著者
齋藤 大輔 山本 敬介 峯松 信明 広瀬 啓吉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.322, pp.7-12, 2011-11-21

本稿では,話者空間をテンソル形式によって表現することにより,柔軟に話者性を制御することが可能となる新しい手法を提案する.声質変換の研究において,任意話者の音声を入力または出力として,変換を実現する手法はアプリケーション応用の観点からも非常に重要な技術であるといえる.任意話者声質変換を目的とする技術として,固有声混合正規分布モデル(EV-GMM)に基づく固有声変換法(EVC)が提案されている.EVCにおいては,話者認識でよく用いられるアプローチと同様に,各話者GMMの正規分布の平均ベクトルを連結して得られるGMMスーパーベクトルをもとに話者空間が構築される.構築された話者空間上において,個々の話者は固有スーパーベクトルに対する少数の重みパラメータによって表現することが可能となる.本稿では,話者空間を構築するための事前学習話者データに対して,テンソル解析を導入することによって話者空間を構築することを検討する.本研究における提案手法では,個々の話者はスーパーベクトルではなく行列によって表現される.この話者を表す行列の行及び列は,それぞれ音響特徴量の平均ベクトルの次元及びガウス分布の要素に対応する.ここで,これらの行列のセットに対してテンソル解析を導入することで話者空間が構築される.提案法は,話者情報のスーパーベクトル表現に内在する問題点に対する解法となっており,任意話者声質変換の性能向上が期待できる.本稿では,一対多声質変換において,提案する話者空間表現を導入することで,その有効性を示す.
著者
渡辺 正澄 藤原 正雄
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.171-176, 1988
被引用文献数
2

酒をおいしく味わうには, 飲酒に最適な温度と酒に合った料理を選ぶことがポイントであるが, 特にワインの場合には両者の関係がよリ厳しく要求される。本稿では, ワインの酸組成と飲酒適温との関係並びに料理との相性についてこれまでの知見を要約して紹介いただいた。<BR>ワインがなぜ温度と料理にこだわるのかを科学的に解き明かしてくれた興味ある解説である。
著者
山田 陽子
出版者
広島国際学院大学現代社会学部
雑誌
現代社会学 (ISSN:13453289)
巻号頁・発行日
no.10, pp.133-144, 2009

本報告は、広島国際学院大学現代社会学部・社会学合同演習「現代社会にみる恋愛」の一環として、2008年6月21日(土)に広島国際学院大学立町キャンパスにて行なわれた公開講義「純化する愛、その不安」の概要である。本講義では、恋愛について社会学的な観点から講じた。主として、1)ロマンティック・ラブ・イデオロギーと恋愛結婚の誕生、2)「純粋な関係性」と「コンフルエント・ラブ」(A.Giddens 1992)、3)コンフルエント・ラブが導く関係の不確定性、以上三点について講じている。受講者は、社会学にまったくなじみのない高校生や一般の方であったため、「恋愛チェックシート」(資料1)を作成し、講義の前に自らの恋愛観を振り返ってもらうという、最も身近なところから議論を出発させた。受講者一人一人が普段何気なく抱いている恋愛に関する様々な規範意識や感覚が、現代社会の成員の多くに共有されている社会意識であることを示し、そのことを通じて、通常は最も個人的で私的なものと考えられている感情が社会的・外的要因によって規定される側面を持つこと(E.Durkheim 1912)、もしくは自然で内発的なものであるとみなされている感情が社会的に決められた「感情規則」(A.Hochschild 1983)に沿う形で経験されていることに対する認識を促すことを目的とした。さらには、現代人に共有されている恋愛観や関係性の特徴、不安の来歴について講じることによって、社会規範や社会の在り方は常に「別様でもありうること」(N.Luhmann)を提示し、受講者自らが生きる社会を客観的に観察する契機となればとの期待をこめた。
著者
福岡 義隆 丸本 美紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

