著者
中川 聡子
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、磁性流体の粘性が外部磁場によって可変となる性質を用いたセミアクティブダンパ構築の可能性について検討を行ったものである。本セミアクティブダンパは、従来の空気圧もしくは油圧タイプのアクティブダンパと異なり、メカニズムは単なる磁性流体封入シリンダ中のピストン運動であるため、一旦制御が破綻してもシステムの安定性が保持でき、また、装置自体が単純な液体封入シリンダと電気設備のみによって構築できるという大きな利点をもつ。ここに本研究の成果および今後の研究課題について以下にまとめる。〈平成8年度〉磁性流体の粘性が、電磁石によって生みだされる磁場に対して可変となる性質をモデル化し、本ダンパを含むシステムの運動方程式を記述した。これが強い非線形システムであることを示し、非線形H無限大制御理論による補償器の設計法を提案、計算機シミュレーションによってその効果を確認した。〈平成9年度〉8年度の研究によって、磁性流体セミアクティブダンパの有効性が確認されたことから、実際に磁性流体セミアクティブダンパを設計・製作した。その後磁性流体の基礎特性を実測し、電磁石電流によって磁性流体粘性がダイナミックに変化することを確認した。〈平成10年度〉種々の振動実験を繰り返す事により、システムモデルの修正を行い、本非線形制御の優位性を確認した。〈今後にむけて〉電磁石の軽量化や、電磁石電流の制御に対して電圧制御から電流制御方式への移行を行い、装置の軽量化や、即応性の改善を行っていきたい。
著者
白崎 伸隆
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,精密質量分析を応用し,消毒処理におけるウイルス構造タンパク質の変性をアミノ酸レベルで捉えることにより,水系感染症ウイルスの不活化メカニズムを解明することを試みた.その結果,紫外線照射-過酸化水素処理において生じたヒドロキシルラジカルによるウイルス構造タンパク質の酸化が確認されたと共に,精密質量分析を応用することにより,酸化されたウイルス構造タンパク質由来ペプチドの箇所を特定することに成功した.
著者
田代 正之
出版者
高知大学
雑誌
高知大学学術研究報告 自然科学編 (ISSN:03890244)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.29-44, 1990-12-26
被引用文献数
2
著者
渡部 昌平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

一年目は、「(1)内部自由度を有するボース系の集団励起に対するトンネル問題」、「(2)二成分フェルミ系の集団励起」の研究を計画に挙げた。まず、(1)の研究実施状況を報告する。spin-1 BECの励起において、ポテンシャル障壁による励起の散乱効果は研究されておらず、スカラーBECでの「異常トンネル効果」との関係は未知であった。これらの解明は、ボース系を理解する上で重要である。我々は、この系の透過特性を調べた。まず、強磁性相、ポーラー相で、障壁存在下での凝縮体波動関数を求め、各相に存在する3つの励起について透過係数を求めた。結果として、強磁性相の四重極的スピンモードのみ長波長極限で完全反射を示し、その他のモードには異常トンネル効果と同じ完全透過性があることを解明した。また、接合系での透過係数、波動関数の特徴、変数依存性、可積分条件下での議論も行った。一部は、論文[Watabe and Kato, JLTP, 158,(2010)23]で発表した。一方、超流動流上での励起のトンネル問題の知見を用いて、一様系と非一様系における超流動の安定性を研究した。この研究は年次計画にないが、ボース系を理解する上で重要である。我々は、局所密度スペクトル関数によって、超流動の安定性を判定することを提案した。この方法は、ランダウの判定条件を含む、一般的なものである。このような議論はこれまでになく、新しい結果である。一部は、論文[Watabe and Kato, JLTP, 158,(2010)92]で発表した。次に(2)を報告する。フェルミ多体系の励起はこれまで多く研究されてきたが、第零音波と第一音波のクロスオーバーを、有限温度の効果を適切に入れて一つの枠組みで求めたものはない。我々は、モーメント法を用いて、このクロスオーバーを、温度と相互作用定数の関数として研究した。結果は、論文[Watabe, Osawa, and Nikuni, JLTP,158,(2010)773]で発表した。
著者
西村 裕一
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の目的は、当時東大生であった穂積八束が明治15年の「主権論争」で論陣を張っていたことに着目し、「憲法学者」となってからの彼の議論に「明治15年の日本社会」が与えた影響を分析することにある。この点、穂積八束の憲法学を特徴づけるものと考えられてきた「国体」概念や国体政体二元論の形成過程を検討する中で、これらの議論が従来考えられていた以上に「主権論争」という磁場に強い影響を受けていたことが明らかになった。これにより、日本憲法学の創始者ともいえる穂積の憲法学について、従来の議論が十分な関心を払っていなかったと思われる「明治日本」からの影響の一端を明らかにできたのではないかと考えている。
著者
市川 厚
出版者
京都大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1984

