著者
香月 孝史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.489-506, 2011
被引用文献数
1

スターシステムという性質は,通俗的,非芸術的な要素として認知されることが多い.今日,一般に高級文化としての社会的位置を確立している歌舞伎であるが,一方でスターシステム的性質を内包しているとしばしば表象される.本稿は,その「通俗」性と高級文化としての威信が歌舞伎においていかに共存しうるのかを明らかにする.これは,大衆文化やポピュラー文化の側から問い直しが多く行われている,文化の高級性/低級性というテーマに関し,すでに高級と認知されている文化の側から,その位置づけが何に根拠づけられているのかを問い直す試みともなる.<br>かつては低俗として糾弾された歌舞伎のスターシステムは,1980年代にはほとんど批判を受けなくなる.その風潮と前後して歌舞伎の高級文化としてのイメージは強固なものとなるが,そのイメージ形成を主導したのは歌舞伎とは馴染みの薄い若年層の眼差しであった.そうした層によって歌舞伎は,あらかじめ高尚な地位にある伝統芸能として認知され,その演劇的性質はあらためて価値判断を受けることがない.このとき歌舞伎の「高尚」性はその論拠が問われぬまま,きわめてイマジナリーな性質のものとしてある.今日,その内容にスターシステム的性質が依然言及されながらも,それは歌舞伎が高級文化であるという「ブランド」が所与である前提のうえでしか看取されないため,スターシステムという語が一般に帯びる低級性に直結されることはない.
著者
舛田 弘子
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-11, 2011-06-18 (Released:2017-10-10)

本研究の目的は,短い文章を提示し,それへの結論の選択肢及び結論の自由記述によってMRS的読解の生起を確認し,加えて適切な結論に対する研究参加者の判断との関連を検討することである。大学生55名を対象に,文章の読解と選択肢による回答,および結論の自由記述を行ってもらった。結果として,以下のことがわかった。即ち,(1)100字程度の短い文章においても,不適切な道徳的読解(MRS的読解)が生じる。(2)結論を記述する方が選択肢によって選ぶよりもMRSに親和的になりやすい傾向がある。(3)「自分の意見を,興味深い形で提示する」ということ,加えて「結論には文章から学べることを書くべき」という意識,あるいは「教訓を読み取れること」が,良い結論としての条件であると捉えられている事が推測される。
著者
唐沢 かおり 月元 敬
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-5, 2010 (Released:2010-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2

A survey study was conducted to examine the effect of the information processing styles (rational processing vs. intuitive processing; Epstein, 1994) on the beliefs toward paranormal phenomena. Five-hundred and fifty Japanese citizens who reside in the metropolitan area in Japan were randomly selected and received the questionnaire, and 116 citizens responded. The information processing style was measured with the short version of Rational and Intuitive Information-Processing Style Inventory developed by Naito et al (2004). We also asked the participants to indicate the degree to believe the three kinds of paranormal phenomena; fortune telling ("a horoscope" and "blood type fortune-telling", para-science ("UFO" and "supernatural power", and conventional religion ("gods or Buddha" and "a curse". To examine the effect of the information processing style, we first divided the participants into 4 groups (high-rational and high-intuitive, high-rational and low-intuitive, low-rational and high-intuitive, and low-rational and low-intuitive), and submitted the ratings for the degree to believe the three kind of paranormal phenomena for 2 (high-rational vs. low-rational) x 2 (high-intuitive vs. low-intuitive) ANOVAs. The analyses revealed the significant interaction of rational processing and intuitive processing for fortune telling; the participants who were high-rational and low-intuitive believed the fortune telling less than other. Furthermore, a tendency for the main effect for para-science indicated that those who were high-rational believed para-science more than those who were low-rational. For conventional religion, no effect of information processing style was revealed. The discussion argued that these results were to some extent due to the social functions of three kinds of paranormal phenomena.
著者
寺井 勝 地引 利昭 小穴 慎二 浜田 洋通 山本 重則
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

