著者
谷川 亘 村山 雅史 井尻 暁 廣瀬 丈洋 浦本 豪一郎 星野 辰彦 田中 幸記 山本 裕二 濱田 洋平 岡﨑 啓史 徳山 英一
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-31, 2021 (Released:2021-09-07)
参考文献数
34

高知県須崎市野見湾では,白鳳地震によって水没した村『黒田郡』の伝承が語り継がれているが,その証拠は見つかっ ていない.そこで本研究では,野見湾内で海底調査を行い『黒田郡』の痕跡を探索した.その結果,海底遺構の目撃情報 がある戸島北東部の海底浅部(水深6m~7m)に,面積約0.09km2の沖側に緩やかに傾斜する平坦な台地を確認した. 台地表層は主に薄い砂で覆われており,沿岸に近づくにつれて円礫が多くなった.また,砂層の下位は硬い基盤岩と考え られ,海底台地は旧海食台(波食棚)と推定される.海水準変動と地震性地殻変動を踏まえると南海地震により海食台は 約7m 沈降したと推定できる.本調査では黒田郡の痕跡は発見できなかったが,水中遺跡研究に対する多角的な調査手 法を検討することができた.特に,インターフェロメトリソナーの後方散乱強度分布による底質観察とStructure from Motion(SfM)技術を用いた海底微地形の構築は,今後浅海における水中遺跡調査に活用できる.
著者
鵜飼 建志 林 典雄 細居 雅敏 田中 幸彦 篠田 光俊 笠井 勉
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C1331, 2007

【目的】<BR> 内側型野球肘における尺骨神経症状があるものは上腕三頭筋内側頭(以下MHTBとする)の圧痛やspasmを有するものが多く、MHTBのrelaxationやtransverse方向への柔軟性改善を主体とした運動療法により、順調な改善を示す例を数多く経験している。本報告の目的は、このような臨床経験から、MHTBが尺骨神経症状に対しどのような影響を及ぼしているのか、その発症メカニズムを考察することである。<BR><BR>【方法】<BR> 平成14年7月から平成18年10月までに当院を受診し、野球肘と診断されたケースの内、尺骨神経症状が主体であった16例を対象とした。<BR> 尺骨神経症状の判断基準は(1)Tinel sign陽性(2)尺骨神経の腫瘤(3)左右差のある尺骨神経の圧痛(4)尺骨神経領域におけるしびれ(5)尺骨神経伸張肢位での症状の再現(6)屈曲角度増大に伴う外反ストレス時痛増強(7)尺骨神経脱臼、の7項目の内3つ以上認めるものとし、その割合を検討した。<BR> またMHTBの尺骨神経症状への直接的な関与を確認する目的で、我々が考案したMHTB shifting test(以下MSTとする)を実施した。これはMHTBを徒手的に後外側へよけた際の外反ストレス時痛の変化をみるものである。<BR><BR>【結果】<BR> 尺骨神経症状判断基準(1)は16例(100%)、(2)は4例(25%)、(3)は16例(100%)、(4)は4例(25%)、(5)は6例(37.5%)、(6)は14例(87.5%)、(7)は9例(56.3%)であった。<BR> MSTでは13例で陰性化し、2例で軽減した。1例は変化がなかった。軽減にとどまった2例は改善に時間を要する傾向にあった。変化のなかった1例は初診時所見でMHTBの圧痛、spasmを認めなかった。<BR><BR>【考察】<BR> 投球時、肘は外反・屈曲強制を受けるが、MHTBはその制動に働くdynamic stabilizerとして重要である。投球動作の繰り返しによりMHTBに負荷がかかり、圧痛やspasmが生じる。その結果、MHTBの過緊張は尺骨神経を深部より押し上げ、浅層を走行するStruthers' arcadeに圧迫を生じさせる。加えて上腕内側を走行する尺骨神経はMHTBにより前方(腹側)に押し上げることで神経自体の緊張が高まり、尺骨神経溝との摩擦力も増大する。また、神経の緊張増大は尺骨神経脱臼の誘因となり、friction stressの増大を招く。また尺骨神経脱臼例では肘部管での尺骨神経過屈曲が生じ、肘部管症候群の引き金となる。以上のように、MHTBのspasmは尺骨神経に対し、圧迫、伸張などといった、神経症状誘発の根底となるrisk factorである可能性が高い。また、我々が考案したMSTは、MHTBによる尺骨神経への押し上げstressを、筋腹全体を後外側へshiftさせることで軽減させるテストである。尺骨神経症状におけるMHTBの関与を知る上で有用なテストであると思われた。
著者
尾崎 久雄 上松 和夫 田中 幸二
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.166-172, 1970-12-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
11

