2 0 0 0 OA 大諸禮集 17巻

著者
小笠原貞慶 傳
出版者
巻号頁・発行日
vol.[1],
著者
田中 良英
雑誌
宮城教育大学紀要 = BULLETIN OF MIYAGI UNIVERSITY OF EDUCATION
巻号頁・発行日
vol.56, pp.121-137, 2022-01-31

近世ヨーロッパ世界においては、国家的枠組の強化に伴い、諸勢力間の軍事衝突やその危険性が増加したことにより、軍事的な専門性をもって国家に貢献する個人・家系としての「軍事ハウスホールド」の意義が一層高まることになった。その中には、軍事上の活躍を契機に社会的上昇を果たし、官界での影響力を獲得する者も存在したため、彼らの実態を解明することは、近世国家のエリート運用や権力構造全般を理解する上でも必須の課題となる。本稿は将来的な比較史的考察の材料として、18世紀ロシアにおけるピョートル1世期の軍事ハウスホールド、特に1722年時点で陸軍将官であった48名を対象に、その内訳や傾向性の追究を試みた。17世紀以降の軍事改革を受けて、当時のロシアでは非ロシア人の将官も全体の3割強を占めていたが、中央及び地方行政への関与、新首都サンクト=ペテルブルクへの定着度などについては、ロシア人将官との間に一定の差異も見られた。ただし個人差も大きく、所領の有無、親族関係など、さらに個人情報を集積して具体的に検討していく必要がある。
著者
和田 干蔵
出版者
同文館
雑誌
教育畫報
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.121-124, 1925-03-01
著者
小松原 宏子
出版者
多摩大学グローバルスタディーズ学部
雑誌
紀要 = Bulletin (ISSN:18838480)
巻号頁・発行日
no.13, pp.31-52, 2021-03-31

2014 年、学研の「10 歳までに読みたい世界名作」シリーズ出版において、19 世紀米文学の名作『若草物語』(ルイザ・メイ・オルコット作)の編訳をする機会に恵まれた。Little Women という原題のこの物語は、日本ではA tale of young grass という意味の、『若草物語』というタイトルで翻訳されている。1934 年の矢田津世子の抄訳出版と、キャサリン・ヘップバーン主演のキューカー監督作品である映画(1933 年アメリカ)の公開時に吉屋信子によって選ばれた、と言われるこの邦題について考察し、命名の理由についての仮説を立ててみた。
著者
本間 りえ
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.29-37, 2016

