著者
清水 由文
出版者
桃山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

アイルランドにおける家族研究は1930年代に西部アイルランドであるクレア州でアレンスパークと,キンポールによりはじめて調査されたのであり、彼らは機能主義からアイルランドの直系家族の存在を明,かにした。その後、ギボンとカーティンにより1970年代に1911年センサス原簿を利用した直系家族研究が本格的に開始された。そして現在ではアイルランド家族研究には19世紀中期以降2O世紀初頭にかけて直系家族が成立し、1950年以降の商品化の浸透とともに直系家族の解体と核家族への変動という理論的枠組から理解するパラダイムが現在定着している。本研究の研究課題はそのような研究史を踏まえたうえで、19O1年と1911年のセンサス原簿を史料として2O世紀初頭においてアイルランドにおける直系家族の存在の確認をすることである。直系家族の研究枠組みとして家族規範要因と家族状況要因から明かにした。そのような枠組みに基づいて、調査地として北西アイルランドにあるドニゴール州ラージイモアと南部アイルランドにあるテッペラリー州クロヒーンを選定し、家族分析を行った。とくに本研究は1901年と1911年センサス原簿を連結させて分析したことに特徴がある。ラージイモアは貧困地域、クロヒーンは比較的恵まれている地域というよう経済的にコントラストのある両地区で家族分析をおこなった。その結果、両地域ともに単純家族世帯が支配的形態であるものの、直系家族を含む拡大家族が存在し、それが家族規範として構造化されているものと判断された。しかもラージイモアでは本来の直系家族と水平的拡大家族の2つのタイプが顕在化しているが、クロヒーンで水平的拡大よりも垂直内拡大である直系家族タイプが優位であるという違いが明確に認められたのである。
著者
石井 克幸
出版者
国立感染症研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ヒトパピローマウイルス(HPV)はエンヴェロープの無い小型DNAウイルスである。キャプシドはL1とL2から構成される。本研究ではHPV感染の初期過程に重要な役割を果たすL2と特異的に相互作用する宿主蛋白質を同定し、この相互作用に依存したHPV感染の分子機構の解明を試みた。L2に特異的に相互作用する細胞内蛋白質Transport protein particle complex subunit 8 (TRAPPC8)を同定した。このTRAPPC8はHPVの細胞内侵入に必須な蛋白質であることが分かった。ただし、この侵入機構にL2-TRAPPC8相互作用は無関係であった。一方、L2はゴルジ体を特異的に分散することが明らかとなり、この分散はTRAPPC8ノックダウン細胞のそれと酷似していた。HPVはL1キャプシドを介したTRAPPC8に依存したエンドサイトーシス機構を利用して細胞内に侵入した後、L2がTRAPPC8の機能を阻害し、感染を成功させると推察された。このL2によるTRAPPC8の機能阻害はウイルスゲノムがトランスゴルジネットワーク(TGN)から脱出する機構に重要な役割を果たすと考えられた。
著者
保坂 裕興 下重 直樹
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

「公文書管理法」は、公的団体にレコードスケジュール、管理状況報告、特定歴史公文書とその利用請求権、公文書管理委員会等の基本構成をもたらしたが、民主主義の根幹を支える知的資源プログラムとしては必ずしも進展・充実をみていない。本研究は、国内外の主な記録アーカイブズ・プログラムがどのように構築され、その目的達成が検証されているかを調査・分析評価するとともに、アーキビストがどのような能力を持つものとして養成されているかについて諸外国の事例を分析評価することを通して、表裏一体となるプログラムと専門職のあり方を正面から捉え、その有効なあり方についての知識を学術的に集積し、情報政策に提案・反映することを企図する。
著者
