著者
江藤 一洋
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1988

マウス胎仔は胎齢9.5日までは栄養も酸素も胎仔膜を通して拡散によって胎仔に供給されているが、9.5日になると卵黄嚢膜に血液循環が出現し、ガス(O_2、CO_2)交換の重要な場となる。一方、尿膜胎盤(いわゆる胎盤)は胎齢10日以降に血液循環が始まって機能を開始し、ガス交換の第2の場となり、器官形成期が終了する頃から卵黄嚢にとって代わる。これは、器官形成期において卵黄嚢が胎仔の発生にきわめて重要な役割をすることを示している。卵黄嚢膜開放(OYS)は、全胚培養下での胎仔発育に必要な操作であるが、これをC57BL/6マウスの場合、尾体節数8以下で行うと、胎仔全体の発育遅延がみられないにもかかわらず、口唇裂のみ100%誘導されることが当教室の朝田によりみつけられている。OYSを早期に行って数時間経過した培養胎仔の癒合予定部位を走査電子顕微鏡で観察すると、正常発生の上皮同士の接着時にみられる上皮表面の微繊毛の消失が起きず、上皮細胞の表面は球形となり、また、球状物質も多く認められた。現在、羊水(卵黄嚢内)とラッと血清(培養液)の違いが、どうしてこのような細胞レベルの異常を起こしたのかさらに検索を続けている。
著者
林 真紀夫
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究では、挿し木(挿し芽)苗生産における、根・シュートの分化および成長促進のための環境調節法について、光合成量促進の観点から検討した。根・シュートの分化および成長には炭水化物を必要とし、そのため光合成速度を高めることが、挿し木(挿し芽)の成長促進をもたらすと予想されたからである。そこで、一般に栄養繁殖されている植物として、木本性のバラと草本性のキクを供試し、CO_2濃度の異なる条件下で挿し木(挿し芽)を生育させ、CO_2濃度が根の成長に及ぼす影響について、発根促進剤処理の有無との関係で試験した。また、光合成量に影響すると考えられる、挿し穂葉面積と根の成長の関係についても試験した。試験結果概要は以下の通りである。1.CO_2施用と根部の生育CO_2濃度の異なる試験区を設け、生育試験を行った結果では、バラおよびキクともに、挿し木(挿し芽)30日目の根部の重量は、CO_2施用区が無施用区の1.4〜2.0倍となり、CO_2施用により根の重量増加が促進されることが確認された。2.CO_2施用とシュートの生育CO_2施用は、バラおよびキクともに、シュートに対して、根部ほどではないが成長促進効果があることが認められた。3.挿し穂葉面積(小葉枚数)の影響バラを供試して、挿し穂の小葉枚数の影響をみた試験では、挿し穂小葉枚数(葉面積)が増えると、根部の成長は多少促進されるが、シュート成長はむしろ抑制されることが示された。4.発根促進剤の効果発根促進剤処理の有無とCO_2施用の有無を組み合わせた生育試験から、発根促進剤処理によって根部の成長は促進されたが、シュート成長はかなり抑制されることが示された。しかし、CO_2施用を組み合わせることによって、シュート成長の抑制は減少した。以上の結果から、根およびシュート両方の分化および成長にとって、CO_2施用が効果的な環境調節手段であると考えられた。
著者
佐藤 卓己
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

