著者
中野 泰 足立 泰紀 林 圭史 渡瀬 綾乃 辻本 侑生
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

1.民俗学者桜田勝徳の調査研究資料の目録を作成し、このアーカイブが、柳田国男の薫陶を受け、民俗学を実践し始めた以降の資料が中心であることを明らかにした。2.桜田のフィールドノートの検討から、その記載形式に一貫性(右面に記載し、左面を補助的に利用)とともに変化(日次、立て横書き等)があること、彼のフィールドワークには2つのスタイルがあること、フィールドノートとフィールドワークの変化は、共に1940年代に認められることが分かった。3.GHQ下の社会調査において、桜田がGHQの改革案を指示する立場で働き掛けていた事実を明らかにし、このようなフィールドワークに関わる実践の民俗学的な意義を明らかにした。
著者
辻 加代子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-16, 2007-01-01

近世上方において勢力をもっていた待遇表現形式の一つである動詞テ形に指定辞が付加された形式(以下「テ指定」と呼ぶ)の形態変化に関して以下のことを報告する。天保7年刊京都板洒落本『興斗月』に「テ指定」の過去形として上方板洒落本資料としては特異なチャッタの形が多数出現している。このチャッタ形に注目してその音価,意味,および活用の諸側面から検討した結果,次のことが明らかになった。(1)天保年間の頃京都で「テ指定」過去形はテデアッタの縮約形テジャッタがさらに縮まったチャッタの形へと変化した可能性がある。(2)『興斗月』に現れるテチャッタ形は先行研究では同じ頃の他の洒落本に現れるテジャッタ形と同価とみなされてきたが,音声的には表記のとおり「テチャッタ」であり,「テ指定」表現の過去形にアスペクト形式が付加された形式である。
著者
川畑 篤史 坪田 真帆 関口 富美子 辻田 隆一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.5, pp.236-240, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
31
被引用文献数
1

化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)はがん患者のQOLを著しく損ない,治療の継続を困難にする可能性のある有害事象であるが,現在,CIPNを回避する有効な対策はほとんどない.そのためCIPNの発症メカニズムを解明し,臨床応用可能なCIPN発症抑制薬・治療薬を開発することは喫緊の課題である.我々は,CIPNの発症にdamage-associated molecular pattern(DAMP)タンパク質の1つであるhigh mobility group box 1(HMGB1)が関与することを明らかにしている.また,日本において播種性血管内凝固症候群(DIC)治療薬として承認されているthrombomodulin αが,抗がん薬投与に伴って細胞外に放出されるHMGB1をトロンビン依存的に分解することでCIPNの発症を阻止できることを報告している.このように,HMGB1あるいはその受容体を標的とする薬物を用いることで近い将来CIPNの発症を抑制できるようになることを期待したい.
著者
安藤 利奈 山崎 知恵子 岩城 寛尚 辻井 智明 矢部 勇人 西川 典子 永井 将弘 野元 正弘
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
臨床薬理 (ISSN:03881601)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.167-171, 2017-09-30 (Released:2017-10-28)
参考文献数
11
被引用文献数
2

Parkinson's disease (PD) causes motor impairment, but motor dysfunction can be improved by treatment. However, the package inserts of PD therapeutic drugs state “do not drive a car” as an important precaution in Japan. In addition, the package insert of non-ergot dopamine agonist (DA) states specifically “do not drive a car or operate a machine” as a warning because non-ergot DA causes sudden sleepiness and somnolence. On the other hand, driving is a very important means of transportation for daily living and work. Even though doctors explain at the clinic that the patients should not drive while on medications, many patients are forced to drive in everyday life. In addition, somnolence and sudden sleepiness differ among individuals. Therefore, doctors are confused about instructing patients to refrain from driving. We investigated the relation between non-ergot DA and driving situation in PD patients, which is a serious issue in the clinical setting. All 362 PD patients who visited our offices were interviewed regarding their driving situation, and detailed medications and car accidents were examine in 154 patients who continued driving a car or stopped driving after the onset of disease. In the investigation of medications, 51 patients were taking non-ergot DA, 36 patients (70.6%) of whom continued to drive. In addition, 20 of 154 patients had serious car accidents, but only six of the accidents were associated with somnolence and sudden sleepiness. In the examination of medications at the time of accident, there was no difference between non-ergot DA and other medications. These results suggest that upon receiving instructions from healthcare professionals, PD patients drive while making appropriate judgment about medication-induced somnolence. However, in this study, the number of patients who experienced serious car accidents was small, and the numbers of patients taking ergot DA and non-ergot DA were limited. Further larger scale study is required to confirm the findings. Preparation of guidelines related to instructions on taking PD medications is necessary, which include medication taking during holidays, consideration of the occurrence of sudden sleepiness and somnolence, and judgement of whether to continue driving.
著者
青木 孝平 辻 大和 川口 幸男
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.137-145, 2014-06-20 (Released:2014-08-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1

