著者
伊藤 祐康
出版者
国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

現在、発達障害児童の割合は多くなってきており、その理解と対応は急務となってきている。こういった割合の高さからも教育的なニーズが高まっており、その機序の解明は重要である。これまで自閉症に関して認知科学の視点からコネクショニスト・モデルが提唱されており、特に線形分離できない課題が自閉症者で難しいことが指摘されている。しかし、論理演算を組み込んだ行動実験はこれまでないためおもちゃに論理演算を組み込んだ実験を行い、自閉症児と定型発達児で比べてみる研究を行った。
著者
松崎 哲也 若菜 茂晴 江袋 進 伊藤 守 神谷 正男
出版者
公益社団法人 日本実験動物学会
雑誌
Experimental Animals
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.161-166, 1992

エゾヤチネズミ (<I>Clethrionomys rufocanus bedfordiae</I>) の実験動物化を目的として, 北海道当別町で捕獲された野生エゾヤチネズミを用いた実験室内繁殖の成績を報告する。エゾヤチネズミの繁殖成績について見ると, 2年間 (1987-1988) の成績では, 妊娠率は35.4%, 出産率94.6%, 離乳率は79.5%と比較的良好であった。産仔数は1-9匹と幅があり, 平均5.1±1.6匹であった。また, 妊娠期間は18-22日であり, 平均20.0士0.7日であった。以上の結果から, エゾヤチネズミの実験室内繁殖は, 既存の市販固形飼料の給与により回転輪を使用せずに可能であった。また, 今回系統化を進めるため, 実験室内繁殖に用いた野生エゾヤチネズミにおけるミトコンドリアDNAの変異を調べた結果, 切断パターンに4型が存在することが明らかとなった。
著者
松井 知之 高島 誠 池田 巧 北條 達也 長谷 斉 森原 徹 東 善一 木田 圭重 瀬尾 和弥 平本 真知子 伊藤 盛春 吉田 昌平 岩根 浩二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1122, 2010

【目的】われわれは整形外科医師の協力を得て,理学療法士(以下PT),トレーナーでメディカルサポートチームを有志で組織し,スポーツ選手の肩肘関節疾患の障害予防と治療を目的に2008年から活動を行っている.今回その活動内容と特徴について報告する.<BR>【方法】1. 京都府高校野球連盟(以下高野連)からの依頼によって,京都府高校野球地方大会のサポートを,PT,医師,トレーナーが協力して行っている.具体的には,試合前検診,処置,試合中の救急対応,試合後の検診およびアイシング,コンディショニングを行い,選手が安心,安全にプレーできるようにサポートしている.<BR>2.中学生,高校生の野球選手に対してシーズンオフである冬季に行われる技術・トレーニング講習会で検診を行っている.医師による肩肘超音波検査,PT3名,1グループによる理学所見評価を行い,トレーナーがコンディショニングを指導している.<BR>3.肩肘関節の障害を認め,保存療法が必要な選手を月2回医師,PT,およびトレーナーでリハビリテーション加療を当院で行っている.<BR>4.月一回,PTが中心となって円滑な情報交換を行うことを目的に勉強会を行い,多施設(病院およびスポーツ現場を含む)共通の問診表,評価項目,投球復帰プログラムの作成を行っている. <BR>【説明と同意】京都府高校野球地方大会のサポートに関しては,高野連から各チームに事前通達を行った.またわれわれも大会前の抽選会,試合前のコイントス時に部長,主将に説明し,試合前後の検診やコンディショニング指導を行っている.検診事業も,原則希望者のみとし,施行するにあたっては,監督,保護者,選手に十分な説明と同意を得た上で実施している.<BR>【結果】1.京都府高校野球大会のサポートは,春・夏・秋の準々決勝から行った.2009年秋季大会では,登板投手24名中,検診およびコンディショニングを実施したのが14名,アイシングのみ実施が3名であった.<BR>2.検診事業は,昨年投手68名に対し,肘関節の超音波検査および理学検査を行った.その際超音波検査で上腕骨小頭障害の投手は5名であった.同年12月には中学生野球教室の際に287名に対し肘関節の超音波検査,投手57名に理学検査を行った.上腕骨小頭障害の選手は8名であった.いずれの検診の際も,検診結果のフィードバックおよびコンディショニング内容のパンフレットを配布し指導を行った.<BR>3.2008年6月から2009年10月までに当院スポーツリハビリテーションに受診した選手は,小・中学生7名,高校生24名,大学・社会人が24名であった.うち投球障害肘が16名,投球障害肩が31名,その他8名であった.多施設間の情報交換資料として,問診表から評価表を作成した.<BR>【考察】京都府高校野球大会のサポートとしては,抽選会時などにメディカルサポートチームの案内に加え,傷害予防,熱中症対策など講演を行い,啓蒙活動を行った.