著者
石田 弘明 服部 保 黒田 有寿茂 橋本 佳延 岩切 康二
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.49-72, 2012
被引用文献数
1

1. シカの生息密度(以下,シカ密度)が異なる屋久島低地部の複数の場所において照葉二次林と照葉原生林の植生調査を行い,シカ密度の低い照葉二次林(以下,低シカ密度二次林),シカ密度の高い照葉二次林(以下,高シカ密度二次林),シカ密度の低い照葉原生林(以下,低シカ密度原生林)の階層構造,種組成,種多様性を比較した.<BR> 2. 第2低木層(高さの上限は2m前後)の植被率は高シカ密度二次林の方が低シカ密度二次林よりも有意に低く,シカの強い採食圧が第2低木層の植被率を大きく低下させることが明らかとなった.また,二次林の全調査林分を対象に第2低木層の植被率とシカ密度の関係を解析したところ,両者の間にはやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>3. DCAを行った結果,全層の種組成は低シカ密度二次林と高シカ密度二次林の間で大きく異なっていることがわかった.特に下層(第2低木層以下の階層)ではこの差が顕著であり,多くの種が低シカ密度二次林に偏在する傾向が認められた.これらのことから,シカの強い採食圧は屋久島低地部の照葉二次林の種組成を著しく単純化させると考えられた.ただし,ホソバカナワラビやカツモウイノデなどは高シカ密度二次林に偏在する傾向にあり,シカの不嗜好性が高いことが示唆された. <BR>4. 高シカ密度二次林の下層の種多様性(100m^2あたりの照葉樹林構成種数)は低シカ密度二次林のそれよりも有意に低く,前者は後者の50%未満であった.また,このような傾向は高木,低木,藤本のいずれの生活形についても認められた.<BR> 5. 二次林の種多様性とシカ密度の関係を解析した結果,全層,下層,第2低木層では両変数の間にやや強い負の有意な相関が認められた. <BR>6. 低シカ密度二次林と低シカ密度原生林を比較したところ,前者は後者よりも種組成が単純で種多様性(特に草本,地生シダ,着生植物の種多様性)も非常に低かった.この結果と上述の結果から,屋久島低地部の照葉二次林の自然性は照葉原生林のそれと比べて格段に低いこと,また,シカの強い採食圧はその自然性をさらに大きく低下させることがわかった. <BR>7. 屋久島低地部の照葉二次林の保全とその自然性の向上を図るためには,シカの個体数抑制や防鹿柵の設置などが必要である.また,照葉二次林の自然性を大きく向上させるためには種子供給源である照葉原生林の保全が不可欠であり,その対策の実施が急務であると考えられた.
著者
黒田 素央 山中 智彦 宮村 直宏
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.175-180, 2004-08
被引用文献数
2

多くの食品は、加熱処理により調製され、提供される。この加熱工程において、食品タンパク質の変性、食品素材からの成分溶出、メイラード反応をはじめとする化学反応など、多くの反応が起こり、食品の呈味が形成されると考えられている。このような食品の中で、スープやソースなど、食材を煮込むことによって調製する食品においては、長時間の加熱によって、特有の香り、風味が発現・増加することが知られている。これらの中で加熱により「コク味」と呼ばれる風味質が増加することが観察されている。本稿では、食品の「コク味」を表現するための用語の整理とコク味表現モデルについて概説を行った後、加熱によって「コク味」が向上する例として、牛肉スープストックあるいは牛肉エキスを取り上げ、最近の研究例について紹介する。具体的には、牛肉スープストックの加熱中に生成し、牛肉スープ特有の「あつみのある酸味」を付与しうる低分子「コク味」成分の研究例および牛肉エキス中の「コク味」(持続性、濃厚感、広がり)に寄与する高分子成分の解析例と加熱に伴う構造変化について、いかに詳述する。
著者
黒田 素央 山中 智彦 宮村 直宏
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.175-180, 2004
参考文献数
9
被引用文献数
2

多くの食品は、加熱処理により調製され、提供される。この加熱工程において、食品タンパク質の変性、食品素材からの成分溶出、メイラード反応をはじめとする化学反応など、多くの反応が起こり、食品の呈味が形成されると考えられている。このような食品の中で、スープやソースなど、食材を煮込むことによって調製する食品においては、長時間の加熱によって、特有の香り、風味が発現・増加することが知られている。これらの中で加熱により「コク味」と呼ばれる風味質が増加することが観察されている。本稿では、食品の「コク味」を表現するための用語の整理とコク味表現モデルについて概説を行った後、加熱によって「コク味」が向上する例として、牛肉スープストックあるいは牛肉エキスを取り上げ、最近の研究例について紹介する。具体的には、牛肉スープストックの加熱中に生成し、牛肉スープ特有の「あつみのある酸味」を付与しうる低分子「コク味」成分の研究例および牛肉エキス中の「コク味」(持続性、濃厚感、広がり)に寄与する高分子成分の解析例と加熱に伴う構造変化について、いかに詳述する。
著者
藤村 誠 今村 弘樹 黒田 英夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SIP, 信号処理 : IEICE technical report (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.213, pp.15-19, 2008-09-25

