著者
一ノ瀬 俊明
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.27, 2020 (Released:2020-03-30)

前報(2012年春季大会)では、日中屋外で色彩以外が同一規格の衣料(U社製、同一素材・デザインのポロシャツ、色違いの9色)を用い、表面温度の経時変化を観測した結果を報告した。色彩による温度差は明瞭であり、白、黄がとりわけ低く、灰、赤がほぼ同じレベルで、紫、青がさらに高めで拮抗し、緑、濃緑、黒が最も高温のグループを形成した(e.g. Lin and Ichinose, 2014: IC2UHI3)。また、一般に日射が強まるとこの差は顕著となった。可視光の反射率(明度)が表面温度を決める支配的要因の一つであると考えられるが、太陽放射の少なからぬ部分を占める近赤外領域(0.75-1.4 µm)の効果に対する検討が不十分であったため、追加の観測を行うと同時に、被服表面における反射スペクトル(0.35-1.05 µm)の分析を行った。2011年夏以降複数の観測事例を蓄積してきているが、たとえば濃緑(高温)と赤(低温)との間には5〜10℃の温度差(夏季日中の日照条件下)が生じる。可視領域のみならず近赤外領域までを含めた色彩別の反射率は、濃緑87%、黒86%、青84%、緑84%、紫82%、赤78%、灰75%、黄70%、白63%となっており、従前可視領域の反射率だけを比較した時よりも、表面温度の大小との対応関係が明瞭となった。反射率25%の違いは約15℃の温度差をもたらしている。ほぼ無風の条件下では黒や緑で50℃を超える事例(2013年9月など)も観測されており、夏季の暑熱リスク軽減の視点から、被服の色彩選択も重要な気候変動適応策の一つといえる。
著者
永田 大輔
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.321-337, 2022-10-31

本稿では、批評的な言論の中で二次創作がいかなる文脈において「消費」と呼ばれてきたのかについて議論する。なかでも大塚英志の「物語消費」とそれを引き継いだ東浩紀の「データベース消費」がどのような文脈で論じられるようになったのかを指摘する。とりわけ大塚の議論は東を経由して理解されることが多く、大塚の議論そのものが注目されることは少ない。 これらはオタクというファン集団の「受容の様式」として論じられており、キャラクターに着目するのか、物語の受容の様式にあるのかといった形で議論されてきた。だが、そもそも「二次創作」という「創作」行為が「消費」と語られてきたのはなぜなのか、という問題については議論がなされて来なかった。実際にあるものを作ることが「生産」ではなく「消費」と呼ばれることは自明ではない。また、生計に必要なものを作っていないという意味でそれは「趣味」とも呼ばれうるが、二次創作に関しては「消費」という受動的な概念で呼ばれている。本稿では「物語消費論」において「消費」という語が用いられたことの意味を考察する。 「物語消費」において真に重要なのは、これまで制作と見なされていた行為が消費と見えるような形で、巨大企業の新たな市場戦略が現れてきたということである。それによってただ新しいものを作るだけでは生産活動という送り手側に立つことにはならず、受容者の一部になっているに過ぎないという批判的な意味が込められたものだったのである。東の「データベース消費」も実はその問題系を正確に引き継ぎつつ、もはやそうした「生産者」というものは不可視になり、誰もが受容者(「消費者」)になっているのではないかという意味で議論を展開したのである。その上で両者の論争は「生産者/消費者」という線引きがどこで行われるかを論じるものであったのである。この創作を消費と呼ぶこと、それを納得させることが可能になるような文脈を踏まえた上で、どこで「消費」と「生産」の線を引こうとしているかに個々に着目することがこれらの概念を継承していく上では重要なのである。
著者
松山 麻珠 池内 淳
雑誌
研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)
巻号頁・発行日
vol.2015-HCI-162, no.2, pp.1-8, 2015-03-06

本稿では,校正を行う場面での読みにおける作業効率の差や校正者が受ける影響を測定するとともに,その要因を考察することを目的として二つの実験を行った.実験 1 では,24 名の被験者に対して,2 種類の問題を用いて実験を行い,校正作業の効率,正解率,主観評価いずれにおいても液晶ディスプレイに比べ,紙の方が優れていた.実験1の結果を踏まえ,その違いとなる具体的な要因を探るため,反射光と透過光の違いに着目した実験を 20 名の被験者を対象として実施した.その結果,誤り発見数・誤回答数・読書時間・主観評価について差は認められなかったものの,誤り発見数の平均値,校正作業の精度と再現率について反射光のほうが優位であった.