研究実施計画に従い、以下の研究成果を得た。1. 融電電気泳動による細胞融合条件の検討:融合用装置を組み立てた。装置の概略は、白金電極をプラスチック製スライドに距離200μMの間隙で固定し、一定の周波数とサイン波形を出力するファンクションジェネレーターと、高出力パルス(方形波)を1MHz,20μsecで放出するパルスジェネレータの順に連撃する。細胞の前処理としては、緩衝液の替りに0.32Mマニトールを用い、0.1mM Ca【Cl_2】存在下、プロナーゼ0.5〜1.0mg/mlで室温10分間インキュベートを行って、遠心洗浄をくり返して細胞を洗浄する。融合反応条件は、【Ca^(2+)】存在下に0.5〜1又は2MHz、5〜20μsec範囲で細胞によって条件を選択し用いる。融合の可否は、用いる細胞と組み合させる細胞によって異なる。一般に、同種細胞同士の方が高い融合効率を得ることができる。しかし、異種細胞間においては、融合は可能であるが条件の選択性に晋偏性が認められない。細胞の回収はマニュピレーターを用い、庶糖密度勾配遠心法で密度の高い肥満細胞と細胞密度を利用して 分離する。肥満細胞同上の融合細胞は、増殖能を有さないのでコロニーを形成しないことから、癌化肥満細胞と肥満細胞の融合体のみを回収する。線維芽細胞やリンパ球と肥満細胞の融合についても検討を加えた。2. 融電電気泳動によるリポゾームの細胞への封入:癌化肥満細胞より、S-アデノシルホモシスチンヒドロラーゼを精製し、膜よりPG【D_2】レセプターを単離して、各々を酸性リン脂質含量の低いリポゾームに包含させる。細胞内への融電電気泳動による移行は10%内外でとくに高収率ではなかったが、細胞への傷害を考えると他の薬剤を用いる方法よりも明らかに優れている。1),2)を通じ、異種細胞間の融合条件が確定できなかった点は今後の問題である。
著者
安本 恵 相田 潤 滝波 修一 森田 康彦 本田 丘人
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.77-86, 2014-03

本研究は,バングラデシュにおける子供の口腔疾患の現状を把握し,社会行動的リスク要因との関連性を検証することを目的として行った. バングラデシュMohichail郷の小学校12校,計1,763人(女子899名,男子864名)に対し,口腔内診査(齲蝕経験歯数,プラーク付着状況,歯肉炎)およびアンケート調査を行った.二変量解析を行い,居住区と9つの変数;乳歯齲蝕,永久歯齲蝕,プラーク付着状況,歯肉炎,歯磨きの回数,口腔清掃器具の使用,歯磨剤の使用,家族の喫煙習慣,家族の噛みタバコ習慣との関係を分析した.有意性の検定にはχ2検定を用いた.ロジスティック回帰分析には,従属変数として,永久歯齲蝕,歯肉炎,プラーク付着状況を用い,独立変数として8つの変数;年齢,性別,居住区,口腔清掃法,歯磨きの回数,プラーク付着状況,家族の喫煙習慣,家族の噛みタバコ習慣を用いた.データ分析にはSPSS 11.7Jプログラムを用いた. 二変量解析により,居住区の違いにより口腔疾患の有病率および口腔健康行動に有意差が認められた.ロジスティック回帰分析により,従属変数と関連が認められた独立変数は,永久歯齲蝕;プラークが多い(OR=2.81)居住区が僻地(0.76),年齢が大きい(1.09),歯肉炎;プラークが多い(41.0),家族の喫煙習慣がある(1.44),家族の噛みタバコ習慣がある(1.41),年齢が大きい(1.10),プラーク付着状況;従来型の口腔清掃法(1.63),家族に喫煙習慣がある(1.29),女性(0.71),年齢が大きい(0.92)であった. 本研究の結果から,バングラデシュの農村部における口腔疾患の現状および社会行動的要因が明らかになるとともに,社会経済状況や医療,教育水準などがほぼ均一な典型的農村社会の内部において,地理的要因が口腔疾患の有病率と口腔健康行動に影響を与えていることが新たにわかった.
著者
中谷 智広 吉岡 拓也 木下 慶介 三好 正人
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.92, no.5, pp.294-304, 2009-05-01
被引用文献数
3

