著者
木下 和昭 橋本 雅至 中 雄太 米田 勇貴 北西 秀行 大八木 博貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1394, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】簡便な下肢筋力推定方法であるスクリーニングとして30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS-30)や5回椅子立ち上がりテスト(以下,SS-5)がある。CS-30は歩行速度(曽我2008)や下肢伸展筋力(Jones CJ 1999),SS-5はレッグプレスによる下肢伸展筋力,Timed up and go test(以下,TUG)など(牧迫ら2008)と関係性を認め,それぞれ信頼性が報告されている。またCS-30とSS-5の間には有意な相関が認められ,相互に代用ができることも報告されている(大村ら2011)。しかし,これらは対象が虚弱高齢者や脳卒中片麻痺などであり,変形性膝関節症の患者(以下,膝OA)やその後,手術に至った患者での有用性は明らかにされていない。そこで本研究は膝OAの人工膝関節全置換術前(以下,pre)と人工膝関節全置換術後(以下,post)にて,この2種類の椅子立ち上がりテストの有用性について検討した。【方法】対象は膝OAの50名(年齢73.2±8.6歳,身長153.9±9.2cm,体重60.4±10.3kg)とした。測定項目はCS-30,SS-5,膝関節伸展筋力,台ステップテスト(以下,ST),TUGとした。2つの椅子立ち上がりテストは安静座位を開始肢位とし,両上肢を胸の前で組ませ,最大努力で40cm台からの立ち座り動作を繰り返す課題を行った。SS-5は5回の立ち座り動作の所要時間をストップウォッチにて測定した。CS-30は30秒間にできるだけ多く,立ち座り動作を繰り返させた回数を測定した。膝関節伸展筋力は加藤ら(2001)の方法に従い,端座位から膝関節屈曲90°位での最大等尺性収縮をハンドヘルドダイナモメーターにて測定した。測定値は体重にて除した数値とした。STはHillら(1996)が提唱した方法を一部改変し,静止立位をとった対象者の足部から前方に設置した20cm台の上に,最大努力で一側下肢を10秒間ステップさせた回数を測定した。TUGは椅子座位を開始肢位とし,任意のタイミングで立ち上がり3m前方のコーンで回転して開始肢位に戻るまでの歩行時間を計測した。本研究では,最大努力を課す変法(島田ら2006)を用いた。検討方法は手術2日前以内(pre)と退院時(post)に各項目を測定し,術前後の関連を検討した。統計学的手法はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】CS-30はSS-5との間に有意な負の相関が認められた(pre r=-0.65 p<0.01;post r=-0.83 p<0.01)。pre SS-5はpreの全ての測定項目との間に有意な相関が認められた(術側膝関節伸展筋力r=-0.44,p<0.01;非術側膝関節伸展筋力r=-0.37,p<0.05;術側ST r=-0.49,p<0.01;非術側ST r=-0.80 p<0.01;TUG r=0.46,p<0.01)。pre CS-30はpre術側のST以外に有意な相関が認められた(術側膝関節伸展筋力r=0.43,p<0.01;非術側膝関節伸展筋力r=0.33,p<0.05;非術側ST r=0.60 p<0.01;TUG r=-0.38,p<0.01)。post SS-5はpostの術側の膝関節伸展筋力以外に有意な相関が認められた(非術側膝関節伸展筋力r=-0.32,p<0.05;術側ST r=-0.48,p<0.01;非術側ST r=-0.61 p<0.01;TUG r=0.58,p<0.01)。post CS-30はpostの術側の膝関節伸展筋力と術側のSTにおいて,それぞれ有意な相関が認められなかった(非術側膝関節伸展筋力r=0.31,p<0.05;非術側ST r=0.38 p<0.01;TUG r=-0.49,p<0.01)。【考察】SS-5は今回測定した他の動作テストとの関係性が確認でき,先行研究と同様に膝OAに対して使用が可能であることが示唆された。CS-30はpreとpostともに,術側の動的バランステストとの関連を示さなかったため,人工膝関節全置換術前後の術側の評価においてはSS-5の方が短時間にて可能であり,負担が少なく,有用性の高いテストであると考えられた。しかし,下肢の筋力の推定を行う場合や立ち上がりが不可能な場合は,回数の規定がないCS-30の方も有用であると考えられ,荷重関節である膝関節に障害を持つ対象者に合わせて使用することが望ましいと考えられる。またpostでは今回用いた2つの椅子立ち上がりテストは,術側の膝関節伸展筋力と関係を示さず,退院時の術側の膝関節伸展筋力を推定するには課題があり,術後の動作に影響を及ばす関節可動域や変化した下肢アライメントなどが考慮されなければならないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】椅子立ち上がりテストは,臨床現場で簡易に行えるパフォーマンス(動作)テストであり,人工膝関節全置換術前の膝OAにも使用可能であったが,人工膝関節全置換術後の患者では術側の筋力を推定するには術後の動作に影響を及ばす他の要因を考慮する必要性が示唆できた。
著者
金生 翔太 橋本 雅文 余田 侑仁 高橋 和彦
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.854, pp.17-00138-17-00138, 2017 (Released:2017-10-25)
参考文献数
26

