著者
平川 佳世 岩岡 浩二
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、銅板上に油絵具を用いて絵画を描く「銅板油彩画」の誕生と黎明期の展開について、現存する画像作品および文字資料に基づいて、詳細かつ包括的な考察を行った。その結果、「銅板油彩画」は1530年代のイタリアにおいて「諸芸術の優劣論」および「北方絵画愛好」という二つの異なる文化的文脈において個別的に誕生し、「銅」という素材のもつ永遠性に着目した政治的寓意画の制作などの新奇な試みを経て、やがて、16世紀末には、ジャンルを問わず細密描写を得意とする画家が名声を得るための一つの手段として定着していったことが明らかとなった。
著者
大内 浩子 馬場 護 馬場 護
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

比較的高い線量を照射したイメージングプレートでは、消去不全現象及び浮き出し現象が生じる。消去不全現象で観察される光は光輝尽発光であることを確認し、従来考えられてきた600nm近傍の光で励起される準位の電子の他に、より短波長側の光によって励起される深い準位(290nm付近)に電子が局在することを示した。この電子がこれら二つの現象の原因であると推論し、UV光と白色蛍光灯とを同時照射する新消去法を開発した。本法により、未照射レベルまで完全に消去することができた。
著者
林 隆之 富澤 宏之
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

第5期科学技術基本計画において日本の研究力向上は政策目標の中の一つとされてきた。しかし、それ以降も国際比較の中で日本の相対的地位は低下し続けている。10年後を見据えれば、現在のように研究力を向上させる方策を検討するのみならず、研究力が低成長あるいは縮小せざるを得ない中で、いかに先導的位置を日本が維持し続けるかを検討することが不可欠である。本研究では、研究力が縮小する国における研究戦略の可能性を実証的に明らかにする。海外諸国とのネットワーク・オブ・エクセレンスの構築による研究分野の多様性維持と、それを基にした学際的研究活動の推進により研究の優位性が維持できる可能性について分析する。
著者
阿曽沼 明裕
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

まず第一に、研究大学を検討するための枠組みを構築する。研究大学とは何か、研究大学と非研究大学との比較枠組みを検討し、組織的・財政的基盤でどこに着目すべきかを検討する。第二に、研究大学と非研究大学を比較し、研究大学独自の共通な構造を実証的に明らかにする。しかし、第三に、共通な構造を探すのと逆に、研究大学群の多様性に着目し、組織的・経済的基盤にどのような多様性があるのかを明らかにし、そのパターン化を行う。第四に、こうした研究大学の共通な構造や多様性の背景にあるメカニズムを探る。研究大学群および個別研究大学の形成の歴史も検討する。第五に、以上の検討を経て、日本の研究大学の在り方を考察する。
著者
八神 寿徳 小玉 一徳 中川 勝吾
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年,大学ブランドの確立と価値向上において重要な取組みの一つとして,多くの大学が大学ブランドを活用した商品開発・販売による情報発信を実践しており,大学ブランド商品が増加している。しかしながら,商標法等から大学ブランド商品に関する企業・大学間の契約形態には制限が生じており,その契約形態・内容は各大学が独自の手法を採っている。効果的な手法として標準的なモデルは確立・公表等されていない。そこで本研究では「大学が有する商標権」と「契約形態・内容」の実態調査と分析を通じて,「戦略的な商標出願と契約形態を軸にした社会的・経済的に価値ある大学ブランド商品の展開を支援する手法の開発」を行う。
著者
吉田 香奈
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、アメリカ合衆国において近年急速に拡大している公立大学の授業料無償化政策の特質と課題を検討することを目的としている。研究期間は5年間とし、以下の手順で研究を進めることとする。初年度の2019年度は(1)州政府の公立大学授業料の実質無償化政策に関するデータ収集・特色ある州の抽出および先行研究のレビュー、(2)訪問調査による情報収集(ワシントンD.C.等)を実施する。続いて2020~2023年度はインディアナ州、ミズーリ州、デラウェア州、テネシー州、ニューヨーク州(現段階での候補州)の中から訪問調査を行う。以上から、各州の無償化政策の理念、財源、受給要件、給付方法等の比較分析を行う。
著者
稲垣 美幸 堀井 祐介 吉永 契一郎
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