大会中には,投球直後の身体所見を評価し,コンディショニング指導を行った.コンディショニングに関しては,どこまでわれわれが介入するか,難しい問題であるが,コンディショニングの大切さを啓蒙することが重要と考えている.大会サポートに関しても,選手のみならず,可能な限り指導者とコミュニケーションを図る必要があると考える.<BR>検診事業は,ポータブル超音波機器を使用することで,障害の早期発見,早<BR>期治療が可能であり,フィールドで簡便に行える有用な評価法とされ,われわれも導入した.PT3名1グループによる理学所見検査によって,正確なデータを蓄積し,それを分析することで,根拠ある評価,治療を確立し,障害予防に寄与すると考えた.しかし,検診の開催時期,二次検診などフォローアップに関する問題点も多く,今後の課題である.当院スポーツリハビリテーション受診数は増加傾向にあるが,現状は月2回程度の実施であり,多施設で協力して診療を行う必要であり,施設間における共通の評価,投球障害復帰プログラムの作成の必要性が生じる.これによって,選手の現状把握が容易となり,円滑な情報交換が行なえると考えた.また,診療場面に多くのスタッフが集まることで,実際の評価,診療内容を共有可能であり,選手の問題点についても討論することも可能であった.しかし医師,PTおよびトレーナーの連携は良好だが,指導者や家族とのコミュニケーションは十分とは言えず,今後の課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】われわれの取り組みは,多くの職種との連携を重視したものである.投球障害の治療は原則保存療法であり,PTが担う役割は大きいが,投球障害を有する選手の競技復帰は,医師や現場のトレーナーなど多職種との連携,協力が必要である.本活動は,他府県の活動を参考にしているが,今後このような活動を行う方への参考になれればと考える.
著者
伊藤 和憲
出版者
専修大学商学研究所
雑誌
専修ビジネス・レビュー (ISSN:18808174)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.97-107, 2007

バランスト・スコアカードは、戦略マップを策定し、その戦略マップを構成する戦略目標について適切な指標によって管理するマネジメント・システムである。戦略実行として、戦略目標を設定するだけでなく、戦略的実施項目を実施するには多額の支出が必要となる。これらの戦略的実施項目の支出合計は、戦略予算によって制約される。戦略を確実に実行するには、すべての戦略的実施項目を実施しなければならない。ところが、戦略予算あるいはキャパシティに制約があるとき、すべての戦略的実施項目を同時に開始できるとは限らない。ここに戦略的実施項目の優先順位づけが求められる。戦略的実施項目の優先順位付けについては、これまでもいくつか事例紹介されている。本稿ではこれらの優先順位づけ方法の欠点である恣意性を排除する新たな提案を行う。Balanced scorecard is a management system to develop strategy maps and to manage indicators which are a measure of strategic objectives. For implementing strategies, companies have to not only set the strategic objectives, but also develop strategic initiatives for the way to fill a gap ob between targets and actual performances. To execute the strategic initiatives, companies have to prepare number of budget. And the amount of expenditure for caring out the strategic initiatives is constrained by the strategic budget. To attain certainly strategies, companies have to implement all strategic initiatives. However, when companies have the constraint of strategic budget or capacity, they could not implement simultaneously all strategic initiatives. Then these companies have to make a priority of the initiatives. Some authors wrote how to make the priority already. The aim of this paper is to propose new priority.