Subacute and chronic intoxication of copper sulphate on goldfish and carp were tested under lower concentrations than those in usual cases of TLm test in 24 or 48 hours.The effects were measured, in tanks containing the water of 48 or 50l with 5 fish of similar size placed as one experiment lot, referring to the maximum and minimum periods of survival (days), the growth in length and weight of body, the condition factor and amount of food consumed. The temperature of the water was kept at 23±1°C, and pH value at 5.7±0.1 during the test extending the maximum of 30 days.Also, seven kinds of copper compounds were examined on the survival (in hours) of carp.The tests revealed, among others, that the concentrations which permitted the survival of more than 30 days were 0.17 ppm for goldfish, and 0.08 for carp in the maximum and that the growth showed lowering at 0.08 ppm for goldfish and 0.024 for carp in the minimum.The amount of food consumed decreased to 70% at the concentration of 0.008 ppm in carp against 100% at 0ppm, though the fish survived more than 30 days in apparent healthy condition at this low concentration.The decrease of intake of food by carp was believed to have resulted from the toxic effects of copper sulphate on the mucous epithelia and on the enzymes in the digestive tract as usually observed in mammals.Discussion was made from the results of the present study and from literature referring to the so-called safety concentrations of copper compounds, which are often applied for the extermination of parasitic animals and plants to fish.The concentrations of copper sulphate used for such purposes range from 500 to 0.04 ppm.The safety level has been often calculated from the TLm in 24 or 48 hours. However, the results gained in the present study will indicate that the allowance on the safety concentration of copper sulphate of fish should be made on the basis of the bioassay tests aimed to the seeking of the concentrations which effect subacute or chronic intoxication rather than on usual TLm test in shorter periods as above mentioned.
著者
伊藤 厚子 馬場 薫 田中 幸子
出版者
東北文化学園大学医療福祉学部看護学科
雑誌
東北文化学園大学看護学科紀要 = Archives of Tohoku Bunka Gakuen University Nursing (ISSN:21866546)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-11, 2020-03-31

本研究の目的は、病院で看護職が受ける職員間暴力・ハラスメントの実態と抑うつとの関連を明らかにすることである。400床以上500床未満の3病院、1,107名の看護職を対象に質問紙調査を行い、抑うつ状態の評価はCES-Dを使用した。職員間暴力・ハラスメントを受けた者のうち、所属長に報告した者は32.7%であり、言葉の暴力・いじめ・パワハラを受けた者は受けたことがない者よりCES -D得点が高いことが明らかとなった。職員間暴力・ハラスメントの中でもいじめを受けた者は特に抑うつ傾向を誘発しやすいことから、管理者は職員の人間関係に注意するとともに、職員が報告や相談をしやすい環境や関係作りの必要性が示唆された。
著者
濱田 洋平 谷川 亘 山本 裕二 浦本 豪一郎 村山 雅史 廣瀬 丈洋 多田井 修 田中 幸記 尾嵜 大真 米田 穣 徳山 英一
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

