著者
坂江 千寿子 佐藤 寧子 石崎 智子 田崎 博一
雑誌
北海道医療大学看護福祉学部学会誌 = Journal of School of Nursing and Social Services, Health Sciences University of Hokkaido
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.115-124, 2006-03-31

精神科病棟で隔離された患者へ対応する看護師には,回復過程を見極め,退室時期の決定にかかわる情報を提供できる観察と判断能力が必要である.本研究の目的は看護師が保護室内の統合失調症患者の要求に対する判断内容を明らかにすることである.開放型精神科病院で,参加観察とインタビューを実施し,看護師の対応内容,その理由等を整理し,コード化した.コーディング終了後,再検査法を用いて信頼性を高めた.倫理的配慮として,参加観察の対象看護師には,研究目的,協力に関する利益,不利益,任意性,研究者の守秘義務等を文書で説明し同意を得た.対応する患者には,自己紹介,観察の目的,任意性,退席要求の自由を保障し同意が得られた場面に随行した.その結果,看護師15名の49場面から152のコードが抽出され,何を判断しているかという判断内容を示す18サブカテゴリー,7カテゴリー(1.状態や回復レベル,2.患者の感情の理解,3.ケアを選択する根拠,4.安全を守る,5.エンパワーメントの意識化,6.相互作用における関係性の重視,7.看護師の抱く思い)に分類された.これらは,最終的に,『患者の変化と多様性の理解』と,『ケア提供の根拠と対応内容』という判断の目的で大別され,さらに両者に関係する看護師の感情や人間関係などの『判断へ影響する要因』という3つの『大カテゴリー』に集約された.看護師は,初回入院患者の言動に戸惑いながらも,まず耳を傾け言動の背後にある感情の理解に努め,衝動行動の減少,セルフコントロール能力等を回復の指標とし,入室時,前回担当時,過去の患者のベストの状態,他患者の同症状との比較という基準で判断していた.さらに要求に対して,危険を回避し悪化を防ぐ,あるいは回復の兆候に注目し患者の希望や要望にそうという両方向を念頭におきながら,その時その場で判断していることが示唆された.
著者
村田 晃
出版者
日本醗酵工学会
雑誌
醗酵工学雑誌 (ISSN:03675963)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.125-133, 1973-02

乳酸菌利用醗酵に使用されているLactobacillus caseiのJ1ファージの増殖機構を究明する一手段として, 生体高分子物質の生合成に影響を与える抗生物質を阻害剤として用い, それら阻害剤のファージ増殖阻害の機作について追求し, 正常なJ1ファージ増殖過程の解析を行なおうとした.既に, DNAの生合成を阻害するマイトマイシンC, DNA依存RNAの生合成を阻害するアクチノマイシンDについて報告した.今回は, タンパク質の生合成を阻害すると知られているクロラムフェニコール(CM)について検討した.1)CMは, L. casei S-1菌株式会社に対して静菌的に作用しその生育・増殖を抑制すること(最小生育阻止濃度は20μg/ml), ならびに, 最小生育阻止濃度において, タンパク質の生合成を阻害するが, DNAおよびRNAの生合成に対してはほとんど影響を与えないことが示された.2)CMは, 遊離状態のJ1ファージを不活性化しなかった.3)CMは, J1ファージの宿主菌細胞表面への吸着, 引き続いてのファージDNAの菌細胞内注入を阻害しなかった.但し, 吸着速度はCM存在下で若干低下した.4)CMは, J1ファージの増殖を阻害した.20μg/ml以上では, 増殖阻害は完全であったが, それ以下では, 濃度に応じて潜伏期は延長され, バースト・サイズは減少した.5)CMによるJ1ファージの増殖阻害は, ファージDNA注入以後の菌細胞内増殖段階のブロックによると示されたので, CMの菌細胞内増殖阻害の機作を追求した.CM存在下で成熟ファージ粒子は形成されないことから, CMの作用段階は暗黒期の段階であると示された.CM存在下でファージエンドリジンおよびファージ構成タンパク質は合成されなかった.細胞内における増殖型ファージの紫外線感受性を指標にしてファージDNAの複製に対するCMの影響を検したところ, CM存在下で, 注入された親ファージDNAの状態の変化は認められたが, 子ファージDNAの複製は認められなかった.化学的にもCM存在下ではファージDNAの生合成は認められなかった.CM・パルス実験の結果から, 注入された親ファージDNAはCM存在下で完全にintactな状態に保たれていること, CMによる阻害は可逆的なものであること, CMが系から除去された場合一定時間のlag後に反応が再開されること, CMによるファージ増殖阻害の段階はごく初期の段階であることなどが示された.CMが感染時から存在する場合には, ファージDNAは合成されないが, ファージDNAの合成が開始された後にCMを作用させた場合には, ファージDNAの合成は影響を受けず正常に続行された.一方, ファージタンパク質の合成は作用後すぐ停止された.以上の諸結果を総合して, CMは, ファージDNAの複製の開始に必須のタンパク質の合成をブロックすることによりJ1ファージの増殖を阻害すると考えられた.
著者
李 成倍 金 鉉榮 韓 叮熙 姜 民球 申 浩相 梁 貞善
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.36, pp.4096, 2009

