著者
佐治 健太郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

この研究により得られた結果は以下の通り。1,平面間の写像に関して余次元1の特異点の認識問題を研究し、有用な判定法を得た。この判定法を応用して、微分方程式の特性曲面の特異性を調べ、特異点の分類や微分方程式の形作用素と呼ぶべき物を発見した。三次元空間内の曲面の平面への射影についても研究し、射影する方向と射影に現れる特異点との関係を明らかにした。2,三次元空間内の波面のA型特異点の有用な判定法を作り、超幾何微分方程式のシュワルツ写像の特異点を佐々木武氏、吉田正章氏と共同で研究した。シュワルツ写像から作られる曲面には三個のスワローテイルが一つになる現象が起こるが、これがA5特異点であることを示した。3,梅原雅顕氏と山田光太郎氏と共同で高次元空間内の波面のA型特異点の有用な判定法を作り、波面の大域的な不変量であるジグザグ数と曲率写像との関係を明らかにした。4,双曲空間内の曲面に関して、泉屋周一氏と共同で擬球面内の曲面の双対曲面を様々な場合に研究した。特異点相互の関係や微分幾何学的特徴と特異点の性質を明らかにした。5,光錐内の曲面に関して、泉屋氏、カルメン・ロメロフスター氏と共同で研究し、ジェネリックに現れる特異点の分類を得た。締活線を定義し、柱面的な光錐内の曲面を定義する方法が解った。
著者
前田 雄介 杉内 肇
出版者
横浜国立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

人間はきわめて柔軟で器用なマニピュレーション能力を持っており,環境とのインタラクションを伴う物体操作(グラスプレス・マニピュレーション)においても,環境からの反力を巧みに利用して物体を操ることができる.このような人間の能力は移動知の発現と考えることができる.本研究では,人間の行うグラスプレス・マニピュレーションに着目し,その技能のモデルを求めることを目的としている.今年度は,グラスプレス・マニピュレーションの中でも二指のピボット操作に着目して研究を行った.具体的には,人間の操作の計測結果を参考にして,CPG(Central Pattern Generator)に基づくピボット操作の制御モデルを構築した.この制御モデルは,松岡のニューロンモデルを用いて,手首の運動に関わる3つのニューロンと指の運動に関わる2つのニューロンから構成されている.これを用いてハンドを制御することによって,リズムの引き込みによって物体のピボット操作が実現可能であること,床面の摩擦係数の変化にも適応可能であることを動力学シミュレーションによって確認した.また,人間の手の機能とマニピュレーション技能の理解のために,詳細な筋骨格系モデルに基づく人間の手のモデルを開発した.このモデルは24リンク・31自由度の骨格系モデルと35筋切片・73腱切片から成る筋腱モデルから構成されており,筋力に基づいて指の運動の動力学シミュレーションを行うことが可能であることを確認した.
著者
松本 圭一 和田 康弘 松浦 元 千田 道雄
出版者
公益社団法人日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術學會雜誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.1116-1122, 2004-08-20
参考文献数
19
被引用文献数
4

検出器における不感時間,偶発同時計数および散乱同時計数は,陽電子放出断層撮影装置(PET装置)の定量性に大きく影響する.これらは,検出器の素材や形状,PET装置の体軸方向視野,さらには投与する放射能量や被写体の大きさなどに大さく依存する.このため近年のPET装置は,小型結晶を用い偶発同時計数と散乱同時計数を低減させ,さらに一つの検出器で一定時間内に処理すべき信号数を減少させることで計数率特性を向上させている.この結果,空間分解能の向上も図られ,さらには数万個の小型結晶を用いることで高分解能と体軸方向視野の拡大もされている.一方,放射性同位元素の時間当たりの崩壊数はポアソン分布に従い,総計数(N)の事象の統計誤差すなわち標準偏差(standard deviation ; SD)は√Nとなる.したがって信号雑音(signal/noise ; S/N)比を(平均/SD)で仮定すると,N/√N=√Nとなる.PET装置にて収集された計数の統計ノイズもこれと同様に考えることができるが,投影データから再構成された画像のS/N比は,各画素が互いに独立でないためより複雑になり,線源分布や被写体の大きさ,および空間分解能などに依存する.ここで,PET装置のS/N比の評価に,雑音等価計数(noise eauivalent count ; NEC)がある.National Electrical Manufacturers Association (NEMA) NU2-2001ではNECをPET装置の性能評価項目として定義し,広く用いられているS/N比の指標である.NECは,ファントム実験から簡便に得られる計算上の真の同時計数であり,画像再構成を行わずに画質を予測することのできる真の同時計数であると考えることができる.しかしながら, NECはPET装置視野全体の計数値であり,異なるPET装置すなわちスライス数や空間分解能が異なる装置では,再構成画像のS/N比をNECにて比較評価することができないと考えられる.なぜなら,検出器最大リング差(maximum ring difference)や体軸方向のline of response (LOR)の束ね(span),そして収集方法などが異なるためである.言い換えるならば,被写体(ファントム)が視野内(sinogram)に占める割合が同じであっても,そこに含まれる検出器の数または検出器の大きさが異なると再構成画像のS/N比は異なると考えられる.そこで今回,新しい指標として"Specific NEC(sNEC)"を考案した.これは,LORを考慮したNECという概念であり,視野全体のNEC(真の同時計数)が各LORに分配される割合を考慮した指標である.本研究では,その妥当性を再構成画像の画素値の変動計数(coefficient of variation ; COV)と比較することにより評価したのでここに報告する.
著者
伊藤 斉子 高原 朗子 土田 玲子 李家 正剛 川村 怜子 津田 剛 瀧上 英一 川崎 千里
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学医療技術短期大学部紀要 (ISSN:09160841)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.69-76, 2001-03

