著者
飯本 武志 米原 英典 小佐古 敏荘
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.215, 2009-08-15 (Released:2016-09-30)
参考文献数
22
被引用文献数
2

環境にはさまざまな自然の放射性核種が存在する.これらの核種を含む物質は,自然起源の放射性物質(NORM(ノルム):Naturally Occurring Radioactive Materials)と呼ばれる.また,このうち何らかの人為的な過程を経て,結果的に放射線量が高くなったNORM をTENORM(テノルム:Technologically─Enhanced NORM)と呼ぶ.このような自然起源の放射性物質の存在とその特徴を概説するとともに,放射線防護学的な安全の考え方について整理した.放射線量の定義,放射線被ばくの分類の基本的な考え方(「現存する被ばくの状況」と「計画的な被ばくの状況」など)を理解し,現実の状況に適合した自然起源の放射性物質の管理方針を策定することが重要となる.現在も,世界的な議論として,その検討活動が活発に展開されている.有効かつ合理的な安全を追求するための議論には,現状実態の把握とその分析が最も急がれるところである.系統的な実地調査が十分ではない分野と,放射線安全/放射線防護分野との分野の壁を超えた強い連携,相互の活発な意見交換を強く期待したい.

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著者
佐々木邦 著
出版者
講談社
巻号頁・発行日
1939
著者
熊原 康博
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.334, 2013 (Released:2013-09-04)

1.はじめに 発表者は,太平洋戦争直後に撮影された縮尺2万分の1米軍空中写真の地形判読により,群馬県南東部の太田市東部から桐生市西部にかけてのびる活断層(太田断層)を発見した.本発表では,地表踏査および,群列ボーリング調査,トレンチ掘削調査の結果を報告する.また,本断層の最新活動時期や地盤災害の痕跡の時期や分布から,本断層が818年(弘仁九年)の起震断層である可能性についても議論する.本研究は文部科学省による「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の支援を受けた.2.断層変位地形 本断層は、渡良瀬川の西側に沿って認められる南-北走向~北西-南東走向の少なくとも長さ18kmの活断層である. 断層の南部では,断層崖を境に利根川起源の中位面(館林面),扇状地面,旧利根川の河道が,東側低下の変形を受けており,その変位量は古い地形面ほど大きいことから累積的な変形が示唆される.断層崖の幅が100mに達する撓曲変形をなすことや,断層上盤側で盛り上がる地形が認められることから,西傾斜の断層面をもつ低角な逆断層と想定される.利根川左岸までは館林面の変形を指標として,本断層を認めることができるが,右岸は利根川の浸食/堆積が著しく,本断層の南延長については不明である. 断層の北部は,渡良瀬川の向きと断層の走向がほぼ平行になるため,河食崖と断層崖との区別が困難であった.八王子丘陵の東縁沿いでは,丘陵を開析する谷の谷口に小規模な扇状地が形成されている.これらの扇状地は南東側低下の撓曲変形を受けていることが,写真判読からは認定される.ただし現在では土地改変が進んでいることから詳細は不明である. 3.群列ボーリング調査 太田市龍舞において,断層に直交する測線で5本の群列ボーリング調査を行った.その結果,下部の礫層上面を指標とすると約4.3m,浅間板鼻黄色軽石(YP:13~14ka降下)を含む砂層上面を指標とすると2m程度の東側低下の高低差が断層崖直下で認められた.これは,礫層堆積以降少なくとも2回の断層変位が認められること,YP以降に最新活動があったことを示す.4.トレンチ掘削調査 ボーリング調査と同地点で,断層崖を横切るトレンチ掘削調査を2回実施した.トレンチ壁面からは,傾斜する2つの地層とそれらをアバットする水平な地層が認められた.傾斜する下位の地層(A層)は,上部にYPを含むラミナをもつ砂層であった.YPを鍵層として地層の傾斜の変化をみると,トレンチ西側で水平であったYPが東(崖基部)に向かって徐々に傾斜が急になる.また,A層の上位にはYPの傾斜と同じ程度の傾斜である腐植質粘土層(B層)も認められ,14C年代値の内最も若い年代はAD540-650である.一方,B層を覆う水平な地層(C層)も認められ,浅間Bテフラ(As-B: AD1108降下)を含み, 14C年代値の内最も古い年代はAD770-980年であった. 一般的に腐植質粘土層は水平堆積することから,B層が断層変位を受けた地層、C層を変位後の地層とみなした.最新活動の時期は,両者の14C年代値からAD540-980といえる.最新活動の垂直変位量は少なくとも1.2m以上であるが,B層の上部が欠落しているため,正確な量は不明である. 5.古地震の記録,周辺の地盤災害の痕跡との関係 トレンチ掘削調査で得られた断層活動の年代からは,本断層が、『類聚国史』の記事に記された,関東地方における818年の大地震の起震断層の候補となりうる.また,群馬県南東部や埼玉県北部では,噴砂・地割れ跡など強い地震動が生じたことを示す地盤災害の痕跡が多くの考古遺跡から報告されてきた.この地域は,榛名二ッ岳渋川テフラ(Hr-FA)とAs-Bの降下範囲であるため,噴砂・地割れの発生年代を両テフラ降下間(6世紀初頃~1108年)に限定され,早くから818年の地震との対応が指摘されていた.これらの古代の地盤災害は,本断層から20km以内に分布し,本断層の活動に伴って発生した可能性を示唆する.6. 太田断層で発生する地震の予測 太田断層の全長(長さ18km)から,断層全体が一度に活動した場合,M6.9程度の地震が発生することが予測される.ただし,利根川右岸の埼玉県北部でも,古代の噴砂・地割れ跡が多数認められることを考えると,さらに断層が南へ延びる可能性は高い.そのため,地震の規模もさらに大きくなると予想される. 本断層の活動履歴について検討する.YP以降に断層活動があったことは確実である.最新活動の垂直変位量が1.2m以上である一方,YPを指標した場合,その量は約2mである.したがってYP以降の断層活動が1回か2回かは厳密には明らかにできない.ただし,中位面のその量は3~4mと小さいことから,活動間隔は長いものと考えられ,YP以降に1回の可能性が高い.
著者
前川 友香里 鈴木 馨
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.7-11, 2017