塗料用エナメルペイント希薄制シンナー(012)に対し有害,危険性の文献調査とこれを試験物質で物理化学的特性試験および危険性を評価して,レットを利用1日6時間,週5日,13週全身反復露出試験を通じ,物質の危険特性と吸入毒性を中心に生殖器に及ぼす影響研究を通じて,次のような結果を得た。臨床検事,体重変化で特異的所見はなかったが,200,1,000ppm君で血液学的および心臓,身長,肝臓,脳重量の露出濃度依存的有意性(p<0.01)ある変化があった。 しかし病理組織検査で呼吸器を含む閉場,身長,心臓,肝臓などで特異的病変は観察されず,標的長期全身毒性物質では分類されず,労働部告示第2008-1号<化学物質の分類,表示および物質安全保健資料に関する基準>により急性毒性区分3以上の物質に該当した。生殖器に及ぼす影響検討で雄1,000ppm群の場合有意性(p<0.05)ある精子の奇形性増加傾向と雌1,000ppm君で有意性(p<0.01)ある性周期の地縁,血清を利用したホルモン分析でestradiolの濃度依存的減少傾向などで試験物質による高濃度長期露出時生殖毒性の影響があると判断されたし,しかし定所の重さ変化や精子数の減少および病理組織学的怪死など異常所見は観察されなくて,強い有害物質と評価されることはなかった。試験物質の物理化学的特性試験結果比重0.793,沸点155.8℃,蒸気圧2.1kPa,引火点34.5℃, 自然発火点280℃であり火災爆発など熱分解特性は吸熱の場合371.4J/g,発熱の場合159.1J/g,爆発下限界は48 mg/l,爆発上限界は214mg/lでありこれは労働部告示第2008-1号により幅発声物質等級1.2流および引火性液体3流(23-60℃)に該当した。
著者
大西 厳 水野 政夫 浜井 栄 桝屋 禎祐
出版者
JAPAN WELDING SOCIETY
雑誌
溶接学会誌 (ISSN:00214787)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.181-184, 1951

金属板上に塗装されたペイント,パーニツシュ,ラツカーの類を能率的に取去るため酸素アセチレン火焔を利用することを試みた.ペイントバ一ナーはアメリカに求いては既に実用化されているようであるが,吹管の構造,実用効果等の報告には接していない.<BR>この目的のために重量約200gの多孔式吹管を試作し相当な成功を牧めた.すなわち酸素過剩焔としてペイント塗裝面にあて,塗裝物の燃燒後,残渣を針金ブラツシユでこすり落す.<BR>しかしながらペイントと称するものゝ中にも多くの種類があり,簡單に清掃し得るものとしからざる1ものとがある.概括的にはラツカドが最も燃え易くオイルペイント,エナメルペイントはこれに次ぐ.但し,オイルペイント中でも顔料の関係で難易がある.クロームエロー,ウルトラマリン等のペイントは困難であるが他の多くは燃燒除去を行い得る.<BR>木材面庭紙片が糊付されている場合は初に紙片及びその附近を充分水に丁しめらし,濡れた歌態において火焔をあてると紙片のみを燃燒し去り,木材面に少しの害をも興えない.紙片が極めて小なる場合には別に多孔式吹管を必要としない.
著者
福元 健之
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.533-569, 2014-07

本稿の目的は、一九・二〇世紀転換期におけるポーランド王国の繊維業都市ウッチに焦点をあて、労働者の政治的動員をめぐる情勢について考察することにある。行論では「工場社会」という本稿独自の分析枠組が設定され、ウッチ労働者の行動を一都市における工場内部に留まらない、帝国規模の人的ネットワークに位置づけて考察した。その結果、一八九〇年代では、労働者は法律を駆使して生活改善を目指していたものの、二〇世紀初頭における工場制度の変更をへてからは、法律ではなく政党組織に対して生活の安定を求め始めたことが明らかになった。本稿はまた、特に労働者と国民民主党との関係についても論じ、同党にとって労働者動員には階級闘争から国民的一体性を防衛するという意義があり、実際にウッチではその理念から影響を受けた組織が成立したことを解明した。以上の考察を通じて、ポーランド王国における労働運動はロシア帝国の工場政策と密接な関連性をもち、また運動の形態も階級闘争に限定されないことが示された。
著者
大久保 康人
出版者
関西医科大学医学会
雑誌
関西医科大学雑誌 (ISSN:00228400)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.532-565, 1981-12-20 (Released:2013-02-19)
参考文献数
219
被引用文献数
1

