著者
野村 裕信 上村 参生
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.187-198, 1996-04-30
参考文献数
39
被引用文献数
23

初期齲蝕形成エナメル質表面の脱灰・再石灰化現象を経時的に表面微細構造,結晶構造,表面化学組成および接触角の変化から解明することを目的として本研究を行った。AFM観察の結果,表層下脱灰エナメル質表面には,酸侵襲経路と考えられるエナメル小柱結晶間隙の拡大が認められた。また,4時間脱灰以降の表層下脱灰エナメル質表面には,健全エナメル質結晶とは異なる形状の再石灰化結晶が観察され,この結晶物質はbrushite結晶であると考察された。ESCA分析によるCaおよびPの相対濃度から,脱灰時間の経時的変化にともなって,Pの減少によるCa/P比の増加を認め,表層下脱灰エナメル質表面は,Pの欠乏状態にあることが明らかとなった。接触角の測定結果から,表層下脱灰エナメル質表面は,健全エナメル質表面に比べて,親水性に傾くことが明らかとなった。以上のことから,初期齲蝕発生過程を想定した表層下脱灰エナメル質の表面微細構造およびその表面性状を明らかにするとともに,エナメル質表面で起こる脱灰・再石灰化現象を微細構造学的,化学的および物理化学的に解明することができた。
著者
野村 照久 坂本 文和
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.83, no.7, pp.1138-1141, 1992-07-20
被引用文献数
5 3

症例は63歳,男性.1967年より糖尿病を指摘され,1983年6月より糖尿病性腎症,慢性腎不全のため血液透析を開始,このときすでに神経症,網膜症を伴っていた.1990年6月中旬より亀頭部痛出現し,3ヵ月後には亀頭全体が黒くミイラ状に変性し,壊死に陥ったため1990年10月9日,陰茎部分切断術を施行した.病理組織学的所見では糖尿病による血管病変を主体とする内腔閉塞,血栓形成等が広汎に認められた.陰茎壊死を合併した糖尿病症例の報告は極めて少なく,本症例は本邦では2例目,欧米を含めても5例目に相当する.
著者
牛島 廣治 沖津 祥子 高梨 さやか 町田 早苗 カムリン パターラ トンプラチュム アクサラ 野村 明子 早川 智
出版者
日本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

ウイルス性胃腸炎で重要なロタウイルスとノロウイルスの混合ワクチンをめざして、基礎実験を行った。ロタウイルスはワクチン株(Rotarix)と人工的に作製したウイルス蛋白(VP6)を用いた。ノロウイルスはウイルス様粒子を用いた。マウスへの経口接種で相乗効果はなく、それぞれのウイルスとして抗体の上昇を認めた。子マウスにロタウイルスの感染実験(下痢)はできたが、ノロウイルスでは下痢が生じなかったので、ワクチンの予防効果の実験はできなかった。ヒトでのロタウイルスワクチンの使用例と繰り返すノロウイルス胃腸炎の例を参考にし、混合ワクチンの開発を進めることが期待された。
著者
野村 知二
出版者
京都大学
雑誌
京都大学生涯教育学・図書館情報学研究 (ISSN:13471562)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.71-80, 2003-03-31

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
野村 徹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.436, pp.41-46, 2009-02-17

弾性表面波とその応用に関する研究に携わって30年がたった。この節目の年が、丁度著者の定年退職の年と重なった。このときに、これまで行ってきた研究を振り返ってみるもの悪くないと思い、古いことを思い出しながら、弾性表面波のこと、センサのこと等をまとめた。
著者
小山 純一 仲西 城太郎 佐藤 純子 野村 純子 鈴木 裕美子 増田 嘉子 中山 靖久
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.16-26, 1999-03-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
22
被引用文献数
4 3

健常な人にとっての一般的な皮膚の悩みとして, 皮膚表面に生じる落屑の発生があげられる。冬季の肌荒れによくみられる現象である。形態学的, 生化学的な検討により肌荒れの現象面については解明されてきたが, 落屑の発生メカニズムはまだ明らかでない。本研究では角層の接着, 剥離のメカニズムを明らかにし, どのような因子が影響しているのか, またどのようなスキンケアが有効かを検討した。角層中には2種類のセリン酵素が存在し, それぞれトリプシン様 (30kDa), キモトリプシン様酵素 (25kDa) であることがわかった。遺伝子解析によりキモトリプシン様酵素はすでに報告されている角層中のキモトリプシン様酵素 (SCCE) と一致した。トリプシン様酵素はIV型トリプシノーゲンと新奇なトリプシノーゲンであることがわかった。角層シートは緩衝液中で単一細胞にまで分散するが, 分散した角層からはデスモソームは検出されなかった。逆に熱処理した角層やセリン酵素阻害剤を添加した場合はデスモソームは分解されず, 分散も起こらなかった。ロイペプシンあるいはキモスタチンの単独では抑制効果はアプロチニンの半分でしかなかった。しかし, ロイペプシンとキモスタチンを混合した場合はアプロチニンと同程度の抑制効果がみられた。この結果からデスモソームが角層細胞の接着に大きな役割をはたしており, このデスモソームを2種類のセリン酵素 (トリプシン様, キモトリプシン様) が分解することにより角層細胞が剥離することが明らかになった。加齢によりトリプシン様酵素の活性が低下することが明らかになり, 加齢による角層の肥厚に酵素活性の低下が関与していることが示された。酵素によるデスモソームの分解は角層中の水分に影響されることが明らかになった。冬季の乾燥により角層中の水分が減少しデスモソームの正常な分解が妨げられた結果, 落屑が生じると考えられた。この研究により角層の剥離過程に二つの因子が関係することがわかった。一つは角層中の水分量である。酵素自体は正常であっても角層中の水分量が減少することにより酵素の働きが妨げられる。この場合は保湿剤が有効であった。もう一つは酵素活性そのものの低下であった。この場合にはデスモソームの分解を促進する薬剤が必要であった。ジカルボン酸類がデスモソームの分解を促進しその種の薬剤としての可能性が示唆された。
著者
五島 史行 野村 恭子 中尾 睦宏 瀬戸 泰
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.148-156, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