著者
中谷 貴壽 宇佐美 真一 伊藤 建夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.204-216, 2012
参考文献数
30

日本列島は氷河期には大陸と繋がっていた時代があり,その期間には大陸起源の北方系生物は分布を拡大し,間氷期にはこれらの生物は大陸へ避難し,あるいは一部の個体群を除いて絶滅したと考えられてきた.しかし,筆者らの高山蝶に関する研究によると,ベニヒカゲは古い時代の氷河期に渡来し,間氷期にも日本列島の高山帯で複数の個体群が生き残り,互いに生殖隔離された結果列島内で複数の系統に分化した後に,次の氷河期に分布を拡大するというサイクルを繰り返してきたことが明らかになった(複数レフュジア・モデル).これはヨツバシオガマ他数種の高山植物で明らかにされたシナリオ,初めの氷河期に大陸から渡来した系統が間氷期に本州中部山岳で生き残り,次の氷河期に新たに侵入した系統が東北地方以北に分布するという時間差侵入仮説(単一レフュジア・モデル)とは異なる.本研究ではサハリンを含む日本列島から17のハプロタイプを見出した.複数地域または複数サンプルから検出された系統的意義を有するハプロタイプは,本州では飛騨山脈北部・白山,飛騨山脈南部,八ヶ岳,木曽山脈,赤石山脈の5系統に,また北海道では大雪山の高標高部と山麓の低標高部の2系統に分かれている(利尻島高山帯にも孤立した個体群が分布するが未検).サハリン,北海道,本州の個体群は,過去の異所的分断により分断分布を成している事が明らかである.本州では飛騨山脈で複数のハプロタイプが混生しており,複数のイベントによって現在の分布が形成されたと考えられるので,NCPAにより過去の分布変遷史を推定した結果,5つのクレードで統計的に有意なイベントが推定された.それによると,クモマベニヒカゲの中部山岳地域における分布の変遷は,分断と拡散の繰り返しであることが示唆された.日本列島における分布変遷 日本列島へ進出したクモマベニヒカゲの個体群は,サハリン・北海道・本州の現在の分布域を包含する地域に分布を広げた.その後の温暖期にサハリン,北海道,本州のレフュジアに分断され,それぞれが別々の系統に分化した.次の温暖期に,本州の中部山岳地域では飛騨山脈北部系統,同南部系統,赤石山脈・木曽山脈系統の3系統に分断された.続く氷河期に分布を拡大し,飛騨山脈の北部系統と南部系統は,後立山連峰の針ノ木岳付近(以後針ノ木ギャップと呼ぶ)で混生地帯を形成した.さらにその後の温暖期に現在見るような離散分布が形成された.ベニヒカゲとの比較による系統地理的な特徴 広域に分布するハプロタイプの系統関係を概観すると,両種ともに飛騨山脈と赤石山脈産のハプロタイプの間に大きな遺伝的差異のあることが示される.初期の単一な遺伝的組成をもつ集団が,その後の温暖期に分布を縮小する過程で飛騨山脈と赤石山脈に分布する二つの個体群に分断された結果,二つの系統に分岐したことを示唆している.飛騨山脈と赤石山脈のレフュジアに源を発する2系統の遺伝的距離は,ベニヒカゲとクモマベニヒカゲとの間で差異があり,分岐年代には若干の差があったと考えられる.またベニヒカゲとクモマベニヒカゲ共に,赤石山脈の系統は,飛騨山脈系統の北部集団とより近縁である事は,その後の気候変動に適応して分布を拡大したルートが両種で類似している可能性を示唆している.飛騨山脈では,ベニヒカゲは単一のハプロタイプが産するが,クモマベニヒカゲでは針ノ木ギャップで混生地を挟んで南北2系統に分かれており,両系統の間に2塩基の差が認められる点が大きく異なる.白山山系は飛騨山脈とは地理的に非常に離れているがベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ(クモマベニは飛騨山脈の北部系統)共に同じハプロタイプが分布しており,二つの山系の個体群間ではきわめて最近まで遺伝的交流のあったことが示唆される.