Four hundred and ninety six families with rare blood phenotypes of the ABO, I, P, Rh, Kell, Duffy, Diego and Jr were detected in Japanese Red Cross Blood Centers, and all these blood samples were re-tested and confirmed in Osaka Red Cross Blood Center. Some of them were reconfirmed by Dr. Ruth Sanger, MRC Blood Group Unit in London.These rare bloods, except Fy (a-), Di (b-) and Jr (a-), were recognized mostly by ABO groupings and antibody screenings.Another ninety seven persons with rare bloods were found among the propositi's family members. Consanguinity rate of the Rh11, Rhmod and -D- was 69.2%, and that of the p phenotype 56.5%, the total consanguinity rate being 63.3%.While most of the -D- (including cD-) propositi experi enced abortion or stillbirth, some of the p female propositi did not suffer from such episodes.Most of the i propositi had a congenital cata ract, but recently an i adult free from the disorder was found in Hokkaido. We think the co-occurrence of the i phenotype and congenital cataract to be due to linkage rather than to pleiotropism.Most Jr (a-) female propositi had anti-Jr' in their sera, but none of them had experienced abortion, stillbirth or hemolytic disease of the newborn.
著者
堀江 裕紀子 根本 英幸 藤田 仁 池川 繁男 熊木 康裕 大西 裕季 久米田 博之 出村 誠 相沢 智康
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.139-146, 2019-04-15 (Released:2019-04-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1

Fermented brown rice and rice bran with Aspergillus oryzae (FBRA) is a processed food prepared from brown rice and rice bran. Although FBRA α-amylase activity is monitored as an indicator of fermentation, the evaluation of FBRA quality remains insufficient. We non-targetedly compared metabolite profiles in accepted FBRA, defective FBRA, and unfermented materials using 1H-NMR coupled with principal component analysis (PCA). Accepted FBRA was clearly separated from defective FBRA and unfermented materials. We also compared twenty-five accepted FBRA samples, where PCA showed that plotting of accepted FBRA results in dispersion that is unbiased toward different production dates and different fermentation apparatuses. These results indicated that accepted FBRA is manufactured with a consistent quality.
著者
AKIHIRO YAMAZAKI TERUO FURUKAWA MASAO AKIYAMA MASARU OKUTSU IZUMI KUMASHIRO MORIO IKEHARA
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.692-696, 1973-04-25 (Released:2011-02-08)
参考文献数
17
被引用文献数
3 7

As the analog of thioinosine, 2-methyl-, 2-ethyl-, 2-methylthio-, and 2-methyiamino-6-mercapto-9-β-D-ribofuranosylpurine were synthesized. From thio-AICA-riboside, 5-formamido-1-(2', 3', 5'-tri-O-formyl-β-D-ribofuranosyl)-4-imidazolethiocarboxamide and 5-acetamido-1-(2', 3', 5'-tri-O-acetyl-β-D-ribofuranosyl)-4-imidazolethiocarboxamide were also prepared.
著者
西原 利夫 覚前 睦夫 中村 寛
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料試験 (ISSN:03727971)
巻号頁・発行日
vol.4, no.22, pp.206-214, 1955-05-01 (Released:2009-05-26)
参考文献数
2

This paper deals with the experimental research on the effects of change of wire drawing condition on hardness distribution over the section of drawn wire.Using a Micro-Vickers hardness tester, we tried to investigate the hardness distribution over the cross section of three kinds of carbon steel wires and a brass wire, drawn under several kinds of drawing conditions, as well as the gradual change of hardness over the longitudinal section of carbon steel wires under plastic deformation with half drawn specimen.As the results we have make it clear that the wire with uniform deformation as possible will be obtained by following methods of drawing:(1) with the die of larger radius of curvature of drawing surface than with the die of smaller radius, (2) under high reduction of diameter than low reduction.
著者
塚野 弘明 TSUKANO Hiroaki
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.451-459, 2015-03-01