私の息子は6歳のときに突然、ALD副腎白質ジストロフィーという病気を発症しました。宣告を受けたとき、私の人生はここで終わったと思いました。「まさかそんなはずはない」、「どうして私の光太郎が」という怒りの気持ちもありましたが、それから、20年が経ちました(図1)。発症した当初は、この子は明日も生きられるだろうかと毎日が不安な状態でしたが、苦しいときも、私に100%の信頼を寄せる息子の笑顔や泣き顔を見ていると、「この子とともに幸せになるために、私は今ここにいる」、「そのために自分にできることを精一杯やろう」と思うようになったのです。ALD副腎白質ジストロフィーという病気は、X染色体の劣性遺伝病であり、ほとんどがお母さんからの遺伝で発症します。そして、ほとんどが男性患者です。うちの息子は6歳で発症しましたが、成人になってから発症する方もいます。結婚を目前に控えて発症した男性や、お子さんが二人もいて、働き盛りのときに発症した男性もいらっしゃいます。対処法としては、発症前あるいは発症早期に造血幹細胞移植を行うことが有効とされていますが、20年前にうちの息子が移植手術を受けたときは、国内でほぼ初の事例でした。その後、たくさんの症例が出てきており、最近では骨髄移植のほかに、臍帯血移植もいい報告が出てきています。早く見つけて早く手術や治療ができれば、普通の生活を送ることも可能です。最近は成人になってから発症した方の移植も始められていて、社会復帰している方もいます。フランスでは遺伝子治療の成功例があります。厚生労働省難治性疾患克服研究事業になっていますが、未だ病気のなりたちも治療法もよくわかっていない難病です。3歳のALD発症前のころの光太郎は釣りが大好きな普通の男の子で、このまますくすく育ってくれるものだと信じて疑いませんでした(図2)。ところが、幼稚園に入り年長になってから、おかしな行動が増えてきたのです。まず「幼稚園に行きたくない。バスに乗れない。お友達とうまく遊べない」と言い出しました。医療に従事していると、こういう話を聞いてすぐ病気を疑うのでしょうが、普通の母親はそうはいきません。私が最初に疑ったのはいじめでした。すぐに幼稚園の担任の先生に相談をしたのですが、運が悪く私が上の子を小学校受験させていたせいで、教育熱心でうるさい母親だと真剣に取り合ってもらえませんでした。しかし、その後も光太郎の様子は変わりません。あるとき思い切って、幼稚園にこっそり見に行ったんです。でも、息子はニコニコ遊んでいるだけで、いじめられている気配もない。「先生は何もおっしゃらないし、これは私の思い違いだったんだろうか」と思い、また時間が経ってしまいます。その間も、近所の開業医の先生や児童館の先生にも相談したのですが、これといった原因が見つからず、いたずらに時間が経ってしまいました。あるとき、光太郎が上履きのまま幼稚園バスから降りて来たことがありました。それを見て「光太郎、どうしたの。それ、上履きだよ」とたずねると、息子は「お母さん、僕の靴がないの」と言ったんです。今思えば、そのときすでに息子の脳のあちこちに異変が起きていて、自分の靴の場所がわからなくなっていたのですね。でも、そのときもまさかその裏にそんな大変な病気が隠されているとは、思いもよりませんでした。確定診断の日のことは今でも鮮明に覚えています。主人もいておばあちゃんも隣にいました。光太郎は私の腕の中にいました。たくさんの先生に囲まれて、「光太郎くんはALDという病気です。現在は治療法がありません。このまま放っておくと1〜2年で植物人間状態か、息をすることもできなくなるでしょう。何もすることがありません。残念です」と言われました。主人はショックのあまり病室から出て行ってしまいました。光太郎を腕に抱いた私は泣くに泣けません。必死に笑顔を作って、「大丈夫だよ、お母さんが光太郎を守るからね」と言い聞かせていました。そして、「世界中の医療を調べたら、何か治療法はないんでしょうか」と尋ねたのです。すると、「ヨーロッパで骨髄移植の成功事例があります。お姉ちゃんの骨髄をもらって、お姉ちゃん以上にIQが良くなった例があります」と教えてくれました。ただ、骨髄移植は合う骨髄保有者がいなければ行うことはできません。我が家の場合、幸運にも当時9歳の娘の骨髄が合いまして、迷いなく骨髄移植を受けることを決めました。