著者
藤田 達生
出版者
国際忍者学会
雑誌
忍者研究 (ISSN:24338990)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.1, pp.16-27, 2018 (Released:2020-03-05)
参考文献数
36

戦国時代において、伊賀衆や甲賀衆とよばれた戦闘集団は、伊賀国や近江国甲賀郡の国人・土豪の同名中を中核に、彼らに従属する被官衆と、百姓の傭兵集団たる足軽衆によって構成されていた。足軽衆は、独自に強力な軍事力を発揮し、他国まで出陣して攻城戦をおこなうことさえあった。伊賀衆や甲賀衆は信長に抵抗して惣国一揆や郡中惣による領域支配を維持しようとするが、甲賀衆は天正二年に、伊賀衆は天正九年に敗退して臣従する。豊臣秀吉は、当初彼らの軍事力を活用するが、天正十三年閏八月、畿内近国を制圧した直後に兵農分離策を断行して、兵として他国で仕官するか、農として在国するかの選択を迫った。仕官を求めて他国に出て行った伊賀衆や甲賀衆のなかに、卓越した諜報能力を評価されて服部正成のように幕府に仕えたり、諸藩に召し抱えられる者があった。彼らの実態は足軽クラスの下級武士を束ねた諜報集団であって、それが忍者組織として認知されてゆくことになるのである。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.17-31, 2011-04-01 (Released:2017-07-28)

本稿では聞き手に利益のある行為を話し手がおこなうことを申し出るときの表現(以下,申し出表現)の考察を通して,「-てあげる」「-てさしあげる」などの恩恵を与えることを示す形式(以下,与益表現)の運用の歴史的変化について調査を行った。現代語で上位者に「-してあげましょうか」と,与益表現を用いて申し出を行うことは丁寧ではない。一方で,与益表現は「-てまいらす」などの表現をはじめとして,中世末期ごろにその形式が現れるが,中世末期から近世にかけては与益表現を用いて上位者に申し出を行う例が一定数あり,その待遇価値は高かったものと考えられる。この歴史的変化の要因としては,(1)恩恵の示し方の歴史的変化(聞き手に対する利益を表明することが抑制されるようになった),(2)利益を表さない謙譲語形式の有無の2点が考えられる。
著者
萩原 早紀 栗原 一貴
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.1_52-1_62, 2016-01-26 (Released:2016-03-26)

本論文では,俗に“コミュ障”と呼ばれている人間の性質に注目し,その中で他人と視線を合わせられない症状をもつ人々を社会福祉学的な観点から支援するためのシースルー型HMD を使用したシステムの提案を行う.この“コミュ障”支援システムは,彼ら/彼女らが他人と視線を合わせられないというコミュニケーション上の問題を緩和・改善するために,顔検出技術と視覚情報提示により相手の顔を隠したり,視線をそらす癖を改善するように指示したり,視線の挙動の客観的なデータを提示したり,コミュニケーション上の危険状態が発生した場合その場から脱出する手段を与えてくれる.このシステムのプロトタイプを実装し,評価した結果,いくつかの機能は有効に働き,今後の改善点が得られた.
著者
村田 政穂 奈良 一秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.195-201, 2017-10-01 (Released:2017-12-01)
参考文献数
58
被引用文献数
1 3

トガサワラ林の外生菌根菌 (以下,菌根菌) の種構成や出現頻度が土壌の深さによってどのように変化するかを明らかにするため,成木の菌根と埋土胞子の種組成を調べた。奈良県三之公川のトガサワラ林内の25 地点において,四つの土壌深度区別に土壌ブロックを二つずつ採取した。二つの土壌サンプルのうち,一つからは成木菌根を取り出し,DNA 解析によって菌種同定を行った。もう一つの土壌サンプルは,埋土胞子の種組成を調べるためバイオアッセイに供試した。バイオアッセイではダグラスファーとアカマツ実生を宿主とし,育苗後にDNA 解析で菌種を同定した。その結果,成木の菌根菌の出現頻度と菌根菌種数は土壌深度が深くなるにつれて減少する傾向がみられたが,菌根菌の埋土胞子は最も深い土壌で出現頻度が高くなる傾向を示した。また,埋土胞子の菌根菌はショウロ属のみが検出され,それらの感染によって苗の成長は有意に促進された。埋土胞子は攪乱後の菌根菌の感染源として重要であるが,その垂直分布についてはこれまでに報告がなく新たな知見である。さらにトガサワラも攪乱依存種と考えられており,本種の保全において菌根菌の埋土胞子を活用できる可能性がある。
著者
張 秉超 大岡 龍三 菊本 英紀
出版者
一般社団法人 日本風工学会
雑誌
風工学シンポジウム講演梗概集 (ISSN:24354392)
巻号頁・発行日
pp.51-56, 2020 (Released:2021-05-25)

