著者
別府 哲 加藤 義信 工藤 英美
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

自閉スペクトラム症の心の理論障害は、Perner(1991)によればメタ表象の問題である。しかしメタ表象を直接定義し測定した研究はほとんど無い。本研究では、工藤・加藤(2014)が開発した多義図形の1枚提示課題(メタ表象を必要)と2枚提示課題(メタ表象を必要としない)を用いてその特徴を検討した。定型発達児は4歳で2枚提示条件のみ正答率があがり、5歳で1枚提示条件も正答率が上昇する。それに対し、自閉スペクトラム症児は精神年齢4歳台で1枚提示条件はもとより、2枚提示条件も正答率が低かったことから、メタ表象の発達の遅れとともに、その発達プロセスが得意である可能性が示唆された。
著者
鐸木 道剛
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本の大主教ニコライ・カサートキン(1836-1912)が育てた日本人イコン画家山下りん(1857-1939)の先駆者のような形で、アレウト・カムチャツカ・クリルの主教インノケンティ(1797-1879)が育てたワシリー・クリューコフ(c. 1805-c. 1880)というアレウト人画家がいる。今回の調査によって、クリューコフとその周辺のアラスカのイコン画家たちはロシアから将来された原画を忠実に模写したことが明らかになった。これは山下りんのイコン制作態度と同じであり、ニコライはイコン制作に関しても先輩のアジアへの正教会伝道師インノケンティのイコン観を受け継いだと考えられる。8世紀ビザンティンに由来する表象観念が、アラスカと日本に同様に伝えられたことになる。
著者
中川 貴之 南 雅文
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ATPを脊髄くも膜下腔内に投与すると、持続時間の短い機械的痛覚過敏が惹起され(〜20分)、引き続き、投与15〜30分後にアロディニアが誘導され、その後3〜4週間持続する長期持続性アロディニアが惹起された。本モデルでの脊髄内グリア細胞の活性化の経時変化を検討したところ、ミクログリアは比較的早い時期(誘導〜移行期)、少し遅れてアストロサイトが活性化された(移行〜維持期)が、その後、アロディニアは持続しているにも拘わらず、どちらも定常状態に戻りつつあった。さらにミクログリアおよびアストロサイトの活性化阻害薬、および数種のMAPK阻害薬を用いた検討などから、それぞれの活性化状態を示す時期と対応してアロディニアの惹起に関与することを示した。これらは、脊髄内のミクログリアは主に慢性疼痛の誘導に、アストロサイトは慢性疼痛への移行に関与することを示している。また、主にアストロサイトに発現するグリア型グルタミン酸トランスポーターGLT-1は、炎症性疼痛モデルおよび神経因性疼モデルにおいて、その発現量あるいは細胞膜における局在量が減少していた。組込えアデノウイルスを用いて脊髄内にGLT-1遺伝子を導入すると、急性痛に対しては影響を与えないものの、炎症性疼痛や神経因性疼痛の発症をほぼ抑制した。これらの結果は、アストロサイトによるGLT-1を介したグルタミン酸取り込み機構の破綻が、慢性疼痛発症に重要な役割を果たしていることを示す。さらに、このGLT-1局在変化の分子機構を明らかにするため、GLT-1-EGFP融合タンパク質を導入できる組換えアデノウイルスを作成し、培養神経-グリア共培養系を用いてタイムラプス顕微鏡下でアストロサイトでのGLT-1の局在変化を解析した。その結果、グルタミン酸の処置によりGLT-1は1時間以内に細胞内に移行しクラスター状に集積すること、また、GLT-1を介したNa^+流入が必須であることを明らかにした。
著者
金子 充 平野 寛弥 堅田 香緒里
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、イギリスにおける批判的社会政策論、すなわちマイノリティ等のヴァルネラブルな人々の差異・アイデンティティに配慮した社会政策を構想する研究潮流を支える視点および鍵概念(「普遍主義」「互酬性」「シティズンシップ」)の整理と再検討をおこなった。近年のわが国および先進諸国の社会政策(公的扶助制度や失業者・生活困窮者支援策)では就労自立を重視した政策展開がなされているが、これらは能力に応じて就労または活動への従事を求める給付としての性格が強く、限定的な意味での普遍性や、個人単位において権利と義務を対応させる互酬性に依拠した政策展開をしていることが考察された。
著者
中島 啓光
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