Ⅰ. はじめに<br> 気候とは中国古来の農業暦「二十四節気七十二候」の「気」と「候」に由来する(福井)ということ、あるいは和辻(1979)の不朽の名著「風土」がclimateと訳されているなどから、気候は人間生活の環境であると言える。一方、地球とは異なる大気がある火星でも気象現象が発現しているが、生物が生育できない火星には言うまでもなく地理事象である気候現象はない。要するに、気候学が気象学の一部という説は妥当ではない。<br>瀬戸内気候はその名のとおり、瀬戸内地方に広がる日本の中でも雨の少ない気候区である。その特有の瀬戸内気候タイプは福井英一郎や関口武、鈴木秀夫ら地理学の気候学者による気候区分法によって設定され、研究のみならず地理教育などでも多用されてきた。ブローデル(1991)の『地中海』に「陸と海の地中海のうえに空の地中海が広がっている」という一節がある。これに肖り「陸と海の瀬戸内海の上に空の瀬戸内海が広がっている」のである。<br>瀬戸内気候は夏に少雨であるという定性的な表現だけでなく、瀬戸内気候という気候の強弱を定量化しその地域性を表現することも重要である。本研究では福井(1966)により、瀬戸内気候度の定量化を試みた。<br>Ⅱ.瀬戸内気候度の提唱と計算方法<br> かつてゴルチンスキーは海洋度を、福井は地中海気候度なるものを提唱し、各々計算式を設定した。瀬戸内気候度は夏季3ケ月中の8月の雨量が少ないという季節性に注目して、8月の降水量をpとし、夏季3ヶ月間の降水量Pに対するpの割合を瀬戸内気候度Scとし次式で表した。 <br>Sc=100cos2 ɵ<br>Ⅲ. 瀬戸内気候度計算結果とその地理学における気候学的問題<br> 瀬戸内地方の内沿岸の気象官署の資料から上記のScを計算し、Scが90以上を大S、89~85を中S、84以下を小sとした(図1)。大Sが中四国の中心都市に見られ、また、隣り合った京都盆盆地より奈良盆地の方が瀬戸内気候の影響が強いことなどが注目され、このことは水収支の比較(丸本、2014)によっても明らかにされている。<br>Ⅳ. 終わりに <br> 瀬戸内気候度の分布からその場所性を論究する気候学は純然たる地理学である。さらに「気候などの自然地理こそ歴史に影響を与え、歴史を支配する決定要素である」(『カントと地理学』松本)。かのフェーブルの『大地と人類の進化』もブラーシュの『人文地理学原理』などでも気候の役割を重視している。内村鑑三の『知人論』でも「地理学は諸学の基なり」とその重要性を述べている。
著者
床井 浩平
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.1122-1126, 2015-10-15

和歌山大学システム工学部デザイン情報学科で実施していた,メディアデザイン演習という科目について紹介します.この科目は本学科で学習した内容をもとに,実際にマルチメディアコンテンツの制作を行います.これにより,コンテンツを構成する個別のメディア要素の取り扱い方法に加え,頭の中のイメージをメディア要素の組み合わせたシステムとして具体化し,魅力を作り込んだコンテンツを企画するための手順と方法について学びます.
著者
財吉拉胡
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アジア経済 (ISSN:00022942)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.2-33, 2019-06-15 (Released:2019-09-03)
参考文献数
107