残響を伴って収音された音響信号に対する残響除去法の一つとして,音源信号の時変性に基づく方法を紹介し,その性質を数理的に分析する.このアプローチでは,音源信号を時変ガウス過程でモデル化するとともに室内伝達特性を多チャネル自己回帰過程でモデル化し,それらに基づき定まるゆう度関数を最大にするモデルパラメータを求めることで残響除去を実現する.本アプローチにより,比較的短い観測信号だけからでも良好な残響除去結果が得られることが,実験により確認されている.本論文では,特に,ゆう度関数を最大化する解の振舞いについて分析する.まず,解のあいまい性が適切に排除されている条件のもとで,ゆう度関数の期待値を最大化する解は厳密に正しい解に一致することを示す.また,観測信号の実現値に基づきゆう度関数を最大化する解は,観測信号が長くなるにつれて正しい解に近づくと予想されることを示す.更に,比較的短い観測信号に対しても,観測信号のレベルの時変性を考慮して最適化を行うことで,推定誤差の影響を緩和できることを考察する.
著者
井口 達雄 高山 正宏 谷 温之 野寺 隆 隠居 良行
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

津波の伝播をシミュレートする際には,通常,水面の初期変位が海底地震による水底の永久変位に等しく,初期速度はいたるところ零であるという初期条件の下で,浅水波方程式が数値的に解かれている.本研究では,水の波の基礎方程式系から出発し,適当な仮定の下,この津波モデルの数学的に厳密な正当性を証明した.
著者
田島 英朗 山谷 泰賀 吉田 英治 岩男 悠真 脇坂 秀克
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

半球状に検出器を配置し、さらにあごの位置に追加検出器を配置することで、脳機能計測のための感度を大幅に向上させることが可能なヘルメットPET装置を提案し、検出器ブロックサイズの最適化検討、画像再構成法の開発、及び試作装置への適用を行った。その結果、検出器ブロック間に隙間が生じることを考慮すると、検出器ブロックサイズが5cm角程度の大きさの時に、脳領域に対する感度が最も高くなることが明らかになった。そして、画像再構成法の開発と、世界初のヘルメット型PET試作機への適用を行い、性能評価を行った結果、高い感度と空間分解能を有することが示され、提案装置が高精度な脳イメージングに有効であることを実証した。
著者
野林 大起 中村 豊 池永 全志
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IA, インターネットアーキテクチャ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.62, pp.7-12, 2006-05-17
被引用文献数
6

インターネットの幅広い普及により,WWW, FTP,遠隔ログインをはじめ,様々なサービスがインターネットを利用して提供されている.このようなサービスの多様化に伴い,ユーザがサービスを利用するために必要なIDとパスワードのペア,もしくは鍵や証明書などの認証に必要な情報は増大しており,ユーザ自身がこれらの情報全てを管理するのは非常に困難になっている.この問題を解決するため,一度の認証によって全てのサービスを利用可能とするシングルサインオン環境の構築が進められている.しかし,これまでに提案されている手法は,サービス提供側でシングルサインオンに対応した認証機構を導入する必要があること等,インターネット上で提供される多様なサービスのSSO化を想定したものではなかった.そこで本稿では,多様なサービスに適応可能な柔軟性と高い安全性を兼ね備えたシングルサインオンシステムを実現する手法としてハードウェアトークンと鍵管理サーバを使用したシステムを提案する.さらに提案方式を実装し,複数のアプリケーションを用いて動作検証を行うことにより,その有効性を確認する.

1 0 0 0 OA 自叙伝

著者
大杉栄 著
出版者
改造社
巻号頁・発行日
1923
著者
河村 洋子 Singhal Arvind
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学政策研究 (ISSN:2185985X)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.35-45, 2012-03-23

本稿の目的はわが国では非常に新しいPositiv Deviance (PD)を紹介することである。私たち研究者は問題に着目し、問題そのものの理解や知識を求めるが、それだけでは有効な解決策を生みだすことはできない。PDはむしろ最善の解決策はコミュニティの中にあるとし、コミュニティに潜在する創造力や知恵に着目する。そのような解決策は社会の「当たり前」の基準から逸脱し顕在化していない。しかし問題に対して良い結果を生んでいても、それがコミュニティ内の他者より恵まれた資源があるからという理由であってはコミュニティ内の他者は実践できない。したがって、逸脱は他者と同様限られた資源しかもたない者に見られるものでなけらばならない。PDはこのように見出された行動(実践)を顕在化し、コミュニティ内に定着されていく。PDの概念は行き詰って解決策を見いだせないでいる複雑な社会課題に対して、発想の転換を提供する。The purpose of this article is to introduce the concept of Positive Deviance (PD), which is very new to Japan. Researchers tend to focus on problems or deficits and to face the challenge of finding and creating solutions. PD believes that solutions lie in the community from the asset-based viewpoint. However, such solutions, being away from the standard or the usual, are deviant and latent in the community. The deviant appreciates better outcomes not due to the better access to resources and should rather have as limited resources as the others do. Others can follow the deviant because s/he is in a similar situation with limited resources. PD tries to identify what the deviant is doing and to amplify it across the community. PD seems very useful in challenging stacked social problems, providing us with a new way of thinking.