著者
小黒 章 佐藤 温重 福島 祥紘
出版者
明倫短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

特定病態下(骨粗鬆症,腎炎,糖尿病)ならびに日常よく用いられる薬剤ないし嗜好品(カフェイン,エタノール,ニコチン,アスピリン,ワルファリン)との併用経口投与時における,マウスへのNaF投与(5.26mM=100ppmF,10日間)に関して,飲水量,体重変化,血中フッ素濃度,骨髄幹細胞の非特異エステラーゼ,クロロアセテート・エステラーゼ発現,細胞表面抗原Mac-1,Gr-1,MOMA-2,F4/80の発現,また,細胞生存率,NBT還元能,LPS刺激によるNO産生(NO_2生成),LDH,β-glucuronidase, acid phosphatase(ACP)活性,貪食能,付着/浮遊細胞数比,核/細胞質比,ライト・ギムザ染色像,位相差像などの検索を行った.血中フッ素濃度は飲水中のフッ素により有意に上昇したが,LDH,β-glucuronidase, ACP活性を除く他のマーカーに顕著な変化を認めなかった.しかし,疾患動物における所見は不安定であった.マウス骨髄細胞を,1,25-dihydroxyvitamin D_3とNaF存在下において培養したところ,1,25-dihydroxyvitamin D_3ではなくNaF量に依存してMac-1,Gr-1,クロロアセテート・エステラーゼが発現し,非特異エステラーゼは影響されなかった.細胞生存率とNBT還元能は0.5mMにおいて損なわれ,NO産生,LDH,β-glucuronidase, ACP活性は0.2ないし0.6mMにおいて極大を示した.貪食能,付着/浮遊細胞数比,核/細胞質比,ライト・ギムザ染色像,位相差像には顕著な変化を認めなかった.In vivoでのNaFと薬物同時負荷,疾病罹患動物へのNaF負荷に際して,LDH,β-glucuronidase, ACP活性以外の上述の検査項目に差を見いだすことができない.疾病動物であっても,恒常性維持機能がNaF負荷に対応する結果と思われ,上述のようなin vitro実験によって先ず骨髄細胞分化の指向性を見い出し,しかる後,in vivo実験によって確定するのが確実のように見える.
著者
亀井 伸孝
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

コートジボワールで、ろう者コミュニティとともに、フランス語圏アフリカ手話(コートジボワール方言)の動画撮影・編集作業・英仏二言語への対訳作成を進め、主要語彙などを中心とした3,537件の動画のデータセットを完成させた。また、1970年代のフランス語圏アフリカにおけるろう教育の成立史を解明し、この手話言語の成立過程の一端を明らかにした。フランスにおける調査の中で、フランス語圏アフリカ手話をフランス手話やカナダのケベック手話などと比較する作業を通じ、世界のフランス語圏における手話言語分布の成立史の中に位置付けるという視点を得た。
著者
大塚 篤司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

皮膚のかゆみは末梢神経が介していることは広く知られている。しかし、最近の研究では末梢神経は免疫細胞との相互作用がみられ、皮膚アレルギー疾患での病態形成に関与している可能性があることがわかった。本研究課題では、皮膚アレルギー疾患における末梢神経の役割を検討した。その結果、末梢神経から放出される神経ペプチドは接触皮膚炎に関与していることが明らかとなった。
著者
柳原 直人 鈴木 夏夫 菅沢 深
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