現在の骨髄移植ではまだ抗がん剤を使って、健康な細胞も叩いて免疫を低下させないと、自分以外の細胞を受け入れることができません。光太郎は、今は使われていないブスルファンという強い薬を使って、免疫を落としました。通常、白血病患者の場合は3クールぐらいかけて数値を落としていくところを、光太郎はたった1週間で自らの免疫力を限界まで下げ、姉の骨髄を受け入れたのです(図3)。これは手術してから20カ月後の写真です(図4)。在宅介護にもたくさんの反対がありました。しかし、今もお世話になっている東京小児療育病院の舟橋先生に出逢って、在宅の概念がまったく変わり、もしかしたらという希望を持って少しずつやってきました。当時、障害を持つ家族に対する偏見や差別も感じました。光太郎を連れて、車いすで散歩に出ると、近所の方の視線がとても気になって、しばらく外出もできませんでした。しかし、最近になってようやくその偏見や差別の心が私の中にあることに気がついたのです。今思えば、あの視線は気になって何かお手伝いしたいと思っていたのかもしれません。子どもは一番はじめに親からの刷り込みを受けます。私がそんな偏見を持っていたせいで、自分が自分を殻に閉じ込め、息子の大切な外出の機会を奪ってしまっていたんですね。ALDの子どもたちはとても緊張しています。私の息子もいつも「はぁはぁ」と息をあげていましたし、まるで全身にシャワーを浴びたかのように汗をビッショリかき、体を一日中硬直させていました。理学療法士の訓練を受けに病院に行ったとき、隣の病室に体が"く"の字に固まってしまっているお子さんがいたのですが、それを指して理学療法士の方は「お母さん、残念だけど、一年経ったら光ちゃんもああなります」、「もうやることがありません」と言いました。それを聞いた私は、なんとかカラダを"く"の字にしない方法はないかと、海外の訓練方法や障害者教育について一生懸命調べたところ、イギリスにブレインウェーブという訓練法があることを知りました。すぐに、その方法を教えてもらおうと、旅費を出してイギリスからスタッフに来てもらったのですが、それを行うには、私のほかに3人の人手が必要なことがわかったのです。その瞬間、私はすぐに小学校の校長先生に電話していました。手伝ってくれる地域のボランティアのスタッフを募るためです。最初はわずかな人数しか集まりませんでしたが、介護系の大学をはじめ、さまざまなところにポスターを貼ったり、地域のお母さんたちの口コミで話が伝わったりして、今ではたくさんのボランティアさんが手伝ってくださっています。この写真は在宅医療の生活風景です(図5、6)。光太郎のベッドの横にある腹臥位のクッションに光太郎を抱っこしてごろんとひっくり返すのが、私の日課です。これを毎日5回やります。今、光太郎は身長163センチ、体重は40kgほどですから、これはなかなかの重労働です。それから一日8回の注入をしています。ちなみに私はこのベッドで光太郎と一緒に毎晩寝ています。これは医療的ケアでも医療行為でもなんでもなく、これがないと生きていけないという我が家の生活行為なのです。時間はかかっていましたが、光太郎はまだ口からご飯を食べていた時期がありました。母親にとって、子どもが自分の作ったご飯を食べてくれることは大きな喜びです。私も一生懸命ご飯を作っていましたが、あるとき自分が食べさせた食事が原因で、光太郎が肺炎になってしまったことがありました。そのことで私は自分を責め、ついに私自身が鬱状態に陥りました。「私は何のために生まれてきたんだろう」、「こんなに一生懸命やっているのに、光太郎はやっぱりよくならない」と毎日ため息ばかり。涙が出て、大好きな光太郎のそばにいることができません。そんなとき、私が今度は交通事故に遭ってしまったのです。奇跡的に無傷でベッドで目が覚めたとき、私はもう一度"いのち"をもらったと思いました。それから、何とか立ち直ろうと生まれて初めて心療内科に行きました。そこで診ていただいた先生がとても素敵な方で、初対面で「あなたは鬱じゃない。燃え尽き症候群だよ。今までよく頑張ったね。まずは自分の時間を作りなさい」と言ってくださいました。その後、舟橋先生の勧めで、東京小児療育病院のレスパイトケアにお世話になりました。レスパイトケアを利用したのはこのときが初めてでした。舟橋先生には本当に感謝しています。(以降はPDFを参照ください)

