著者
堤 純 吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃 松井 圭介
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.81-89, 2015 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
1

本稿は,多文化社会の特徴をもつオーストラリアを対象に,移民の増加プロセスおよび社会経済的な特徴を把握することを試みたものである。1970年代に白豪主義が撤廃されたことは,オーストラリアが多文化社会へと舵を切る大きな契機となった。シドニーを対象に移民の増加をみると,仕事では英語を使うものの,家庭では英語以外の言語を使う人口の増加が著しい。シドニー大都市圏では,増加の著しいアラビア語人口やヴェトナム語人口などは,ポートジャクソン湾の南側の低所得者の多い地域に集中する傾向にある。一方,標準中国語や広東語を話す人口は,大多数は低所得者の多い地域に集中するものの,同湾の北側に位置する高所得者の多い地区にも相当数が進出していることがわかる。国勢調査のカスタマイズデータを分析した結果,中国系やインド系の移民は,シドニーに多く住む他のエスニックグループに比べて,学歴や所得の面で高い傾向が確認できた。
著者
吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃 松井 圭介 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.91-102, 2015 (Released:2018-04-04)

本稿では,人口規模が縮小し,居住地が分散しつつあるシドニーのイタリア系コミュニティが,移民集団としての民族文化を表象する場所を1世の集住地ライカートに求め,コミュニティの拠点を再構築しようとする試みに注目した。ライカートは,1950年代にイタリア系移民1世の居住・商業活動の中心であったが,1970年代以降イタリア系住民の数が減少し,そのビジネスも縮小していった。この状況下で,1999年に同地区にイタリアの景観・文化をイメージした商業・居住・文化活動の複合施設,イタリアン・フォーラムが建設された。しかしこの施設は2000年代末には商業的に行き詰まり,イタリア系コミュニティの歴史や民族文化を表象するアイデンティティの場所としても機能しなかった。それでも現在,イタリア系住民の互助組織がこの施設内のイタリアン・フォーラム文化センターを利用し,イタリア系コミュニティの拠り所となる場所づくりをめざしていることが明らかとなった。
著者
堤 純
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.478-489, 2007-12-30
被引用文献数
1

近年,オフィスの空室率や地価水準といった経済状況を示す代表的な指標をみると,札幌の経済は1990年代後半以降に進んだ深刻な不況からの改善傾向がみてとれる.しかし,これが本当に札幌の今後の更なる成長や発展を意味するかどうかは疑問である.1972年の札幌冬季オリンピック開催とそれに並ぶ地下鉄南北線の開通および政令指定都市化が続き,この時期に札幌駅前通りを中心にビルの高層化が著しく進展した.これらのビルの多くは旧財閥系の大手資本によるオフィスビルであった.これらのオフィスビルには,本州から数多くの企業が進出し,札幌の成長は長らく「支店経済」によって支えられてきた.1990年代後半以降,北海道経済は深刻な不況に陥った.これまで札幌の成長を支えてきた支店経済そのものが縮小することが懸念された.一方で,新たな成長産業の柱として,IT関連産業の発展および,北海道大学周辺への同関連産業の集積(「サッポロ・バレー」)がみられた.確かに,従業員規模の小さいIT関連事業所の新設や集積は確認できるものの,この産業が札幌の成長を牽引するほど強固なものとはいえない.また,近年の札幌では確かに「情報通信業」の従業者数や事業所数は増加傾向にあるが,新設だけでなく廃業も高率で推移することが指摘されている.中でも,コールセンターの従業者は急増しているものの,同時に関連する派遣従業者(非正規雇用)の増加も深刻な問題となっている.深刻な不況がさけばれる中,札幌市内には,2000年以降も新規のオフィスビル建設が続いた.JR札幌駅前に2003年に竣工したJRタワーは,札幌では最高の立地条件を備えたオフィスビルといえる.JRタワーに入居するオフィスに関して特筆すべき点として,ホテルや各種オフィスの中に,東京から進出したコールセンターが複数階に渡って入居していることが挙げられる.これは従業員の技術水準が立地要因ではなく,単に東京に比べて安いオフィス賃料水準や安い人件費に起因する企業進出と考えられる,一方,北海道内の周辺市町村(とくに農村部)では深刻な不況に拍車がかかっている.「札幌で働く」あるいは「札幌の一等地にあるJRタワーで働く」ということは,有望な就職先に乏しい北海道の周辺市町村の若者にとって非常に魅力的である.札幌で働けるのであれば,職種や雇用の形態は大きな問題とはならない傾向にある.進出企業にとっては,札幌の一等地にオフィスを開設することで,人材確保の問題を克服できる利点もある.また,札幌のオフィスビル内部でのテナント移動を詳細にみてみると,多くのビルにおいて空室率の上昇が確認できた.中でも,敷地面積の狭小な個人所有のビルや,建築年次の古いビルにおいて空室率が高い傾向が確認できた.かつては最高の立地条件と言われた札幌駅前通り沿線や,そこから1ブロック奥の通りにおいても空きテナントが目立つ状況となっている.一方で,近年竣工した複数の大規模オフィスビルの殆どで空きテナントはみられない.生駒CBREのデータによれば,札幌のオフィス事情は向こうしばらくの間は好況が続くとみられている.その理由は,北海道内の他都市に立地する支店の札幌支店への統合・再編や,札幌市内の都心周辺部(創成川東や西11丁目周辺等)から札幌市都心部への拡張移転や館内増床の動きが顕著にみられるからである.これらの動向をみる限り,札幌は今後も成長を続けると判断することも出来るかもしれない.しかし現状は,北海道内における札幌の一極集中の加速とみるべきであり,今後も持続的な成長が見込めるかどうかは不確実とみるのが妥当であろう.
著者
堤 純 須賀 伸一 生澤 英之 原澤 亮太 鵜川 義弘 福地 彩 伊藤 悟 秋本 弘章 井田 仁康
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

