著者
村田 真理子 山下 成人 川西 正祐
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

がんの化学予防に用いられることの多い抗酸化物質についてヒト遺伝子損傷性により安全性を評価した。種々の抗酸化物質を用いて単離DNAあるいは細胞内DNAに対する損傷性を検討した。ヒト培養細胞に抗酸化物質を添加し、一定時間後に細胞からDNAを抽出し、パルスフィールドゲル電気泳動法により細胞のDNA損傷性を検討した。その結果、ビタミンA、レチナール、α-トコフェロールおよびケルセチンでは細胞内DNA損傷が検出された。また、酸化的DNA損傷の指標である8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OH-dG)生成量を電気化学検出器付HPLCにて定量したところ、細胞内8-OH-dG生成量はビタミンA、レチナールおよびN-アセチルシステインの添加で有意な増加が認められた。単離DNAに対するDNA損傷性の検討では、抗酸化物質と^<32>Pでラベルしたヒトがん抑制遺伝子p53のDNA断片と金属イオン存在下で反応させ、電気泳動を行いオートラジオグラムを得た。その結果、ビタミンA、レチナール、α-トコフェロール、ケルセチンおよびN-アセチルシステインは銅(II)イオン存在下で塩基特異性を有するDNA損傷を来すことが明らかとなった。このDNA損傷は,カタラーゼあるいは銅(I)イオンの特異的キレート剤であるバソキュプロインにより抑制されたことから、過酸化水素および銅(I)イオンの関与が考えられた。また、同様の実験条件で8-OH-dGの増加を確かめた。以上の結果より、抗酸化物質は酸化抑制作用のみならず、ある条件下では酸化促進作用を示し、DNA損傷性を有することが明らかとなった。これらの酸化的DNA損傷が発がん過程のイニシエーションとプロモーションに関与する可能性があり、抗酸化剤の予防的投与の危険性が示された。第一次予防の重要性に鑑み、安全性を十分検討した上で、がんの化学予防に抗酸化物質を適用することが望まれる。
著者
隅田 英一郎 山本 博史 山本 博史 パウル ミヒャエル
出版者
独立行政法人情報通信研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

構文、換言の利用、多言語向き形態素解析等、翻訳の高度化を行い、翻訳品質評価に基づく言語間距離を計算する方式を提案した。「英語話者の学習時間」は、フランス語などは短く、アラビア語、中国語、日本語は長いことは提案距離で説明できる。しかし、後者の3言語の「学習時間」は同じであり、英語との距離差では説明できない。より精緻な距離の創出が今後の課題である。また、副産物として21言語の全組合せ420通りの翻訳システムを構築した。
著者
大川 一毅 嶌田 敏行 大野 賢一
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、大学の価値を新たな側面から認識する成果指標の策定とそれを活用した大学評価の模索探究を研究目的とする。これにあたっては学生の保護者を主たる構成員として組織し、大学の教育事業援助や学生支援を目的として活動を行う大学教育後援会を研究対象に設定し、その事業や活動を明らかにする。その上で、これらの実績を「信用」という成果指標に置き換えて大学の評価要素とすることを試み、各大学で援用可能な新たな大学評価の形態と指標を提案する。
著者
大泉 宏 中原 史生 吉岡 基 三谷 曜子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

北海道の釧路沖と羅臼沖でシャチ(Orcinus orca)の調査を行った結果、2007年から2017年の写真から両海域で合わせて380個体が識別され、既知の個体と合わせ計506個体が登録された。海域共通の個体は少数であったこと、海域に独特の鳴音があったこと、衛星標識個体の回遊範囲が異なっていたことから、両海域のシャチは少なくとも行動圏の異なる比較的独立した集団と考えられた。衛星標識個体は千島列島から太平洋西部にまで回遊し、鳴音にはロシア沿岸の集団との関連が予想された。北海道東部にはシャチの重要な生息地があることを明らかにでき、その分布範囲と個体群構造の基礎的知見を構築することが出来た。
著者
谷口 省吾 冨永 晋二
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

