著者
上野 和男
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.97-159, 1993-11-10

本稿は日本各地の隠居制家族の比較分析を通じて、日本における隠居制家族の諸類型を設定し、その地域的変差を通じて隠居制家族の構造を明らかにし、さらに日本の家族類型における隠居制家族の位置と村落社会構造との関連を明らかにしようとする一試論である。ここで試みる隠居制家族の類型化は、日本の家族の地域類型設定の一部をなすものであり、その意味でこの研究は日本社会の地域性研究の重要な一部をなすものである。隠居制についてはこれまでさまざまな概念規定が試みられてきているが、ここでは地域社会に規制された家族内部において、居住分離を基本とするある程度独立した複数の生活単位を形成する家族制度である、と規定した。この規定にしたがえば、隠居制家族は福島県を北限とし、トカラ列島宝島を南限とする各地の村落に認められる。これらの隠居制家族を比較分析して本稿では、あとつぎの結婚から隠居形成までの期間、生活単位の成員構成、隠居者と母屋構成員との関係および婚姻居住形態の三つを指標として、日本の隠居制家族の類型化を試み、「父性型」「婿入婚型」「双性型」の三類型を設定した。父性型は嫁入婚を基礎として、親夫婦と息子夫婦が家族内で別個の生活単位を形成する型である。婿入婚型は妻訪いをともなう婿入婚を基礎とする隠居制家族であり、父―息子二世代夫婦不同居の原則が貫徹されている。双性型は夫方の親夫婦のみならず、妻方の親夫婦との間にも隠居制家族を形成する型である。これらの型によって地域的分布も異なる。隠居制家族は構造的には、夫婦関係を中心とする日常生活上の分離と、親子関係を軸とする家族としての統合との妥協的な家族構造であり、程度の差を内包しつつも分離と統合のふたつの側面をもつ家族構造である。また隠居制家族と世代階層制、宮座などの村落組織との構造的な関係は稀薄である。
著者
小山 浩司 一場 友実 古島 弘三 菅野 好規 新津 あずさ 小太刀 友夏 新納 宗輔 上野 真由美 足立 和隆
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.78-83, 2023 (Released:2023-02-15)
参考文献数
39

〔目的〕スパインマットが胸郭拡張差および呼吸機能・呼吸筋力に与える影響を明らかにすること.〔対象と方法〕健常成人男性30名(年齢20.2 ± 1.6歳)とした.介入方法は,対象を背臥位とし,スパインマットを胸椎部に挿入した.測定項目は,脊柱アライメント,胸郭拡張差および呼吸機能・呼吸筋力であった.〔結果〕介入後に胸椎後弯角度が有意に減少した.また胸郭拡張差は有意な増加を認めた.呼吸機能は最大吸気量が,呼吸筋力では最大吸気圧に有意な増加を認めた.〔結語〕スパインマットの使用により,胸郭拡張差,最大吸気量および最大吸気圧は増加する可能性が示唆された.
著者
上野 聡
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.268-269, 2019-06-20 (Released:2020-06-01)
参考文献数
5

チョコレートのおいしさを醸しだすものには,甘味・苦味・酸味などの味覚が主として思い起こされる。しかし,チョコレートのおいしさを語る際には味覚だけでなく,口中でのとろけ感(口どけの良さ)や歯ごたえの良さなどのテクスチャーや,融点や硬さなどの物理的な性質(物性)が挙げられる。この物性には,チョコレートの主要成分であるカカオ脂(ココアバター)の結晶が密接に関わっている。本稿では,ココアバターの結晶とおいしさとの関わりについて簡潔に解説する。
著者
上野 絵里子 Eriko Ueno
出版者
学習院大学
巻号頁・発行日
2015-10-01

