著者
松下 秀鶴 森 忠司 田辺 潔
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.250-255, 1983-06-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
13

室内空気中のニコチン濃度およびこれへの個人被暴露量の簡易分析方法を開発した。本法は, 次の各操作すなわち, 固体捕集法による室内空気中のニコチンの捕集, 固体捕集剤への内標準物質 (イソキノリン) の添加, アルカリ性メチルアルコール溶液によるニコチンの溶出, そして熱イオン化検出器付ガスクロマトグラフィー (GC-FTD) によるニコチンの分析から成り立っている。本分析方法は98.8±2.1%と高いニコチンの捕集効率が得られ, 内標準物質であるイソキノリンに対するニコチンの脱着効率の比の平均値は1.01±0.01と再現性がよく, 分析手法の簡易化に有用であることが判った。また本捕集剤中でのニコチンは暗室 (室温) および冷凍庫 (-20℃) 内での保存では少なくとも7日間は安定であることが判った。本分析条件でのニコチンの絶対検出下限は4.5pg (S/N=2) であり, 本法を用いると0.30μg/m3までの濃度のニコチンを精度よく分析できる。室内空気中のニコチン分析の一例として研究室内の空気中のニコチン濃度を調べた結果, 0.57~2.36μg/m3であった。また談話室内空気中のニコチンの経時変化を調べた結果, ニコチン濃度は2.5~23μg/m3と10倍近く変動すること, ニコチン濃度の変動のパターンはタバコの喫煙本数のそれとよく類似することが判った。
著者
遅塚 忠躬
出版者
青木書店
雑誌
歴史学研究 (ISSN:03869237)
巻号頁・発行日
no.401, pp.57-62, 1973-10
著者
松本 正幸
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-6, 2013 (Released:2013-07-31)
参考文献数
34

Midbrain dopamine neurons are key components of the brain’s reward system. These neurons are excited by reward and sensory stimuli predicting reward, while they are inhibited by reward omission. These excitatory and inhibitory responses have been shown to play important roles in reward learning and positive motivation. However, it was unknown which parts of the brain provide dopamine neurons with reward-related signals necessary for their responses. Recent studies showed evidence that the lateral habenula, part of the structure called the epithalamus, is a good candidate for a source of reward-related signals in dopamine neurons. The lateral habenula projects to midbrain structures such as the substantia nigra pars compacta and ventral tegmental area which contain dopamine neurons. Electrical stimulation of the lateral habenula inhibits dopamine neuron activity. Neurons in the lateral habenula also encode reward-related signals but in an opposite manner to dopamine neurons (i.e., they are inhibited by reward and sensory stimuli predicting reward, and excited by reward omission). These findings suggest that the lateral habenula transmits reward-related signals to dopamine neurons by inhibiting them.
著者
森川 嘉一郎
出版者
青土社
雑誌
