著者
平尾 和子 西岡 育 高橋 節子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.363-371, 1989

タピオカパールは, 調理に際して煮くずれしやすく, 芯が残りやすいなどの問題点があり, その加熱方法はむずかしい.透明感や歯ごたえがあり, 煮くずれが少なく, 芯のないタピオカパールを得るためのより簡便な加熱方法を知る目的で本実験を行った.<BR>加熱方法は, 湯煎による加熱の湯煎法と魔法瓶を用いるポット法について比較し, 顕微鏡観察, 物性測定および官能評価の結果から浸水効果や加熱方法を検討した.結果は次のとおりである.<BR>1) タピオカパールは, 加熱に際しての浸水効果は認められず, 浸水することなく, 直接ふりこんで加熱するほうが煮くずれしにくい結果となった.<BR>2) 加熱方法では, ポット法が湯煎法に比べて煮くずれせず, 弾力があり, 芯のない煮上がりとなるなど, 物性値においても, 官能評価においても最も好まれた. 魔法瓶を用いるポット法は, 加熱途中の攪拌や湯を補うなどの手間もかからず, しかも形状やテクスチャーのよいタピオカパールを得ることができるなど, 簡便かつ効果的な加熱方法と考えられる.<BR>3) 湯煎法のうち, 水にふり込んで加熱する水湯煎法は, 熱湯にふり込む熱湯湯煎法に比べて加熱時間が短縮され, とくに2時間加熱することにより, 透明で歯ごたえのある試料が得られた.
著者
藤田 節子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.492-503, 2010
被引用文献数
1

近年,学術論文の参照文献に,インターネット情報の利用が増加している。Webページは更新や削除が頻繁に行われるため,インターネットからの参照文献は読者が後になって入手できるとは限らない。本調査は,2007年と2005年に刊行された図書館情報学関係学術誌4誌に掲載された論文の参照文献のうち,インターネット情報を参照した858件の入手可能性を調べた。その結果,2007年では参照されたインターネット文献のうち28%,2005年では41%が,論文の著者が記述したURLのもとでは見つからなかった。見つからなかったインターネット文献を,そのサイト内で検索したり,検索エンジンを使うと,2007年は89%,2005年では82%が入手可能になった。参照されたインターネット文献の保存,サイト運営者の適切な管理運営,著者の正確な引用と,必要十分な書誌記述が入手可能性を高める。
著者
八戸 真弓 内藤 成弘 明石 肇 等々力 節子 松倉 潮 川本 伸一 濱松 潮香
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.34-38, 2014-01-15 (Released:2014-01-31)
参考文献数
10
被引用文献数
4 3

太さの異なる2種類のうどん生麺,太麺(2.5 mm × 3 mm)と細麺(1.5 mm × 1.5 mm)を作成し,それぞれにおいて茹で時間を変えて調理し,麺の太さと茹で時間が放射性セシウムの動態に及ぼす影響を評価した.太麺,細麺ともに茹で調理により,放射性セシウムが有意に低減されることが分かった.しかし,茹で時間の延長による加工係数の変化は,太麺で20分間まで,細麺で4.5分間までは有意に低下したが,それ以降は茹で時間の延長による有意な低下は認められなかった.残存割合は太麺では10分間で,細麺では3分間までは有意な低下が認められたが,それ以降は有意な低下は認められなかった.これらのことから,喫食に適する茹で時間(太麺では20分間,細麺では3-4.5分間)の調理において,茹で麺と茹で湯間の放射性セシウムの濃度勾配が小さくなり,それ以上の茹で時間の延長では,茹で麺の放射性セシウム濃度の有意な低下は起こらないことが明らかとなった.また,細麺のほうが太麺よりもより短い茹で時間で放射性セシウムの低減効果が得られるが,両茹で麺とも茹で調理により80 %以上の放射性セシウムが除去された.
著者
布施谷 節子
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.71-79, 2007-03

