著者
工藤 隆司 木村 太 二階堂 義和 竹川 大貴 冨田 哲
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

うつ病は自殺、就労不能などの社会的損失が莫大であり、さらに3割が治療抵抗性を示すなど、非常に大きな問題となっている。近年、麻酔薬ケタミンのうつ病への効果が報告され、2019年5月よりアメリカ食品医薬品局でうつ病への使用が認可された。しかしその作用機序が不明であり、長期使用による有害事象が懸念されている。そこで、本研究ではケタミンの抗うつ作用を解明すべく、難治性うつ病患者へのケタミン投与前後のうつ病評価および作用機序に関連している可能性がある各種候補バイオマーカー測定、比較し、その結果からケタミンの抗うつ作用機序解明に迫る。
著者
藤田 隆則
出版者
京都市立芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

能の謡の楽譜には、テクストの横に「節」あるいは「胡麻点」と呼ばれる記号がつく。われわれは、その記号が、音の高さや長さを明示していると期待するが、その期待はうらぎられる。高さや長さについて有益な情報を与えるのは胡麻点ではなく、それ以外のさまざまな指示語である。にもかかわらず、胡麻点は謡の楽譜には必要不可欠である。それは胡麻点が、謡のテクストのシラブル数を明確に示してくれるからだ。シラブル数の情報は、謡のような、音数律の変化を基本とする音楽にとっては必要不可欠である。また、胡麻点のかたちは、しばしば手などで身体的になぞられる。それは、旋律をひとつの身ぶりとしてとらえるための補助道具として機能する。
著者
井口 洋夫 鈴木 修吾 中原 祐典 市村 憲司 薬師 久弥 緒方 啓典
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9年度においては、水素を含む3成分系有機超伝導体(Na-H-C_<60>)の試料合成において、超伝導を示す試料と超伝導を示さない試料ができてしまうが、超伝導を示さない試料を超伝導試料に変換する方法を確立した。また、超伝導相及び非超伝導相の構造をリートベルト解析により明らかにした。さらに、Na-H-C_<60>が水素ガス、重水素ガス、ヘリウムガスなどを吸蔵することを見出し、それを特許として出願した。平成10年度においては、超伝導相に対してリートベルト解析から得られた原子座標を使って電子状態の計算を行い、水素は単なるスぺーサーではなくその原子上にも伝導電子が存在し、系全体の電子状態(特に、超伝導性)に関与していることを明らかにした。さらに、この3成分系の範囲を広げて、K-H-C_<60>及びNa-NH_2-C_<60>の有機超伝導体を作成した。(KH)_3C_<60>はK_3C_<60>よりも大きな格子定数をもち、昇温脱離、^1H NMRの実験から水素が格子の中に含まれていることを確認した。さらに興味ある結果として、(NaH)_<4-x>(KH)_xC_<60>(x=0.1,0.5,1,2 and 3)も超伝導を示す上、きわめて安定な超伝導体を作ることを見い出した。これによって、水素を含む3成分系有機超伝導体を大量に作ることが可能になり、水素の存在及び挙動の解析するための中性子回折の実験の準備が整い、今後の本研究の発展に大きな進展をみることができると判断している。これらの結果は水素還元によって異常な伝導性を示す嫌気性電子伝導物質シトクロムc_3(分子量13,955)の電導機構の解明に役立つと判断し、その研究を続行している。
著者
吉尾 寛 堀 美菜 松浦 章
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

①代表者吉尾寛が、昨年度研究協力者公文豪氏(高知近代史研究会会長)との調査、又土佐清水郷土史研究会の支援を得て見出すにいたった、当該の漁民の出身地就中高知県土佐清水市(松尾等)ならびに同黒潮町の複数の当事者・遺族に対して、2018年6月(2度)、7月、2019年1月に聞き取り調査を行った。その中で、南方澳出生を確認できる戸籍謄本など本テーマに直結する資料(PDF)を把握するとともに、当地で生まれ現在も当時の事情を具体的に語っていただける方(1名)に辿り着いた。そこで得た情報は、昨年訪問した南方澳郷土史家から聞いた内容と符号するものであり(沖縄漁民の雇用等)、加えて、居住地(一戸建てと集合住宅)の位置、移住した婦人の副業(鰹節工場での労働等)、原住民(「生蕃」)との関わり、当時南方澳に在った日本軍兵営の関係者との交流、米軍の空襲下の状況、日本への「引き揚げ」等に関する新たな事実であった。そして、それらは他の高知県関係者の話と基本的に合致するものであった。②2018年8月台湾側の研究協力者台湾海洋大学卞鳳圭教授と、宜蘭大学の教授(漁業史)の協力を得て南方澳を再訪した。前年同様当地の郷土史家(南方澳 商圏発展協会理事長兼南方澳文史工作室・三剛鉄工廠文物館長、元南興社区発展協会理事長)に対して、上記②の高知県側の調査内容を紹介した。今年度は、高知県での調査に対応する形で、南方澳の側で当時の日本人漁民に関して記憶のある方(1名)が紹介され、始めて聞き取りを行った。蘇澳鎮に在った小学校の事、鰹節工場の位置等の情報を得た。吉尾は当日から翌日にかけて南方澳のほぼ全市街地街を踏査した。③本年度は代表者、分担者、研究協力者がそれぞれ本テーマの直接的な研究成果を発表することができた。
