著者
伊藤 悟
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.103-118, 1986-12-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本研究は,東京大都市圏を事例として距離の摩擦の側面を解明することを目的とした.そのために,発生制約型のエントロピー最大化モデルを,東京大都市圏内の自動車交通流に適用することによって,第1に,同モデルの距離パラメータの地域的パターンを抽出し,第2に,同パラメータに共存する行動・配置の各要素の効果を峻別し,さらに第3に,距離の摩擦の測度である行動要素に関連する地域的属性を追求した.以下は,本研究の成果を要約したものである. 1. 一般化HYMAN法によって推定された距離パラメータは,東京大都市圏の中心部と縁辺地帯において低く,逆にそれらの中間地帯において高い.すなわち,距離パラメータの地域的パターンはドーナツ状の構造を示す. 2. 指数型の距離逓減を示す仮想的流動を用いて配置要素のみを導出した結果,東京大都市圏の中心部から縁辺地帯に向けて,この要素は次第に増加する傾向を明確に示す. 3. 距離パラメータから配置要素を減じた残差として行動要素を峻別した結果,その行動要素の地域的パターンは,距離パラメータの場合ほど明瞭ではないものの,同様にドーナツ状の構造を示す. 4. 行動要素を規定する地域的属性は卸・小売業,不動産業および,農林水産業の特化であり,行動要素すなわち距離の摩擦と,これらの地域的属性の両者からみた東京大都市圏は, 8つの類型地区が織り成す同心円構造を呈する.
著者
堤 純 須賀 伸一 生澤 英之 原澤 亮太 鵜川 義弘 福地 彩 伊藤 悟 秋本 弘章 井田 仁康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

本研究では,iOSおよびAndroid OSのタブレット端末やスマートフォン用のアプリであるjunaio(ドイツのmetaio社が開発した無償ARビューア)を用い,群馬県立前橋商業高校における研究授業の実践などを通して,高等学校地理授業における位置情報型ARの利活用の可能性について検討した。このシステムを構築したことにより,群馬県高等学校教育研究会地理部会のメンバーならば誰でも情報を加除修正できるため,メンバー教員全員が授業用コンテンツづくりに積極的に関わることができるようになった。すなわち,GISのスキルに長けた一部の教員のみに多大な負担をかけてしまうことなく,「シェア型」,あるいは「情報共有型」ともいうべき授業用のARコンテンツが作成できるようになった。本研究のARシステムは,魅力的な地理教材作成において,今後の発展のポテンシャルが高いと思われる。<br>2015年1月に,群馬県立前橋商業高等学校2年生4クラス(160名)を対象とした地理Aの授業では,地域調査の単元(全6時間で計画した「前橋市の地域調査」)において,最初の1時間目をARシステムを援用した地域概観の把握とした。すなわち,高校最上階7階の教室窓から遠方に眺められる建物(高層ビル)について,その名称や用途・高さ・完成年等を,ARシステムを通じて確認しながら,前橋市の都市構造の理解に努めた。その結果,前橋駅南北での開発状況の比較や高崎市との都市機能の違いなどを,現地まで出かけなくても高校の校舎内に居ながら体感することができた。
著者
秋本 弘章 秋本 洋子 伊藤 悟 鵜川 義弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

<b>フィールドワークにおけるARシステム活用の意義 </b>高校地理教育においてフィールドワークは重要であることは言うまでもない.しかし,効果的な実施ができていないという報告がある.10人程度の少人数であればともかく,クラス単位や学年行事として実施をする場合,フィールドで適切な指示が難しいからである.スマートフォンによるARシステムは,フィールドで,実際の地理的事象を観察しながら,その地理的背景の探求や理解を助ける情報を提供するものである.このようなAR機能をもつGISが教育現場に提供できれば,野外観察をより効果的に実施することができる.<b></b> そもそもARシステムは,スマートフォンやタブレット端末での利用を前提に開発されてきた技術である.これらの端末が広く普及すれば,ARは容易に利用できることになる.ここ数年におけるスマートフォンの急速な普及は誰もが認識している通りである.実践を行った早稲田高校においてもほとんどの生徒が所有し,日常的に利用していため,新たなアプリを使うことに対しても抵抗感はほとんどななかった.なお,校内においては通常スマートフォンの利用は禁止している.学習活動に利用するという目的で時間と場所を限って許可を与えて行った. <b>教材の開発と実践 </b>教材の開発は,昨年の春から行った.グループ学習という前提であるため,グループで見学コースを決めてまわることができるように,多数の観察ポイントを用意した.具体的には都内の100個所以上の見学個所として,質問項目を作成した.これらの質問項目は,Google Mapsのマイマップの機能を使って登録したうえで、AR機能を持つアプリであるWikitudeに書き込んだ. 授業実践は,早稲田高校1年生を対象に行った。従来関西研修旅行の予行として都内近郊でグループ学習を行っていた時間を使った.全体集会においてスマートフォンのアプリの利用方法等を伝えるとともにHRの時間を使ってグループワークのコースを作成させた。そのうえでフィールドワークではARシステム等を使って,スマートフォン上に提示される観察ポイントをめぐり,観察ポイントごとに示された課題を回答する.フィールドワーク終了後,江戸から東京への変遷、地形的特色などをまとめたレポートを提出させた. <b>授業実践の効果 </b>早稲田高校の生徒は,中学校の社会科地理の時間に学校周辺の引率型のフィールドワークを経験している.また,理科の授業でも野外観察も行っている.そのため,「教室の外」での学習が効果的なことを理解していたようである.また,スマートフォンを使って観察ポイントを探すという方法は「ゲーム感覚があり,楽しかった.」と好評であった.しかし,生徒は東京およびその周辺在住していながら,観察ポイントのほとんどを訪れたことなかったと回答している.その意味でも大きな意義があったと思われる.また,引率を担当した学年の先生方からも,生徒がグループで協力しながら学習を進めている姿に好意的な感想が寄せられた.観察ポイントについても,新たな東京の姿を発見できたなど高い評価を得た.もちろん,改善点もある.システム上の問題としてはWikitudeが古い機種のスマートフォンでは作動しないことである.また,当時の我々の技術では写真等を載せることができなかった.実践上の問題としては、時間内の回ることができなかったグループが多かったことである。見学範囲,見学個所の整理が必要かもしれない.
著者
山下 博樹 藤井 正 伊藤 悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.125, 2005