大沼 保昭 能登路 雅子 渡辺 浩 油井 大三郎 新田 一郎 遠藤 泰生 西垣 通
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.この2年間の研究活動の成果は、主題に関わる分野の広汎さに対応して極めて多岐にわたるが、その主要な部分は、およそ以下のように要約することができる。2.(1)「国際公共価値」の中核におかれてきた「人権」に対する評価の持つ政治的・文化的バイアスを相対化して議論の可能性を担保するための方法を供給する視点としての「文際的」視点が提示された。(2)(1)の「文際的」視点を踏まえて、「公共性」という概念の多面的な解析が試みられた。J.ハーバーマスの著作の読解を出発点として、ハーバーマスの議論が持つ特殊西欧近代的な性質と、そうした特殊性を超えて普遍的に展開されうる可能性とを、批判的に弁別する必要性が指摘された。(3)(2)の指摘をうけて、「公共性」概念の持つ普遍化可能性を測定するために、中国・日本など非欧米の伝統社会における「公」「おおやけ」観念との比較研究を行った。その結果、「普遍」的形式への志向性こそが、西欧近代文明の持つ特殊性としての重要な意味を持つ、との見通しが得られた。(4)以上のような研究を通じて、「文化帝国主義」という概念の持つ問題点が明らかとなった。アメリカを中心とした欧米文化の「世界化」は、単に政治的経済的な比較優位に基づく偶有的な現象ではなく、欧米文化が持つ「普遍」という形式が重要な意味を持つ。この「普遍」という形式の持つ特殊性の解明が、重要な課題として認識された。(5)例えば「法」は「普遍」という形式を持つが、「法による規律」は必ずしも普遍的な方式ではない。そうした点を踏まえたうえでの、真に普遍性を持ちうる「国際法」概念の再構築の必要性が指摘された。3.2年間にわたる協同研究は、多くの成果を収めた一方で、多くの新しい課題を発見した。新たに発見された課題については、引き続き研究を進めてゆきたい。
著者
音喜多 信博
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度においては、本研究課題全体への導入として、哲学的人間学に見られる階層理論のアリストテレス主義的な特徴を総体的に整理する研究をおこなった。本年度は、とくにシェーラーとメルロ=ポンティについて考察をおこなった。アリストテレスの『魂について』においては、魂の三つの能力が論理的な階層性を成すものとして区分されているが、それに比することができるようなかたちで、シェーラーとメルロ=ポンティにおいては生物の心的機能についての一種の階層理論が見られる。シェーラーは『宇宙における人間の地位』(1928)において、「感受衝迫」から「実践的知能」まで、生物の心的機能を四段階の階層性において捉えていた。そのうえで、人間の「精神」は、このような他の生物と共有する心的機能を前提としながらも、環世界の拘束を越える「世界開放的」な自由を獲得すると述べている。メルロ=ポンティは『行動の構造』(1942)において、シェーラーの「世界開放性」概念に大きな影響を受けながらも、その宇宙論的な含意は切り捨て、生物の行動形態を「癒合的形態、可換的形態、シンボル的形態」という三つの階層に区分して、それらを現象学的に分析している。本研究の結果、以下のようなことが明らかとなった。上記の思想家たちの階層理論においては、階層の上位のものは下位のものの存在を不可欠の前提としているとともに、下位のものは上位のものにその部分として取り込まれ、その自律性を失っているというように、諸々の層は「統合」的関係にあるものと構想されている。そして、その統合の向かう方向性は、人間の行動や認識の自由の拡大という規範的なものであることが窺われる。このような考え方は、人間の精神の機能をもっぱら理性に見出すデカルト的心身二元論に対するアンチテーゼであるとともに、人間のあり方を純粋に生物学的に説明しようとする生物学主義とも一線を画すものである。
著者
小林 理恵 原田 萌香 笠岡 宜代 友竹 浩之
出版者
