著者
田島 孝治 安藤 公彦 大島 浩太 寺田 松昭
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.92, no.7, pp.1084-1097, 2009-07-01
被引用文献数
1

本論文では,我々が開発した情報提示システム「水晶珠」について述べる.水晶珠とは,個人の現在位置と時刻情報から,そのとき,その場所で,その人だけに必要と思われる情報を生成し,携帯端末に自動的に映し出す情報提示システムである.提案システムは,近年注目されているContext-Awareの考え方を利用しており,秒単位で生じる位置情報による膨大な行動履歴の保存と,多種の予測方式や携帯端末固有の環境に柔軟に対応できる必要がある.そこで,個々の履歴を圧縮するのではなく,地域の特性を利用した行動履歴保存方式を提案する.提案方式により,その地域で意味のある点を抽出し,行動履歴の保存に利用することでデータ量を削減する.また,行動の予測はインタフェースのみを定義することにより,多種の予測方式へ適応可能なシステムを実現した.提案システムに実際の行動履歴を入力した検証実験により,行動履歴の保存に必要なデータ量の削減とプロトタイプシステムによる動作を確認した.提案システムの試作により,事前のユーザ登録のみで,情報提供を受けるときには利用者は入力作業を行う必要のない情報提示システムの可能性を示唆した.
著者
大島 浩英
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.53-67, 2009

Jacob GrimmとWilhelm Grimmのグリム兄弟によって編纂されたKinder- und Hausmarchen(『子供と家庭の昔話』)の中のHansel und Gretel(「ヘンゼルとグレーテル」KHM 15)を題材に取り上げ、このメルヒェンを初稿(1810)、初版(1812)、第7版(1857、決定稿)とでそれぞれ比較し、その違いを検討した。(初稿(1810)でのタイトルはDas Bruderchen vnd das Schwesterchen)まず初稿では物語の進行が簡潔な平叙文(叙述文)で表現されることが多いのに対し、初版、第7版ではこれを登場人物の会話形式で説明する箇所が増加、さらに登場人物の動きや場面の描写がより詳しく、具体的な表現へと変化しており、特に第7版では新たな挿話も付け加えられている。各版におけるこういった変化を具体例に即して考察した。
著者
小池 恵介 太田 淳 大島浩太 藤波 香織 郡 信幸 竹本 正志 中條拓伯
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.2740-2751, 2012-12-15

Android端末におけるJava実行の高速化とともに,さまざまなネットワークプロトコルへの対応や,種々のセンサへの柔軟な接続が求められている.そのために,FPGAを活用したReconfigurable Androidを提案し,その有効性,可能性を検証することを目指す.本稿では,Reconfigurable Androidの概念について述べ,FPGAボードにプロセッサカードを搭載したシステムにAndroidを移植し,FPGAによるアクセラレータを実装し,ハードウェア実行可能なJavaのソース部分をFPGA上で実行することにより全体の性能向上を実現する.Dalvik VMが稼働するIntel AtomプロセッサとFPGAとの間において,PCI Expressインタフェースの実装を完了し,DMA転送により150 MByte/secの通信性能を確認した.さらに,FPGAアクセラレータによるAndroidの高速化手法について述べ,実験環境および,プロセッサとFPGA間の通信性能について報告し,アクセラレーションによる性能評価を示す.
著者
大島 浩英 Hirohide OSHIMA
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学社会文化学部論集 = Otemae journal of socio-cultural studies (ISSN:13462113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.201-214, 2005-03-25

