著者
岡部 悦子
出版者
長崎外国語大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成18年度の研究では、前年度までに行った「外国人交換留学高校生の日本留学に対する印象」(岡部2005)での分析結果をもとに、外国人交換留学生に対するアンケート調査と、インタビュー調査を実施した。アンケートの質問項目は、岡部(2005)で得た、日本留学に対する4つの印象項目(I.異文化を知り、様々な体験をした)、「II.異文化の中で、苦労しながら人間関係を築いた」、「III.留学プログラムの制度・行事を通じての体験」、「IV.留学に対する肯定的な評価」から34問を作成した。インタビューでは、アンケート調査の内容をフォローアップすると同時に、日本語の口頭表現能力も調査をした。その結果、すべての留学生が「留学してよかった」「学校に行ってよかった」「ホームステイをしてよかった」と留学体験とプログラムを肯定的に評価していた。差が見られたのは、「日本の習慣に驚きましたが、だんだん慣れました」、「日本にすんで、日本の社会は悪いと思いました」(「II.異文化の中で、苦労しながら人間関係を築いた」に関する質問項目)、「ことばがわからなくて大変でした」(「III.留学プログラムの制度・行事を通じての体験」に関する項目)であった。インタビュー調査で人間関係・言語面で苦労した点について尋ねると、「日本ではいつも集団行動をしなければならない」「みんな同じ意見や行動をしている」といった集団性、同一性に対する違和感、「自分の日本語の意図が誤解されてしまう」「同じ高校生なのに、先輩・後輩で言葉を使い分けなければならない」という、意図の解釈の違いや敬語に対する違和感が聞かれた。これらの原因は、日本語能力というよりは、社会や言語行動に対する価値観に起因する面が大きいと思われる。交換留学高校生の受け入れにあたっては、日本社会における「前提」を丁寧に説明し、価値観の<摺り合せ>をしていくことが必要だと考える。
著者
山本 宏樹 Hiroki YAMAMOTO 一橋大学大学院 Graduate School Hitotsubashi University
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 = The journal of educational sociology (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.83, pp.129-148, 2008-12-15

Researchers seem to agree unanimously on the unreliability of official statistics on futoko children (school refusers), making it difficult to uncover the social factors behind the phenomenon. Though many researchers have questioned whether the official statistics can explain the reality of futoko, there has been no verification of the reliability and validity of the statistics. The aim of this study is to examine this issue and formulate an alternative plan for statistics. To achieve this aim, the author used the "School Basic Survey" from 1966 to 2006 and examined futoko rates within the "Long absentee" data from 47 prefectures, which is divided into subclasses by the following reasons: "Illness," "Economic reason," "Futoko" and "Others." The actual differences between areas were then analyzed using a five-number summary. As a result, the two following facts were clarified. Firstly, it is impossible to compare the data on "Futoko," "Illness" and "Others" between prefectures because of differences in the investigation methods. From the beginning, the classification standards differ from prefecture to prefecture, and this leads to local differences. Secondly, the method for sorting data was changed in 1998, comparisons across time periods invalid. In conclusion, the author recommends using data on "Long absentees" as a measure for the futoko phenomenon because the official statistics on futoko have already lost validity. Statistics on long absentees are much better than those on futoko to show the reality of the phenomenon. Finally, the author discusses both the advantages and disadvantages of using data on "Long absentees," confirms the existence of differences among regions at the prefectural level for long absentees, and considers future prospects and tasks.
著者
石井 昇 松田 均 中山 伸一 鎌江 伊三夫 中村 雅彦
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