本研究では,iOSおよびAndroid OSのタブレット端末やスマートフォン用のアプリであるjunaio(ドイツのmetaio社が開発した無償ARビューア)を用い,群馬県立前橋商業高校における研究授業の実践などを通して,高等学校地理授業における位置情報型ARの利活用の可能性について検討した。このシステムを構築したことにより,群馬県高等学校教育研究会地理部会のメンバーならば誰でも情報を加除修正できるため,メンバー教員全員が授業用コンテンツづくりに積極的に関わることができるようになった。すなわち,GISのスキルに長けた一部の教員のみに多大な負担をかけてしまうことなく,「シェア型」,あるいは「情報共有型」ともいうべき授業用のARコンテンツが作成できるようになった。本研究のARシステムは,魅力的な地理教材作成において,今後の発展のポテンシャルが高いと思われる。<br>2015年1月に,群馬県立前橋商業高等学校2年生4クラス(160名)を対象とした地理Aの授業では,地域調査の単元(全6時間で計画した「前橋市の地域調査」)において,最初の1時間目をARシステムを援用した地域概観の把握とした。すなわち,高校最上階7階の教室窓から遠方に眺められる建物(高層ビル)について,その名称や用途・高さ・完成年等を,ARシステムを通じて確認しながら,前橋市の都市構造の理解に努めた。その結果,前橋駅南北での開発状況の比較や高崎市との都市機能の違いなどを,現地まで出かけなくても高校の校舎内に居ながら体感することができた。
著者
堤 純
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

