著者
瀬川 凌介 及川 真人 花田 匡利 名倉 弘樹 新貝 和也 佐藤 俊太朗 澤井 照光 永安 武 神津 玲
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.110-116, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
19

【目的】肺癌の外科治療では,術後に遷延する呼吸不全によって酸素療法の継続を余儀なくされる患者も存在する.本研究は,退院時に酸素療法を必要とした患者の割合と,その臨床的特徴を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】本研究は単施設の後方視観察研究であり,2009年から2018年に長崎大学病院にて肺切除術を施行された肺癌患者を対象とした.診療録より,対象者背景,術前の呼吸機能および身体機能,手術関連項目,術後経過,退(転)院時転帰を調査した.【結果】解析対象者は1,256件で,そのうち46件(3.7%)が酸素療法継続となった.酸素療法継続に対して重要度が高い評価項目を推定するランダムフォレスト解析において,術前の肺拡散能や6分間歩行試験中の酸素飽和度低下が抽出された.【結語】肺切除術後患者において,術前の肺拡散能や6分間歩行試験中の酸素飽和度低下は,術後の酸素療法の必要性を予測する指標となる可能性が示唆された.
著者
鐘本 英輝 数井 裕光 鈴木 由希子 佐藤 俊介 吉山 顕次 田中 稔久
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.15-22, 2017-03-31 (Released:2018-04-01)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

漢字の純粋失書を伴う皮質基底核症候群 (CBS) を呈したアルツハイマー病 (AD) 症例を経験したので, 本例の漢字の純粋失書の発現機序について検討を行った。症例は右利き男性で, 58 歳頃から軽度の物忘れを自覚。64 歳の当科初診時には日常生活に支障はなく, 口頭言語や読字に障害は認めなかったが字形想起障害による漢字の失書が目立ち, 右優位の軽度のパーキンソニズム, 右上肢の肢節運動失行を認めた。頭部 MRI では両側性の前頭葉と頭頂葉の軽度萎縮を認め, IMP-SPECT では左側頭葉後下部を中心に左半球の血流低下を認めた。臨床的に CBS が疑われたが, 髄液バイオマーカーから AD が示唆された。本症例の失書はAD で報告されている特徴に合致する一方, 皮質基底核変性症における失行性などの運動性要因を含むものが多いという失書の報告とは異なっていた。CBS の背景病理は多彩であることが知られているが, CBS における失書の様式はその背景病理を推定する一助となるかもしれない。
著者
佐藤 俊樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度は特に、(1)本研究プロジェクトの学術的成果をふまえて、社会学の従来の方法論と統計的因果推論などの最新の分析手法との連続性と非連続性を明確にして、因果推論の方法を社会学のなかに適切に位置づける、(2)それらをふまえて「量対質」の対立をこえた安定的な因果分析の枠組みを構築する、の二つを主な課題にして研究を進めた。特に研究成果を狭い範囲の専門家だけでなく、隣接諸分野の研究者や大学院生や学生なども読者層となる媒体に成果の一部や、それらをふまえたより実践的な考察を掲載することができ、より一般的な形での成果の発信・還元を進めることができた。佐藤俊樹「コトバの知と数量の知 百年のウロボロス」(『現代思想』20年9月号)では、マックス・ウェーバーの比較宗教社会学をとりあげて、それが適合的因果の方法論に厳密にしたがっており、それゆえ彼の社会学的研究全体もこの方法論を軸に体系的に整理できることを述べた。佐藤俊樹「知識と社会の過去と美来」(『図書』860,862,864号)では、新型コロナ感染症のパンデミックへの対応を主な事例にして、現代の社会と社会科学がどのような状況にあるのかを素描した。今回のパンデミックは大規模感染症がもつ確率的な事象という面に対して、社会が反省的な対応を迫られた最初の事例である。偽陽性と偽陰性が第二種の過誤と第一種の過誤の問題であるように、「知る」ということは科学的には確率的な推論であるが、社会の側ではそれを受け入れられない。そのずれは社会科学の内部にもその成立以来、ずっとありつづけおり、ウェーバーの方法論はそのずれへの反省的対処の最初の試みの一つにあたることを示した。
著者
田中 皓介 森口 颯人 佐藤 俊一 寺部 慎太郎 栁沼 秀樹
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集H(教育) (ISSN:18847781)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.37-45, 2021 (Released:2021-10-20)
参考文献数
6

