著者
若松 大樹
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.146-170, 2011-09-30

本稿では、トルコ共和国のアレヴィーと呼ばれる集団の社会変化に関する一考察として、これまでの先行研究においてアレヴィー社会の「スンニー化」と呼ばれてきた現象に関して、批判的検討を行う。本稿では、西部アナトリア・キュタフヤ県のアレヴィー村落におけるデデ権威と、それに関連するオジャクと呼ばれる帰属概念を事例として取り上げる。オスマン朝時代、スンナ派イスラームが国教とされ、この教義とは異なるイスラーム的伝統を持つアレヴィーの人々は、中央政府から「異端派」としてレッテルをはられるだけでなく、ムスリムとすらみなされず、宗教実践や教義を理由にしばしば迫害を受けてきた。ところが、世俗主義と政教分離を国是として1923年に成立したトルコ共和国においては、人々はいかなる宗教によっても差別されないとの憲法上の規定があるため、アレヴィーの人々はトルコ共和国の国是を肯定し、多数派であるスンナ派の人々からの差別をある程度免れてきた。しかしながら、1990年代以降、スンナ派中心のイスラーム主義運動の高揚に伴い、この国是が揺らぎ始め、さらに農村部から都市部への移民の増加によって、アレヴィーとスンナ派の人々の直接的な接点が増え始めた状況において、アレヴィーの人々は再びスンナ派の人々から侮蔑的な偏見を被ることとなり、アレヴィーの人々の多くは、自分たちのアイデンティティをムスリムとして再定義し、多数派であるスンナ派の人々に対して、アレヴィー・ムスリムとしてのアイデンティティを主張する必要に迫られてきた。このような主張の中には、アレヴィーの人々がトルコ的イスラームの真髄を体現するものであり、スンナ派よりもむしろイスラームの本来の教えを実践しているという主張さえある。こうした現象は、これまでの先行研究においてアレヴィー集団の「スンニー化」としてとらえられてきた。しかしながらこうした見方は、アレヴィーの人々の主張を正確に反映しているとは言い切れない。本稿では、第1にアレヴィーの「スンニー化」をめぐる先行研究が、儀礼実践の変化という側面にのみ注目してスンニー化と述べていることを明らかにする(第II章)。第2に、西部アナトリア・キュタフヤ県のアレヴィー集落を事例として取り上げ、そこでの聞き取り調査や儀礼観察の結果、彼/彼女らが自らをアレヴィーとして自己規定する根拠として、オジャクという帰属概念が重要な役割を果たしていることを明らかにする(第III章)。第3に、デデと呼ばれる宗教権威や人々が「固有のアレヴィー性」を主張する際に影響を与えているのが、スンナ派系のイスラーム主義運動やアレヴィー系知識人の作り出した言説にあることを示し(第IV章)、これまで研究者の側が無意識であれ、そうした言説に左右されている可能性があることを指摘して、これまでの先行研究において「スンニー化」として記述されてきた現象が、実は儀礼実践の変化など、可視的な変化のみに着目して安易に論じていることを解明する。したがってこうした分析軸は、フィールドに暮らす人々の自己規定を必ずしも反映するものではなく、「スンニー化」の語を、とりわけ本稿で扱うアレヴィー社会の社会変化に適応することは不適切である。人類学者が社会変化を扱う場合は、社会変化の可視的な部分だけでなく、人々の自己規定など、複数の要素から深く検討して記述する必要があることを、本稿で提起する。
著者
水野 悠紀子 若浜 五郎
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科學. 物理篇 (ISSN:04393538)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.133-145, 1978-03-25
著者
夏目 欣昇 澤 秀俊 酒井 康弘 若山 滋
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.72, no.617, pp.207-214, 2007
被引用文献数
1 1