金属を高濃度で蓄積する地衣類ヤマトキゴケまたはオオキゴケを国内11府県で採集、金属分析を行い、黄砂の影響を調べるための基礎データが得られた。二次代謝物を分析したところ、ヤマトキゴケはCu濃度が高いほど二次代謝物濃度が低く、Cu汚染の影響を受けていることが示唆されたが、オオキゴケにはそのような相関が見られず、二次代謝物へのCu汚染の影響に違いが見られた。また、金属を高濃度で蓄積するコケ植物イワマセンボンゴケの金属分析の結果、Ca濃度とK濃度の間に負の相関関係が見出され、過剰なCaによるK取り込みの抑制が示された。以上から、これらのコケに対する金属汚染の影響についての理解が深まった。
著者
竹村 明洋
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

サンゴ礁に棲息する魚類の多くは産卵期に月齢に同調した性成熟と産卵を繰り返す。この海域の魚が月の何を感じ、そして体内でどのような情報へと転換して月齢同調性を示すようになるのかについてはわかっていない。本研究では月が地球に及ぼす影響のうち月光の周期的変化に焦点をあて、沖縄のサンゴ礁に普通に棲息する月齢同調性産卵魚ゴマアイゴが月光を感受する能力を有するかどうかを調べた。本研究では明暗で変動するメラトニンに着目した。血中メラトニン量には明確な日周変動が認められ、暗期に高く明期に低い値を示した。満月時における血中メラトニン量は新月時のそれに比べて有意に低下していた。恒暗条件で飼育していた魚を新月・満月に暴露した時血中メラトニン量は急激に減少した。ゴマアイゴの松果体を生体外培養した結果、松果体からのメラトニン分泌に明確な明暗変動がみられた。松果体を月光に暴露することにより培養液中へのメラトニン分泌量は減少した。また、昼間光から引き続き夜間光へ移行した松果体でのメラトニン分泌量は、実験暗条件に比べて低かった。以上の結果からゴマアイゴの松果体に光受容能があり、夜の明るさを認識できることが判明した。自然条件で飼育したゴマアイゴは予定産卵日に産卵したが、人為的月光で予定産卵日1ヶ月前から飼育した場合は産卵しなかった。予定産卵日2週間前から人為的満月と新月で飼育した場合、新月では産卵したのに対し、満月では産卵しなかった。以上の結果は、月光の周期的変動が魚の成熟に関与している可能性があった。本研究で得られた結果は月光がゴマアイゴの同調的な成熟と産卵に関係している可能性を示すものである。月が地球に及ぼす周期的環境変動には様々あり、それらが複合的に関与し魚類の同調性リズムに関係している可能性がある。今後もアイゴ類をモデルとしながら、月と地球上の生物の生命活動との役割を明らかにしていきたい。
著者
牛山 佳幸
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

これまで一般に女性差別であると誤解されることの多かった、「女人禁制(女人結界)」という歴史事象について、主として「女人禁制」条項をを含む寺院法制文書(本研究でいう「女人禁制」文書)の網羅的な収集と分析という新しい手法を導入することにより、その成立事情と歴史的意義の解明を進めた。その結果、これが仏教の戒律(不邪淫戒)に本来的に由来するものであることに疑いの余地がないこと、したがって、従来一部で指摘されていたような我が国固有の習俗ではなく、中国など東アジアの仏教圏に共通してみられた慣行であったこと、さらに尼寺における「男子禁制」の事例も僅かながら存在していたことから性的差別とは言えないことなどが確認できたが、本研究の最大の成果は、上記の「女人禁制」文書の内容分析によって、我が国における「女人禁制」の時代的変遷や、寺院毎の相違などを明確にすることができた点にある。すなわち、「女人禁制」には、(1)寺内の持律僧の強い指導力によって保たれているもの、(2)住僧らの連帯意識により自主的に守ろうとしたもの、(3)檀那や為政者など外部からの規制で維持できたものの、三つのタイプに分類できるが、南北朝期頃までは(1)(2)の例が多く、この時期にはいわば自主規制としての意味を持っており、したがって、「女人禁制」を遵守できるかどうかは個別寺院の住僧らの持戒意識の有無にかかっていたと言いうる。一方、室町期以降、とくに戦国期になると(3)のタイプが目立つようになるが、これは破戒行為の横行によって、領主権の介入と規制が強化されるという事態を招いたことを反映している。また、各時代にわたり、高齢で身寄りのない女性には寺内居住を認めるといった、例外規定を設けていた例も多く判明し、そのことが「女人禁制」の形骸化に拍車をかけた点も明らかとなった。
著者
谷口 奈央 廣藤 卓雄 中野 善夫
出版者
福岡歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