本論文の目的は、戦争期の経済変動の法則性を分析し、軍備とそれ以外の経済活動とのトレードオフを論じた「大砲対バター Guns vs Butter 」について、一国の産業構造全体から検討を加えるものである。本論文の構成は2部からなる。イントロダクションにあたる第1章及び第2章では、戦争期の経済変動パターンないしは法則性について景気循環の分析手法を元に分析を行った。第2部にあたる第3章及び第4章では、第1章及び第2章での観察結果を踏まえながら、産業連関表を用いて一国の経済変動とその因果関係について産業構造面から分析を行った。本論文の背景にある問題は2つある。「大砲対バター」とは戦争や軍事支出が持つ機会費用や民間経済とのトレードオフを例えて論じたものである。「大砲対バター」の議論は大きく2つに分けることができる。1つ目は、国際レベルの分析であり、戦争や国防支出が各国家のパワーシフトに与える影響を分析したものである。2つ目は、国内レベルの分析であり、国防が国内社会、経済、政治に与える影響を分析したものである。国際レベルで戦争が国家経済にもたらす影響を分析した研究の多くは、戦争によって生産要素の人的・物的資本が破壊される国と、人的・物的資本が破壊されずに戦争を行える国とが同時に分析されてきた。このため、これらの戦争の経済効果についての結論は非常に曖昧なものとなってしまう傾向がある。一方、国内レベルでは、国防がどのような効果を持つのか議論した代表的なものに「軍産複合体」の議論がある。これらの議論は、国防支出の使い道についての分析が中心であり、戦争経済学の議論を除けば、戦争期の経済変動パターンがどうなっているのかは、あまり注目をされていない。そこには、戦争をすれば多大な国防支出を出費するはずであるという暗黙の認識が多くの場合横たわる。また、国内レベルでの戦争の経済効果を分析したものは、第二次世界大戦やベトナム戦争といった個別の事例のみの分析や、戦争とその後に訪れる戦後不況とを同時に分析する傾向がある。このため、戦争期の経済変動パターンにある種の法則性を見出すことはできなかった。これまでアメリカは、戦争を繰り返すたびに自分たちが不況から脱し、戦後に不況が訪れることを経験してきた。戦死者数でアメリカの戦争をみると、第二次世界大戦は全人口の0.31%であり、また、長期戦であったベトナム戦争ですら全人口比の0.03%であった。第二次世界大戦期の日本やベトナム戦争期のベトナムの戦死者数などと比較すれば、どこが戦場になるかによって戦争の衝撃が国ごとに異なることをこのデータは示唆している。このように、戦争によって生産要素である土地、資本や労働力が破壊を受ける国と受けない国にもたらす戦争の経済効果は、それぞれ別々に再考されても良いのではないかという疑問が背景にある。また 国内レベルで「大砲とバター」の関係を考える場合、特に政治学の世界では、常に「政府か、国民か」というように問題を二極化する傾向がある。このため、その分析対象は政府や政府を中心とした特定産業ばかりに焦点が当てられてきた。しかし、一国の経済活動は、「風が吹けば桶屋がもうかる」ではないが、一つの産業に需要が生じると、次々と連鎖反応をおこし、全く関係のない産業へもその効果は波及していくものである。この他産業への波及効果を無視して、軍事支出を決定する政策決定過程や軍事支出が初めに生じた産業やその周辺の限定された特定産業にのみ注目をすることは、本当に一国の経済活動を分析する上で正しい議論なのであろうか。本論文では上記の2つの問題に関して、具体的に次のような手順で分析を行った。先ず、第1章では、景気循環の分析手法にならい、長期時系列データを用いて戦争期と戦間期の経済変動の違いを、支出面、所得面及び生産面から比較し、各データの変動幅、変動のタイミング、変動の持続期間についてグラフを用いて分析を行った。失業率などのように「率」に変換されていない経済変数については、インフレ的影響を除去するため、前年比変化率を用いた。また、湾岸戦争は戦争期間が他の戦争に比べて短いため、92年のデータに加え四半期及び月別データを用いて分析を行った。これによって、長期時系列データの中での戦争期には共通の経済変動が存在することが観察された。主要な分析結果は1)戦争期には経済は拡大し、不況期は戦争終盤から始まる、2)戦争期の好況を支えるものは、軍事支出ではなく、個人消費および民間投資である、3)冷戦中の戦争と冷戦後の戦争には経済変動のパターンに違いが見られる。