八ヶ岳では,ベニヒカゲは飛騨山脈と同一のハプロタイプが,またクモマベニヒカゲは飛騨山脈の南部系統と1塩基差の近縁なハプロタイプが見出され,両地域の個体群の近縁性が示唆される.これに対して木曽山脈では,ベニヒカゲは飛騨山脈と共通のハプロタイプが見出されるのに対して,クモマベニヒカゲでは赤石山脈と近縁であり,木曽山脈の個体群の分布変遷は両種の間で異なっていた可能性が示唆される.一方サハリンと北海道の個体群に関しては,ベニヒカゲは共通のハプロタイプが分布するなど,最近まで遺伝的交流があったことが示唆されるが,クモマベニヒカゲの個体群は遺伝的に非常に異なっており,古くから生殖隔離が続いていることが示唆された.ベニヒカゲとクモマベニヒカゲは同じ属に含まれる近縁種であり,また生息環境も似ているが,いくつかの地域では異なる分布変遷史をたどったようだ.このように種によって生殖隔離の始まった時期や場所が異なる事例はヨーロッパでも知られている.Erebia medusaはヨーロッパでは針葉樹林内の草原を主たる生息地としているが,ルーマニアとブルガリアの28集団について調べた研究によると,ドナウ河を挟んで南北2系統に分断されており,最終氷期にそれぞれの集団が分布を拡大したもののドナウ河を越えて遺伝的交流が成されることはなかったとしている.一方E.medusaと同様に針葉樹林内の草原を主たる生息地として広域分布するErebia euryaleでは,ルーマニア産とブルガリア産は遺伝的によく似ており,最終氷期以降にドナウ河を越えて遺伝的交流があったとする研究がある.このように大陸内でしかも生息環境が類似した種でも,第四紀の氷河サイクルに対する適応は種によって異なる事例があるように,日本列島内における第四紀の気候変動に対する高山蝶の適応は,種特異的ないろいろなパターンが存在することが強く示唆される.針ノ木ギャップの生態的意義 すでに述べたように,飛騨山脈におけるクモマベニヒカゲのハプロタイプは,鹿島槍ヶ岳から烏帽子岳に至る針ノ木ギャップで2系統の混生地帯が見られる.タカネヒカゲは標高約2,700m以上の岩礫帯からハイマツ帯にかけての高山帯にのみ生息する真性高山蝶で,針ノ木ギャップ付近では爺ヶ岳から烏帽子岳の間で分布を欠いており,雪倉岳から鹿島槍ヶ岳・布引山にかけて分布する北部系統と,烏帽子岳以南に分布する南部系統に分岐している.一方,ベニヒカゲは針ノ木ギャップを含む飛騨山脈全域に単一の系統が分布する.針ノ木ギャップ付近におけるこれら3種の高山蝶の分布状況は,種の標高に対する適応の度合いを反映したものとなっている.針ノ木ギャップ付近の地形および植生をみると,全体に標高が約2500-2600mと低いために尾根の多くが樹林帯で覆われており,冬季季節風の風上に当たる尾根の西側では樹林が尾根まで迫り,風下側の東側は雪崩によって削られた急峻な崩落地形となり,あるいは両側の切り立った狭い尾根が断続的に見られる.急峻な崩落地にはイネ科やカヤツリグサ科の遷移途上の草地すら見られない.蓮華岳の頂上付近にのみ広い緩傾斜の砂礫帯があり,コマクサが大群落を形成するがハイマツはあまり生えていない.このような植生が,イネ科やカヤツリグサ科植物を食草とする高山蝶たち(タカネヒカゲ,クモマベニヒカゲ,ベニヒカゲ)の分布を規制しているものと考えられる.針ノ木ギャップ付近におけるタカネヒカゲの不連続分布の原因を約10万年前の立山噴火による噴出物の堆積に求める説もあるが,3種の高山蝶にみられる分布パターンは,それぞれの種が持つ高度適応力の強さを反映しており,生態的要因がより強く働いた結果であると考えられる.従来は日本列島の生物相形成に関して,大陸からの複数回の進出によって氷河サイクルに適応したとする事例(単一レフュジア・モデル)が指摘されるケースが多かった.しかし筆者らによるベニヒカゲやタカネヒカゲ,さらには今回報告したクモマベニヒカゲの研究で示唆されるように,高山性生物の種によっては古くから日本列島に侵出し,日本列島内で氷河サイクルを通じて分布の分断・拡張を繰返してきたケース(複数レフュジア・モデル)が少なくないことが伺われる.