2 0 0 0 OA 弘法大師全集

著者
祖風宣揚会 編
出版者
吉川弘文館[ほか]
巻号頁・発行日
vol.巻5 巻6 巻7, 1911
著者
月田 佳寿美 宮崎 徳子 長谷川 智子 白川 かおる 佐藤 ゆかり 中垣 雅美 南部 望 渡辺 裕子
雑誌
福井医科大学研究雑誌 (ISSN:13453890)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1-2, pp.31-38, 2002-12-20

Purpose: Skin is a defence against disease. In addition skin health affects a patient's comfort level and self image; therefore, maximizing patient dermatological health may significantly enhance the patient recovery process. The purpose of this research is to determine the effect of three methods of skin cleansing on skin pH, moisturization, and four scales of skin physical condition. Methods: Twenty healthy females (aged 19 to 23) without history of skin disorders were involved in the study. Subjects' arms were cleansed in three methods, soapless, soaped towel, and sudsy towel. After cleansing, pH, moisturization, and physical condition (roughness, scaling, smoothness, and furrowing) of the skin were measured. Statistical analysis was done by paired t-test and Pearson's correlation. Result: All measurements in the soapless towel trial revealed no significant changes. In the sudsy towel trial, smoothness and moisturization were significantly increased (p.<.05). After cleansing with soap three times by hot towel in both soaped towel and sudsy towel trials, skin pH decreased, but it took one hour to return to the pre-trial level. Discussion: Soapless cleansing may alter skin condition the least among the three methods. Clinically, this method may be useful when skin oil is to be maintained. For the purpose of increasing skin smoothness, soap might be applied best in sudsy form. In addition, both soap application methods increased skin pH for at least one hour after the trial. Therefore, skin assessment following soap application by health providers may be indicated.
著者
清田 和也 武井 秀文 熊谷 渉 田中 大 浜谷 学
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.729-734, 2018-12-31 (Released:2018-12-31)
参考文献数
10

目的:救急搬送状況の改善のため,迅速かつ適切な救急搬送体制の確立に向けた施策を実施した。方法:①救急現場におけるタブレット端末を利用した医療機関検索,②搬送困難事案受入医療機関の確保,③MC医師による搬送先コーディネート,など。結果:重症以上傷病者搬送事案では,医療機関への照会回数4回以上の割合が平成23年の10.6%から,平成28年は4.1%と有意に減少した。また,平成29年に,搬送困難事案受入医療機関に要請が可能となる基準に達した事案のうち6号基準を適用して要請を行った件数は23.7%で,要請したうちの80.2%が受け入れられ,重症以上傷病者搬送事案では,現場滞在時間30分以上の割合が平成24年の16.7%から,平成28年は13.3%と有意に減少した。考察:新たな救急医療情報システムでは,救急現場において医療機関の受入状況がリアルタイムで確認でき,医療機関選定の有効なツールとなった。結語:今後,データの分析を進め,救急活動の質の向上とさらなる救急搬送受入体制の改善に役立てていく。
著者
中西 朋子 小切間 美保 林 芙美 北島 幸枝 大久保 公美 飯田 綾香 鈴木 志保子
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.77, no.Supplement, pp.S44-S56, 2019-12-01 (Released:2020-03-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

【目的】本研究は,管理栄養士のめざす姿とその実現に向けて求められる資質・能力,さらに具現化するために必要となる組織・環境・教育について,現役管理栄養士の視点から検討することを目的とした。【方法】対象者は公益社団法人日本栄養士会会員の現役管理栄養士203名とし,自記式質問紙法にて調査を行った。解析対象者は管理栄養士のめざす姿に関する設問に回答の得られた200名とした。自由記述で得られた管理栄養士のめざす姿および求められる資質・能力,組織・環境・教育に対する回答は質的に分析を行った。【結果】管理栄養士のめざす姿は62のカテゴリーが示され,①エビデンスに基づいた知識を有して多職種と連携できること,②対象者に寄り添った支援ができること,③専門的な知識を基に栄養指導を行うことの3項目に大別された。その実現のために求められる資質・能力は「コミュニケーションスキル」「専門知識」「情報収集能力・情報リテラシー」「プレゼンテーション力」が多く,そのために必要な組織・環境・教育は「研修や学会に参加しやすい体制の充実」「多職種連携ができる教育体制」「継続的に学ぶ機会の提供」「養成施設における現場で活用できるような教育」が多かった。【結論】本研究から,現役管理栄養士のめざす姿は3つに集約され,その実現に向けた資質・能力が示されるとともに,組織・環境・教育の整備の必要性が検討できた。
著者
高井 正三
出版者
富山大学総合情報基盤センター
雑誌
富山大学総合情報基盤センター広報 富山大学総合情報基盤センター 編 (ISSN:21883181)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.28-34, 2016