⾼知県⼟佐清⽔市⽖⽩海岸付近の海底(水深5-10m)には、数十基の大型の石柱(長さ1m)が横たわっている。しかし、石柱が人工的に作られたものなのか、自然の岩石ブロックなのか、そしてその起源ついては不明である。石柱が確認された爪白地区は、昔から南海トラフ地震による津波と台⾵・⼤⾬による⽔害に幾度も襲われているため、海底の石柱には自然災害の痕跡が残されている可能性がある。また、⾼知県各地の沿岸部には684年の⽩鳳地震で⼀夜にして沈んだとされる村(⿊田郡)の伝承が伝わっており、石柱と「黒田郡」との関係性にも期待がもたれる。そこで本研究では、石柱の幾何学的特性と岩石物理鉱物学的な特性を測定し、起源の推定につながる可能性の高い近傍の岩石および石造物についても同じ特性を測定した。各特性の類似性を評価し、海底石柱の起源の推定を行った。一連の分析の結果、海底の石柱は三崎層群竜串層(中新統)を起源とし、現在は閉鎖している三崎地区の採石場から採取、加工され、爪白地区で石段や家の基礎などの石造物として利用された可能性が高いことがわかった。さらに、爪白地区で利用されていた石柱は1707年の宝永地震による津波により海岸まで流された可能性が高いことがわかった。本研究は、破壊分析(間隙率・密度・XRD)と非破壊分析(X線CT・pXRF・帯磁率測定)の両手法を用いて実施している。将来における水中考古遺物の保存を念頭に置いた場合、水中における非破壊分析手法の確立が喫緊の課題となる。本研究ではX線CT画像解析による石柱の表面形状の特徴とpXRFによる元素濃度比の測定結果を用いたPCA解析が起源特定に大きな貢献をしたが、水中でも室内分析と同様の精度でデータを取得する必要がある。一方で、石柱が水中に水没したプロセスを知る上での重要な手がかりとなる年代評価については手法と精度に問題点があることがわかった。本研究の一部は高銀地域経済振興財団の助成金により実施された。
著者
谷川 亘 徳山 英一 山本 裕二 村山 雅史 田中 幸記 井尻 暁 星野 辰彦
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

日本各地には巨大災害により沿岸部の集落や構造物が水没した記録や伝承が残されている。例えば1498年の明応東海地震による浜名湖南部集落の水没、天正13年の地震に伴う長浜市琵琶湖湖岸集落の水没、磐梯山の噴火に伴う檜原宿の水没が挙げられる。高知県内でも684年に発生した白鳳南海地震により集落が水没した伝承が残されており、その集落は「黒田郡」という名称で市民に知れ渡っている。この黒田郡伝承を明らかにするために、過去に幾度にもわたり調査が実施されてきた。しかし、調査記録が不明瞭な点が多く、黒田郡の謎にどこまで迫れたのかわからない。そこで2013年から高知大学と海洋研究開発機構が中心となって、黒田郡の調査が始まった。2019年までに高知県内沿岸部の6地点(南国市十市、野見湾、浦ノ内湾、興津、爪白、柏島)の調査を実施してきた。残念ながらこれまでのところ黒田郡の痕跡を示す証拠は得られていない。一方、本研究は海底の人工物と構造物を自然災害の記録を残す物証として見立てた地球科学的な分析アプローチであるため、これまでの発想にない発見が得られつつある。そこで本発表では、研究成果が出つつある3地点(野見湾・爪白・柏島)について調査概要を紹介する。須崎市野見湾の南部に位置する戸島は弥生時代の遺跡があり、島北東部海底で井戸を見たという報告が昔から寄せられている。そのため、野見湾は高知県内でも黒田郡の有力候補地として知られている。本研究では、海底地形調査により戸島北東部において縦横200m幅にわたる台地を確認することができた。海底台地は非常に平坦で、海食台の可能性をうかがわせることから、海食台の形成過程から地震性沈降史を評価できる可能性がある。一方、土佐清水市爪白海岸海底には人工的に加工された跡が残る石柱が多く横たわっている。本研究により、この石柱は近郊の爪白地区で石段や家の基礎として古くから使用されていた石造物であることがわかった。さらに、石柱が陸上から海底に運搬されたプロセスに南海地震津波と水害が関与している可能性があることがわかった。幡多郡柏島の北部に石堤を想定させる巨石が積まれた壁状構造物が海底にあることが知られている。野中兼山が整備した陸上の堤(兼山堤)とほぼ並行に位置しているため、兼山堤との関連性もうかがわせる。しかし、年代同定と鉱物分析からこの構造物は自然でできたビーチロックである可能性が高いことがわかった。ビーチロックは潮間帯で形成されるため、ビーチロックの年代分析から沈降履歴を評価できる可能性がある。本研究は、水中構造物と水中遺物を対象にした調査が、地震や水害などの歴史自然災害の履歴の評価につなげられる可能性を示唆している。本研究の一部は高銀地域経済振興財団の助成金により実施された。参考文献谷川亘ほか、2016、黒田郡水没伝承と海底遺構調査から歴史南海地震を紐解く:レビューと今後の展望、歴史地震、31、17-26
著者
吉村 理 前島 洋 小林 隆司 峯松 亮 佐々木 久登 田中 幸子 金村 尚彦 白濱 勲二 上田 健人 上田 千絵 渡辺 誠 矢田 かおり 宮本 英高 森山 英樹 加藤 浩 河元 岩男
出版者
広島大学大学院保健学研究科
雑誌
広島大学保健学ジャーナル (ISSN:13477323)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.73-77, 2001