1.はじめに 成熟時代を迎えた欧米をはじめとする多くの先進諸国では、20世紀に拡散・肥大化した都市地域をいかに持続可能なかたちに再構成するかが、都市政策の主要テーマのひとつとなりつつある。オーストラリア第2の都市であるメルボルンでもその都市圏の市街地は拡大の一途をたどり、住居・商業施設などの郊外化が進展した。しかし、そのような状況の中、メルボルンが位置するビクトリア州政府は都市圏の無秩序で拡散的な拡大を防ぐために、1970年代より郊外核となるアクティビティ・センターと都心の一体的な整備・開発を行ってきた。本報告では、地域住民の日常的な生活行動と関わりの深いショッピングセンターの立地動向より、メルボルン都市圏の地域構造の一端を明らかにする。さらに、アクティビティ・センター開発の特徴について述べる。2.ショッピングセンターの立地展開 メルボルン都市圏の人口336.7万人(2001年センサス)は、メルボルン市を中心にやや東に偏って分布している。その結果、主要なショッピングセンターの立地もそれに類似した傾向を示している。都市圏内に立地するショッピングセンターは、156カ所でその総売場面積は約255万_m2_である。メルボルン都心部に立地するのは10カ所、約13万_m2_に過ぎず、商業施設立地の郊外化が顕著である。売場面積が8.5万_m2_を超えるスーパーリージョナル型は4カ所、5万_から_8.5万_m2_のメジャーリージョナル型は12カ所となっている。ショッピングセンターの立地は、1970年代以後急速に進められたが、90年代後半よりその新規立地は減少傾向にある。3.アクティビティ・センターの開発 アクティビティ・センターの開発構想は、1970年代にさかのぼる。アクティビティ・センター開発の目的は、鉄道などの公共交通利用を基本とした、小売、サービス、オフィスなどの土地利用のミックス化と就業空間の形成である。その背景には公共交通利用の促進や職住接近などによる持続可能性の高いまちづくりがある。アクティビティ・センター開発の基本的な特徴は次のようにまとめられる。_丸1_アクティビティ・センターの開発は基本的には州が基本方針を立て、各自治体がそれを実行している。_丸2_その財源の確保は、基本的にはケースバイケースである。_丸3_郊外間を結ぶ公共交通は、アクティビティ・センター間をバスで結ぶ形で整備を進めている。_丸4_新規のショッピングセンターの開発は、ゾーニングにより基本的にはアクティビティ・センターへ誘導される。アクティビティ・センター以外へのショッピングセンターの開発などは、各自治体が調整を行っている。_丸5_郊外型の大規模ショッピングセンターもバスなどのアクセスを増やし、公共交通体系の中に位置づけている。 本研究を行うに際し、平成16_から_17年度科学研究費補助金基盤研究(C)(1)「成熟時代における都市圏構造の再編とリバブル・シティの空間構造に関する地理学的研究」(研究代表者:山下博樹)の一部を使用した。メルボルン都市圏における主要シヨッピングセンターの立地 1:メルボルン都心部 2:スーパーリージョナル型(売場面積8.5万_m2_以上)3:メジャーリージョナル型( 〃 5万_から_8.5万_m2_)4:リージョナル型( 〃 3万_から_5万_m2_) 資料:『Shopping Centre Directory Victoria & Tasmania (PROPERTY COUNCIL OF AUSTRALIA 刊)』より作成
著者
藤井 正 伊東 理 伊藤 悟 谷 謙二 堤 純 富田 和昭 豊田 哲也 松原 光也 山下 博樹 山下 宗利 浅川 達人 高木 恒一 谷口 守 山下 潤
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