東京家政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

災害時における食物アレルギー患者は栄養不足やアレルギー症状の面で致死的状態になる可能性が非常に高い。3年計画の初年度である2018年度は食物アレルギー患者の災害食支援に「パッククッキング法」を活用するために,熱源と飲用水が制限される状況を想定し,炊き出し料理の中でアレルゲン除去食をパッククッキングした際のアレルゲン混入の実際を明らかにすることに取り組んだ。東日本大震災において提供された頻度の高いアレルゲン食品(小麦、乳、卵)を使用し,パッククッキング法の利用が想定できる炊き出しメニューとして「シチュー」を抽出した。炊き出しシチューの中で,ご飯とアレルゲン除去シチューをパッククッキングした。この時,ポリ袋は1枚及び2枚重ねの2条件で比較した。調理品は凍結乾燥後,専用ミルにて粉末試料とした。検査対象アレルゲンはグリアジン,β-ラクトグロブリン,オボアルブミンとし,アレルゲンアイELISA IIのプロトコルに従いスクリーニング試験を行った。この時,8点での検量線の直線性はr=0.9以上を条件とした。アレルゲン除去食における各アレルゲンの検査結果はポリ袋の使用枚数に関わらず10μg / g以下であり,アレルゲン混入は認められなかった。すなわちパッククッキング法を用いることにより,炊き出しシチューの中で上記の各アレルゲンフリーのシチューとご飯を調製することは可能であり,この方法は自助・共助・公助のいずれの場面でも応用可能と考える。しかし,粘度の高い炊き出しシチューの中でパッククッキングを実施すると,炊き出しシチューがポリ袋に付着する。実験過程では注意を払いポリ袋内部からアレルゲン除去食試料を採取したが,災害時には同様の配慮は期待できず,調理後の開封時にポリ袋に付着したアレルゲンが混入するリスクが高い。これを回避するためには,ポリ袋を2重使用することが望ましいと考える。
著者
井上 幹生 末國 仙理 藤田 知功 福家 柔 奥谷 孝弘 後藤 将太 阿部 博文 市守 大介 篠原 拓馬
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、天然林と人工林から成るパッチモザイク構造とサケ科渓流魚個体群の時空間的動態との関係を水系スケールで検討した。サケ科魚類の産卵場所は水系内で極めて不均一に分布するが、孵化した当歳魚の移動分散によって均一化がおこり、そのことが水系全体の効率的利用に帰結することが示された。その過程において、天然林パッチは当歳魚の初期成長を高める場として機能することが示唆された。
著者
佐藤 文彦
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究ではベルリンを舞台にした両大戦間期ドイツ児童文学をもとに、モダン都市ベルリンと子どもの関係性について考察した。その結果、新聞や電話で情報を収集・伝達し、さまざまな交通手段を駆使して巧みに都市を移動する新しい子どもの姿は、19世紀までの児童文学の人物とは決定的に異なるだけでなく、大都会に疎外される近代人を描いた同時代の大人の文学とも一線を画することがわかった。
著者
齋藤 暁
出版者
崇城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究実施計画に沿って、多倍長精度で時間依存密度行列繰込群を用いる量子回路シミュレータZKCM_QCの改良を進めた。この計算手法で計算コストを決定づける特異値分解の内部ルーチンにGPGPUを用いると高速になるが一方で計算精度が落ちる。落ちた計算精度をCPU計算でRayleigh商反復により回復させることで多倍長精度を維持するのだが、安定性向上のため繊細な技術的な改良を行った。この精度回復の詳細について、学会発表2件で述べた。また、ZKCM_QCを用いて主要な量子アルゴリズムのシミュレーションを行ってきており、2018年度前半の時点では、Deutsch-Jozsaアルゴリズムについてはある程度構造のあるオラクルの場合、回路幅218量子ビットの回路をPCワークステーションで浮動小数点精度256ビットでおおよそ27分でシミュレートできている。