著者
岸江 信介 西尾 純二 峪口 有香子
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究では、主に関西と関東における無敬語地域の配慮表現に注目し、無敬語地域が有敬語地域とは異なるウチ社会を基盤とした言語共同体を形成しているという仮説のもとに配慮表現の研究を進めている。関西地域においては、すでに有敬語地域である京都・大阪をはじめ、無敬語地域である熊野・新宮地方などで多人数の調査を実施し、有敬語地域における配慮表現の運用状況のみならず、無敬語地域における配慮表現の実態についても把握することにつとめてきた。現代日本語の待遇表現や配慮表現の使い分けの目安とされてきた目上/目下,ウチ/ソト,心理的・社会的距離の遠近,親疎関係,恩恵の有無といった敬語地域では成り立つが,無敬語地域にもこの軸を当てはめ,有敬語地域と比較することはできるのであろうか。無敬語地域では,地域を構成する成員間の関係が都市部と比較してより緊密であり,ウチ/ソトといった関係も,都市部とは異なり,ウチ社会のみをベースとして形成されていると考えられる。無敬語地域では一般的に敬意表現や配慮表現が有敬語地域と比較して希薄に見えるのは,このような要因が大きく関与しており,ウチ社会独特の言語行動の規範となるメカニズムが存在するという仮説を立てることができる。この仮説検証のため,本年度はおもに無敬語地域とされる北関東地域の茨城県の漁村地域を中心に調査を実施した。この調査を進めるなかで次第に明らかになったことは,無敬語地域といえども都市化が急速に進みつつあり,従来、無敬語地域とされてきた地域の有敬語化が起きており、この変化はかなり進行しているということであった。これに伴い、配慮表現の運用についても、有敬語地域とほとんど変わらない実態が明らかとなった。
著者
久岡 朋子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

[1]発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスにおいて、小脳バスケット細胞とプルキンエ細胞間(ピンスー)シナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があるかを検討するために、NF200の免疫染色を行った結果、野生型マウスと比べてKirrel3欠損マウスでNF200陽性領域と輝度の有意な増加が認められた。さらに、ビルショウスキー染色を用いてバスケット細胞軸索の分枝形態を検討した結果、Kirrel3欠損マウスで過剰な分枝が見られた。[2]オープンフィールドテストにおける多動(ADHD)を伴う常同行動(ASD)の亢進により活性化、または抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現するc-fos蛋白を指標として、野生型とKirrel3欠損マウス間で比較した結果、いくつかの領域で異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。[3] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン伝達系の賦活薬であるメタンフェタミンを腹腔内投与し、オープンフィールドテストによりADHD様行動(多動)が改善するかを検討した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が見られた。この結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASDの病態として、ADHDで報告されているドーパミン伝達系の低下ではなく、ドーパミン伝達系の亢進が関連している可能性が示唆された。[意義・重要性] ADHDを伴うASD様行動を示すKirrel3欠損マウスの小脳において、ピンスーシナプスの形成に異常が見られ、ADHD治療薬であるドーパミン系賦活薬の投与によりADHD様行動の増悪が見られたことから、この疾患の新たな病態を見いだした。これらの知見から、ADHDを伴うASDと小脳やドーパミン伝達神経回路との関連性をさらに解明することで、ADHD単独の病態とは異なるこの疾患の治療法の開発に役立つと考えられる。
著者
角 大輝 佐藤 譲
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

複素多様体上の正則写像のなす半群の力学系と、正則写像の族によるランダム力学系の両者の理論を、互いに交錯させながら基礎から構築し、出来上がった理論を純粋数学にとどまらず非線形物理学や数理生物学などの他分野へ思想的・哲学的に訴えかけた。ランダム力学系におけるカオスと秩序の間のグラデーションなど、新しい世界観を提供した。具体的には、「協調原理」により大概のランダム複素多項式力学系において通常の複素力学系よりカオス性が弱まり、秩序性が生まれることを発見し、カオス性が弱まった中にもカオスと秩序の間のグラデ―ションが存在していることを発見して、マルチフラクタル解析などを用いて研究を深化させている。