近年,デジタルコンテンツ,特に画像および映像コンテンツの普及が急速に進んでいる.これに伴い,デジタルコンテンツの著作権の侵害などが問題となっている.この問題に対して,コンテンツに著作権情報などを埋め込む電子透かしによって対策が図られている.従来の電子透かしは,画像をウェーブレットなどで変換して,周波数空間において電子透かしを埋め込むという方式など,いくつかの方式が提案されていた.しかし,電子透かしを無効化する多種多様な攻撃があり,すべてに耐性をもつ電子透かし方式は,まだ見付かっていない.我々は,透かし情報を埋め込む領域形状によって埋め込み情報を表現することで,拡大,縮小などスケーリング攻撃に対する耐性を向上する方式を提案した.評価実験では,拡大縮小に対する耐性を検証して,良好な結果を得た.
著者
齊藤 邦行 磯部 祥子 黒田 俊郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.85-90, 1998-03-05
被引用文献数
6

ダイズ収量成立過程を解析するには, 花器の分化と発育過程を明確にする必要がある.花房の着生位置に着目した場合, 今までの分類は煩雑で, 多くの労力を要する.光学顕微鏡による観察結果に基づいて, 花器の分化・発育ステージを, 花芽分化前(I期), 花芽分化期(II期), 萼分化期(III期), 花弁分化期(IV期), 雄ずい分化期(V期), 雌ずい分化期(VI期), 胚珠・葯分化期(VII期), 花粉・胚嚢形成期(VIII期), 開花期(IX期), の9期に分類した.特定の節に着目すると, 花芽は低次位から高次位へ花房次位の序列に従って分化した.個体内では2次の花芽が最も早く分化したが, III期以降は0, 1次の花器の発育が最も速く進行した.低次位の花芽は分化後急速に発育したのに対し, 高次位の花芽では分化後の発育はゆっくりと進行した.0, 1, 2, 3次の花芽は開花始前までに分化し, 4, 5次の花芽は開花始後に分化した.また, 0, 1次の花芽の分化・発育は全ての着生位置で開花始前の短期間に集中して行われたのに対し, 2次以上の花芽では開花始前後の長期間に及んだ.従って, 低次位の花蕾数は開花始前に, 高次位の花蕾数は開花始後に決定することが推察された.出葉日と花器の分化・発育との対応関係をみると, 主茎第4, 7節は出葉後に花芽が分化したのに対し, 10節以上は花芽分化が出葉より早くおこり, 花芽の分化は栄養生長とは無関係に, 各節でほぼ一斉に開始されることがわかった.
著者
古在 由秀 黒田 和明 藤本 眞克 坪野 公夫 中村 卓史 神田 展行 齊藤 芳男
出版者
国立天文台
雑誌
創成的基礎研究費
巻号頁・発行日
1995

人類がまだ果たしていない重力波検出を実現して「重力波天文学」を創成するためには、巨大なレーザー干渉計を長時間安定にかつ超高感度で動かす技術を開発する必要がある。本研究では基線長300mの高感度レーザー干渉計(TAMA300)を開発・製作し観測運転を試み、(1)世界の同様な干渉計計画に先駆けてTAMA300の運転開始(1999年夏)、(2)世界最高感度の更新(2000年夏)、(3)50日間で1000時間以上の観測データ取得(2001年夏)、(4)リサイクリング動作の成功(2002年1月)など、着々と感度と安定度を向上させ、重力波観測装置としての成熟を示す成果を挙げた。さらに干渉計の建設過程で行われた要素技術の開発研究でも、(5)単一周波数連続10W発振の高出力・超高安定レーザー実現、(6)広い面で均一で低損失な超高性能ミラーの評価法の確立とミラーの実現、(7)リサイクリングを適用した干渉計の新しい制御方式の発明と実験的証明、(8)位相変調光を透過する光共振器での付加雑音の原因究明と抑制、(9)波面検出法による長基線光共振器の光軸制御の実現、(10)光共振器の基線長の絶対値計測法の考案・実測と地球物理学への応用可能性示唆、(11)プロトタイプ干渉計を用いたリサイクリング動作の世界初の実証など、世界初や世界最高レベルの独創的で発展性のある成果がいくつも生まれた。本研究をさらに発展させるべく平成14年度より特定領域研究(重力波の新展開)が始まり、TAMA300のさらなる感度と安定度向上を図りながら、外国で動き出す巨大レーザー干渉計との同時観測によって銀河系周辺で発生する重力波の探査観測を行う計画である。
著者
中曽根 英雄 山下 泉 黒田 久雄 加藤 亮
出版者
Japan Society on Water Environment
雑誌
水環境学会誌 = Journal of Japan Society on Water Environment (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.374-377, 2000-06-10
被引用文献数
10 16