This paper presents a laser-based tracking (estimation of pose and size) of moving objects using multiple mobile robots in Global-navigation-satellite-system (GNSS)-denied environments. Each robot is equipped with a multilayer laser scanner and detects moving objects, such as people, cars, and bicycles, in its own laser-scanned images by applying an occupancy-grid-based method. It then sends measurement information related to the moving objects to a central server. The central server estimates the objects’ poses (positions and velocities) and sizes from the measurement information using Bayesian filter. In this cooperative-tracking method, the nearby robots always share their tracking information, allowing tracking of invisible or partially visible objects. To perform a reliable cooperative tracking, robots have to correctly identify their relative pose. To do so in GNSS-denied environments, the relative pose is estimated by scan matching using laser measurements captured by both sensor nodes. Such cooperative scan matching is performed by 4-points-congruent-sets (4PCS)-matching-based coarse registration and Iterative-closest-point (ICP)-based fine registration methods. The experimental results of tracking a car, a motorcycle, and a pedestrian with two robots in an outdoor GNSS-denied environment validate the proposed method.
著者
上杉 謙介 橋本 雅文 高橋 和彦
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.851, pp.17-00129-17-00129, 2017 (Released:2017-07-25)
参考文献数
13

This paper presents a method for detecting and cancelling motion artifact related to standing and walking in a functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) signal. Our fNIRS device has 22 channels. The motionless fNIRS signal from each channel is represented by a fourth-order autoregressive model (AR model), and the related parameters are estimated based on the motionless fNIRS signal using Yule Walker equation. The motion artifacts included in the fNIRS signal are cancelled using the Kalman filter constructed from the AR model. However, the cancellation may be insufficient when the motion artifacts are strong. To determine in which fNIRS channels the motion artifacts are cancelled insufficiently, we apply an observation prediction error related to the Kalman filter and a discrete Fourier transform. The brain activity of the user is then recognized from those fNIRS channels in which the motion artifacts are cancelled sufficiently. To evaluate the proposed method, a mobile robot is controlled using an fNIRS devise as worn by 10 subjects while standing, walking, or sitting. The success rate of brain-activity recognition by the proposed method was 64.2%, whereas that without the proposed method was 54.0%.
著者
西出 和彦 初見 学 橋本 都子 込山 敦司 橋本 雅好 高橋 鷹志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