著者
寺田 元一
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

初年度は7月の国際科学史学会で、「モンペリエ学派における生気論的生物観の形成と中国医学(フランス語)」という題目で報告し、その報告がArchives Internationales d'Histoire des Sciencesの最新号に掲載された。そこでは、1)中国医学(漢方を含む)のヨーロッパへの導入には二ルートがあり、中国医学は共通して西洋医学に器官の共感という問いを提起していたこと、2)中国医学の身体観の生気論的生理的機序(エコノミー・アニマル)観への同化が、被刺激性という問題系をめぐる論争を通じてのみでなく、脈学の生理学的「革命」を通じても実現されたこと、3)機械論に打ち勝つための身体観をメニュレが中国医学のうちに見出したこと、4)メニュレが中国医学の生理的機序観を同化して生気論の生理学的地平を拡大したことを明らかにした。第二年度はモンペリエ学派の脈学が生気論の成立の場として機能したことを明らかにした。論文Lasphygmologie montpellieraine : le role oublie du pouls dans l'emergence du vitalisme montpellierainによって、18世紀における中国医学と西洋医学との交流、モンペリエ学派の脈学の展開、生気論の成立という、相互に独立に研究されてきた対象について、始めて本格的に解明のメスを入れることができた。その結果、1)モンペリエ生気論が初期には未だアニミズムから自由でなかったが、関係的生理的機序観によってそれを乗り越えたこと、2)この関係的見方は、モンペリエ学派の脈学を狭い予診論的枠組みから広い生理学的地平へと転回させ、身体の表層と内部を結ぶ生理的機序の連関のうちに脈を位置づけ直すのに成功したこと、3)とりわけ、メニュレが中国医学の関係的見方を導入したことを通じてその転回は果たされ、身体全部分の競合・共鳴から生命が成立するという新たな生気論的見方に変わったことを、明らかにできた。
著者
深澤 芳樹
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

日本列島にタタキ技法が初めて現れるのは、弥生土器においてである。その技法は、すでに高い水準にあったことから、自生したとは考えられず、その由来を海外に求めざるをえない状況にあった。その候補にはこれまで、灰陶系統の瓦質・陶質土器があったが、これは本研究の3つの視点、つまり道具・製作工程・身体技法から、とても肯首できるものではないことが明らかである。最近、朝鮮半島の無文土器のうち、松菊里式土器にタタキメとおぼしき凹凸痕が、発見されることが増えてきた。本研究経費を用いて、大韓民国で忠清南道寛倉里遺跡や忠清南道古南里貝塚の資料を詳細に観察した。そしてこれらの凹凸痕に揺れや振れなどがなく、器具を圧着してできた痕跡であることを確認し、5〜6cmごとで不連続部分があり、その圧着は円弧状タタキメのパターンを描くことを確かめた。この結果、これら松菊里式土器の平行条線は、平行タタキメそのものであり、さきの3つの視点からみて、この松菊里式土器製作にかかわった技法こそが、日本列島の弥生土器が習得したそのものであるとの結論に達した。現在、このタタキメをもつ松菊里式土器は、朝鮮半島の南西部に偏在する。このタタキ技法は、楽浪土器のそれとは異系統であることから、その伝播経路は、海を越えて山東半島に求めることになる。中国大陸海洋沿岸部には、縄タタキによらない印紋硬陶文化があるので、その起源地にこれを据えることが最も蓋然性の高い理解であると考える。つまり弥生土器のタタキ技法は、大陸沿岸から朝鮮半島西南部に伝わり、これが日本列島に達したものである、との仮説を提起する。今後は、これらの技法と楽浪・三韓土器の技法を比較検討し、研究対象地域を広げたい。
著者
高山 穣
出版者
武蔵野美術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究ではまず、装飾文様を手続的なアプローチによって生成することを試みた。具体的に再現するモチーフとして、メダリオンという文様を取り上げた。メダリオンは西洋のあらゆる装飾でポピュラーなモチーフであることから、汎用性が高いと考えられる。その際、二次元のメタボールを利用し、様々な回転対称の文様を自動生成するアルゴリズムを考案した。そこから得られる二次元の文様を高度マップとしてみなして利用し、高さ情報を持つ立体形状へと変換した。最終的に得られた形状は高解像度の3Dプリンタを用いて出力を行った。完成したレリーフ装飾は複数の美術展で展示を行い、一定の評価を得ることができた。
著者
藪田 貫 陶 徳民 大谷 渡