還元作用の強い輸液剤を投与することで、血液の酸化還元レベルを還元状態にして手術侵襲やショックなどの生体侵襲時に起こる活性酸素による酸素ストレスを防御して、生体の恒常性を保つことが可能かを検討した。1)種々の輸液剤(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、フィジオ140、生理食塩水、フィジオ70、EL#3)の酸化還元電位を測定したが、輸液剤の種類により異なる値を示した。還元剤としてはアスコルビン酸およびアルカリイオン水を添加し、アルカリイオン水の生成はイオン専科LB-161、酸化還元電位の測定はpH/ION Meter F-23にて行った。アルカリイオン水やアスコルビン酸添加により輸液剤の酸化還元電位を低下させることができた。2)血液の酸化還元電位を測定し、ある一定の範囲内にあることが示された。また、アルカリイオン水やアスコルビン酸添加により血液の酸化還元電位を低下させることができた。3)手術侵襲や重症ショックなどの生体侵襲時の血液の酸化還元電位を測定し、手術侵襲時には大きな変動は認められなかったが、重症ショック時には酸化還元電位の有意な上昇が認められた。4)酸化還元電位の異なる輸液剤(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、フィジオ140)を手術侵襲や重症ショック時に投与し、還元作用の強い輸液剤の投与により血液の酸化還元電位を減少させることができた。この時、代謝性アシドーシスや高乳酸血症も改善傾向が認められた。結論として、輸液剤の酸化還元電位を調節可能であり、この輸液剤を投与して血液の酸化還元電位を調節することが可能であることがわかり、生体侵襲時の酸化還元電位の上昇を防ぎ酸化ストレスを減少させることができる可能性か示唆された。
著者
細井 昌子 久保 千春 柴田 舞欧 安野 広三 澤本 良子 岩城 理恵 牧野 聖子 山城 康嗣 河田 浩 須藤 信行 二宮 利治 清原 裕
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

心身医学の中心概念である失感情症(自身の感情に気づきにくい傾向)と陽性感情(生活満足度)および慢性疼痛の合併リスク,養育スタイルと慢性疼痛合併率について福岡県久山町の一般住民で調査した.失感情症群では慢性疼痛の罹患リスクが有意に高く(OR : 2. 7),生活満足度が有意に低下していた.さらに,両親の養育スタイルでは,冷淡と過干渉の両親の養育スタイルを受けた住民で慢性疼痛合併率が高く,とくに父親の養育スタイルが冷淡/過干渉群では有意に慢性疼痛合併率が増加していた.
著者
菊池 誠
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度の研究成果は以下の3点である。(1)ファネル気体モデルの理論的整備を進めた。タンパク質の体積を変数とする自由エネルギーランドスケープが与えられれば、分配関数に含まれる分子混雑の効果は解析的に計算できてしまい、自由エネルギーランドスケープへの補正の形に厳密にまとめられる。補正項は各状態の体積に比例しており、比例係数は混雑分子の化学ポテンシャルで決まる。これにより、混雑分子を含む系は混雑分子を含まない系に形式的に書き直すことができることがわかり、見通しよく計算機シミュレーションを行うことができる。(2)上記の「有効自由エネルギーランドスケーブ」の考え方をモデルタンパク質に応用した。具体的にはアップダウン・ベータバレルと4ヘリックス・バンドル構造を取るふたつの格子タンパク質モデルを対象とし、MSOE法によって混雑分子がない場合の自由エネルギーランドスケーブを求めた。これに上記の体積依存補正を加えることにより、混雑分子存在下での「有効自由エネルギーランドスケーブ」を求めた。結果として、混雑分子の濃度が上がるにつれて変性状態のうちで体積が大きな構造の自由エネルギーが上がり、実効的に天然構造が安定化されることがわかった。我々はこの結果を分子混雑がタンパク質折れたたみに与える影響の最も簡単な表現であると考えている。(3)ファネル気体モデルの基礎となるタンパク質のファネル理論に関して、ランダムネットワーク上でのランダムエネルギーモデルを構築し、多様なファネル構造を実現する天然構造の特徴を議論した。なお、これら成果をConference on Conputational PhysicsおよびBiophysical Society Meetingにて口頭発表し、関連する研究者と議論を行った。
著者
岸本 美緒
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、身分制度の諸側面を通底する「身分感覚」に焦点をあて、社会的意識という視点から、中国身分制度の全体像を長期的な視野で再構成することを目指した。具体的には、明初から清代中期に至る時期の良賤身分の問題を取り上げて、多様な史料を用いて実証的な研究を行い、以下の諸点を明らかにした。(1)明清時代を通じて「賤」観念の核心は、他者に対する服役性・従属性という点に存在した。(2)明代初期には、法律上の「賎民」を特定の限定された集団に限り、民間で形成される従属関係を法律上の「賤」と切り離す政策が取られた。(3)明代後期には、社会的流動性の増大に伴って服役的な産業が発展し、従来の政策が破綻すると同時に「賤」をめぐる議論が活発化した。(4)清朝に入り、18世紀前半の雍正帝の時代には、被差別集団の戸籍の廃止や契約による奴婢化の容認など、身分をめぐる幾つかの改革が同時になされたが、それらはいずれも、社会的流動性の増大を肯定するとともに、そこに生ずる上下格差を新たな身分制度のもとに秩序化しようとするものであった。(5)清朝のこのような政策は、社会的身分をめぐる激しい競争の一因となり、賎民の身分上昇を抑えようとする既存の紳士階層によってしばしば冒捐冒考紛争(科挙資格や官職の保有を禁じられた賎民が身分を偽って科挙資格・官職の保有をはかったという理由で告発され、訴訟などに至る紛争をいう)が起こった。(6)清代後期に良・賤の判定基準をめぐり煩瑣な法令が制定されたのは、こうした紛争の頻発を背景としている。以上、同時期の日本の身分制度とは大きく異なる明・清時代の身分制度の特色と展開につき、大筋の枠組を明らかにすることができた。
著者
佐藤 真治 横井 豊彦 都竹 茂樹 大槻 伸吾
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

