著者
上田 恵美子 古川 文子 小林 敏生
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.5_39-5_47, 2006-12-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
38

スタッフナースの心身の健康は,患者に対する看護の質を保証する上で重要な課題であるが,その実態と影響要因については明らかでない。本研究では,健康関連QOL(HRQOL),職業性ストレス要因,緩衝要因,個人要因の実態把握,各要因間の関係探索,HRQOLに及ぼす影響要因の検討を目的とした。対象者は近畿圏のスタッフナース500名で,HRQOLにSF-36下位尺度4項目,職業性ストレス要因に小林らの看護職職業性ストレス尺度,緩衝要因に影山らのコーピング尺度,自意識に菅原の自意識尺度を用い自記式質問紙調査を行った。その結果,SF-36の活力(VT)と心の健康(MH)は,20歳代,現喫煙者,看護職不向きと思う者,公的自意識の高い者が有意に低かった。またVTは達成感,気分転換,量的負荷からの影響,MHは質的負荷,達成感から有意な影響を受けていた。今回,主として達成感の充足支援と仕事負荷のコントロールがHRQOLの改善に重要であることが示唆された。
著者
古川 幸子 鈴木 啓太郎 増村 威宏 田中 國介 若井 芳則
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.9, pp.653-665, 2015 (Released:2018-05-18)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

(1)2007年産の酒造好適米と良食味米を含む11品種11点について,試験米の食味評価とこれらの試験米を掛米とする製成酒の味覚センサーによる呈味評価の関係を検討した。(2)味覚センサーを用いて製成酒の呈味特性を評価した結果,酒造好適米品種を掛米に用いた場合には,製成酒は有機酸による濃厚感を持つ呈味となり,一方で良食味米品種を掛米に用いた場合には,製成酒は爽快感のある呈味となることが示唆された。(3)用いる掛米品種により製成酒の呈味に差異が見られる理由について詳細な検討を加えるため,製成酒の遊離アミノ酸含量を測定したところ,良食味米品種で酒造好適米品種よりもAsp,Thr,Ser,Leu,Tyr,Phe,Met,Lys含量が有意に高い値となった。(4)遊離糖含量は,良食味米で酒造好適米品種よりもフルクトース含量が有意に高く,グルコース含量が有意に低い値となった。従って,用いる掛米品種によって製成酒の呈味に違いが生じる原因として,アミノ酸含量や遊離糖含量の影響が示唆された。(5)味覚センサーを用いた製成酒の呈味評価により,掛米品種による酒質の差異を明示できる可能性が示唆された。これを商品開発に応用することで,新規市場の開拓や需要拡大への貢献に期待できるものと思われた。
著者
古川 浩平 鳴瀬 智史 津田 翔真 片瀬 直樹 柳本 惣市 梅田 正博
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.57-63, 2022 (Released:2022-03-22)
参考文献数
29

ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)はランゲルハンス細胞がモノクローナル性に異常増殖する稀な疾患である。今回われわれは,開口障害を伴ったLCHの1例を経験したため報告する。 患者は8歳女児で開口障害を主訴に来院した。造影CTおよびMRIで左側頭骨および頰骨に骨破壊を伴う腫瘍性病変を認め,FDG-PET/CTで左側側頭部および複数の頸部リンパ節にFDGの集積を認めた。全身麻酔下に側頭部腫瘍の生検を施行し,LCHの病理組織学的診断を得て,画像検査と併せLCH(多臓器型)と診断した。診断後より多剤併用化学療法を54週間施行し,完全寛解の効果判定を得た。化学療法終了後3年経過し,再発なく経過良好である。
著者
古川 徹
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.1329-1337, 2007 (Released:2007-09-05)
参考文献数
48
被引用文献数
7

膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)と膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は浸潤性膵癌の前駆病変に相当する膵管上皮内腫瘍として対比される病変であり,PanINが顕微的で肉眼的には認識不可能な病変で,異型が弱い病変から強い病変に変化して浸潤性膵管癌に至るone pathway上の病変と考えられるのに対し,IPMNは肉眼上認識可能な病変であり,組織学的に種々のバリエーションがあって浸潤像も多様なmultiple pathwaysの病変に相当する.分子異常については少なくとも高異型度病変においてSMAD4の異常の頻度が全く異なる.関連する浸潤癌の予後も異なる.このように,両者は対照的病変であって厳に鑑別される必要がある.PanIN,IPMNの診断能の向上が浸潤性膵癌の早期発見,ひいては予後改善につながることが期待される.
著者
古川 哲史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.375-383, 2003 (Released:2003-10-21)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

Na+チャネル·Ca2+チャネルなどの陽イオンチャネルに比べて,Cl−チャネルの細胞機能に果たす役割は今まであまり注目されていなかった.近年,数多くのCl−チャネルcDNAのクローニング,ヒト遺伝性疾患の原因遺伝子として複数のCl−チャネル遺伝子の同定,ノックアウトマウスの解析,Cl−チャネルタンパク質結晶のX線構造解析,タンパク質相互作用によるCl−チャネル制御など,Cl−チャネルに関して画期的な研究成果が相次いで発表された.細胞内膜Cl−チャネルは細胞内小胞の酸性化に重要であり,ClC-5は腎尿細管で低分子タンパク質の再吸収に関与し,ClC-7は破骨細胞osteoclastの骨基質吸収に関与する.これらの異常はそれぞれタンパク尿と腎結石を主徴とするDent病·骨過形成を主徴とする骨化石症osteopetrosisをもたらす.細胞表面膜Cl−チャネルのClC-K1,ClC-K2,ClC-3Bは上皮細胞に特異的に発現し,一方向性Cl−輸送に関与する.これらの異常もヒト疾患と関連しており,ClC-K1の異常は尿崩症,ClC-K2の異常はBartter症候群をもたらす.
著者
尾崎 昌大 森 広史 古川 恵太郎 坂本 春生
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.285-289, 2018-11-25 (Released:2019-05-24)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

2015年7月,当院の血液腫瘍内科で入院していた患者から多剤耐性緑膿菌が検出された.その後,環境付着菌検査を行った温水洗浄便座の洗浄ノズルからMDRPを検出し,アウトブレイクであると判断し,感染対策を行った.アウトブレイクの一因として,清掃スタッフによる院内感染対策上不適切な清掃方法が行われていたことが挙げられた.その他にも製造時期が古い温水洗浄便座の洗浄ノズルにおいて,適切な清掃ができないなどといった温水洗浄便座を院内で使用する際に留意すべき問題点も判明した.このことから,院内で使用している設備・機器の洗浄方法や導入などにICTの積極的な介入が必要であることが改めて認識された.
著者
山浦 一保 古川 久敬
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.63-73, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
35

本研究の目的は,医療の質向上に関する行動基準について,その理解と実行の程度がともに高く,かつこれら2つの間の乖離を抑制する要因を明らかにすることであった。ここでは,個人要因として職務遂行に対する自律性,職場環境要因として職場からの期待認知(安全期待と効率期待)を取り上げた。このことを検討するため,3つの病院に勤務する看護師を対象として質問紙調査を行った。その結果,医療の質向上の行動基準は4因子構造(看護計画,ルール遵守,情報交換,変革推進・改善)であり,それぞれの行動基準面に関する理解度は実行度よりも高い水準で評価された。看護師の自律性と職場からの安全期待は,概ね行動基準の実行度を高めることが明らかになった。また,職場からの効率期待は,予想に反して,医療の質向上のための活動を部分的に促進させる傾向が示された。考察では,安全確保と効率向上を別個のものとして捉えず,双方を関連づけるリーダーシップの必要性を指摘し,今後の課題を提示した。
著者
濱井 昂弥 堀内 健吾 古川 創
出版者
一般社団法人 環境資源工学会
雑誌
環境資源工学 (ISSN:13486012)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.71-79, 2022 (Released:2023-02-01)
参考文献数
20