ビジネスや医療,金融・保険,通信・放送,流通・小売,製造,メディア,公共・公益などにおけるビッグデータ活用事例は多々あるが,教育におけるビッグデータ活用事例が殆どなかった。しかし,e-Learningなどの分野で,最近は徐々にみられるようになってきた。また,IBMのWATSONというHPCが登場し,米国のジョパディというクイズ番組で二人のクイズ王に勝ってから,Cognitive Computing(認知計算)という分野に応用され,経験を通じてシステムが学習し,相関関係を見つけて仮説を立てたり,成果から学習したり,新たな可能性が出てきている。本稿では,今後のビッグデータ活用の方向と,IoT,機械学習など,Cognitive Computing の応用が期待される分野を観て,ビッグデータがいかにして世界を変えていくかを提言してみたい。
著者
清 ルミ
出版者
神田外語大学
雑誌
異文化コミュニケ-ション研究 (ISSN:09153446)
巻号頁・発行日
no.16, pp.1-23, 2004

研究論文ArticleThis study aims to ascertain whether the actual Japanese way of speaking is reflected in Japanese language textbooks and to consider whether Japanese teachers recognize actual Japanese way of speaking, focusing on the phrase "naide kudasai". The comparative pilot research involving Japanese language teachers and persons concerned with medical care led me to frame two hypotheses regarding use of the phrase 'naide kudasai'; the first is that the contents of Japanese textbooks are "imprinted" upon the consciousness of Japanese language teachers, the second is that the real Japanese way of speaking is not evident in the contents of Japanese textbooks. The following surveys and analyses were conducted in order to examine the hypotheses: 1) A comparative survey concerning the usage of 'naide kudasai' among 100 Japanese language teachers in Tokyo and 100 non-teachers drawn from all other professional and non-professional sectors of society in Tokyo. 2) Analyses of the phrase 'naide kudasai' in the top 8 Japanese language textbooks. 3) Analyses of the usage of 'naide kudasai' in; 4 episodes of the famous television drama: "Kita no kuni kara", and in 7 of the "Otoko wa tsurai yo" film series during the 1990s. Both of these dramas have been long term successes with Japanese audiences. Comparative study of the results of the survey and analyses led to the identification of 9 different functions of the phrase 'naide kudasai'. There were clear parallels between the functions that the phrase would most commonly fulfill in the drama and film and in the usage by non-teachers. In contrast when used by teachers and in textbooks, the phrase tended to fulfill different function, mostly of a less emotional nature. The study proved the first hypothesis possible and the second hypothesis valid. This paper suggested that neither the contents of Japanese language textbooks, nor the use of the phrase by Japanese language teachers, are based on the concept of communicative competence.
著者
山田 不二子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.206, 2015