Using long-term behavioral data recorded between1950 and 2010, we studied cases of change in the alpha individual and its social background in a captive troop of Japanese macaques (Macaca fuscata) housed in Ueno Zoological Gardens, Tokyo, Japan. During this period, nine alpha males and four alpha females were recorded. Among the alpha males, three were juveniles. All alpha males except for one continued to keep their position until they died or were removed from the group. Alpha females, on the other hand, lost their position when they were in estrus/pregnant/nursing, after which time they continued to stay in the group. Unlike cases in free-ranging populations, captive male Japanese macaques are included in the social hierarchy of their natal group, and dominance relationship between males and females were unclear. Under such conditions, dominant females and their juveniles can become alpha individual when the former alpha disappears and/or there are no dominant male(s) present. Appearance of female/juvenile alpha individuals in the Ueno Zoo troop seems to be one of the bi-products of a captive environment and in order to keep social relationships of captive animals similar to those of free-ranging populations, artificial transfer (removal/introduction) of adult males should be considered.
著者
辻元 健士 村上 征勝
出版者
一般社団法人 映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会技術報告 (ISSN:13426893)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.35-38, 2010
参考文献数
3

本研究では,葛飾北斎作『富嶽三十六景』を対象とし,原型の絵画と構図的変化を加えた絵画の二種類を用いて,構図変化の影響を印象評価と視線移動の観点から数量的な比較分析を試みた.印象評価では,構図型,変化の方法,順序効果の3つの観点から比較分析を行った.視線移動では,絵画を観る時の視線移動総面積を分析し,構図を変化させることで印象評価に差が生まれること.また,印象評価の基準の一つとして視線移動総面積が有意な要因であるという結果を得た.
著者
尾辻 健太 大原 佳央里 中村 真紀 雨積 涼子 比嘉 千明 嘉数 健二 近藤 康人
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.63-67, 2015 (Released:2015-07-28)
参考文献数
7

食物アレルギー歴のない17歳女性が,すき焼きを摂取後にアナフィラキシーを起こした症例を経験した.皮膚試験で陽性であったエノキタケを入院の上オープン法で経口負荷試験しエノキタケが原因食品であることが確かめられた.これまでエノキタケによるアナフィラキシーの報告はなく,アレルゲンについても報告されていない.今回患者血清を利用しアレルゲンの同定を試みた.市販のエノキタケから抗原を抽出し,患者血清を用いてWestern-blottingを行ったところ,複数のタンパク質バンド(18kDa,39kDa,50kDa)に特異的な反応がみられ,これらがアレルゲンであると考えた.
著者
辻本 惠 伊村 智
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.137-150, 2013-03-29

2009 年2 月15 日から23 日にかけて,オーストラリア南極局(AAD: Australian Antarctic Division,以下同様)で取り組まれている外来種持ち込み防止対策に関する調査を行った.(1)機材の管理,(2)装備品の管理,(3)積荷の管理,(4)観測隊員への教育の4 項目について施設見学やインタビューを行い,現場の状況と外来種持ち込み防止対策システムの全容を把握した.本調査により,AADでは南極における観測・設営活動に伴う外来種持ち込みの危険性を強く認識し,機材や装備品,積荷の管理から観測隊員への教育まで,細部にわたり包括的な外来種持ち込み防止対策を講じていることが明らかとなった.特にAAD で徹底されていた職員や観測隊員への教育活動は,我が国の南極観測事業においても極めて有効な手段であると考えられる.本調査結果を参考にした組織的な外来種持ち込み防止対策の立案により,昭和基地周辺の貴重な生態系の保全につながることが望まれる.
著者
辻原 命子 谷 由美子
出版者
名古屋女子大学
雑誌
名古屋女子大学紀要. 家政・自然編 (ISSN:09153098)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.39-49, 1992-03-05

特異動的作用(Specific Dynamic Action 以下SDAと略す)は,安静状態において食物の摂取による食物の消化・吸収における代謝亢進と体内における化学反応の結果発生するエネルギーで一般に体温保持に利用され,生活活動には利用されないといわれている..そしてこのSDAは糖質のみを摂取した場合は摂取量の約5%であるのに対し,脂質のみの場合は約4%であり,たん白質のみの場合は約30%に達し日本人の日常食のSDA平均値は約10%とされている.たん白質のSDAについては田中らがその発生機構をラットを用いて詳細に研究しており,鈴木らは被検者1〜2名で高糖質食,高たん白食,高脂肪・低たん白食,高たん白・高脂防食による食餌組成の相違およびエネルギー摂取量の相違によるSDAの時間的経過ならびにその大きさについて報告しているが,個体差があり一定の傾向がみられない.一方たん白質のSDAは糖質,脂質のSDAに比して著しく大であり,国民栄養調査においてもたん白質のエネルギー比は昭和50年14.6%,55年14.9%,60年15.1%,62年15.3%と徐々に増加してきており,一日の消費エネルギーにおよぼす影響は大きいと思われる また脂肪の摂取量も年々増加しているがそのSDAへの影響は不明である ところで近年はこのSDAに代わってほぼ同義的に食事誘発性体熱産生(diet-induced thermogenesis DIT)が広く使用されていており,特に一回の食事によるエネルギー代謝反応への影響をみる場合は,一般にDITを使用しているようである.そこで本実験では,ヒト7名を被検者としてエネルギーおよび脂肪量が一定でたん白質量をエネルギー比5%〜47%まで変動させた食餌およびたん白質量が一定で脂肪量をエネルギー比14%〜45%まで変動させた食餌を摂取させ,DITにおよぼす影響をしらべた.また生命維持のための生理的最小エネルギー代謝量を示す基礎代謝は従来より夏季に低く,冬季に高い傾向があるといわれていることよりDITとの関係は興味深いが,その報告はみられないため四季の区別の明確な日本におけるDITの季節変動について検討した
著者
木川田 朱美 辻 慶太
出版者
日本図書館情報学会
巻号頁・発行日
2008-03 (Released:2013-12-19)