本稿で取り上げた "Das Rollwagenbuchlin“は1555年に出版された滑稽話集(初版)である口この書物に収められているような Schwank と呼ばれる滑稽話は16世紀のドイツで数多く出版されているが、Schwank [<schwingen] とは、「韻文または散文で書かれ、面白おかしい着想やコミカルな出来事を一つの急所に集約するか、やや長くても短編小説的な体裁 をとった、簡潔で逸話風の物語。粗野で卑狼な内容のものもあれば、教訓的傾向をもつも のもある」、と説明される。従って限定された知識階級の言語ではなく一般庶民にも理解される言語で書かれたものであるため、当時の自然な言語状況を知る資料として適したも のであると考えられる。さてここで、この滑稽話集の著者 Georg Wickram について触 れておくと、Wickram は1505年 Elsaβ の Kolmar に生まれ、後に同地の裁判所書記 (Gerichtsschreiber) 、晩年は Burkheim (Freiburg と Kolmar の中間)の市書記 (Stadtschreiber) の職にあった。熱心なプロテスタントであったためカトリックの町 Kolmar を去ったと言わ れている。宗教改革の時代をプロテスタントとして生きた Wickram の生い立ちはこの著作 においても重要な背景となっているように思われる。さてこの Schwank 集の初版本には67 の話が収められており、その中には農民、聖職者、傭兵、商人、職人などの登場人物を 扱った話があるが、それらのうち本稿では傭兵が登場するSchwank 第14話 (S. 30~32) に 絞り、そこに描かれている内容に関して下線を施した部分を中心に語学的側面、意味的および社会史的側面から考察を加えたい。
著者
堤智昭 大島浩太 中條拓伯
雑誌
マルチメディア、分散協調とモバイルシンポジウム2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.1581-1587, 2014-07-02

ネットワークの高速化やサーバ仮想化技術の発達により、クラウドコンピューティングに代表される複数のノードが協調して動作を行う分散処理型サービスやネットワーク仮想化が普及している.一方,マイクロ秒やナノ秒レベルの精度でノード間の時刻を同期可能なIEEE1588 PTPv2が登場した.本研究では,高精度に時刻同期されたノードを用いた分散処理制御方式を提案する.これをタイムアウェア型分散処理制御と名付ける.本方式では,予め時刻に応じていつどのような処理を実行するかを記述した動作シナリオと時刻に従ってシステム内のノードをデータが渡り歩き処理が進行する.処理状況確認パケットを送らずとも他ノードの状況を確認でき,効率的な計算資源の割り当てが可能である.方式の実現にあたり,通信遅延やノードの性能や特性に起因する遅延の影響を把握,吸収することが課題となる.そこで,動的に動作シナリオを補正するための処理時刻補正のモデル化を行った.提案方式の有効性を確認するための原理実験用ソフトウェアを開発してプロトタイプシステムを構築し,処理時刻補正のモデルに基づいた処理タイミング補正が正確な時刻に沿った処理において有効であることを確認した.
著者
大島 浩幸 山田 憲政
出版者
日本スポーツ心理学会
雑誌
スポーツ心理学研究 (ISSN:03887014)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.65-74, 2010

本研究の目的は,運動技術レベルと運動観察能力の関連を実験的に検証することであった.実験は,様々なスポーツにおいて一般的な運動でありながら熟練度によって優劣の差がある投球動作を試技として用いた.まず,第一の実験として40人の実験参加者を投球課題中の肘関節と手関節の時間的位相差を指標に各10人の2群に分けた.A群(上位群):肘関節の伸展角速度の増加が手関節の伸展角速度の増加より先に来る.B群(下位群):A群の関係が逆になる.次に第二の実験では,15セットのスティックピクチャーで構成される映像を,モデルとした熟練投球動作を基に時間的位相差の段階的操作により作成し,2群の各10人,計20人がモデルの実行した映像と作成した映像を観察した;それらの運動間の差異を検出したセット数を記録した.その結果,A群はB群よりも有意に早い段階で運動の差異を検出した(p<0.001).この結果は,運動技術レベルが高い実験参加者の運動観察における差異の検出精度は運動技術レベルが低い実験参加者の運動観察における差異の検出精度に比べ有意に高いということを示す.
著者
紙谷 博子 梅垣 宏行 岡本 和士 神田 茂 浅井 真嗣 下島 卓弥 野村 秀樹 服部 文子 木股 貴哉 鈴木 裕介 大島 浩子 葛谷 雅文
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.98-105, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
22
被引用文献数
1 2