著者
野坂 俊夫
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

南西インド洋海嶺のアトランティス・バンクにおいてIODP 第360次航海で掘削されたHole U1473Aから採取された斑れい岩類と,高知コア研究センターに保管してあったODP Hole 735Bのコア試料の一部について,研究期間内に計画していた分析のほとんどを完了した。今年度は補足的な顕微鏡観察,電子線マイクロアナライザー分析,レーザーラマン分光分析,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析を行った。特に電子線マイクロアナライザー分析とレーザーラマン分光分析の結果から,黒雲母と緑泥石混合層の存在を確定することができ,この混合層が広範囲にわたって生じていることが明らかになった。さらにコンピューターによる熱力学的解析を行い,黒雲母と緑泥石,および両者の混合層の生成条件を求めた結果,それらの鉱物はほぼ同程度の温度条件(700℃前後)で,シリカとカリウムの濃度の異なる流体が関与する変質作用によって生じたことが推定された。黒雲母とそれを含む混合層の形成は剪断帯や割れ目に沿って浸透した珪長質含水メルトと関連しており,そのようなメルトの浸透は超低速拡大海嶺周辺の海洋下部地殻に特徴的な現象である可能性が高い。以上の研究成果は,海洋下部地殻における水と岩石の相互作用を理解するうえで重要な新知見を提供するものである。この成果は日本鉱物科学会で発表し,論文にまとめて国際学術誌に投稿した。また現世の海洋リソスフェアと比較するために,過去の海洋リソスフェアであるオフィオライトの低温変質作用,特に蛇紋岩化作用についても並行して研究を進めてきた。その結果,蛇紋岩化作用に伴ってかんらん石の鉄とマンガンの含有量が系統的に変化すること,およびモンチセリかんらん石を生じる場合があることを明らかにした。これらも海洋底構成岩の変質作用に関わる重要な新知見であり,国内学会と国際学術誌上で発表した。
著者
吉村 利夫 藤岡 留美子
出版者
福岡女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、紙おむつなどに含まれる高分子吸収材を分離・回収した後に、新品に匹敵する高い吸収性を有するものに再生するための基本技術を確立することである。少量ではあるが、紙おむつのリサイクル工場が稼働し始めている。しかし、現在のところ材料として再利用できているのはパルプのみであり、高分子吸収材やプラスチック類は固形燃料として燃やされている。高分子吸収材の離水メカニズムを明らかにすることで、効率的な水分除去の方法が確立できる。これまでの検討の結果、浸透圧を利用した離水が有効であることが明らかとなった。また、水酸化カリウムを用いることで高分子吸収材の再生が可能であることが判明した。
著者
登谷 伸宏
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では、織豊系城下町の形成過程と歴史的特質を明らかにするため、織豊政権が建設した城下町に注目し、その空間・社会構造について検討を進めている。平成30年度は、①昨年度から検討を進めていた小浜城下町の形成過程について、さらなる史料の収集を行うとともに、論文の執筆に着手すること、②織豊系城下町の空間・社会構造の特徴を見極めるため、戦国期末から近世初頭に各地で建設された構・惣構に囲繞された都市の空間・社会構造を明らかにすること、③織豊系城下町形成に関する研究支援データベースの構築を継続的に進めることを計画していた。以上の研究目的・計画にもとづき、当該年度は具体的につぎの2つの作業を行った。第1が、小浜城下町の形成過程をより具体的に検討し、大まかな流れを把握することである。具体的には、港町小浜が若狭武田氏の城下町として位置づけられた大永2年(1522)頃から慶長6年(1601)の京極氏による小浜城築城までに、いかなる都市形成が進められたのかを、先行研究でも注目されている「小路」名のつく街路、および寺社の移動という視点から改めて整理し直した。