本研究では、単体角柱建物モデル周りの乱流のモード解析の結果に基づいて、カルマン渦の動的システム同定を行った。まず、乱流速度データに対して固有直交分解を実行した。その結果、モード2は流入変動によって制御され、モード1、3、4は主な周期的なカルマン渦を表した。次に、モード1、3、4の動的システムを多項式回帰モデルにフィットし、状態の軌跡の平均的な傾向を解明した。回帰モデルの2つのリミットサイクルは、システムに摂動がない場合の最終状態として渦の2つの回転方向を表した。さらに、回帰モデルから生成された軌跡から2つの特徴的な周期が識別され、渦の速い運動と遅い運動と2つの運動パターンがあることを示した。
著者
永田 勝太郎
出版者
公益財団法人 国際全人医療研究所
雑誌
全人的医療 (ISSN:13417150)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-7, 2019-03-25 (Released:2019-05-09)
参考文献数
9

「心身医学は,全人的医療に展開しなくてならない」は,米国のシカゴ大学教授で,心身医学の先人フランツ・アレキサンダーや我が国の池見酉次郎(九州大学教授)に共通の展望である.全人的医療や患者中心医療は,耳あたりのよいことばであるがゆえ,多くの大学や病院がミッションとして掲げているが,実践している医療施設は少ない.我が国には,橋田邦彦が戦前から全機的医療を唱えたように,多くの蓄積がある.一方,総合診療医の育成が叫ばれている.総合診療医は,まず全人的医療が実践できなくてはならない.以下の要件が必須になる.教育・研究・実践のための大学院大学の設置が望まれる.1. パソジェネシス,サルトジェネシスの相互主体的鼎立2. 患者の生活者としての理解(intrapersonal communication)3. 誕生から死までの連続性の中での患者理解4. 機能的病態(機能性身体症候群:FSS)の積極的診断・治療5. 器質的病態の早期診断,専門医療への紹介,副作用低減のための補法の適応6. 致死的病態へのケア7. チーム医療のリーダーシップ8. 医師―患者関係の構築(interpersonal communication)9. 患者の行動変容のための患者教育10. 臨床研究11. 自己研鑽:健康哲学・医療哲学・死生学・医療倫理学
著者
熊谷 純 見置 高士 菓子野 元郎 渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2011 (Released:2011-12-20)

ビタミンCの反応性については、G.R. Buettner等が詳しく研究している。L-アスコルビン酸(AscH2)のフラン環の2つのOH基はpKaが4.1と 11.8であるため,弱アルカリ性の生体内では1つのプロトンが解離してL-アスコルビン酸アニオン(AscH–)の形で存在している。脂溶性抗酸化剤として知られるビタミンE(α-トコフェロール)は,酸化脂質を還元する一方で自身は酸化されてα-トコフェロールラジカルとなり、その性質はわずかに酸化剤の性質を持つようになるが,AscH–はα-トコフェロールラジカルを還元してα-トコフェロールへと戻す役割を果たす。その際,AscH–は水素原子(あるいは電子とプロトン)をα-トコフェロールラジカルに渡してアスコルビン酸ラジカルアニオン(Asc・–)となる。Asc・–は不対電子が3つのケトンを含むπ共役系にあるため、その還元力は低く酸素を還元してsuper oxideを生成することはない。さらに、Asc・–は不均化反応でAscH–とフラン環の2つのOH基がジケトンになったDHAとなり、AscH–が回収される。DHAは生体内においてGSHとの酵素反応によってAscH–へと還元される。我々は放射線照射や培地移動放射線バイスタンダー効果によってハムスター細胞内に生成する長寿命ラジカルをESRで直接観測し、ビタミンCを照射後あるいは培地移動時に加えると突然変異を抑制し、長寿命ラジカルの生成も抑えられることを報告してきた。照射された細胞中に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCまたはN-アセチルシステイン(NAC)のどちらでも消去できたが、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞中に生成するそれは、ビタミンCしか消去能がなかった。培地に加えられたビタミンCまたはNACは細胞質に取り込まれる。照射細胞に生成した長寿命ラジカルは細胞質に生成していると推測される。一方、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCを取り込む機能を有する膜タンパク(例えば、ミトコンドリアではDHAを取り込む働きのあるGLUT-1が知られている)をもつ細胞小器官に生成しているものと推測される。本結果は、長寿命ラジカルが関わるバイスタンダー効果の突然変異誘発機構を探る上でも重要な結果である。
著者
斎藤 民 近藤 克則 村田 千代栄 鄭 丞媛 鈴木 佳代 近藤 尚己 JAGES グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.596-608, 2015 (Released:2015-11-25)
参考文献数
39
被引用文献数
24