目的:認知症患者のQOL(quality of life)について,本人による評価と介護者による代理評価との一致に関する研究はあるが,在宅療養患者のためのQOL評価票をもちいて検討したものはない.本研究の目的は,主介護者などの代理人に回答を求めるQOL評価票の作成と,本人の回答との一致性について検討することとした.方法:この研究は在宅患者の観察研究である.我々が開発した,4つの質問からなるQOL評価票であるQOL-HC(QOL for patients receiving home-based medical care)(本人用)に基づいて,QOL-HC(介護者用)を作成した.また,QOL-HC(本人用)とQOL-HC(介護者用)を用いて,患者本人と主介護者から回答を求め,それぞれの質問への回答の一致率についてクロス集計表を用いて考察した.また,合計得点についてはSpearmanの順位相関係数を求めた.結果:質問1「おだやかな気持ちで過ごしていますか.」,質問2「現在まで充実した人生だった,と感じていますか.」,質問3「話し相手になる人がいますか.」,質問4「介護に関するサービスに満足していますか.」について,本人と介護者の回答の一致率は,それぞれ52.3%,52.3%,79.5%,81.8%であった.また,QOL-HC(本人用)合計点とQOL-HC(介護者用)合計点について有意な弱い相関を認めた(Spearmanのρ=0.364*,p=0.015).結論:本人と介護者による評価とに50%以上の一致率をみとめ,合計点について有意な相関をみとめた.介護者による評価を参考にできる可能性はあるが,評価のかい離の要因およびQOL-HC(介護者用)の信頼性の検討が必要である.
著者
坂東 宏和 大即 洋子 大島 浩太 小野 和
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.37-47, 2010

本論文は,保育におけるPCネットワークを介した絵と音声によるコミュニケーションの可能性と問題点を探ることを目的とし,1つの幼稚園内に限定されたPCネットワーク環境の中で,幼児にそのコミュニケーションを体験してもらった。その様子を観察した結果,自分の描いた絵に対する返信として録音された,絵が「うまいですね」,「すごい上手です」といった音声メッセージを聞いて喜ぶ事例が見受けられた。また,年中の幼児が「お化け屋敷」という音声とともに投稿した,紙の一部を黒く塗りつぶして暗闇を表現しただけの絵に対し,年長の幼児が「お化け屋敷ならお化けを描かないと」と言いながらお化けを追記し,お化け屋敷にして返信する事例も観察された。これらの事例から,PCネットワークを介した絵と音声だけのやり取りであっても十分コミュニケーションを取ることができ,幼児に有益な新しいコミュニケーションを提供できる可能性が示唆された。
著者
大島 浩英 Hirohide OSHIMA
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 = Otemae Journal (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-16, 2018-07-31

1494年にアルザスの人文主義者・詩人のゼバスティアン・ブラントによって風刺詩集 Das Narrenschiff(『阿呆船』)がバーゼルで発行された。ドイツ語の時代区分では1350年〜1650年頃の初期新高(地)ドイツ語に分類される言語で書かれた韻文の詩(クニッテル詩句)である。言語的にはまだ不統一な言語状況の中で書かれ、ブラントによってある程度は標準化されたこの詩集のうち、前回の考察に続いて「傲慢」を扱った詩[92]„Vberhebung der hochfart" の39〜80行目(全124行)までを取り上げ、語学的な分析を行った。キリスト教(カトリック)的倫理観に基づいた風刺詩集のため、道徳的罪への戒めが基本的テーマとなっている。今回の考察でも中世高地ドイツ語から新高ドイツ語へ向かう途中の中間段階の状況が音韻、語彙、統語の側面でそれぞれ確認できたが、今回読んだ詩行では、不安定ながらも副文内で定動詞の後置が行われ、それによって枠構造が形成されている例が比較的多く認められた。韻律が優先される韻文詩ではあるが、韻律の条件を整えつつも文法規範をある程度意識しようとする傾向が見られる。
著者
松尾 信一 森下 芳臣 大島 浩二
出版者
信州大学農学部
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.59-90, 1984-07