土木の社会的な印象の悪化に対し,土木業界では「土木」という言葉そのものを避ける事例も見られる.特にそれが顕著なものとして,多くの大学において学科名称から「土木」という言葉がなくなりつつある.しかし,現状では名称の変更が,学科の人気や所属する学生の意識に対してどのような影響を及ぼすのか,実証的な分析は行われておらず,名称変更の是非について建設的な議論ができない状況となっている.そこで本研究では,その影響を明らかにするために,複数の大学の土木系の学科に属する学生に対するアンケート調査,入試データや在学生属性のデータに基づき,学科名称が及ぼす影響を実証的に分析する.分析の結果,土木改名によって,女性比率の向上,建築学科との混同,土木志望度の低下などが生じうることが明らかとなった.
著者
佐藤 俊治
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.69-74, 2002-03-25 (Released:2010-01-20)
参考文献数
15

近年, 哲学者の関心をひいている量子力学解釈の1つに, 様相解釈modal interpretationがある.様相解釈は次のことを狙った解釈である : シュレディンガーの猫のパラドクスに陥ることなく, 収縮なしの理論を構築すること.そのための戦術として, 様相解釈は量子系を特徴づける2種類の概念装置を用いる.すなわち, 通常の (量子力学的) 状態stateのほかに, 新たに性質propertyを導入する.これら二重の記述を巧妙に使いわけ-誤解を恐れずあえて一言でいえば, 状態をもちいて予測をし, リアリティについては性質をもちいて語る, ということをおこなう-いま述べた目的を果たそうとする試みが, 様相解釈の研究プログラムである.現在, 性質を具体的にどう定義するかにかんし, 複数の提唱が並存している.様相解釈という語はそれらの総称であり, 多くの論者がいずれか/いずれものアイディアを, あるいは展開し, あるいは批判する議論を戦わせている.しかし, 中でもとくに議論の俎上にのぼる機会が多いのが, ファーマースとディークスによる提唱である (Vermaas and Dieks 1995, ファーマース-ディークス様相解釈とよぶことにする).本論では, これを取りあげ, 論じる.ファーマース-ディークス様相解釈は次の2点をその基本アイディアのうちに含む.一方で, ある時刻に1つの合成系を成す諸部分系が, おのおのに, 自身の性質を所有するさいの (同時) 結合確率が, 明示的に定義される.他方で, 性質のダイナミクスが認められる.そのさい, 性質ダイナミクスが安定性テーゼstabilitythesisとよばれる条件を満足することが, 通常, 要請される.安定性テーゼを認めるとき, 本論のいう相互独立性テーゼを認めることが自然である (いずれのテーゼも詳細は後述).しかし, 以上のアイディアを十分実現可能なある具体的実験状況に適用するなら, 矛盾を生じる.本論はこの点を示す.結論は次のとおり : 《安定性テーゼ, かつ, 相互独立性テーゼ》と, 《同時結合確率の定義》とが, 両立しない事例が存在する.
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.151-170, 1988

理解社会学という方法は,社会学の最も古典的な方法の一つで,かつ,現在でも多くの社会学者が意識的または無意識的に用いている方法である。にもかかわらず,この方法はこれまで,理解をめぐる哲学的議論や学説史的な視点からのみ問題にされ,具体的な社会記述の方法として反省的に定式化され理論的に検討されることは,ほとんどなかった。本論考ではまず,理解社会学の方法を,Weber固有のジャーゴンを離れ,行為論の一般的な術語を用いて,公理系として捉える。そして,この公理系の検討を通して,通常全く自然な作業と思われている「理解社会学的に理解している」ということが実際にはどういうことなのか,その射程と限界について明らかにする。
著者
早川 崇 片岡 俊一 宮腰 淳一 佐藤 俊明 横田 治彦
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会構造系論文集 (ISSN:13404202)
巻号頁・発行日
vol.75, no.650, pp.723-730, 2010-04-30 (Released:2010-06-14)
参考文献数
25

We estimated the fault of the 1924 Tanzawa earthquake (Mj7.3), which was the largest aftershock of the 1923 Kanto earthquake (Ms8.2). We could successfully reproduce the observed waveforms in central of Tokyo based on the estimated fault model. This is very important to investigate the characteristics of ground motions by M7 events occurring in the Tokyo Metropolitan area because we only have a few observed waveforms of such events in central Tokyo. Finally, we calculated ground motions around Tokyo metropolitan area by the estimated fault model. The simulated ground motions do not exceed the design spectra around the area but in west of Kanagawa Pref.
著者
佐藤 俊治
出版者
日本科学哲学会
雑誌
科学哲学 (ISSN:02893428)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.75-87, 2001-05-30 (Released:2009-05-29)
参考文献数
17