この車椅子は先端に4個の車輪が付いた十字アームを用いる。この4個の車輪はスプロケットが取り付いており、これらはループ状のチェーンとスプロケットを取り付けたモータによって同時に駆動される。この車輪付き十字アーム機構は平地では車輪の回転によって走行し、車輪が前方には小型の車輪付き十字アームを先端に持った姿勢保持アームを取り付け、これにはキャスターが取り付けられている。この車椅子は車輪付き十字アーム機構の4個の車輪のうち接地している車輪が駆動輪となる。平地走行では駆動輪が取り付けられている十字アームを回転させ、左右各一輪を駆動輪として走行する。階段昇降時には姿勢保持アームに加わる荷重を減少させるために座席を駆動モータによって移動させ、車体の重心の位置を駆動輪に近づける。また、階段昇降では段差による高さの変動よって座席の角度が変化しないようにするため、姿勢保持アームの高さを調整する。車椅子の操作用のジョイスティックは、どのような利用者でも容易に操作できることを目標とし、複雑な操作を必要とせずに、平地走行モードと階段昇降モードの切り替えのみで運転できるシステムとした。この車椅子の走行実験の結果、けあげ高さ165mm、踏み面高さ320mmの階段を体重70kgの人が昇降した実験においては、一段あたりの上昇時間約3秒、降下時間約6秒で安定した昇降が可能であることが確かめられた。また、平地走行モードと階段昇降モードの切り替えが数秒で可能となり、この車椅子の技術は実用レベルまで到達したと判断している。
著者
小浜 正子 姚 毅 何 燕侠
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、上からの生殖コントロールの推進に対する中国の農村女性の対応を明らかにしようとしたものである。研究の結果、調査地の農村では、「一人っ子政策」開始以前の1970年代に生殖コントロールが急速に普及したが、これには出産・養育の負担にあえぐ女性たちが政府のキャンペーンに後押しされて、多子を望む家族を説得していった側面があることがわかった。政策は、リプロダクティブ・ライツの実現に対して、両義性を持っていたと言える。
著者
渡邉 敬逸
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

国会図書館に所蔵される電信電話総合地図は他の地図と比較して細密な地名(居住地名=集落名)が収録されているにもかかわらず、これまで十分に活用されてこなかったマイクロジオデータである。本研究では、集落を対象とする各種調査においてマクロスケールの分析に耐えうる均一かつ細密なスケールの集落データの不在であったことを踏まえて、電話総合地図を元データとする細密集落データの作成とその応用を通じて、集落を対象とする地理学的研究の研究基盤を確立することを目的とする。
著者
吉田 敦也
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究ではモバイルインターネット社会における成人ICTリテラシーの現状と国際的動向について調査研究を行い、地域ICTリーダー育成に効果的な学習プログラムと標準化を検討した。主な結果は、①日本の成人ICTリテラシー育成プログラムを5分類した。②全体的に高度IT人材育成を目標に技術指向が強い傾向にあった。③海外では国際連携の取組が多く人材育成の生態系が形成されていた。④ECDL/ICDLは実用性を特徴とし政策連携していた。⑤学習内容、教え方、「場」は急速に変化しておりイノベーション促進と社会課題解決強化の方向にあった。⑥これらから日本版ICTリテラシー形成モデル、学習プログラム、標準化を検討した。
著者
苣田 慎一 吉田 正雄 苅田 香苗
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

マイクロプラスチック(粒径5mm以下のプラスチック粒子。以下MP)の生態系への影響や、生物濃縮による人体への影響が懸念されているが、MP自体の生体毒性を評価する基礎的データはまだ少ない。一方で、疫学調査ではプラスチック由来の化学物質と肥満や糖尿病の発症について関与が示唆されている。本研究では、糖尿病、網膜症、白内障、腎症を示すメダカを用いて、MP摂取が代謝系や病態、生殖機能への修飾因子となり得るかを中心課題とする。本申請研究により、ヒトへの外挿可能性を吟味した上で、衛生学・公衆衛生学的に意義ある基礎的データを得られることができると考える。
著者
山口 範晃 駿河 和仁
出版者
長崎県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