目的 生きがいや社会的活動参加の促進を通じた高齢者の健康づくりには性差や地域差への考慮が重要とされる。しかしこれらの活動における性差や地域差の現状は十分明らかとはいえない。本研究では高齢者の外出行動と社会的・余暇的活動の性差と地域差を検討した。方法 Japan Gerontological Evaluation Study (JAGES)プロジェクトが2010年~2012年に実施した,全国31自治体の要介護認定非該当65歳以上男女への郵送自記式質問紙調査データから103,621人を分析対象とした。分析項目は,週 1 日以上の外出有無,就労有無,団体・会への参加有無および月 1 回以上の参加有無,友人・知人との交流有無および月 1 回以上の交流有無,趣味の有無を測定した。性,年齢階級(65歳以上75歳未満,75歳以上),および地域特性として都市度(大都市地域,都市的地域,郡部的地域)を用いた。年齢階級別の性差および地域差の分析にはカイ二乗検定を実施した。さらに実年齢や就学年数,抑うつ傾向等の影響を調整するロジスティック回帰分析を行った(有意水準 1%)。また趣味や参加する団体・会についてはその具体的内容を記述的に示した。結果 年齢階級別の多変量解析の結果,男性は有意に週 1 回以上の外出や就労,趣味活動が多く,団体・会への参加や友人・知人との交流は少なかった。ほとんどの活動項目で都市度間に有意差が認められ,郡部的地域と比較して大都市地域では週 1 回以上外出のオッズ比が約2.3と高い一方,友人との交流のオッズ比は後期高齢者で約0.4,前期高齢者で約0.5であった。性や都市度に共通して趣味の会の加入は多い一方,前期高齢者では町内会,後期高齢者では老人クラブの都市度差が大きく,実施割合に30%程度の差がみられた。趣味についても同様に散歩・ジョギングや園芸は性や都市度によらず実施割合が高いが,パソコンや体操・太極拳は性差が大きく,作物の栽培は地域差が大きかった。結論 本研究から,①外出行動や社会的・余暇的活動のほとんどに性差や都市度差が観察され,それらのパターンが活動の種類によって異なること,②参加する団体・会や趣味の内容には男女や都市度に共通するものと,性差や都市度差の大きいものがあることが明らかになった。以上の特徴を踏まえた高齢者の活動推進のための具体的手法開発が重要であることが示唆された。
著者
江村 剛志
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.41-73, 2021-09-15 (Released:2021-09-15)
参考文献数
82

本稿では,系列相関のある定常時系列データに対して,コピュラに基づくマルコフ連鎖モデルを当てはめるための統計的手法を総説する.本手法の応用例である統計的工程管理の手法を,正規分布のモデルで詳説する.時系列の話題に入る前に,本稿で必要とされる範囲でのコピュラとマルコフ連鎖の一般的定義を与え,コピュラの数理的性質を解説する.その後,系列相関を持つ定常時系列のモデルをコピュラでモデリングし,データから最尤法でパラメトリックモデルを当てはめるための各種統計手法を紹介する.最後にいくつかのデータの実例を通して,各種手法の利用局面を説明する.実例のデータ解析のためのRコードは付録に与える.
著者
中西 善信
出版者
日本労務学会
雑誌
日本労務学会誌 (ISSN:18813828)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.5-17, 2021-05-01 (Released:2021-08-19)
参考文献数
39