In Japan, many studies have been conducted to reduce the cost of mine drainage treatment at abandoned mines. The treatment method called “passive treatment” that utilizes natural purification and is expected to be applied to mine drainage treatment.Following the completion of the guidelines on the introduction of passive treatment, we conducted a simple screening focused on water quality, quantity and utilizable blank space to review the applicability of passive treatment to abandoned mines in Japan.Our findings indicate that passive treatment has the potential to be applied to many of abandoned mines in Japan, although there are still some issues to be solved.
著者
古川 壮一 平山 悟 森永 康
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.4, pp.228-238, 2014 (Released:2018-03-12)
参考文献数
157
被引用文献数
1 2

日本の伝統的発酵食品に関与する微生物は,麹菌,乳酸菌,酵母,酢酸菌などであり,これらの微生物は古くから生育環境が類似しているため共に協力しながら,共存・共生する環境で利用されてきました。こうした微生物内の相互作用が,発酵プロセスの安定化に重要な役割を果たしてきたと思われます。ここでは伝統的発酵食品として,清酒・ワイン・ビール・蒸留酒・酢・醤油・味噌・乳製品などに関わる微生物の共存と共生の意義について解説して頂きました。
著者
畑江 敬子 香西 みどり 古川 英 熊谷 美智世 伊藤 純子 十河 桜子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.250, 2003 (Released:2004-05-25)

【目的】近年、家庭用調理機器においては従来のガスコンロに代わり、電気の誘導加熱を利用した電磁調理器(IH)の普及が進んでいる。そこで本研究では、現状の調理内容に即したエネルギー使用データを収集し、ガスコンロとIHの違いを把握することを目的としている。【方法】 春夏秋冬それぞれ1日の朝食、昼食、夕食の献立を、女子栄養大出版部「栄養と料理」献立カレンダーより選定し、さらに一部をアンケート結果による人気メニューに置きかえることにより、季節、栄養、カロリー、調理方法、人気を考慮した現代版メニューを作成した。年代と調理経験の異なる3人の調理者により、作成メニューについてガスコンロ、IHそれぞれに対し同じ調理を行い、熱量および使用時間を測定した。実験では大きさを揃えた両調理器で適した鍋を用い、同一メニュー内では食材および量を統一した。【結果】IHの方が多くの一次エネルギーを消費した。四季別において冬メニューでは夏の2倍以上のエネルギーを消費し、調理別においては湯沸かし茹で、煮るでエネルギー消費量全体の6割以上を占め、これらはガスコンロ、IHで同じ傾向を示した。火力別の効率と使用割合から一次エネルギーでの総合効率を求めると、ガスコンロで50.0%、IHで27.7%となった。ランニングコストは四季別、調理別のどちらにおいても電気代の方がガス代に比べ高くなった。両調理器の10年間の使用を含めた製造から廃棄までの総エネルギー消費量は、IHではガスコンロの約1.3倍となった。
著者
飯田 康夫 後藤 一男 古川 正道 柴田 正三
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.32, no.7, pp.401-406, 1983-07-05 (Released:2009-06-19)
参考文献数
16
被引用文献数
10 8

吸光光度法により多成分同時定量を行う場合のデータ処理において,Lambert-Beerの法則を行列の形で表す方法(AKC法)と,逆に,濃度を吸光度の関数として表す方法(CPA法)を定量精度などの面から比較し,更に検量(キャリブレーション)法についても検討した.その結果,定量精度の点ではCPA法が優れていると考えられるが,AKC法においてはスペクトルとしての観察ができることなどの利点があり,両者を組み合わせて用いることがよいと結論される.又,キャリブレーションにおいては,各成分の混合溶液を用いること,あるいは解析式に切片項を導入することにより,定量精度の向上が認められた.更に,これらの方法を用いて,8-キノリノール(オキシン)によるアルミニウム,鉄,及びチタンの3成分同時定量を行い,ほぼ満足のゆく結果を得ることができた.
著者
清水 嵩之 古川 慎哉 藤岡 燿祐 金本 麻友美 玉井 惇一郎 梅岡 二美 宮岡 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.672-679, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
33