4)冷戦中の戦争は戦争に先立つこと2、3年前から経済は上昇を開始する。一方、冷戦後の戦争は、戦争開始を起点として経済の上昇が始まるなどである。これを受けて、続く第2章では、長期時系列データから戦争期のみをスライスし、経済成長に対する各変数の寄与度を用いて戦争期の変動規模、変動傾向の分析を行い、戦争期の経済的特徴をより詳細に分析した。主要な分析結果は1)多くの指標で、戦争のタイプは異なるにもかかわらず、経済変動は同じような変動パターンを示す。2)変動のタイミングは戦争のタイプによって異なる、3)政府支出は朝鮮戦争以外、全部の戦争で同じ変動パターンを示すなどである。続く第3章及び第4章では、これまで第1章や第2章で見られた経済変動の傾向について、アメリカの産業連関表を用いて産業構造の観点から分析を行うこととした。先ず、第3章では、アメリカの産業構造を簡単に概観し、分析の基礎となる産業分類や産業連関表の作成手順などについて述べた。アメリカの産業構造は1947年以来、ペティ―クラークの法則のとおり、第1次、第2次産業のシェアが減り、第3次産業のシェアが徐々に伸びてきた。しかし、これらの産業を民間産業として1つのくくりで見ると、1947年以来、そのシェアは86%を一貫して維持している。即ち、アメリカの経済構造は8割以上が民間の経済活動によるものであり、70年という時が流れてもこの規模に変化は生じていなかった。一方、時代とともにアメリカの第3次産業が伸びてきた背景には、第1次産業及び第2次産業の存在があるものと考える。なぜなら、経済活動は、原材料(第1次産業)があって初めて製品を製造することができ、製造品(第2次産業)があって初めて高付加価値のサービスを提供する第3次産業が存在できるからである。そこで、産業連関分析を行うにあたっては、製造業を中心に分析できるよう産業連関表を作成した。また、本論文の分析目的に合わせ、アメリカの「国防資本産業」について定義した。極力恣意性を排除するため、アメリカ合衆国センサス局が毎月作成している通称M3データ(製造業出荷、在庫及び受注データ)で使用されている財の分類に従い、本論文ではM3データの「国防資本財」を扱う産業を「国防資本産業」として定義し、産業×産業の33部門の産業連関表(以下33部門表と略す)を作成した。第4章では、この33部門表を用いて、国防資本産業の投入構造などを見た上で、最終需要が各産業へもたらす生産波及効果を分析した。まず、影響力係数及び感応度係数を用いた分析では産業間の相対的な関係を見た。次に、最終需要項目に基づく生産誘発額の分析では、国防支出をはじめとする最終需要によってどの産業がもっとも影響を受けるかを見た。続く、最終需要項目別生産誘発係数では、最終需要項目の生産誘発力を見た。また、最終需要項目別生産誘発依存度では、各産業がどの最終需要に依存しているのか、国防資本産業を中心に見た。最後に、今回作成した33部門表を用いて、アフガン・イラク戦争期の需要項目の変化が各産業に与える影響を試算した。以上の主要な分析結果は1)国防資本産業の他産業への影響力や他産業との関係は非常に小さい、しかし、国防資本産業に需要が生じると、全部の産業に需要が生じる、2)軍事支出は国防資本産業に全額生じているものではなく、軍事用消費支出、軍事用設備投資、軍事用建設投資及び軍事用知的財産投資などの支出項目によって需要構造は異なる。3)最終需要項目の中で産業への影響力が強い項目は民間投資及び政府支出である。中でも、設備投資および建設投資は産業への生産誘発力が高い。4)個人消費の生産誘発力はそれほど強いわけではない。しかし、個人消費支出にその生産誘発を依存している産業は多いなどであった。こうした結果は、第1章および第2章で漠然と見られた傾向を産業の生産活動の側面からも裏付ける結果となった。本論文での研究はアメリカを事例に行った。しかし、多くの国についても同様の分析が可能であり、その国際比較もまた可能である。長期時系列データや産業連関表を用いることにより、物事を全体の中で捉えることが可能になる。一部分だけを観察していては見過ごしてしまう事象も巨視的に観察すれば見える場合があるのである。
著者
横山 幸滿 今泉 繁良 上野 勝利 水沼 孝恵
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.1997, no.568, pp.113-123, 1997-06-21 (Released:2010-08-24)
参考文献数
22