著者
中谷 貴壽 宇佐美 真一 伊藤 建夫
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.204-216, 2012-12-28 (Released:2017-08-10)
参考文献数
30

日本列島は氷河期には大陸と繋がっていた時代があり,その期間には大陸起源の北方系生物は分布を拡大し,間氷期にはこれらの生物は大陸へ避難し,あるいは一部の個体群を除いて絶滅したと考えられてきた.しかし,筆者らの高山蝶に関する研究によると,ベニヒカゲは古い時代の氷河期に渡来し,間氷期にも日本列島の高山帯で複数の個体群が生き残り,互いに生殖隔離された結果列島内で複数の系統に分化した後に,次の氷河期に分布を拡大するというサイクルを繰り返してきたことが明らかになった(複数レフュジア・モデル).これはヨツバシオガマ他数種の高山植物で明らかにされたシナリオ,初めの氷河期に大陸から渡来した系統が間氷期に本州中部山岳で生き残り,次の氷河期に新たに侵入した系統が東北地方以北に分布するという時間差侵入仮説(単一レフュジア・モデル)とは異なる.本研究ではサハリンを含む日本列島から17のハプロタイプを見出した.複数地域または複数サンプルから検出された系統的意義を有するハプロタイプは,本州では飛騨山脈北部・白山,飛騨山脈南部,八ヶ岳,木曽山脈,赤石山脈の5系統に,また北海道では大雪山の高標高部と山麓の低標高部の2系統に分かれている(利尻島高山帯にも孤立した個体群が分布するが未検).サハリン,北海道,本州の個体群は,過去の異所的分断により分断分布を成している事が明らかである.本州では飛騨山脈で複数のハプロタイプが混生しており,複数のイベントによって現在の分布が形成されたと考えられるので,NCPAにより過去の分布変遷史を推定した結果,5つのクレードで統計的に有意なイベントが推定された.それによると,クモマベニヒカゲの中部山岳地域における分布の変遷は,分断と拡散の繰り返しであることが示唆された.日本列島における分布変遷 日本列島へ進出したクモマベニヒカゲの個体群は,サハリン・北海道・本州の現在の分布域を包含する地域に分布を広げた.その後の温暖期にサハリン,北海道,本州のレフュジアに分断され,それぞれが別々の系統に分化した.次の温暖期に,本州の中部山岳地域では飛騨山脈北部系統,同南部系統,赤石山脈・木曽山脈系統の3系統に分断された.続く氷河期に分布を拡大し,飛騨山脈の北部系統と南部系統は,後立山連峰の針ノ木岳付近(以後針ノ木ギャップと呼ぶ)で混生地帯を形成した.さらにその後の温暖期に現在見るような離散分布が形成された.ベニヒカゲとの比較による系統地理的な特徴 広域に分布するハプロタイプの系統関係を概観すると,両種ともに飛騨山脈と赤石山脈産のハプロタイプの間に大きな遺伝的差異のあることが示される.初期の単一な遺伝的組成をもつ集団が,その後の温暖期に分布を縮小する過程で飛騨山脈と赤石山脈に分布する二つの個体群に分断された結果,二つの系統に分岐したことを示唆している.飛騨山脈と赤石山脈のレフュジアに源を発する2系統の遺伝的距離は,ベニヒカゲとクモマベニヒカゲとの間で差異があり,分岐年代には若干の差があったと考えられる.またベニヒカゲとクモマベニヒカゲ共に,赤石山脈の系統は,飛騨山脈系統の北部集団とより近縁である事は,その後の気候変動に適応して分布を拡大したルートが両種で類似している可能性を示唆している.飛騨山脈では,ベニヒカゲは単一のハプロタイプが産するが,クモマベニヒカゲでは針ノ木ギャップで混生地を挟んで南北2系統に分かれており,両系統の間に2塩基の差が認められる点が大きく異なる.白山山系は飛騨山脈とは地理的に非常に離れているがベニヒカゲ,クモマベニヒカゲ(クモマベニは飛騨山脈の北部系統)共に同じハプロタイプが分布しており,二つの山系の個体群間ではきわめて最近まで遺伝的交流のあったことが示唆される.八ヶ岳では,ベニヒカゲは飛騨山脈と同一のハプロタイプが,またクモマベニヒカゲは飛騨山脈の南部系統と1塩基差の近縁なハプロタイプが見出され,両地域の個体群の近縁性が示唆される.これに対して木曽山脈では,ベニヒカゲは飛騨山脈と共通のハプロタイプが見出されるのに対して,クモマベニヒカゲでは赤石山脈と近縁であり,木曽山脈の個体群の分布変遷は両種の間で異なっていた可能性が示唆される.