頚髄損傷の評価では,頚髄の損傷の程度と損傷高位が重要である.米国脊髄損傷協会は,脊髄損傷の障害の評価法を発表し,脊髄損傷の神経学的および機能的分類のための国際基準として現在国際的に使用されている.しかし可能性に挑戦するリハビリテーションとしては,より詳細な高位分類が必要である.Zancolli分類は頚髄損傷四肢麻痺の上肢機能を細かく分類し,リハビリテーションからみても車椅子ADLが自立する可能性のあるC6を細かく分けているのは有用である.しかしマット上基本動作,移乗・移動などの動作が自立するか否かの判断に重要な肩甲帯筋群の評価がない.従来肘伸展筋である上腕三頭筋はC7髄節筋であるが,Zancolli分類ではC6髄節残存群のサブグループとしているのは混乱をまねく.そこでZancolli分類を改良し,損傷高位別の機能到達目標を決定するための評価表を作成し,ADLが自立する可能性について検討した.改良Zancolli分類でみるとC6BⅡが車椅子ADL自立の境界レベルである.
著者
田中 幸一 山下 裕一 高地 俊郎 平野 忠 白日 高歩
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.2196-2199, 2000-08-25 (Released:2009-02-10)
参考文献数
27
被引用文献数
3 3

自験例は, 60歳,女性. 1996年8月30日左腰背部膨隆を主訴として当院を受診した.左腰背部に大きさ8×7cmの柔らかく圧痛のない腫瘤を認めた.腹部超音波, CTおよびMRI検査により上腰ヘルニアと診断した.手術所見では,直径2.5cmの腹横筋腱膜の断裂がヘルニア門となっており腎周囲の後腹膜脂肪の脱出を認めた.術式は周囲組織が脆弱であったため,ヘルニア門を閉鎖した後Marlex Mesh®を縫着して補強した. 1999年現在まで再発をみとめていない. 上腰ヘルニアを臨床において経験することは稀であり,本邦では自験例を含めて37例の報告がある.その診断は理学的所見から容易であったが,超音波, CT, MRI検査がヘルニアの内容,周囲との関係を知るうえで有用であった.発見された時点で症例に応じた外科的修復を行うことを原則としてよい.
著者
河井 正 金谷 守 田中 幸久 石川 博之 武田 智吉
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
地震工学研究発表会講演論文集 (ISSN:18848435)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.705-708, 1997
被引用文献数
2