ビタミンAは体脂肪量を調節する作用があることから、肥満の予防や治療に寄与できる可能性があるが、その一方でどの程度摂取すれば体脂肪量が減少するか、もしくは適正な体脂肪量が維持できるかは十分に決定づけられていない。また、ビタミンAによって体脂肪量が調節される機序についてもいくつか研究報告があるものの、まだ十分に解明されていない。本研究ではその機序を解明するにあたり、エネルギー代謝を調節する重要な因子であるAMP-activated protein kinase (AMPK)に着目し、ビタミンAによってAMPKシグナリングがどのように調節しているかを明らかにする。
著者
河野 仁 佐藤 文香 永岑 光恵 福浦 厚子 小野 圭司 岩田 英子 寺田 孝史
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、これまで日本で学術研究の対象とならなかった「大規模災害時の自衛官家族に対する社会的支援」の現状と課題を学際的かつ実証的に明らかにすることを目的として実施した。陸上自衛官とその家族を対象に、質問紙調査と面接調査を実施した結果、国連平和維持活動や東日本大震災等の比較的長期にわたる災害派遣活動時を経験した自衛官家族は、留守家族支援に関するニーズが比較的高く、災害時等における家族の安否確認体制の整備の重要性については多くが認める傾向にある反面、現実的にはまだ家族支援体制の整備が進んでおらず、近親者や友人等からの支援による自助努力が主体であり、「地域支援力」の形成が進んでいないことが判明した。
著者
佐藤 吉幸 西迫 大祐 箱田 徹 坂本 尚志 藤田 公二郎 相澤 伸依 武田 宙也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

今年度も、ミシェル・フーコーのコレージュ・ド・フランス講義の総体を明らかにするために、京都大学人文科学研究所の共同研究「フーコー研究:人文科学の再批判と新展開」と共同で以下の研究会を行い、研究成果を共有するとともに、最終年度に刊行予定の共同研究論集刊行のための予備作業として口頭発表を行った。2019年4月20日(発表者:ギャヴィン・ウォーカー「The Will to Strategy: Foucault's Interregnum, 1976-79」)、2019年5月18日、19日(発表者:市田良彦、布施哲、坂本尚志、小泉義之)、2019年6月15日(発表者:サンドロ・メッザードラ「Foucault and Marx in the Contemporary World: War, Governmentality and Beyond」)、2019年7月13、14日(発表者:前川真行、北垣 徹、小泉義之、松本潤一郎)、2019年9月28、29日(発表者:上尾真道、隠岐さや香、ニコラ・タジャン、立木康介)、2020年1月25日 公開国際シンポジウム「Critique et verite: de la parrhesia」(発表者:フィリップ・サボ、市田良彦)、1月26日 公開合評会「ドゥルーズ、フーコー、小泉の霊性」──小泉義之著『ドゥルーズの霊性』をめぐって」(発表者:市田良彦、廣瀬純、千葉雅也、応答者:小泉義之)、1月30日 公開セミナー「Verite et fiction selon Michel Foucault」(発表者:フィリップ・サボ、坂本尚志)。研究成果の中間報告として、『思想』2019年9月号、特集「未完のフーコー」を刊行した。また、研究代表者の佐藤吉幸は、今年度9月から3月にかけてフランスでの在外研究を行い、パリ第8大学、EHESSで研究と発表を行った。
著者
大島 勉 土肥 修司
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成14年度における研究成果は以下の通りである。1)経口麻酔前投薬としてのセロトニン1A受容体作動薬タンドスピロン:セロトニン1A受容体作動薬タンドスピロンを麻酔前投薬に用いることによって、鼓室形成術後の悪心嘔吐を抑制することが判明した。2)吃逆の系統発生学的起源:パリ、カルガリーの研究者と吃逆の系統発生学的起源について討論を行った。数多くの類似点を有することから、吃逆の系統発生学的起源は鰓呼吸であるという仮説を論文として作成した。この論文は雑誌BioEssaysに掲載された直後に雑誌New Scientistで紹介され、その後は英国BBC、オランダのテレビ放送などで取り上げられ、反響を呼んでいる。3)GABAの相反する吃逆への作用:ペントバルビタール麻酔ネコにおいて背側鼻咽頭部の機械的刺激による吃逆様反射がイソフルラン吸入によっていかなる影響を受けるかを検討した。GABA-A、GABA-B受容体の拮抗薬を中枢もしくは末梢投与することによって、イソフルランは吃逆様反射を中枢、末梢両方のGABA-A受容体を介して促進、GABA-B受容体を介して抑制することが判明した。この実験結果にかんしては、American Society of Anesthesiologistsの年次大会(オーランド)で発表し、現在論文投稿中である。4)全身麻酔導入時の咳、欠伸:日常の臨床において、フェンタニル静注による咳、チオペンタール静注による欠伸を免疫学的に検討した。前者はAmerica Society of Anesthesiologistsの年次大会(オーランド)、後者はAmerica Thoracic Society国際学会(シアトル)で発表し、今後、論文作成に向かう予定である。
著者
箱田 徹
出版者
天理大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1970年代前半のミシェル・フーコーの著作を「戦争」概念に注目して分析することで、後に展開される権力論と統治性論が、フランス「68年5月」後の政治・理論状況と密接な関係にあることを改めて明らかにするともに、フーコーの権力や統治についての後年の議論を、近代社会の政治的統治の類型論であることを超え、社会を変革する主体の生成という角度から読み直す手がかりが、この時期のフーコーの理論的歩みのなかにあることを明らかにした。
著者
皐月 玲子 寺師 浩人 橋川 和信 榊原 俊介 江尻 浩隆
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

