著者
市村 洋 鈴木 雅人 小畑 征二郎 吉田 幸二 酒井 三四郎 水野 忠則
出版者
Japanese Society for Engineering Education
雑誌
工学教育 (ISSN:13412167)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.2-8, 2000
被引用文献数
11

現在日本では,創造性教育への切り替えを産官学挙げて強く推進している.我々高専では,最も柔軟な思考のできると言われる16~20才の年齢層の学生を教育対象としており,また比較的少人数制(必須科目で一教室40名定員)を採っており,創造性教育に恵まれた環境である.しかし日本の長い受動的教育の経緯を一挙に転換することは難しく,学生・教師双方とも相当の負担である.そこで,新しい時代にはそれに相応しい道具すなわちマルチメディアの活用により,20~30名単位の授業を能動的にする仕組みの授業システムを設計し,その有効性を検証した.<BR>このマルチメディア支援授業は,半期15週2時限授業をPLAN段階,DO段階,CHECK段階の3段階に分け,各段階にマルチメディアを柔軟に適応することを旨として設計した.このマルチメディア活用により試験合格型から予習中心型の学習へ転換でき,従来型の授業より2~3倍の学習時間を費やしていることも検証できた.また発表後の学友の評価,自由意見の激励に感動している報告も多かった.
著者
髙﨑 章裕
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

本研究の目的 基地問題を含めた沖縄の環境問題研究については、多くの場合、保護・保全という側面ばかりが強調されてきた。それは、沖縄の豊かな環境や生物多様性が乱開発や基地建設に脅かされることで、「現場」における緊急な保護・保全の対応が求められたからである。言い換えれば、市民が「現場」での対応に追われたことで、環境と地域住民のローカルな関係性が評価されることは少なかった。そこで本研究では、沖縄県国頭郡東村高江におけるヘリパッド建設反対運動を事例として取り上げ、座り込み運動がもつスケールの重層性に注目しながら、どのようなアクターが「高江」といかなる関係性を持って運動を展開していったのかについて明らかにすることを目的とする。高江ヘリパッド建設問題 研究対象地域である沖縄県東村高江区は、沖縄県北部のやんばると呼ばれる地域に存在する。やんばるとは、イタジイを主とした亜熱帯照葉樹林に包まれ、固有種を含む多種多様な生物によって特異な自然生態系を形成し、国指定特別天然記念物ヤンバルクイナ、ノグチゲラなども生息しており、やんばるの国立公園化と世界遺産を目指す取り組みもおこなわれている。高江の世帯数は約60戸、人口は約150人で、人口の約2割が中学生以下である。このやんばるの森では、1957年よりアメリカ海兵隊による北部訓練場の使用が始まり、その規模は総面積約7,800ヘクタールにも及ぶ。ベトナム戦争時には、高江区住民をベトナム現地の住民に見立てて戦闘訓練が行われた地域でもある。1997年のSACO合意によって、北部訓練場の約半分(3,987ha)を返還する条件として、国頭村に存在するヘリパッドを東村高江へ移設することが計画され、2007年に那覇防衛施設局(現沖縄防衛局)によって工事が着工されることになる。高江区は区民総会によって二度にわたる反対決議を行っているにも関わらず、工事が進められたことで、住民は2007年7月から座り込みをはじめ。現在もなお続けている。座り込み運動の展開とスケールの重層性 高江における座り込み運動はまず「ヘリパッドいらない住民の会」による「地元」の住民によるものが挙げられる。有機農家や伝統工芸、カフェ経営など、より静かな環境を求めて高江に移り住んできた家族世帯で構成されており、日々の暮らしと密接なつながりがあるという点で「生活環境主義」に近い立場と考えられる。次に挙げられるのが、労働組合や政党の運動組織などの組織的動員によるもので、例えば、社民党・社大党系の社会運動団体である沖縄平和運動センター、共産党系組織による統一連、大宜味村九条を守る会など、左翼活動家による反基地運動としての座り込み運動も行われている。またやんばるの森を守るために、環境影響評価の再実施を求める沖縄環境ネットワーク、奥間川流域保護基金、沖縄・生物多様性市民ネットワークといった環境運動としてのアプローチも見られる。さらに移住者・旅行者を歓迎するという高江の地域性も相まって、非正規雇用や無職の若者、バックパッカーといった者たちが高江の情報を得て、インフォーマル・セクターとして高江集落内で住民と共に労働作業を行いながら、座り込みにも参加するというケースも数多く見られることも高江の運動の特徴である。その大きな影響を与えているのが、音楽やアートといった文化的アプローチから高江の現状と座り込み運動の意義を全国に発信していく地元アーティストを介した全国的なネットワークとイベントの企画である。このように高江における座り込み運動は、「高江」という極めてローカルな場所にも関わらず、運動のアクターや性質に応じて、重層的な側面を有していることが明らかとなった。本報告では、高江の事例におけるスケールの重層性についてさらに詳しい考察を加えたい。
著者
川瀬 俊夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.347-352, 2001-12-28
被引用文献数
3 1

