著者
嶋田 元 堀川 知香 福井 次矢
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.3413-3418, 2012 (Released:2013-12-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

厚生労働省では,平成22年度より医療の質の評価・公表等推進事業を進めており,「国民の関心の高い特定の医療分野について,医療の質の評価・公表等を実施し,その結果を踏まえた,分析・改善策の検討を行うことで,医療の質の向上及び質の情報公表を推進すること」を目的としている.平成22年度は国立病院機構,全日本病院協会,日本病院会の3団体が,平成23年度は全日本民主医療機関連合会,恩賜財団済生会,日本慢性期医療協会の3団体が本事業を実施した.
著者
長谷川 友紀
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.3448-3454, 2012 (Released:2013-12-10)
参考文献数
9

医療の質向上の方策としては,構造,過程,結果に着目した方法,第三者評価・認定が代表的である.各国では,さらに情報公開,診療報酬などを併用しながら質向上を進めることが通例である.医療では,(1)データが断片化されており相互利用が困難,(2)患者の個別性,重症度の調整が困難,(3)評価手法の開発は個々の施設の評価に留まっていること,などにより,これまでは適切に評価を行い,改善に結び付けることが困難であった.今後は,データの標準化,医療機関が改善につなげやすい還元方法の開発,医療機関への支援策の検討が優先して行われる必要がある.
著者
本庄 加代子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.60-65, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
39

本稿は,消費文化論とブランド研究の架け橋とされるHoltのカルチュラルブランディングについて,問題意識,依拠する学問,ブランドの捉え方に注目し,ブランド研究に対する意義を考察する。同モデルは文化とブランドという超越的な概念とその形成の道筋を扱っている。これは,解釈主義に位置づけられるが,共約不可能とされる伝統的パラダイムを補完し,更に戦略的柔軟性と実践性を備えている。ここでは,ブランドは,強くなればなるほど社会的批判を受けやすくなることが問題として示されている。このことから,ブランドの理想形とは社会的問題の解決手段でもあり,絶対的資質のものではなく,経営目標と合致する“状態”である可能性を示している。その動態性を前提とした理論の更なる洗練が必要であることが指摘できる。
著者
小野 秀樹 松本 欣三 太田 茂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

フェニルエチルアミン(PEA)は生体内に存在する微量アミンであり, 精神機能と関わりがあると考えられている. その化学構造や薬理作用は覚醒剤であるメタンフェタミン(MAP)のものと類似しているが, その作用機序は不明である. 本研究においては, PEAのラット脊髄の単シナプス反射増強の機序をMAPと比較しながら研究した. 麻酔ラットの腰部脊髄を露出し腰髄第5髄節の単シナプス反射を記録した. PEA(1mg/kg, iv, )は単シナプス反射を増強した. この増強はα_1-アドレナリン受容体を選択的に遮断するプラゾシンにより抑制された. さらにアミン類を枯渇するレセルピン処理, ノルアドレナリンの合成を阻害するジスルフィラム処理, 下行性ノルアドレナリン神経を破壊する6-ヒドロキシドパミン処理, およびすべての下行性神経を破壊する慢性的な脊髄切断処理もPEAの単シナプス反射増強効果を抑制した. MAP(0.3mg/kg, iv, )もPEAと同様に単シナプス反射を増強した. この増強効果も, α_1-遮断薬, ノルアドレナリン枯渇薬, ノルアドレナリン神経の破壊処理によって抑制され, MAPがPEAと同様の機序で単シナプス反射を増強することが示された. PEAとMAPの作用はセロトニン拮抗薬およびドパミン拮抗薬によっては影響されなかった. またPEAの効果はB型MAO阻害薬のデプレニルによって増強, 延長され, PEAが代謝されないで作用していることが示された. さらにPEAとMAPの単シナプス反射増強作用は血圧変化に起因するものではないことも示された. 以上, PEAおよびMAPは, 脳幹から脊髄へ下行するノルアドレナリン神経の終末からノルアドレナリンを放出させることにより, 単シナプス反射を増強, すなわち, 運動系を亢進させることが示された. さらにPEAが脊髄に比較的高濃度存在することから, PEAが脊髄運動系の調節になんらかの役割を持っている可能性が示された.
著者
池上 和範 江口 将史 大﨑 陽平 中尾 智 中元 健吾 日野 亜弥子 廣 尚典
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.74-82, 2014 (Released:2014-06-11)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

目的:本研究の目的は,若年労働者のメンタルヘルス不調の特徴を明らかにし,実効的なメンタルヘルス対策を検討することである.方法:国内の産業医386名に無記名の自由回答式質問票を送付し,109名から回答を得た.質問票は,産業医として対応したメンタルヘルス不調者の年齢階層別の特徴に関する設問と,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する2つのパートで構成された.全ての回答をデータ化し,質問毎に頻出語句とその出現数を数えた.前者に関しては,各年齢階層と頻出語句の関連性を検討するために統計学的処理を加えた.後者では,共同研究者および研究協力者10名にて,若年労働者に対して実施しているメンタルヘルス対策とその効果の認知に関する記述を整理した.結果:コレスポンダンス分析において,20歳代の周辺には,性格,未熟,他罰的,発達障害,統合失調症,新型うつ病,不適応,入社,社会,上司,同僚などの語句が布置された.30歳代では業務の質的負担,量的負担といった仕事に関する語句,40歳代は家庭,子供,介護といった職場外要因に関する語句が布置された.若年労働者に対して実施した対策は,教育と面談に関する記述が頻出したが,その効果は不明であるという回答が最も多かった.複数名の回答者から,上司や人事担当者,産業医といった職場関係者と若年労働者の家族との連携により家族の支援の向上が認められたという回答が得られた.考察:若年労働者のメンタルヘルス不調は,職場への不適応や未熟で他罰的な性格といった個人的要因や精神障害,労働者の背景や職場組織に関する職業性ストレスといった様々な要因の影響を受けていることが示唆される.職場と家族との連携は若年労働者にとって重要なメンタルヘルス対策となる可能性がある.
著者
加川 充浩
出版者
島根大学法文学部山陰研究センター
雑誌
山陰研究 (ISSN:1883468X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.69-85, 2019-12-31

