著者
奥山 圭一 座古 勝
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
宇宙技術 (ISSN:13473832)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.59-65, 2004 (Released:2004-11-17)
参考文献数
7

再突入カプセルは,機体表面に装着可能なアブレータ,繊維質断熱材などから成る熱防御システムを持たなければならない.大気圧下における大きな有効熱伝導率は,幾つかの熱防御システム開発に用いられた.これは,繊維質断熱材を厚く,重く設計する手法である.本研究において,保護熱板(GHP)法のような定常法で測定された有効熱伝導率は再突入環境におけるアルミナ・シリカ繊維質断熱材の温度予測に適用可能であることが判った.さらに,本研究は粘性流領域(105 Pa)とクヌーセン流領域(100 Pa)双方における繊維質断熱材の有効熱伝導挙動も明らかにした.これらの結果は繊維質断熱材の有効熱伝導率予測手法が妥当であること,また薄い断熱材が設計可能であることを示した.
著者
古川 不可知
出版者
日本メルロ=ポンティ・サークル
雑誌
メルロ=ポンティ研究 (ISSN:18845479)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.91-108, 2022-09-17 (Released:2022-09-17)

The purpose of this paper is (1) to review Ingold’s argument with a focus on his reading of Merleau-Ponty, and (2) to discuss the bodily practices of the people who walk through the mountainous terrain in the Himalaya. Maurice Merleau-Ponty was one of the philosophers who understood anthropology quite profoundly, and his ideas were widely accepted in a series of studies categorized as phenomenological anthropology. Recently his influence is prominent in some of the anthropological works associated with the so-called “ontological turn” in anthropology. Above all, Tim Ingold, while being critical of the term “ontological turn”, has deeply relied on Merleau-Ponty’s thought and has promoted to deconstruct the nature-culture dualism. Ingold has regarded the primordial condition of the human being as an organism-person immersed in a flow of the medium. He, in particular, emphasizes the importance of sharing the rhythm of the walk to understand others in such an open world. In this paper, I depict the bodily practices of the Sherpas people who walk with tourists and livestock, and find their paths in the ever-changing environment of the Himalayas.
著者
米村 貴裕 古川 耕平 長江 貞彦
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.20-26, 2005 (Released:2008-07-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本稿では娯楽とビジネスを結びつけた新しい形のコンテンツと,それを動作させるシステムについて述べる.開発したシステムは,Java言語(アプレット)を用いることでコンテンツをブラウザ上にて動作可能にする.これにより,ユーザは特別なソフトウェアをインストールすることなくコンテンツを動作させられる.また,本システムは専用のJavaサーバを利用し,他のユーザや単語学習型の人工キャラクタとチャットができる.一方,独自の機能として画面に表示された商品をチャットにより購入できる仕組み(特許出願)や,地図上のオブジェクトをクリックすることで,ユーザが物を視覚的に学習できる仕組みを盛り込んだ.その結果,構築したコンテンツを娯楽的な要素以外にユーザの知識向上のみならず,仮想世界と現実世界を結びつける新しいビジネスのあり方を提案するものにできた.
著者
菊池 司 工藤 芳彰 岡崎 章 木嶋 彰 古屋 繁
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.35-44, 2004 (Released:2008-07-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2 1

デザインの対象が「モノ」から「コト」への移行がいわれて久しい昨今,ユーザが製品や提供される環境を利用していくなかでの全体的な経験までを視野に入れた「Experience Design」,つまり経験を提供するデザイン,あるいは経験そのものをデザインの対象とするという視点に立ったデザインの必要性が言われている.しかしながら,「Experience Design」の意味する本質は見えにくく,経験をデザインできるのかという疑問があるのも事実である.そこで本論文では,「Experience Design」という言葉が意味するものは何かを研究事例などを通して探り,新しい領域へと広がっていくデザイン研究,および実践のあり方を検討するものである.
著者
古川 耕平 米村 貴裕 廣瀬 健一 長江 貞彦
出版者
芸術科学会
雑誌
芸術科学会論文誌 (ISSN:13472267)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.114-115, 2003 (Released:2008-07-30)
参考文献数
4