流言蜚語がメディアを通じて世論形成に与えた影響に関する日本現代史を体系的に考察した。その成果が『考える人』に連載した「メディア流言の時代」全8回である。補論を加えて2017年に単行本化する予定である。また、メディア流言史の視点から2014年の「朝日新聞誤報問題」についても、論点整理を行った。「誤報事件の古層」(『図書』2014年12月号・岩波書店)や「誤報のパラダイム転換」(『Journalism』2015年3月号・朝日新聞社)である。理論的な総括は、「デジタル社会における〝歴史〟の効用」『岩波講座 現代 1―現代の現代性』(岩波書店・2015年)で行った。
著者
高橋 亮
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、近年提案されている電力パケット伝送システムについて、ネットワーク化およびその拡大を考慮したシステムデザインとその実装の検討を行った。特に、システム機器プロトタイプを使用し、ループ構造を持つネットワークの実現可能性やシステムの非同期化、マネージメントしている電力を自己の駆動電力とする機構、および、負荷の所望電力を実現する電力パケット生成アルゴリズムの検討を行った。
著者
三上 英司
出版者
山形大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的とするところは、周代から清代に至るまでの期間に使用された諡の贈与基準を通覧するするデータベースの作成と、諡法運用の変化を通史的に明らかにすることにある。まず第一点目のデータベースに関しては基礎資料の収集と分類とを完了した。これらには『春秋』三伝・『国語』・『戦国策』などの周代の贈与基準と贈与方法を伝える文献から、二十四史を中心とした歴史書、筆記に見られる諡法に関する記載、賀〓『諡法』・蘇洵『諡法』・清代の『皇朝諡法考』などの歴代諡法専著、『世本』・『白虎通』・『北堂書鈔』・『初学記』・『経世大典』等に載せられる諡法まで幅広い資料が含まれる。これら資料は、これまで一括して分類・分析されたことが無く、本研究による作成される予定の総合的なデータベースは、世界でも初の試みとなる。現在、調査結果のデータ入力を進めている段階である。また、第二点目の諡法の通史的分析に関しては、以下の諸点に関して資料の収集が終了し、現在、論文執筆の準備を進めている。(1)諡号『霊』の用法変遷(2)孔子の諡号の変遷(3)前漢期における諡法の変化(4)『逸周書』「諡法解」載録諡法の変遷(5)『史記正義』所載「諡法解」の異同諡法の通史的研究において究明が必要なこれらの事柄についての論文は、平成22年度より順次、研究誌に発表して行く。
著者
小川 真理子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、東日本大震災被災地におけるDV被害者支援の現状について、民間シェルター、4つの自治体及び関係諸機関のデータを通して考察した。同被災地では、大震災以降、DV被害が増加し被害の質に変化がみられた。経済的暴力等女性への暴力が複雑化、深刻化している。民間シェルターは、同大震災直後から女性への支援を行ない、被災地都心部だけでなく地方部へも足繁く通い、相談、保護、支援を率先して行なってきたが、これらの取り組みは被災地において孤立化するDV被害者が支援にアクセスできる契機となる。民間と行政が連携をはかり、専門性を身につけた支援者や行政担当者を育成していく等早急な支援体制の構築が求められている。
著者
藤原 葉子 澤田 留美 脊山 洋右
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は市販の植物油脂の品種改良により、脂肪酸組成がオレイン酸を大量に含むようになった場合には、世界的に見ても理想的であると考えられる現在の日本人の脂肪酸の摂取バランスが変化する可能性があることから、多量のオレイン酸を摂取することによる栄養学的な影響と安全性を検討することを目的とした。14年度は、動物実験によるオレイン酸リッチ油の栄養学的な評価を行った。ハイオレイックひまわり油はオレイン酸を約80%とこれまでの植物油脂と比較して多量に含み、リノール酸は7.7%、リノレン酸は0.1%しか含んでいない。オレイン酸を多量に含むオレイン酸リッチ型の油脂を摂取しても、リノール酸によるコレステロール低下作用や、プロスタグランジン合成に関わるアラキドン酸合成量には大きな変化はないものと考えられた。15年度にはリポ蛋白プロファイルがラットよりもヒトに近いモルモットにハイオレイックタイプ油を投与して同様な実験を行った。オレイン酸が多くてもHDLコレステロールの増加はほとんど見られなかったが、抹消組織からコレステロールを引き抜き肝臓へ逆転送する働きを持つ、LCAT活性の増加傾向が認められたが、ラットと同様に大きな変化は認められなかった。また、成人女性14名に一日10gのハイオレイックひまわり油を4週間摂取させ、血中脂質とLDL抗酸化能を測定しオレイン酸リッチ油摂取による影響を検討した。試験前に比べて4週間のオレイン酸リッチタイプの油を摂取した後では、血中コレステロール、血中TGおよびHDLコレステロールはほとんど差が認められなかったが。血漿から調製したLDLの抗酸化能を共役ジエン形成までのラグタイムで比較したところ、ハイオレイックひまわり油摂取後には有意に抗酸化能が高かった。ハイオレイックひまわり油の摂取を止めて2週間後に再度測定したところ、LDL抗酸化能は元のレベルに戻った。オレイン酸を多く含む油の摂取によるHDLコレステロールの増加作用は、日本人では欧米ほどはっきりと見られなかったが、血中LDLの抗酸化能が上がることで、長期摂取を続けると抗動脈硬化作用を持つ可能性があると考えられた。今回の結果からは、必須脂肪酸としてのリノール酸やリノレン酸の必要量はわずかであるので、オレイン酸を多量に摂取しても大きな影響は認められなかったが、さらに長期的な効果やPUFAに特有な生理作用についてはさらに検討する必要がある。
著者
安東 由佳子 小林 敏生 山内 加奈子
出版者
長野県看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究は,ストレス対処方略を身につけないまま,将来の臨床現場での活躍を求められている看護学生に対して,マインドフルネスを活用したストレス対処力の育成を試み,その効果を検証する介入研究である.具体的には,マインドフルネスによる看護学生のストレス対処力育成の効果(心身への影響およびキャリア発達へ及ぼす影響)を明らかにすることを目的としている.初年度は,既存の看護学生を対象としたストレスに関する文献をレビューし,その結果を基盤に看護学生のストレス対処力育成に必要な内容を研究者間で討議した.次年度からの介入に用いるプログラムの枠組みが完成した.
著者
坂本 修 大浦 敏博 植松 貢
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