一方サハリンと北海道の個体群に関しては,ベニヒカゲは共通のハプロタイプが分布するなど,最近まで遺伝的交流があったことが示唆されるが,クモマベニヒカゲの個体群は遺伝的に非常に異なっており,古くから生殖隔離が続いていることが示唆された.ベニヒカゲとクモマベニヒカゲは同じ属に含まれる近縁種であり,また生息環境も似ているが,いくつかの地域では異なる分布変遷史をたどったようだ.このように種によって生殖隔離の始まった時期や場所が異なる事例はヨーロッパでも知られている.Erebia medusaはヨーロッパでは針葉樹林内の草原を主たる生息地としているが,ルーマニアとブルガリアの28集団について調べた研究によると,ドナウ河を挟んで南北2系統に分断されており,最終氷期にそれぞれの集団が分布を拡大したもののドナウ河を越えて遺伝的交流が成されることはなかったとしている.一方E.medusaと同様に針葉樹林内の草原を主たる生息地として広域分布するErebia euryaleでは,ルーマニア産とブルガリア産は遺伝的によく似ており,最終氷期以降にドナウ河を越えて遺伝的交流があったとする研究がある.このように大陸内でしかも生息環境が類似した種でも,第四紀の氷河サイクルに対する適応は種によって異なる事例があるように,日本列島内における第四紀の気候変動に対する高山蝶の適応は,種特異的ないろいろなパターンが存在することが強く示唆される.針ノ木ギャップの生態的意義 すでに述べたように,飛騨山脈におけるクモマベニヒカゲのハプロタイプは,鹿島槍ヶ岳から烏帽子岳に至る針ノ木ギャップで2系統の混生地帯が見られる.タカネヒカゲは標高約2,700m以上の岩礫帯からハイマツ帯にかけての高山帯にのみ生息する真性高山蝶で,針ノ木ギャップ付近では爺ヶ岳から烏帽子岳の間で分布を欠いており,雪倉岳から鹿島槍ヶ岳・布引山にかけて分布する北部系統と,烏帽子岳以南に分布する南部系統に分岐している.一方,ベニヒカゲは針ノ木ギャップを含む飛騨山脈全域に単一の系統が分布する.針ノ木ギャップ付近におけるこれら3種の高山蝶の分布状況は,種の標高に対する適応の度合いを反映したものとなっている.針ノ木ギャップ付近の地形および植生をみると,全体に標高が約2500-2600mと低いために尾根の多くが樹林帯で覆われており,冬季季節風の風上に当たる尾根の西側では樹林が尾根まで迫り,風下側の東側は雪崩によって削られた急峻な崩落地形となり,あるいは両側の切り立った狭い尾根が断続的に見られる.急峻な崩落地にはイネ科やカヤツリグサ科の遷移途上の草地すら見られない.蓮華岳の頂上付近にのみ広い緩傾斜の砂礫帯があり,コマクサが大群落を形成するがハイマツはあまり生えていない.このような植生が,イネ科やカヤツリグサ科植物を食草とする高山蝶たち(タカネヒカゲ,クモマベニヒカゲ,ベニヒカゲ)の分布を規制しているものと考えられる.針ノ木ギャップ付近におけるタカネヒカゲの不連続分布の原因を約10万年前の立山噴火による噴出物の堆積に求める説もあるが,3種の高山蝶にみられる分布パターンは,それぞれの種が持つ高度適応力の強さを反映しており,生態的要因がより強く働いた結果であると考えられる.従来は日本列島の生物相形成に関して,大陸からの複数回の進出によって氷河サイクルに適応したとする事例(単一レフュジア・モデル)が指摘されるケースが多かった.しかし筆者らによるベニヒカゲやタカネヒカゲ,さらには今回報告したクモマベニヒカゲの研究で示唆されるように,高山性生物の種によっては古くから日本列島に侵出し,日本列島内で氷河サイクルを通じて分布の分断・拡張を繰返してきたケース(複数レフュジア・モデル)が少なくないことが伺われる.
著者
白松 俊 池田 雄人 北川 晃 幸浦 弘昂 伊藤 孝行
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.1D2OS28a03, 2018

