著者
安田 文世
出版者
医学書院
雑誌
臨床皮膚科 (ISSN:00214973)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.811, 2016-09-01

アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患は,寄生虫感染が蔓延していた頃にはほとんど存在しなかったといわれる.これは寄生虫に対するIgE抗体反応が誘導されることにより,他の外来抗原への反応が抑制されるためと説明されてきた.本論文では,寄生虫感染そのものではなく,寄生虫感染により変化した腸内細菌叢が,アレルギー反応を抑制することが示された. マウスに寄生虫を感染させた上で,ハウスダストによる気道アレルギー反応を誘発させ,その反応の大きさの変化を,気管支肺胞洗浄液中の好中球数,IL-4値,IL-5値,ハウスダスト特異的IgG1値,肺の組織変化などで評価した.結果は寄生虫感染させたマウスのほうが,感染させてないマウスに比べ有意にアレルギー反応が抑制されていた.一方,寄生虫には直接効果のない抗生剤を予め投与したマウスでは,寄生虫を感染させてもアレルギー反応は抑制されなかった.ところが,予め抗生剤を投与しておいたマウスを,寄生虫感染したマウスと同じケージで飼育すると(寄生虫はマウスからマウスへ感染しないが,腸内細菌はマウスからマウスへと感染する),アレルギー反応が抑制された.すなわち,寄生虫感染自体ではなく,寄生虫感染により変化した腸内細菌がアレルギー反応を抑制することが明らかとなった.アレルギー反応が抑制されたマウスでは,腸内細菌由来の短鎖脂肪酸の濃度が上昇しており,短鎖脂肪酸の免疫機能への作用を媒介するGPR41受容体を欠損させたマウスでは,寄生虫感染によるアレルギー抑制効果が消失した.さらにはブタやボランティアのヒトに寄生虫を感染させると,腸内の短鎖脂肪酸産生が上昇することが示された.膨大な実験をもとに寄生虫感染がアレルギーを抑制する機構を明らかにした,大変興味深い論文である.
著者
高原 佳穂 河本 大地
出版者
奈良教育大学ESD・SDGsセンター
雑誌
ESD・SDGsセンター研究紀要 = Bulletin of Center for ESD and SDGs (ISSN:27585948)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.31-39, 2023-03-31

本稿の目的は、学校教育における地域と連携・協働した地域学習の体系を構築している京都府南丹市美山町の美 山小学校・美山中学校における「美山学」について、それが成立する前のへき地・小規模校における長年の取組の中で 育まれてきた実践を整理することである。美山小学校は 2016 年に美山町内の 5 小学校を再編して開校したが、その前から地域資源の活用が各小学校で行われていた。本研究では新聞記事や小学校再編時に作成された各校の閉校記念誌などを参照し、「美山学」成立の前段階における学校と地域との関係について検討した。地域が主体となって学校を支援 する例としては、育友会や読み聞かせ団体の活動があった。地域学習は各校で多岐にわたる活動が展開されたが、実際に地域の人と関わりながら進められた実践が多かった。また特別活動や行事などでも地域との交流が活発で、地域と合同で行事を開催するなど密接な連携が見られた。このように美山町では学校と地域との連携・協働が早くから活発であり、これらが土台となって「美山学」が成立したと考えられる。
著者
MALITZ David M.
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
世界の日本研究 = JAPANESE STUDIES AROUND THE WORLD (ISSN:24361771)
巻号頁・発行日
vol.2022, pp.33-48, 2023-03-15

This article investigates Japanese cultural and political influence in the Kingdom of Siam, renamed Thailand in 1939. Early exchanges in the late sixteenth and early seventeenth centuries saw the consumption of Japanese products in the Southeast Asian kingdom as status symbols. Japanese swords in particular were cherished and have become dynastic heirlooms since then. From the late nineteenth century onward, Imperial Japan was seen as a role model of successful modernization in Bangkok and Japanese advisors and instructors were hired by the court. Critics of the absolute monarchy meanwhile stressed that Imperial Japan had become a great power as a constitutional monarchy.