分岐鎖ケト酸脱水素酵素キナーゼ(BCKDK)欠損症は自閉症にてんかんを合併する。罹患者の血中分岐鎖アミノ酸(バリン、イソロイシン、ロイシン)は著明に低下する。今回の研究は同症の生化学スクリーニング系、遺伝学的診断系の確立を目的とした。1) BCKDK欠損症の遺伝子診断系の確立:従来型のサンガー法によるダイレクトシークエンスによる診断系を確立した。包括的診断系は全遺伝子のエクソーム解析を実施した。2) 生化学的スクリーニング系の確立:新生児マススクリーニング集団(13万件)でロイシン+イソロイシンが45 nmol/L以下が3件あった。再検にて回復していたためいずれも栄養性の低下と考えられた。
著者
小林 和人
出版者
福島県立医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、昆虫フェロモン受容体を利用して、特定のニューロンの活動を興奮性に制御する新規の遺伝学的技術の開発に取り組んだ。チロシン水酸化酵素遺伝子プロモーター制御下に、IR8a/IR84a遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作成した。スライス電気生理、in vivo電気生理において、青斑核(LC)の活動はフェロモンの添加により亢進し、マイクロダイアリシスにおいて、大脳皮質ノルアドレナリン遊離レベルの増加が誘導された。LC活性化は、味覚嫌悪記憶の想起を増強した。以上の結果から、フェロモン依存性イオンチャネルの発現により、特定ニューロンの活動を興奮性に制御することが可能となった。
著者
村田 聡一郎
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大腸癌は食生活の欧米化に伴って近年増加の著しい悪性腫瘍である。切除不能の進行大腸癌の唯一の治療法は化学療法であるが、その費用は高額であり医療費の高騰につながっている。モノテルペンはアロマテラピーで用いられる精油の主成分であり、抗炎症作用、殺菌作用に加えて、いくつかのモノテルペンは抗腫瘍作用を有することが明らかになっている。本研究では1,8-シネオール、テルピネン4オール、リナロールの3つのモノテルペンについてヒト大腸癌細胞株および免疫不全動物への腫瘍移植モデルを用いて検討した。その結果、3つの成分とも大腸癌に対する抗腫瘍効果を有することを明らかにした。
著者
掛屋 弘 宮崎 義継 渋谷 和俊 河野 茂
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

主に血液疾患に発症するムーコル症の早期診断法開発を目的に原因真菌(Rhizopus oryzae)からシグナルシークエンストラップ法にて得られた未知の候補抗原A(23kDa)を検出するELISAキットの測定条件の最適化後、動物実験モデル感染血清中の抗原Aを測定した。その結果、非感染マウスに比較して感染マウス血清中には抗原Aの抗原価が高い傾向が認められた。
著者
野田 百美
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

