著者
濃沼 信夫 伊藤 道哉
出版者
東北大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

最近の癌治療は、初期治療に加えて長期フォローアップの重要性が増している。技術進歩等で長期生存者が増加し、失われた機能の回復や再発の防止が大きな課題になってきたためである。しかし、フォローアップの方法や有効性について、経済面からの検討はほとんどなされていない。本研究は、癌手術後のフォローアップ体制や投じる資源の妥当性を、医療経済の観点から検証することを目的とする。大腸癌の術後ファローアップを類型化し、再発形式、生存予後、患者QOL、医療費を比較するシステムモデルをMarkovモデルに準じて開発した。モデルのパラメータの算出には、大腸癌術後フォローアップ研究会に登録されたデータ(大学病院を中心とする全国16施設、結腸癌3,092例、直腸癌2,507例、観察期間5年)を用いた。モデルにこれらパラメータを投入して、費用便益分析等を実施した。Stage Iの結腸癌は814例、直腸癌は785例である。これらの癌の術後フォローアップによる救命数増加は各4.0%、5.5%であり、純便益は各9,221万円、1億6,396万円、医療費の減少は各768万円、1,056万円、費用と便益の差額は各3億5,943万円、1億2,735万円である。再発後生存率は、現在、結腸癌15.0%、直腸癌33.3%である。すなわち、医療経済の観点からは、結腸癌ではファローアップ費用の低減が絶対条件となり、直腸癌では再発後生存率を改善することが重要と考えられる。一方、Stage IIの結腸癌は1,270例、直腸癌は790例である。このうち再発は各170例、180例、再発後の生存数は各47例、35例である。フォローアップの平均費用を、平成16年の医科診療報酬点数表をもとに算出すると、再発1人発見に要する費用は、結腸癌195万円、直腸癌132万円である。また、1人救命に要する費用は各704万円、679万円であり、これは社会的に支出を容認されうる水準と考えられる。フォローアップによる救命数増加は、結腸癌18.5%、直腸癌13.0%である。大腸癌術後フォローアップの経済的効果は十分高いと考えられる。
著者
伊藤 正子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

韓国民主化後、タブーであったベトナム戦争中の韓国軍による民間人残虐事件に関し、進歩的新聞社や市民団体によって事実の掘り起しが行なわれたが、退役軍人会などからは強い反発も出た。本研究では、韓国側の戦争についての多様な語りを検討するとともに、ベトナム側では、当時の韓国軍駐屯地周辺各省において現地調査を行い、ベトナム側における国家から村までの各級の事件に対する語りを分析した。その結果、韓越双方とも、政治体制や外交方針、地域の違いなどによって、戦争の記憶の語り方に様々な相違があることが明らかになった。現ベトナム国家は被害国にもかかわらず、国家間関係を優先するあまり、虐殺の生き残りの人々の記憶の語りを抑圧しているのに対し、韓国の市民団体は世論が分裂する中でも、負の歴史を明るみに出して未来の平和のために生かすための努力を続け、ベトナムでは公定記憶にならない韓国軍の「負の過去」を記憶しようとしている。
著者
伊藤 史 赤嶺 亜紀 木田 光郎
出版者
愛知学院大学
雑誌
愛知学院大学論叢. 心身科学部紀要 (ISSN:18805655)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.45-51, 2007-03-10

二重課題法を用いて,課題に配分される注意的資源の量が,事象関連脳電位の2つのP3(初期P3と後期P3)を測定することで査定された.初期P3は刺激評価の処理を,後期P3は刺激評価後の処理を反映すると推察されている.RT only条件において,被験者(N=29)は,弁別反応(RT)課題のみを遂行し,二重課題条件において,彼らはRT課題とカウント課題を同時に遂行した.RT課題の標的刺激に対する初期P3と後期P3が測定された.初期P3振幅は,カウント課題が困難になるにつれて系統的に減衰した.一方,後期P3振幅は,RT only条件よりもカウント課題が最も難しかったときに増大した.初期P3振幅と後期P3振幅におけるこれらの結果は,知覚-中枢資源に依存した刺激評価の処理は2つの課題間で相補的であるが,反応と関連した資源に依存した刺激評価後の処理はそうではないことを示唆している.
著者
伊藤 宏
出版者
プール学院大学
雑誌
プール学院大学研究紀要 (ISSN:13426028)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.111-126, 2005-12
被引用文献数
2