The author investigated the impression of the subjects dressed in tight skirts. One of the aims of the wearing test was to select the length of tight skirts which seemed to be the most deceptively slender or the fittest to each subject. Black and white tight skirts were used in the test. Four female students who had different physical types put on the tight skirts made in five different length alternately and they were taken five photographs in a front view. Fifty one female students selected the most suitable length among five photographs in each subject. Main results were as follows; (1)The fitting length of tight skirt was different in each subject. (2)The knee length of tight skirt gained good evaluations without regard for physical types. (3)The ankle length was suitable for a plump subject, the calf length was suitable for a chubby subject and the upper knee length for a slender subject. (4)The results of this investigation will be useful in dressing education.
著者
福田 節也 余田 翔平 茂木 良平
出版者
日本人口学会
雑誌
人口学研究 (ISSN:03868311)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.1-20, 2021 (Released:2021-11-18)
参考文献数
50

「『誰が誰と』結婚するのか」という問いは,結婚における重要な問題でありながら,日本の人口学における知見は限られている。また,この問題に中心的に取り組んできた階層研究者の間でも,日本における学歴同類婚の趨勢については必ずしも一致した見解が得られてこなかった。本稿においては,1980年から2010年までの国勢調査の個票データを用いることにより,日本における学歴同類婚の趨勢を描き出し,その趨勢の変化と社会的・人口学的な含意について解説を加えた。妻30–39歳の日本人夫婦を対象として,記述統計ならびにログリニア分析を行ったところ,われわれの分析結果は,1)学歴同類婚ならびに女性の学歴上方婚の連関が弱まっていること,そして2)女性の学歴下方婚の連関が強まっていることを示した。また,学歴同類婚の連関の強さを学歴別にも分析したところ,3)大学卒の女性において下方婚の連関が強くなっているという結果を得た。これらの結果は,日本や中・先進諸国における学歴同類婚の世界的な新潮流と一致するものであった。本分析で示された学歴同類婚における変化は,どのように説明することができるのであろうか。本稿では,女性の高学歴化と前後して生じた,①グローバル化による労働市場の二極化(雇用の非正規化)と②ジェンダー革命による女性の経済的役割の変化という2つの社会変動との関連を指摘した。加えて,日本で大卒女性の下方婚がより生じやすくなっていることについては,大卒男性において非正規就業の割合が増えたことに伴い,大卒男性の所得分布が下方に推移し,大卒とそれ以外の学歴の者との経済的な境界が一部曖昧となりつつあることも一因ではないか,との見方も示した。すなわち,これらの社会情勢の変化によって,高学歴女性をはじめとする稼得能力の高い女性の結婚市場における魅力が向上した。また,従来よりも男性の学歴と収入の関係が曖昧となった結果,高学歴の女性の一部においては,結婚相手の学歴にこだわらずに結婚する者が出てきた。そのため,最近の研究にみられるように大学卒女性の婚姻率が上昇し,女性の学歴下方婚,とりわけ大学卒女性の下方婚がより生じやすくなった(Fukuda et al. 2019)。現時点においては仮説にすぎないが,本稿における分析は,このようなシナリオと整合的であった。最後に,本稿における分析が示す社会的含意について述べる。今日,多くの中・高所得国においては,男性よりも女性の大学進学率が高い状況にある。先行研究によると,世界的な傾向として高等教育進学率における男女差が逆転することにより,かつて伝統的なパターンであった女性の学歴上方婚が減少し,学歴下方婚が増加している。日本においては,4年制大学への進学率で見る限り,その差は縮まりつつあるものの,これまでのところ従来の男女差は逆転していない。しかし,われわれの分析結果は,夫妻の学歴選好の面において,すでに日本においても同様の変化が生じつつあることを示した。欧米では高等教育への進学における男女差の逆転により,女性を主な稼ぎ手とする世帯の増加,平等主義的なジェンダー態度の拡散,妻学歴下方婚カップルにおける離婚率の減少といった社会規範の変化がみられるという(Esteve et al. 2016)。女性の高学歴化に加えて,わが国では人口減少局面への転換によって労働力人口が先細りつつあり,主に男性のみが就業して家族を養う性別役割分業モデルは日本のマクロ経済にとって望ましいものではなくなっている。長期的な人口減少のトレンドは,政策(例:女性の活躍推進,保育所定員の拡充等)や人々の経済合理性(例:共働き志向)に作用することによって,ジェンダー規範の変容を今後も不可逆的に推進していく一因となるものと思われる。女性の高学歴化のさらなる進展によって,日本においても欧米と同じような社会規範の変化がみられるのか注視していく必要があるだろう。
著者
土山 聡宏 荒木 理 高木 節雄
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.106, no.6, pp.382-390, 2020 (Released:2020-05-31)
参考文献数
22
被引用文献数
1 4