歯周病治療の多くは,歯周組織再生を目指し,再生医工学を応用している。GTR膜を用いた歯周組織再生法は早い時期から臨床の現場で行われている。生体材料学的見地からGTR膜を評価し,非吸収性の膜から吸収性の膜への開発がなされてきた。その中でも,異種動物由来の成分を材料にしているものから,人工合成による材料に移行している,あるいはその気配が感じられる。一例をあげればポリ-L-乳酸に期待がもたれている。これと平行して,GTRの一つであるエナメル基質タンパク質(エムドゲイン^<[O!R]>)による再生療法が開発され,臨床的には良好な成績を収めている。術式は異なるものの,歯根膜の組織性幹細胞の動態が鍵を握っている点では共通している。すなわち,この組繊性幹細胞がどのように歯周組織の線維芽細胞,骨芽細胞そしてセメント芽細胞に分化するのかを,ニッチェの概念を導入し,その実態に迫る必要がある。エナメル基質タンパク質が作用するには,第一に,歯根膜の細胞の存在が必須である。それは歯根膜の細胞自ら,多くの組織再生因子を産生しているので,エナメル基質タンパク質はこれらの因子を介して骨髄由来の間葉系幹細胞に働き,歯根膜の組織性幹細胞を骨系の細胞に分化誘導するものと思われる。
著者
小薮 大輔
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;ヒトの後頭部を構成する骨の一つに頭頂間骨という骨がある.形態学の教科書を紐解くと,頭頂間骨はヒト,齧歯類,奇偶蹄類,食肉類に存在し,異節類,鰭脚類,モグラ類,センザンコウ類などの系統では存在しないとされている.その進化的起源に関し 19世紀以来,幾人かの解剖学者が注目してきたものの,その有無が系統的に安定しないこと,そして成長に伴ってすぐに他の骨に癒合することから,多くの学説を混乱させてきた.そこで発表者は 300種以上の現生及び化石単弓類を対象に頭頂間骨の発生学的,系統学的変異を調査した.その結果,通説に反して全ての目で胎子期には頭頂間骨が存在することが確認された.胎子期初期には容易に確認しうるが成長に伴ってすぐに他の骨に癒合するため,多くの系統でその存在が見落とされてきたと考えられる.さらに,頭頂間骨は基本的に 2組の骨化中心(内側外側各 1組)から発生することが確認された.従来,祖先的単弓類の後頭頂骨 1組が哺乳類の頭頂間骨となり,祖先的単弓類の板状骨 1組が喪失することで哺乳類の後頭部は成立したと考えられてきた.しかし ,本研究の結果は哺乳類の頭頂間骨は進化的に 2組の骨から起源した可能性を示唆する.つまり頭頂間骨の内側骨化中心の 1組は祖先的単弓類の後頭頂骨 1組とのみ相同であり,また哺乳類に至る系統で喪失したとされてきた祖先的単弓類の板状骨は,実は頭頂間骨の外側骨化中心の 1組と相同であり,通説に反し哺乳類でも失われることなく存在していると考えられる.また最近の研究から,頭頂間骨を除きマウスの頭骨を構成する全ての骨は中胚葉もしくは神経堤細胞由来のいずれかに由来することが明らかになった.一方,頭頂間骨は内側が神経堤細胞から,外側は中胚葉からそれぞれ発生する.頭頂間骨におけるこの複合的な発生学的由来は,板状骨と後頭頂骨が進化的に融合して哺乳類の頭頂間骨が起源したことと関連しているかもしれない.
著者
鈴木 佐代 福永 美紗 豊増 美喜 秋武 由子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.68, 2016

