの作業を通じて、一つの結論へと至ることのなかった国民文学論の論点を、六つに整理した。その上で、国民文学論の多様な論点・立場が、文学の諸問題に関する議論としても重要な議論であったことを明らかにした。最後に、4章で、昭和10年代後半における、国民文学論の変化を分析した上で、国民文学論が国策文学と重なっていくことを確認した。以上の分析成果をまとめ、国民文学論がインターフェイスとなって昭和10年代の文学のさまざまな問題を浮かび上がらせたことこそが、その歴史的意義であると論じた。
著者
林 慶花
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.103-135, 2010-03

本稿は、植民地期朝鮮の言語政策における唱歌の位相を普通学校の唱歌教育を分析することによって明らかにし、それとは対自的に存在した朝鮮語教育と朝鮮語唱歌との関係を、民間主導でなされた文字普及運動や『朝鮮語読本』レコード製作に焦点を合わせて追求したものである。植民地朝鮮における音による「皇民化」は「上から」の「国語」の音の強制と「下から」の朝鮮語の音の抑圧・排除からなる政策であり、唱歌教育はそれを身体化しようとする試みだったといえる。少なくとも学校の場では朝鮮語唱歌を動員しようとする動きはほとんどみられなかったか極めて歪曲された形で成された。それは根本的に日本語は国民精神の精髄でなければならない「国語」であるにもかかわらず、植民地末期まで相変わらずその朝鮮社会への浸透には限界があったという事実と関連がある。普及率が依然として低調な「国語」としての日本語に代わって噴出する国民精神を効果的かつ派手に装うことができたのは、公共の場で斉唱される唱歌や軍歌などの歌だったからである。また「国語」の普及率の低さ故に朝鮮語も積極的に統治に活用しなければならなかった植民地勢力にとり朝鮮語は情報の効率的な伝達のための主段として管理されたのみで、朝鮮語唱歌による情報涵養や、まして朝鮮語唱歌の斉唱による音の共同性の実現は念頭にもなかったのである。しかし、教育の場で実現されなかった朝鮮語と朝鮮語唱歌との結びつきは主にメディアの場で多様に試みられ、時には体制に吸収されたり、時には「国語」という恩の共同性のもつ虚像を攪乱させたりした。何故なら、植民地朝鮮における「国語」政策が「国語」の内面化には失敗したまま音の共同性を性急かつ過激に推し進めるものだったからである。
著者
中村 和之 森岡 健治 竹内 孝
出版者
北海道大学総合博物館
雑誌
北海道大学総合博物館研究報告 (ISSN:1348169X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.58-65, 2013-03

Many glass beads have been found at archaeological sites in Hokkaido Prefecture. Two possibilities are pointed out in Japanese and Russian documents regarding the distribution of the glass beads. One theory is that they came from Honsh?, and another suggests that they were from the lower Amur Basin and came to Hokkaido through Sakhalin Island. Since the extent of literary research for these two possibilities are limited, we decided to take a different approach to obtaining information that would lead to finding the origin of the beads. We performed chemical analyses of glass beads discovered in Hokkaido by using scanning electron microscope (SEM) with energy dispersive X-ray spectrometry (EDX). Soda-lime glass beads were discovered at the sites of Epi-Jomon to Satsumon cultures in Biratori Town. Lead glass beads were discovered at those sites for dates before 1667, and soda-lime glass beads were discovered for dates after 1667 at the same sites.
著者
呉屋 淳子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.199, pp.171-211, 2015-12-25