The upper and lower yield points of ferritic steel containing a small amount of carbon were discussed in terms of the critical stress for dislocation emission from a grain boundary, namely, “critical grain boundary shear stress”, on the assumption of the pile-up model. Considering some experimental results such as tensile testing, relaxation testing and nanoindentation testing on grain boundaries, we concluded that both upper and lower yield points could be similarly understood as a phenomenon of dislocation emission from dislocation sources existing at grain boundaries. The difference in stress between upper and lower yield points was explained in terms of the density of mobile dislocations, which determines the extent of stress concentration at grain boundary caused by pile-up of the dislocations. Slow cooling after annealing or aging at low temperature, by which Cottrell atmosphere is formed, leads to a significant decrement of the mobile dislocation density, and this results in an occurrence of the sharp upper yield point because of a reduced number of piled-up dislocations and insufficient stress concentration at grain boundaries.
著者
小笠原 節夫
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.267-279, 1963-05-01 (Released:2008-12-24)
参考文献数
23

鍋田干拓地は伊勢湾奥,木曽川河口左岸にある第二次大戦後の国営干拓地であつて,昭和34年9月伊勢湾台風高潮によつて入植者288人中125人の生命が失われ,かつ家屋,耕地の全面的流失という大被害をうけた.これを契機として集落計画の全面的変更が行われた. 被災前の集落計画では, (1) 集落は東西方向の幹線道路にそつた路村形態をとり, (2) したがつて集落は干拓地全面にひろがり微高地を利用しようとする意図はなかつた. (3) また家屋も木造,平屋建てであつて,そうじて水害対策を欠く. (4) 1戸当り土地配分面積は1.4haでこれが数筆に分散しており, 1筆面積も区々であつて営農面でも欠陥の多いものであつた.これは干拓地の土地条件の不整一であつたことと,入植が一斉でなく逐次的に行われたことによる. 被災後の集落再計画が被災前のそれと異なる主な点は, (1) 集落を干拓地北西角の微高地に集中させ, (2) これを第二線堤防で包囲すること, (3) および家屋を鉄筋プロック3階建てとして水害対策に万全を期したことである. (4) 1戸当り土地配分面積は2.Ohaに増加し, (5) 1筆区画 (40a) もより整然となり, (6) 各戸の耕地は3筆が原則として連続するように, (7) さらに入植者の各グループ毎にも,ある程度耕地が集団するように計画されていて営農条件も被災前より整備されている.ただし再計画では住居と耕地は完全に分離することになつた,このような大規模な計画変更が可能であつたのは,被害が大きかつたこと以外に,被災時にはまだ国有地あつたからである. 最近のわが国における干拓地の集落計画は,集落と耕地の配置から九州型と児島型に類別できるが,鍋田干拓の被災前後のそれは何れも九州型に近い. 被災後の水害対策を極度に考慮:した鍋田干拓の集落計画は非常に特異なものであるが,他干拓地の集落計画にもつとも参考となるのは家屋の堅牢,高層化の点であろう.水に対して安全というばかりでなく湿気をさける意義もあるからである.
著者
藤田 節子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.564-575, 2007 (Released:2007-01-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