近年,大学には教員でも職員でもない位置付けとして「専門職」と呼ばれる様々な職種の導入が進んでいる。この各職の業務内容や組織に関する実証研究は進んでいるが,その一方で,当事者やその周囲では課題の声が聞かれる。しかし,こうした課題は現場レベルの感覚的なものとして聞かれるのみで,客観的に明らかにされてはいない。で,本研究は,専門職として報告されている新たな職種全体を対象に,専門職が抱える課題を客観的かつ実証的に明らかにし,専門職を取り巻く共通課題と職種による特色を見出す。
著者
宮澤 啓輔 浅川 学
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

紅藻オゴノリ(Gracilaria verrucosa)をはじめとする海藻を原因食とする食中毒が日本でこれまでに数件発生しており、原因究明がなされた結果、中毒発生の直接的要因はオゴノリに含まれる酵素の作用によりアラキドン酸から生成したプロスタグランジンE2(PGE2)であることが明らかにされている。そこで本研究ではこの種の食中毒防止の観点から、瀬戸内海産のオゴノリ、シラモ(G.bursa-pastoris)、ツルシラモ(Gracilariopsis chorda)、カバノリ(G.textorii)及びオゴノリ未同定亜種Gracilaria sp.におけるPGE2の生成量を調査した。その結果、オゴノリのPGE2生成量は、成長段階の初期に高く、その後減少する傾向が見られること及び嚢果の有無による差はないことなどが明らかとなった。オゴノリではアラキドン酸(ナトリウム塩)を添加することにより、PGE2の生成量が増加することが認められ、PGE2生成量の最高値は、90μg/g生鮮藻体に達したが、推定中毒量には及ばなかった。また、藻体の液体窒素処理により、PGE2の生成量は数倍に上昇すること、酸性側では著しく減少することを認めた。他方、他の海藻ではPGE2は検出されなかったが、アラキドン酸添加により著しく増加する関連物質の存在が新たに確認されたため、アラキドン酸代謝産物と考えられる未同定成分について部分精製を行い、紫外部吸収スペクトル測定を行った。その結果、この成分の吸収極大はPGE2の192nmとは異なり、240nmであった。次いで、カバノリのアラキドン酸添加区抽出試料に含まれる未同定成分について、質量分析をLC-MSを用いて行い、その化学構造に検討を加えた。質量分析ではm/z=372、355、337、319、301にピークが検出され、それぞれm/z=M+H、M+H-H_2O、M+H-2H_2O、M+H-3H_2O、M+H-4H_2Oと帰属された。本成分は、PGE2と比較してヒドロキシル基の数が1つ多く、また構造が部分的に異なる物質であることが推定された。
著者
水谷 尚子
出版者
麗澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

(1) 1950~70年代の在外ウイグル人亡命者に関する公文書調査の結果は、以下の通り。中国共産党との内戦に敗れ台湾に渡った中華民国政府は、(1)国連へ新疆を脱出したウイグル人亡命者保護を強く要請し、自らも相当な経済的援助を行っていた(2)ウイグル人在外亡命者組織と中華民国政府は「反共」(反中国共産党)というイデオロギー的結束で、1960年代までは深い繋がりを維持していた(3)蒋介石の死後、特に中華人民共和国が改革開放に舵を取ってからは、両者の往来が消失する、等、これまで知られていない中国国民党とウイグル人亡命者の結びつきが、台湾に於ける文献調査により明らかとなった。(2)中央アジアでの現地調査の成果は、以下の通り。(1)「カザフスタンのウイグル人」については既に幾つかの先行研究が存在するが、「キルギス共和国のウイグル人~そのコミュニティ、民族組織、ウイグル語メディア等~」について言及する論考は存在しなかった。本研究によって、キルギスのウイグル人社会の全容が明らかとなった。(2)「東トルキスタン共和国」時代に政府中枢に比較的近い部署にいて、その後、中央アジアに移住し、民族組織に関わってきた人々にインタビューすることができた。とりわけ、「東トルキスタン共和国」時代に政府公報に勤務し、漢語文献の翻訳やメディア工作に従事したムニール・イェルズィン氏へのインタビュー記録は、他に類例のない貴重なものである。
著者
工藤 浩 渡邉 卓 福田 武史 奥田 俊博 松本 弘毅 小林 真美 松本 直樹 小村 宏史 伊藤 剣
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