3次元コンピュータグラフィックス(以下3DCG)を用いて表現されるイメージは,直感的に理解しやすいという特徴を持つ.近年,デジタル技術の進歩に伴い,教育分野においても3DCG を用いた教育コンテンツが急速に普及しつつあるが,それら教育コンテンツの開発はまだ緒についたばかりであり,更なる研究開発が期待されている.本研究では,この3DCG の特徴を教育コンテンツに生かし応用する.今回はコンテンツとユーザとの間に双方向性を持たせるために,人がものを詳しく観察しようとするときにおこなう「覗き込み」の動作を利用したビューワシステムの構築をおこなった.これにより興味の喚起を促し,ユーザの理解度を高めるためのシステムを実現できた.さらに,本システムをユーザに使用してもらい,興味の喚起や理解度に関するアンケート調査を実施した.この結果,教育コンテンツとしての本システムの有用性を確認できた.
著者
中嶋 聡美 栗岡 隆臣 古木 省吾 原 由紀 井上 理絵 鈴木 恵子 梅原 幸恵 小野 雄一 佐野 肇
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.253-261, 2022-08-30 (Released:2022-09-17)
参考文献数
16

要旨: 高齢中等度難聴者の QOL を, 包括的健康関連 QOL, 主観的幸福度, 社会活動性を評価する質問紙を用いて調査すること, さらに各尺度の相互関係, 各尺度に影響する要因を検討することを目的として研究を実施した。 対象は北里大学病院耳鼻咽喉科の補聴器外来または難聴外来に, 2019年10月から2020年12月までに受診した65歳以上の中等度難聴者149名であった。 質問紙は「基本的質問」,「SF-36ver2」,「Subjective Well-Being Inventory (SUBI)」,「いきいき社会活動チェック表 (社会活動)」で構成した。SF-36 の平均値と国民標準値の比較では70歳代の Mental Component Summary (MCS) のみ有意な低下を認めた (p<0.025)。MCS と SUBI, 社会活動と MCS, SUBI に正の相関を認めた。MCS の重回帰分析において, 平均純音聴力レベルの悪化に伴い改善を認め (p<0.05), 補聴器装用が悪化に影響する傾向があり (p=0.072), 通院している高齢中等度難聴者の精神的 QOL の特徴として注意を払うべき結果と思われた。 今後の検討でも各評価法を併用して QOL を検討することが有用と考えられた。
著者
岡本 節子 古明地 夕佳 髙田 健人 長瀬 香織 苅部 康子 堤 亮介 谷中 景子 長谷川 未帆子 榎 裕美 大原 里子 加藤 すみ子 田中 和美 遠又 靖丈 小山 秀夫 三浦 公嗣
出版者
一般社団法人 日本健康・栄養システム学会
雑誌
日本健康・栄養システム学会誌 (ISSN:24323438)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.10, 2022 (Released:2022-09-26)
参考文献数
13

目的:令和3 年度介護報酬改定の6 か月後の介護老人福祉施設(特養)及び介護老人保健施設(老健)における栄養ケア・マネジメント(NCM)を担う常勤管理栄養士の業務時間調査から、NCM の課題を整理し、検討することを目的とした。 方法:介護保険施設220 施設の常勤管理栄養士を対象に、3 日間の10 分間ワークサンプリング方式の自記式業務時間調査票を令和3 年9 月に依頼をした。 結果:有効回答は特養34 施設の管理栄養士44 人、老健17 施設の管理栄養士27 人であった。1 施設あたりの平均常勤管理栄養士数は特養1.4 人、老健2.0 人となっていた。特養及び老健常勤管理栄養士の一日一人当たりの業務時間において『NCM に関する業務』が最上位の業務として位置づけられ、『給食に関する業務』は上位の2 割程度であった。 結論:管理栄養士の業務は従来の給食からNCM へと大きく転換していた キーワード:特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、栄養ケア・マネジメント、業務時間調査、給食
著者
蒙古勒呼
出版者
内陸アジア史学会
雑誌
内陸アジア史研究 (ISSN:09118993)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.65-84, 2014-03-31 (Released:2017-10-10)