In this study, we aim to clarify the spatial characterization of film, which is influenced from not only film set but also casting role and a story. In this paper as the first step of the study, we focus on famous sixteen Charles Chaplin's films. To consider the locales of the films, we extract it and set criteria of background locale. Next we analyze the ratio of and the temporal transition of locale description, more over considered the attribute of the casting role. At the result, the character of the street symbolically expressed the feature of the background locales; Slum, Country, City-outside, City-inside and Special. We broke the temporal transition down into three patterns; Stay-type, Wandering-type and Pass-type, and clarified the contrast between main locales of each film by analysis of the locale organization.
著者
若松 勝寿 堀井 憲爾
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.7, pp.468-476, 1993-07-01
参考文献数
14

本論文は雷鳴の発生と伝搬、ロケット誘雷実験による雷鳴の観測法及び雷鳴解析による雷放電路の再現方法について述べている。雷鳴に含まれる特徴音を使用し、短い時間窓の相関解析から雷撃点近傍の雷放電路を詳細に再現し、最終電撃距離や雷撃進入角度が求められることを示している。自然雷の雷鳴に近い継続時間の長い雷鳴では、ゼロ交差数から相関解析の時間窓を決定して雷放電路を連続再現している。また、多重雷では支配的な雷鳴を形成する雷鳴から再現できることを示している。
著者
大島 慶一郎 若土 正曉 江淵 直人 三寺 史夫 深町 康
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

海水・海氷・油の流動予測の基盤となる3次元海洋モデルを開発・高精度化した。最終的には、分解能1/12度で、日本海と太平洋の海水交換も含み、日々の風応力と月平均の海面熱フラックスによって駆動されるモデルを開発した。係留系及び海洋レーダーより取得した測流データとモデルとの比較・検討により、東樺太海流・宗谷暖流に関しては非常に再現性のよいモデルを開発することができた。このモデルに粒子追跡法を取り入れて、サハリン油田起源の海水の漂流拡散を調べた。水平拡散の効果は、Markov-chain modelを仮定したランダムウォークを用いて取り入れた。表面下15mでは粒子の漂流はほとんど海流(東樺太海流)で決まり、粒子は東樺太海流に乗って樺太東を南下しあまり拡散せずに北海道沖に達する。表層(0m)では、風による漂流効果も受けるので、サハリン沖の粒子の漂流は卓越風の風向に大きく依存する。沖向き成分の風が強い年は、表面の粒子は東樺太海流の主流からはずれ、北海道沖まで到達する粒子の割合は大きく減じる。アムール川起源の汚染物質の流動予測も同様に行い、東樺太海流による輸送効果の重要性が示された。2006年2・3月に起こった知床沿岸への油まみれ海鳥の漂着問題に、後方粒子追跡実験を適用し、死骸は11-12月のサハリン沿岸から流れてきた可能性が高いことを示した。潮流による拡散効果を正しく評価するために、主要4分潮のオホーツク海の3次元海洋潮流モデルを、観測との比較・検討に基づいて作成した。この潮汐モデルと上記の風成駆動モデルを組み合わせて粒子追跡実験を行うことで、より正確な流動予測モデルとなる。オホーツク海の海氷予測に関しては、その最大面積を予測するモデルを提出した。秋の北西部の気温とカムチャッカ沖の海面水温を用いることで、3ヶ月前の時点で、高い確度で最大海氷面積を予測できることを示した。
著者
鶴若 麻理
出版者
聖路加看護大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、医療における事前指示についての専門家へのヒアリング調査、および各地域の高齢者へのインタビュー調査を通して、アジア地域の高齢者が終末期医療の希望の表明方法や意思決定に関する意識を明らかにすることを目的とした。台湾では2000年5月23日に『安寧緩和医療條例』が制定され、一方、シンガポールでは、1996年にアドバンス・メディカル・ディレクティブが法制化されているが、どちらの地域ともに、普及率が極めて低い現状であった。二つの地域の専門家へのヒアリング調査から、死をタブー視する傾向、医師と家族が最も良い決定をしてくれるという考えや、最後まで最善の治療を望んでいるという傾向が、普及率のきわめて低い要因となっていることが明らかになった。今後の課題としては、市民や医療者への教育プログラム、医療従事者の中立的立場での適切で十分な情報提供が求められていた。三つの地域の高齢者へのインタビュー調査からは、終末期医療への希望を話すことへの心理的抵抗とともに、語りたいという葛藤が交錯していた。また文章化することへの抵抗感、相談できる医師の不在、終末期の想像の困難さが共通してあげられた。作成した文書が医療現場で適切に扱われるかという点と、作成したことで適切な治療を受けられなくなるという不安をあわせもっていた。さらに作成する意味として、患者の権利であるという捉え方よりはむしろ、家族の負担の軽減という考えを有していた。専門家による的確な情報提供や相談システムの構築や教育プログラムが求められる。
著者
永田 宏 初田 正彰 若宮 加奈子 田中 恵理子 水島 洋
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.24, no.34, pp.9-14, 2000-06-13