筆者は2005年本誌で科学技術分野の投稿規定の分析調査結果を発表した。今回は人文・社会科学分野167学会の学会誌172誌の投稿規定を収集して,論文の長さなど18の記載項目の内容を詳しく調べ,昨年の科学技術分野の調査結果と比較し,人文・社会科学分野の学会誌の実態や特徴を分析した。また,1997年に寺村由比子が行った投稿規定による分野別特徴の調査結果とも比較し,最近の電子化に伴う変化を探った。本稿では,投稿規定の概要と投稿者の資格など11の記載項目の分析結果を報告する。他の7項目と本調査の考察は次稿で報告する。
著者
岡野 節子 堀田 千津子
出版者
鈴鹿大学短期大学部
雑誌
鈴鹿国際大学短期大学部紀要 (ISSN:13450085)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.69-75, 2003

こんにゃくの嗜好,調理頻度が現在どのような状況にあるのか調査し,次の結果が得られた。1)高校生,短大生ともにこんにゃく料理は「好き」と判断できた。2)摂取頻度は「月1〜3回」が高校生62.3%,短大生74.3%が最も多く常食しているとは言い難い結果であった。3)摂取されやすい料理は,高校生,短大生ともに上位3位は同じで「煮物」「おでん」「すき焼き」であった。4)摂取する主な目的は「好きだから」が高校生56.2%,短大生70.9%を示した。5)知名度が高い商品の種類は「糸こんにゃく」「板こんにゃく」であった。また,よく摂取されている種類も同じであった。6)新製品とされる「こんにゃくゼリー」は高校生,短大生ともに知名度が約100%と高く,摂取もされていた。
著者
佐藤 洋子 良村 貞子 森下 節子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.小児入院施設の安全対策:(承諾が得られた小児入院3施設安全管理マニュアル、施設設備の検討)1)事故発生状況:調査前年度の病院別事故発生状況は、転落事故が23件、転倒事故3件であったが、その他の事故はなかった。2)3病院いずれも事故防止のための入院時資料を作成していたが、保護者を対象とするものが多く、小児を対象とする資料は、ビデオ・写真など、視覚的理解を促すものであった。3)3病院いずれも事故防止目的で環境整備(点滴、ベッド柵に関する安全使用表示。点滴スタンド脚の5脚化等、用具の工夫。クッションフロア・プレイルーム等環境の工夫)を実施していた。4)事故防止のために、B病院は7歳以上の患者を対象とする転倒・転落予測ツールを使用していた。2.入院患児の保護者の意識(質問紙回収率88.3%):1)保護者が入院中起こりやすいと考えている事故は、1位転落、2位転倒、3位打撲・外傷であった。2)事故防止実施上の責任を保護者と回答した者は、91.5%であった。保護者が看護師に期待する事故防止策は「環境整備を徹底してほしい」60.4%、「子供の行動を注意して観察してほしい」10.4%であった。以上のように、小児入院環境下では事故(転倒・転落、誤飲や窒息・打撲や外傷・火傷等)防止をするためのさまざま対策がとられていた。しかし、小児入院施設としての統一的な安全基準はなく、施設の工夫に任されていることが明らかになった。また、保護者は事故防止の責任を保護者にあると認識していた。保護者が、看護師に求める事故防止対策は、入院環境の整備が多いことが示された。このようなところから、看護師は、小児の病状を観察し、安全な環境を整備することが必要であり、安全基準の策定、保護者ならびに小児に対する教育等、具体的な事故防止の支援を進めることが今後の課題と考える。
著者
植松 弘進 安田 哲行 田渕 優希子 真下 節 下村 伊一郎 柴田 政彦
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.102-106, 2013 (Released:2013-07-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1