ニホンカモシカの骨格の形態学的研究の一環として,前肢骨格に引き続き,今回は,後肢骨格について調査研究を行なった。1.カモシカの後肢骨は,寛骨(腸骨,坐骨,恥骨),大腿骨,膝蓋骨,脛骨,腓骨,足根骨,中足骨,趾骨,種子骨および副蹄内の2個の小骨片から成り,それらの骨の各部位を確認し,図譜を作成した。2.カモシカの後肢骨格は,反芻動物の一般的な特徴を備え,概観的には,ヤギやヒツジの骨格に類似していた。また,ウシとは,骨格の大きさで区別できた。3.カモシカの寛骨では,次の部位でヤギやヒツジと区別できた。閉鎖孔,寛骨臼,大腿直筋外側野,腸歩翼,腸骨稜,寛結節,仙結節,殿筋面と殿筋線,大坐骨切痕,坐骨体,坐骨板,坐骨結節,小坐骨切痕,恥骨櫛,閉鎖溝および大腿骨副靱帯溝。カモシカの閉鎖孔の周縁に家畜解剖学用語には使用されていない背側閉鎖結節と腹側閉鎖結節の存在を発見し,靱帯解剖学用語を参照して命名した。4.カモシカの骨盤では,雌雄差について調査した。また,骨盤腔の形でヤギやヒツジと区別できた。5.カモシカの大腿骨では,次の部位でヤギやヒツジと区別できた。大腿骨頭,頭窩,大腿骨頸,転子窩,転子間稜,大転子,大腿骨粗面,顆上窩,顆間窩および栄養孔の位置。6.カモシカの膝蓋骨は,概観的にウシと異なり,ヤギやヒツジと類似していた。7.カモシカの下腿骨では,次の部位でヤギやヒツジと区別できた。脛骨では,外側顆,膝窩切痕,顆間区,顆間隆起,脛骨粗面,脛骨体,前縁,外側面および遠位端。また,腓骨は,腓骨頭と外果より成り,ヤギやヒツジのものによく類似していた。8.カモシカの長骨では,脛骨が最も長く,次に尺骨,大腿骨,上腕骨,橈骨,中足骨,中手骨の順であった。9.カモシカの足根骨は,ヤギやヒツジのものと類似しており,一部,ウシのものとは異なっていた。10.カモシカの中足骨では,退化している第二中足骨が,第三・四中足骨の近位(上端)の後内側に小突起として付着していた。一方,ヤギやヒツジでは,第三・四中足骨の近位には,第二中足骨との関節面が存在していた。さらに,中足骨と中手骨の形態的差異についても,カモシカとヤギでは異なっていた。11.カモシカの趾骨は,ヤギやヒツジのものに類似して細長かった。一方,ウシのものは,太くて短かった。さらに,カモシカでは前肢の指骨の方が,後肢の趾骨よりも太くて短かった。12.カモシカの四肢骨における雌雄差は,寛骨と骨盤においてのみ認められた。
著者
大島 浩英
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.29-42, 2010

Georg Wickramの滑稽話集Das Rollwagenbuchlin(1555)(『車中つれづれ話』)に収められたSchwank"Wie ein schneyder in himmel kumpt und unsers herrgotts fussschamel nach einer alten frauwen harabwirfft".(「一人の仕立屋が天国へとやって来て、神様の足台を老婆めがけて投げ下ろした話」)を下敷きにして、グリム兄弟はKinder- und Hausmarchen(1857)(『子供と家庭の昔話』)の中で"Der Schneider im Himmel"(KHM 35)(「天国の仕立屋」)というメルヒェンを再話した。本論考ではヴィクラムの原文、現代語訳、グリムの再話をそれぞれ比較することによって、初期新高ドイツ語から現代語へと移行する際の音変化、中世高地ドイツ語の影響、書記法の揺れ、不安定な語順と時制表現などが明らかとなり、そしてグリムが再話する際には、登場人物に対してヴィクラムにはなかった独特の性格付けを行いこの話に笑い話的な印象を与えていること、また具体的で詳しい描写や慣用句が増えたことで、本来の口伝えの文体から離れていく様子などが明らかとなった。