During the course of the Qing-Junggar war, the Qing Empire strengthened its control over Qalqa from the 1720s to the 1730s. In an effort to deter theft and robbery, the Qing government actively applied the code of "Mongyul cayaja-yin bicig" to Qalqa and adopted a flexible legal policy that combined the old article of 1674 with the new one that was enacted in 1727. Under these circumstances, the Qalqa's nobles drew up the 1746 law that dealt with the problems of crime compensation and the escorting of criminals. The 1746 law was mainly based on the old article of "Mongyul cayaja-yin bicig" and supplemented with the Qalqa's original compensation practices. Next, the Qing government accepted Boode's proposition to reflect the attitudes of the Qalqa's nobles embodied in the 1746 law and legislated against stealing livestock in 1747. This law of 1747 comprised the old and new articles, established respectively in 1667 and 1727, and provisions of the Qalqa's original crime compensation law. This reveals that not only the code of the Qing Empire penetrated the Qalqa, but the attitudes and expectations of the Qalqa's nobles also had some influence on the enactment of the Qing's law. Finally, the 1746 law is not the "vice-generals' law". The latter was probably enacted from 1728 to 1738 and applied to the cases of stealing stock in the Qianlong period.
著者
山下 亜紀郎 山元 貴継 兼子 純 駒木 伸比古 李 虎相 橋本 暁子
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.140-151, 2020-03-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿では,「チェミン済民チョン川生態河川造成事業」が実施された韓国中部の地方都市,コンジュ公州市の旧市街地の南縁にあたる,近年まで衰退傾向にあった地区を対象に,店舗の業種構成や景観変化の特徴を把握し,そこに,同地区における地域活性化策や住民の取り組みがいかに関わっているのかを明らかにすることを目的とする.調査対象範囲は,公州市の旧市街地南部の地区である.近年の店舗・事業所等の分布と業種構成およびその変化については, 2017 年3 月と2019 年2 月に実施した建物悉皆調査に基づいて把握した.また,公州市における近年の景観をめぐる動向については,公州市庁の景観に関わる施策を担当する部署への聞き取り調査と資料収集,および,歴史的な建築物や街路を活用した取り組みを行っている地域住民や店舗への聞き取り調査を実施した.店舗・事業所等の全体的な業種構成や分布特性には,2017 年から2019 年の間で大きな変化はみられなかったものの,全店舗・事業所等のうち約4 分の1 にあたる78 件で,店舗の入れ替えや土地利用としての変化が生じていた.この2 年間で空店舗化したところも少なくなかったものの,空店舗に新たに入居した店舗等もみられた.それらは調査対象範囲北側のかつての繁華街であった旧市場町でより顕著であった.一方で,商業地域としては衰退傾向にある調査対象範囲南側や,済民川左岸側においても,店舗の入れ替えや新規出店が少ないながらもみられた.調査対象範囲を中心とした景観をめぐるさまざまな取り組みをまとめると,公州市の旧市街地南部では近年,河川や建築物や「コルモッキル」といった景観構成要素が,一部では保存されつつ,一部では改変されたり新しく創造されたりすることで,古きものと新しきものとが混在した都市景観が形成されつつある.このように新旧混在した景観こそが,韓国の地方都市で衰退傾向にある地区における,地域活性化の活力を体現する個性といえるのかもしれない.古きものを守り活かす活動と,新しきものを創造する事業とが並行しながら,現在の,そして将来の公州市旧市街地南部における独自の景観が造られていくのであろう.
著者
古川 不可知
出版者
現代文化人類学会
雑誌
文化人類学研究 (ISSN:1346132X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.34-53, 2021 (Released:2022-01-29)
参考文献数
48

シェルパの人々が居住するネパール東部のソルクンブ郡クンブ地方は、全域がユネスコ世界遺産の自然遺産に登録された山岳観光地である。エベレストをはじめとするヒマラヤの山々を眼前に望むこの地域には、毎年多くの観光客がその自然を見るためにやってくる。他方で観光客の流れはいまやエベレストの頂上にまで達し、人間から切り離された領域としての自然はもはや想像もしがたい。 本稿の目的は、自然/文化という素朴な世界の見方が問い直されつつある現在において、「自然的なるもの」をどのように考えてゆけばよいのか、ヒマラヤの「大自然」を背景に検討することである。本稿ではティム・インゴルドの自然と環境をめぐる議論を手掛かりとしながら、対象化された自然という領域が想像される以前に、私たちは有機体かつ人格として環境内に位置付けられているという事実を確認し、「環境の中の私」を自然的なるものを記述するための立ち位置として定める。そのうえで山間部における道のあり方を事例に、環境の中における存在とは関係的なものであることを指摘し、「自然」についても同様であることを主張する。 そして米国のNGOが現地の若者に自然教育をおこなう登山学校の事例を取り上げながら、単一の自然とそれを解釈する複数の文化という図式が生じる手前の環境から、複数の自然的なるものが立ち現れ、接触する様相を考察してゆく。結論となるのは、同じ物理的環境でも自然は別様に立ち現れること、また他者に立ち現れる自然は注意の向け方を通して学びうるものであり、とりわけ他者とともに高山中を歩くことを生業としてきたシェルパの人々は、パースペクティヴを切り替えながら複数の自然を生きていることである。
著者
佐藤 英麿 長尾 吉正 野々村 浩光 古田 昭春 猿井 宏 苅谷 達也 長田 紀淳 澤田 重樹 後藤 紘司
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.51-56, 2015 (Released:2015-01-28)
参考文献数
21