喫煙は、タバコのタールの臭いの他に、喫煙によって引き起こされる唾液分泌減少、舌苔付着促進、歯周疾患などにより、口臭に関係すると考えられる。口臭は主に舌苔に棲息する細菌によるアミノ酸代謝過程で発生し、舌苔はタバコの煙に直接曝露されるため、喫煙により舌苔細菌叢が受ける影響も口臭に関係すると推測される。本研究では、喫煙が唾液と舌苔の細菌叢に与える影響を、臨床的に健康な口腔環境を持つ若者を対象として調べた。福岡歯科大学口腔歯学部6年生50名(喫煙18名、非喫煙32名)を対象に唾液と舌苔を採取し、サンプルより抽出した細菌DNAから16S rRNA遺伝子をPCRによって増幅し、高速シーケンス解析法を用いて細菌叢解析をおこなった。その結果、菌叢の多様性解析では喫煙群と非喫煙群との間に有意な違いはみられなかった。一方、属レベルで比較解析をおこなったところ、喫煙群ではDialister属、Atopobium属など、口腔内の病的状態と関係する細菌が高い割合でみられた。ブリンクマン指数(1日喫煙本数×喫煙年数)との相関分析では、Selenomonas属、Bifidobacterium属が正の相関を示した。Selenomoas属は歯周炎など病的状態で多く分離される運動性桿菌である。Bifidobacterium属はタバコの主流煙が酸性であることから酸性環境下に強い菌の割合が多くなった可能性が示唆される。本研究で得た成果を国内の複数の学会で発表した。また、論文執筆ために過去の喫煙と口腔細菌叢に関する研究報告を収集したものを総説にまとめ投稿した。
著者
土屋 葉 時岡 新 渡辺 克典
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、「障害」と「女性」という異なるポジショナリティの上に置かれている、障害女性を取り囲む差別構造を明らかにすることである。平成29年度は、前年度にひきつづき、生活史法を用いて障害のある女性への聴きとり調査を行った。身体障害のある女性については、中部地区のみならず関西地区においてもネットワークを通じてアプローチした。また、発達障害および知的障害のある女性の支援者に対してパイロット調査を行うと同時に、調査方法について示唆を得た。平成29年度中期には研究会を開催した。まず「交差性(intersectionality)」概念について検討した。調査研究の課題についての認識を共有し、前年度および今年度前期に行った調査から得られた「生きづらさ」に関する具体的な事例から、知見の共有化を図った。とりわけ医療・介助場面、恋愛・結婚・生殖をめぐる問題、精神障害のある女性の経験について、これまで得られたインタビューデータから検討を加えた。具体的には、医療および介助場面において性別と障害、その他の要素がどのように「複合」しているのかを考察し、情報の不足、アクセシブルではない施設や機器、医師の偏見などがあることを明らかにした。また、恋愛・結婚・生殖の領域は必ずしも障害者差別解消法における合理的配慮の範疇にはおさまるものではないが、障害女性の生きづらさを解明する上では重要であることを指摘した。精神障害のある女性の経験については、身体症状からくる困難、女性役割に関する規範意識、雇用に結びつきづらい現状について述べた。これらに加え、障害をもった/発症した年齢や地域性、居住形態等の要素が、女性たちの生きづらさに影響を与えることを示唆した。以上について、2つの学会において報告を行った。
著者
太田 正穂 浅村 英樹 高柳 カヨ子 福島 弘文 猪子 英俊
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