【目的】人口減少社会の到来による社会保障制度の劣化を回避する処方箋の一つがソーシャルキャピタル(人のつながり、地域への信頼、社会参加)の向上である。我々は地域に歩く人が増えると、社会参加する人が増えることを確認した。一方で、身体活動増進の地域介入に経済的インセンティブを用いた戦略は、効果が限定的であった。そこで、本研究ではソーシャルネットワーク・インセンティブ(おつき合いやお互いさまの規範)を活用して、地域に歩く人が増え、ソーシャルキャピタルを向上するかどうか検証した。【方法】対象者は、65歳以上の女性44名(平均年齢72±6歳)とした。対象を無作為に割付し、経済的インセンティブのみの経済的インセンティブ群23名とソーシャルネットワーク・インセンティブに経済的インセンティブを加えたSNWインセンティブ群21名に分けた。介入期間は3ヵ月間であった。経済的インセンティブ群は、一カ月ごとの歩数が平均8,000歩以上の場合は700円/月分、1日の歩数が平均5,000歩以上の場合は500円/月分のクオカードと引き換えられるようにした。SNWインセンティブ群は、3人1組でウォーキングを実施した。最低週に1回は3人で歩く機会を持ちお互いの歩数を確認する。クオカードに関しては、経済的インセンティブ群と同様とし、チームのうち1名が目標歩数を達成すれば他のメンバーにも報酬がもたらされるようにした。【結論】地域における身体活動増進の介入として経済的インセンティブにソーシャルネットワーク・インセンティブ(おつき合いやお互いさまの規範)を加えると、身体活動量のみならず地域への信頼を高める可能性が示唆された。
著者
山本 陽子 渡邉 聡明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では大腸特異的VDRKOマウスを作出し、炎症性腸疾患および炎症性発癌モデル実験をおこない、両疾患に対する大腸のVDRの機能解明をめざした。大腸特異的VDRKOマウスは炎症性発癌による死亡率が高かったが、生存したマウスについては両モデルともコントロールマウスとの差は認められなかった。これは両モデルにおいてコントロールマウスの大腸におけるVdr遺伝子発現が減少したためであると考えられた。一方コントロールマウスで高頻度に認められた脱肛および腸管の周辺組織への癒着は大腸特異的VDRKOマウスでは認められず、大腸のVDRがこれらの表現型に関与していることが示唆された。
著者
河邊 淳 酒井 雄二 木村 盛茂 山崎 基弘 高野 嘉寿彦
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1.解析学で有用なε-論法の代わりとなる新たな滑らかさの概念(漸近的Egoroff性)をRiesz空間に導入し,可測関数列の概一様収束に関するEgoroffの定理がRiesz空間値ファジィ測度に対して成立することを示した.また,多くの重要な数列空間や関数空間が漸近的Egoroff性をもつことを示した.2.Riesz空間がEgoroff性を満たす場合は,Egoroffの定理が性質(S)を満たす強順序連続なRiesz空間値非加法的測度に対して成立することを示した.また,Egoroff性よりも弱い滑らかさの条件である弱σ-分配性を仮定した場合は,一様自己連続かつ強順序連続で下から連続な非加法的測度に対してEgoroffの定理が成立することを示した.3.漸近的Egoroff性を精密化した多重Egoroff性をRiesz空間に仮定することにより,距離空間上の弱零加法的なRiesz空間値ファジィ測度はつねに正則となることを示した.応用として,Borel可測関数の連続関数列による近似に関するLusinの定理が,同種のファジィ測度に対して成立することを示した.4.Riesz空間値非加法的測度に対するAlexandroffの定理が,Riesz空間が弱漸近的Egoroff性をもち,測度が自己連続の場合と,Riesz空間が弱σ-分配性をもち,測度が一様自己連続の場合に成立することを示した.応用として,Riesz空間が多重Egoroff性をもつ場合は,完備あるいは局所コンパクトな可分距離空間上の自己連続なRiesz空間値非加法的Borel測度に対して,そのRadon性と連続性は同値となることを示した.5.Duchon,RiecanらによるRiesz空間におけるリーマン・スティルチェス積分論を用いて,Riesz空間値非加法的測度に対するショケ積分の概念を定式化し,共単調関数に対する積分の加法性などの基本的性質を調べた.