塩酸セベラマー (セベラマー) はリン (P) を吸着するだけでなく, 透析患者の動脈硬化の進展を抑制するという可能性が指摘されている. 今回, セベラマーを7年以上, 血中P濃度を調節するため服用している血液透析 (HD) 患者の動脈硬化に与える影響について検討した. 対象は, セベラマーを7年間服用したHD患者 (投与群) 22名と年齢, 性, 糖尿病の有無, 透析歴を適合した非投与群22名である. 定期的に, 足関節/上腕血圧比 (ankle brachial pressure index: ABI), 脈波伝播速度 (brachial-ankle pulse-wave velocity: baPWV), non-high-density-lipoprotein cholesterol (non-HDL-C) を測定し, 動脈硬化に与える影響について検討した. 投与群では, ABI, baPWVともに経年的に有意な変化は認められなかった. 非投与群では投与群に比較して, ABIは3年後より低下し, baPWVは5年後より上昇した. Non-HDL-Cは投与群では1年後より低下し, 非投与群との間に有意差が認められた. ABI, PWVの変化とnon-HDL-Cの変化との間に相関はなく, CRPはABIと負の, PWVと正の有意な相関を認めた. 以上より, セベラマーは血液透析患者の血清Pを低下させるだけではなく, 脂質代謝と炎症に関連し, 動脈硬化指標の増悪を抑制する可能性が示された.
著者
古川 隆久
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.128, no.6, pp.1-35, 2019 (Released:2021-09-02)

立憲政友会の有力者であった前田米蔵は、5・15事件(1932年)後における政党政治批判の高まりに対し、いち早く1933年に「日本独特の立憲政治」論を主張した。日本の議会は天皇が設けたことを強調し、天皇の権威の下に議会政治、政党政治の正当化をはかったのである。 さらに前田は、貴族院議長近衛文麿を党首とする立憲政友会と立憲民政党の合同(保守合同)による近衛新党構想を進めた。近衛は議会外諸勢力の支持を得て首相候補と目されていた。前田は、二大政党による政権交代ではなく、近衛新党という、議会外の勢力とも連携する形による政党内閣の復活をはかったのである。 しかし、近衛新党が実現しないうちに1937年に第一次近衛内閣が成立し、日中戦争が勃発した。日中戦争の収拾に苦慮した近衛は、1940年6月、戦勝に向けた強力な挙国一致体制の実現のため新体制運動を開始し、7月に第二次近衛内閣を組織した。 近衛は挙国一致強化のため、新党ではなく、議会を含む各勢力の協調体制の確立をめざしていた。しかし、近衛の側近たちは全体主義的な政治変革をめざし、前田ら衆議院の主流派(旧政友会・旧民政党)は、議会勢力中心の近衛新党の実現をめざした。「日本独特の立憲政治」論によれば、挙国一致の中心はあくまで議会だったからである。 1940年10月に発足した大政翼賛会は全体主義的な色彩が強かった。前田は、近衛との信頼関係と難題処理の実績を評価されて大政翼賛会議会局長に起用された。しかし、前田をはじめ議会の大勢は翼賛会の全体主義的色彩に不満を抱いており、議会は大政翼賛会の改組や、議会弱体化政策の阻止に成功し、前田は衆議院勢力の指導的立場を保つことができた。近衛新党は実現しなかったが、政府の割拠性が続く限り、議会新党による政府の統合力回復という衆議院勢力の主張の正当性が失われることはないからであった。