エキゾチックペットとして広がりつつあるデグーは粗食に適応した草食齧歯類であり、飼育下での高栄養食給餌は糖尿病や脂質異常症の発症などが危惧されている。本研究では、デグーとのコミュニケーションをはかるための高嗜好性食物の検討とそれらの食餌による血糖への影響を検討した。臨床的に健康な成熟個体(n=6)を用いて、あらかじめ空腹時血糖値(64.2±2.2mg/dl、平均値±標準誤差)を測定後、通常食(ペレット)、高繊維質食(チモシー)、高糖質食(乾燥パイン)、および高脂質食(ヒマワリの種)の嗜好性、ならびに給与後の食後血糖値変動を調べた。17時間絶食後の摂食量は最も多いものから、高脂質食(2.7±0.2g、平均値±標準誤差)、高糖質食(2.4±0.2g)、高繊維質食(1.6±0.3g)、通常食(0.6±0.1g)の順序であった。食後血糖値は、高糖質食で最もピーク値が高く(91.8±7.8mg/dl)、高脂質食で最も低かったが(68.7±3.9mg/dl)、いずれも生理的変動の範囲内であり、150分以内で空腹時血糖値付近に戻った。以上より、常用・長期の場合は除き、高嗜好性食物の利用がデグーの健康に直ちに悪影響を及ぼす可能性は低いことが示唆された。
著者
浅野 良輔 五十嵐 祐 塚本 早織
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.69-79, 2014-04-25 (Released:2014-04-15)
参考文献数
41
被引用文献数
3 16