また、小浜城下町は、織田信長の重臣であった丹羽長秀により改変が行われたものの、長秀自身は近江国の佐和山城を拠点としており日常的に小浜にはいなかったという点を重視し、信長の家臣団の建設した城下町のうち、同様の条件を持つ事例との比較検討も行った。以上の結果については、論文として執筆し始めている。第2が、織豊系城下町の空間・社会構造の特徴を明らかにするため、構・惣構といった防御施設により囲繞された都市を比較対象としてえらび、その空間・社会構造を解明することである。具体的には、京都近郊の吉田社・醍醐寺という権門寺社を対象として分析を行い、いずれも境内・伽藍中心部を囲繞する構、門前集落全体を囲う構という二重の構を形成していたことを明らかにした。
著者
三舟 隆之
出版者
東京医療保健大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本の古代寺院の伽藍配置については、従来古代の仏教観を表しているとされてきたが、地方寺院の伽藍配置を見ると金堂だけの寺院も多く、定型化していない。朝鮮半島では古代寺院の伽藍配置は定型化した形式で、王権が寺院を造営する技術を把握していたことが判明する。しかし日本では寺院の伽藍配置は多様であり、とくに地方寺院では規格性に欠け、畿内から離れた地域では、地方寺院はさまざまな技術が用いられ、そこに仏教の教義を見出すのは困難であり、畿内寺院の伽藍配置を意識しながらも、地方独自な伽藍配置も採用されている。日本古代の地方寺院は、ある程度規制されず自由なプランで造営されていたと考えられる。
著者
高橋 英也 江村 健介
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、「ラ抜き言葉」や「レ足す言葉」、岩手県宮古市方言で用いられる能力可能形式「エ足す言葉(例:読めえる)」といった、日本語の可能動詞の形式に見られる「方言多様性」と、それを実現させる日本語母語話者の「文法知識の獲得」を、日本語の膠着性の理論的定式化という観点から考察する。特に、語彙の形態分解と文法構造の階層性の間に一定の対応関係が存在することを標榜する分散形態論(Marantz 1997他)の枠組みを用いて、日本語の可能動詞化を具現するラレ/rare/が2つの独立した形態素(r)arとeに分解されるとの作業仮説に立脚し、可能動詞の諸相に広く目を配った、多角的かつ統合的な研究を実施する。
著者
和泉 秀彦
出版者
名古屋学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

精白米を酸性溶液に浸漬させることで、低アレルゲン米を作製した。また、その低アレルゲン米中のアレルゲンの消化性は向上していたが、難消化性タンパク質であるプロラミンの消化性は変化していなかった。
著者
青柳 将 栗田 僚二
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

脂質ナノチューブと集電体のナノ炭素材料の複合化を検討して、複合体上での酵素反応を電気化学測定により評価した。また脂質ナノチューブの代わりにアミノ基含有高分子を電極表面に塗布して、その効果を検討した。その結果、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)を使用したカソード反応には電流値が増大する効果が確認されたが、フルクトースデヒドロゲナーゼを用いたアノード反応には電流値が減少した。さらに集電体のナノ炭素材料の種類や表面官能基についてそれぞれ検討を行った。また、高耐久性の人工耐熱性BODについても検討行ったところ、キトサンの添加により大きな電流地を得た。
著者
石黒 久仁子
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、日本企業における女性の活躍に対する政策とインプリケーションを得ることを目的に、デンマーク、ノルウエー等北欧諸国を中心とした国々のジェンダー平等と女性のキャリア形成の事例を分析・比較した。調査から、北欧諸国において女性は1900代初頭から男女平等の権利を有していたことに加え、経済成長に伴う労働力不足を補う女性の労働力化促進のために出産・育児に対するサポート政策を積極的に推進し、現在では政府・企業・個人そして社会間でジェンダー平等のコンセンサスが形成され、男女共にワーク・ライフ・バランスを実現できる社会づくりの基礎となり、女性が企業の重要な戦力として活躍していることが明らかになった。
著者
吉田 竜介