平成元年から同3年にかけて, 宇都宮市西郊の大谷石採取場で3,300m2にも及ぶ大規模な地下空洞陥没事故が発生し, その後引続き陥没事故が発生して社会的関心を集めた. 本論文ではまずはじめに大谷石の力学的性質, 特に一軸圧縮強度に及ぼす乾燥-湿潤履歴とクリープ破壊の影響を調べ, その後陥没のメカニズムについて検討し, 残柱の断面積と間隔について論じている. 更に陥没の発生日時と地球潮汐力との相関を調べ, 臨界状態にある空洞に対し地球潮汐力が陥没のトリガーの一つとなり得ることを述べている.
著者
西野 貴裕 上野 孝司 高橋 明宏 高澤 嘉一 柴田 康行 仲摩 翔太 北野 大
出版者
一般社団法人 日本環境化学会
雑誌
環境化学 (ISSN:09172408)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.177-186, 2013 (Released:2014-06-20)
参考文献数
36
被引用文献数
2 1

13 kind of Perfluorinated compounds (PFCs) in the mainstream of Tamagawa River and its inflows (tributaries, and effluents from Sewage Treatment Plants) were analyzed, and the loads of PFOS, PFOA and other 4 compounds were evaluated. The concentrations of PFOS and PFOA were found to be much lower than those of 2005 since 2009. This result indicates that the Stockholm Convention on Persisitent Organic Pollutants (POPs) and 2010/2015 PFOA Stewardship Program are effective. The cumulative load of PFCs that was accumulated in the inflows sequentially from Nagata Bridge, as the uppermost point in this study, closely resembled the measured load at each sampling point in Tamagawa River. These results indicate that PFCs were scarcely degraded, volatilized, during flow down the river. The ratio of PFCs with longer chain length such as PFUnDA and PFTrDA in sediment samples were much higher than those of water ones.
著者
神山 匠 山口 剛史 野澤 佑介 有坂 安弘 藤原 信里 赤木 翔 小山田 諒 金子 義郎 佐々木 祐実 合田 貴信 村山 美緒 上野 明日香 星合 愛 堀江 康人 杉村 浩之 安 隆則 川本 進也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.7-10, 2023 (Released:2023-01-28)
参考文献数
10

【背景・目的】血液透析中のトラブルの一つに透析回路の血液凝固がある.血液と空気の接触により凝固系が活性化され血栓を形成し凝固することが一因と考えられている.エアフリーチャンバとダイアフラム型圧力測定ポットを導入した透析回路「アーチループ」(AL)は従来型回路と比べ血液と空気の接触面積低減とプライミングボリューム低減という特徴を持つ.この回路の抗凝固特性を従来型回路と比較検討した.【対象・方法】当院通院中の維持透析患者12名を対象に,ALおよび従来型回路を用いて透析を同条件下で行い,透析開始3時間後の活性化凝固時間(activated clotting time:ACT)を測定し,両群で比較検討した.【結果】ACTは,従来型回路と比べALで有意に延長した(165.1±19.0 vs 153.2±15.2秒,p=0.002).止血不良などの出血傾向増強も認めなかった.【結論】アーチループ回路により回路内凝血の減少が期待できるがその効果はまだ限定的で汎用にはさらなる改良が望まれる.
著者
川口 拓海 山本 茂 上野 敏幸
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測自動制御学会論文集 (ISSN:04534654)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.19-25, 2023 (Released:2023-01-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1

Vibration power generation utilizing environmental vibrations to generate electricity has been attracting attention as a sustainable independent power source for such as wireless sensors placed under vibration. For efficient power generation, the resonant frequency of the vibration power generation device must be automatically adjusted to the environmental vibrations. To achieve it, the author's group proposes a method of installing a variable capacitance in the device and adjusting its capacitance by extremum seeking control. In the case of damped vibration applied, even if the amplitude and frequency of the vibration vary randomly if their distributions can be regarded as stationary and identical, an effective extremum seeking control method and its effectiveness are demonstrated using experiments.
著者
上野 崇寿 Ueno Takahisa
出版者
熊本大学
巻号頁・発行日
2009-03-25

本研究の目的はパルスパワー産業応用のために必要な信頼性の向上と長寿命かつコンパクトなパルスパワー発生装置を開発することである。そこで本研究では、半導体スイッチの1つである接合型トランジスタ(Bipolar Junction Transistor:BJT)を用い、素子のパルスパワー発生装置への応用化、並びに全固体素子化された小型磁気圧縮パルスパワー発生装置の開発を行った。
著者
上野 清貴
出版者
中央大学商学研究会
雑誌
商学論纂 (ISSN:02867702)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1-2, pp.35-71, 2019-09-10
著者
三上 修 森本 元 上野 裕介
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