<p>本稿では,議論ファシリテータエージェントの実装のために必要な議論文脈理解モデルとして,議論内容の理解モデルと,議論プロセスの理解モデルを検討する. まず共通する要素として,「議論の場」に関するパラメータを定式化する.ファシリテーションにおいては構造の時間変化が重要なため,時刻tを重視した定式化を提案する. 議論内容の理解においては,gIBISやDeliberatorium等で伝統的に用いられているような,論点(課題)と案から成る構造が必要と考え,定式化を検討する. また,議論プロセスの理解においては,参加者の関係性変化や「場の空気」に関するパラメータの定式化について述べる. 更に,これらのパラメータの推定結果を用いたファシリテータエージェントの行動決定や質問生成手法を検討する.</p>
著者
蓑内 豊 吉田 聡美 伊藤 真之助
出版者
北星学園大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、Lyndon(1989)が提唱するold way/new way(新旧対照法)を、スポーツ選手のスキルの修正に活用しようとするものである。まず、6段階のスポーツスキル修正プログラムを考案した。複数の種目・選手に実施し、プログラムの有効性について検証を行った。その結果、スポーツスキルの修正に新旧対照法を用いることは、スキル修正学習を促進させることが示唆された。また、スポーツスキルの分析やパフォーマンス評価を行うために、パフォーマンス・プロファイリングテストを作成した。これは、フォームや感覚、連携など評価しづらいスポーツパフォーマンスについて、数値化し評価する手法のことである。

1 0 0 0 OA 勢遊志

著者
伊藤長胤
出版者
林芳兵衛[ほか1名]
巻号頁・発行日
1841
著者
伊藤 睦泰 佐藤 恵美子 後藤 浩幸 服部 義一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.254-262, 1990
被引用文献数
2

異なる刈取頻度(年4回刈=4C,および5回刈=5C)と施肥水準(N,P,K成分で各48g/m^2/年=HN,および24g/m^2/年=LN)を組合せた栽培条件下のリードカナリーグラス模擬群落で,1番草および各再生草の生育過程における既存分げつの草丈,葉齢,枯死葉位の推移,ならびに節位別の葉身,葉鞘,節間長を計測した。(1)1番草,再生草ともに生育前半の出葉は急速で,第8葉展開頃までは,刈取頻度,施肥水準にかかわりなく,おおむね6,7日/葉の周期で直線的に葉数を増した。葉身の枯死は,1番草では5月初旬,再生草では刈取後20日頃に始まり,順次上位葉に向かって進んだが,出葉に比べてその進行は緩慢であった。(2)1番草の生育後半には草丈の伸長は特に顕著であり,逆に秋には抑制されたが,全般的に季節による草丈伸長の差異は比較的小さかった。草丈の伸長の経過は,いずれの処理,生育時期においても二つの急伸長期からなる類似の軌跡を描き,初期の急速な生長の後,30cm前後でやや伸長が鈍り,その後再び第2の急伸長期に転じて,例えばHN,4C区の1番草では約80cm,再生草では50cm前後で鈍化した。(3)着生節位別の葉身長は刈取回次による差異は小さく,いずれも第6,7葉までは上位ほど葉身が増し,それより上位節では再び短くなった。1番草では下位節間はほとんど伸長せず,上位の4節間が著しく伸長していた。再生草においても,生育初期の2,3節間は短いものの,それより上位の節間は順次伸長した。各葉齢期に対応する草丈からそのときの最上位の展開葉長を減じて節間の伸長経過を推定したところ,1番草および再生草の第2の草丈急伸長期にあたる5月初旬および刈取後25日前後に急伸長が始まるとみられた。(4)以上のことから,リードカナリーグラス群落を構成する個々の既存分げつは,その生育過程で一定量の同化器官(葉面積)を獲得すると,急激に非同化器官優先の生長へと転換する習性を有しており,その後に起こる節間部の急伸長(=C/F比,群落の草丈の増大)を介して高い乾物生産を可能にしていると考えられる。
著者
伊藤圭介 編
巻号頁・発行日
vol.[8], 1800
著者
伊藤 隆吉
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.442-463, 1941-06-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
齋藤 夏雄 伊藤 浩行