Of late, the term “boundary crossing,” i.e., conducting learning activities beyond the boundaries of organizations and workplaces, such as workshops and volunteer activities, has been drawing the attention of practitioners and researchers. Boundary crossing provides opportunities to acquire knowledge and skill unavailable at routine workplaces. It also facilitates obtaining new perspectives and thoughts. However, the concept of boundary crossing is not matured and lacks a firm consensus among researchers as they perceive the term “boundary” differently. While such differences are allowed, we should nonetheless clarify and recognize the difference between the perspectives on boundary crossing for developing the boundary crossing theory. Our review of the literature on boundary crossing identified two perspectives. Some works focus on the physical or institutional boundary between organizations, workplaces, and so on, while others focus on the heterogeneity of situation/context between workplaces. Furthermore, in addition to heterogeneity, the homogeneity of context shared by people engaged in boundary crossing facilitates their learning. Both heterogeneity and homogeneity of context contribute toward learning in different manners.
著者
矢野 良和 原 和道 江口 一彦
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
日本知能情報ファジィ学会 ファジィ システム シンポジウム 講演論文集 第29回ファジィシステムシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.50, 2013 (Released:2015-01-24)

カメラを利用した文書や書籍情報のメモが日常的に利用されるようになった。撮影される画像は、対象の正面から撮影されるとは限らず、背景など不要な情報も含む。必要情報を記録するため、用紙領域を投影変換で引き伸ばし、画像情報の可読性を向上させる。しかしこの手法では、撮影対象が平面である必要があり、曲面画像では適用が容易ではない。そこで、本研究では対象の曲面を推定し平面展開を行う手法を提案する。

2 0 0 0 OA A. Acute Effects

著者
大北 威
出版者
Journal of Radiation Research Editorial Committee
雑誌
Journal of Radiation Research (ISSN:04493060)
巻号頁・発行日
vol.16, no.SUPPLEMENT, pp.49-66, 1975-09-16 (Released:2006-07-14)
参考文献数
132
被引用文献数
26

An outline of the acute effects of the Hiroshima and Nagasaki atomic bombs are summarized, based on documentary records. Acute injuries caused by the atomic bombs have been classified as thermal, mechanical, and radiation injuries. Combinations of these were most common. Many died from the immediate effects of blast and burns, but individuals often succumbed to trauma or burns before the radiation syndrome developed. Many more would have died from irradiation, had they been saved from the effects of trauma or burns. Nearly all who died within 10 weeks had signs suggestive of radiation injuries. Remarkable variation in sensitivity of body tissues to ionizing radiation was apparent. Radiation-induced bone marrow depletion was the most critical damage leading to death. In these instances, leukopenia and thrombocytopenia, and subsequent infections and hemorrhagic tendencies were the main causes of death. The clinical symptoms and signs of radiation injuries; the RBE of the atomic bomb neutrons for acute effects; and the effects of irradiation on spermatogenesis are also discussed.
著者
木村 恭之
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.364-368, 1998-08-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
9

鰓原性奇形 (側頸瘻, 耳瘻孔, 外耳奇形など) に聴力障害 (内耳奇形, 中耳奇形など), 腎奇形 (形成不全など) を特徴とする常染色体優性遺伝と考えられる疾患はBranchio-oto-renal syndromeと呼ばれているが, すべてを兼ね備えた症例は本邦では今までに4例である。われわれは, 右側頸瘻・右感音性難聴・腎奇形を呈した15歳男性の症例を経験し, 右側頸瘻に対し手術を施行した。側頸瘻の症例にはbranchio-oto-renal syndromeが含まれている可能性があるので常にこの疾患を念頭におく必要がある。この疾患に対する遺伝子的な解析が進み常染色体8番の長腕の遺伝子に問題があるところまでわかっている。

2 0 0 0 OA 医薬品と硫黄

著者
平井 功一
出版者
The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.536-548, 1987-06-01 (Released:2009-11-13)
参考文献数
42
被引用文献数
1 2

Currently biologically interesting organic sulfur compounds are classified into seven categolies : naturally occurring bio-active compounds, antihypertensive ACE inhibitors, sulfonamides, psychotropic agents, antianginal agents, antiulcer agents and β -lactam antibiotics. The activities of the representative compounds in each part are commmented briefly from the standpoint of the interaction between sulfur and the animal body.