著者
黒田 彰子 中村 文 蔵中 さやか 大秦 一浩 濵中 祐子
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、1.奥義抄の伝本研究、2、新出歌学書の研究、3、2を踏まえた平安末期歌学史の研究、の三課題から成る。1については、平安末期以降書写の古鈔本、江戸初期書写の伝本を調査し、後者については、主要な伝本を成果報告として刊行した。古鈔本についての調査は完了し、刊行に向けての最終作業を行っている。2については、疑開和歌抄、口伝和歌釈抄等、平安中期に成立した歌学書の発見を受け、平安末期成立の歌学書とどのような連続性、非連続性を有するかという観点からの検討を行い、口伝和歌釈抄については、その成果報告を刊行した。3については、対象となる和歌童蒙抄の注解を完成し、現在その注解刊行に向けて作業中である。
著者
薬師寺 克行 井上 正也 王 雪萍
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1993年の自民党政権の下野から22年が経過し、「55年体制」末期の日本政治も漸く歴史研究の対象に入りつつある。しかし、同時代を政治史的に考察する上には未だに分析上の課題を抱えている。第一は、信頼できる一次史料の不足である。第二に、政界再編に関するこれらの二次文献の多くも、自民党経世会を中心とした記述に偏重している点である。ゆえに、同時代に自民党の派閥政治を担っていた安倍派清和会や宮沢派宏池会の派閥の実態については殆ど解明されていない。とりわけ、安倍晋太郎から三塚博へと継承された清和会は、派内に新党さきがけを率いた武村正義、石原慎太郎や党内「右派」を多く擁していた亀井グループ、小泉純一郎といった政界再編後に重要な役割を示す多くの人材が所属しており、清和会内部に存在した政治改革構想や派閥観を検証することなしに、90年代前半の政界再編の描くことには大きな限界があろう。本研究では、研究代表者が政治部の清和会担当記者であった1989年から94年までの記録を活用した。同記録には安倍晋太郎、安倍派幹部であった三塚博や塩川正十郎、小泉純一郎、武村正義の肉声が残されており、55年体制末期から政界再編期にかけての清和会内部の政治改革に対する議論や、政界再編に対する見通しなどをうかがい知ることができる。本研究は、ジャーナリストの経験を積んだ研究代表者と、戦後政治外交史を専門とする研究分担者(井上)と共同作業で、取材メモの本格的な調査分析を実施している。この作業とは別に研究代表者の薬師寺は、村山富市元首相に対するインタビューと資料の再チェックをしたうえで、単行本として2012年に出版された「村山富市回顧録」(岩波書店)の解説部分など加筆修正したうえで、同書を文庫本化し「岩波現代文庫」から出版した。
著者
渡辺 美知子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

言い淀んだとき,日本語では「エート」などのフィラーが頻繁に用いられる。フィラーは文節境界によく現れるが,その出現率は境界直前の文節の係り先までの距離が長いほど高くなることが明らかになった。これにより,フィラーは後続発話生成の負荷と深く関連する現象であることが示唆された。すなわち,これから伝えようとするメッセージが長く複雑なほど,スムーズな言語化が困難になり,フィラーの出現率が上昇すると考えられる。一見ランダムに現れるように見える言い淀みの背後にある規則性が示された。
著者
能登 真規子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、現代の身元保証の位置づけを、2017年5月に国会で成立した改正民法に関する議論を参照しつつ検討した。先行研究によれば、身元保証人に対する巨額の責任追及がなされる例はあり、わが国では、今日でも74.8%の企業が身元保証制度を採用している。しかし、通常の保証契約とは異なり、保証意思の慎重な形成と表明の機会が確保されたうえで、身元保証契約の締結が行われているわけではない。身元保証法による身元保証人の責任限度の規律は独特である。裁判所が裁量により身元保証人の責任の有無と責任額を決定する。身元保証法にも改正の必要な点はあるものの、身元保証の特性をふまえれば、民法に一本化することはできない。