はじめに : めまいの多くは末梢前庭障害によるものであり, 一時的な症状で改善することが多い. しかし, 一部では症状が遷延化する. 本研究では, 3カ月以上にわたりめまい症状が遷延している難治性めまい患者における重症度に影響している要因について検討した.  対象と方法 : 都内単一医療施設耳鼻咽喉科外来にて3カ月以上一般的治療を行ったにもかかわらず, めまい症状が遷延した患者のうち, 2012年4~11月の間に入院による積極的な治療を希望した難治性末梢性めまい210例 (女性75%, 平均年齢65歳) を対象とした. 検討した項目は性別, 年齢, 就労の有無 (無職/就労), 最終学歴 (短期大学以下/大学以上), 心理尺度である. 心理尺度には, (a) 身体感覚に対する破局的思考尺度 (Somatosensory Catastrophizing Scale : SSCS), (b) 身体感覚増幅尺度 (Somatosensory Amplification Scale), (c) 身体症状評価 (Medical Symptom Checklist), (d) 自己評定式抑うつ尺度 (Self-rating Depression Scale : SDS) のそれぞれについて自記式質問紙を用いて尋ねた. めまいの頻度が週に1回以上をめまい重度群, それ未満をめまい軽度群と定義し, それぞれの因子との関連を統計学的に検討した.  結果 : めまい軽度群に比べて, めまい重度群は有意に若く (p=0.001), 就労しており (p=0.001), 最終学歴は大学以上であった (p=0.013). また, 心理尺度のSSCS (p<0.0001) ならびにSDS (p=0.049) の平均点はめまい重度群が軽度群よりも有意に高かった. めまいの重症度に影響する因子を検討するロジスティック回帰分析では説明変数としてSSCSの合計値を投入したモデル1とSSCSの各因子の値を投入したモデル2を行い, 就労していない場合に比べ就労しているとめまいは約3倍重症化しやすく (モデル1 OR 3.47, 95%CI : 1.51~8.00;モデル2 OR 3.18, 95%CI : 1.36~7.45), モデル1にてSSCSの合計点が1点上昇するごとにめまいは3% (95%CI : 1.01~1.05) 重症に傾きやすい傾向を, モデル2にてSSCSの第二因子 (生活上の支障) が1点上昇するごとにめまいは11%重症化に転じる傾向 (OR 1.11, 95%CI : 1.03~1.19) を認めた.  考察 : 難治性めまいにおいて身体感覚に対する破局的思考は重症度に影響を与えていることが明らかとなり, 認知の歪みの影響を受ける病態であることが示唆された. その他の背景因子の中では, めまい重度群では就労しているものが多く, 今後の検討事項に外的な要因として職場での人間関係やサポートなどの社会的環境因子が考えられた.
著者
小松 千恵 野村 正子
出版者
学校法人 日本歯科大学東京短期大学
雑誌
日本口腔保健学雑誌 (ISSN:24347108)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.79-84, 2019 (Released:2020-01-24)
参考文献数
15

清涼飲料水の1つであるエナジードリンクは,コンビニエンスストア等で手軽に購入出来るため,若年者の摂取が増えている.エナジードリンク中のカフェインは,疲労感や眠気を消失させる等全身への影響が明らかとなっている.口腔への作用としては,カフェイン含有飲料の過剰摂取を,唾液分泌量低下の原因の1つとする報告もあるが,エナジードリンク飲用により口腔にどのような変化が生じるかについての報告はない.本研究の目的は,エナジードリンク飲用後の唾液量や口臭の変化を明らかにすることである. 対象者は専攻科歯科衛生学専攻に在籍する9名の女子学生で,エナジードリンク飲用後の安静時唾液量,舌の湿潤度,および口臭についての測定を経時的に行った.加えて飲用後の主観的変化を知るために,質問紙調査を行った. その結果,唾液量及び口臭の変化に統計学的な有意差は認められなかったが,「口腔内のべたつき」や「のどが渇く」の自覚症状がみられた.唾液量に変化がなくても,わずかな質の差が,症状を引き起こす可能性を推測した.今後の課題として,唾液に粘稠度を与える糖タンパク量を測定し,口渇感や粘液性唾液との関連を客観的に検討する必要があると考えた. 本研究の結果からエナジードリンクを嗜好する患者さんに対して,その影響について正しい情報を伝達し,歯科保健指導を行うことが重要であると考える.
著者
野村 みどり
出版者
特定非営利活動法人 日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液学会雑誌 (ISSN:09138706)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.137-141, 2003-06-30 (Released:2011-03-09)
参考文献数
5