銀粒子や銀イオンは細菌の増殖を抑制する、または殺菌効果がある事は古くから知られていた。近年では銀イオンを添加した外用薬や創傷被覆材が開発され、注目を集めているが、銀イオンが持つ細胞毒性により創傷治癒の阻害を示唆する報告もある。一方で本邦では細胞増殖因子(bFGF)を有効成分とする製剤も開発された。bFGF製剤と銀イオン製剤とを組み合わせた場合のこれらの相互作用についての知見は皆無である。われわれは塩化銀溶液およびbFGFを単独または併せて添加し、ヒト線維芽細胞を培養した。その結果、(1)低濃度での銀イオンは細胞増殖に影響を及ぼさないが、高濃度では細胞毒性を有する。(2) bFGFの付加は銀イオンによる細胞毒性を緩和する可能性がある。(3)銀イオンはbFGFになんらかの作用をするが、これらの相乗効果により細胞毒性は高められる。ことが示唆された。
著者
中田 登 星野 仁彦
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

クラリスロマイシン耐性肺MAC症に有効な薬剤の開発のため、肺MAC症患者由来クラリスロマイシン高度耐性のMAC株を用いて37種のアベルメクチン誘導体の効果を測定した結果、MAC41株全てに対して抗菌活性を示す誘導体5種を見出した。これら5種は、既存のマクロライドのターゲット部位である50SリボソームのDomeinⅤ2057-2059 部位ではなく、未知の分子を標的部位としていることが示唆された。これら5種の誘導体は細胞内のMACに対しても抗菌効果を発揮し、抗菌活性は既存のイベルメクチンよりも高いことが明らかとなった。
著者
塚田 岳大 後藤 勝
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本申請は、古くからの謎であるウナギの「血清毒」の解明に切り込む。この血清毒は、タンパク性で熱に弱く、摂取や接触により下痢、嘔吐、皮膚炎などの症状を引き起こすことが知られているが、毒の本体(遺伝子)はまだわかっていない。本研究の目的は、ウナギ血清毒を同定・単離し、その毒性を調べることにある。さらに、タンパク質X線結晶構造解析を組み込み、血清毒の立体構造から毒の作用機序を明らかにするとともに、他の生物種における血清毒遺伝子の探索を行い、魚類の血清毒の進化的意義を考察する。
著者
小松 義典 足立 伸樹 辻 浩彰 酒井 悠介
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