<b>目的</b> 福岡県春日市は12の小学校すべてにログハウス造の放課後児童クラブを設置している。ログハウス舎は利用児童数が増加した1992年から2006年の間に、ほぼ1年1棟のペースで新築された。設計に関して、初期の頃は指導員や保護者が要望を出し、変更が加えられていった。本研究では、ログハウス舎の建築図面および指導員対象のヒアリング調査から空間構成の変化を分析し、放課後児童クラブに求められる空間・設備の要件を明らかにする。<br><b>方法</b> 春日市から収集したログハウス舎12棟の建築図面の分析と、勤務年数の長い指導員2名を対象としたヒアリング調査(2013年11月)を行った。<br><b>結果</b> 1)1992年~1996年建築の初期5棟は、1階建て延べ床面積118.8㎡であったが、1997年の6棟目以降は2階建てとなり、建設時期が後になるほど2階の延床面積は拡大した(46.6~62.6㎡)。2)1階は、1室29.7㎡の 4室からなる田の字型プランである。初期の設計では、室間の丸太の壁が大きく、各室の独立性が高かったため、死角をなくし空間を広く使えるよう壁を小さくしていった。3)トイレ空間は、男女共用から男女別へ、和式便器から洋式便器へ、身障者用トイレの導入など変化が大きい。4)台所空間では、流し台の向きが屋外向き&rarr;児童の活動室が見える向き&rarr;出入口が見える向きへと変化した。また、台所と活動室との間に、おやつを配る際に使用する配膳台が設けられるようになり、後のクラブ舎ほどそのサイズは大きくなった。5)2階からの転落防止網や避難用の2つ目の階段の設置などの安全対策が市によって行われた。<br>本研究は、H25~27年度科研費(基盤研究(C):25350048)の助成を受けた。
著者
塩原 融 中岡 晃一 和泉 輝郎 加藤 丈晴
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.406-419, 2016 (Released:2016-06-25)
参考文献数
145
被引用文献数
9

Since the discovery of the YBCO superconductor, many efforts have been made to develop useful superconductive wire and tape for many electrical power applications. Especially, the second generation coated conductors using REBaCuO (RE: rare earth element, Y, Gd, Sm, Nd, Eu etc) compounds have high expectations because of its high critical current density at the liquid nitrogen temperature and under self fields as well as high magnetic fields. Recently, several processes have been successfully developed to introduce effective magnetic flux pinning centers into the REBCO layer in order to enhance the in-field critical current densities. This paper reviews the present status of the research and development about the improvement of critical currents in considerations of nano-scale microstructure.

1 0 0 0 OA 諸分店颪

出版者
巻号頁・発行日
vol.[5],
著者
川戸 章嗣
出版者
日本醸造協会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.12, pp.846-851, 2014-12

「和食:日本人の伝統的な食文化」が無形文化遺産に登録されるまでもなく,国内には創業900年になろうとする日本酒の蔵元で製造が続いており,世界に例を見ない。大手日本酒メーカーの歴史を通して世界へのアピールを纏めていただきましたので,日本人の遠慮深さを少し返上するべくご一読を!!日本各地には数百年の歴史ある蔵元があり,立派な土蔵の中に保存されている古文書の整理は手つかずとの話をよく聞く。そういった中から歴史の隙間を埋める資料が発見される事を待ちたい。
著者
鈴木 基子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.100, no.9, pp.598-606, 2005

近年, 日本酒の海外輸出量の伸びが著しく増えており, 国税当局も輸出促進セミナーを開催するなどの支援を表明している。本稿では, アメリカ在住の筆者に, 現在のアメリカにおける日本酒事情を流通の面からご紹介いただいた。日本酒メーカの方だけでなく, 様々な立場の方にも参考になる解説である。
著者
中島 由佳 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.403-413, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