特定非営利活動法人子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク(CMPN)は、平成27(2015)年2月7日に『子どもの権利擁護センターかながわ(Children's Advocacy Center Kanagawa:CACかながわ)』を開設し、虐待・ネグレクト等の人権侵害を受けたり、DV・犯罪等の目撃をした子どもたちを毎週水曜日の午後に受け入れて、『司法面接』と『系統的全身診察』を提供している。『CACかながわ』を開設する前も、児童相談所や警察・検察等の依頼先に出張して行って出前型で『司法面接』をしたり、演者が所属する『医療法人社団三彦会 山田内科胃腸科クリニック』に児童相談所や警察・検察がお子さんを連れてきてくれて『系統的全身診察』を実施したりしていた。 そのような中、常々感じてきたことは、「虐待・ネグレクトの被害を受ける子どもたちの多くが障害を持つ子どもたちである」という事実である。 では、なぜ、障害を持つお子さんは虐待・ネグレクトを受けやすいのであろうか? 「障害があるために手がかかる(養育者の負担)」「言うことを聞かない・理解してくれない(しつけや指導の難しさ)」「ほかの子どもにできることができない(「子どもが怠け者・わがままなせい」と養育者に誤解されやすい)」といった理由で、養育者が不適切な対応を誘発されやすいというメカニズムがある。 しかし、それだけではない。大人が障害児の脆弱性につけ込むというメカニズムが働くこともある。「加害者に抵抗できない」「加害者に刃向かわない」「自分が受けた被害を訴えない」「被害を訴えても、子どもの証言をほかの人に信じてもらえない」。このような障害児の特性に乗じて、加害者の『支配欲』を満たすために、もしくは、加害者の『欲求のはけ口』として、子どもたちは虐待される。 注意欠陥多動性障害(AD/HD)を持つある中学生が実母のボーイフレンドに暴力を受けて全身に多発挫傷を負わされた。中学校教諭に連れられて演者が勤める医療機関を受診したその子に「あなたのことを、子どもを守るお仕事をしている児童相談所の人にお話ししないといけないの」と伝えたら、「お父さん(母のボーイフレンド)は僕をいい子にしようとして叱っただけなんだ。僕さえ、お父さんの言うとおりにちゃんと頑張れば、お父さんは怒らないし、お母さんも弟も妹も楽しく暮らせるんだ。僕、頑張るから、児童相談所に言わないで」と懇願された。しかし、「どんな理由があれ、大人が子どもを傷つける言い訳にはならない」ことと「私にはあなたの安全を守るために行動を取る義務がある」ことを伝えて、児童相談所に通告し、一時保護してもらった。本児が希望する通りに母やきょうだいの元に帰ることはできなかったが、本児の障害をよく理解してくれる母方祖父に引き取られ、今は、調理師を目指して頑張っている。 障害児の生活の場は家庭にかぎらない。したがって、加害者は保護者にかぎらない。施設内虐待も多いのである。児童福祉法が改正されて、平成21(2009)年4月より、『施設職員等による被措置児童等虐待』の届出・通告に基づき、都道府県市等が調査・公表することが法定化された。 施設内虐待があってはならないということに異を唱えるものはいないであろう。にもかかわらず、施設内虐待が後を絶たないのはなぜなのか? 人間の心の奥に潜む狂気のなせるわざと片付けてしまってよいのだろうか? それとも、誰もが加害者になり得る致し方のないものなのであろうか? 加害者心理を解き明かすことは容易ではないが、自分よりも弱い者をいじめたり、虐げたり、危害を加えたりして、優越感に浸りたいという欲求は誰の心にも潜む。誰もが虐待という誘惑にさらされていることを自覚する必要がある。略歴1986年、東京医科歯科大学医学部卒。医学博士。1990年、夫とともに山田内科胃腸科クリニックを開業し、副院長に就任。1998年、子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク(CMPN)を設立し、事務局長に就任。2001年、CMPNの法人化に伴い、理事長に就任。他に、特定非営利活動法人かながわ子ども虐待ネグレクト専門家協会(KaPSANC)副理事長。特定非営利活動法人日本子どもの虐待防止民間ネットワーク(JCAPCNet)常務理事。日本子ども虐待防止学会(JaSPCAN)理事。日本子ども虐待医学会(JaMSCAN)理事兼事務局長。主要著書:「よくわかる健康心理学」(ミネルヴァ書房,2012年,分担執筆)、「子ども虐待への挑戦 医療、福祉、心理、司法の連携を目指して」(誠信書房,2013年,分担執筆)、「プラクティカルガイド 子どもの性虐待に関する医学的評価 原著第3版」(診断と治療社,2013年,分担監訳)