ユリイカ (ISSN:13425641)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.196-202, 2008-06
著者
永井 晋 野口 実 鈴木 哲雄 高梨 真行 角田 朋彦 野村 朋弘 橋本 素子 実松 幸男 佐々木 清匡 北爪 寛之
出版者
神奈川県立金沢文庫
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中世に下総国下河辺庄という広域荘園が形成された地域にについて、各分野の研究者や自治体の文化財担当者と意見交換を行い、現地での確認調査・聞き取り調査を行った結果、鎌倉時代に地頭として下河辺庄を治めた金沢氏が河辺・新方・野方と三地域に分割した経営形態が地域の実情に即した適切な統治の形態であったことを確認することができた。すなわち、下河辺庄は荒川・利根川・大井川(太日川)の三本の河川が集まる水上交通の要衝という物資輸送の利便性を持つが、それは同時に、肥沃な土壌が継続的な供給される生産性の高い水田地帯という経済的優位性と水害に弱い洪水常習地帯という豊凶の落差の激しい中下流部の低地帯(新方・河辺)と、鎌倉街道中道の通る猿島台地・下総台地上の耕地帯に大きく分かれていることが明らかになった。金沢氏は、一律の基準で支配できない広域荘園に対し、本家が直轄する所領と一族や被官を郷村の地頭代(給主)に補任して治める所領に細分化し、それらを公文所が統合することで全体の管理を行っていた。本科研では、下河辺庄の成立過程を探るために、摂津源氏の東国進出と秀郷流藤原氏下河辺氏の成立に始まり、江戸時代に語られていた下河辺庄の記憶で調査年代を終えることにした。成立期の下河辺庄は秀郷流の本家小山氏との関係を重視したので野方の大野郷に拠点があったと推定される。下河辺庄の地頭が下河辺氏から金沢氏に交代すると、金沢氏は鎌倉の館に置かれた公文所が直轄して管理する体制をつくったので、下河辺庄は鎌倉の都市経済に組み込まれた。この時期に、下河辺庄赤岩郷は鎌倉に物資を輸送する集積地として発展を始めたと考えられる。南北朝時代になると、下河辺庄赤岩郷は金沢家の菩提寺称名寺の所領として残されたので、称名寺が任命した代官や現地側の担当者と称名寺がやりとりする書状や書類が多く残されるようになった。また、称名寺のリスク管理の中で年貢代銭納が行われ、上赤岩には年貢として納入するために保管されていた出土銭が発掘されている。享徳の乱によって古河公方が成立すると、下河辺庄は古河公方側の勢力圏の最前線となり、簗田氏や戸張氏といった公方側の武家が庄域を管理し、扇谷上杉側の岩槻大田氏と境界を接するようになる。この時期に、称名寺と赤岩郷の関係が確認されなくなる。江戸時代になると、下河辺庄新方は武蔵国に編入され、新方領とよばれるようになる。この地域は『新編武蔵国風土記稿』や『武蔵国郡村誌』といった詳細な地誌が残るので、地域で語られていた下河辺庄の記憶を知ることができる。本科研は、歴史学を中心とした地域総合研究として、荘園史の枠組みを超えた地域研究を行おうとしている。調査の編目は、後述する報告書掲載論文から明らかになるし、調査の詳細は報告書の本文をご覧いただきたい。
著者
溝口 全子 松岡 緑 西田 真寿美
出版者
日本看護科学会誌
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.92-102, 2000
被引用文献数
1

本研究の目的は, 女子大学生のダイエット行動において, 比較的緩やかなダイエット行動をとる人, 健康をも脅かすような過激なダイエット行動をとる人の背景に何が関与しているのか, 各々の行動に及ぼす影響要因の違いについて明らかにすることであった. 調査では, PenderのHealth Promotion Modelの枠組みを参考に, ダイエット行動に関連す る要因を (1) 個人的因子: 生物学的要因 (体脂肪率・年齢・家族の肥満), 心理学的要因 (主観的健康評価・集団回帰傾向・体型不満・ボディイメージ), 社会的要因 (周囲のダイエット行動者・ダイエットに関する話題の頻度), (2) 過去の関連行動: 過去のダイエット経験, ダイエット情報の収集, 情報源, 体型・体重に関する嫌な体験, (3) ダイエット行動に対する特別な認識と感情: 痩せ願望, 自己効力感と設定し, 看護女子大学生203名を対象に調査した. その結果, 以下のことが得られた.<BR>1) 緩やかなダイエット行動, 過激なダイエット行動には共通して痩せ願望が影響していた.<BR>2) 緩やかなダイエット行動のみに影響する要因は専門的情報, 自己効力感があった. 過激なダイエット行動のみに影響する要因は家族の肥満, 過去のダイエットの成功体験, 体型・体重に関する嫌な体験があった.<BR>3) 痩せ願望をもたらす要因では, 過去の関連行動, 生物学的要因, 心理学的要因, 社会的要因の順に影響力が強かった.<BR>痩せ願望があっても自己効力感が高ければ, 専門的・健康に基づいたダイエット情報を得て, 緩やかなダイエット行動をとることが示唆された. 今後, 自己効力感を高めていくような介入が必要と考えられる.