立体的な空間の広がりや形態に特徴がある居住空間において、実際に展開されている生活様態、人間の心理・生理に与える影響を明らかにすることを目的として、居住実態調査、実験室実験、および実際の居住空間での実験を行った。1、天井高や室空間形態に特徴のある居住空間を対象として居住実態調査を行い、実際の居住者の生活様態・意識の把握を行い、空間との関連を3次元的に考察した。(1)立体的にデザインされている住空間を対象とした調査を行い、空間と居住様態の関係を考察し、高さ方向の変化は住まい方に様々な影響を与えること、居住者による能動的な空間への働きかけの実態、天井の高い空間が質の豊かさをもたらす可能性について明らかにした。(2)空間構成に特徴のある住宅における居住者の入居から現在に至る環境移行の実態追跡調査を行い、居住者が自分たちにあった環境を創成してゆく過程を明らかにした。2,天井高や室空間形態に特徴のある実際の居住空間において、空間の容積、天井高、形状がどのような行為を可能にするか、どのような印象を与えるか等について実験を行った。3,室空間の天井高と容積、開口比率等に関するデータを収集し、室の機能、用途、使用人数、時代背景・文化と3次元空間・容積との関係という観点から現況の把握・整理を行った。以上の分析結果は、室空間の計画における容積という視点を取り入れた新たな尺度の提案を行うことを目指し、実践的な計画に向けた天井高や容積からみた室空間のデザイン理論の提案のための基礎となるものである。
著者
赤崎 勇 橋本 雅文 天野 浩 平松 和政 澤木 宣彦
出版者
名古屋大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1987

1.前年度に引続き、GaNの高品質MOVPE結晶成長条件下でZnを添加することによりMIS構造に必要な抵抗率の高いi層を実現し、MOVPE法による高性能MIS型青色LED(発光効率0.3%)を実現した。2.カソ-ドルミネッセンス(CL)法によりZn添加GaNの発光微細特性及び発光スペクトルを評価した結果、「GaH表面微細構造」と「発光波長及び発光強度」の間に密接な関係があることを見出し、面内で均一な青色発光を得るための成長条件を明らかにした。3.MOVPE法によりMg添加GaNの結晶成長を行い、以下の結果を得た。(1)Mg濃度はMg原料流量に対し線形的に制御できる。(2)Zn添加の場合と異なりMgの添加効率は基板温度によらず一定である。(3)Mg濃度を制御することにより室温のPL測定において青色発光(440〜460nm)を得た。(4)電子線照射処理を施すことにより、青色発光強度が1桁以上も増加すること、かつp形GaN(正孔濃度〜10^<16>cm^<-3>)が得られることを見出した。(5)pn接合形LEDを試作し、その発光スペクトルを測定したところ、青紫色及び紫外発光が観測された。以上の結果、Mg添加はGaN系短波波長発光素子の作製に極めて有効な方法であることが明らかになった。4.GaN上にGaAlNを成長させヘテロ接合の作製を行った結果、GaAlN層にクラックが発生することが分かった。このクラック発生はGaAlN層の組成及び膜厚を制御することにより抑制できることが明らかになった。またこのクラック抑制技術に基づきGaNとGaAlNの多層構造を作製した結果、表面平坦性の優れた多層膜が得られた。
著者
橋本 雅行 譚 玉昆 森本 一成 黒川 隆夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HC, ヒューマンコミュニケーション
巻号頁・発行日
vol.94, no.89, pp.39-44, 1994-06-16
被引用文献数
4 1