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、①様々な苦味物質に対する応答プロファイルによりマウス苦味受容細胞が幾つかのタイプに分類されること、②茸状、有郭乳頭間でこれら苦味細胞の応答プロファイルに差がないこと、③これら細胞での苦味受容にはgustducin-PLCβ2-TRPM5を介する伝達経路が重要であること、④ヒト苦味受容体阻害剤がマウスの苦味応答には影響を与えないこと、⑤CCKが苦味受容細胞から味神経線維への情報伝達に関与する可能性を示した。これらにより、味細胞における苦味受容機構について明らかとし、末梢における苦味情報の伝達及びコーディングについての知見を得た。
著者
野呂 徳治
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は,第二言語(外国語)を用いて自発的にコミュニケーションを行おうとする意志(L2WTC)と外国語学習不安(FLA)が,どのような相互作用のもとで,どのように生起・変動し,それが学習者の言語使用にどのような影響を与えるのかについて,特に,力学系理論(DST)をその理論的基盤として明らかにすることを目的とするものである。研究4年目となる平成30年度は, L2WTCとFLAの相互作用に関して,本研究で概念構成を行い,それに基づいて仮設構成概念モデルとして構築したL2WTC-FLAアトラクター(attractor)モデルに基づいて,人間のパーソナリティの発達をとらえる際の時間尺度としてDSTにおいて提案されている3つの時間尺度であるミクロ発達(microdevelopment),メソ発達(mesodevelopment),マクロ発達(macrodevelopment)に従って,L2WTC-外国語学習不安アトラクターがどのような相転移を経て,どのようなアトラクター状態に至るのかについて探索的に解明することを目標とした。英語圏における短期,長期留学経験のある日本人大学生を対象に質問紙調査並びにインタビューを実施し,そのデータを分析した。その結果,短期留学経験者は,留学期間中に,L2WTC-FLAアトラクターの相転移が短い周期で,極端な変動を報告し,ミクロ発達からメソ発達が生起していること,一方,長期留学経験者の報告からは,滞在期間が長くなるにつれて,アトラクター相転移の周期も長くなり,その変動幅も縮小する傾向がうかがわれ,マクロ発達の生起が示唆された。さらに,短期,長期留学経験者とも,会話場面における認知的及び情意的な対処方略の使用の有無が,L2WTC-FLAアトラクターの相転移及びアトラクター状態に影響を与える媒介規定要因の一つとなっている可能性が示された。
著者
大西 千絵 森嶋 輝也
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

カウフマンのNKモデルと本研究で策定するモデルの違いは、NKモデルのパラメーターが任意に決定されているのに対し、本モデルのパラメーターは現実の経済活動に基づいて決定される点にある。農業の連携相手/部門について、業種、商品名、単価とその単位、販売数量、期間売上、その商品を作るのに関わった連携相手/部門からプレミアムPiを求めると(論文投稿中につきPiの計算式は非公開)、連携相手の数がnの時,Pi×(n-1)が6次産業化の相乗効果であることを明らかにした。さらに、連携関係がxの時のすべての連携相手のPiから求めた総合利得Gxは、連携関係がxの時の売上額Sxとべき乗の関係であることを明らかにした。
著者
藤坂 志帆 戸辺 一之 薄井 勲
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

肥満や便秘の治療に用いる漢方薬である防風通聖散が抗肥満作用を示すメカニズムとしては従来、褐色脂肪組織の活性化による基礎代謝の亢進が示唆されていた。前年度の研究において我々は、高脂肪食負荷マウスにおいて、防風通聖散が腸内細菌叢を変化させ、とくにAkkermansiaといわれる細菌の増加により肥満により低下した腸管のバリア機能が回復することを見出していた。その結果、肥満した個体の腸内細菌由来エンドトキシンが血中に流入した高エンドトキシン血症が軽減し、慢性炎症や糖代謝が改善することがわかった。その他のメカニズムとして、菌叢の変化が腸内細菌由来代謝産物を変化させて代謝改善に寄与するのではないかと考え、防風通聖散投与マウス糞便の標的メタボローム解析を行った。しかし短鎖脂肪酸などの代表的腸内細菌由来代謝産物については変化がなかった。防風通聖散による糖代謝の改善は、腸管バリア機能の回復による高エンドトキシン血症の軽減とそれに伴う慢性炎症の改善によると結論づけ、現在論文を作成している。近年、すでに上市されている様々な薬剤が腸内細菌組成に変化を与えることが報告されている。本研究もこれまで臨床利用されていた薬剤の腸内細菌叢を介した代謝への作用を明らかにしたものである。このような薬剤の多面的作用を理解することは、病態に合わせた治療薬選択に広がりを与え、様々な疾患の領域においても応用しうる有意義な発見であったと考えらえる。