著者
Miki Nonaka Nagomi Kurebayashi Takashi Murayama Masami Sugihara Kiyoshi Terawaki Seiji Shiraishi Kanako Miyano Hiroshi Hosoda Shosei Kishida Kenji Kangawa Takashi Sakurai Yasuhito Uezono
出版者
The Japan Endocrine Society
雑誌
Endocrine Journal (ISSN:09188959)
巻号頁・発行日
vol.64, no.Suppl., pp.S35-S39, 2017 (Released:2017-06-24)
参考文献数
14
被引用文献数
2 9

Cancer was considered an incurable disease for many years; however, with the development of anticancer drugs and state-of-the art technologies, it has become curable. Cardiovascular diseases in patients with cancer or induced by cancer chemotherapy have recently become a great concern. Certain anticancer drugs and molecular targeted therapies cause cardiotoxicity, which limit the widespread implementation of cancer treatment and decrease the quality of life in cancer patients significantly. The anthracycline doxorubicin (DOX) causes cardiotoxicity. The cellular mechanism underlying DOX-induced cardiotoxicity include free-radical damage to cardiac myocytes, leading to mitochondrial injury and subsequent death of myocytes. Recently, circulating orexigenic hormones, ghrelin and des-acyl ghrelin, have been reported to inhibit DOX-induced cardiotoxicity. However, little is known about the molecular mechanisms underlying their preventive effects. In the present study, we show the possible mechanisms underlying the effects of ghrelin and des-acyl ghrelin against DOX-induced cardiotoxicity through in vitro and in vivo researches.
著者
潮見 佳男 橋本 佳幸 村田 健介 コツィオール ガブリエーレ 西谷 祐子 愛知 靖之 木村 敦子 カライスコス アントニオス 品田 智史 長野 史寛 吉政 知広 須田 守 山本 敬三 横山 美夏 和田 勝行
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成30年度は、前年度に引き続き、ゲストスピーカーを交えた全体研究会の開催を通じて、情報化社会における権利保護のあり方をめぐる従来の議論の到達点と限界を検討し、知見の共有を図った。個別の研究課題に関しては、次のとおりである。第1に、個人情報の収集・利活用に関する私法的規律との関連では、全体研究会を通じて、EU一般データ保護規則(GDPR)の全体的構造のほか、EUにおけるプライバシー権の理論構成について理解を深めた。また、プラットフォーム時代のプライバシーにつき、プロファイリング禁止やデータ・ポータビリティーなどの先端的課題を踏まえた理論構成のあり方を検討した。第2に、AIの投入に対応した責任原理との関連では、全体研究会において、ドイツでの行政手続の全部自動化立法の検討を通じて、AIによる機械の自動運転と比較対照するための新たな視点が得られた。第3に、ネットワーク関連被害に対する救済法理との関連では、担当メンバーが、ネットワークを介した侵害に対する知的財産権保護のあり方を多面的に検討し、また、オンライン・プラットフォーム事業者の責任について分析した。以上のほか、私法上の権利保護の手段や基盤となるべき法技術および法制度に関しても、各メンバーが新債権法に関する一連の研究を公表しており、編著の研究書も多い。さらに、外国の法状況の調査・分析に関しては、ドイツやオーストリアで在外研究中のメンバーが滞在国の不法行為法の研究に取り組み、複数のメンバーがヨーロッパ諸国に出張して情報収集を行った。また、研究成果の国際的な発信も活発に行っており、国際学会での日本法に関する報告が多数あるほか、新債権法に関して、その翻訳、基本思想を論じる英語論文が挙げられる。
著者
今井 三子
出版者
札幌博物學會
雑誌
札幌博物学会会報
巻号頁・発行日
vol.12, no.2-3, pp.148-151, 1932-07-10
著者
深海 菊絵
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2017, pp.173-190, 2017-12-31

The objective of this report is to investigate the pluralism and the compatibility among polyamorists, focusing on the gathering of a polyamory group in California and polyamory terms that are used by polyamorists. Polyamory means "responsible non-monogamy". It is best explained with the words: "honesty" , "consensus" and "responsibility". In fact, most studies about polyamory have pointed out that people who are recognized as polyamorist have various backgrounds, and the ways of practicing polyamory are extremely diverse and inconsistent. In this article, I look at polyamory in terms of a "contact zone" where people who have various thoughts and cultural backgrounds are interacting. I examine how polyamorists connect with each other in their contact zone. In order to achieve this purpose, "Cyborg Feminism" which is advocated by Donna Haraway is a key concept. Donna Haraway seeks a way of connecting that is not emphasized by homogeneity in "Cyborg Feminism". Cyborg is a body which holds multiple internal differences. Primarily, looking at the meeting of a polyamory group through the image of a cyborg suggests that polyamory has plural and comprehensive characteristics. Secondly, I examine the polyamory terms. The terms in polyamory are not only a tool of communication, but also a tool of self-accountability, one's relationship and the love they belong to. It implies that the ethical question of "How should I treat myself?" is shared among polyamorists. Polyamory is composed of multiple perspectives, and it is not a group which has only a single value system. There are blank spaces following the question "who are we?". However, the otherness and the blank space which polyamory holds are the possibility of critical self-forming with others.