認知行動療法(CBT)とは、患者自身が自分の心(認知、行動、身体、気分)の状態や関連性を知り、それを変えられるという実感を通して自らを制御する力をつけていく自己コントロール法である。こうした方法の発想自体はそれほど珍しいわけではなく、古くから指摘されてきた。たとえば、ギリシャのストア哲学者エピクテトスは、「人間は、生じる物事によってではなく、その物事に対する考え方によって煩わされるのである」と述べている(Epictetus 1991)。また、ダライ・ラマは、「私たちがじぶんの思考や情動を新たな方向に向かわせ、自らの行動を整理し直すことができれば、苦悩をうまく処理する術をもっと簡単に習得できるだけでなく、そうした苦悩の発生を最初からかなり防ぐことができる」と述べている(Dalai Lama 1999)。このように、人間の気分や行動は、認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)の影響をうけることから、しばしば認知の偏りを生じることがある。CBITでは、その偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした心理療法である.これがCBTとして確立したのは、1970年代にベックがうつ病に対する心理療法として構造化してからである(Beck,Ruth,Shaw et.al 1979)。その後、うつ病はもちろん、不安障害やストレス関連障害、パーソナリティー障害、摂食障害(神経性大食症)、統合失調症などの精神疾患に対する治療効果と再発予防効果を裏付ける優秀なエビデンス(科学的証拠)が多く報告されてきたことから、欧米を中心に世界的に広く使用されるようになった。また精神疾患以外でも、日常のストレス対処、夫婦問題、司法や教育場面の問題など、その適応範囲は広がりを見せている。日本では、特に1980年代後半から注目されるようになった。それとともに治療効果の検証も進み、2010年度からうつ病のCBTが保険診療報酬の対象になった。その背景には、薬物治療中心の精神医学に限界が生じ、心理社会的治療を併用することの重要性が認識されるようになったことが大きく影響している。また、従来の心理療法の問題点(話は共感的に聞いてもらえるが有効なアドバイスをもらえない)の指摘などもCBTが注目される理由となっている。マスコミで取り上げられたこともあり、最近では受診の際に「CBTを受けたい」と希望する患者が多くなっている。しかし、定型的なCBTを実施できる専門家の数に限りがあるなど課題も多い。
著者
竹内 桂
出版者
明治大学大学院
雑誌
政治学研究論集 (ISSN:13409158)
巻号頁・発行日
no.43, pp.97-116, 2015
著者
浅野 真司
出版者
日本膜学会
雑誌
(ISSN:03851036)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.278-285, 2011 (Released:2012-05-18)
参考文献数
35
被引用文献数
1

Gastric acid secretion in parietal cells is performed by proton pump, H+, K+- ATPase, in combination with several related ion transporters located on the apical and basolateral membranes. In this review I will introduce several recent topics about molecular basis of gastric acid secretion in parietal cells. First, I wish to introduce 3D structures of H+, K+-ATPase resolved recently. The structures demonstrated the interaction between the α- and β- subunits fixes and favors the E2P conformation (the “rachet effect”). The binding site of a K+-competitive inhibitor SCH 28080 on the α- subunit of H+, K+-ATPase was also identified in the 3D structure. Secondly, I wish to introduce ion transporters on the apical membrane necessary for gastric acid secretion. Among others KCNQ1/KCNE2 was identified as a K+ channel involved in K+ recycling and replenishment of K+ in the lumen. Thirdly, I wish to introduce actin-binding proteins, ezrin and Huntingtin interacting protein 1 related (Hip1r), which are necessary for gastric acid secretion. Ezrin is involved in membrane fusion between tubulovesicles and apical membrane whereas Hip1r is involved in endocytosis and regeneration of tubulovesicles from apical membrane. Finally, the roles of parietal cells in differentiation of gastric epithelial cells as well as gastric acid secretion will be introduced.
著者
吉田 充 市川 水音 富田 樹 知久 和寛 八戸 真弓 濱松 潮香 岡留 博司
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.47-51, 2019-02-15 (Released:2019-02-23)
参考文献数
11
被引用文献数
1

放射性セシウムを含む玄米をとう精加工し,さらにそれを炊飯した際の放射性セシウムの濃度と残存割合Frを調べた.精米歩合99.5%および98.8%の場合の放射性セシウムの除去率は3%および8%で,とう精により除かれた糠の質量の割合よりも米の放射性セシウムの濃度の低下割合が大きかった.また,とう精・洗米・炊飯後では,玄米に比べた放射性セシウムの除去率は,それぞれ21%および27%で,とう精以上に洗米による放射性セシウムの除去効果が大きいことが示された.放射性セシウムの濃度としてみると,精米歩合99.5%および98.8%の低とう精加工では,加工係数Pfは0.97および0.92であったが,炊飯までを含めると玄米を炊飯した場合の加工係数Pfの0.46に対して,0.38~0.34にまで低下した.既報の結果を合わせると,とう精による加工係数Pfは精米歩合99.5%の低とう精米から91%の精白米まで,炊飯まで含めた加工係数Pfは精米歩合99.5%の低とう精米から97%の3分づき米まで,精米歩合に比例して低下した.この実験結果は,放射性セシウムを含む玄米やとう精米の摂取による内部被ばく量の推定に役立ち,食品からの放射性セシウムの摂取に関するリスク評価やリスク管理に利用できるものである.