本研究は, 就職活動におけるキャリア志向, 就職活動プロセス, 就職達成の関係についての検討を試みた。先行研究に基づいて仮説モデルを構築し, 女子学生394名 (短大2年生222名, 大学4年生172名) を対象とした質問紙調査を行った。キャリア志向として挑戦・対人志向, 就職活動中の意思・認知として選択的・補償的2次コントロール, 求職行動として選択的・補償的1次コントロールがモデルを構成する概念として使用された。構造方程式モデリングの結果, 就職への意思である選択2次の媒介因としての働きが明らかとなった。両キャリア志向は選択2次を介して選択1次・補償2次の求職行動に寄与しており, 特に対人志向は, 選択2次に媒介されてのみ直接的な求職行動である選択1次に寄与していた。また, 選択1次が就職の達成に寄与する一方, サポート希求などを含む補償1次は就職達成に負の影響を持つことが示された。しかし補償1次はまた, 選択1次を高める働きも見せた。短大生と大学生との間には, 各変数間の関係における有意な相違は見られなかった。キャリア志向とともに, 媒介因としての選択2次を高めるような援助を学生に行うことの重要性が, 本研究からは示唆された。
著者
山本 裕之 小寺 香奈
出版者
愛知県立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

現代音楽において一般的な楽器による特殊奏法はよく知られているが、ユーフォニアムについては研究や活用が成されてこなかった。そこで本研究では、ユーフォニアムにおける特殊奏法について調査分類し、作曲家や演奏家が利用可能な資料としてまとめ、また奏法習得のための教材を制作した。これらの研究の結果、他の楽器と同じようにユーフォニアムにおいても現代的作品が書かれやすくする土台を整備することができた。

1 0 0 0 OA 諸事留

出版者
巻号頁・発行日
vol.[15] 天保度御改正 諸事留 九,
著者
西江 仁徳
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.32, pp.39-40, 2016

<p>2014年11月に、タンザニア・マハレM集団のチンパンジーが、地中の穴の中にいるセンザンコウに遭遇した事例を報告する。ギニア・ボッソウのチンパンジーはキノボリセンザンコウを捕食することが知られているが、これまでマハレではチンパンジーとセンザンコウの遭遇事例の報告はない。今回の観察では、マハレM集団全65個体(当時)のうち20個体が、地中の穴の中にいるセンザンコウに対して何らかの働きかけをおこなった。このうち、穴の中を覗き込んだだけの個体が17個体、さらに穴に枝を挿入した個体が3個体、さらにそのうち2個体は自分の腕を穴の奥に突っ込んだ。穴の中を覗き込むさいには、穴に顔を突っ込む個体も多く見られた。穴に枝を挿入した3個体は、1個体がオトナオス、2個体がワカモノオスで、最初にオトナオスが枝を挿入したあと、ワカモノオス2個体が引き続いて枝の挿入をした。穴の中に腕を突っ込んだのはこのワカモノオス2個体で、いずれも覗き込みや枝挿入をしたあとに腕の挿入をおこなった。穴に挿入した枝は4本回収し、最長のもので約4メートル(基部の直径≒1.5センチメートル)、最短のもので約50センチメートル(基部の直径≒1.2センチメートル)だった。チンパンジーはセンザンコウに対しておおむね新奇な対象を探索するような反応をしていたことから、マハレではチンパンジーとセンザンコウはふだんから互いに出会うことがほとんどなく、ボッソウのような捕食/被食関係にはないことが示唆される。</p>
著者
和田 剛明
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.12, no.5, pp.371-396, 2013-05-25 (Released:2016-07-25)
参考文献数
53
被引用文献数
1

企業が環境の変化に対応し、持続的に成長するための能力であるダイナミック・ケイパビリティについて多くの議論がなされてきたが、その主体、構築・発揮プロセスについての解明は進んでいない。本論文は、この課題に対して日本国内の経営学者の理論を援用することによりこれを探求し、企業事例によって検証を図るものである。