A prototype of computer aided drug design using virtual reality technologies is introduced. The essence of our study is to make touchable the electrostatic potential field surrounding protein molecules using PHANToM^<TM> a most popular haptics device. Several viatual probes, which are representatives of parts to drug molecules, are prepared and linked to the PHANToM^<TM>. Users are available to scan the protein molecules by the proves with feeling electrostatic force between them.
著者
若林 隆三 伊東 義景 原田 裕介 北村 淳 杉山 元康 明石 浩司 前田 徹 戸田 直人 土屋 勇満 加藤 久智 池田 慎二 D Mark RYAN
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.5, pp.107-131, 2007-03

1995年~2004年の10シーズンにわたり,信州大学演習林研究室(現AFC 研究室)では中央アルプスの山岳林標高1300~2700mの比高100m毎の15定点において,毎月積雪全層の断面観測を行った。総数500ピット(深さ平均112㎝,累計558m)のうち,密度を測った雪層数は2610層(平均厚さ15.6㎝)である。観測結果と考察の大要は以下の通りである。1.中央アルプスは厳冬期には麓から気温が低いため,標高にともなう雪質の変化が少なく,造晶系(こしもざらめ,しもざらめ)の雪が多い。多雪年には焼結系(こしまり,しまり)が増加し,寡雪年には造晶系の雪が増加する。2.標高と雪層密度の正相関は液相系のない1月2月の厳寒期に高い。3.積雪が多い厳冬期には,新雪が供給される上層と,長期間の変態を経た下層では,雪質と密度が大きく異なる。下層は圧密により密度が増大し,上層は風成雪により密度が増大する。4.上載積雪荷重と層密度との相関は,焼結系で高く圧密が顕著で,造晶系,液相介在系(氷板,ざらめ)の順に相関が低くなる。5.標高が高いほど,細粒のこしまり雪が出現する。高所では低気温と強風により吹雪で雪粒が粉砕される機会が多いことを,粒度が示している。12~2月の粒度が細かいこしまり雪では,粗いものよりも密度が高い。上載積雪荷重が小さい雪面付近でこの傾向が顕著である。したがって標高が高いほど吹雪頻度が高く,微少な結晶破片の堆積した雪面の隙間に氷の粉塵が充?され,焼結の進行によって高密度の風成雪が生まれると推定される。6.12~6月の月積雪深は標高と1次の正相関を示す(相関係数0.91以上)。一方,積雪の全層密度と標高とは中程度の1次の正相関を示す。これらの結果,毎月の積雪水量は標高との2次曲線関係で増加する。7.積雪深が50㎝をこえると,地面と接する積雪下層の平均温度は0℃に近い。
著者
若松 由美
出版者
神田外語大学
雑誌
言語科学研究 : 神田外語大学大学院紀要 (ISSN:13476203)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.87-100, 1999-03

Non-Chinese origin pronunciations of Sino readings of Kanji (Kan-yoo-on) was established in the Meiji era. There are four types of development of these pronunciations. Two of them are discussed in this paper. One is concerned with the relationship between word formation and phonological process and the other is vowel lengthen.
著者
川中 洋祐 若林 真一 永山 忍
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. CPSY, コンピュータシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.413, pp.189-194, 2009-01-22