申請者は中枢神経系における甲状腺ホルモンの機能と、その機能異常による神経・精神症状に注目してきた。血中甲状腺ホルモン(前駆体:T4)はトランスポーターを介して脳内・アストロサイトに取り込まれ、タイプ2脱ヨード酵素(D2)によって活性化型(T3)に変換された後、種々の細胞に作用する(Noda, 2015)。我々は脳内免疫細胞であるミクログリアにもT3の受容体が発現し、顕著な遊走性・貪食性亢進を起こすことを初代培養ミクログリアを用いて報告した(Mori et al., 2015)。一方、成体では、甲状腺機能亢進症モデルマウスを用いてグリア細胞を観察したところ、いずれも、性と週齢によってグリア細胞の形態変化や行動が異なることがわかった(Noda et al, 2016)。臨床的には、甲状腺機能亢進症・低下症は様々な中枢神経系疾患と関連がある他、高齢者の甲状腺機能低下症と、アルツハイマー病発症リスクは深い関係にあり、性差が顕著に存在することも報告されている。しかし、こうした甲状腺機能異常症と神経・グリア連関、性ホルモンと加齢の影響について、その分子基盤は殆ど解明されていない。加齢によって増える甲状腺機能異常は殆どが低下症であり、高齢化社会で増えるウツや認知症には、甲状腺機能低下症が大きく関わっている。従って、ウツや認知症の予防・治療のために、適切な甲状腺機能低下症モデルを作成し、脳の機能形態学的変化、行動や認知に及ぼす影響を検討した。1)グリア細胞とシナプスの三次元構造解析:海馬ニューロンのシナプススパイン(棘)の3次元構造を解析したところ、若齢オスの甲状腺ホルモン亢進症、低下症におけるスパインの形態変化を比較・検討した。2)甲状腺機能低下症がもたらす行動・認知機能変化:甲状腺機能亢進症モデル・低下症における行動変化、記憶と学習、その性差と加齢の影響を検討した。
著者
三村 豊 新井 健一郎 志摩 憲寿 加藤 剛
出版者
総合地球環境学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、世界で最大級のメガ都市の一つ、ジャカルタ都市圏(ジャカルタ、ボゴール、デポック、タンゲラン、ブカシ)を対象に、その形成過程において人為的な開発計画の変遷と具体的な土地利用の変化がどのように関係してきたかを明らかにする。また、世界中に分散するインドネシア・ジャカルタ都市圏の古地図や都市開発計画関連文献、写真・図表資料を収集・精査した上で、それを地理情報システム(GIS)によってデータとして比較可能な形式で統合化する。具体的には、1)開発動向の史的データの整備およびGIS化、2)インドネシアにおける「開発」概念の変遷、3)住宅地域開発の実態把握および都市政策の開発動向を明らかにした。
著者
高橋 信之 上原 万里子 室田 佳恵子
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

動脈硬化性疾患発症リスクとして近年、重要と考えられている食後高脂血症が、高脂肪食による腸管炎症で悪化する可能性について検討したところ、1週間の高脂肪食摂取による食後高脂血症の悪化が観察された。また摂取する脂質構成脂肪酸の違いについて検討したところ、不飽和脂肪酸に比べて飽和脂肪酸で食後高脂血症の悪化が認められた。以上の結果より、高脂肪食摂取、特に飽和脂肪酸の摂取により食後高脂血症が悪化する可能性が示唆された。並行して検討した、抗炎症作用を有する新規食品成分のスクリーニングでは、新たに食品成分Xが同定され、動物レベルにおいても、高脂肪食誘導性の食後高脂血症悪化を改善することが明らかとなった。
著者
前田 稔
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

病院患者図書館および公立図書館の質的調査、全国の病院患者図書館の訪問調査、海外の病院患者図書館の訪問調査、児童養護施設の読書環境調査を通じて、健康に関する情報提供と市 民生活との関連について、各方面から積極的な活動が展開されている現状が明らかになるとと もに、専門的な情報の提供の際には、病院側と市民側との相互協力が課題となることが明らか になった。
著者
岩本 明憲
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