伝統的な社会における医療衛生の近代化は植民地時代に開始された。明治維新後,帝国主義列強に加わった日本は,周辺のアジア諸国において植民地を獲得し,現地の医事衛生と社会事情に合わせた医療衛生政策を実施し,近代的医療衛生を持ち込んだ。内モンゴル西部地域においては,1930 年代前半から,モンゴル人の自治運動が起きたが,それとほぼ同時に,日本は財団法人善隣協会の診療班を当該地域へ送り込み,近代的医療衛生体制を導入した。一方,日本の植民地主義勢力が強制した近代化と近代思想の影響を受けたモンゴル人側は,みずからもすすんで近代的医療衛生を普及させようと試みていた。本論文では,当時の社会事情と植民地における近代的医療衛生事業の展開を背景に,蒙疆政府の医療衛生政策,モンゴル復興を目指した同政府興蒙委員会の医療衛生事業の展開,当該政府によって設立された中央医学院の実態などの考察を通じて,内モンゴル西部地域における医療衛生の近代化過程を明らかにする。
著者
小谷野 敦
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.29, pp.301-323, 2004-12-27

一九八七年頃から、古代中世日本において女性の性は聖なるものだったといった言説が現れるようになった。こうした説は、もともと柳田国男、折口信夫、中山太郎といった民俗学者が、遊女の起源を巫女とみたところから生まれたものだが、「聖なる性」「性は聖なるものだった」という表現自体は、一九八七年の佐伯順子『遊女の文化史』以前には見られなかった。日本民俗学は、柳田・折口の言説を聖典視する傾向があり、この点について十分な学問的検討は加えられなかった憾みがある。 一方、一九八〇年代には、網野善彦を中心として、歴史学者による、中世の遊女等藝能民の地位についての新説が現れ、これを批判する者もあった。網野は、南北朝期以前に、非農業民が職能民として天皇に直属していたと唱え、遊女についても、後藤紀彦とともに、宮廷に所属していたという説を唱えた。脇田晴子らはこの説を批判したが、豊永聡美の論文によって、後白河・後鳥羽両院政の時期、宮廷が特に高級遊女を優遇したと見るのが正当であろうという妥当な結論が出た。 既に法制史の滝川政次郎は、遊女の巫女起源説を批判したが、同時に遊女の起源を朝鮮に求めたため批判を受けた。だが、そもそも遊女に起源がなければならないという前提が奇妙なのであり、ことさら遊女の起源をいずれかに求めようとすること自体が誤りだったのである。 では「聖なる性」という表現は、どこから現れたのか。宮田登は一九八二年に、遊女の「非日常性」と「霊力」について述べているが、「聖なるもの」という表現は、一九八六、八七年に、阿部泰郎、佐伯順子らが言いはじめたことである。しかしいずれも十分な学問的検討がなされているとは言いがたく、特に佐伯の場合、ユング心理学の「聖なる娼婦」という原型の、エスター・ハーディングによる展開の影響を受けているが、これは新興宗教の類であって学問ではない。 即ち、日本古代中世における「聖なる性」は、学問的に論証されたことはなかったのである。
著者
上椙 真之
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.752-758, 2019-11-05 (Released:2020-05-15)
参考文献数
22