昨年度、HLA遺伝子多型について日本人と他の集団における遺伝子頻度、ハプロタイプ頻度の分布の比較を行い、そのデータベースを作成した。東北アジアに位置する日本民族は、韓国、東南アジアを経た幾通りの民族移動により形成されていることが、HLAの遺伝子頻度やハプロタイプ頻度、さらには対応分析から明らかであった。このような経緯から日本人には、近隣の民族と共通するHLA遺伝子やハプロタイプも存在するが、近隣の民族とは異なった日本人に特徴的なHLA遺伝子やハプロタイプも確認できた。実際の検査で、他民族と共通性の示すHLA遺伝子やハプロタイプが得られたときの解決策として、HLA領域内にあるマイクロサテライトの有用性を検討した。はじめに日本人、イラン人、ギリシャ人、ヨルダン人、イタリア人、カナダ人のDNAを用いてHLA-B座近傍のマイクロサテライトタイピングを行い、各ローカスの遺伝子頻度分布を作成した。つぎにHLA型がホモ接合体である64種類のセルラインを用いて、同型ハプロタイプ間でのマイクロサテライトのアリルの比較を行った。さらに、日本人で最も多く見られるハプロタイプをもつ人のDNAを用いて角解析を行った。これらの結果、HLAが一致したハプロタイプを保有していても、HLA遺伝子間に存在するマイクロサテライトを調べることにより、より詳細な識別が可能であった。以上から微量、陳旧性資料を日常扱う法医鑑定実務では、高感度で精度が良いHLA-SPP法によるHLAタイピングとHLA領域内にあるマイクロサテライト解析は人種判定に有効な方法であることが示唆された。しかし、HLA遺伝子多型では、十分条件ではないので、今後ミトコンドリDNA多型、Y染色体上のマイクロサテライト、常染色体上のマイクロサテライトに関して日本人を含めた世界的な規模でのデータベース作成が必要であると考える。
著者
山口 拓洋 岩瀬 哲 後藤 悌 山本 大悟 小田桐 弘毅 坪井 正博 川口 崇
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

PRO-CTCAE 日本語訳 東北大学/東京大学/JCOG版について、平成23年度から実施したがん患者へのインタビュー調査の結果をまとめ、言語的妥当性、原版との文化的・意味論的同等性、言語的流暢性を評価した。JCOG1018試験で使用する9項目(下痢、活力低下、手足症候群、吐き気、手足の痺れ等)のfeasibility studyの結果から本尺度は臨床試験において測定可能と確認した。計量心理学特性は米国で既に検討がなされている為、欧米の先行研究結果と大きな差異がない事の確認を目的とするバリデーション研究を計画し、タブレット入力が可能となるようなプラットフォームの開発も同時に進め、登録中である。
著者
藤枝 繁 小島 あずさ 大倉 よし子
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

太平洋を漂流する海洋ごみの流出地を明らかにするため,2010 年 4月から黒潮流域の伊豆諸島,小笠原諸島,北太平洋海流流域のミッドウェー環礁,ハワイ諸島,米国西海岸,黒潮上流域の台湾ののべ 307 海岸等において,14,647 本のディスポーザブルライターを採取した。ライターに記載された店舗名等から流出地を判別した結果,伊豆・小笠原諸島,ミッドウェー環礁,ハワイ諸島では,日本の太平洋沿岸を含む東アジアを流出地したものがほとんどを占めたが,台湾では日本からの漂着は見られなかった。
著者
清水 政明 柿木 重宜 冨田 健次 川口 健一 岩井 美佐紀 春日 淳 田原 洋樹
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、現在日本における学習者人口が日々増加の一途をたどるベトナム語の学習成果を客観的に測定する基準を策定するべく、その検定試験の内容・形態・評価方法を確定するための基礎的研究を遂行した。ベトナム本国において教育・訓練省が策定する海外在住ベトナム人のベトナム語能力測定基準案等を参照し、ベトナム本国との連携関係を保持しながら徐々に改良・発展させることが可能な形態を有する検定試験の制定を目標とした。
著者
徐 勝
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、東アジアにおける深刻な人権侵害をテーマに韓国と台湾に焦点を当て、調査と比較研究を行い、東アジアにおける問題の性格と構造を明らかにした。また、本研究では韓国での現地調査、台湾での現地調査を通じて基礎資料を収集した。まず研究報告としては2000年6月30日に金貴玉(ソウル大社会発展研究所)による、「朝鮮戦争前後とする民間人虐殺」が、2000年11月19日には、企順泰(韓国放送通信大)の「『済州4・3特別法』をめぐる諸問題」、姜慶善(韓国放送通信大)の「韓国の『民主化運動関連者名誉回復・補償法』の成立と実施をめぐって」が報告された。研究のまとめとして、2001年<シンポジウム>「東アジアにおける国家暴力・重大な人権侵害からの回復-韓国と台湾」のテーマの下に、(1)朱徳蘭(台湾中央研究院)「台湾『白色テロ』関係文献探索」(2)韓寅燮(ソウル法科大学)「韓国の国家暴力に対する法的処理の基本原則とその適用」(3)徐勝(立命館大学)の「東アジアの国家暴力の被害からの回復-韓国と台湾の比較」の三本の報告が成された(この報告の加筆訂正されたものは、科研報告書所収)。各報告論文に加えて、徐勝が「台湾「戒厳時期叛乱曁匪諜不當審判案件補償條例」の研究-その成立と改正をめぐって-」を執筆し、また現地調査などを通じて、報告書の付録所収の(1)処置叛乱犯相関法令一覧表(2)台湾地区戒厳時期国家暴力與人権侵害関係資料目録(以上、2件は朱徳蘭研究協力員による)(3)韓国民間人虐殺関係資料目録(研究補助者を使い徐勝が作成し、全資料を確保)などの基礎資料を作成した。本研究は、韓国と台湾の民主化の過程で、冷戦下独裁政権による深刻な人権侵害(gross human rights violation)の犠牲者の回復において、韓国と台湾の特殊性が反映されているが、普遍的な原則が比較的貫徹されており、特に韓国の光州特別法は、世界的に優れた立法事例である事を明らかにした。今回の研究で蓄積された成果・資料は今後の研究の跳躍台として貴重なものである。
著者
岩崎 仁 萩原 博光 小泉 博一
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