本研究の目的は、過疎地域における生活困窮者自立支援事業の展開状況の特質を明らかにすることである。事例として、過疎地域指定を受けている島根県A市での事業を取り上げた。研究の特徴は次の2 つである。まず、「過疎」と「困窮」の両者を扱う研究は少ないという点である。過疎地域の研究では、高齢者の生活課題が議論の中心であった。しかし、過疎地域であっても、生活困窮に関連する課題は、高齢化に限らず多様であることを示す。次に、研究方法として、生活困窮者支援ケース記録の自由記述を分析するという手法を採る。これにより、国が実施する全国規模の調査では表出しない、過疎地域の実態を描く。結論部分では、過疎地域の生活困窮者の置かれた状況について3 点述べた。第一に、生活困窮者は、地域に滞留している高齢者ばかりではなく、UI ターンといった流入者も一定数ある。しかも、高齢者よりも現役世代の割合が高い。第二に、家族・親族が困窮者に何らかの関与を行っている。家族・親族は、サポート要因となる場合と、非サポート要因になる場合とがある。第三に、過疎地域の生活環境が、生活困窮者とその支援に影響を与えている。たとえば、公共交通手段の不十分さや、社会資源の不足などである。
著者
鈴木 一弥 吉川 徹 高橋 正也
出版者
独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
雑誌
労働安全衛生研究 (ISSN:18826822)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.23-35, 2022-02-28 (Released:2022-02-28)
参考文献数
52

目的:過労死等の防止のために職場で行う自主的・組織的対策を支援する方法あるいはツールを検討するための文献・資料調査を実施する.調査結果に基づいて既存の成果と今後の課題を整理する.方法:長時間労働による心身の健康障害の予防のためにこれまでに開発されたツールの事例(対策支援のチ ェックリスト, ガイドライン等)を学術文献データベース(MEDLINE,PubMed,JMEDPlus)の検索で収集し た.検索キーワードはツール等を示す用語(チェックリスト,ガイドライン,マネジメントシステム,ツールキ ット)と労働時間との論理積とした.2000~2019年の英語および日本語の学術論文を対象とした.公的または 公益的機関が提供しているツールに関して,インターネットによる探索的な検索も実施した.結果:学術文献データベースで72件(英文)および67件(日本語)がヒットした.タイトルと抄録の内容 により,対策を支援するツールの開発・提案や言及がなされた文献を選択した結果,労働時間の長い労働者に対する面接指導の実施を定めた「総合対策」への組織的な対応方法を改善するアクションチェックリストの開発が 1編,面接指導を支援する実務的ツールに関する研究が2編,交代勤務に関するチェックリストの開発が1編,航空安全を主目的としたFRMS(Fatigue risk management system)に関する研究が2編あった.インターネットの 検索の結果では,省庁と公益的な組織によって,いくつかの特定の業種・職種を対象としたツールの公開があった.医療労働のコンプライアンス支援ツール,交代制勤務に関するガイドライン,職場環境の自主的改善を支援するアクションチェックリスト,運送業における業務の内容や建設業における商慣行の改善のためのガイドライン,医療と運送業の対策好事例の提供等があった.交代勤務に関するガイドラインは,その予防的・包括的な内 容が特に参考になると思われたので,4種のガイドラインの内容を整理して表に示した.収集されたすべてのツ ールを,包括性,直接の使用者,改善の対象,介入の方法等に基づいて分類した.考察:長時間労働にかかわる自主的な取り組みを支援するツールの開発は現状では少数であった.組織体制の改善,参加型の人間工学的改善の支援,ストレスに関わる心理社会的要因の改善,職種・業種に特有の業務の改善を支援するものがあり,それぞれに特徴があった.過労死等を予防する包括的な対策ツールの要件に関する参考資料の収集ができた.
著者
古井戸 秀夫
巻号頁・発行日
pp.1-121, 2006-03

課題番号16602016 平成16年度~平成17年度科学研究費補助金(基盤研究(C))研究成果報告書 研究代表者古井戸秀夫(早稲田大学文学学術院)
著者
向山 恭一
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学 国際学部 紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
no.6, pp.27-42, 2021-04-01

移民社会の到来とともに増大する多様性に、福祉国家を支える国民的連帯は応答することができるのか。政治学者のキース・バンティングとウィル・キムリッカは編著書『コミットメントが課す試練』(オックスフォード大学出版局、2017 年)の「序論:多様な社会における連帯の政治的源泉」のなかで、正しい社会において連帯が必要とされる倫理的理由、多様性と連帯(移民と市民)が敵対関係に置かれる言説的付置状況、そして増大する多様性のもとで包摂的連帯を実現するための政治的視座を規範的=経験的に論じることで、この問いに肯定的に答えている。新自由主義とポピュリズムに挟撃された福祉国家を守るためには、なによりも連帯の共同体であるネーションを再帰的に想像しなおさなければならない。本稿の目的は、こうしたバンティングとキムリッカの議論を手がかりに、現代の移民/多文化社会において包摂的連帯にもとづく福祉国家を構想するための倫理的=政治的な見取り図を提示することである。