オピオイド長期投与中,内分泌機能低下症をきたした症例を経験した.症例は51歳男性で交通外傷による末梢神経障害を伴う左下肢複合性局所疼痛症候群の診断にて,受傷1年後より加療中であった.当初行われた投薬・神経ブロック等により痛みはコントロールでき,職場復帰していた.残存する痛みに対し受傷3年後より塩酸モルヒネによる内服加療を開始し痛みは軽減されたが,同時期より性欲低下の自覚症状が出現した.受傷7年後にはフェンタニル貼付剤へと変更し痛みのコントロールはさらに良好となったが,変更後数カ月で急激な体重減少(合計-24㎏)をきたし,変更後半年で強い全身倦怠感と食欲不振も出現し就労不可能となった.内分泌機能異常を疑い行ったホルモン負荷試験等の結果より,オピオイドによる続発性副腎機能低下症および中枢性性腺機能低下症と診断された.痛みのためにオピオイドを完全に中止できなかったため,トラマドール内服へと変更しホルモン補充療法を行った.ホルモン補充療法開始後は全身倦怠感等の自覚症状は改善した.このエピソードをきっかけに抑うつ状態となり職場復帰は果たせていないものの約9カ月で体重も回復した.
著者
藤田 節子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.82-88, 2017-02-01 (Released:2017-02-01)

わが国の料理本の索引の実態を調査するため,2014,2015年の「料理レシピ本大賞in Japan」で一次選考を通過した,27冊の巻末索引を詳細に分析調査した。その結果,レシピ名と材料を索引対象として,体系順に配列された材料の分類の下に,レシピ名が50音順あるいは頁順に配列されている索引が多いことがわかった。相互参照や凡例はなく,見出し語の選択,副見出しの記述,配列のしかたなどに課題が見られ,料理本の索引が不十分であることが明らかになった。今後,料理本の著者や編集者,出版社に,索引に関する知識や索引作成技術の普及が必要であろう。
著者
津野 香奈美 早原 聡子 木村 節子 岡田 康子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2021-036-E, (Released:2022-09-21)
被引用文献数
1

目的:ハラスメントの雇用管理上の措置が企業に義務付けられているが,企業に義務付けられている対策が実際にハラスメント防止に効果があるのかは検証されていない.そこで本研究では,ハラスメント指針の中でトップのメッセージ発信や研修実施等の一次予防策に着目し,従業員の対策認識度と企業ごとのハラスメント発生割合を比較した.対象と方法:日本国内の某グループ会社計68社(従業員数計約20,000名)を対象とした.ハラスメント対策は7項目,パワーハラスメント(パワハラ)は厚生労働省の6類型を参考に作成した11項目,セクシュアルハラスメント(セクハラ)は7項目,マタニティハラスメント・パタニティハラスメントは2項目,ケアハラスメントとジェンダーハラスメントは各1項目で測定した.組織風土はシビリティ(礼節),心理的安全性,役割の明確さ等の下位概念から成る10項目で測定し,ハラスメント防止対策実施後の従業員や職場の変化は7項目で測定した.ハラスメント防止対策の従業員認知割合並びに組織風土を高群・中群・低群の3群に分け,企業ごとのハラスメントの発生割合や職場の変化認識割合をKruskal-Wallis検定あるいはANOVAで比較した.結果:自社でハラスメント対策として実態把握等のアンケート調査,ポスター掲示や研修の実施,グループ全体の統括相談窓口の設置,コンプライアンス相談窓口の設置を実施していると7割以上の従業員が認識している企業では,認知度が低い企業と比べてパワハラ・セクハラの発生割合が低かった.一方,トップのメッセージ発信,就業規則などによるルール化,自社または中核会社の相談窓口の設置に関しては,従業員認知度によるパワハラ発生割合の差は確認できなかった.組織風土に関しては,シビリティが高い,心理的安全性がある,役割が明確であると8割以上の従業員が認識している企業では,パワハラ・セクハラの発生割合が低かった.また,従業員がハラスメント防止対策の実施状況を認知している割合が高い企業ほど,従業員が自身や周囲・職場の変化を実感している割合が高かった.考察と結論:各ハラスメント防止対策を実施していると多くの従業員が認識している企業では,ハラスメント発生割合も低い傾向にあった.心理的に安全である・役割が明確であると多くの従業員が回答した企業ではハラスメント発生割合が低かったことから,ハラスメント防止には組織風土に着目した対策も有効である可能性が示唆された.