著者
風間 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.107-122, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
92
被引用文献数
11

近年、陸上の建設適地の不足や電力供給の安定性から、大規模な洋上風力発電施設(洋上風発)が世界各地に建設されている。洋上風発は、建設や運用に関して多くの経済的利点を保有している一方で、海洋生物へ様々な影響をおよぼす。洋上風発建設前の探査や掘削により発生する騒音は、魚類や海棲哺乳類の音声コミュニケーションを阻害する。洋上風車の設置は、海洋生物の生息場所を減少させるばかりでなく、局所的な海洋環境を変化させることを通してさまざまな海洋生物の生残や繁殖に影響をもたらす可能性がある。また、洋上の風車と鳥類が衝突する事故は多数確認されている。風車との衝突を避けるために、多くの鳥類が採餌や渡りの際に風車を避けて飛翔する。この風車回避行動は、鳥類の飛翔距離の増加を招き、その分、飛翔エネルギーコストが上昇すると考えられている。今後、より多くの海域や分類群を対象とした長期的な影響評価が必要である。洋上風発が海洋生物におよぼす影響を軽減するためには、多くの鳥類や海棲哺乳類が利用する渡り・回遊ルートや採餌域を避けた建設地の選定、騒音の発生を抑えた工法、渡り・回遊や繁殖の時期や時間帯に配慮した運転などが求められている。
著者
佐藤 公則 梅野 博仁 千年 俊一 中島 格
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.132-140, 2011 (Released:2011-04-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

正常成人では睡眠中の嚥下の頻度は減少していた.その頻度は睡眠stageに関係しており,睡眠が深くなるに従い嚥下の頻度が低くなっていた.また長時間嚥下が行われていなかった.このことから睡眠中は咽頭食道のクリアランスが低下していることが示唆された.しかし,若年成人では嚥下後吸気で再開する頻度は低く,このことは気道防御に有利であると考えられた.閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者でも睡眠中の嚥下の頻度は減少していたが,88%の嚥下はrespiratory electroencephalographic arousalとともに起こることが特徴であった.70%の嚥下は嚥下後,呼吸は吸気で再開しており嚥下に関連した呼吸のパターンは特異的であった.CPAP療法は睡眠時の無呼吸・低呼吸と睡眠構築を改善させるだけではなく,睡眠中の嚥下と嚥下に関連した呼吸動態も改善させていた.
著者
田崎 由実 伊藤 源太 三浦 直樹 桃井 康行
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.Suppl, pp.Suppl_44-Suppl_45, 2012-07-01 (Released:2013-03-21)

シリカ結石はイヌでは比較的まれな尿石とされている。昨年の本学会で、我々は鹿児島県ではシリカ尿結石が多くみられることを報告した。そして、鹿児島県内の水道水中のシリカ濃度は他の地域に較べ著しく高く、シリカ結石発生の要因として飲料水との関係を示唆した。しかし、新たな謎も生じた。鹿児島市内の水道水のシリカ濃度は比較的高いのになぜシリカ結石がほとんど生じないか、シリカの好発地帯ではみな同じ水を飲んでいるのにもかかわらずなぜ一部の犬でシリカ結石が生じるのか、さらに、シリカ好発地域以外では何が原因でシリカ結石が発症するのか、などである。今回はそれらの謎に答えるため各種実験を行い、シリカ発生の機序とその予防法について考察した。
著者
永崎 研宣
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.422-437, 2015-09-01 (Released:2015-09-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

SAT大蔵経テキストデータベースは,1億字超の校訂テクストのデータベースとして2008年に全文検索を中心としたWebサービスを開始して以来,着々とサービスを拡充してきている。特に,他のWebサービスやデータベースとの連携サービスに注力している。これら一連のサービスについて「涅槃(ねはん)」と「泥洹(ないおん)」という言葉の使い分け方の調査を例にとって概観する。SATプロジェクトは,単に仏教研究に資するだけでなく,デジタル時代の人文学の在り方を追究しつつ国内外の人文情報学の動向とリンクしながら発展してきている。オープンデータとして見た場合にはまだ十分とは言えないが,そこに向けての準備は進めている。
著者
青山 薫
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-36, 2016-10-20 (Released:2017-11-10)
参考文献数
59