本発表は,大都市圏単位でみればギリシア国外で最大のギリシア系移民が暮らすといわれるオーストラリア・メルボルン大都市圏において,ギリシア系移民がとくに多いオークレイ(Oakleigh)地区に着目して,エスニックグループの心の拠り所ともいうべき地区が形成されたプロセスを検討したものである。使用したデータは,オーストラリア統計局が提供する有料のデータ加工サービス「テーブル・ビルダー」である。<br>移民が移住先において作り出すエスニックコミュニティについての既往研究の多くは,特定の集住地区の時間的変化や機能的変化の説明に大きな関心が置かれており,特定のエスニック集団による集住地区の分布や変化を,大都市圏全体の構造変容のコンテクストから解明しようと試みた研究は,管見の限り多いとは言えない状況である。そもそも,Burnleyが指摘するように,特定のエスニック集団による集住地区は大都市圏内でも就業機会の多い産業地区や,家賃水準が比較的安価なことに誘引される低所得者の多い地区に形成されることが一般的である。しかし,こうした低所得者の多い地区は,とくに欧米先進諸国においてはモータリゼーションによる大都市圏の外延的拡大が始まる以前に,いわば当時の大都市圏の外縁部に相当していた地区に形成された例が多い。こうした地区は,今日では大都市の都心部に比較的近いという利点に目を付けた投資家や開発業者の手により,建物の改築によって資産価値を高めるジェントリフィケーションも起きやすい地区でもある(藤塚など)。 本研究の対象地区であるオークレイは,メルボルンのCBDから南東に約20km郊外に位置する。オークレイ以外にも,メルボルン大都市圏内にはCBDの北部に隣接するカールトン地区,比較的高所得者が多く居住するCBDの約20km東部のドンカスター地区にもギリシア系住民の割合が高い集住地区が存在する。しかし,それらの中でも,オークレイは群を抜いて「ギリシア系移民のセンター」なイメージが高い地区であるといわれている。<br>ギリシア系移民の移住時期メルボルンにおけるギリシア系移民は,第二次世界大戦後の1945年以降に増加を始め,1970年代までに多くの移民がオーストラリアに渡った。とくに1960年代は,他の時期に比べて,ギリシア系移民の数が突出して数が多い。オーストラリアの大都市圏の中でも,メルボルン大都市圏が最も多くのギリシア系移民が暮らす場所となっている。メルボルン大都市圏に暮らすギリシア出身の移民の数は,2011年の時点で48,313人を数え,2位のシドニー(28,786人),3位のアデレード(8,991人)を大きく引き離している。<br>考察なぜ,オークレイはギリシア系移民にとってセンターになりえたのだろうか。もともとは移民が多く暮らす「貧しい郊外」だったオークレイであるが,現在では拡大するメルボルン大都市圏の市街地に周辺を取り囲まれ,いまや住宅価格をはじめとする生活コストは決して安くはない地区である。一般的には,多くのエスニックグループの集住地区は家賃価格の上昇に呼応して,低所得者はより低家賃の地区へ,一方,所得の向上したグループはエスニックの集住地区を離れて,ホスト社会の住民たちと変わらない居住地選好を示すといわれている。家賃価格が過去50年で大きく上昇したオークレイでは,一般的な例に照らせば,ジェントリフィケーションの進行によりDinksや若年の高所得層が流入することに違和感がない地区であるが,実際には依然としてギリシア系移民のセンターとして君臨しつづけている。本発表は,こうしたセンターとしての性格がどのように形成されたかについて,ギリシア正教会の役割,オークレイグラマースクール,ギリシア系日用雑貨店,ギリシア・地中海風食材店,ギリシア・地中海風カフェやレストランなどへの聞き取り調査結果をもとに報告する。
著者
藤井 正 伊東 理 伊藤 悟 谷 謙二 堤 純 富田 和昭 豊田 哲也 松原 光也 山下 博樹 山下 宗利 浅川 達人 高木 恒一 谷口 守 山下 潤
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

まず、多核的都市圏構造の研究を整理・展望し、空間的構造の変化に関して社会的メカニズムを含め、地理学と社会学からの分析を行い、同心円的なパターンから地区の社会的特性によるモザイク化、生活空間の縮小の傾向を明らかにした。これは都市整備面では、多核の個性を生かし、公共交通で結合する多核的コンパクトシティ整備を指向するものとなる。こうした整備についても、中心地群の再編等の動向について国際比較研究を展開した。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
片山 忠久 石井 昭夫 西田 勝 堤 純一郎 森川 明夫 橋田 光明
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
no.372, pp.p21-29, 1987-02
被引用文献数
7

Simultaneous observations of the profiles of wind velocity and air temperature are conducted at three points in an urban area with a large pond by the kytoons. From the results of observations, convective heat flux from the ground surface to air is calculated by the traverse-method. Heat flux from the pond is negative, that is, cooling. The relation between convective heat transfer coefficient and wind velocity is obtained in extensive built-up areas. Thermal environment is observed, formed at the height of 1 meter from the ground surface in the built-up area and the large pond. New standard effective temperature of the ASHRAE, SET, is calculated as the over all thermal index at the both sites. The effects of a shade tree and wisteria trellis on thermal environment are discussed.