122 0 0 0 OA 空の中隊

著者
新関健之助 著
出版者
中村書店
巻号頁・発行日
1943
著者
彭 丹
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究
巻号頁・発行日
vol.45, pp.11-50, 2012-03-30

日本には八点の国宝茶碗がある。八点のうち、南宋時代に焼造された天目が五点を占める。曜変天目三点、油滴天目一点、玳皮天目一点である。これらの天目茶碗は、生産地の中国の地には残されていないのに、なぜ日本に残っているのか?日本の国宝と中国の天目とは矛盾しないのか?天目を求め続ける日本人の情熱はいったい何か?
著者
福井 健策
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.661-668, 2014-01-01 (Released:2014-01-01)
参考文献数
1
被引用文献数
1

日本が今,貴重な予算をかけても早急に整備すべきインフラは「知のインフラ」である。欧米がその整備にしのぎを削る文化資料の巨大デジタルアーカイブについては,わが国でも価値ある活動は少なくないが,その多くは「ヒト・カネ・著作権」というべき課題にあえいでいる。特に大量の文化資料をデジタル公開しようとすれば権利処理の手間は膨大となり,わけても,探しても権利者が見つからない「孤児作品」の問題は深刻で,欧米でも対策が進む。わが国でも権利処理を推進するために,(1)権利情報データベースの整備,(2)パブリックライセンスの普及,(3)孤児作品対策を含むアーカイブ法制の立案,などの対策を早急に進めるべきである。
著者
久保 拓弥
巻号頁・発行日
2008

大学院での統計学授業2008の「講義ノート」です。
著者
鈴木 寿之 大迫 尚晴 山﨑 曜 木村 清志 渋川 浩一
出版者
Kanagawa Prefectural Museum of Natural History (Kanagawa Prefectural Museum)
雑誌
神奈川県立博物館研究報告(自然科学) (ISSN:04531906)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.51, pp.9-34, 2022 (Released:2022-03-29)

琉球列島八重山諸島の河川渓流域に生息するハゼ科ヨシノボリ属魚類の2 新亜種(Rhinogobius aonumai aonumai とRhinogobius aonumai ishigakiensis)をふくむ1 新種 Rhinogobius aonumai (新標準和名パイヌキバラヨシノボリ)を記載した。Rhinogobius aonumai aonumai (新標準和名イリオモテパイヌキバラヨシノボリ)は西表島のみに分布し、背鰭前方鱗数9–15、縦列鱗数32–37、脊椎骨数11+15–17=26–28(モードは27)、第2 背鰭前端の2 個の坦鰭骨は第10 脊椎骨の神経棘をまたぐ、腹鰭第5 軟条は最初に3 または4 分岐(ふつう4 分岐)する、頬の孔器列は縦列する、生鮮時の体の地色は黄色系である、第1 背鰭に暗色斑はない、尾鰭に暗色の横点列かジグザグ横線が並ぶ、雌の尾鰭基底に垂直に並ぶ1 対の暗色の短い棒状斑があるなどの特徴で同属の他種階級タクソン(種及び亜種)から区別できる。Rhinogobius aonumai ishigakiensis (新標準和名イシガキパイヌキバラヨシノボリ)は石垣島のみに分布し、背鰭前方鱗数10–14、縦列鱗数33–38、脊椎骨数10+16–18==26–28(モードは27)、第2 背鰭前端の2 個の坦鰭骨は第9 脊椎骨の神経棘をまたぐ、腹鰭第5 軟条は最初に2 または3 分岐(ふつう2 分岐)する、頬の孔器列は縦列する、生鮮時の体の地色は黄色系である、第1 背鰭に暗色斑はない、尾鰭に暗色のジグザグ横線が並ぶ、雌の尾鰭基底に垂直に並ぶ1 対の暗色の短い棒状斑があるなどの特徴で同属の他種階級タクソン(種及び亜種)から区別できる。
出版者
台湾医学会
巻号頁・発行日
vol.30(9), no.318, 1931-09
著者
村松 哲夫
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-42, 2013-12-20