著者
前田 富士男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の根本的な課題は、「歴史記述(Histriographie)」の現代的可能性の追究にある。具体的には4つの研究課題を提起した。すなわち、アナクロニズム論、ハプティク(内触覚)問題、モニスムス的自然観、グノーシス的存在論である。2018年度は、10月から、5件の研究会・シンポジウム参加、講演を行った。年度当初より、そのための一次資料ならびに研究史の収集と把握を目指し、また2019年2月には、私費(助成費年度予算執行済みのため)にてドイツ・ミュンヘンの美術史中央研究所、またヴァイマルのゲーテ・シラー・アルヒーフほかで、資料調査を行った。ほかに年度当初から秋季にかけて、申請者の研究の今後のオープンな状況の基盤をなすドイツ語論文を作成した。上記5件の研究会・講演とは、アナクロニズムに関して1.「近代美術における<旅>の非・神話化」(慶應義塾大学アート・センター、2018年10月、慶大)、モニスムス的自然科学に関して2.「建築の時間と彫刻の物語――美術の歴史とゲーテ」(ゲーテ自然科学の集い、同11月、慶大)、および3.「ゲーテの鉱物学と C.G.カールスの地景画」(形の文化会、同11月、秋田大)、4.「大地(Land)の芸術学」(慶應義塾大学教養研究センター、2019年1月、慶大)、そしてグノーシスとプロテスタンティズムに関して5.「20世紀美術のモダニズムとエキュメニズム」(明治学院大学言語文化研究所、2018年12月、明学大)である。助成費のもとで、順調に多くの成果をあげることができた。とくに上記5のモダニズム美術とプロテスタンティズムに関する講演と論文(2019年3月)は、わが国ではほとんど着手されてこなかった問題圏の追究を開拓する貢献となった。
著者
服部 伸
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ホメオパシー家庭医学書の分析からは、疾病の解説では新しい科学的医学の知見を反映した改訂が繰り返された面、治療法自体についてはかたくなに伝統的な方法が維持されていたことがわかる。ホメオパシー信奉者が利用していた治療マニュアルは、社会の変化や科学的医学の進歩がある程度反映されている。ホメオパシーがもつ固有の身体観や疾病観は、科学的医学の身体観や疾病観とは相容れないものであったが、『ホメオパシー教本』のような家庭医学書のレベルでも、科学的医学的な説明がなされていたのである。
著者
栗原 岳史
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は,1950年代初頭から1960年代にかけて,米国政府が日本の学術的な科学研究に対して行っていた研究資金の支援の実態について,公開された米公文書史料を利用した実証的な歴史研究として明らかにすることを目的とする.冷戦期において,米国が科学研究を振興するために日本を含む主要国に対して研究資金の支援を行ってきたことがことが明らかになっているが,本研究は,米政府諸機関,特に国務省と軍関係諸機関等が,日本の科学研究に対して,どのような目的で,どのくらいの規模で研究資金の支援を行っていたのか,それに対して日本側がどのような対応をしていたのかについて,その実態を明らかにするものである.
著者
小野寺 淳 渡辺 英夫 吉田 敏弘 岩鼻 通明
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1.出羽国絵図・陸奥国絵図の所在調査と写真撮影東北地方の所蔵機関のみならず,現存の可能性がある機関でも調査を行い,出羽国絵図160点,陸奥国絵図164点の所在を確認した。このうち今年度は弘前市立図書館所蔵の津軽領国絵図の撮影を実施したほか,東北歴史博物館,宮城県図書館,国立公文書館所蔵の国絵図の写真版なども収集した。2.現存国絵図の年代推定とデータベースの作成国絵図の原本調査を行い,環境・景観復原を行うために不可欠な絵図の作成年代を推定し,出羽・陸奥国絵図の所在データベースを作成した。さらに,本研究の目的には含めていなかったが,撮影した国絵図の画像データベースの作成も進め,一部完成している。3.環境・景観変化の復原作業画像処理によって正保・元禄国絵図の図形の歪みを修正し,さらに現況の図形に変形した上で,東北地方の平野部について,明治後期測量の旧5万分の1地形図をベースにした正保または元禄期の環境・景観の復原作業を実施した。その一部を報告書に掲載したが,いずれ何らかの方法で公開していきたい。