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の成果は、つぎの3つからなる。第1にアリス・ベーコンJapanese Girls and Women『日本の女性』の翻訳である。翻訳は初版本全10章のうち第5章、日本の女性の一生に関する部分までの翻訳を終え、本成果報告書に収めた。6章以下に天皇・皇后をはじめとする身分ごとの女性に関する叙述が続くが、それについては時間的な制約から、期間内に終えることができなかった。また津田梅子、大山捨松、アリス・ベーコンらの間に交わされた書簡を調査・閲覧することで本書の成立事情を明らかにすることができた。第2に津田梅子の留学、帰国後の津田塾の創設に代表される近代日本の女子高等教育の歩みを、同時代の日本史およびアメリカ史の文脈から位置付け、とくに1984年に発見された屋根裏の手紙など英文の史料から女子教育に生涯を捧げた梅子を通じて明らかにした。第3に津田梅子とともに留学し、生涯、強い姉妹愛に結ばれていた大山捨松・永井繁子らの日本での活動を、「婦女新聞」を通じて明らかにした。女性の社会的地位の向上、女子教育の振興を目指して1900年に発刊された「婦女新聞」は、廃刊となる1942年まで、廃娼運動・職業問題・母性保護・女子教育などを論じたが、そこには梅子・捨松らの投稿記事と並んで、彼女たちに関する記事も頻出するが、これまでこれほど多量に集約されたことはない。これらは梅子たちに関する同時代的証言として、今後の研究の礎石となるものである。本研究の開始に前後して、日本・アメリカ双方で、近代成立期の女子高等教育に関するあらたな研究が進展を見せている。そのような研究潮流に呼応して本研究も成果をあげることができたと総括できるだろう。
著者
鳥居 和代
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、1950~60年代の戦後日本の漁業地域において、家庭や地域を巻き込んだ学校内外にわたる生活指導がどのように展開されたのかを明らかにすることにある。2019年度は、次のような調査研究を行った。第一に、前年度に引き続き、東京大学教育学部図書室において、教育学者の大田堯や千葉県教育研究所が関与した、千葉県房総半島の最南端に位置する漁村における1950年代初頭の教育計画に関する報告書等を調査した。第二に、上記漁村の小学校を事例として、1950年代初頭における標準語教育と方言教育の実践について調査研究を行った。千葉県の館山市立博物館本館所蔵の学校日誌を閲覧するとともに、館山市立図書館において、安房地方の漁村の歴史や方言に関する諸資料を収集した。また、当該時期に収録された安房地方の方言音声資料を入手した。第三に、千葉県の銚子市公正図書館において、銚子の方言に関する郷土史料や、1960年代に漁村の小学校でことばなおしの実践に携わった元教員に関する資料を収集した。とくに、第一と第二の調査研究によって、次のことが明らかになった。すなわち、(1)1950年代初頭の漁村の一小学校では、大田堯らの関与によって、標準語教育の見直しと方言の尊重ということばの実践の深化がみられたこと、(2)当小学校ではやがて標準語か方言かの二項対立を超えて、浜者(漁民)と岡者(漁民以外)との階層的な差異や、それに基づく子ども間の「劣等感」と「優越感」とを解消していくための人間関係づくりの視座が獲得されたこと、(3)その意味において、ことばの指導から生活指導の次元へと向かう実践の方向性が確認できることである。本成果は、教育史学会第63回大会において発表した。
著者
小川 栄一
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究代表者は、2012年度より「江戸語・東京語におけるコミュニケーション類型の研究」のテーマで科研費の交付を受け、現在は2018年度から第2回目の交付を受けている。2019年度における研究実績は次の2点である。(1)式亭三馬『浮世風呂』データベースの作成上記の談話分析を近世後期江戸語資料にも適応すべく、その基礎的な作業として『浮世風呂』データベースをコンピューター上に作成している。『浮世風呂』中の会話を句単位で区切った上で、話し手、聞き手、会話のタイプ、ストラテジーなどの情報を付加して、検索や集計が容易にできるようにしている。近い将来に公表することも予定している。(2)『浮世風呂』における敬語使用の特徴上記データベースを用いて、『浮世風呂』における敬語使用は、主として品格保持のために行われているという予測を立てている。その理由は、『浮世風呂』における敬語は、尊敬語・謙譲語の使用率が低く丁寧語・美化語の使用率が高いこと、年齢の上下関係に基づく使用(年長者には敬語を用い、年少者には用いないということ)とは明確には断言しにくいこと(たとえば、年少者に対する敬語使用が中層・上層では多いこと、完全に上下関係によるものであれば年少者に対する敬語使用はもっと少ないはずである、敬語使用は階層が高くなるほどその率が高くなる傾向が顕著であること、女性の敬語使用率が男性よりも高いこと)などの傾向があるからである。すなわち、『浮世風呂』では階層の高い人物や女性における敬語使用率が高いのであって、年齢や身分の上下関係においては明確な傾向が出ないことから、上下関係に基づく敬語使用よりも、品格保持のために敬語が使用される傾向が顕著と考えられる。これは江戸市民の高い意識に基づくものと考えられる。この結果を数値化した上で、近日中に論文として公表すべく執筆にとりかかっている。