「英国および日本の書籍再販制度研究」の結果として明らかになったことは、日本における書籍再販制度の研究において、日本の商業論・流通論の文脈で議論されてきた流通系列化としての再販売価格維持行為の理論の適用可能性が極めて低く、それゆえに、英国の理論が無批判に、かつ都合よく導入され、制度が今日まで生き延びているということである。返品制の研究についても、基本的には系列化の文脈で議論されていることが多く、書籍の財としての特殊性を厳密に考察しておらず、それゆえ制度の擁護にとって都合の良い理論だけが跋扈している現状を許していることが明らかとなった。
著者
鈴木 修平
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

当該年度においては、代表的なMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)の一つであるオランザピンの効果と、別の薬剤Xについての、癌細胞および癌幹細胞に対する治療効果について検討を行った。まずはじめに、オランザピンについての検討であるが、オランザピンは比較的有害事象の少ない抗精神病薬であり、制吐剤や抗せん妄薬として癌患者へ加速度的に用いられ始まっている。今回の実験を通じて、オランザピンが癌細胞の増殖抑制および細胞死増加という効果を誘導することができ、さらには薬剤耐性を減弱させることができることを突き止めた。また、それらの機序の一つとしてサバイビンの発現減弱が関わっている可能性を指摘することができた。それだけでなく、癌幹細胞の分化誘導効果を示すこともでき、それらをスフィアフォーメーションアッセイやウェスタンブロッティングなどによる未分化マーカーの減弱などを通して明らかにした。それらの成果は国際誌へ掲載され(査読有、Anticancer Res. 2017;37(11):6177-6188.)、早くも国際誌のレビューへ引用される(MSI Roney, et al. Archives of pharmacal research, 2018.)など、多くの注目を集めている。別の薬剤X、X’を用いた実験も並行して行っており、サバイビンを介した機序だけでなく、新たな機序Yを通じた、効果Zという興味深い知見が得られており、研究を継続していくだけでなく、動物実験についても順調に推移しており、さらに継続していきたい。
著者
白岩 恭一
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

末梢血白血球テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数は様々な精神疾患や心理社会的ストレスにより異常を来すため、精神疾患やストレスの病態機序への関連及びバイオマーカーとして注目されているが、精神疾患やストレス負荷の最悪の転帰といえる「自殺」とテロメア・ミトコンドリアDNAについての研究は未だ報告がなかった。H28年度は、自殺者末梢血・死後脳において、テロメア長やミトコンドリアDNAコピー数の異常を見出すことができた。特に若年自殺者におけるテロメア短縮が顕著であった。本成果を学術雑誌Scientific Reportsにて発表した。H29年度は「若年自殺≒若年期における極度のストレス暴露状態」と捉えることにより、幼若期ストレスを負荷したラットをモデル動物として準備し、同ストレスラットの脳・血液試料のテロメア長・ミトコンドリアDNAコピー数を測定した。幼若期ストレスラットの前頭前皮質や海馬のテロメア長は対照群に比して顕著に短縮していた。最終年度は、反復拘束ストレスラットの系でも同様の測定を行い、またテロメラーゼ逆転写酵素の発現についても解析する。また自殺者死後脳・末梢血試料におけるテロメア関連の遺伝子領域(例:テロメラーゼ逆転写酵素、テロメラーゼRNAコンポーネント)のCpGサイト(特にCpGアイランド)についても測定し、非自殺者群との比較を行う。上記データをまとめ、最終的な考察を行う予定である。
著者
亀山 宗彦 佐藤 孝紀 谷本 浩志 小川 浩史 角皆 潤 山下 洋平
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では海表面への落雷に伴う物質循環が起きる可能性を検証した。実際の海水、河川水、純水に純空気及びアルゴン雰囲気下で放電を行うことで実際の落雷を模擬した。本研究では特に窒素酸化物の生成がみられ、放電に伴い硝酸・亜硝酸塩及び亜酸化窒素が生成されていることがわかった。硝酸・亜硝酸は気相中での生成が知られており、本研究でも主な生成は気相中で起こっていたが、液相中でもその生成が起きていることがわかった。また、溶存態・粒子態有機物の生成・分解も確認された。