著者
粕谷 大智
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【目的】腰痛ガイドラインでは、治療者の対応(指導、共感、励まし)などが、治療成績や満足度を向上させるというエビデンスがある。しかし、腰痛患者の健康や疾病に対する考え方、理解度、性格などが治療の効果を左右する可能性があり、腰痛患者の信念体系を把握した上での対応が求められている。また、慢性腰痛患者が健康や疾病に対してどのような信念体系を持っているかということを知るには、その患者個人にあった介入を実施するためにも重要なことと考える。今回、慢性腰痛患者の健康統制感と身体所見との関係を調査し、心身健康科学からみた慢性腰痛患者の特徴と介入後の変化について検討した。【対象と方法】慢性腰痛と診断された49例を対象とした。評価法は、健康統制感尺度(JHLC)と患者立脚型慢性腰痛症患者機能評価尺度(JLEQ)と不安評価尺度(STAI)とVASと身体所見との関係を調査した。介入は、(1)セルフケア、(2)患者教育、(3)鍼灸治療(4)カレンダーを用いて、課題が出来たら印をつけてもらった。調査は介入前・介入後1・2・3ヶ月時のJHLCの推移と、それぞれの指標との関連について検討した。【結果および考察】初診時と3ヵ月後の各指標の変化は次のとおりであった.(1)腰痛を表すVASは初診時54.6±13.1が3ヶ月には34.5±15.3と有意に改善していた。(2)JLEQ(腰痛QOL尺度)は78.9±18.5が67.3±17.3と有意に改善していた。(3)STAI(特性不安)は36.3±7.5が31.9±8.3と有意に低下していた。(4)JHLCは5つの下位尺度(Internal、Professional、Family、Chance、Supernatural)の中で、は内在的統制(internal)の尺度のみが有意に増加した。(5)VASの初診時と介入3ヶ月時の変化量を基準変数とした重回帰分析の結果では、QOL、STAI、身体所見変化量の寄与率が強く、JHLCの項目では、Professionalの変化量に寄与率が強い傾向であった。以上の結果より、自分の健康をコントロールできるのは自分自身であるという内在的統制(internal)が高い患者、またはinternalを高めること。外在的の因子では医療従事者(Professional)の関わりが、より効率的な保健行動向上の可能性が示唆された。
著者
小林 雅之
出版者
日本歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

【被験者】日本歯科大学新潟歯学部附属病院小児歯科に来院した,年齢5歳3か月から11歳9か月の小児小児患者19名。【実験方法】治療椅子を中心とした時計式表示法の位置で12時に歯科医師,3時に歯科衛生士,7時半に母親を配置した。そして,歯科医師が「おくちをあいて」,母親が「いいこにしてね」,歯科衛生士が「がんばったね」と話しかけ,被験児の眼球運動を両眼眼球運動測定装置で測定した。分析の結果,三者が話しかけたとき,話しかけた人の顔を視線が走査した被験児(走査群)と,走査しなかった被験児(非走査群)とに二分することができた。そして,両者間に性格特性があるか検討するため,被験児の眼球運動の結果と高木・坂本幼児児童性格診断検査との関連を,林式数量化理論II類により比較検討した。【結果および考察】1.数量化II類の結果は,相関比が0.701,判別的中率が94.7%,判別的中点が-0.127であった。2.高木・坂本幼児児童性格診断検査の性格特性で,走査群と非走査群の判別に大きな影響を与えるアイテムは,自制力,顕示性,神経質そして学校への適応であった。走査群に判別できるカテゴリーは,自制力なし,顕示性なし,神経質傾向,学校へ適応で,非走査群に判別できるカテゴリーは,自制力あり,顕示性あり,神経質でない,学校へ不適応であった。3.性格特性で,アイテム間相互の偏相関係数が0.700以上の強い相関を示すアイテムは,顕示性と神経質,神経質と自主性,不安傾向と社会性,自制力と個人的安定性であった。以上より,走査群と非走査群の被験児間に性格特性があることがわかった。
著者
島谷 幸宏
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,小水力発電の減少が生態系に与える影響を定量的に評価した。①加地川(取水率50%)において,減水による底生動物現存量,及び生物の群集構造への影響はなかった.加茂川(取水率78%)において,減水によってハビタットによっては減水区間にて底生動物個体量,及び分類群数が減少した。②減水により高流速地点が消失し,流速が速い,飛沫帯の発生するハビタットの減少,そしてそのようなハビタットを好む種の現存量低下につながる.③鳥類に着目すると,夏季に比べ,平常流量の少ない冬季において取水による減水の影響が大きくなる可能性がある.
著者
加藤 邦子 牧野 カツコ 井上 清美 間野 百子 間野 百子 藤原 佳典
出版者
宇都宮共和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