近年,学校教育のなかで民俗芸能が積極的に行われている。学校教育で教えられている民俗芸能を見てみると,その在りようは,年々多様化している。特に,2006(平成18)年の教育基本法改訂に伴い,『新学習指導要領』のなかで「伝統の継承」に関する文言が明記され,正規の教育課程でも「伝統と文化」に関わる教科・科目の導入が顕著となってきている。本稿で取り上げる沖縄県八重山諸島石垣島に所在する3つの高等学校で導入された八重山芸能も,『高等学校学習指導要領』改訂に伴う教育課程の再編成によって実施されている。また,学校教育で民俗芸能の教育が導入される状況は,地域によってもさまざまである。たとえば,地域社会を主体として民俗芸能の継承を行うには,困難な状況となり,学校教育が民俗芸能の継承の一翼を担っている場合がある。本稿が対象とする八重山諸島は,地域社会だけでなく,八重山諸島の3つの高等学校のそれぞれの学校が主体となり,地域社会と相互に関わり合いながら民俗芸能の教育が行われている。そして,民俗芸能が地域と切り離されて教授されてきた訳ではなく,むしろ地域社会と密接な関わりを保ちながら行われていた。このようなことから,本稿では,八重山諸島の歴史的,社会的,文化的背景を踏まえて,現代八重山における八重山芸能の継承の現状と展開を,現在,3つの高等学校で行われている八重山芸能の教育の事例から明らかにする。その際,近世琉球期に八重山諸島と沖縄本島を行き来した人々がもたらした影響を通して,今日の八重山芸能がどのような人的交流を経て確立され,学校教育に取り入れられてきたのかについてみていく。具体的には,まず,廃藩置県以降,琉球王府に仕えた元役人の琉球古典芸能家が八重山諸島の人々へもたらした影響と,琉球古典芸能の八重山諸島への流入が八重山芸能の確立に与えた影響とその展開について検討する。次に,戦後の沖縄と八重山で芸能の普及に大きな役割を果たした「研究所」に着目しながら,芸能を継承する場の変化について指摘する。それらを踏まえて,現在,八重山の3高校の生徒および教員が八重山内外を移動することによって受ける沖縄本島や日本本土からの影響について検討し,八重山芸能が創造される過程について明らかにする。八重山の高等学校の事例を通して,今日の八重山芸能の継承と創造の過程について考察する。
著者
津田 茂子 田中 芳幸 津田 彰
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.81-92, 2004
被引用文献数
2

妊娠後期 (妊娠36週以降) の妊婦79名 (平均年齢30.0歳、19~41歳) を対象として、妊娠後期の心理的健康感と出産後のマタニティブルーズとの関連性を調べるとともに、マタニティブルーズに及ぼす産科的要因 (母体合併症の有無、出産経験、新生児の状態、分娩時の異常) と世帯形態、年齢などの影響を検討した。妊婦の心理的健康感は自記式のWHO Subjective Well-being Inventory (SUBI)、すなわち「心の健康度」と「心の疲労度の少なさ」の2つの下位尺度から構成された質問紙によって測定し、マタニティブルーズはSteinのマタニティブルーズ自己質問表によって出産後5日目に評価した。<br>SUBIの標準化された得点区分に従えば、対象者の妊娠後期の心理的健康感は、心の健康度と心の疲労度の少なさ、いずれも高く自覚されていた。臨床上、マタニティブルーズと判定されるマタニティブルーズ高得点者 (8点以上) は16.2%であり、先行研究と比較すると、若干低い発症率であった。出産後5日目のマタニティブルーズ症状は妊娠後期の心理的健康感と有意な負の相関を示した。すなわち、妊娠後期の心の健康度が高いほど、マタニティブルーズの全症状と4つの下位症状 (情動易変性、抑うつ感、精神運動制止、自律神経系症状) は軽度であり、同様に、心の疲労度が少ないほどこれらマタニティブルーズの症状も少なかった。また、マタニティブルーズ症状と関連する産科的要因として、年齢の高さ、母体合併症、新生児の異常などが示された。さらに、心の健康度と心の疲労度の少なさの関数として、マタニティブルーズ症状得点は有意もしくは有意傾向をもって減少した。重回帰分析の結果は、出産後5日目のマタニティブルーズを予測するSUBI下位尺度項目として、身体的不健康感の少なさ、近親者の支え、社会的な支え、達成感、人生に対する失望感の少なさなどが、説明変数として有意であることを明らかにした。さらに、ロジスティック回帰分析の結果より、臨床的なマタニティブルーズの発症を予測する要因は妊娠後期の心の疲労度の少なさであることが示された。<br>これらの知見より、出産後のマタニティブルーズの影響を軽減するための方策として、妊娠後期の心理的健康感、とりわけ心の疲労度を少なくすることが重要であること、さらに、管理する必要のある産科的要因として母体合併症の有無や新生児の異常が明示され、介入の方向性が明確になった。
著者
藤原 真理
出版者
東北大学文学部日本語学科
雑誌
東北大学文学部日本語学科論集 (ISSN:09174036)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.120-131, 1991-09-30