Hedonia (seeking pleasure and relaxation) and eudaimonia (seeking to improve oneself in congruence with one’s values) uniquely contribute to well-being. The authors developed and tested the construct validity of a Japanese version of the Hedonic and Eudaimonic Motives for Activities (HEMA) scale that had been originally developed in North America. Drawing on the theoretical and empirical evidence from research on emotion, we proposed that people would pursue well-being in three different directions: pleasure, relaxation, and eudaimonia. In Study 1, we used the original HEMA scale to examine the Japanese attainment of well-being. The results supported the hypothesized three-factor model. Study 2 revealed that the Japanese version of the HEMA scale measured pleasure, relaxation, and eudaimonia. Each of these subscales showed statistically sufficient internal consistency. There was no gender difference in any of these measures. Scores on the scale systematically corresponded with external criterion variables, such as life satisfaction, affect, Ryff’s psychological well-being, social support, and lifestyle. Implications for psychological research and public policies that cover the topic of the pursuit of well-being are discussed.
著者
倉本 圭 川勝 康弘 藤本 正樹 玄田 英典 平田 成 今村 剛 亀田 真吾 松本 晃治 宮本 英昭 諸田 智克 長岡 央 中川 広務 中村 智樹 小川 和律 大嶽 久志 尾崎 正伸 佐々木 晶 千秋 博紀 橘 省吾 寺田 直樹 臼井 寛裕 和田 浩二 渡邊 誠一郎 MMX study team
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会誌遊星人 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.207-215, 2018-09-25 (Released:2018-12-21)

火星衛星Phobosからのサンプルリターンに挑む火星衛星探査計画 (Martian Moons eXploration: MMX) は,現在,宇宙航空研究開発機構 (JAXA) プリプロジェクトとして,2024年の打ち上げと5年の往還期間を設定し,精力的な検討・初期開発が進められている.MMXは,サンプル分析,Deimosを加えた火星衛星の近接観測,そして火星大気および火星圏のモニタリング観測を組み合わせることにより,惑星に寄りそう衛星という切り口と視座から,太陽系における大気と水を湛えたハビタブル惑星の形成と進化の解明に迫ろうとしている.
著者
舛屋 圭一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.6, pp.322-328, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
15
被引用文献数
3

現在,臨床現場で使用されている薬剤は主に低分子と抗体医薬品であり,ペプチド医薬品(古典的ペプチド医薬品)はインスリンやリュープロレリンなど極めて限られた数の薬剤しか使用されていない.その理由は,主に古典的ペプチド医薬品には弱点が多く,創薬研究のツールとしては有用なものの,創薬研究開発の最前線では敬遠されてきた歴史がある.しかし,昨今の低分子医薬品創製の行き詰まり感と抗体医薬品におけるターゲット枯渇や経済合理性の問題を背景に,中分子医薬品として特殊環状ペプチドが脚光を浴び始めている.その主な理由は,①ペプチド一つ一つを化学合成しなくても生物学的評価を行えるシステム(in vitro selection)が確立された,②非天然型のアミノ酸を組み込んだ〝特殊ペプチド〟が容易に調製でき,低分子・抗体医薬品の長所を併せ持たせることが可能となった,からである.本稿では,特殊環状ペプチドがどのように創薬研究開発全体に貢献できるかを論じる.
著者
大原 常晴 廣内 雅明 岡 美智子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.1, pp.34-41, 2014 (Released:2014-07-10)
参考文献数
30