本稿では,ネットワーク侵入検知システム(NIDS)におけるパケット検査に対するパターンマッチングのための専用ハードウェアの構成を提案する.提案する専用マッチングマシンは,NIDSソフトウェアSnortで採用されている正規表現に基づくウィルスパターン記述を入力とし,高速にマッチングを実現する.提案専用マッチングマシンは,ウィルスパターンの更新に瞬時に対応するため,回路構成がパターンに依存する従来方式のマッチングマシンと,我々が提案しているパターンを実行時に設定できるマッチングマシンで構成されている.
著者
若林 正 金丸 豊典
出版者
山梨大学
雑誌
山梨大學工學部研究報告 (ISSN:05131871)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.73-90, 1956-08-11

Diagrams and slide rules for real numbers are practically used by scholars and engineers every day. These diagrams and slide rules serve speed & easiness in multiplication division and other difficult computations. Now complex numbers are used also in physics and engineering, specially in electric engineering. But the computation of complex numbers are so difficult and trouble some that they often lead many errors & mistakes in calcutation. Then diagrams & slide rules for complex numbers are devised in order to facilitate the computation, and to make it possible to calculate rapidly and to check.
著者
若桑 みどり 池田 忍 北原 恵 吉岡 愛子 柚木 理子
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本課題は、20世紀において、男性が支配する国家が起こした世界戦争において、主導権を持たない女性が、ただに「被害者」となったのではなく、さまざまな方法で、戦争遂行に「利用」され、そのことによって一層その隷属性を悪質化したことを明らかにした。以下、代表および分担者の研究成果の要旨を個別に簡略に述べる。若桑は、南京の性暴力の「言説史」を中心課題として研究し、南京で性暴力を受けた被害者に関する日本ナショナリスト男性の「歴史記述」がこの被害を隠蔽したばかりでなく、この性暴力を批判した女性たちをも攻撃し、その言論を封殺したことを明らかにした。これは被害者としての女性への性暴力のみならず、女性の被害を記録する「女性の告発」をも抹消する行為であった。池田は、民族服の女性表象に着目し、アジア・太平洋戦争期における植民地・侵略地への帝国の眼差しを分析した。総力戦体制下の女性服めぐる言説と表象は、国家による女性の身体の管理と動員に深くかかわっていることを明らかにした。北原は、第一次世界大戦期にアメリカ合衆国で制作された戦争プロパガンダポスターに焦点をあて、女性が、男性を戦争へと誘惑する強力な徴発者として利用されたことを明らかにした。この誘惑する女性を媒介としてこれを「守る」男性性が「真のアメリカ人」として構築された。吉岡は中国入スターとして使用された日本人女優李香蘭の仮装と国籍の移動(バッシング)を分析し、植民地と宗主国の国境を逸脱する女が戦略的に植民地民衆の慰撫に利用されたことを明らかにした。
著者
若松 養亮 大谷 宗啓 小西 佳矢
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.219-230, 2004-09-30
被引用文献数
1

本研究は, 小・中学生を対象に, 学習意欲と「現在の学習活動が自身の成功や幸福の実現のために有効であるとの認知」(学習の有効性認知)との関係について検討した。学習の有効性認知は, 「学習内容や活動の意義や正統性を認める(a)」, 「将来の職業や生活で役立つ(b)」, 「進学や就職の試験で役立つ(c)」, 「有効性を認めない(d)」という4カテゴリーを設定した。分析の結果, 小・中学生どちらにおいても, (1)学習の有効性認知と学習意欲の間には正の関係があること, (2)各カテゴリーの有効性認知を強く有する人を比較すると, a, b, c, dの順で学習意欲が高いこと, (3)「好きな教科の多少」で統制しても, 学習意欲は有効性認知a, b, c, dの順に高いこと, が明らかとなった。