「電柱(腕金)」と「道路標識(固定式視線誘導柱)」という大量にある人工構造物に、鳥類が営巣することが知られている。北海道全体で、これらの構造物に鳥類がどれだけ営巣しているのか、逆に言えば人間はそれらの人工構造物を作ることで、鳥類にどれくらいの営巣場所を提供しているのかを明らかにすることを目的とする。
著者
上野 裕久
出版者
The Japanese Association of Sociology of Law
雑誌
法社会学 (ISSN:04376161)
巻号頁・発行日
vol.1954, no.5, pp.137-154, 1954-04-30 (Released:2009-04-03)
参考文献数
11
著者
木村 映善 上野 悟
出版者
National Institute of Public Health
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.52-62, 2020-02-01 (Released:2020-03-12)
参考文献数
48
被引用文献数
1

日本は保険の種類にかかわらず単一の公定価格を設定した診療報酬点数表にもとづき,診療報酬を決定する制度を採用し,早くから病名や医薬品に関するマスターを策定してきた.世界に先駆けて導入された診療報酬請求に特化したレセコンの成功は,一方で皮肉にもパーソナルコンピュータ時代にあわせた医療情報システム,電子カルテへの移行を妨げた要因とも見做しうる.ネットワーク技術が普及し,部門システムの接続が増えると相互運用性が課題となった.1980年代に米国でHL7協会が設立された時に,我が国では一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会の前身である日本保健医療情報システム工業会,そして日本HL7協会が設立され,我が国における医療情報システムと標準規格の開発を牽引してきた.2001年の保健医療情報分野の情報化にむけてのグランドデザインを契機として我が国における電子カルテ普及と医療情報標準規格の開発の推進がなされた.2007年に一般社団法人医療情報標準化推進協議会(HELICS)が設立された.HELICSは厚生労働省標準規格として認定すべき標準規格を検討し医療情報標準化指針として採択している.HL 7 2.x,HL7 CDA,IHEのプロファイル,DICOM等国際標準規格を取り入れ,日本の事情にあわせた実装ガイドラインが多数公開されている.また,世界的にも注目されている我が国特有の取り組みとして特定健康診査・特定保健指導があり,HL7 CDAを用いたデータ交換規約が発表されている.独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)は医薬品などの健康被害救済,承認審査,安全対策を担当する規制当局として,CDISC標準を中心とした標準医療情報規格を利用したデータ収集に取り組んでいる.現状ではHL 2.xやCDAを中心とした標準規格が発表されたばかりであるため,当面はこれらの規格と我が国独自の統制用語集を用いたシステム運用が続く.FHIRに関する議論は緒に就いたばかりであり,これまでの標準規格で考慮されていないアプリケーションへの適応や,従来の相互運用性確保に関する資産をFHIRに如何に継承するかの議論がなされることが予想される.
著者
上野 善道
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.130, pp.1-42, 2006 (Released:2021-09-15)
参考文献数
31

現代方言と古文献資料に基づき,本土諸方言のアクセント祖体系を考える.高起群には従来の「高高高高…」の式音調を改訂して「高高中中…」の下降式を建てる.低起群には去声始まりのアクセント型などを組み込む.全体として,下降式と低進式の2つの式,それに昇り核と下げ核の2つの核からなる,従来よりも対立数を増やした私案を述べる.
著者
横川 和章 上野 徳美
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.61-67, 1982-08-20 (Released:2010-11-26)
参考文献数
18

本研究の目的は, 集団極化現象の生起するメカニズムについて, 社会的比較説の立場から検討することであった。特に, 能力比較を基礎とした意見の比較が, 同質的集団内で生起する極化現象のメカニズムとして意味があるか否かを検討した。被験者は83名で, 彼らは, 比較の対象となる他者が高い能力をもつ条件 (H条件), 平均的な能力をもつ条件 (M条件) の実験条件, および統制条件にそれぞれ無作為に割り当てられた。実験条件の被験者は, 他者の意見 (アドバイスの平均値) に接触した。比較の対象となる他者は同じクラスの学生であった。材料としてはCDQ (Choice Dilemma Questionnaire) 4事例が用いられた。主な結果は以下の通りであった。事例1では, H条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。すなわち高能力の他者との比較を通して極化現象が生起した。事例3でも同様にH条件においてriskyな方向への意見変化がみられた。また, アドバイスの初期態度の位置によって極化の程度が異なる傾向にあった。以上の結果は, 能力比較を基礎とした意見の比較が起こり得ることを示しており, 自分よりある程度能力の高い他者との比較を通して集団極化現象が生起することを示唆するものであった。また, 筆者らの前研究との考察において, 比較他者の属する集団の性質, すなわち, 被験者にとって同質的であるか, 異質的であるかによって集団極化現象の生起の様相の異なることが示唆された。