In this paper, I examine van Fraassen's original version of modal interpretations, which have the increasing significance in the foundational research concerning elementary quantum mechanics. I argue that although van Fraassen's modal interpretation has a salient advantage over the standard Dirac-von Neumann interpretation with the projection postulate, it is confronted with two kinds of interpretive difficulties stemmed from one and the same fact of experience, repeatability of the first kind measurement.
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_151-2_170, 1988-10-09 (Released:2009-03-06)
参考文献数
22
被引用文献数
1

理解社会学という方法は,社会学の最も古典的な方法の一つで,かつ,現在でも多くの社会学者が意識的または無意識的に用いている方法である。にもかかわらず,この方法はこれまで,理解をめぐる哲学的議論や学説史的な視点からのみ問題にされ,具体的な社会記述の方法として反省的に定式化され理論的に検討されることは,ほとんどなかった。本論考ではまず,理解社会学の方法を,Weber固有のジャーゴンを離れ,行為論の一般的な術語を用いて,公理系として捉える。そして,この公理系の検討を通して,通常全く自然な作業と思われている「理解社会学的に理解している」ということが実際にはどういうことなのか,その射程と限界について明らかにする。
著者
佐藤 俊之 永瀬 純也 嵯峨 宣彦 齋藤 直樹
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.853, pp.17-00142, 2017 (Released:2017-09-25)
参考文献数
24

This paper proposes a two-degree-of-freedom control systems design using a preview feedforward controller called zero phase error tracking controller (ZPETC) to improvethe tracking performanceof the disturbance observer-basedPredictive Functional Control (PFC) systems. To this end, we derive a pulse transfer function representation of the PFC controller, which is used for the design of ZPETC, and show some properties of the PFC controller. Then a disturbance observer-based PFC system combined with ZPETC is designed. Several experiments using a single axis table drive system are conducted to validate the effectiveness of the proposed control method. The experimental results show that the tracking error is dramatically reduced compared to the previously-developeddisturbance observer-based PFC.
著者
嵯峨 宣彦 手銭 聡 佐藤 俊之 永瀬 純也 遠藤 匠
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.84, no.861, pp.17-00548-17-00548, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
28
被引用文献数
3

In disaster areas, rescue work by humans is extremely difficult and dangerous. Therefore, rescue work using rescue robots in place of humans is attracting attention. This study specifically examines peristaltic crawling, the movement technique used by earthworms, because it can enable movement through narrow spaces and because it can provide stable movement even in various difficult environments. Moreover, we designed each part of the robot based on required specifications and developed a real robot. We present results of motion experiments conducted with robot movement on level ground.
著者
佐藤 俊樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.41-54, 1990-06-30 (Released:2009-10-13)
参考文献数
23

「儒教とピューリタニズム」はマックス・ウェーバーの一連の比較社会学の論考のなかでも、最も重要な論考の一つである。だが、そこでの儒教理解、とりわけ儒教倫理を「外的」倫理だとする定式化には問題があり、またウェーバー自身の論理も混乱している。この論文ではまず、儒教のテキストや中国史・中国思想史の論考に基づいて、儒教倫理が実際には「内的」性格を強くもつ『心情倫理』であることを、実証的に明らかにする。なぜ、ウェーバーは儒教の心情倫理性を看過したのだろうか? プロテスタンティズムの倫理と儒教倫理は実は異なる「心の概念」を前提にしている。ウェーバーはその点に気付かずに、プロテスタンティズム固有の心の概念を無意識に自明視したまま儒教倫理を理解しようとした。そのために、儒教を「外的」倫理とする誤解へ導かれたのである。儒教倫理は儒教固有の心の概念を前提にすれば、きわめて整合的に理解可能な、体系的な心情倫理である。それでは、この二つの倫理が前提にしている相異なる「心の概念」とは何か? 論文の後半では、この心の概念なるものの実体が、伝統中国社会と近代西欧社会がそれぞれ固有にもっている人間に関する「一次理論」であることを示した上で、その内容を解明し、その差異に基づいて、二つの倫理とその下での人間類型を再定式化する。そして、それらが二つの社会の社会構造にどのような影響を与えたかを考察する。
著者
中村 大樹 佐藤 俊治
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.514, pp.151-156, 2015-03-09