高機能自閉症及びアスペルガー障害のコミュニケーション評価を作成するために,日本文化に適合させた「心の理論」高次テストを新たに紙芝居形式にて8話試作した.そしてその妥当性について健常青年76名の回答と作成意図との一致率により検討し予備的研究を行った.その結果,8割以上の一致率を示した話は,嘘を意図した「ガッシャーン」(100%),皮肉「どろんこサトル君」(97.4%),冗談「はい100万円」(93.4%),ふり「ねむたくなーい」(78.9)%で,この4話は妥当性が示唆された.他の4話についても「プレゼント何かな」はふりを伴う罪のない嘘,「荷物がいっぱい」は比喩・ふりを伴う皮肉,「かけっこはやいね」及び「のぞいてみよう」は比喩を伴う冗談の話であることが示唆され,複数の意図を留意すれば妥当性があると考えられた.A test consisted of eight picture-stories, based on the "Advanced Test of Theory of Mind" (Happe, 1994) and its stories culturally-adjusted, was invented to construct some type of occupational-therapeutic index to evaluate communication-abilities of Japanese people with high functioning autism or Asperger's Disorders. Validity of the test was inspected by examining rates of agreement between the answers of 76 subjects (normal young adults) and correct (i.e., researcher-intended) answers on each story. Agreement of the answers on Story 1 ("A Broken Vase" ; Theme A = Lies) , Story 8 ("A Boy Who Got Muddy" ; Theme F = Ironies) , Story 7 (" A Million Yen, Please" ; Theme E = Jokes), and Story 6 (" Not Sleepy Yet!" ; Theme D = Pretense). were 100%, 97.4%, 93.4%, and 78.9%, respectively. For other stories, however, answers of the subjects were scattered over several themes On Story 2 ( " What is the Present?"; Theme B = Innocent lies), most subjects answered identical (64.5%) as intended by the researchers (i.e., innocent lies), but statistically significant numbers of subjects (32.9%) selected Theme D (Pretense) Moreover, on Story 3 ("Too Much Baggage!"; Theme C = Metaphors) most of the answers focused on " metaphors (Theme C) " (50.0%) but some answered " pretense (Theme D) (14.5%) " or " irony (Theme F) (26.3%) ". The answers on two other stories (Story 4 " You Run So Fast! -- Metaphors " & Story 5 " It's a telescope i " -- Pretense " ) unexpectedlly fell more into " jokes (Theme E) " Especially on " metaphor-stories, " many subjects selected " ironies (Theme F) " or " jokes (Theme E) " to reason the story characters' utterance. This seemed to indicate that normal young adults were usually able to understand complexity of relationship among the story characters and to judge their communicative intensions based on it. The present study showed that the Japanese picture-story test presented acceptable level of validity. It was also indicated that the test should be used with care and understanding that some of the stories could contain more than one theme.
著者
井関 俊夫
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究課題では、非定常な船体動揺データに対して、時変係数自己回帰モデルによる瞬間スペクトル解析の有効性を明らかにするとともに、近年問題となっているパラメトリック横揺れの解析に本手法を適用し、スペクトル構造の時間的変化の解明を理論的ならびに実験的に試みた。当該研究期間内に実施した研究の成果は以下の通り。1.理論的検証:追い波中縦揺れ時系列データに現れる歪度の変動を理論的に検証した。波と船体の幾何学的位置関係による非線形復原力変動が原因と考えられることから、一自由度振動系の理論的検証を行うとともに、瞬間バイスペクトル解析法を提案し、歪度の変動がほぼ説明できることを示した。また、パラメトリック横揺れの理論的考察結果と規則波中実験結果を比較し、横揺れパワースペクトルのピークが一致して存在することを示した。また、時変係数自己回帰モデルを用いた瞬間スペクトル解析結果から、パラメトリック横揺れ発生までの過渡的特徴を明らかにした。最後に、トライスペクトル解析を適用し、パラメトリック横揺れの特徴を確認することができた。2.実験的検証:本学練習船汐路丸の実験航海に参加して非線形船体動揺データの計測を行うとともに、詳細な海象データを得るために、海上保安庁に協力を要請し、野島埼灯台のレーダ波高観測データを入手した。また、1/40汐路丸模型船にワンチップマイコンとラジコン用サーボモータを用いた制御装置と、動揺センサと無線式RS232C通信ユニットを組み合わせた計測装置を搭載し、大振幅実験用自航模型船に改造して大振幅動揺実験を行い解析した。
著者
内田 ユリ子 石崎 俊 井佐原 均
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.38, pp.245-246, 1989-03-15
被引用文献数
1