子育て支援施設を利用する未就学児をもつ親(約1300名)を対象として,配偶者以外で育児を助けてくれる人とどのような関係を築いているか,関係構築がどのように親子関係に影響を及ぼすかプロセスを検討した。配偶者以外で育児を最も手助けしてくれる人が,親族の場合は,その関係が良好であるほど,友人と育児に関するコミュニケーションが多くなり,子育て支援施設で気軽に相談したり助けてくれる人との関係も良好で,親子関係が円滑化するというプロセスが検証された.一方配偶者以外で育児を助ける人が非親族か該当者がいない場合、子育て支援施設で気軽に相談したり助けてくれる人との関係を築き、親子関係を支える必要が示唆された。
著者
河合 克宏
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

IRBITノックアウトマウスにおいて見られる種々の行動異常の発症機構を解明するため、モノアミン産生および細胞内pH制御へのIRBITの寄与に関して検討を行った。その結果、モノアミン産生の鍵となるTyrosine hydroxylaseのリン酸化をCaMKIIαの活性を介してIRBITが制御している事がわかった。また、神経細胞およびグリア細胞においてIRBIT欠失が細胞内pH制御の機能異常を引き起こす事も明らかにした。
著者
太田 敬子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、非ムスリム統治法や統治制度の正当性を巡るムスリム知識人の議論、具体的にはナジュラーンのキリスト教徒の法的処遇に関する議論を分析した。その結果、異教徒統治制度の整備・発展には、異教徒統治理論の確立が不可欠であったこと、その理論は9~10世紀に輩出した法学書・歴史書・ハディース集における様々な議論を基礎として発展し、またその時代の政治・社会情勢に大きく影響されていたことを実証的に確認した。
著者
長谷 正人
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

山田太一のさまざまな作品を映像作品として見直し、さらに山田太一氏本人や関係者へのインタビューも行って、70年代から80年代にかけての日本のテレビドラマがどのようにしてポストモダン的なイメージ社会を準備し、そしていかにそれを「後衛」の視点から批判したかを明らかにした。
著者
松尾 弘徳
出版者
鹿児島国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、申請者がこれまでに行ってきた日本語史の研究成果を援用しつつ、「新方言」と呼ばれるものを対象として、九州地域の方言に生じている文法変化の一端を明らかにした。方言が文法変化を生じる際には一定の方向性が見られる。そこで、「方言調査からの実証研究」と「文法変化に関する理論的研究」とを結びつけ、とりたて詞を中心とした九州地方における新方言の文法研究に取り組み、言語変化の方向性に関する考察を行った。日本語文法史研究と方言文法研究の接点を見出せたのではないかと考えている。
著者
福田 雅臣
出版者
日本歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は「食育」を歯科保健の立場,特に歯・口の機能という視点から,食育支援のための授業プログラムの作成と実践活動を小学校において,学校保健教育の中で行い,その効果として児童の行動変容を評価することを研究目的とするものである。調査対象は小学校3年生から6年生の男子1545名,女子1456名の計3001名である。健康教育の効果は生活習慣,食習慣の関するセルフチェックシートを用いて行った。その結果,生活習慣,口腔衛生習慣に関す項目で僅かではあるが改善傾向にあることがわかった。また,むし歯予防のための行動として,「歯磨きをする」,「よくかんで食べる」,「フッ素入り歯磨き粉を使う」との回答が多かった。
著者
岡野 雅子
出版者
群馬女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