また、Shorのアルゴリズムについては、回路幅60量子ビット、回路深さおおよそ70万の回路を14.5時間~17時間でシミュレートできている。Shorのアルゴリズムのシミュレーションでは私はまだ所用時間が合成数のビット長に対して指数的に増大するデータを見つけていないが、競合する研究グループであるメルボルン大学のWangらの結果には所用時間が急激に増大していると思われるデータ点がある。同様の手法を使っていてかなり異なる結果になっている理由としては、(1)私は多倍長精度で計算しており計算中ゼロ特異値と微小特異値を混同することはほぼないが、Wangらは仮数部53ビット精度での計算のため混同している可能性があること、(2)私はQFTベースの算術回路を使っているのに対してWangらは巾乗剰余を通常の算術回路ベースでデータに作用させており、回路構成が異なること、が考えられる。以上の結果についても同じ学会発表で述べた。
著者
田中 良広 澤田 真弓
出版者
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、読字実験により弱視者の最小可読文字サイズが清音文字に比べ濁音・半濁音文字の方が3ポイント程度大きいことを明らかにした。この実験結果に基づき、濁点・半濁点部分を2倍程度(面積比4倍程度)大きくした弱視用フォントを試作した。試作した弱視用フォントの有用性を検証するための単語読みの比較実験では、初期実験の正答率を大きく上回った。このことにより、試作した弱視用フォントの有用性が確かめられた。
著者
大嶽 秀夫
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

日仏の近現代政治史のなかから、さまざまな争点をとり上げて、比較検討した。そのうち、ネオリベラル・ポピュリズムの展開およびフェミニズムの政治史については、それぞれ単著として発表した。さらにヴィシー政権と大日本帝国の比較を行い、それが戦後政治に与えた負の影響を検討した。最後に現代日本の政党政治と社会運動についても、インタビュー調査も行い、詳しい検討を行った。これらの成果については出版準備中である。
著者
植村 和彦 山田 敏弘
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

日本海生成前の漸新世〜前期中新世植物化石群の組成的・時代的変化と葉状特性による陸上古気候の変遷をあきらかにし,当時の古地理・古地形の復元資料を得るため,秋田県,福島県,岐阜県,瀬戸内沿岸,および北九州での野外調査と化石資料の採集を行った.また,既存の化石コレクションを再検討と化石層の年代測定を行った結果,以下のような成果を得た.1)いわゆる漸新世植物群は,始新世後期〜漸新世前期植物群(神戸,土庄,岐波植物群など)と漸新世後期(野田,相浦植物群など)の2型に分けられ,それぞれ寒暖の変化が認められるものの,始新世中期の新生代最温暖期以降の現代化した,暖温帯植物群として位置づけられる.2)前期中新世植物群は,その前半の温帯系阿仁合型植物群と後半の温暖系台島型植物群に分けられているが,その移行期は2000万年前(20 Ma)であること,および20〜17 Maの台島型植物群は16 Ma前後のものと異なり,フナ属や落葉広葉樹が優占する一方,落葉樹の台島型要素(Comptonia, Liquidambar, Parrotia, Quercus miovariabilisなど)を伴った植物群であることを明らかにした.3)植物化石群の組成的特徴と葉状特性による古気候解析から,日本海生成前の前期中新世植物群の緯度的変化と東西(大陸内陸側と太平洋沿岸域)の変化を調べた.阿仁合型植物群にみられた内陸側-沿岸域の変化は台島型植物群では顕著な差が見られない.これは日本海が生成を始める,当時の古地理的な発達を強く反映している.4)これらは日本海周辺の地域的現象を含んでいるが,海岸低地の植物化石群から明らかなように汎地球的気候変化も示されている.
