- 著者
-
青木 健
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社会経済史学 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, no.2, pp.227-248, 2011-08-25 (Released:2017-05-24)
本稿では,長野県下伊那郡伊賀良村上殿岡・下殿岡区を事例に,敗戦後の外地引揚者の収容や戦後開拓農民の送出の実態を,戦後農村社会の再出発との関わりで明らかにする。当該区では,多数の外地引揚者が転入する中で,敗戦後の再出発をむかえた。その過程において,既存農村社会の農家の大部分は,所属更生組合内で互いに緊密な耕作地の融通を行いながら,耕作反別と世帯規模のバランス調整を行いつつ,農地改革期を経過した。一方で外地引揚者は,そうした耕作権の融通関係の外におかれ,引揚者の大部分が転入後に再転出するという不十分な収容状況にあった。こうした中で,伊賀良村の公民館報では,満州からの引揚者による在満体験を踏まえた農政・農業経済論が掲載されたのに加え,戦後開拓に関する啓蒙・推奨記事が掲載された。それらを受けて,当該区からは村外へ戦後開拓農民が送り出された。まず既存農家からは,零細農家の挙家離村や農家の傍系世帯員の転出のかたちで開拓農家が送り出された。さらに引揚者からは既存農家の場合を上回る開拓農家が送り出されたのである。