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著者
(遼)釋行均編
出版者
中華書局
巻号頁・発行日
1985
著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

陸の気候は私達の生活に大きな影響を与えてきました.その中でも,気温は重要ですが,寒冷限界値を除くと,気温を高精度にデジタルで復元することはこれまで難しいとされてきました.今回,西日本(広島)の初夏の気温を誤差0.2℃程度で3,000年間にわたる気温を初めて復元しました.西日本(広島)における気温の復元によると,最高気温は平安初期(西暦820年)の嵯峨天皇の頃で,気温は25.9℃でしたが,その後,断続的に下がっていき,紫式部が活躍した頃が中間点で,平清盛の時代である平安後期(11~12世紀)には,24.0℃まで下がりました.逆に,時代を遡ると天皇中心の貴族社会の開始となった聖徳太子の活躍した飛鳥時代初期(600年頃)には極小気温,24.7℃を記録しました.ヨーロッパでは10~13世紀を中心に中世温暖期(950~1250年頃)と呼ばれる時期が報告されています.グリーンランドでも9~12世紀にかけては中世温暖期の恵みにあずかり,飼料用の穀物が栽培され,家畜が飼育されました.クメール王朝の繁栄した時代は,アジア大陸では中世温暖期に相当していたので,アジアモンス-ンによる降雨に恵まれた環境であったと考えられています.同様な温暖期は,アメリカ合衆国,中国などでも確認されています.しかし,西日本では反対に,11~12世紀にかけては大きな寒冷期でした.これは,西日本のみならず,北海道南部の噴火(内浦)湾から得られた結果においても,平安時代の最高温度から最低温度まで約6℃降下していることがわかりました.この大寒冷期の原因の有力候補として,大規模なエルニーニョ状態が考えられます.なぜなら,日本列島は,エルニーニョ期には冷夏となる傾向があるためです.実際,復元された南方振動指数に基づくとエルニーニョ状態であったことが示唆されています.Reference: 1) Kawahata, Matsuoka, Togami, Harada, Murayama, Yokoyama, Miyairi, Matsuzaki and Tanaka (2016) Quaternary International, in press. DOI:10.1016/j.quaint.2016.04.013.2) Kawahata, Ishizaki, Kuroyanagi, Suzuki, Ohkushi (2017) Quaternary Science Reviews, 157, 66-79.3) Kawahata, Hatta, Yoshida Kajita, Ota, Ikeda, Habu (2017) Quantitative reconstruction of SSTs(ATs) in northern Japan for the last 7 kiloyears Implication to the society of Jomon people. Submitted.
著者
水野 りか 松井 孝雄
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.31-38, 2018-02-28 (Released:2018-04-17)
参考文献数
27

水野・松井(2016)は,日本語の同音異義語では仲間が多いほど顕著な同音異義語効果が認められることから,同音異義語が呈示されるとその複数の仲間が活性化されることを示した.しかし日本語は同音異義語が多く,概してその仲間の数も多いため,この知見から考えれば日本語が処理に時間のかかる言語だということになってしまう.著者らは,文脈効果の知見から考えて,適切な文脈があれば仲間の数にかかわらず日本語の同音異義語も円滑に処理され,同音異義語効果は生じないのではないかと考えた.そこで本研究では,意味的に一致した文脈と不一致の文脈を呈示して仲間が多い同音異義語,仲間が一つの同音異義語,非同音異義語の語彙判断時間を測定した.その結果,一致した文脈を呈示した場合は仲間が多くても少なくても同音異義語効果は生じないことが見いだされ,日本語の同音異義語は適切な文脈があれば仲間の多少にかかわらず非同音異義語と同じように円滑に処理されることが明らかとなった.最後に,現実場面に近い状況で言語処理過程を検討する必要性が論じられた.
著者
横尾 能範 瀬林 伝
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.841-850, 1981-02-28 (Released:2009-02-17)
参考文献数
22