1950年代以降, 西欧諸国では, 病院におけるこどものためのあそび支援プログラムの発展と, その担当専門家の活躍によって, 家族中心ケアやプリパレーション (あそび・まなびを導入した診療準備) 等の支援も推進されてきた.1988年「病院のこども憲章」EACH Charterが作成され, 2002年, その現代的注釈が刊行された.本憲章の履行は, 国連こどもの権利条約の履行である.すなわち, 病院において親は, いつでも (夜間, 治療・検査時, 局所麻酔・鎮静中, 麻酔導入時・覚醒時, 昏睡状態, 蘇生処置中) こどもに付き添う権利を有し, 親は全面的にサポートされねばならない.こどもと親が処置すべてを事前に知っていることが意思決定に積極的に関わるための前提条件である.こどもを医療者の対等のパートナーに据えるとともに, 家族中心ケアの実現がもとめられており, わが国におけるその効果的推進のためには, 家族が付き添える病院環境の整備とホスピタルプレイスペシャリストなど, 専門家の養成・導入は緊急課題といえる.
著者
野村 恭代
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.70-81, 2012-11-30 (Released:2018-07-20)

現在,精神障害者の地域移行が進められつつあるが,その実現には多くの障壁が立ちはだかる.その代表的なもののひとつが,精神障害者施設への地域住民からの反対運動などの「施設コンフリクト」である.精神障害者の地域移行を実現するためには,これらの問題を解決しなければならないが,精神障害者施設と地域住民とのコンフリクトに関し,現在,どこの地域で問題が発生しているのか,発生数はどのくらいであるのかなど,その現状を知る術はない.そこで,本研究では,1980年代および1990年代に実施された全国調査を概観するとともに,2000年以降の実態に関し,全国調査を行うことにより明らかにする.さらに,施設コンフリクトが発生した施設はどのような対処をしたのか,また,対処の結果どのような反応がみられたのかを検証し,コンフリクト発生から合意形成に至るプロセス(手段方法,要因)と合意形成との関連性について分析を行う.
著者
野村 崇
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.樺太・千島出土考古資料の集成国内の研究機関(同志社大学・国立民族学博物館・明治大学・日本大学・東北大学・市立函館博物館・北海道大学農学部博物館・北海道開拓記念館・帯広百年記念館等)に所蔵する樺太・千島出土の考古資料の写真、実測図による集成をおこない、それらの形態、寸法、出土状況、時代等を付記した集成資料を作成した。2.樺太・千島関係考古学文献目録の作成明治以降、現在までの日本語文献約300点、ロシア語文献約50点を収録した文献目録を作成した。3.北海道東北部の先史文化と樺太・千島の先史文化との比較研究北海道と樺太の関係においては、旧石器時代には共通性が多く、北海道産の黒曜石が樺太に持込まれている。縄文期においては、北海道からの影響は少ないが、続縄文期、オホ-ツク文化期においては相互の交流があり、同一文化圏を構成していた。また、樺太に従来ないとされていた擦文土器をクズネッオボI遺跡において確認した。千島との関係では、国後、選択両島以南において、縄文中期以降、北海道とほぼ同じ文化が展開したことがわかった。5.樺太出土黒曜石の年代および産地の同定樺太のド-リンクスI遺跡(旧落合)およびポロナイスク(旧敷香)地方ザパドナセV遺跡で出土した黒曜石を、フィッション・トラック法による年代測定・産地同定をおこなった。前者は北海道白滝産で、現在より13.900年前という測定値、後者は白滝および置戸産と判明した。5.樺太中部におけるサルゴリ文化の確認アム-ル河下流域の新石器時代末〜青銅器時代初頭にかけてのサルゴリ文化が、樺太中部ポロナイスク地方まで南下したことを確認した。
著者
野村 拓也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.67-74, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
42

本稿は,近年における消費環境の変化を背景とする消費者の物質主義に関する議論を統合的に整理する。ここでいう消費環境の変化とは,デジタル化の進展,シェアリングをはじめとする財の法的所有を伴わない消費形態の普及,ミニマリズムなどのような反物質主義的な価値観の流行を指す。これらの消費環境の変化は,種々の弊害があると問題視されてきた消費社会における物質主義の弱体化を象徴する現象として評価されることがある。本稿では,物質主義に関する初期の研究や,消費環境の変化に着目した研究のレビューを通じて,物質主義の弱体化を楽観的に期待する見解を批判的に検討する。そして,物質主義の概念を用いて今日の消費者行動と消費社会のあり方をより適切に理解するための視座を提供する。