著者
太田 光明 塩田 邦郎 政岡 俊夫 和久井 信 田中 智夫 植竹 勝治
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

地震前の動物の異常行動は、電磁波など地震前兆を感知した動物のストレス反応の一つであろうとの仮説のもとに研究を重ねてきた。しかし、ラット、ビーグル犬など「実験動物」に対して電磁波照射を繰り返しても、明確な異常行動は見られない。一方、ヒトと日常的に生活している「家庭犬」を用いたところ、6頭のうち、少なくとも2頭に顕著な異常行動を認めた。すなわち、1)マウスやラットのように「実験動物」として用いられる犬種は、ほとんどビーグル犬である。個体による違いを含め、犬の特性のいくつかを喪失しているとしても不思議はない。人による改良が進めば進むほど、電磁波異常など非日常的な物理現象を感じる必要性もなくなる。実際、本研究において電磁波の影響は見られなかった。この研究成果を遺伝子解析に応用した。2)遺伝子解析を進めるためには、プライマーが必要であり、犬遺伝子では、CRH、DRD2、DRD4など極めて少数しか判明していない。本研究では、はじめにCRH遺伝子の多型について検討した。しかし、33犬種37頭を解析した結果、遺伝子多型は検出されなかった。つまり、CRH遺伝子が「地震感知遺伝子」の可能性は低い。一方、兵庫県南部地震の直後、一般市民から集められた前兆情報のなかには、古来からの地震前兆情報であると考えられてきた夥しい数の報告が含まれていた。特に、動物の前兆的異常行動に顕著であった。また、阪神・淡路大震災の前兆情報として、犬で約20%、猫で約30%が異常行動を示したという。こうしたことから、3)本研究では、富士通株式会社ならびに株式会社NTTドコモ関西との産学協同体制でこの「動物の異常行動」の情報収集システムの構築に取組み、プロトタイプのシステムを完成させた。モニター登録者が暫時増加し、平成16年3月1日現在で、50人を数えた。
著者
井上 博行 吉村 誠
出版者
日本感性工学会
雑誌
日本感性工学会論文誌 (ISSN:18840833)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.349-356, 2011 (Released:2011-12-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

The purpose of this study is that systems, which offer the music suitable for feelings of the user who is not only a room but also acting outdoors, are constructed. In this paper, it is tried that user's situations and activities, user's feelings and musical genres are related. Genres of music were chosen six genres of the pop music generally listened to well. And, rhythms with the feature of each genre were extracted, and 11 sample music only of the rhythm were made. Next, Kansei evaluation experiments were done to activity in seven situations including outdoor and indoor environments, and acquired data was analyzed by the correspondence analysis. The relation between the “place and action - feeling” and “musical genres” was shown as a result of obtaining. Also, we tried to construct a simple evaluation system using obtained result, and effectiveness was confirmed.