インフォームド・コンセントが法的にも倫理的にも有効な手続きとして機 能するためには,インフォームド・コンセントが成立するための諸過程が適 切な順番で移行しなければならない。その順番とは,以下の通りである。す なわち,患者は,医療者に対して,自分の既往症や状態について説明する。 その上で,医療者は,患者から提供されたこの情報を元に医学的に妥当であ り,かつ,必要な治療・検査の性質やリスクについて十分に説明する。患者 は,医療者から提供されたこの情報を元に,自分の計画や嗜好,思想信条的 な制約を考慮しながら,当該治療・検査について承諾するかしないかを決め る。承諾する場合,その旨を書面で交換する。 このような過程を順番に移行することによって,有効な手続きとしてのイ ンフォームド・コンセントが成立する。 サルゴ判決(1957)で確認したように,医療における意思決定において, 説明は治療・検査に先立つ。この順番が入れ変われば,当該治療・検査が実 施された後に,患者に対する説明が行われることになる。これでは,患者が 当該治療・検査の実施について検討し,その諾否を決定する機会が奪われて しまう。また,当該治療・検査の承諾に関する手続きは有効ではなくなる。 有効ではない手続きによって行われた治療・検査は,合法化も正当化もでき ない。 説明に着目すると,患者側から見れば,自分の症状や既往歴などを正確に 記述しているという意味において,医療者側から見れば,当該治療・検査の 性質やリスクを正確に記述しているという意味において,正しい情報を相手 に提供する必要がある。正しくない情報を元になされた判断には,それを正 当化する根拠が乏しいからである。 その上で,副作用や重大な後遺症などといった有害事象が発生した場合, 当該治療・検査に医療過誤がなければ,その原因として考え得るのは,イン フォームド・コンセントの手続きが成立する過程に瑕疵があったということ である。すなわち,患者,もしくは,医療者がその相手に正しい情報を提供 していなかった,ということにある。 患者と医療者とのやりとりの過程が適切に移行すると,手続きとしてのイ ンフォームド・コンセントが成立する。この過程に瑕疵があれば,有効な手 続きではなく,これに基づく医療行為は合法化・正当化されない。医療過誤 がなかったのにもかかわらず,副作用や後遺症といった有害事象が発生した 場合,インフォームド・コンセントの手続きが成立した過程のどこかに瑕疵 がある。
著者
Nuraly S. Akimbekov Ilya Digel Dinara K. Sherelkhan Afzalunnessa B. Lutfor Mohammed S. Razzaque
出版者
JAPAN SOCIETY OF HISTOCHEMISTRY AND CYTOCHEMISTRY
雑誌
ACTA HISTOCHEMICA ET CYTOCHEMICA (ISSN:00445991)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.33-42, 2020-06-26 (Released:2020-06-26)
参考文献数
100
被引用文献数
12 63

There is a growing body of evidence for the effects of vitamin D on intestinal host-microbiome interactions related to gut dysbiosis and bowel inflammation. This brief review highlights the potential links between vitamin D and gut health, emphasizing the role of vitamin D in microbiological and immunological mechanisms of inflammatory bowel diseases. A comprehensive literature search was carried out in PubMed and Google Scholar using combinations of keywords “vitamin D,” “intestines,” “gut microflora,” “bowel inflammation”. Only articles published in English and related to the study topic are included in the review. We discuss how vitamin D (a) modulates intestinal microbiome function, (b) controls antimicrobial peptide expression, and (c) has a protective effect on epithelial barriers in the gut mucosa. Vitamin D and its nuclear receptor (VDR) regulate intestinal barrier integrity, and control innate and adaptive immunity in the gut. Metabolites from the gut microbiota may also regulate expression of VDR, while vitamin D may influence the gut microbiota and exert anti-inflammatory and immune-modulating effects. The underlying mechanism of vitamin D in the pathogenesis of bowel diseases is not fully understood, but maintaining an optimal vitamin D status appears to be beneficial for gut health. Future studies will shed light on the molecular mechanisms through which vitamin D and VDR interactions affect intestinal mucosal immunity, pathogen invasion, symbiont colonization, and antimicrobial peptide expression.