平成15年度は、国立科学博物館植物研究部保管の南方熊楠菌類図譜の調査とスキャニングによるデジタルファイル化をおこない、その結果3,800点余となった。同時に図譜記載英文の調査と翻字作業をおこなった。平成16年度はまず、1901年から1911年にかけて描かれた菌類図譜デジタルデータ130点ほどを中心に、図譜記載英文テキストおよび当時の日記テキストを関連づけて組み込んだ公開用画像データベース(試作版)を構築し、龍谷大学オープンリサーチセンター展示「南方熊楠の森」(平成16年6月7日〜8月1日開催)において一般公開した。南方熊楠旧邸保管の写真類、画像関連資料についてもおおむねデジタルファイル化を終了した。さらに、書簡類および日記についても早急なデジタルファイル化の必要性を感じたため平成16年度の後半はこの作業に力を注いだ。特に土宜法竜との往復書簡については新資料が大量に発見されたこともあり、この作業が今後の熊楠研究に寄与するところは大きいと考える。また、図譜記載英文については現在3,200点ほどについてテキストファイル化が終了したが、その後も京都工芸繊維大学工芸学部と国立科学博物館植物研究部の両者で進行しており、その完了は当分先になる見込みである。インターネット上での公開については菌類標本の所有・管理者である国立科学博物館、平成18年4月に開館が予定されている南方熊楠顕彰館を運用する和歌山県田辺市、および研究代表者の三者で環境を整えるための協議をおこない、龍谷大学人間・科学・宗教オープンリサーチセンターホームページにて公開用画像データベースを近々公開することが決まり、現在その準備中である。このように、菌類図譜デジタルデータは、その範囲を全ての菌類図譜へと拡大した画像閲覧データベースの整備がほぼ終了し、今後はテキストファイルと連携した統合型の南方熊楠データベースへと発展させる予定である。
著者
飯高 哲也 中井 敏晴 定藤 規弘 二橋 尚志
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

社会的コミュニケ-ション機能の低下などを含む自閉性傾向は、健常者と疾患の間で連続性があることが知られている。このようなこころの働きの脳機能および脳形態的基盤を研究することは、自閉性障害の理解に貢献するものである。このために機能的磁気共鳴画像(fMRI)と拡散テンソル画像(DTI)を30名の被験者で行い、同時に自閉性尺度であるAutism-Spectrum Quotient(AQ)も施行した。顔認知に特異的な扁桃体と上側頭回の領域をfMRIで同定し、それらの領域を結ぶ神経線維をDTIで描出した。この神経線維の体積は被験者のAQ得点と有意な正の相関(Spearman rank order correlation,ρ=0. 38, p<0. 05)があった。この結果は健常者の中でも自閉性傾向の強い者は、顔認知に関わる脳領域間の結合性が高まっている可能性を示唆している。
著者
小川 朝生 内富 庸介
出版者
国立研究開発法人国立がん研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