【研究目的】日常診療、研究等に多忙な医療従事者や医学生等に対して、その職種やレベル別に応じた適切な教育効果が期待されるコンピューターシミュレーションを用いた災害医学、災害医療の教育システムの開発を目指したもので、特に自己学習が可能なゲーム感覚で学習が継続できるプログラムを作成する。【研究実施計画】平成12年度は地震時の災害医療における国内外の関連資料の収集・分析と、コンピューターへのデータ収録、さらに地震災害の初動期災害医療対応のシナリオ作成に必要な画像の収録・編集等を行った。平成13年度は、災害発生初期における医療対応での問題点等の抽出を行い、災害医療の実際等に基づいたシナリオ作成と災害発生後の状況を疑似体験できる災害現場を仮想空間にてシミュレーションできる3次元モデルプログラムの開発をコンピューターシミュレーションソフト開発会社等との協力のもとに着手した。平成14年度は、コンピューターソフト関連の技術者等の協力を得てコンピューターグラフィック化を含めたシナリオ作成と災害発生現場を擬似体験できる災害現場の3次元仮想空間でのシミュレーションモデル作成を行った。【本研究によって得られた新たな研究等の成果】地震災害想定モデル作成の複雑さと困難さに直面し、本研究期間内において地震災害想定シミュレーションシナリオ作成の完成に到達することは出来なかったが、コンピューターシミュレーションソフト開発会社の協力が得て、災害想定モデルのシナリオ作成の第一段階として、工場爆発想定の3次元の災害現場の仮想空間モデルを作成し、この仮想空間モデルを活用した災害現場でのトリアージ訓練シミュレーション教育システムのプロトタイプを作成中で、本年4月に完成した。今後地震災害想定モデルの作成に向けての研究を継続する予定である。
著者
猿田 佳那子
出版者
広島女学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究の主たる調査対象は、日本占領時に収集された瀬川幸吉コレクションと、台湾総督府が中心となって残した記録類である。台湾では、17世紀以来支配勢力の興亡がくりかえされたが、1895年にはじまる日本占領期間中は、山岳地域や離島に住む先住民をも統治下においた。現時点では本研究の概要をまとめるには至っていないが、外界との接触による影響のうち、特筆すべきものをつぎにあげる。1.素材の移入:交易が開放的である民族ほど、織技の衰退が著しい。首狩の風習を残していたタイヤル族や離島に住むヤミ族では、自生の繊維を用いた剛直な織物がもちいられた。パイワン族やアミ族では交易によって木綿、モスリンなどがもたらされたことがわかる。これは肌触りがなめらかで発色もよいという理由から、日本でも同様な経過をたどったことと対比できる。また、独自の染色技術の発達がみられず、一枚の布のうち、赤は毛、青は綿、白は麻を交織している物が少なくない。これらは、毛布、藍木綿を交易によって入手し、解して自生の麻に混ぜて織った物とみられる。2.衣服の受容:家族や地域住民の集合写真をみると、子供は日本のキモノらしいものを着用している例が散見する。浴衣が支給されたり、日本から派遣された公務員の妻たちが、手縫いやミシン縫いを教えたという記録もある。男性は立襟の軍服風のものや帽子を着用している。当時の彼らが持っていた日本服観、漢満族服観、洋服観はどのようなものであったろうか。3.身体変工:満族の習慣であるところの弁髪を採用している肖像写真が目を引く。入れ墨の習慣もあったが、入れ墨が一時的な加工であるのに対して、頭髪は自然にまかせれば弁髪状態を保ち得ないのであるから、継続的にこうした理髪を続けていたことになる。
著者
布川 日佐史
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

ドイツにおける最低生活保障制度は、「活性化」をキーワードに、2005年1月に大きく改革された。すなわち、就労可能な人の「活性化」のための「求職者に対する基礎保障(社会法典II)」が新設され、就労不能な人への「社会扶助(社会法典XII)」との二本立てに再編されたのである。これまで失業保険受給期間を過ぎた要扶助失業者の生活保障をしてきた「失業扶助」は廃止された。また、最後のセーフティネットである「社会扶助」から、就労可能な受給者及びその世帯員が切り出された。本研究は、ドイツ各地の関連機関や研究者へのヒアリングをもとに、2003年度は「求職者に対する基礎保障法案」が準備され、2003年12月に連邦議会で採択される過程を明らかにした。2004年度においては新制度制度導入を目前に控えた準備状況を、また、2005年度には新制度の実施状況を明らかにした。とりわけドイツにおける制度改革においてポイントとなった、就労可能な要扶助者に対する最低生活保障の給付要件、自立支援プログラムの内容、実施体制、自治体財源保障、ケースマネジメント、就労インセンティブと忌避者への制裁など、受給者の活性化に関わる点に焦点を当て、検討を深めた。これらの点は、日本の生活保護における自立支援プログラムの実施に伴う課題と共通する論点である。ドイツにおける政策展開と比較対照することによって、日本の生活保護制度における自立支援施策に関わる論点を豊富にでき、生活保護に関する政策提言の内容を充実させることができた。
著者
松田 直樹 二又 政之
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