今日、社会機構の分化は極めて進み金銭を媒介として必要なモノ・情報・サ-ビスなどを手に入れて我々の生活は運営されている。このような中で育つ子どもたちは、金銭について及びそれに代表される社会機構についての認識をどのように発達させていくのだろうか。それを明らかにして、消費者教育のための基礎的資料としたい。研究I・「お金」に対する感じ方・捉え方については、幼稚園年長児・小学2年生・小学5年生・中学2年生・高校2年生の計1105名を対象に質問紙調査(幼児には面接調査)を行った。その結果、『お金』や『お金持ち』の刺激語に対して「欲しい」「いいな」などの羨望を伴うプラスの情緒反応が多く、小学生及び郡部でその傾向が強い。中・高生になると、「けち」「欲張り」などのマイナスの情緒反応も示し始める。『お金で買えないもの』に対しては「いのち・人間」の回答も最も多く、中2で「友人」高2で「愛・こころ」も多い。幼児は具体的なモノの回答が多い。職業選択の理由は「もうかるから」はどの発達段階にも見られ差がないが、男子に多い。研究II・子どもの消費者意識については、小2・小5・中2・高2の計971名を対象に調査を行った。「お金を得るためには働くことが必要」「自分のやりたい仕事につきたい」「コマ-シャルで視たものを買う」「無駄使いをしてはいけない」「人が持っているものが気になる」は小学生ほど多い。研究III・学庭教育の関連については、幼児とその母親の102組及び小学3年生とその母親の122組を対象に調査を行った。概して子どもと母親の間にはかなりの認識のズレがあり、「お金は働いて得たものと話してくれる」「お母さんは『もったいない』と言う」では、母親はそうしていると思っていても子どもは必ずしも受信していないようである。それぞれの母ー子をペアにして回答の相関を見ると、ほとんど有意な相関は見い出せない。
著者
寺岡 隆 真弓 麻実子 中川 正宣 瀧川 哲夫
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

実験ゲーム研究における「因人のジレンマ」とよばれている心理学的事態は、いわゆる個人合理性と集団合理性に関する社会動機間の葛藤を示す典型的事態である。こ事態が何回も繰り返される場面では、この事態に参加するふたりのプレイヤーの選択は、しばしば最適解でない共貧状態に陥ってしまうことが多いが、この状態から共栄状態へ脱出するにはどうしたらよいかという問題がこの領域におけるひとつの主題になっている。本研究は、この主題を統制者が選択する反応系列によって相手側に協力反応を選択せざるを得ないようにする方略に関する視点と相手側に事態を規定している利得構造をいかに把握させるかという事態認知と情報統制とに関する視点に焦点をあてたものである。前者は「TITーFORーTAT」とよばれる方略,後者は申請者によって提起された「合成的分解型ゲーム」というパラダイムを基盤とする。本研究の目的は、これらのパラダイムが共栄状熊の実現に有効になり得るかということを実験的に検討することにある。本報告書は2部から成り、第1部はTIT-FOR-TAT方略に関する3系列の実験的研究,第2部は合成的分解型ゲームに関する2系列の実験的研究の成果を述べたものである。第1部における実験研究では、1)TIT-FOR-TAT方略には種々の型があり目的によって最適方略が異なること、2)利得和最大化のためには、可能ならば同時TIT-FOR-TAT方略が最適であること、3)利得差最大化にためには、当実験条件下では倍返しTIT-FOR-TATが最適であったこと、4)報復の遅延は効果を減ずること、などの結果が得られた。第2部における実験研究では、1)合成的分解型ゲームは理論的に標準的分解ゲームより効果があるにしても、そのままでは大きな効果を示さなかったこと、2)情報の統制効果は大で、相手に統制者の利得条件を示さない場合や相互の利得を示さない場合はとくに顕著であることなどの結果を得た。
著者
岩永 定 小坂 浩嗣 芝山 明義 柏木 智子 仲田 康一
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