日本文学・日本史学・神道学・日本語学の四分野の研究者による「先代旧事本紀研究会」を組織し、学際的に『先代旧事本紀』の研究史上の問題点と今後の課題を考究する共同研究を行った。平成29年9月に公開研究発表会を実施した。神話としての特徴、用字意識など編纂と内容の問題に加えて、神道の祭儀・思想・文献、訓詁注釈・国学等に与えたの影響について、『先代旧事本紀』の持つ学問的な意義を明らかにした。本研究の成果は、研究代表者、分担研究者に3名の研究者を加えた12名による論文10編とコラム4編を掲載する『先代旧事本紀の現状と展望』(上代文学会叢書)を平成30年5月に笠間書院より刊行し、広く開示する。
著者
田中 利幸
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、米陸軍航空軍が、1930年代からの伝統的な戦略爆撃論である「精密爆撃論」にもかかわらず、第2次大戦中の爆撃活動において、いかに公式論から乖離し、無差別爆撃へと急速に変容して行き、最終的には広島・長崎に対する原爆投下による無差別大量虐殺を犯すまでに至ったのかを分析することに目的をおいた。その変容を、米軍の軍事指導者、政治家のレベルでの戦略、政策の変化のみならず、国民の倫理観の変化という観点からも分析を試みた。
著者
石川 亮太
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

朝鮮開港後から韓国併合の前後まで、日朝漁民の紛争事件について可能な限り事例を収集し類型化したうえで、その背景や経緯を掘り下げる。研究方法としての特徴は次の2点にある。(1)日朝両側の文献史料の対照。双方からの紛争の記録を比較するマルチ・アーカイブ手法を採用し、立体的に史実の復元を図る。(2)現地のフィールドワークによる文献史料の検証。水産業のあり方は現地の人文・自然環境に応じて極めて多様であったことに鑑み、紛争の現場を実際に訪れ、文献史料の記述を現地の環境に即して検証する。その際、民俗学・人類学や地理学などの隣接分野の成果を参照し、それらの研究者の協力を仰ぎながら分析の深化を図る。
著者
庵逧 由香
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

朝鮮の「総動員体制」は、日本のそれの一部として構想・準備・構築された。朝鮮の「総動員体制」の運営は、一連の総動員計画に基づいて、体系化された動員関連法と、個々の朝鮮人を末端に組み込む動員機構を通じて実施された。朝鮮においては、被支配民族から「自発的」な戦争協力を引き出すために、朝鮮人の「皇国臣民化」が大きな課題とならざるをえなかった。しかし「体制」自体が日本の戦争遂行を排他的究極目標としていたため、その運営は戦況に大きく左右され、最終的には戦局の行き詰まりによって計画さえも破綻し、崩壊に至った。
著者
柴田 護 清水 利彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

マウスのwhisker padに10 mMカプサイシンを30分間作用させてTRPV1刺激を6日間行った。刺激と同側の三叉神経節の切片を作成して電子顕微鏡でミトコンドリアの観察を行った。なお、三叉神経節採取のタイミングは2, 4, 6日間投与完了の24時間後とした。2日投与では特に形態異常は認めなかったが、4日投与では主として小型の三叉神経ニューロンで内部構造の破壊を呈したミトコンドリアが確認された。しかし、6日間投与後にはニューロン内のミトコンドリア形態はほぼ正常であった。以上のことから、何らかの修復機構が作動するものと考えられた。細胞実験からミトファジーの機能が重要であることがわかった。
著者
今井 健一
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