著者
野口 康彦 青木 聡 小田切 紀子
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、面会交流のあり方と養育費の授受が子どもの発達に及ぼす影響を解明し、離婚後の子どもの利益の実現に向けた問題提起を行うものである。平成30年度の研究実績は、学術論文1本と寄稿論文2本、口頭発表1本であった。その内訳は、「離婚後に別れて暮らす母親と娘との面会交流に関する探索的研究-3人の女子学生のPAC分析を通して-」(茨城大学人文社会科学部紀要)、「親の離婚・再婚を経験した子どもと家族の支援」(『家族心理学年報 36巻』金子書房)、「離婚・再婚家族における子どもの発達と養育支援」(『子育て支援と心理臨床16巻』福村出版)である。いずれも、これまでの調査・研究の一端を踏まえつつ、親の離婚・再婚を経験した子どもの養育問題を概観し、主として子どもの心理的体験に焦点を当てながら、親の離婚・再婚を経験した子どもと家族の支援について述べている。また、2018年11月3日~4日に開催された「第1回日本離婚・再婚家族と子ども研究学会」において、「親の離婚・再婚を経験した子どもの結婚観」の題目で口頭発表を行った。離婚・再婚後の面会交流及び養育費の授受と子どもの心理発達との関連について検証するため、質問紙による調査を行い、関東、関西、中国地方の5つの大学の大学生739名から協力を得た。主として親の離婚を経験した子どもの結婚観について、離婚時の年齢と面会交流の有無の視点から分析を行ったものを報告した。再婚後の親子の面会交流の課題など、参加者との意見交換を通して、今後の調査研究においても有用な示唆を得た。さらに、2018年5月18日に水戸少年鑑別所にて「離婚・再婚家庭における子どもの発達と養育支援」、2018年9月21日に横浜家庭裁判所にて「親の離婚等が子に与える影響と面会交流」の題目で研修担当講師を務めた。その際、科研費による調査によって得られたデータを活用しながら研修を行った。
著者
小野 正夫 城田 英之 藤田 勇 馬 驍 亀山 道弘
出版者
国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

海難事故等で海底に沈んだ船舶に搭載された貨物油や燃料油は、重大な環境被害をもたらす怖れがあり回収することが望まれるが、燃料油に多く用いられるC重油は海底の低温環境下で粘度が高くなり、回収は難しいのが現状である。また、海底油田からのパイプラインに蓄積される高粘度物質は石油の揚収の効率を悪化させるとともに最悪の場合、管内の閉塞を引き起こす可能性がある。そこで、重質油等の高粘度物質を効率よく回収するために、水に化学的処理剤等を加えた高温高圧のジェットを高粘度物質に加えて微細化させ、分散化させることで流動化促進を図り、回収効率及び閉塞防止技術を向上させるシステムの研究開発を行うものである。
著者
宮田 修 原 正一 亀山 道弘
出版者
国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究計画では「ノズルから放出した油に油処理剤を水中散布することによってO/W型エマルション群や油のみの場合の単一油粒、あるいは単一油粒の集まりである油粒群の浮上について連続的に実験・解析する。そのため、①水中散布の方法としてダクトによって油を集め処理剤を投入し油粒径が最小になる条件を求める。次に、②油粒径の異なるO/W型エマルションの終末浮上速度を求める。さらに、③油の放出条件による単一油粒や油粒群の粒径や形状の変化を含む挙動を明らかにする。最終的には、Re数、Eo数、M数の関係を整理し、油粒形状との関連を明確にできる図表を確立することにより油と油処理剤の最適混合に関する評価を行う。」としている。当該年度は、実験装置の配管や油ポンプの更新を行い。前述の「③油の放出条件による単一油粒や油粒群の粒径や形状の変化い含む挙動」について、A重油・C重油の実験を行った。その実験結果に基づき日本マリンエンジニアリング学会の第88回学術講演会において発表を行った。そこでは、「浮上する油粒の挙動が複雑であることの一つの理由は、油粒が浮上すると周囲に流れを起こし流れに巻き込まれながら浮上していくためであった。また、Re数やEo数とM数で実験結果を整理し、粘性や界面張力が浮上する油粒の形状や挙動に影響を与えている。」について示した。引続き、A重油とC重油を混合し動粘度や界面張力を変化させた実験実施中である。
著者
濱田 裕子 藤田 紋佳 瀬藤 乃理子 木下 義晶 古賀 友紀 落合 正行 賀来 典之 松浦 俊治 北尾 真梨 笹月 桃子 京極 新治 山下 郁代
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