Although the harmful effects of noise may be reduced by a person's becoming accustomed to it the authors have analyzed the relation between the thinking process and chronic exposure to noise. The experimental results show that school children who are used to noise are more affected by the noise on their thinking process than the other children.Eleven year old children were given thinking problems in which a female feacher read 3 digit numbers at a constant level, after which the subjects had to write down each number in reverse order. Some of the problems were given with a background of railway noise at various levels and the results obtained were analyzed to determine the effects of the presence of noise, noise levels and of chronic exposure to noise.Based on the results, it is suggested that some habituation to suppress studying activities such as “suspention of thinking” or “abandoning work” are formad on the children who always do their thinking in a noisy environment.
著者
中村 博昭 鳥居 猛 鈴木 武史 吉野 雄二 山田 裕史 松崎 克彦 廣川 真男 石川 佳弘
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

昨年度に基礎を確立した複素および1進の反復積分の関数等式の導出法(Wojtkowiak氏との共同研究)を延長して,具体的な実例計算をさらに検証した.とりわけ古典的な高次対数関数について知られている分布関係式(distribution relation)の1進版を導出することに成功した.分布関係式は,様々な特殊値を代入することで,高次対数関数の特殊値の間に成立する様々な関係式を組織的に生み出す重要なものであり,1進の場合にも並行してガロア群上の関数族(1-コチェイン)を統御する要となることが期待されるが,前年度までに得られた関数等式との整合性についても検証を行った.8月にケンブリッジのニュートン数理科学研究所で行われた研究集会"Anabelian Geometry"において口頭発表を行った.このときの講演に参加していたH.Gangl氏,P.Deligne氏から今後の研究指針を考える上で有用になると思われるコメントを頂戴することが出来た.また分布関係式の低次項の解消問題に関連して,有理的な道に沿った解析接続の概念にっいて考察を進める必要が生じた.こうしたテーマに関連して研究分担者の鳥居氏には,有理ホモトピー論に関する情報収集を担当していただき,また研究分担者の鈴木氏には,量子代数やKZ方程式との関連で組みひも群の数理についての情報収集を担当していただいた.以上の研究成果の一部は,共同研究者のWojtkowiak氏と協力して,"On distribution formula of complex and 1-adic polylogarithms"という仮題の草稿におおよその骨子をまとめたが,まだ完成に至っていない.周辺にやり残した問題(楕円ポリログ版など)もあり,これらについて一定の目処をつけてから公表までの工程を相談する予定になっている.
著者
植村 円香
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.137-154, 2022 (Released:2022-06-04)
参考文献数
33
被引用文献数
4

本研究では,ハワイ島における新たな担い手によるコナコーヒー生産の実態とその課題を明らかにするとともに,彼らがコナコーヒー産地に与えた影響について考察することを目的とする.1890年代以降,コナでは日系移民がコーヒーの原料となるチェリーを生産し,島内の精製工場に出荷していた.しかし,1980年代以降に世界的なスペシャリティコーヒーブームが起きると,新たな担い手がコーヒー生産を開始した.彼らは,チェリーの生産,精製,焙煎を行い,豆を消費者等に販売していた.しかし,新たな担い手は,害虫被害によるチェリー生産量の減少などから豆の販売価格を上げざるを得ず,それが消費者離れにつながるという課題に直面していた.また,新たな担い手が産地に与えた影響として,彼らは衰退しつつあった産地の回復に貢献したが,従来とは異なる品種や精製方法を導入して独自の風味を追求することで,コナコーヒーの風味が多様化するという課題をもたらした.
著者
関戸 明子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.265-285, 2022 (Released:2022-08-06)
参考文献数
52
被引用文献数
3

本稿では,明治期の東京における温泉浴場について,公文書,新聞記事,案内書などの資料を精査して,施設の形成過程や分布の変遷を明らかにした.そして当時の社会的背景をふまえたうえで,温泉浴場という場所の意味について考察した.東京では1870年代前半に温泉を名乗る浴場が現れ,1870年代後半から「開化」を象徴するものとして流行した.それは人工的な温泉であり,薬湯,温泉地より原湯を運んだもの,湯の花を入れたものであった.風紀や衛生面で問題のあった浴場の改良も進んだ.1877年には44の浴場は市街地とその近隣に多く分布していた.1885年には178の浴場は市街地に集中的な立地がみられ,その外縁部への展開も認められた.1897年には,浴場が淘汰された結果,市街地外縁部に立地するものが目立つようになった.それらの温泉浴場は,手軽な行楽地として,繁華な市街地から離れて保養する場所となっていた.
著者
庄子 元 甲斐 智大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-32, 2023 (Released:2023-01-07)
参考文献数
15