We found a special irrigation reservoir in which there are no algae, insects, or fish. Therefore, we have surveyed the water quality of an irrigation reservoir to find the reason for no living creatures. As the results of the survey, we found three factors such as high nitrate concentration, high aluminum concentration, and low pH value which will affect the lives of creatures in this irrigation reservoir. Among these three factors, the most important one is low pH in this irrigation reservoir. This low pH of the irrigation reservoir is derived from the overuse of nitrogen fertilizer at tea yards. About 1,000kg · ha<sup>-1</sup> · y<sup>-1</sup> of nitrogen fertilizer has been used to the tea yards for a long time. The remained nitrogen fertilizer which was not taken up by tea crop infiltrates through soils and enters into the ground water. This causes an over the Cation Exchange Capacity of soil and high aluminum concentration of this irrigation reservoir. To prevent this phenomenon from occurring, dozing lime under the root zone and reducing use of nitrogen fertilizer might be effective.
著者
黒田 航 井佐原 均
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 言語理解とコミュニケーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.204, pp.47-54, 2005-07-16
被引用文献数
4

現行の多くの概念分類体系には不備がある.その一つが意味型の概念と意味役割の概念の区別の不在である.意味型は自然類をコードするが, 意味役割はそうではない.意味役割は典型的には(利用者にとっての)機能類をコードする.非自然類が疑似的に自然類として分類されると, 分類に欠損や歪みが生じる.例えば日本語語彙大系では「番犬」と「番人」の共通性[番をする者]が表現されていない.この種の表現力の不足を補うための枠組みを, 私たちは意味役割の一般理論の観点から素描する.
著者
黒田 俊郎 植高 智樹 郡 健次 熊野 誠一
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.p74-79, 1992-03
被引用文献数
5

ダイズにおける花器の脱落について, 花房の次位を同定しながら追跡調査を行った. 品種タチスズナリを1/2000 aワグナーポットに孤立状態で栽培したものを標準区とし, 別に開花期間中の遮光処理区も設けた. 開花から脱落まで日数の頻度分布は10日を境界として前後に大別できたので, 前者を落花, 後者を落莢とした. 標準区の落蕾・落花・落莢の割合はそれぞれ5%, 28%, 66%であった. 遮光によって花器脱落の総数は増加したが, 特に落花が顕著となった. 開花は20日あまりの期間に集中したが, 脱落は開花始期直後から成熟期まで長期に及んだ. 花房次位別の開花は低次位(0次・1次)から開始し, 順次高次位に及んだ. 脱落も次位別にこの順で始まったが, いずれの次位も成熟期まで継続的に脱落した. 開花期から成熟期までの花器脱落を花房次位別に検討した結果, I期;低次位の落花期, II期;高次位の落花期, IlI期;高次位の落花を伴った低次位落莢期, IV期;高次位の落花および低次位の落莢を伴った高次位落莢期, V期;低次位および高次位の落莢期, と推移することが明らかになった.
著者
岡田 宏明 池田 透 岸上 伸啓 宮岡 伯人 小谷 凱宣 岡田 淳子 黒田 信一郎
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1991

平成3年度から継続して、平成4年度にも2回の研究集会を札幌と網走で開催し、研究会は計4回を数えた。その間に、代表者をふくめて、研究分担者全員が、順次研究発表を行ったが、研究集会以外にも、北海道立北方民族博物館で毎年秋に開かれるシンポジウムにも、半数以上の研究分担者が参加し、研究発表や討論を通じて、情報や意見を交換する機会をもった。平素は、別々の研究機関に促し、それぞれ独立に調査研究に従事している代表者および分担者は、2年間に、かなりな程度までお互いの研究成果を知ることができ、このようにして得た広い視野に立って、最終的な研究報告をまとめる段階に到達した。研究報告書は10篇の論文から構成され、アイヌ文化に関するもの2篇、北西海岸インディアン2篇、イヌイト(エスキモー)1篇、サミ(ラップ)1篇、計7篇は文化人類学に視点をおくものである。その他に、東南アラスカの現地の人類学者による寄稿1篇が加えられている。その他の2篇は、言語学関係のもので、北欧のサミと、北東アジアのヘジェン語を主題としている。研究報告書には、シベリア関係の論文がほとんど掲載されていないが、平成4年5月に刊行された「北の人類学一環極北地域の文化と生態」(岡田、岡田編、アカデミア出版会」に代表者および分担者による8論文のうち、3篇はシベリア原住民に関するものである。平成4年度未に刊行される研究報告書は、上記の「北の人類学」と一対をなすものであり、両者を総合することによって、わが国の環極北文化の研究は確実に一歩前進したと見ることが可能であろう。論文に掲載されなかった資料やコピー等は、北海道大学と北海道立北方民族博物館に収集、保管し、今後の研究に役立てたいと考えている。