子どもを亡くした家族の悲嘆に関するケアニーズを明らかにし、アクションリサーチによって悲嘆に対するサポートプログラムを作成することを目的に研究を実施した。子どもを亡くした家族に個別インタビューを行った結果、子どもの疾患や年齢によって、家族のケアニーズの特徴は異なったものの、共通していたのは【子どものことをなかったことにしたくない】、【子どもの事を知ってほしい】、【ありのままの自分でよいことの保証】、【気持ちを表出できる場がほしい】などであった。グリーフケアプログラムの試案として、フォーカスグループインタビューを4回、グリーフの集いを1回実施するとともに、グリーフサポートブックを作成した。
著者
朝日 祥之
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究の目的は、大野町から常呂町岐阜への移住者の間で用いられる尊敬語に見られる変 容を明らかにするところにある。本研究は、常呂町岐阜居住者の郷里方言の 使用をより包括的に把握するため、尊敬語に着目する。彼らの郷里である西美濃方言における尊敬語にはさまざまな語形があり、それぞれの意味機能を分担しながら使用される。本研究では、常呂町岐阜の話者の用いる尊敬語を特定し、それぞれの意味用法を明らかにする。これをもとに、常呂町岐阜の尊敬語は西美濃方言の尊敬語よりも単純なものになっていることを示す。その単純化を生み出した言語内的・言語外的要因を明らかにすることも本研究の目的である。
著者
今井 久登
出版者
東京女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまでの展望記憶研究では,事象ベースの展望記憶において手がかりが呈示されることを自明の前提としてきた。このため,日常場面では,あてにしていた想起手がかりがないことをしばしば経験するにも関わらず,その際の不随意的な想起については研究されてこなかった。そこで本研究では,事象ベースの展望記憶において,予想していた外的想起手がかりが呈示されなかった場合の不随意的想起の性質を解明することを目指した。そのためにまず,記憶日誌法を用いて日常場面における「し忘れ」経験を集め,その特徴を分析した。その結果,このような想起の頻度は全体の約10%であり,注意拡散やリラックス状態で生じやすいということが明らかになった。これらの特徴は自伝的記憶の不随意的想起と同様であることから,手がかりなしでの不随意的想起のメカニズムは,展望記憶と自伝的記憶とで共通であろうと推測された。次に,事象ベースの展望記憶課題において想起手がかりを呈示しないという,これまで行われてこなかった新たな条件を設定した実験研究を行ったところ,展望記憶課題の遂行特徴が,時間ベースの展望記憶における時計チェック曲線と類似したJ字型になることが分かった。この結果は,事象ベースの展望記憶と時間ベースの展望記憶は別個のシステムではなく,手がかりなしで展望記憶課題を自発的に想起するというプロセスを共有していることを示している。また,展望記憶課題の遂行成績とワーキング・メモリ容量の個人差の間に相関がなかったことから,展望記憶の想起には必ずしもワーキング・メモリを必要としないということも明らかになった。これらの成果を踏まえ,処理コンポーネントの枠組を援用して時間ベースの展望記憶と事象ベースの展望記憶との関係について整理するとともに,既存のモデルを拡張して,手がかりなしでの展望記憶の不随意的想起をも含んだ動的で一般性の高い展望記憶モデルを提示した。
著者
青木 裕子 古田 徹也 大谷 弘 片山 文雄 石川 敬史 佐藤 空 野村 智清
出版者
武蔵野大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究グループは科研費受給期間中コンスタントに研究成果を発表した。主な活動を四点挙げる。第一に「常識と啓蒙研究会」を年二回開催した。第二に、2018年3月に日本イギリス哲学会第42回研究大会においてセッション「コモン・センスとコンヴェンション―18世紀英米思想における人間生活の基盤」のコーディネイトと研究報告を行った。第三に、2019年10月に武蔵野大学政治経済研究所主催のオール英語の国際シンポジウムをコーディネイトし、本研究グループと米国の研究者が研究報告を行った。第四に、2020年2月には本研究プロジェクトの最終報告として『「常識」によって新たな世界は切り拓けるか』(晃洋書房)を出版した。
著者
羽間 京子 岡村 達也 勝田 聡 田中 健太郎
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、保護観察中の性犯罪者の性的認知のゆがみを分析するために、日本の保護観察所が実施している質問紙を用いた調査と事例研究を行った。保護観察中の性犯罪者と犯罪歴のない一般成人の質問紙への回答結果の分析の結果、性犯罪者群のほうが、合理化やわい小化などの性的認知のゆがみが大きいことが明らかとなった。また、財産犯との比較から、性犯罪者のほうが性的認知のゆがみが大きいことが示された。以上から、本研究は、それぞれの性犯罪者が有する性的認知のゆがみの種類や特徴を踏まえた保護観察処遇の重要性を指摘した。