視覚数理モデルはヒトの視覚系を記述し,その入出力が予測できて始めて意味を成す.本研究ではまず,網膜像の動きを符号化するMT細胞の数理モデルで,回転するdrift illusionの背景輝度依存性が再現できるかどうかを調査する.さらに,MTモデルの入力として8^8=16,777,216種の画像を作成した.数値シミュレーションにより16,777,216種のモデル出力を得て,ヒトの回転錯視量を推定した.数理モデルの妥当性を評価するために,モデルが予測した錯視画像をヒトに提示し,実際にヒトが錯視を引き起こすかどうかを検証した.その結果,背景輝度依存性が説明でき,8^8種のパターンに対するモデル出力とヒトの錯視量が定性的に一致することを確認した.
著者
岡部 篤行 佐藤 俊明 岡部 佳世 中川 貴之 今村 栄二 松下 和弘 長野 一博 石渡 祥嗣 飴本 幸司 林 良博 秋篠宮 文仁
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類学雑誌 (ISSN:13485032)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.30-39, 2006

当報告書は,無線LAN位置システム(以下システム)を放し飼いニワトリの軌跡追跡に適用可能かどうかを調べた結果を報告するものである。システムは,連続的な地面上にいるニワトリの位置を1 mのグリッド交差点上の点として表し,ニワトリの軌跡はその点列として表す。システムは,ニワトリの位置を1秒ごとに記録することができる。実験は8羽のニワトリと2羽のホロホロチョウを170 m×90 mの広さの公園に放って5日間にわたりその軌跡を観察した。分析に利用可能なデータは3日間得られた。システムによって得られる位置のデータは雑音を含むため,位置データは確率変数として扱った。データ分析により,位置の精度は,確率0.95で2.6 m,すなわち,真の位置が,観察された位置を中心に半径2.6 mの円の中にある確率が95%であると判明した。ニワトリの生活圏は,その場所にニワトリがいた確率密度関数として表現した。その関数はバンド幅が2.6 mのカーネル法で推定をした。軌跡は移動平均で推定した。実験の結果,システムは放し飼いニワトリの軌跡追跡に適用できることが判明した。
著者
助川 寛 佐藤 俊雄 岡崎 彰夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.84, no.6, pp.1053-1060, 2001-06-01
被引用文献数
6

本論文では, 目を閉じた状態を避けて人物の顔を撮影する画像処理システムについて報告する.目つぶりを排除する処理は, 分離度フィルタによる目の候補点の検出と, 辞書とのマッチングによるパターンの分類を中心に構成され, 更に動きの特徴を解析することで目の開閉状態を判断する.合図後の1秒に相当する5画面のうち開眼状態を検出すればその画像を出力し, すべての画面で開眼状態を検出できなければ合図直後が画面を出力する顔撮影システムを試作した.740名に対して性能を評価した結果, 目を開けた状態で撮影する撮影成功率は99.8%以上を達成することができた.
著者
佐藤 俊幸
出版者
東京農工大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

チクシトゲアリ(Polyrhachis moesta)は樹上性のアリで、秋に結婚飛行を行い、交尾して翅を落とした女王が枯れ枝中の空洞で越冬し、翌春産卵を開始する。その際、50%近くの巣が複数の女王で構成され、女王どうし口移しの栄養交換さえ行うが、それらに血縁はないことがDNA指紋法により確かめられている(Sakaki,Satoh and Obara,1996)。女王間には餌交換行動や共同育児といった協力行動がみられる。しかし、成熟した巣は多くの場合単女王であることから、多雌創設巣の女王は巣の成熟過程で一個体をのぞき除去されるか、あるいは別の場所へ分かれていくものと推定される。では、なぜ多雌創設が進化したのだろうか?女王の体サイズ、生体重には単雌、多雌創設に関わらず有意差はないことが分かった。創設女王数の頻度分布がポアソン分布の期待値と一致していたことと考え合わせると、創設女王は個体の体サイズやボディコンディションに関係なくランダムに出会ったものどうしで多雌巣を形成していることが示唆された。また、多雌創設巣の女王は、より早く産卵を開始し、より多くのワーカーを育て上げられることが分かった。コロニーの初期の成長速度を速めることは、種内・種間の資源を巡る競争や補食圧の回避を考えると大変重要である。おそらく、野外においても単雌創設より多雌創設の方が、女王あたり期待される繁殖成功率は高いか、悪くても下回らないのではないかと考えられる。ただし、複数いる女王の全てがそのコロニーの女王としては残れず、次第に数が減少していくので、全ての女王が積極的に多雌創設を行うわけではないと考えられる。この種の多雌創設は、出会ったらする、出会わなかったらしない、という日和見的なものではないか。