子育て困難な家庭への支援ネットワーク構築の可能性を探るために,児童相談所職員と養護教諭を対象とした質問紙調査を実施した。また,家庭教育支援事業を展開している和歌山県湯浅町教育委員会の担当者に対してインタビュー調査を行った。その結果,児童相談所職員も養護教諭も相互の連携の必要性は感じているものの,現実には連携は不十分であること,連携を阻害する要因が複数存在することを意識した回答内容であった。それらの阻害要因を除去することができれば,連携は進展する可能性も示された。
著者
エスポジート ジャンルカ
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

母子間の結びつきは、ほ乳類の子どもにとって最も早くかつ重大な社会的関係である。今回のプロジェクトで、乳幼児が母親に運ばれる時に示す輸送反応を明らかにできた。6か月以下の乳幼児は、母親に運ばれている時に即座に大人しくなり、泣きやみ、心拍数の低下が顕著であった。マウスの子でも同様である。マウスの子に薬理学的、遺伝学的な阻害してTR反応が失われると母親が子供を救出するのを阻害する。これはTR反応がいかに機能的に重要かを指し示す。この研究によって初めて、TR反応は中枢、身体運動、心機能の総合的な調節を含み、これらはほ乳類の母子間相互関係において保存されていることが示された。
著者
清田 岳臣
出版者
札幌国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

上肢運動時の姿勢筋活動パターン及び下腿筋厚の発達的変化について検討した。被験者は、4-12歳の子ども総計176名からなる。被験者は、視覚刺激に反応して、上肢運動を行った。局所筋と姿勢筋から筋電図を記録し、姿勢筋活動開始潜時を算出した。腓腹筋・ヒラメ筋厚は、超音波スキャナーで計測した。検討の結果から、以下の知見を得た。(1)上肢運動時の姿勢制御において、体幹制御の発達が、大腿・下腿筋制御のそれに先行するが、児童期後半であっても、大腿・下腿筋制御は、まだ発達過程にある。(2)腓腹筋・ヒラメ筋の筋厚は、年齢に伴って増大し、特に、7-8歳群以降で腓腹筋の顕著な発達が認められる。
著者
加藤 司
出版者
東洋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、人事担当者、新入社員の事実上の上司、新入社員、早期離職者、大学生などを対象に、質問紙調査や面接調査を実施しました。その結果、新入社員は、叱責されたり、軽蔑されたり、人前で恥をかかされたりするような、経験率が非常に低いだけではなく、そのような経験をすると強いショックを受けることが分かりました。そのため、実際に社会に出た時(入社した時)、上司に何か指摘されると、そのショックから立ち直ることができなくなり、すぐに会社を辞めてしまうこともわかりました。加えて、そのような理由で早期離職する若者は、たとえ、再就職することができても、同じような理由で、再び会社を辞めてしまう可能性が高いことがわかりました。
著者
上別府 圭子 西川 亮 柳澤 隆昭
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

小児脳腫瘍経験者とその保護者138組を対象に、質問紙・医師調査票・認知機能検査による多施設共同横断的観察調査を行なった。特に18歳以上の小児脳腫瘍経験者のいる研究参加者の家庭は、社会経済的地位の高い家庭が多い傾向が見られ、経済的理由によるフォローアップロスの可能性が示唆された。91名(66%)が1つ以上の晩期合併症を有しており、35名(25%)が複数の晩期合併症を有していた。成人後も高頻度に受診を必要とする者が多かった。今後さらに、心理社会的・認知的側面の分析を行なう予定である。
著者
木村 光宏
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ソフトウェア開発の上流工程で得られる情報を,下流工程のテスト工程におけるソフトウェアの信頼性評価に盛り込むための統計手法の開発を行った.従来法の多変量解析モデルでは表現しきれなかった部分について,構造方程式モデル,GMDH,ニューラルネットワークの適用によってある程度克服できた.また,ソフトウェア開発支援ツールのSafeManに対して,ブートストラップ法による新しい評価法を盛り込むことができた.一方,コピュラに基づく新しいモデルの開発にも着手することができ,これは今後の進展が見込める.
著者
西崎 真也
出版者
東京工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