時間分解ITO-SOWG分光法を開発し、ITO電極上にチトクロームcを吸着させ、ITO電極にパルスポテンシャルステップを印加し、酸化体と還元体を交互に生成させながら2ミリ秒ごとに吸収スペクトルの連続測定を行った。得られた吸収スペクトルでの時間依存吸収強度変化から時定数を求めたところ、チトクロームcとITO電極間の電子移動反応は10ミリ秒程度で終了しており、速度定数はk=100[s^<-1>]と概算された。
著者
王 文純 石崎 和宏
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学 : 美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.465-476, 2009-03-21

本研究の目的は,1)鑑賞スキルの熟達化は学習によってどのくらい促されるかの検証,2)習得した鑑賞スキルが作品探究の方策として機能するかについての検証,3)鑑賞スキルの熟達化における転移のかかわりの明確化である。方法は,大学生への学習プログラム(5ユニット)を開発し,その調査結果の量的分析と事例分析による考察である。その結果,学習プログラムによる鑑賞スキルの熟達化は,熟達化の三つの指標値の有意な高まりで示された。また,鑑賞スキルは,その学習後に支援がなくても能動的に活用され,作品を探究する方策としての機能が確認された。そして,鑑賞スキルの熟達化か認められた場合,全体として鑑賞スキルの転移もうまくいっていた。ただし,学習者の資質に応じて転移の詳細は事例ごとに異なるものであった。
著者
青柳 にし紀 山本 もと子
出版者
信州大学留学生センター紀要
雑誌
信州大学留学生センター紀要 (ISSN:13467433)
巻号頁・発行日
no.7, pp.45-62, 2006-03
被引用文献数
1

信州大学留学生センター研修コース、第12期授業「教室外活動」の実際を報告する。本授業はプロジェクトワークの活動を中心に組み立て、学習者の主体性を重視しながら実社会の日本人や生の日本語に触れることを目的とした授業である。第12期(2005年前期)「教室外活動」(水曜日午後)では試験的に授業前アンケートを実施し、学習者が日本文化の体験を多く望んでいたことから、日本文化の体験を中心に授業を組み立ててみた。さらに、学習者自身が授業の企画に携わり、教師の指導を受けながらも自律的に見学場所を決定し、実際に見学先の日本人と実行上の交渉に当たるなどの活動を取り入れた。その結果、学習者にやりがいを与えることができた反面、時間的、経済的負担が大きいなどの問題も生じた。授業前アンケートの結果を重視しすぎたとの反省から、今後は教師から提示する活動と学習者の希望を取り入れる活動とを分け、両者に検討を加えて授業を組み立てるべきだと考える。
著者
小川 さやか
出版者
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
雑誌
アジア・アフリカ地域研究 (ISSN:13462466)
巻号頁・発行日
no.6, pp.579-599, 2006

This paper analyzes how the unique business practices of small-scale traders dealing in second-hand clothes have changed under the recent socio-economic transformation in Tanzania. The business practices described here involve a kind of credit transaction called mali kauli, which is conducted by middlemen and micro-scale retailers. This transaction conferred many economic benefi ts to both kinds of merchants when I conducted research in 2001-02. However, middlemen and retailers were fi nding it diffi cult to sustain this type of transaction in 2003-05, when I conducted further research, because of dramatic socio-economic structural changes taking place in Tanzania. When their business reached this critical situation, the problems faced by both middlemen and retailers was not how they should respond to situational change by individual action or by collective action but how they should reconstruct their personal economic relations by using the logic of reciprocity. In conclusion, I argue that the business practices have changed through the manipulation of the power relationship between middleman and retailers, who are trying to be self-dependent and social at the same time.