This paper reports on continuing research concerning the verification of the kind of"media agenda"shown by the Asahi Shimbun when reporting on development and use of nuclear energy in Japan. This research analyzes the period from 1981 to 1994. The report clearly shows that up until the Chernobyl nuclear power-plant disaster in 1986, and even for a while after that, the"media agenda"of the Asahi newspaper was based on the premise of promoting the development and use of nuclear energy, the exception being that of the nuclear-powered ship"Mutsu". However, after 1988 the subject of nuclear power plants moved onto the critical agenda and since that date the degree of criticism seen in reporting on the development and use of nuclear energy became stronger.
著者
伊藤 伝 兼松 誠司 小金沢 碩城 土崎 常男 吉田 幸二
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.520-527, 1993-10-25
被引用文献数
3

リンゴゆず果病罹病樹(品種:紅玉)の樹皮より核酸をフェノール抽出し, 2-メトキシエタノール及び臭化セチルトリメチルアンモニウム処理後, CF-11セルロースカラムにかけ, 5%ポリアクリルアミドゲルによる二次元電気泳動(一次元目 : 未変性条件, ニ次元目 : 8M尿素による変性条件)を行ったところ, 罹病樹からは健全樹には認められないウイロイド様RNAが検出された。同様なウイロイド様RNAはゆず果病罹病と考えられたその他のリンゴ14樹中12樹からも検出され, 本ウイロイド様RNAとゆず果病との関連性が示唆された。本ウイロイド様RNAは8M尿素による変性条件下で, リンゴ樹で既報のリンゴさび果ウイロイド(ASSVd)より遅く泳動され, ノーザンブロット法によリASSVd-cDNAと反応しなかった。また本ウイロイド様RNAを電気泳動により純化し, リンゴ実生21樹に切りつけ接種したところ, 5樹から同様のウイロイド様RNAが検出され, 本ウイロイド様RNAが実生に感染し増殖したと推察された。以上の結果より, 本ウイロイド様RNAはASSVdと分子種が全く異なる, より分子量の大きなウイロイドと考えられた。本ウイロイドをapple fruit crinkle associated viroidと仮称した。
著者
渡辺 浩 佐藤 努 泉對 則男 木村 文治 佐野 美也子 星 雅彦 伊藤 篤 仲 孝治 佐川 良
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.285-294, 2009-03-20 (Released:2009-04-11)
参考文献数
15
被引用文献数
4 4

We have investigated the role assignment and radiation exposure of medical workers (including receptionists) in PET (positron emission tomography) facilities in Japan using a questionnaire. The survey period was from October 1st to November 15th 2006. The response rate for the questionnaire was 60.0% (72/120 facilities). Nurses were engaged in the intravenous administration of radioactive FDG in 66.9% of PET facilities. In 89.5% of PET facilities, radiological technologists mainly performed the PET examination. The average radiation exposure to medical workers was 0.13 mSv/month (n: 709, S.D.: 0.16) as the effective dose. It was shown that radiation exposure was significantly different depending on the occupation and content of work (p<0.01). The radiation exposure of cyclotron operators and radiological technologists was higher than that of the other occupations (p<0.01). The highest radiation dose to one worker per a PET facility was 0.60 [mSv month−1], which was 4.6 times higher than the average dose of 0.13 [mSv month−1]. We have clarified the actual conditions of radiation protection in PET facilities in Japan for the first time.
著者
伊藤 宏司 湯浅 秀男 淺間 一 新 誠一 上田 完次 藤田 博之
出版者
東京工業大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