川崎病は乳幼児に発症する原因不明の血管炎である。当該研究者は,血中の単球遊走活性化因子MCP-1が急性期に血中に増加し,組織においても発現が増強していることを見出した。川崎病の治療薬であるガンマグロブリンは,MCP-1の生理活性を抑制することが判明した。またMCP-1をコードする遺伝子の転写開始部位から2518塩基上流のアデニン(A)とグアニン(G)のSingle nucleotide polymorphismとin vitroでの単核球によるMCP-1産生の関連をみたところ,G allele carrierが統計学的有意差をもってMCP-1を大量に産生することが判った。さらに急性期川崎病患者では,G allele carrierがAA homozygousよりも血中MCP-1を大量に産生することが判明した。同時に,日本人はG alleleを高率に有する民族であることを初めて明かにした。以上より,川崎病血管炎では,単球遊走活性化因子MCP-1が血管炎初期において炎症現揚の免疫担当細胞の遊走・活性化に重要な役割を果たしていること。さらに,日本人は外的な刺激に対してこのMCP-1を産生しやすい人種的特徴をもっていることが判明した。日本人に川崎病が多いことの背景になりうるかどうか,今後も更に検討が必要である。
著者
巽 孝之
出版者
上智大学
雑誌
アメリカ・カナダ研究 (ISSN:09148035)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-23, 1995-03-31

ポウが1841年に発表した「モルグ街の殺人」は, パリを舞台に名探偵デュパンが活躍する作品として, 推理小説史の幕を開けた。しかし今日, その舞台や主役設定, はたまた残虐なる貴婦人殺しを行なったオランウータンなどをそっくり字義的に読むことは, いささか難しい。かつてバートン・ポーリンは, 本作品中のパリがいかにアメリカ化されているかを指摘し, 他方バーナード・ローゼンタールやジョアン・ダイアンらは, 作家の南部貴族的精神や奴隷制擁護の姿勢がいかにテクストの無意識を統御してきたかを分析した。本稿は, そうした新歴史主義批評以降のポウ研究をふまえつつ, ポウにおける修辞的テクストと歴史的コンテクストとがいかに記号的相互交渉を行ない, ひいては, ポウにおける歴史が作品の背景に埋没するどころかいかに作品内部の盲点を積極的に構造化してきたかを解明する。その前提としては, 殺人オランウータンを南部黒人の一表象と見る視点が選び取られる。だが, 南部的女性崇拝が黒人差別転じて黒人恐怖と密着していたのは当然としても, そうした恐怖の本質をさぐるとなれば, 人種意識を超えて, さらに南部における所有権の歴史を一瞥しなければならない。黒人に代表される「闇の力」への恐怖を形成したのは, 奴隷叛乱を懸念する恐怖のみならず経済革命としての農地再分配(アグレリアニズム)が貴族的主体を脅かし所有権を侵害することに対する恐怖だった。そしてデュパンは, 誰よりも南部に関するアレゴリーを読み解く技術に秀でた南部貴族として性格造型された。
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1621, pp.38-41, 2011-12-19

赤いレーシングスーツをまとって、鮮やかなオレンジ色のスポーツカーから颯爽と降り立ったトヨタ自動車の豊田章男社長は上機嫌だった。 11月27日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)でトヨタが開催した「トヨタ ガズーレーシングフェスティバル2011」で、豊田社長は量販スポーツカー「86(ハチロク)」を数万人のファンにお披露目した。
著者
真船 えり
出版者
日本イギリス哲学会
雑誌
イギリス哲学研究 (ISSN:03877450)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.5-19, 1998-04-01 (Released:2018-04-25)

This paper aims to clarify some of the intentions of Hume's arguments concerning the mind-body problem in his Treatise of Human Nature, I, iv, 5. It attempts to examine three main things: (1) the features of Hume's argu­ments compared with those of Locke; (2) Hume's own use of the words, such as ‘notion’, ‘fiction’ or ‘feign’, and ‘imagination’ or ‘fancy’; and (3) Hume's new method of explanation in terms of human nature on the problem concern­ing a conjunction of mind and body in place. In the course of these examina­tions, it will be shown that Hume's sceptical arguments suggest a new solution on the problem concerned, and lead to the naturalism, presented in the light of human nature.
著者
犬塚 篤
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.75-85, 2020-03-20 (Released:2020-08-13)
参考文献数
34

集団内において非公式リーダー(公式リーダーよりもリーダーシップ行動が顕著な部下)が生じる状況要因を,国内アパレルチェーン410店舗に勤める1719名の店員への質問票調査により明らかにした.その結果,非公式リーダーの登場を促進・阻害する要因が,構造づくり行動に関しては集団サイズや公式リーダーの課題達成力,配慮行動に関しては公式リーダーや部下の成員理解力にあることが示された.