本研究ではAmazon.co.jp の書誌リストをNDL-OPAC に突き合わせる形で国立国会図書館における納本状況を調査し,成人向け出版物のほとんどが納本されていない現状を示した。また成人向け出版物を刊行している出版社の納本状況を調査し,一般出版物は納本しているにもかかわらず成人向けだけは納本していないといったパターンも確認した。さらに国立国会図書館,取次,出版社に聞き取り調査を行い,日本の納本制度の運用上における問題点を明らかにした。 2008年度日本図書館情報学会春季研究集会発表年月日:2008年3月29日場所:東京大学本郷キャンパス
著者
中辻 七朗 伊藤 浩史 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.3_21-3_30, 2017-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
21

本研究は,タイプフェイスについて,専門家と非専門家の類似性判断の差異を実験的に検証した。刺激として用いたのは,セリフ書体およびサンセリフ書体である。実験手法としては,各書体が記載されているカードを各書体の形態の類似度に応じて2次元空間に配置するカード配置法を用いて,空間上の刺激間の距離から各書体の形態の類似度を計測した。専門家と非専門家の空間配置について,配置図間の類似性を評価する跡相関係数を算出したところ,5%水準で有意差が認められ,専門家と非専門家の類似性判断に差異があった。次に,取得された類似度と各書体の文字の太さの相関関係を調べた。サンセリフ書体については,専門家の判断は中程度の相関を示したのに対して,非専門家の判断は強い相関を示したことから,非専門家によるサンセリフ書体の類似性判断は,字体の太さに大きく影響されることがわかった。
著者
辻 大和
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-15, 2008-07-31 (Released:2009-05-20)
参考文献数
66
被引用文献数
3 4

I reviewed the studies on polyspecific associations between primates and non-primate animals to appreciate the present situation about this topic. I collected 104 case studies from 50 publications. The partner animals included 19 mammal species, 33-34 bird species, 1 reptile species, and 1-2 insect species, respectively. Among them, associations with non-primate mammals (n=43) and birds (n=59) occupied most of the reported cases. Many polyspecific associations between primates and other mammal species were reported from Asia and Africa, while those between primates and bird species were reported from Central and South America. 34 primate species worldwide formed associations with non-primate animals.Polyspecific associations between primates and other animals included 1) that primates (or other animals) provide food resources to their partner animals and 2) that primates (or other animals) provide anti-predator behavior (e.g., sentinel behavior, loud call, and alarm call). The former association increases foraging benefits to the partner animals, and the latter association decreases predation risk of the partner animals. Most studies, however, pointed out that benefit from given associations are commensalisic, (or even parasitism), i. e. biased to non-primate species.Most of these studies are anecdotal, and do not show quantitative data for the frequency of the association or the benefit of partner animals from participating in the associations. Thus, this interesting phenomenon has not been discussed from an ecological perspective. I recommend several approaches for how to overcome these present challenges.
著者
早川 裕弌 安芸 早穂子 辻 誠一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.236-250, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
41

現象を空間的に拡張して想像する「地理的想像」を喚起し,地理的思考を促すことは,地理学のアウトリーチにおいて必要なアプローチのひとつである.本研究では,特に3次元地理空間情報を用いた空間的現象の可視化の手法を,縄文時代の集落生態系を対象とした古景観の復原に適用し,その効果的な活用について検討する.まず,小型無人航空機を用いた現景観の3次元空間情報を取得し,古景観の復原のためのデータ解析を行う.次に,オンラインシステムを用いた古景観の3次元的な表示と,博物館における展示としての提供を行い,その効果を検証する.ここで,地理学,考古学,第四紀学的な研究成果の統合だけでなく,芸術分野における表現手法との融合的表現を試みることにより,さまざまな閲覧者の時空間的な地理的想像を補うかたちで,復原された古景観の直感的理解を促す効果が示された.これは,地理的思考の普及にも発展的に貢献できることが期待される.