助詞「よ」の下接によって《下品さ》が生じる文には, 文脈的背景としての「話題となる情報の持ち出し方・扱い方の点における話し手の非優位性 (受動性・消極性)」が認められるのに対して, 「よ」に備わった表現性は「述べる情報に関する話し手の聞き手に対する優位性」に深く関わっている。「よ」こよってもたらされる《下品さ》は, このような, 一見, 相反する立場が一文において両立する二重性によりもたらされる。
著者
Ryo Yamada Satoshi Okumura Yuji Kono Akane Miyazaki Yudai Niwa Takehiro Ito Sayano Ueda Tomoya Ishiguro Masataka Yoshinaga Wakaya Fujiwara Mutsuharu Hayashi Yukio Ozaki Eiichi Saitoh Hideo Izawa
出版者
Fujita Medical Society
雑誌
Fujita Medical Journal (ISSN:21897247)
巻号頁・発行日
pp.2020-010, (Released:2020-11-13)
参考文献数
43

Objectives: There are benefits of exercise-based cardiac rehabilitation (CR) in patients with heart failure (HF), but their underlying molecular mechanisms remain elusive. The effect of CR on the expression profile of circulating microRNAs (miRNAs), which are short noncoding RNAs that regulate posttranscriptional expression of target genes, is unknown. If miRNAs respond to changes following CR for HF, then serum profiling of miRNAs may reveal cardioprotective mechanisms of CR.Methods: This study enrolled three hospitalized patients with progressed systolic HF and three normal volunteer controls. In patients, CR was initiated after improvement of HF, which included 2 weeks of bicycle ergometer and resistance exercises. Genome-wide expression profiling of circulating miRNAs was performed using microarrays for the patients (mean±SD age, 60.0±12.2 years) and controls (58.7±0.58 years). Circulating miRNA expression profiles were compared between patients with HF before and after CR and the controls.Results: Expression levels of two miRNAs were significantly different in patients before CR compared with controls and patients after CR. The expression of hsa-miR-125b-1-3p was significantly downregulated and that of hsa-miR-1290 was significantly upregulated in patients before CR.Conclusions: When performing CR, expression of certain circulating miRNAs in patients with HF is restored to nonpathological levels. The benefits of CR for HF may result from regulation of miRNAs through multiple effects of gene expression.
著者
白井 利明 伊藤 淳 伊藤 真紀
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.212-217, 2011-03-18 (Released:2011-04-19)
参考文献数
8

人工膝関節全置換術 (TKA) 後の歩行能力の獲得時期と手術時年齢,性別,BMI,罹患関節 (片側・両側),手術アプローチ,日本整形外科学会変形性膝関節症治療判定基準 (以下JOA score) を調査し,歩行能力の回復に影響する予測因子を検討した.当院でTKAを施行した67 例 (男性7 例,女性60 例),88 膝を対象とした.原因疾患は変形性膝関節症80 膝,特発性骨壊死症8 膝であった.術後歩行能力の獲得時期として平行棒歩行,T字杖歩行,手すりによる階段昇降が可能となるまでの期間を調査した.平行棒歩行が可能となった時期は平均5.7 日,T字杖歩行16.1 日,階段昇降23.0 日であった.術後の歩行能力に影響した予測因子は罹患関節(片側・両側),手術時年齢,術前JOA score,手術アプローチであった.

1 0 0 0 時局

出版者
時局社
巻号頁・発行日
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