全国に4万店を超えるコンビニエンスストアが分布し, 多くの店舗が店内に設置されたトイレを24時間開放している。こうしたトイレの公共的利用が進んでいる現状に対して, トイレの施設計画や日常の維持管理計画は個々の店舗に委ねられている。本研究では, これらの計画を支援することを目的として利用実態の調査を行った。調査の結果, 一日の利用人数, 一時間の最大利用人数, 来店者の属性とトイレ利用率の関係等を明らかにした。
著者
長嶋 比呂志 梅山 一大
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は糖尿病およびその合併症研究に適した病態モデルブタを開発することである。我々は若年発症成人型糖尿病3型の原因遺伝子である変異型ヒトHNF-1αP291fsinsC遺伝子を導入した遺伝子組換え(Tg)ブタを樹立した。このTgブタは恒常的な高血糖(>200 mg/dl)を維持し、経口糖負荷試験でも糖尿病の特徴を示した。病理組織学的には膵臓ランゲルハンス島の形成不全、ヒト糖尿病性腎症で確認される結節性病変、糖尿病性網膜症で確認される網膜出血と綿花状白斑が確認された。これらの結果から、このTgブタは有望な糖尿病およびその合併症モデルになると考えられる。
著者
上間 陽子
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本調査研究は、沖縄県において、10代で子どもを出産した女性に対して、その選択に至った理由や背景を、インタビューによって聞き取ることを企図してなされた調査である。聞き取りにおいては、彼女たちの学校体験、ピアグループの有無・形成過程、定位家族、生殖家族の状況、本人の自己アイデンティティの形態について聞き取りをすすめるものである。初年度である一昨年の実施においては、10代の女性と、20代の女性では、世代的な違いがみられており、それはコミュニティ形成の仕方と、それを裏付けるように学校体験の差異というものが少なからず影響を与えているように思われた。初年度は49名の方から聞き取りを実施することができたが、二年目を迎える昨年度はあらたに16名の方から聞き取りをすすめ、現時点で、聞き取りデータ数は65名となっており調査の進行としてはまずまずだと思う。今年度までの65名のデータから明らかになったのは、出産に至るまでと出産後の状況の厳しさに、原母との関係とピアグループとの関係があるということである。また、出産によって原母との関係が変容しているケースがあり、その点に、彼女たちが出産を積極的に進めたい多くの理由が集中している。またピアグループの形成が学校・地元規定的なのか否かが、出産後の状態にかなり影響をあたえている、ということである。今年獲得予定のデータ獲得数は15名になるが、80のデータをベースにして整理をすすめたい。今年度のデータでは、支援を受けている女性が幾人か追加されているが、支援系の暴力も告発されている。その点について、どうしてそうした暴力がおこるのかについても、一定のデータを蓄積することができた。なお、こうしたデータの性質上、法曹界並びに医療従事者との連携も増えており、それゆえ多忙を極めることになったが、最終年度においても、こうした連携を進めながら、データの獲得にあたりたい。
著者
舩橋 利也 美津島 大
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、申請代表者の「内分泌撹乱物質は、ノン・エストロジェニック中枢作用により、特に前頭葉機能に影響を及ぼし、学習獲得能力を障害する」という仮説を検証するために行った。卵巣摘除成熟ラットに、40mg/kgのビスフェノールA(BPA)、ノニルフェノール(NP)、もしくはオクチルフェノール(OP)を投与して24時間後に、PR mRNA発現量が変化するか否か、ノーザンブロットにより検討した。その結果、前頭葉新皮質ではBPA、NPおよびOP投与によりPR mRNAの発現が有意に増加した。さらに、側頭葉新皮質ではBPAのみがPR mRNAの発現を有意に低下させた。頭頂葉新皮質ではいずれの内分泌撹乱物質も有意な変化を惹起しなかった。BPAの作用の時間経過を検討した結果、前頭葉新皮質のPR mRNA発現はBPA投与6時間後の時点で既に有意に増加し、24時間後の時点でも、発現量は有意に増加していた。エストロジェンもBPAと同様に前頭葉新皮質のPR mRNA発現を有意に増加させたが、その効果は一過性で、24時間後には、もとのレベルまで減少することが明らかとなった。BPAは、後頭葉のPR mRNA発現には影響を及ぼさなかったが、側頭葉では時間経過とともに有意な減少、海馬では24時間後においてのみ有意な増加を惹起した。これらのことから、エストロジェンと異なり、前頭葉新皮質では、内分泌撹乱物質の影響が長期間残存することが、エストロジェン作用との異同であり、また、記憶・学習に関与する海馬に内分泌撹乱物質がなんらかの影響を及ぼすことが明らかとなった。