レグテクト®錠333 mg(有効成分:アカンプロサートカルシウム)は,「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」の効能・効果,「通常,成人にはアカンプロサートカルシウムとして666 mg を1 日3 回食後に経口投与する.」を用法・用量として2013 年3月に承認された.アカンプロサートカルシウムは,ラットのアルコール(エタノール)自発摂取ならびにエタノール離脱効果を抑制した.さらに,エタノールへの条件づけ場所嗜好性(CPP)を獲得したマウスに対し,本薬はエタノールCPP の発現を用量依存的に抑制した.また,エタノールの持続曝露によりグルタミン酸作動性神経活動が亢進したラット大脳皮質初代培養神経細胞では,グルタミン酸刺激による細胞障害が増悪した.本薬はこの作用を顕著に抑制し,エタノール依存で生じた過剰なグルタミン酸作動性神経活動を低下させることでエタノールへの渇望を抑え,自発摂取やCPP 発現の抑制につながると考えられた.一方,国内第Ⅲ相臨床試験ではアルコール依存症患者を対象にプラセボを対照としたランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した.アルコール依存症の治療目標は断酒であり,主要評価項目である治験薬投与期間中の完全断酒率は本剤群47.2%(77/163 例)およびプラセボ群36.0%(59/164 例)であり,本剤群が有意に高かった(P=0.0388,χ2 検定).本剤群のプラセボ群に対する完全断酒率の差(95%信頼区間)は11.3%(0.6~21.9%)であった.投与期間中の有害事象発現率は本剤群77.9%(127/163 例)およびプラセボ群68.3%(112/164 例)であり,本剤群の方が高かった(P=0.0498,χ2 検定).死亡およびその他の重篤な有害事象は,すべて治験薬との因果関係は否定された.因果関係が否定できない有害事象(副作用)発現率は本剤群17.2%(28/163 例)およびプラセボ群13.4%(22/164 例)であり,両群間に有意な差は認められなかった(P=0.3444,χ2 検定).投与期間中に認められた有害事象および副作用はほとんどが軽度または中等度であった.最も発現率が高かった副作用は下痢であり,本剤群12.9%(21/163 例)およびプラセボ群4.9%(8/164 例)であった.下痢は無処置または整腸剤等の投与で回復可能であり,本剤に重大な安全性所見は認められなかった.さらに,本剤による薬物依存性は認められなかった.以上より,アルコール依存症の断酒治療において心理社会的治療に加えて本剤を使用することで断酒維持効果が高まり,一人でも多くの患者がアルコール依存症からの回復につながることが望まれる.
著者
平野 隆之 奥田 佑子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.134, pp.91-106, 2016-03

生活困窮者自立支援制度の「自由な運用」を推進する方法として,東近江市でのモデル事業の研究で明確となった「実施体制」と「体制整備」との相互関連性を,大津市と高島市のなかにも見出すという研究方法を用いて,かかる推進枠組みの有用性と運用面での活用方法を検討した.その結果,実施体制のなかでも入口の相談強化や出口のプログラム創出には,体制整備として,①庁内・庁外を問わず連携会議の場の創出に加え,その場のマネジメントが重要であること.また,通常の会議とは異なった場の設定も有用であり,②手引きの作成や地域福祉計画等の委員会が相当すること.国のマニュアルにある「資源の開発」は各自治体においてハードルが高いことから,民間組織が先行する取り組みを評価し制度運用に活用することが有効な方法であり,そのための体制整備としては,③資源の開発における公民協働の方式が有効である.実施体制とその体制整備の概念化は,運用上の指針として,また比較分析の枠組みとして有用である.
著者
荻野 祐一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.775-780, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
15

FiRST(Fibromyalgia Rapid Screening Tool)は,線維筋痛症(FM)を効率よく検出するために開発され,6項目の「はい・いいえ」で答える簡単な問診から成る.原著者から許可を得たのちFiRST日本語版を作成し,原著と同様に5項目以上陽性(「はい」と答える)をCut-off値とすると,FiRSTの全項目において,FMと他の慢性痛疾患群との群間比較で有意差を認め,感度は100%,特異度は71.6%であった.FiRSTは,線維筋痛症の実体をよく表していると考えられscreening toolとして有用であるが,diagnosis toolとしては力不足である.