小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還して,大きな話題になってから,9年がたった.当時は地球に帰還したこと,そしてサンプルカプセルの中に,確かに小惑星イトカワの粒子が入っていたことは非常に大きなニュースとしてクローズアップされた.この時,わずか数10 μmの粒子の分析を通して,小惑星イトカワの母天体の大破壊や,さらにそれ以前の履歴,また,小惑星の進化の果ての未来像までもが,初期分析と呼ばれる試料分析の結果から得られ,帰還からわずか1年以内に報告されている.この迅速な分析・成果公表の影には,人類史上初の小惑星から直接採取されたサンプルをどう扱い,どう分析するか,という問題に対する挑戦が存在した.100 μmに満たない微小な粒子,たった40個を,電子顕微鏡観察に始まり,X線を用いた非破壊分析,試料加工,元素質量分析や透過電子顕微鏡観察など,最先端の分析装置を連続して適用し,最大限の情報を取得する.こういった最先端の技術を使って試料を分析する際に,必ず問題になるのが試料の装置へのマウントである.このマウントの仕方一つで分析の精度が決まるため,試料の前処理は実際の分析装置の操作以上に重要になる.そして複数の装置を一つの試料に対して連続的に適用する場合,試料をそれぞれの装置に適した形にマウントする必要があるため,試料をホルダからホルダに移動する必要がある.この際に,試料が汚染されたり,破壊,あるいは紛失といったトラブルが頻発する.「はやぶさ」帰還試料の分析では,過去の知見を活かし,樹脂を利用した試料ハンドリングを行って,迅速な成果公表に成功した.その一方で,多くの試料に対して,汚染源となる地球大気を遮断した分析ができなかったという,大きな課題を残すことになった.2019年2月に「はやぶさ」の後継機,「はやぶさ2」が小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功するという快挙を成し遂げた.小惑星リュウグウは,「はやぶさ」のターゲット天体であった小惑星イトカワと違い,水や有機物を多く含んでいる可能性が高い.このため,生命の起源に関する情報が得られることが期待されている.しかし,このために,地上の汚染の影響を受けやすく,試料を分析する際に大気遮断が必須となり,樹脂を使うこともできない.地上では,「はやぶさ」の経験を受けて,「はやぶさ2」帰還試料分析におけるこれらの課題に対する対応・検討が急ピッチで進められている.科学の世界ではtrial and errorの過程を成果公表でつぶさに語ることは無く,最終結果を成果として発表することが通例である.しかし,「はやぶさ」帰還試料の分析の際の大気遮断の失敗,試料ハンドリング時における事故,トラブルによる試料の破壊や紛失,有機物粒子の分析において分析と並行して技術開発を行ったことによる,成果公表の大幅な遅れなど,失敗談や挫折にこそ,今後の技術発展の基礎となる重要な要素が多く含まれる.これらの経験が今後の科学の発展の一助になれば幸いである.
著者
酒井 潔
出版者
学習院大学
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.7-20, 2009-03

ライプニッツのcaritas 概念は、一方で伝統的なキリスト教の立場に、他方で十七世紀の啓蒙主義の時代思潮にそれぞれ連続する面を有する。「正義とは賢者の慈愛である」(Justitia est caritassapientis)、そして「慈愛とは普遍的善意(benevolentia universalis)である」というライプニッツの定義には、キリスト教的な「善き意志」のモチーフとともに、(プラトニズム起源のものだけではない)近代の合理主義的性格が見出される。ライプニッツは彼の政治学、ないし政治哲学の中心にこのcaritas 概念をすえている。それは彼の「社会」(societas)概念とも密接にリンクしつつ、今日の社会福祉論への射程を示唆する。ライプニッツの「慈愛」、「幸福」、「福祉」(Wohlfahrt)という一連の概念のもつ広がりは、アカデミー版第四系列第一巻に収載されている、マインツ期の覚書や計画書に記載された具体的な福祉政策(貧困対策、孤児・浮浪者救済、授産施設、福利厚生など)に見ることができる。しかしcaritas 概念の内包を改めて検討するならば、caritas 概念の普遍性と必然性は、その最も根底においては、ライプニッツの「個体的実体(モナド)」の形而上学に基礎づけられている、ということが明らかになるであろう。In Leibniz' philosophy we find the very basic notion that philosophers, who recognize or are able to recognize that this world has been created by God, should try to bring about "the happiness of human beings, the benefit of society and the honor of God". This is precisely where the concept of "charity" as the "justice of the wise" is being conceived("Justitia est caritas sapientis"). Leibniz thinks that caritas can be equated neither with mere compassion nor with a particular religious virtue. For a rational human being, caritas belongs to the universal duties of practical life. Such a science - one that is called "politica" by Leibniz - is a discipline of practical philosophy. Leibniz' concept of caritas has two principal aspects: on one hand it has a traditional aspect deriving from Christian Antiquity and the Middle Ages; on the other hand it has a rational character derived from the idea that caritas must be based on reason and its proven knowledge. In this sense we can confirm that Leibniz belonged to that early idealistic period of the Enlightenment in the 17th century.