外洋に面した人工島を保護するケーソン式防波護岸の地震時挙動を検討するため、遠心力載荷模型実験を実施した。実験ではケーソン式防波護岸が異なる地盤条件のもとで建造されることを想定し、岩盤上に設置された場合と砂層上に設置された場合の両方の場合について検討した。また一方でケーソン式防波護岸の一部である消波工部分の地震時挙動を把握するため、消波工のみからなる堤体の加振実験も実施した。その結果、岩盤設置型の防波護岸では水平震度1.0で加振してもケーソンの変位があまり生じないこと、消波ブロックのような異形材料の集合体でも、動的変形特性にひずみ依存性が認められる結果が得られた。
著者
渡邊 裕子 赤星 千絵 関戸 晴子 田中 幸生 田中 和子 下条 直樹
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.98-104, 2012-04-25 (Released:2012-05-19)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

全卵・卵白・卵黄を用いた菓子・肉団子・パスタ・プリンモデル食品を作製し,調理による卵タンパク質の検出値の変化を,抽出液にトリス塩酸緩衝液を用いたELISAキットにより測定した.菓子,肉団子では揚調理が最も低下し,肉団子はレトルト処理によりオボアルブミン(OVA)は検出限界以下(<1 μg/g)となり,オボムコイド(OVM)も最も低下した.ゆえに,調理温度とともに均一な加熱処理が加わる調理方法が卵タンパク質の検出に影響した.また,卵黄使用の肉団子レトルト処理とパスタでは,いずれの卵タンパク質も6 μg/g以下となり,さらに患者血清中のIgE抗体によるウエスタンブロット法では,OVA,OVMは検出されなかった.一方,抽出液に可溶化剤を用いたELISAキットでは,前述のキットに比べ定量値が上がり,加熱処理したタンパク質が検出された.
著者
田中 幸夫 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.144-156, 2010
被引用文献数
5

本稿では,中東に位置するティグリス・ユーフラテス川流域を事例に国際河川紛争の解決要因の検討を行う.同流域では主にトルコ・シリア・イラクによる水争いが20世紀後半以降顕在化し,流域国間での合意形成が幾度にもわたって試みられたが,いずれも不調に終わり,現在に至っている.このような膠着状態を脱却する要件として,本稿では「イシューのパッケージ化」に着目した.特定の争点の妥協を誘引するためにその他の争点を交渉に導入する(イシューをパッケージ化する)という手法は意識的または無意識的に様々な資源交渉もしくは国際交渉の場で行われている(本稿では米国とメキシコの間のコロラド川水質汚染問題におけるイシューのパッケージ化を例示した).ティグリス・ユーフラテス川の事例においても,流域国間でトレードオフが可能な争点としてエネルギー,国境貿易および経済開発,民族(クルド人)問題などが挙げられた.これらを水資源配分の問題と合わせて流域国間交渉に導入することにより,流域国の協調が達成可能となることが期待される.
著者
武輪 鈴子 谷口 奈穂 田中 幸代 中野 崇秀 蓮井 正史 金子 一成 野津 寛大
出版者
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
雑誌
日本小児腎臓病学会雑誌 (ISSN:09152245)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.147-151, 2009-11-15 (Released:2010-05-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

腎性低尿酸血症は,human urate transporter1の異常により低尿酸血症をきたす疾患で,運動後急性腎不全の合併が多い。その発症機序について二つの仮説,すなわち「急性尿酸腎症説」および「活性酸素関与説」が提唱されているが,詳細は不明である。 本論文では,腎性低尿酸血症の患者において運動後急性腎不全の合併しやすい理由を過去の文献を参考に考察するとともに,筆者らが経験した腎性低尿酸血症患児において,運動負荷の上で酸化ストレス度と抗酸化力を測定した結果を紹介した。患児は対照成人と同様,運動負荷直後から酸化ストレス度の上昇を示したが,抗酸化力は対照成人と異なり,運動負荷後,急激に低下した。すなわち対照に比して運動負荷時の酸化ストレス増大に見合う抗酸化力を有していないことが示唆された。以上より,酸化ストレス急増時の抗酸化力の相対的不足が腎性低尿酸血症における運動後急性腎不全発症に関与しているものと思われた。
著者
田中 幸雄
出版者
広島大学経済学部附属地域経済研究センター
雑誌
地域経済研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.87-100, 1998-03-31