対面感は実際に相手と面と向かっているという感覚であり,対面コミュニケーションと同様にテレコミュニケーションで自然な対話を行うのに重要である.この感覚は声の大きさや当事者間の距離,アイ・コンタクトの在存など多くの要素によって引き起こされる.本論文では,対面状況,ビデオ状況で生じる距離感について実験的に調べた結果を報告する.実験変数は被験者位置,画面サイズ,画面上の人物サイズである.被験者に実際の人物または画面に映った人物と自分との距離を答えさせたもので,ビデオ・コミュニケーションの場合は,画面の表示条件によって距離感が変化すことがわかった.また,距離感は対面感ないし臨場感を構成する要素の1つであることも判明した.
著者
高田 邦道 橋本 雅隆 塚口 博司 苦瀬 博仁 小早川 悟 黒後 久光
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度の研究概要は、社会実験の準備を中心として、社会実験対象地区の絞込み、ポケット・ローディング・システムのシステム設計、社会実験対象地区の現況調査、実験装置の設置場所の検討、社会実験対象地区における事前調査、および社会実験対象地区における関係者との折衝を行った。社会実験対象地区の絞込みでは、平成10年度から平成11年度の科学研究補助金によって行われた東京都六本木地区における都心部商業務地区のポケット・ローディング・システム(以下、PLS)社会実験の結果を踏まえ、近隣商業地区におけるPLSの効果を把握するために東京都練馬区江古田地区を社会実験対象地区とした。また、PLSのシステム設計では、今回の対象地区である江古田地区に対応できるシステムの設計および実験装置の改良を行った。平成13年度は、昨年度より検討を行ってきた東京都練馬区江古田地区において、ポケット・ローディング・システムを利用した「貨物車専用荷さばき駐車場」社会実験の実施および実態調査を中心に行った。社会実験は平成13年3月から1年間の予定で実施した。社会実験中のポケット・ローディングの利用状況は、カード保有の会員利用が34台で、カード無しの一般利用が1309台であった。平成14年度は、社会実験対象地区における商店街のアンケートを実施し、社会実験の認知度および荷さばきに関する意識調査を行った。PLSを利用したいと考えているドライバーは82%、管理者は92%とその需要は高い。しかし、今回の社会実験の認知度は、商店街の店舗の47%と約半数であったが、商店街のポケット・ローディングの利用率はわずか3%であった。さらに、今回の社会実験により得られたデータの解析と補足調査の結果を加えて、用地管理、道路管理、交通管理、運輸管理の視点を含めた地区交通対策の方策を検討している。
著者
中辻 史好 林 美樹 橋本 雅善 丸山 良夫 馬場谷 勝廣 平尾 佳彦 岡島 英五郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.76, no.12, pp.1914-1918, 1985-12-20

膀胱原発のMalignant fibrous histiocytoma(以下MFHと略す)は極めてまれであり,本邦では現在までに1例のみ報告されているにすぎない.本症例は排尿困難を主訴として1982年6月4日当科を受診し,膀胱鏡にて頂部右側に直径約2cmの表面平滑な腫瘍と三角部に小豆大の乳頭状腫瘍を認めた.入院時諸検査に異常を認めなかった.膀胱二重造影,膀胱エコー,膀胱CT及び骨盤動脈造影にて頂部の腫瘍は臨床的深達度T_3a,三角部の腫瘍は臨床的深達度T_1の診断のもとに7月28日TURBtを施行した.病理組織学的に頂部の腫瘍はMFH,三角部の腫瘍はInverted papillomaと診断され,頂部の腫瘍に対しては8月10日膀胱部分切除術を施行した.術後vincristine 1mg,peplomycin 10mg,adriamycin 30mgによる多剤併用化学療法を3コース施行し,liniac 4,200radを照射した.術後28カ月現在,再発転移を認めず,経過観察中である.
著者
大塚 英作 平野 雅章 古門 麻貴 田名部 元成 橋本 雅隆 松井 美樹
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