昨年、全米で法制化されるなどして話題になった「同性婚」1 。日本では、その法制化が現実味を帯びないうちに賛否両論が出揃った感がある。本稿は、この議論をふまえ、「同性婚」やこれに準ずる「同性パートナーシップ」を想定することが、現在の世界と日本社会でどのような意味をもつのかを考察する。そのために本稿は、まず、世界で初めて同性カップルの「登録パートナーシップ」を法制化したデンマーク、やはり初めて同性同士の法律婚を可能にしたオランダ、特徴的な「市民パートナーシップ」制度を創設したイギリス、そして「婚姻の平等」化で世界に影響を与えたアメリカにおける、「同性婚」制度の現代史を概観する。そしてこれら各国の経験に基づいて、「同性婚」が何を変え、何を温存するのかを考察する。そこでは、「同性婚」が近代産業資本主義社会の基礎としての異性婚に倣い、カップル主義規範を温存させることを指摘する。また、「同性婚」が、異性婚の必然であった性別役割分業・性と生殖の一致・「男同士の絆」(セジウィック)を変化させる可能性についても論じる。次に本稿は、近年の日本における「同性婚」に関する賛否両論を概観する。そこでは、賛成論が、同性婚の1)自由・平等の制度的保証面、2)国際法的正当性、3)象徴的意義、4)実生活の必要性に依拠していること、反対論が、同性婚の1) 性的少数者の中のマイノリティ排除、2)経済的弱者の排除、3)社会規範・国家法制度への包摂、4)新自由主義経済政策との親和性を問題視していることを指摘する。そのうえで本稿は、異性愛規範が脆くなってきた今、抗し難い「愛」の言説を通じて「LGBT」が結婚できる「善き市民」として社会に包摂されるとき、他のマイノリティを排除していること、さらに、日本における包摂には、欧米の「同性婚」議論では「愛」と同様に重要視されてきた自由と平等の権利さえ伴っていないことに注意を注ぐよう、読者に呼びかける。
著者
中井 誠一
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.9-14, 2011 (Released:2011-05-07)
参考文献数
24
被引用文献数
1

熱中症は古くは坑内労働などの労働場面と軍隊で発生していた.熱中症予防に関する歴史を辿ってみた.最近では,熱中症を暑熱障害の総称として用いているが,明治以前は暑熱による病気は霍乱,中暑,暍病,暍死などの語が用いられた.1950 年代以降は,炭坑等で多発するため,熱中症が用いられている.日光照射がある屋外の労働や軍隊では日射病が用いられた. 1926~1940 年代の坑内では気温 34℃を上限としているが,1970 年以降のグラウンドで観測した温度では,乾球温度 33.5℃,湿球温度 24.0℃,WBGT 27.6℃であり,坑内温度と大差がない.また,対応策も 1937 年には 0.2~0.3%の食塩水を勧めており,経験的に塩分補給は常識的とされていた.労働衛生においは,作業環境管理,作業管理,健康管理,衛生教育による対策が職場においては行われている.日常生活においても熱中症予防のための保健教育の必要性を指摘した.
著者
柳沢 幸雄 川瀬 晃弘
出版者
一般社団法人 日本計画行政学会
雑誌
計画行政 (ISSN:03872513)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.27-32, 2023-05-15 (Released:2023-06-08)
参考文献数
24

Due to chemical exposure, multiple chemical sensitivity (MCS) has become a severe problem. The mechanism of MCS, however, still needs to be clarified. This paper considers the role of science and policies regarding MCS. The Japanese government has taken measures to prevent and deal with MCS, such as setting guidelines for indoor chemical concentrations and registering the disease name for health insurance claims. However, since MCS patients have differing symptoms, a uniform policy is difficult to implement, so we must act with sympathy and empathy. MCS is no longer a rare disease; like hay fever, it can affect anyone. In the future, it is necessary to prevent patients from becoming severely ill and to prevent the occurrence of new MCS patients.
著者
Tamaki Koda Bunki Natsumoto Hirofumi Shoda Keishi Fujio
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
pp.1788-23, (Released:2023-07-19)
参考文献数
31
被引用文献数
2

Angioedema with eosinophilia (AE) is a rare disease of unknown etiology characterized by episodic (EAE) or nonepisodic AE (NEAE). SARS-CoV-2 mRNA-based vaccines function as immunogens and intrinsic adjuvants and have been shown to be safe in large-scale trials. However, the long-term adverse reactions, especially those related to eosinophilic complications, have not been fully clarified. We herein report a case of self-limited but severe NEAE that developed in a young woman one week after receiving the second BNT162b2 mRNA vaccine. The symptoms that impaired her activities of daily living, such as edema, gradually resolved with supportive care over 10 weeks without corticosteroid treatment.
著者
土屋 昭博
出版者
一般社団法人 日本数学会
雑誌
数学 (ISSN:0039470X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.97-124, 1992-05-18 (Released:2008-12-25)
参考文献数
76
著者
福永 寛 櫻木 悟 藤原 敬士 藤田 慎平 山田 大介 鈴木 秀行 宮地 剛 川本 健治 山本 和彦 堀崎 孝松 田中屋 真智子 片山 祐介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.SUPPL.2, pp.S2_154-S2_158, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
3