本稿の目的は青森県南部町と秋田県東成瀬村を事例に,特定地域づくり事業協同組合の性格の地域差を明らかにすることである.両地域では地域外からのサポートによって労働者派遣法に対応した運営体制の構築やホームページの整備が進められ,事業協同組合が設立されている.また,南部町では求人のウェブサイト,東成瀬村では地域内のハローワークを通じてマルチワーカーが募集された.そのため,南部町のマルチワーカーは地域外からの新規就農希望者であるのに対し,東成瀬村は地域内居住者が主である.こうした属性の違いから,南部町ではマルチワーカーに対する農業技術の研修を充実させている一方,東成瀬村ではマルチワーカーへの手当を厚くしている.したがって,両地域の事業協同組合は,南部町では新規就農希望者が農業技術を習得する学びの仕組みとして機能しているのに対し,東成瀬村は地域内の居住者が安定して雇用されるための仕組みといえる.
著者
鈴木 真二
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.5_30-5_32, 2020-05-01 (Released:2020-09-25)
参考文献数
4
著者
佐々木 雄大
出版者
日本倫理学会
雑誌
倫理学年報 (ISSN:24344699)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.203-217, 2018 (Released:2019-04-01)

Généralement, on pense que le sacré est un concept pour définir l’essence de la religion. La religion est basée sur la distinction entre le sacré et le profane, et le sacré, qui est isolé de la région profane, a l’ambiguïté du pur et de l’impur, et du faste et du néfaste. Contrairement à cela, ces dernières années, de nombreux doutes sur le concept du sacré et le dualisme du sacré et du profane ont été soumis. Une telle critique pourrait également être dirigée vers Georges Bataille, qui employait le sacré comme un concept important de sa pensée. D’une part, il acceptait le dualisme de Durkheim dans « hétérologie », mais d’autre part, dans le compte rendu sur L’homme et le sacré de Caillois, il dirait que la différence entre le sacré et le profane n’était que celle de « l’angle de vue ». Cet article vise à défendre la théorie du sacré chez Bataille contre les critiques du concept du sacré, et à montrer sa possibilité de surmonter la distinction entre le sacré et le profane. D’abord, après avoir confirmé la position du sacré dans la sociologie religieuse de Durkheim, nous montrons que, dans La structure psychologique du fascisme (1933), Bataille a remplacé le sacré et le profane par l’hétérogénéité et l’homogénéité et a analysé la structure sociale avec ces concepts. Ensuite, nous prouvons que, dans La théorie de la religion(1947), il a repris le sacré comme le problème d’une conscience de soi, et le monde sacré et le monde profane coïncident dans « la nuit du non-savoir ». Et enfin, il devient clair que, dans La guerre et la philosophie du sacré (1951), Bataille a atteint à l’ambiguïté entre le sacré et le profane en saisissant la relation entre les deux comme celle entre la totalité du monde et les objets isolés. De cette façon, on conclut que Bataille peut surmonter le dualisme et considérer le sacré comme un problème général de la vie humaine qui ne se limite pas à la religion.
著者
佐野 幹
雑誌
宮城教育大学紀要 = BULLETIN OF MIYAGI UNIVERSITY OF EDUCATION
巻号頁・発行日
vol.56, pp.11-27, 2022-01-31

本報告は平成29年度告示の学習指導要領に対応した、小・中学校の国語教科書を対象にマンガがどのように教材化されているのかを調査したものである。調査した内容は、マンガが使われている教材の種類とマンガに与えられた教育的役割である。調査した結果は項目(「校種」、「出版社と巻」、「頁」、「教材名」、「マンガの役割」)を立て表にまとめた。調査の結果から、次のことを指摘した。 1、「活動のモデル・ナビ」と「内容理解の補助」の役割で多用されていた。2、マンガそのものが推薦図書に挙げられていた。3、マンガが日本の文化や固有の表現形態として認められ、文章の題材となっていた。4、読みの対象としてマンガが扱われていた。5、物語を作成するためにマンガが活用されていた。