1.機能モジュールの開発マイクロ技術を用いて多数の素子を製作し,それらが機能モジュールを構成できるような人工システムを開発した.2.機能モジュールの理論解析1)機能モジュール群の追加・削除及び結合形態とシステム全体の安定性との関係をH∞制御におけるLMI設計法を適用し解析した.2)機能モジュール群の相互作用を反応・拡散、分散・波動などの発展方程式により記述し,秩序形成を獲得する仕組みを明らかにした.3)動物のロコモーションや上肢動作の時空間パターンの創発機構とそのモデリングを理論・実験の両面から解析した.3.人間とロボットの行動創発1)免疫ネットワークの工学モデルを構築し、未知環境における自律移動ロボットの行動発現に適用した.2)概念の相違の定義並びにその検出法を与えるとともに、ヒューマンインタラクションにおける概念構造の発見や知的操作のプロセス創発と呼び、そのプロセスを決定木により可視化することを試みた.3)ロボットが共通の座標系を獲得する問題、衝突回避問題、長尺物運搬時の経路決定問題を理論的に解析し、多様な行動パターンを生成させた.4)ロボットと環境との局所的な情報交換に着目し、その通信手段として小型可搬のインテリジェントデータキャリア(IDC)を製作した.5)自律ロボットが他のロボットと競合を起こさない適切な行動戦略を自己組織化する手法を強化学習的なアプローチにより解析した.6)数10台のマイクロロボット群を製作し、個々のロボットの知能とマクロ的な群知能の関係を実験的に検証した.4.生物指向生産/経済システム1)個体の発生・成長および生物集団の進化・適応の特徴を取り入れた生物指向型生産システムのモデリングとプロトタイプの開発を行った.2)セルラ-・オートマタによる流行モデルを提案し、初期条件の微妙な違いによって消費者の行動パターンが全く異なってくることをシミュレーションにより示した.
著者
廣本 敏郎 尾畑 裕 挽 文子 横田 絵理 木村 彰吾 中川 優 澤邉 紀生 伊藤 克容 諸藤 裕美 片岡 洋人 藤野 雅史 鳥居 宏史 河田 信 西村 優子 河田 信 西村 優子
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究では組織コンテクスを重視する管理会計研究を行い、日本的管理会計は自律的組織を前提とする学習と創造の経営システムに組み込まれていること、市場志向のイノベーションに対する従業員のコミットメントを強化するシステムであること、カレントな業績の向上を目指すだけでなく適切な組織文化・風土作りと密接に関連していることなどを明らかにした。更に、管理会計は企業のミクロ・マクロ・ループを適切に形成する経営システムの中核的システムであるという新たな命題を提示した。
著者
金子 慶太 伊藤 孝紀 堀越 哲美
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.11-20, 2011-11-30
参考文献数
11

本研究では、市民主体イベントの特徴と、市民主体イベント後の継続活動の継続要因とまちづくりとの関わりを把握することを目的とする。市民団体である大ナゴヤ大学が企画、実施した38の市民主体イベントとしての授業を調査対象とし、授業の企画者、参加者双方の視点からの調査と、授業後の継続活動に対して追跡調査をおこなった。38サンプルの授業に対して、多変量解析手法の数量化III類を用い、企画による3分類軸を抽出した。さらにこれらの3分類軸に基づくクラスター分析による類型化では3タイプの類型が得られ、各類型の特徴を把握した。そのなかのひとつでは授業後の継続活動を確認することができた。授業後の継続活動としての長者町ゼミを対象として追跡調査をおこなった結果、継続活動を4段階に分類して考察することができた。各段階の継続要因とまちづくりとの関わりを把握した結果、市民主体イベントを起点とした継続活動がまちづくり活動へと展開することを確認できた。
著者
伊藤 拓水
出版者
東京医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究で研究代表者は、催奇性を有する抗がん剤サリドマイドがいかなるメカニズムで標的タンパク質セレブロンの機能を阻害するのかを検証した。セレブロンはユビキチンリガーゼとして機能する。研究結果として、サリドマイドはセレブロンの酵素活性を下げるというよりも、認識する基質を変化させることが示唆された。薬剤結合後はサリドマイドがもはや元の基質を認識できなくなることが、結果として機能阻害として検出されていたと考えられる。
著者
吉田 明夫 伊藤 秀美 細野 耕司
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.77-87, 1996-02-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

Several examples are presented which seismic quiescence appeared in a wide area around the foci of intraplate earthquakes before their occurrence. A noteworthy feature is that the quiescence area extends along tectonic zones over more than several times of the focal region of the main shock. This phenomenon suggests that stress in a wide area along tectonic zones changes before the occurrence of major intraplate earthquake. We consider that the stress change is a manifestation of a significant physical process leading to earthquake occurrence. An apparently puzzling fact which earthquake precursors are sometimes observed at distant places from the focal region in the specific direction may be explained by such stress change. Further, it is expected that the precursory seismic quiescence provides us with a promising clue to the short-term prediction of intraplate earthquake.
著者
伊藤 康一 青木 孝文
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題では,画像間の類似性を高精度に評価するための「局所位相特徴」と呼ぶ新しい特徴量を定義するとともに,基本となる画像照合アルゴリズムを開発した.また,これに基づいて,高精度な類似度評価が重要となるバイオメトリクスの問題に適用した.局所位相特徴に基づく画像マッチング手法を用いることで,顔認証,虹彩認証,掌紋認証,指関節紋認証において,世界最高水準の性能を達成することを実験を通して実証した.