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

正標数の代数的閉体上において定義された滑らかなdel Pezzo曲面のF分裂性について研究を行った.次数2のdel Pezzo曲面について調べ,標数2および3のときにのみF分裂性を持たないものが実際に存在することを示し,その特徴づけを与えた.特に標数が3のとき,F分裂性を持たないdel Pezzo曲面は一意的に定まることを明らかにした.さらに,次数2で標数3のdel Pezzo曲面F分裂性を持たないものが得られるような射影平面のブローアップを考えたとき,その中心となる7点の配置を完全に決定した.
著者
小伊藤 亜希子 岩崎 くみ子 塚田 由佳里
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.783-790, 2005

The purpose of this study is to clarify how children's daily life is affected by parent's late return home. A questionnaire survey was made on children going to six nursery schools in the central area of Osaka City that offer an overtime day care program. The parent's tendency of delay in arriving home significantly influences their children's home life. 1) This tendency delays both dinnertime and bedtime. 2) This also shortens home life. In other words, the time of communication between parents and children as well as the frequency of their physical contact are bound to decrease. 3) Children would eat snacks before their late dinnertime, the fact of which would deprive them of enough appetite at dinnertime. 4) The late bedtime would lead to lack of sleep, or to difficulty to get up in the morning and to eat breakfast.
著者
伊藤 裕子
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.3-15, 2018-12

東日本大震災を契機として,我が国の科学技術コミュニケーションは,専門家と非専門家との双方向のコミュニケーションの推進に対しても効果的であることが期待されるようになった.しかし,専門家と非専門家との間には,知識量のみならず認知や行動においても非対称性があり,この非対称性がコミュニケーションの不具合を引き起こしている可能性がある.本研究は,医薬品情報を対象とし,双方向のコミュニケーションに影響を与える非対称性の特徴及び状況や背景を明らかにすることを目的として,専門家及び非専門家の両方にアンケート調査を実施し,非対称性を分析した.その結果,医薬品情報のコミュニケーションには,コミュニケーションの不具合の認知や解釈において非対称性が生じていることがわかった.さらに,非対称性を生じ易い背景として,非専門家では情報収集をしないこと及び専門家とのコミュニケーションを諦めていること,専門家では尋ねられた情報が知らない情報であることを非専門家に伝えないことが示された.したがって,医薬品情報における双方向のコミュニケーションを成功させるためには,専門家と非専門家のそれぞれに対する情報教育,質の高い情報のオープン化,非専門家が利用し易いコミュニケーションツールの開発が必要と考えられる.