著者
工藤 慎太郎 濱島 一樹 兼岩 淳平 小松 真一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.CcOF1067, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】足部横アーチ(横アーチ)の低下は,中足骨頭部痛や外反母趾の発生機序と関係するため,その形態を捉えることは,臨床上重要である.横アーチの測定方法として,第1~5中足骨頭の距離を足長で除した横アーチ長率(TAL)が知られ,その妥当性が報告されている.しかし,その再現性については検討されていない.また,TALは静止立位で測定する.臨床上,静止立位において,横アーチが保持できているが,歩行や走行などの動的場面において,横アーチが保持できず,中足骨頭部痛などを惹起している例も存在する.つまり,従来のTALは横アーチの形態を捉えることができるが,その保持機能を捉えられない.我々は先行研究において,従来のTALに加えて,下腿最大前傾位(前傾位)でTALを測定し,その差から横アーチの保持機能を捉える方法を報告した.本研究では,従来のTALと共に,前傾位でのTALの測定方法の再現性を検討することを目的とした.【方法】対象は健常成人8名(男女各4名,平均年齢19.3±2.4歳)の右足とした.検者は経験年数15年目と2年目の理学療法士(検者A・B)および理学療法士養成校に就学中の学生(検者C)の3名とした.各検者には実験実施1週間前に測定方法を告知した.各被験者に対し,1施行で静止立位と前傾位でのTALを3回測定し,中央値を採用した.測定にはデジタルノギス(測定誤差±0.03mm)を用いた.1施行ごとに1時間休息し,3施行繰り返した.統計学的手法にはPASWstatistics18を用いて,級内相関係数(ICC)と標準誤差(SEM)を求めた.なお,検者内信頼性にはICC(1,k),検者間信頼性にはICC(2,k),測定結果の解釈にはShroutらの分類を用いた.【説明と同意】被験者には,本研究の趣旨を紙面と口頭で説明し,同意を得た.【結果】検者AのICC(1,k)は静止立位で0.82(SEM:0.67),前傾位で0.92(SEM:0.36)であった.検者BのICC(1,k)は静止立位で0.80(SEM:0.02),前傾位で0.79(SEM:0.02)であった.検者CのICC(1,k)は静止立位で0.75(SEM:0.03),前傾位で0.98(SEM:0.04)であった.静止立位でのICC(2,k)は0.75(SEM:0.13),前傾位でのICC(2,k)は0.81(SEM:0.03)であった.【考察】歩行や走行において,立脚終期で,前足部に荷重が加わると,横アーチは低下する.中足骨頭部痛や外反母趾などの前足部の障害において,横アーチの過剰な低下を認めることがあるため,横アーチの形態を捉えることは臨床上重要になる.本研究の結果から,従来のTALは3名の検者とも,Shroutらの分類でgood以上と,高い検者内・検者間信頼性を示している.よって,横アーチの測定方法としての従来のTALの信頼性は高いと考えられた.諸家により,内側縦アーチの測定方法であるアーチ高率や踵骨角,第一中足骨底屈角の再現性は,触診の難易度と密接な関係があることが報告されている.そのため,従来のTALで高い再現性が得られた原因は,中足骨頭の側面に軟部組織が比較的少なく,触診が容易であるためと考えられた.臨床においては,横アーチの形態を捉える方法として,レントゲン上での第1,5中足骨角の測定やフットプリントでの評価などが用いられることが多い.しかし,レントゲンでの評価は,理学療法の臨床場面で簡便に測定することは不可能である.またフットプリント上の評価は信頼性に関して検討がされているが,報告者によって見解が異なっている.すなわち,従来のTALは,他の測定方法と比較して,簡便かつ定量的な測定方法と考えられる.一方,臨床において静止立位では,横アーチが保持できている例でも,歩行動作などの場面では,横アーチが過剰に低下する例も経験する.我々は先行研究において,動作場面での横アーチの保持機能を測定するには,従来のTALでは不十分であり,前傾位でのTALと比較することが必要なことを報告した.本研究の結果から,従来の方法と同様に,前傾位でのTALも,高い検者内・検者間信頼性を示している.そのため,前傾位でのTALの測定も臨床において簡便かつ定量的な測定方法であり,両肢位でのTALの測定は,横アーチの形態と保持機能を評価し得る信頼性の高い測定方法と考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,従来のTALと前傾位でのTALの測定方法の信頼性が証明され,横アーチ保持機能の簡便かつ定量的な測定が可能になると考えられた.つまり,有痛性足部障害の疼痛発生機序を捉える場合や,足底挿板療法を処方する際に,同方法は客観的な測定方法として有効になると考えられる.