外資系企業の対日直接投資に関する研究は、これまで対内/対外直接投資の不均衡是正や輸入促進による貿易不均衡是正の論点で議論されてきている。しかしながら、外資系企業の国内立地を「外国企業の優れた経営資源の導入」として把えると、日本経済の活性化を促進するための一つの有力な経済発展政策になるものと思われる。こうした観点から、本稿では、外資系企業の対日直接投資の現況を整理し、外資系企業の対外直接投資の決定要因とそれを阻害する因子を分析することにより、地方都市における外資系企業の誘致の方法論を検討する。分析にあたっては、統計的データやこれまで発表されている研究論文を参照にするだけでなく、企業の経営者等へ実施したヒアリング調査やアンケート調査等を取り込み実証的な側面で分析することに努めた。Hitherto, research on foreign capital enterprises' direct investment in Japan has focused on aspects such as correction of imbalance between domestic and overseas direct investment, controversies concerning correction of trade imbalances trough import promotion, and the introduction of outstanding overseas management resources.This paper reviews the current state of foreign capital enterprises' direct investment in Japan, and by analyzing the factors that make such enterprises decide to invest directly overseas, and the factors that deter them from doing so, considers methodologies for attracting foreign capital enterprises to regional cities.
著者
田中 幸子 平岩 和美 武本 秀徳 岡崎 満樹 大塚 和宏 霜井 哲美
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.G0556-G0556, 2005

【はじめに】理学療法士を目指し胸膨らませて入学して初めに学ぶことは,理学療法士教育の第1ページとなる重要な意味を持つ。しかし,実際には1年前期のカリキュラムは専門分野が少なく,基礎分野がほとんどの時間を占める。本校ではできるだけ早い時期に専門分野に触れられるよう,生活環境論を1年生で教えてきた。今回アンケートをもとに,1年生で取り組む利点と今後の課題を紹介したい。<BR>【経過】生活環境論は1年生前期に行われた。その内容は講義形式とグループ発表形式で構成した。グループは,日本社会が抱える生活環境・居住環境・子供の生活環境・障害者の生活環境・女性の生活環境・高齢者の生活環境・介護保険・生活習慣病と生活環境,の中から希望を募りグループ割をした。発表は1時限(90分)に2グループとし,その中に質疑応答も含めた。発表終了時には各グループの発表に対して無記名にてアンケートを取り,グループへのコメントを記入させた。コメント部分は切り取って発表者に渡し,フィードバックし,最後に発表者の感想を提出させまとめとした。<BR>【対象と方法】対象は本校理学療法学科1年生全員。アンケート調査を生活環境論の授業終了後に無記名で行った。回収率は100%であった。調査は2年間,同様に行われた。アンケートの内容は授業開始前にどれくらいキーワードを知っていたか,グループ活動に費やした時間と場所,積極的に参加できたか、についてであった。<BR>【結果と今後の課題】1年生で授業を受ける前に知っていた言葉は,バリアフリー(99%),QOL(47%),ADL(27%),ユニバーサルデザイン(27%)の順であった。このことより1年生から生活環境論に対する学習レディネスはあると言えよう。授業に積極的に参加できましたか,との問いには,「はい(55%),いいえ(5%),どちらでもない(35%)」,と半数以上が積極的に参加できたと答えた。1回のグループ学習の準備に要した時間は11時間以上38%,6-10時間29%,1-5時間33%であった。<BR> 1年生から生活環境論を学ぶ意義としては,以下のことがあげられる。日常生活(活動)に制限が生ずるとき,患者に原因があるとする医学モデルの考え方と生活環境に原因があるとする社会モデルの考え方があるが,理学療法の講義はほとんどが,医学モデルとなっている。早い時期に社会モデルの考え方を知ることは幅広い視野にたった理学療法士育成に役立つ。1年生で教えることの課題としては疾患についての知識が乏しく,各論が理解しにくいことがあげられるが,これは後に「日常生活活動」(3年次)を教える教師が1年次の生活環境論も担当することによって,卒業までに理解できるように設定し,解決している。<BR> 今後さらに学生が積極的に学習に取り組める授業を模索していきたい。