テキストは、その構成部品がある原理に従って配列されたものであるが、その配列原理の如何について広く受け入れられるような解答は存在していない。テキストを構成する部品の単位には、語、句、節、文、更にパラグラフや、章、巻なども考えられる。ここでは、これら全てを総称して、セグメントとよぶことにする。テキストにはそれを構成するセグメントの間の統語的関係(結束性、cohesive)と共に、内容的な連関性(首尾一貫性、coherence)が存在する。結束性が統語的な言語上の手段--例えば、代名詞による指示、接続詞や接続副詞による結び付け、類義語や類義表現による言い替えなど--によるのに対して首尾一貫性は、主として、書き手と読み手の言語外の知識や手段--例えば、現実世界に関する知識、書き手・読み手の仮定や推論など--による談話やテキストの内容のまとまりを指す。複数パラグラフよりなるテキストの場合は、1つのパラグラフ内部にはもとより、パラグラフ同士の間にも内容的な連関性が存在する。首尾一貫性は、テキスト全体に及ぶものであるが、結束性についても局所的なものばかりでなく、パラグラフを超えて働く統語制約(例えば、再参照による冠詞theの生成など)も考えられる。従来の研究では、テキストの構成要素の間の内容的連関性に関しては、主として文や節を対象として議論されてきたが、本稿では、複数パラグラフよりなるテキストのパラグラフ間の構造的連関性にも適用できる理論として、テキストの意味表現構造と首尾一貫性の関係、および読み手の持つ情報の新旧と首尾一貫性との関係に付いて述べる。また、首尾一貫性のあるテキストの実例を示し、それのパラグラフ構成とテキストの背後にある情報構造との関係について検討し、テキスト生成との関連も述べる。
著者
森 晃爾 藤代 一也 井上 尚英
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.343-347, 1990-09-01

雄および雌ラットに対し, 250ppmの濃度の酸化エチレンを1日6時間, 週5日, 17週間吸入曝露し, 酸化エチレンによる貧血の性差を調べた. その結果, 酸化エチレン曝露群では, 雄ではヘモグロビン濃度で12,7%, 雌では17.8%と, それぞれ対照群と比較して有意な減少が認められたが, その程度は雌で著しかった. また酸化エチレン曝露群では, 牌臓の絶対重量は雌のみで, また体重との相対重量では雌雄で, 有意な増加を認めた. これまで我々は,赤血球中のグルタチオンレダクターゼ活性の低下が, 酸化エチレンの貧血の発症に強く関与していることを認め報告してきたが, 今回グルタチオンレダクターゼ活性の低下は, flavin adenine dinucleotide非存在下でも, 存在下でも, 雌雄同程度で, 性差は認められなかった. 以上, 酸化エチレンによる貧血の発症には性差がみられることがわかった.(1990年5月14日 受付, 1990年6月25日 受理)
著者
中西 徹 青山 和佳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,階層間流動化が慢性的貧困を緩和するという作業仮説について,貧困層が有する社会ネットワークの動態に着目し,マニラ首都圏とダバオ市の事例を検討した。その結果,マニラ首都圏の貧困層にあっては,主体的な活動を通して,階層間流動化を促進し得る余地が存在するのに対して,ダバオ市においては,現在までのところ,上位層からのアプローチのみが階層間流動化に貢献できる状況にあることがあきらかになった。
著者
福島 淳一 鍋谷 欣市 花岡 建夫 小野澤 君夫 中田 芳孝 木村 治 藤井 道孝 藤田 周一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.455-460, 1988
被引用文献数
13

症例は69歳男性。昭和62年5月14日,起床時に水を飲んだところ,突然,右前胸部より背部にかけての激痛が出現した。痙痛はしだいに軽快した。翌日の食道透視にて中部食道右側よりバリウムの漏出が認められ,特発性食道破裂の診断を受けた。入院後,胸腔ドレーンが挿入され,胸腔内洗浄が施行された。その後の食道透視にて,破裂口の閉鎖を認めた。特発性食道破裂は,早期診断・早期手術が原則であるが,最近では保存的治療による治癒例の報告も増加している。保存的治療も,その適応を誤らなければ,有効な治療法の1つとなり得る。今回,われわれは,保存的治療で治癒することのできた1例を経験したので報告する。