症例は50歳代男性.X-9年に2型糖尿病と診断され治療中であった.X-5年8月に左尿管癌,多発リンパ節転移と診断され治療を開始し,2次化学療法としてX-1年11月から抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)を開始.X年2月下旬より食欲低下を認め,口渇,吐き気も出現したため3月初旬に当院を受診.血液検査で糖尿病性ケトーシスと診断し同日入院.空腹時血清Cペプチドは1.1 ng/mLから0.3 ng/mLに低下し,入院後補液とインスリン持続静脈注射を行い入院18日目に退院した.発症後2年経過したが,インスリン分泌は低下したままである.本症例は抗PD-1抗体投与後に内因性インスリン分泌が急激に低下したことから,抗PD-1抗体投与に伴う1型糖尿病と診断した.抗PD-1抗体投与中は慎重にケトーシスおよびケトアシドーシスを疑う症状の有無を確認し,高血糖を認めた場合には内因性インスリン分泌の評価を行う必要がある.
著者
坂下 風子 古川 真理江 牧野 州明 中野 聡志 石橋 隆
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2010年年会
巻号頁・発行日
pp.239, 2010 (Released:2011-04-06)

長野県木曽郡南木曽町周辺に分布する苗木-上松花崗岩にはアルカリ長石のひとつである微斜長石の変種であるアマゾナイトが産出する(日本希元素鉱物,長島,1960).本研究では同地区およびアメリカコロラド州に産出するアマゾナイト試料として用い,アマゾナイトの不均質な着色の原因を明らかにすることを目的とした. 研究手法は,顕微分光光度計,偏光顕微鏡および電子顕微鏡観察,X線回折,化学組成分析,赤外線吸収スペクトル法によって苗木花崗岩ペグマタイト中のアマゾナイトの組織と化学成分,カラーリングとの関係を試料の不均質性に対応させて報告する.

1 0 0 0 OA 南涯遺集

著者
古川郁 著
出版者
古川渙一郎
巻号頁・発行日
vol.巻上, 1939
著者
古川 慶人 小宮山 涼一 藤井 康正
出版者
一般社団法人 エネルギー・資源学会
雑誌
エネルギー・資源学会論文誌 (ISSN:24330531)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.225-234, 2022-11-10 (Released:2022-11-10)
参考文献数
19

Cryogenic Direct-air CO2 Capture (Cryogenic DAC), the technology of capturing atmospheric CO2 by desublimiting it as dry ice, can effectively utilize the abundant wind energy in Antarctica and it is estimated that the energy requirement will be competitive towards conventional aqueous solution DAC if substantial efficiency improvements and system enhancements occur. However, it hasn’t been implemented yet and the energy requirement and capital cost are uncertain. In this study, the feasibility of cryogenic DAC is analyzed by conducting a sensitivity analysis on the energy requirement/capital cost of cryogenic DAC and the capital cost of wind/solar energy in Antarctica under the 1.5℃/2.0℃ goals in Paris Agreement. As a result, if the capital cost of wind/solar power in Antarctica is the same as in Alaska the energy requirement/capital cost of cryogenic DAC require to be lower than that of aqueous solution DAC for cryogenic DAC introduction in both goals. In addition, when the energy requirement/capital cost of cryogenic DAC are fixed, it is found that the capital cost of wind/solar power generation in Antarctica requires to be limited to about 1.2 times the global standard cost for cryogenic DAC introduction in the 1.5℃ goal.
著者
久保田 悟 雨車 和憲 田中 勇帆 古川 利博 八嶋 弘幸
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 C (ISSN:13452827)
巻号頁・発行日
vol.J105-C, no.12, pp.376-383, 2022-12-01