近年、Epstein Barr virus (EBV)の歯周疾患への関与が示唆されており、われわれは慢性歯周炎患者の病変部から高率にEBVを検出すること、病態の進行に伴いEBVとP.gingivalisなどの共感染が認められることを見出した。さらに、細菌の代謝産物酪酸がEBVを再活性化、歯肉線維芽細胞からの炎症性サイトカインの産生を強く誘導することを解明し、細菌とEBVの負の連鎖が歯周病発症と進展において重要な役割を担っている事が示唆された。歯周病の予防と治療において新たにウイルス感染を考慮する必要性の分子基盤を提示することが出来た。
著者
木原 正夫 鈴木 仁 鈴木 祐介
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

IgA腎症は原発性糸球体腎炎のなかで最も頻度が高いが、有効な治療法が確立されておらず予後不良である。IgA腎症の病態には糖鎖異常IgA1 と糖鎖異常IgA1 免疫複合体が深く関与しており、その産生にはToll like receptor(TLR)などのPattern recognition receptors(PRRs)を起点とした粘膜免疫応答異常が考えられる。本邦においては扁摘パルス療法が一定の効果を示している一方で、北欧においては腸管選択的ステロイド薬の効果が示されており、その議論が分かれている。本研究では、腸管におけるPRRsを介した糖鎖異常IgA1 免疫複合体形成機序を検証することを目標としている。ヒトIgA腎症の自然発症モデルであるddYマウスを用いて、血中・消化管関連リンパ組織におけるIgA、糖鎖異常IgA、IgG-IgA免疫複合体を測定したところ、IgA腎症発症マウスの方が未発症マウスに比較して、血中・脾臓の細胞培養液中のGd-IgA, IgG-IgA免疫複合体が有意に高かったが、腸間膜リンパ節においては両者に有意差はなかった。今後は、腸管におけるPRRsがIgA腎症発症・増悪に寄与しているか調べるため、IgA腎症発症/非発症ddYマウスを用いて、TLR4/9やその下流のサイトカインの発現を検証し、さらにはTLR4/9のリガンドを投与することで、IgA腎症を惹起できるか検証する。また、グルテンフリー食、腸管選択性ステロイド薬、中和抗体・siRNA を用いて、Gd-IgAおよびIgG-IgA免疫複合体産生の抑制効果を検証する。
著者
古屋 徳彦
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究はNeurodegeneration with brain iron accumulation (NBIA)原因遺伝子群の機能解析をオートファジーとの連関に注目して行った。siRNAを用いたNBIA原因遺伝子群のノックダウン(KD)を試みたところ、FTL、 PANK2、COASYのKDによりオートファジーへの影響が認められた。CRISPR/Cas9を用いて作成したFTL ノックアウト(KO)細胞を解析したところ、フェリチノファジーの低下、ミトコンドリア機能の低下、酸化ストレスに対する耐性の低下が認められた。これらの表現型がNBIA病態発症メカニズムと関連していると考えられる。
著者
田中 マキ子 磯貝 善蔵 根本 哲也
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

褥瘡予防等身体への弊害を考慮し行われる2時間おきの体位変換に代わる方法として、身体の一部に対する介入としてスモールチェンジ法を提唱し、その効果について、体圧・ずれ量・費用対効果の面から検討した。結果、従来からの体位変換方法と比べ同等以上の効果が得られた他、80%以上の看護師・介護士に体位変換に伴う負担の軽減が示された。よってスモールチェンジ法は、従来の体位変換方法に代わる優れた有効な方法と言える。
著者
長嶋 一昭 今村 博臣
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

蛍光エネルギー移動(FRET)を利用した新規蛍光 ATP プローブを用いて各種刺激下での膵β細胞内 ATP 濃度変化を測定し、Fura2-AM を併用した細胞内 Ca2+濃度同時測定の系を構築し生理学的条件下での膵β細胞内イオン濃度変化を測定した。さらに、ATeam 遺伝子を導入した蛍光 ATP プローブ遺伝子導入(Tg)マウスを作成し、その単離膵β細胞で ATeam が機能し、細胞内 ATP 濃度に応じて FRET 反応を示すことを確認し、同マウス単離膵島を用いた解析を推進中である。