平成14年度においては、次のような事項について研究を推進した。《先進的な型推論アルゴリズムの調査・分析》近年提唱された先進的な型推論アルゴリズムについて、網羅的に調査をおこない、デバッグ作業の支援という観点から検討・分析に取り組んだ。とくに、コンカレント・プログラミングのための型推論や、セキュア・プログラミングのための型推論などを中心にすえた。《デバッグ作業を支援するための型推論の拡張》前項で調査した「先進的な型推論アルゴリズム」に対する検討を基にして、平成13年度の「デバッグ作業を支援するための型推論の開発」の成果の拡張に取り組んだ。《プロトタイプシステムの実装》平成13年度の「デバッグ作業を支援するための型推論の開発」で得られた理論的成果、および、前項により得られた成果について、プロトタイプシステムを実装することを通して、実際的な観点から、有用性について評価をおこない、従来の言語処理系における型推論との比較検討をおこなった。
著者
小川 典子
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、1.指示詞を含む表現における意味拡張、2.注意(attention)を土台とした指示詞の現場指示・文脈指示の統合的説明を中心に研究を行い、研究論文(5件)・研究発表(5件)として発表した。1.に関しては、(i)指示詞を含む人称詞「こいつ/そいつ/あいつ」と、(ii)「指示詞+助詞」の指示表現「こりゃ(あ)/そりゃ(あ)/ありゃ(あ)」に注目し、研究を行った。(i)では、非現場指示用法において指示対象の範囲が拡大していることを指摘し、指示対象の拡大と指示用法との間に関連があることを明ら脳こした。(ii)では、縮約に伴い話者の評価の表出という制約が加わることを指摘し、さらに「そりゃ(あ)」には、話者の「もちろんである」という感情を表す談話標識的用法があることを明らかにした。本研究は、作例中心の従来の指示詞研究においてはほとんど考察されてこなかった、いわば周辺例・拡張例を中心に扱っており、指示詞の特性である広い分布と豊かなバリエーションを記述しているという点で重要である。くわえて、これらの成果は、本研究が依拠する枠組みである認知言語学・認知文法理論において精力的に行われている主観性・間主観性研究を推進させるものである点で意義深い。認知言語学・認知文法理論はこれまで、人間の認知と言語のかかわりを中心に扱っており、社会の側面への考慮があまりなされていないという指摘が近年なされている。今年度の研究成果としての発表には至らなかったが、本研究では2.の注意を土台とした指示詞の現場指示・文脈指示の統合的説明へ向けて、日本語のソ系指示詞という聞き手が密接に関わる言語現象の分析を通して、何らかの対象に注意を向けるというヒト個体の認知能力と、言語・非言語によって他者の注意を操作するという社会的側面への考察を行ってきた。この点も本研究の重要な意義として挙げられる。
著者
金子 拓 黒嶋 敏 堀 新 黒嶋 敏 堀 新 岡田 正人 桐野 作人 杉崎 友美 矢部 健太郎 和田 裕弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、織田信長の家臣太田牛一が著述した『信長記』(別称「信長公記」「原本信長記」「安土記」など)自筆本・写本の史料学的検討を目的とした。国内各所蔵機関に伝来している『信長記』を調査し、その一覧表を作成するとともに、史料編纂所において未撮影の写真による撮影・紙焼写真購入を進め、それらをもとに内容を検討し書写伝来の系統を明らかにした。これらの成果は、研究代表者金子の単著『織田信長という歴史』、連携研究者堀新が編者となり、研究協力者桐野作人・矢部健太郎・和田裕弘が寄稿した『信長公記を読む』、研究協力者杉崎友美の論文「「信長記」の筆跡論」などとして公表した。