電子商取引の本格化によって新しいビジネスモデルが提唱され、これを実現するためのサプライチェーン・マネジメントのあり方が議論されはじめている。海外の事例としてウォルマートを、国内の事例として株式会社しまむらを取りあげ、小売業態を起点とするサプライチェーンにおけるロジスティクス・ネットワークの構造とオペレーションについて検討した結果、小売業態を起点としたサプライチェーンに、構造上・オペレーション上の特長を見出すことが出来、中間流通における物流機能の高度化は、小売業態の設計の中に組み込まれてはじめて可能になることが理解された。サプライチェーンの革新的効率化の道具として注目されているRFID(無線タグ)についても広範なサーベイを行い、その問題点、技術的課題、応用可能性などについて検討を行った。また、伝統的な企業(ブリック&モルタル)が情報技術をフルに活用する企業(クリック&モルタル)に移行(「ネットトランジション」と呼びます)するには、単にホウムペイジを作成すればよいわけではなく、企業がおかれた競争環境の他に企業自身の組織能力を見極め、自社の優位性を活かし不利をカヴァーするような、戦略と一体となった情報システムの使い方を編み出すとともに、一旦設定された戦略と情報システムの組み合わせも、競争環境や技術の変化に対応して見直していく必要もあるわけであるが、本研究では、既存企業が戦略的に情報システムを活用するためのネットトランジションの戦略パターンおよびネットトランジションに必要な組織能力・ネットトランジションプロセスのマネジメントのあり方について検討した。これらの成果を実験的に検証するためのシミュレーターとしてビジネスゲームを構築した。さらに、本研究では、これからの企業情報システムとして期待されるERPサーバーを実際に稼動させ、その可能性や操作性、新しいビジネスモデルやサプライチェーンへの応用などについて経験を積むことが出来た。
著者
橋本 雅和 阿多 信吾 北村 浩 村田 正幸
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NS, ネットワークシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.104, no.689, pp.79-84, 2005-02-24

IPv6の持つ新たな機能であるエニーキャストは, 同じサービスを提供する複数のサーバに共通のIPアドレスを割り当てて複数のサーバの中から最適なサーバを1つ選んで通信する機能であり, その特性から様々な用途が期待されている.特にIP層でのエニーキャストの実現は, 既存のアプリケーションに変更を加えず使用することができるという利点がある.しかし, 通信の対象となるノードがインターネット上に広く分散しているという特徴を持つグローバルエニーキャストの実現には, 既存の経路制御を大きく変更する必要があり, 実現が困難であると思われてきた.そこで本研究では, Mobile IPv6とグローバルエニーキャストのメカニズムの比較から多くの類似点を見いだして, Mobile IPv6のメカニズムを応用することによりグローバルエニーキャストを容易に実現できることを発見したので, その手法を報告する.
著者
稲垣 幸司 大島 康成 鈴木 秀人 藤城 治義 柳楽 たまき 吉成 伸夫 橋本 雅範 瀧川 融 小澤 晃 野口 俊英
出版者
特定非営利活動法人日本歯周病学会
雑誌
日本歯周病学会会誌 (ISSN:03850110)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.220-225, 1996-06-28
被引用文献数
13 4

骨粗鬆症と歯周病の関係を把握する一助として,閉経後女性骨粗鬆症患者の口腔内所見,特に歯周病所見を調査した。対象は,骨粗鬆症のために通院中の女性患者35名(以下O群,腰椎骨密度測定者18名,橈骨骨密度測定者17名,63.0±1.5歳,以下平均±標準誤差)である。また,愛知学院大学歯学部附属病院歯周病科でランダムに選択した平成7年来院の骨粗鬆症を有さない60歳代歯周病女性患者20名(以下P群,63.6±0.6歳)の口腔内所見と比較した。骨密度は,二重エネルギーX線吸収法により測定した。O群の身体所見は正常であったが,骨密度は,平均で若年期標準値の60.5±1.3%に低下していた。しかし,両群の骨密度と歯周病所見との間に有意な相関は認められなかった。現在歯数と処置歯率の平均は,それぞれO群23.0±1.3歳,60.0±4.1%,P群22.6±1.5歯,53.2±6.2%で,ほぼ同一であった。一方,歯周病罹患歯率(4mm以上のPDをもつ歯の割合)とプロービング時の歯肉出血率(BOP率)は,それぞれO群46.2±6.3%,37.5±4.2%,P群39.6±6.3%,24.6±4.4%で,O群がやや悪化傾向を示した。従って,高度な骨粗鬆症患者では,歯周病が進行していることが示唆されたが,今後さらに対象症例を増やして詳細に検討する必要がある。