核磁気共鳴分光法(Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy:NMRS)は有機化合物の分析をはじめとする化学的及び生理学的な基礎研究において非常に有用である.しかし,観測信号の信号対雑音比(Signal-to-Noise Ratio:SNR)が低いという問題をもつことから,効果的なデノイジング手法によって,測定の高効率化や経時変化の大きな試料への幅広い対応が可能となることが期待される.本論文では,NMRSによる観測信号は周波数域上においてスパース性をもっており,更にこれのN階差分をとった場合でもスパース性が失われないことに着目したデノイジング手法を提案する.シミュレーションによる数値実験から,スペクトル形状やノイズ強度に依らない安定したデノイジング性能を示したためこれを報告する.
著者
堤 聡 木村 秀 松本 大資 古川 尊子 松岡 裕 木原 歩美 浜田 陽子 湯浅 康弘 石倉 久嗣 沖津 宏 阪田 章聖 山下 理子 藤井 義幸
出版者
徳島赤十字病院
雑誌
徳島赤十字病院医学雑誌 = Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal (ISSN:13469878)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.124-127, 2011-03-25

リポイド肺炎は脂肪を貪食したマクロファージが出現する肺炎であるが,一般に無症状であり胸部異常陰影にて偶然見つかることが多い.今回診断に苦慮し胸腔鏡下肺生検にて診断しえたリポイド肺炎を経験したので報告する.症例は79歳,女性.僧房弁狭窄症に対する弁置換術後のフォローアップ中に,胸部X 線像で右中肺野にすりガラス陰影の出現を認めたため当科へ紹介された.明らかな自覚症状や各種検査での異常所見を認めなかったため経過観察としていたが,初診から8カ月後に肺野陰影の増強と拡大を認めたため胸腔鏡下肺生検を施行した.病理組織像では肺胞内に浸出物と泡沫状マクロファージを多数認め,最終的にリポイド肺炎の診断を得た.症状に乏しい胸部異常陰影の鑑別疾患のひとつとしてリポイド肺炎は考慮する必要がある.
著者
髙田 勝 田原 岳 天野 卓 野村 こう 高橋 幸水 古川 力 秋篠宮 文仁
出版者
日本養豚学会
雑誌
日本養豚学会誌 (ISSN:0913882X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.12-20, 2018-03-09 (Released:2018-06-30)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

琉球豚は中国豚由来であり,黒色を有するアグーと白斑を有するアヨーがある。アグーはバークシャー種との交雑により改良されたと報告されているが,西洋系豚や中国系豚との分子遺伝学的類縁関係は明らかでない。そこで,アグー系とアヨー系を系統内交配により維持している今帰仁アグー集団の繁殖豚AG (B),AG (R),AG (W) とその交雑集団AG (O) およびこれらの祖先集団AG06,AY06,さらに西洋系豚,中国系豚について,マイクロサテライト30座位の遺伝子型を解析することにより,琉球豚の遺伝的多様性とともに西洋系豚,中国系豚との類縁関係および遺伝的構造を明らかにすることを目的とした。有効対立遺伝子数,アレリックリッチネス,多型情報量などの遺伝的多様性の指標値は,いずれもAG (W) が最も小さくAG (O) が最も大きく,AG (O) の多様性は西洋系と同程度であった。今帰仁アグー各系統は西洋系品種に比べてヘテロ接合度の観測値が期待値よりも大きい傾向にあり,FIS は負の値を示して,近親交配を避けた交配が行われていたことが示唆された。品種·系統間の遺伝的関係では,主座標分析から,琉球豚,中国系,西洋系が二次元上にそれぞれのクラスターを形成することが明らかとなった。遺伝的距離にもとづく系統樹からは,AG (B) はAG06と近縁であり,AG (W) はAY06と近縁であることが示され,これらを含む琉球豚は中国系とクラスターを形成した。遺伝的構造の解析からも,琉球豚は中国豚と共通する祖先に由来することが示されたが,AG (B) とAG (R) はバークシャー種と共通する祖先集団由来の遺伝子を有すると推察された。この結果はこれまでの琉球豚の由来の記述を裏付けるものであった。