まず、多核的都市圏構造の研究を整理・展望し、空間的構造の変化に関して社会的メカニズムを含め、地理学と社会学からの分析を行い、同心円的なパターンから地区の社会的特性によるモザイク化、生活空間の縮小の傾向を明らかにした。これは都市整備面では、多核の個性を生かし、公共交通で結合する多核的コンパクトシティ整備を指向するものとなる。こうした整備についても、中心地群の再編等の動向について国際比較研究を展開した。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
根田 克彦 伊藤 悟
出版者
奈良教育大学
雑誌
奈良教育大学紀要. 人文・社会科学 (ISSN:05472393)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.149-163, 2004-10-29
被引用文献数
1

The purpose of this study is to examine the development of shopping centers and retail land use in the Downtown area of Boston. This research focused on retail land use in the central shopping district, Back Bay and Beacon Hill In the Boston metropolitan area, there are nine super-regional shopping centers but they were not located in the City of Boston in 2002. However, there were two exclusive regional shopping centers and a festival marketplace in Downtown Boston. In the central shopping district, historical buildings are preserved and retail businesses are located on ground levels primarily as Boston Zoning Code regulate. In Back Bay and Beacon Hill, exterior architectural features are preserved within historic districts. Newbury Street is a main shopping street in Back Bay. Many exclusive speciality retail stores stand close together along both sides of this street and there are famous exclusive hotels in Back Bay. Charles Street, which is the main shopping street in Beacon Hills, has the characteristics of a neighborhood shopping street. Many high-income households have been situated in Back Bay and Beacon Hill from the nineteenth century. Shopping streets in Back Bay and Beacon Hill have been supported by these high-income households and tourists. The retail stores in Downtown Boston attract many people because the historical landscape and retail businesses are preserved by Boston Zoning Code.
著者
若林 芳樹 伊藤 悟
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.3, pp.221-232, 1994-06-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
34
被引用文献数
2 6

Geographical approach to cognitive maps has mainly focused on measurement of their spatial patterns. Recently Lloyd (1989) devised a useful method for analyzing the components of distortions in cognitive maps by means of Euclidean regression. Until now, however, this method has not yet been validated. The purpose of this study was to reexamine his concepts about the distortions in cognitive maps and to test their validity.We pointed out several discrepancies between the concepts of distortions and their operational definitions given by Lloyd (1989). To overcome this problem, the absolute distortion that appears in the configuration before Euclidean regression ought to be distinguished from the systematic distortion that is measured by the parameters of Euclidean regression. While the systematic distortion that indicates a Euclidean property of the distortion can be explained by alignment and rotation heuristics (Tversky, 1981) and implicit scaling model (Holyoak and Mah, 1982), the relative distortion that remains after Euclidean regression cannot be explained by general theories. In addition, these geometrical components of distortion ought to be distinguished from statistical ones, namely, distortion (central tendency) and fuzziness (dispersion) defined by Gale (1982).On the basis of this conceptualization, we carried out an empirical analysis of the distortion in the cognitive map of Kanazawa City. The data used in this study were obtained by a conditional sketch mapping drawn from 113 students of Kanazawa University. Locations to be answered were 21 transportation nodes within the central part of the city known by more than 90 percent of the students. From these locations, two major landmarks of CBD were selected as reference points. Subjects were asked to indicate the remaining 19 locations on the legal-size sheet in which the two reference points were printed.We detected the absolute distortions, overlaying the cognitive maps for all samples on the actual map so as to fit the locations of two reference points into the actual ones. The patterns of the absolute distortion indicated that the amount of errors increased with distance from the reference points, and that the locations in cognitive maps commonly shifted outward from the actual ones. Specifically, these displaced locations in southern or eastern part of the city indicated a counterclockwise shift, which suggested a directional bias in cognitive maps.In order to separate the systematic distortion from the relative one, each of the cognitive configurations was fitted into the actual map by Euclidean regression. Parameter estimates of the scale change averaged 0.593, which suggested that cognitive maps were enlarged about twice the size of the actual map. Mean direction of the rotated angle amounted to-22.2 degrees, which implied that cognitive maps were rotated counterclockwise about 20 degrees from the actual map so as to coordinate the cardinal directions of the cognitive map with the actual one. This tendency can be due to the displacement of two river channels as major reference lines in Kanazawa from cardinal directions.After eliminating the systematic distortions by Euclidean regression, the actual map was overlaid with all the cognitive maps. The overlaid maps indicated that the local patterns of relative distortions reflected hierarchical structure of cognitive maps (Stevens and Coupe, 1978) although the amount of them was smaller than that of the systematic distortions.