抑うつ状態はがん患者の30%と高頻度に認められる精神症状である。抑うつ状態は、精神症状自体ががん患者の療養生活の質(Quality of Life: QOL)を下げるのみならず、全身状態の悪化を通して生命予後にも影響する。その対応が要請されているが、その原因を含めて検討が十分になされていなかった。そこで我々は、包括的アセスメントをベースに臨床背景因子、生活習慣、精神症状、血液、癌組織を含めて、抑うつの背景因子を探索的に検討を進めた。リクルートの後、解析に進み、他のデータベースと統合して関連遺伝子のリストアップを検討した。
著者
鈴木 俊幸
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、近世から近代初頭にかけての時代、信濃地域に対象を絞り、書籍・摺物に関わる一連の文化的事象の証跡を網羅的に収集し、当時における文化状況を立体的に復元することを目的とした。すなわち、信濃において製作・発行された書籍・摺物、また信濃人蔵版書の網羅的な調査に基づき、藩版・町版・寺院版を含め信濃における出版活動、書籍流通、享受の全貌、またそれらの連関について明らかにしようとしたものである。そのための基礎作業として、まず、明治20年を下限に、信濃において製作・発行された出版物の調査を行った。さらに、貸本屋や小売専業の本屋は、地域における書籍文化の環境のきわめて重要な要素であると考え、仕入印・貸本印、また、明治初頭の書籍に付された売弘書肆一覧記事から信濃地域の書商の記事を抽出し、信濃地域における書商とその営業内容のリストを作成した。これらは、これまでまともに研究されてこなかった書籍流通の実態をも浮き彫りにしうる基礎データである。次に、信濃地域における彫工、活版印刷業者等業者を洗い出した。摺物所や製本業者も調査対象に加えた。これらはいずれも地域における印刷・出版の前提となる要素である。また、藩・代官、寺社、個人篤志による出版書、また施印本も地域の書籍文化を考える上で逸することができないものであり、これについてのデータ収集も行った。寺社境内図等の名所絵図類は、一枚摺の片々たるもので、見落とされがちな分野であるあるが、地方における出版文化の雄である。これらについては特に意を用いてデータ収集を行った。上記の作業に、寺院・旧家の蔵書等書籍享受に関る資料調査も平行して行い、それらを総合して信濃における書籍文化の具体相について考察してきた。また、書籍を研究対象とする研究者間の情報疎通促進をはかる目的で『書籍文化史』という雑誌を年一回のペースで第一集から第四集まで発行した。
著者
柳下 和夫 若林 宏明
出版者
金沢工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究は海に近い砂漠に雨を降らせようというものである。その方法は砂漠に近い海の表面に黒色物質を浮かべる。これが太陽光を全部吸収し海面の温度が上昇する。すると海水の蒸発が増える。一方砂漠にも黒色物質を撒いておくと太陽光が全部吸収される。すると地面の温度が上昇し空気は膨張し軽くなる。そして上昇気流となる.その下は低気圧になる。そこへ海上の水蒸気が流れ込んでくる。すると上昇気流に引きずられて上昇する。そして上空で断熱膨張し、温度が下がり雲ができて雨が降るというのである。海に浮かべる物質としてどんなものが良いかいくつかの材料をテストした。水道水と塩水で差はあるが黒色物質を浮かべると最高41%も蒸発が加速されることが分かった。一方砂漠の上にも黒色物質を撒くとどれくらい太陽光熱が吸収されるかを調べるために、世界各国の砂漠の砂を入手し光の反射率を測定した。その結果砂の色にもよるが1/3ないし2/3の反射率であった。これを黒く塗れば吸収されるエネルギーは1.5倍ないし3倍増え、その分だけ余計に空気を暖めることができる。また一度砂漠緑化に成功すれば、植物からの蒸発水分により、自然の雨が降って緑化が持続するかどうかを,好塩性植物によるシミュレーションしたところ雨量が増えることが分かった。上昇気流を起こすものとして,大火や雨乞いがあるが、その後雨が降ったかは定かではない。この方法で砂漠に雨を降らせば良いこと尽くめかというと、マイナス面もある。そこでテクノロジーアセスメントを行ない、問題点を抽出した。海の生態系に対する配慮が必要なことなどが分かった。海と砂漠の距離がどれくらい離れていても水蒸気が移動するかについては,実験に失敗し分からなかった。