Kounis症候群とはアレルギー反応に伴い急性冠症候群をきたす症候群であり, 冠攣縮に合併したタイプ1とプラーク破裂に伴う血栓形成に起因するタイプ2に分類される. 今回, われわれはKounis症候群により心肺停止をきたした2症例を経験したので報告する.症例1: 76歳, 男性. 腰部脊中柱管狭窄症の術中にセフォペラゾンを投与したところ, アナフィラキシーショックを発症した. 下壁誘導にてST上昇を認めたため急性冠症候群と診断, 緊急冠動脈造影にて右冠動脈#1に血栓および#4AVに完全閉塞を認めた. 血栓吸引療法のみで再疎通が得られた.症例2: 61歳, 男性. 起床時より四肢・体幹に蕁麻疹を認め, その後, 心肺停止となり, 当院へ搬送された. 心肺蘇生術にて心拍再開したが, その後, 心室頻拍が頻発, 急性冠症候群を疑い緊急冠動脈造影を施行した. 冠動脈に有意狭窄は認めなかったが, 心電図上胸部誘導で一時的にST上昇を認めたため, 左前下行枝の冠攣縮と診断した.
著者
奥 健太郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_120-2_143, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
9

近年, 筆者は自民党政権の政策決定手続きの特徴とされる 「事前審査制」 の通説を修正する説, すなわち事前審査制が自民党結党直後の1955年から始まったとする見解を発表した。このことを前提とすると, 自民党政務調査会は, 結党直後から事前審査の中心機関として, 与党内部ならびに政府与党間を調整する役割を果たしていたと考えられる。そこで本稿は, 1956年の健康保険法改正問題を事例として, 当時の政調会が果たした役割を分析した。 結論としては, 結党直後の政調会が平時であれば政策調整機関として, 政府与党間, 与党内部で政策を具体的に調整する機能を持っていたこと, その一方で事態が政局化すると政調会の果たす役割は限定的であったことが明らかになった。

43 0 0 0 OA 東京府統計書

著者
東京府 [編]
出版者
東京府
巻号頁・発行日
vol.大正15昭和元年, 1928
著者
澤島 佑規 矢部 広樹 野村 宜靖 足立 浩孝 村田 真也 田中 善大
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.218-226, 2018 (Released:2018-08-20)
参考文献数
37
被引用文献数
3

【目的】急性期の脳領域の損傷度から回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)退院時の歩行自立度が予測可能か検討することを目的とした。【方法】対象は被殻出血患者115 例とし,退院時のFIM の歩行点数から自立群および非自立群,介助群,不可群に分類した。急性期のCT にて,側脳室レベルの6 領域,松果体レベルの14 領域の計20 領域の全体面積と出血面積を測定し,損傷度(出血面積/ 全体面積× 100)を%値にて算出した。20 領域の損傷度に加えて出血量,脳室穿破の有無を測定し,ロジスティック回帰分析およびROC 解析にて歩行の自立/非自立,介助/不可を判別するカットオフ値を算出した。【結果】歩行自立/非自立は内包後脚中部の損傷度(60.4%)と出血量(27.4 ml),歩行介助/不可は内包後脚前部の損傷度(16.8%)が有意に抽出された。【結論】内包後脚前部と中部の損傷度,出血量から歩行自立度の予測が可能であると示唆された。
著者
池上 龍太郎 清水 逸平 吉田 陽子 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.106, no.8, pp.1652-1658, 2017-08-10 (Released:2018-08-10)
参考文献数
11

血管は,加齢に伴って構造的・機能的変化を来たし「老化」する.加齢に伴い,高血圧や糖尿病などが合併することで,血管老化はさらに加速し,心血管疾患が発症するリスクは大きく上昇する.老化のプロセスには未解明な点が多く存在するが,一定の制御機構を伴う生命現象であることが広く認識されるようになっている.最近の研究報告により,「細胞レベルの老化」が「個体や臓器の老化」,「老化疾患の発症」に深く関連することがわかってきた.本稿では,血管老化のメカニズムについて細胞老化を中心に概説し,老化そのものを治療標的とした次世代の治療戦略について考えてみたいと思う.